JP3684584B2 - ヒト血清アルブミンの脱色方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は遺伝子操作により発現されるヒト血清アルブミンの脱色方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルブミン、特にヒト血清アルブミン(以下、「HSA」ともいう。)は血漿の主要な蛋白構成成分である。この蛋白は肝臓中で作られ、主に血流中で正常な浸透圧を維持する責を負う。また種々の血清分子のキャリアーとしての機能を持っている。HSAは種々の臨床上の状況において投与される。例えば、ショックや熱傷患者では血液量を元に戻し、それにより外傷に関連するいくつかの症状を改善させるために、通常はHSAの頻回投与を必要とする。低蛋白血症や胎児性赤芽球症に罹っている患者にもHSAによる治療を必要とすることがある。
従って、HSAを投与する基本的な治療上の意義は、外科手術、ショック、火傷、浮腫を起こす低蛋白血症におけるがごとく、血管からの液体の損失がある様な状態を治療する点に存する。
【0003】
現在、HSAは、主として採取した血液の分画からの産物として製造されている。この製造法の欠点は不経済であることと、血液の供給が困難であるということである。また、血液は肝炎ウイルスのように好ましくない物質を含んでいることがある。従って、HSAの代替の原料を開発することが有益となろう。
【0004】
ところで、組換DNA技術の出現によって、多種多様の有用なポリペプチドの微生物による生産が可能となり、多くの哺乳動物ポリペプチド類が既に種々の微生物により生産されている。HSAについても、遺伝子操作の技術により大量生産し、それを高度精製する技術が確立されつつある。
【0005】
ところが、遺伝子操作においては、宿主である微生物を培養する際、さらにはHSAを精製する際に、原料中のある種の着色成分あるいは微生物が分泌する物質が夾雑してくるため、これがHSAと結合することによりHSAそのものが着色してしまうものと思われる。しかもこれらの夾雑物質は、従来の血漿由来HSAの精製方法では充分に除去することはできない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の課題は、遺伝子操作によりHSAを得るに際し、従来の血漿由来HSAの精製方法では充分に除去することができなかった上記着色成分ならびに夾雑成分を除去し、着色を充分に抑えられたHSAを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意研究を進めた結果、遺伝子操作により得られるHSAを得るに際して、当該HSAの精製工程中に加熱処理を行うことにより当該HSAを脱色できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の遺伝子操作により得られるHSAの脱色方法は、遊離多糖を除去した条件下で、詳しくは精製工程中の陽イオン交換体処理後に加熱処理を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明は、遺伝子操作によってHSAを調製する場合のHSAの脱色方法に係わるものであり、当該HSAは遺伝子操作を経てHSAを発現する菌体(例えば、大腸菌、酵母、枯草菌、麹、動物細胞等)を培養し、菌体外発現(分泌発現)により産生される。
【0010】
本発明の脱色処理の対象である、遺伝子操作によるHSAの採取ならびに精製は以下の通りである。
(1)HSA産生宿主の調製、培養ならびにHSAの分離採取
本発明における遺伝子操作により得られるHSAは、遺伝子操作によって得られるものであれば、その由来に特に制限はない。従って、当該HSAを産生させるための宿主は、遺伝子操作を経て調製されたものであれば特に限定されず、公知文献記載のものの他、今後開発されるものであっても適宜利用することができる。当該宿種としては、具体的には遺伝子操作を経てHSA産生性とされた菌(例えば、大腸菌、酵母、枯草菌など)、動物細胞などが挙げられる。特に、本発明においては、宿主として、酵母、就中サッカロマイセス属〔例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、もしくはピキア属〔例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris )〕を使用されることが好ましい。また、栄養要求性株や抗生物質感受性株を使用して得られたHSAであってもよい。さらにまた、サッカロマイセス・セレビシエAH22株(a, his 4, leu 2, can 1)、ピキア・パストリスGTS115株(his 4 )等が好適に使用される。
【0011】
本発明において、HSA産生宿主の調製方法およびその培養によるHSAの生産方法、培養物からのHSAの分離採取方法はすべて公知ならびにそれに準じた手法を採用することによって実施される。
【0012】
例えば、HSA産生宿主(またはHSA産生株)の調製方法としては、通常のHSA遺伝子を用いる方法(特開昭58−56684号、同58−90515号、同58−150517号の各公報)、新規なHSA遺伝子を用いる方法(特開昭62−29985号、特開平1−98486号の各公報)、合成シグナル配列を用いる方法(特開平1−240191号公報)、血清アルブミンシグナル配列を用いる方法(特開平2−167095号公報)、組換えプラスミドを染色体上に組込む方法(特開平3−72889号公報)、宿主同士を融合させる方法(特開平3−53877号公報)、メタノール含有培地中で変異を起こさせる方法、変異型AOX2 プロモーターを用いる方法(特願平3−63598号、同3−63599号の各公報)、枯草菌によるHSAの発現(特開昭62−25133号公報)、酵母によるHSAの発現(特開昭60−41487号、同63−39576号、同63−74493号の各公報)、ピキア酵母によるHSAの発現(特開平2−104290号公報)などが例示される。
【0013】
また、HSA産生宿主の培養方法(すなわち、HSAの産生方法)としては、上記の各公報に記載された方法の他に、フェッドバッチ培養により、高濃度のグルコースあるいはメタノール等を適度に少量づつ供給し、産生菌体に対する高濃度基質阻害を避けて高濃度の菌体と産生物を得る方法(特開平3−83595号公報)、培地中に脂肪酸を添加してHSAの産生を増強する方法(特開平4−293495号公報)などが例示される。
【0014】
さらにHSAの分離採取方法としては、上記の各公報に記載された方法の他に加熱処理によるプロテアーゼの不活化(特開平3−103188号公報)、陰イオン交換体、疎水性担体および活性炭からなる群より選ばれた少なくとも一つを用いてHSAと着色成分とを分離することによる着色抑制方法(特開平4−54198号公報)などが例示される。
【0015】
(2)HSAの精製
HSAの精製工程としては、各種分画法、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過、密度勾配遠心分離法、透析などの公知の方法が採用される。
【0016】
当該精製工程としては、例えば以下の▲1▼〜▲7▼を含む工程が好適に挙げられる。
▲1▼ HSAの産生宿主の培養上清を分画分子量10万〜50万、および1000〜5万の限外濾過膜を用いて処理する。
▲2▼ 50〜70℃で30分〜5時間加熱処理する。
▲3▼ pH3〜5で酸処理する。
▲4▼ 分画分子量10万〜50万の限外濾過膜を用いて処理する。
▲5▼ pH3〜5、塩濃度0.01〜0.2Mの条件下で陽イオン交換体に接触させた後に、pH8〜10、塩濃度0.2〜0.5Mの条件下で溶出する。
▲6▼ pH6〜8、塩濃度0.01〜0.5Mの条件下で疎水性クロマト用担体に接触させて、非吸着画分を回収する。そして、
▲7▼ pH6〜8、塩濃度0.01〜0.1Mの条件下で陰イオン交換体に接触させて、非吸着画分を回収する。
【0017】
また、前記工程▲6▼の代わりに、pH6〜8、塩濃度1〜3Mの条件下で疎水性クロマト用担体に接触させた後に、pH6〜8、塩濃度0.01〜0.5Mの条件下で溶出する工程、または前記工程▲7▼の代わりに、pH6〜8、塩濃度0.001〜0.05Mの条件下で陰イオン交換体に接触させた後に、pH6〜8、塩濃度0.05〜1Mの条件下で溶出する工程、さらには前記工程▲5▼と▲6▼の間、▲6▼と▲7▼の間、または▲7▼の後に、pH3〜5、塩濃度0.5〜3Mの条件下で塩析処理し、沈殿画分を回収する工程をさらに含むものであってもよい。
【0018】
(3)高度精製
さらに、HSAを高度精製するために以下のような処理を行うことができる。
(i)キレート樹脂処理
キレート樹脂処理は、HSAの脱色を目的として行う。上記精製工程において、特に好ましくはその最後に組み込まれ、特定のリガンド部を有するキレート樹脂とHSAとを接触させることにより行われる。キレート樹脂の担体部分は疎水性を有する担体であることが好ましく、例えばスチレンとジビニルベンゼンの共重合体、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体などが挙げられる。
【0019】
一方、リガンド部は、N−メチルグルカミン基などのポリオール基、イミノ基、アミノ基、エチレンイミノ基などを分子内に複数個有するポリアミン基(この中にはポリエチレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン基も含まれる)、およびチオ尿素基が挙げられる。上記担体部分とリガンド部を有するキレート樹脂の市販品としては、担体部分がいずれもスチレンとジビニルベンゼンの共重合体であるDIAION CRBO2(リガンド部;N−メチルグルカミン基、三菱化成製)、DIAION CR20 (リガンド部;−NH(CH2 CH2 NH) n H、三菱化成製)、LEWATIT TP214 (リガンド部;−NHCSNH2 、バイエル製)、アンバライトCG4000などが好適に使用される。
【0020】
当該キレート樹脂による処理条件は、好適には次の通りである。
pH条件:酸性または中性(pH3〜9、好ましくはpH4〜7)
時間:1時間以上、好ましくは6時間以上
イオン強度:50mmho以下、好ましくは1〜10mmho
混合比:HSA250mgに対して樹脂0.1〜100g、好ましくは1〜10g(湿重量)
【0021】
(ii)疎水性クロマト処理
上記精製工程(▲1▼〜▲7▼およびキレート樹脂処理を含む)を経て得られたHSAにおいては、フェノール硫酸法で検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質が充分に除去されていない。
【0022】
そこで、これらの処理終了後に得られるHSAを、pH2〜5(好ましくは、pH3〜4)、塩濃度0.4〜1M(好ましくは、0.4〜0.7M)の条件下で疎水性クロマト用担体に接触させた後に、pH6〜8(好ましくは、pH6.5〜7)、塩濃度0.01〜0.3M(好ましくは、0.05〜0.2M)の条件下で溶出する工程を組み合わせる。または、前記の工程▲6▼の代わりに当該疎水性クロマト処理工程を組み合わせる。こうして、フェノール硫酸法で検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質が充分に除去されたHSAを回収することができる。
【0023】
ここにフェノール硫酸法とは、一般的には糖質の比色定量法の一つであり、検体である糖水溶液にフェノール水溶液を添加し、次いで濃硫酸を添加して振盪することにより生ずる溶解熱を利用して糖から形成されるフルフラール誘導体とフェノールとの反応呈色物を比色測定する方法である。また、フェノール硫酸法で検出可能な非抗原性の夾雑物質としては、例えば中性糖(ペントース、ヘキソースなど)、単糖グリコシド(オリゴ糖、複合糖質、ウロン酸など)、メチル化糖などが例示され、産生宿主由来成分に対する抗体とは抗原抗体反応を起こさない夾雑物質を言う。
【0024】
疎水性クロマト用担体としては、炭素数4〜18のアルキル基型(例:ブチル基型、オクチル基型、オクチルデシル基型など)、フェニル基型などが例示される。ブチル基型としては、ブチル−アガロース、ブチル−ポリビニル(商品名ブチル−トヨパール、東ソー社製)などが、オクチル基型としては、オクチル−アガロースなどが、オクチルデシル基型としては、オクチルデシル−アガロースなどが、フェニル基型としては、フェニル−セルロース(商品名フェニルセロファイン、生化学工業社製)などが例示される。
【0025】
(iii) ホウ酸またはその塩による処理
HSAを、ホウ酸またはその塩で処理することによって、宿主由来の抗原性を有する夾雑物質、フェノール硫酸法により検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質を除去することができる。
【0026】
使用されるホウ酸としては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが例示される。またその塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)などが例示される。好ましくは、四ホウ酸カルシウムを用いる。ホウ酸またはその塩の添加量は、終濃度で0.01〜1M程度、好ましくは0.05〜0.2M程度である。処理pHは8〜11程度、好ましくはpH9〜10程度が例示される。また処理時間は1〜10時間程度が例示される。処理時の電導度は低電導度であることが好ましい。具体的には1mS以下が例示される。さらに、HSA濃度は低濃度であることが好ましく、具体的には5%以下、好ましくは0.1〜3%程度が例示される。
【0027】
ホウ酸またはその塩による処理終了後、例えば遠心分離、濾過などにより沈殿を除去し、上清を回収して濃縮脱塩する。
【0028】
(iv)限外濾過処理
上記精製工程を経て、回収されたHSAは限外濾過処理することが望ましく、分画分子量約10万の限外濾過膜が好適に使用される。限外濾過処理によりパイロジェン(発熱性物質)を除去することができる。
【0029】
(4)陽イオン交換体処理後の加熱処理
加熱処理は、遊離多糖を除去した条件下、すなわち(2)の精製工程中、▲5▼陽イオン交換体処理後であれば、その直後であっても、またはその後の精製工程(高度精製工程も含む)、最終工程のいずれに組み入れてもよい。具体的には、遊離多糖の含量はHSA250mg/ml当たり5mg/ml程度またはそれ以下が例示される。
処理温度は、50〜100℃、好ましくは60〜80℃程度が例示される。処理時間は、10分間〜10時間、好ましくは30分間〜5時間程度が例示される。HSAの処理濃度は、0.01〜25%、好ましくは0.1〜5%程度が例示される。加熱処理は、公知の安定化剤(例えば、アセチルトリプトファンまたはその塩(例、ナトリウム塩)、脂肪酸(炭素数6〜20)またはその塩(例、ナトリウム塩)の存在下に行う(特開平3−103188号公報)ことが好ましく、HSAの安定化を完全にすることができる。
【0030】
当該加熱処理は還元剤の存在下に行うことが好ましい。
還元剤としては、還元作用を有する物質であれば、特に限定されないが、具体的には、SH基を含む低分子化合物(例、システイン、システアミン、シスタミン、アミノプロパンチオール、メチオニン、エチオニン、グルタチオン等)、亜硫酸塩(例、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム等)、ピロ亜硫酸塩(例、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カルシウム等)、亜リン酸・ピロ亜硫酸塩(例、亜リン酸・ピロ亜硫酸ナトリウム、亜リン酸・ピロ亜硫酸カリウム、亜リン酸・ピロ亜硫酸カルシウム)、アスコルビン酸等が例示される。
還元剤の添加量は、システイン等の場合で1〜100mM程度、亜硫酸塩等の場合で0.001〜10%程度が例示される。
【0031】
また、着色を抑制することが知られているアミン化合物(特開平5−260980号公報)を併用することができる。当該アミン化合物としては、アルキルアミン類、ジアミン類、グアニジン類、ベンズアミジン類、塩基性アミノ酸、アミノフェニル酢酸が挙げられる。アルキルアミン類としては炭素数1〜6のものが好ましく、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。ジアミン類としては、アルキレンジアミン(特に炭素数1〜6のもの、例えばメチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等)、N,N−ジアルキルアルキレンジアミン(特にアルキル、アルキレンおのおのの炭素数1〜6のもの、例えば、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン等)が挙げられる。グアニジン類としては、グアニジン、アミノグアニジン、フェニルグアニジン等が挙げられる。ベンズアミジン類としては、ベンズアミジン、p−アミノベンズアミジン等が挙げられる。塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン等が挙げられる。アミン化合物の添加量としては、0.01〜10w/v%(好ましくは0.1〜1w/v%)が例示される。
【0032】
SH化合物の場合、処理pHは6〜8、好ましくはpH6.5〜7.5が例示される。アスコルビン酸の場合、処理pHは3〜6、好ましくはpH4〜5が例示される。その他の還元剤の場合、処理pHは6〜10、好ましくはpH8〜9が例示される。
【0033】
本発明の加熱による脱色処理によれば、HSA着色度は、処理直前に比較して処理直後は30〜70%低減される。
【0034】
(5)製剤化
上記で得られたrHSA(含有組成物)は、公知の手法(限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等)により製剤化することができる。また、製剤化工程での安定性及び製剤化した後での保存安定性を確保するため、必要に応じて安定化剤としてアセチルトリプトファンまたはその塩(例えば、ナトリウム塩)およびカプリル酸ナトリウムが配合される。安定化剤の添加量としては、0.01〜0.2 M、好ましくは0.02〜0.05M程度が例示される。また、ナトリウム含量は3.7mg/ml以下が例示される。当該安定化剤の添加時期は、限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等の処理前である。
【0035】
かくの如き限外濾過、除菌濾過されたrHSA製剤は、投与単位あたりに容器に無菌充填される。ここで、投与単位あたりに容器に充填するとは、rHSA製剤の投与量、例えば、rHSAを25%含有し、pHは 6.4〜7.4 程度、浸透圧比は1程度の液状製剤を、20〜50ml(rHSAとして5〜12.5g)ごとに容器に充填することを意味する。あるいはrHSAを5%含有し、100 〜250ml ( rHSAとして5〜12.5g) ごとに容器に充填することを意味する。rHSA製剤を充填する容器としては、10〜250ml 容のガラス製容器、ポリエチレン製容器、脱アルカリ処理した軟質ガラス製容器(特開平4−210646号公報)等が挙げられる。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、遺伝子操作により得られるHSAについて、原料中のある種の着色成分、あるいは微生物が分泌する物質が夾雑し、これらがHSAと結合することによって起こる着色が充分に抑えられたHSAを提供することができる。
【0037】
【実施例】
本発明をさらに詳細に説明するために、実施例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものはない。
【0038】
参考例1 HSA産生宿主の培養
(1) 使用菌株:Pichia pastoris GCP101株
特開平2−104290号公報に述べられている方法により、ピキアパストリス(Pichia pastoris)GTS115(his4)のAOX1 遺伝子領域に、AOX1 プロモーター支配下にHSAが発現する転写ユニットを持つプラスミドpPGP1のNot1で切断した断片を置換して、PC4130が得られている。この株はAOX1 遺伝子が存在しないためにメタノールを炭素源とする培地での増殖能が低くなっている(Mut−株)。
【0039】
PC4130をYPD培地(1%イーストエキストラクト、2%バクトペプトン、2%グルコース)3mlに植菌し、24時間後に初期OD540 =0.1となるようにYPD培地50mlに植菌した。3日間30℃で培養後に初期OD540 =0.1となるようにYPD培地50mlに植菌した。さらに3日毎に同様の継代を繰り返した。継代毎に菌体を107 cells/plate になるように滅菌水で希釈して2%MeOH−YNBw/oa.a.プレート(0.7%イーストナイトロジエンベースウイズアウトアミノアシッド、2%メタノール、1.5%寒天末に塗布し、30℃5日間培養してコロニーの有無を判断した。その結果、12日間継代後に塗布した2%MeOH−YNBw/oa.a.プレートから20個のコロニーが生じた。このプレートではMut−株はほとんど生育できず、Mut+株は生育できる。すなわち、このプレートではコロニーが生じるということはメタノールの資化性が上昇し、Mut+に変換した株が得られたことを示している。生じたコロニーの内の1つを適当に滅菌水で希釈して2%MeOH−YNBw/oa.a.プレートに拡げシングルコロニーに単離した。その1つをGCP101と名付けた。
【0040】
(2) 菌株の培養
(前々培養)
グリセロール凍結ストック菌株1mlを200mlのYPD培地(表1)を含むバッフル付1,000ml容三角フラスコに植菌、30℃にて24時間振盪培養した。
【0041】
【表1】
【0042】
(前培養)
YPD培地5lを含む10l容ジャーファーメンターに前々培養液を植菌し、24時間通気攪拌培養した。培養温度は30℃、通気量は5l/分とした。また、前培養においてはpHの制御は実施しなかった。
【0043】
(本培養)
バッチ培養用培地(表2)250lに前培養液を植菌し、1,200l容ファーメンターを用いて通気攪拌培養した。槽内圧は0.5kg/cm2 、最大通気量を800N−L/min として溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の50%〜30%程度を保持するように、攪拌速度を制御しながら回分培養を開始した。回分培養において培地中のグリセロールが消費された時点よりフィード培地(表3)の添加を開始した。このフィード培地の添加にはコンピュータを使用し、培地中にメタノールが蓄積しないように制御しながら高密度培養を実施した。pHは28%アンモニア水を添加することにより、pH5.85に定値制御した。消泡は消泡剤(Adecanol、旭電化工業製) を回分培養開始時に0.30ml/l添加しておき、その後は必要に応じて少量添加することで実施した。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
参考例2
参考例1のGCP101株から単離したAOX2プロモーター [変異型。天然型AOX2プロモーター(YEAST, 5, 167-177 (1988)またはMol. Cell, Biol., 9, 1316-1323 (1989))中、開始コドン上流の255番目の塩基がTからCに変異したもの] を用いてHSA発現用プラスミドpMM042を構築し、ピキアパストリス(Pichia pastoris) GTS115株に導入し、形質転換体UHG42−3株を得た(特開平4−299984号公報)。参考例1に準じてこのUHG42−3株を培養し、HSAを産生させた。
【0047】
参考例3
(1) 培養上清の分離〜膜分画(II)
参考例1ないしは参考例2で得られた培養液約800lを圧搾することにより培養上清を分離した。培養上清を分画分子量が30万の限外濾過膜で処理した。次いで、分画分子量が3万の限外濾過膜を用いて液量を約80lに濃縮した〔膜分画(I)〕。
続いて、60℃、3時間の加熱処理を行った。加熱処理は5mMカプリル酸ナトリウム、10mMシステイン、100mMアミノグアニジンの共存下にpH7.5で行った。加熱処理液を急速に約15℃に冷却し、pH4.5に調整した後に、再度分画分子量が30万の限外濾過膜を用いて処理した〔膜分画(II)〕。次いで、分画分子量が3万の限外濾過膜を用いてHSA溶液中の緩衝液を50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液,pH4.5に交換した。
【0048】
(2) 陽イオン交換体処理
50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液,pH4.5で平衡化したS−セファロース充填カラムにHSAを吸着させ、同緩衝液で十分洗浄したのち、0.3M塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液、pH9でHSAの溶出を行った。
【0049】
(3) 疎水性クロマト処理
S−セファロース充填カラムから溶出されたHSA溶液を0.15M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液,pH6.8で平衡化したフェニルセルロファインを充填したカラムに添加した。この条件ではHSAはフェニルセルロファインに吸着することなく、カラムを通過した。カラムを通過したHSAは、分画分子量3万の限外濾過膜を用いて液量を約50lに濃縮するとともに、HSA溶液中の緩衝液を50mMリン酸緩衝液、pH6.8に交換した。
【0050】
(4) 陰イオン交換体処理
疎水性クロマト処理後、濃縮及び緩衝液交換を行ったHSA溶液を50mMリン酸緩衝液,pH6.8で平衡化したDEAE−セファロースを充填したカラムに添加した。この条件ではHSAはDEAE−セファロースに吸着することなく、カラムを通過した。
【0051】
(5) キレート処理
25%濃度の精製HSA1mlにDIAION CRB02(担体部分はスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、リガンド部分はN−メチルグルカミン基からなるキレート樹脂,三菱化成製)1gを加え、pH6.8、イオン強度5mmhoの条件下、室温で24時間攪拌した。樹脂を蒸留水で洗浄し、非吸着画分をHSAとして回収した。
【0052】
(6) ホウ酸塩処理
HSA濃度2.5%に調製し、溶液の電導度を1mS以下とした。四ホウ酸カルシウムを終濃度が100mMになるように添加し、pHを9.5に維持した。10時間程度放置した後に沈殿を除去し、上清を回収して濃縮脱塩した。次いで、分画分子量約10万の限外濾過膜を用いて処理した。
【0053】
実施例1
参考例1または参考例2で得られた培養液約800lを圧搾することにより、培養上清を分離した。培養上清を分画分子量30万の限外濾過膜で処理した。次いで、分画分子量約3万の限外濾過膜で用いて約80lに濃縮した〔膜分画(I)〕。
濃縮液をpH4.5に調整した後に再度、分画分子量30万の限外濾過膜を用いて処理した〔膜分画(II)〕。次いで、分画分子量3万の限外濾過膜を用いてHSA溶液中の緩衝液を50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH4.5)に交換した。50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH4.5)に平衡化したS−セファロース充填カラムにHSAを吸着させ、同緩衝液で充分に洗浄後に、0.3M塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH9)でHSAを溶出した。遊離多糖の含量をフェノール硫酸法で測定したところ、S−セファロース処理の前後で1/20に低下した。S−セファロース充填カラムから溶出されたHSA溶液を60℃で1時間加熱処理した。加熱処理は5mMカプリル酸ナトリウム、5mMアセチルトリプトファン、100mMアミノグアニジンおよび10mMシステインの共存下にpH7.5で行った。システイン処理の前後でA350 /A 280が50%低減した。
【0054】
実施例2(陽イオン交換体処理と加熱処理の順序と脱色効果の関係)
参考例1または参考例2で得られた培養液約800lを圧搾することにより、培養上清を分離した。培養上清を分画分子量30万の限外濾過膜で処理した。次いで、分画分子量約3万の限外濾過膜で用いて約80lに濃縮した〔膜分画(I)〕。濃縮液をpH4.5に調整した後に再度、分画分子量30万の限外濾過膜を用いて処理した〔膜分画(II)〕。この処理液を用いて以下の実験を行った。
▲1▼実施例1と同様に陽イオン交換体処理を行った後に加熱処理した。なお、膜分画(II)後の遊離多糖の含量は、HSA250mg/ml当たり110mg/ml程度、陽イオン交換体処理後のそれは5mg/ml程度であった。
▲2▼実施例1と工程順を逆にして、先に加熱処理を行った後に陽イオン交換体処理した。
各々の場合において、工程毎のHSA画分の着色度を測定し、比較検討した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示されるように、陽イオン交換体処理後に加熱処理を行った場合では、着色度が加熱処理前後で55%低減したのに対して、加熱処理を陽イオン交換体処理前に行った場合は36%の低減に留まり、陽イオン交換体処理後に加熱処理を行った場合の方が、その反対の場合に比べて着色度が低く抑えられることが判明した。この差は、陽イオン交換体処理によりHSA画分中の遊離多糖がかなりの量で除去されたことに由来するものと考えられる。
【0057】
実施例3(精製段階における加熱処理の位置(順序)と脱色効果の関係)
参考例3のHSAの精製工程を基礎として、加熱処理の位置(順序)と脱色効果の関係について検討した。すなわち、参考例3では加熱処理は陽イオン交換体処理の直前に行っているが、加熱処理を最終工程にした場合、加熱処理を陽イオン交換体処理の直後にした場合、最終工程で再度加熱処理を追加して行った場合で着色度を比較検討した。各々の加熱処理条件は上記と同一とした。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
Claims (6)
- 遺伝子操作により発現されるヒト血清アルブミンを、遊離多糖を除去した条件下で30分〜5時間加熱処理することを特徴とする、脱色されたヒト血清アルブミンの製造方法。
- 遺伝子操作により発現されるヒト血清アルブミンを陽イオン交換体処理後に30分〜5時間加熱処理することを特徴とする、脱色されたヒト血清アルブミンの製造方法。
- 脱色されたヒト血清アルブミンが少なくともA 350 /A 280 で0 . 016の着色度まで脱色されたヒト血清アルブミンである、請求項1記載の製造方法。
- 脱色されたヒト血清アルブミンが少なくともA 350 /A 280 で0 . 016の着色度まで脱色されたヒト血清アルブミンである、請求項2記載の製造方法。
- 脱色されたヒト血清アルブミンがA 350 /A 280 で0.015乃至0 . 016の着色度を有する、請求項1記載の製造方法。
- 脱色されたヒト血清アルブミンがA 350 /A 280 で0.015乃至0 . 016の着色度を有する、請求項2記載の製造方法。
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