JP3683121B2 - 駆動機械の機械定数推定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、工作機械やロボットにおけるモータ等の駆動装置を用いた駆動機械の機械定数推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
工作機械やロボットにおけるサーボモータ等の駆動装置を用いた駆動機械では、主として駆動機械の速度制御動作や位置制御動作を正確に行うために、駆動機械のイナーシャや粘性摩擦などの機械定数を正確に推定することが望まれる。図9に電気学会論文誌Vol.114−D,No.4、p424〜p431に記載の、駆動機械のイナーシャを推定する従来の機械定数推定装置の構成を示す。
【0003】
図9において1はトルク指令τrを発生するトルク指令生成部、2はトルク指令τrに応じた駆動トルクτmを発生するモータ等の駆動部、3は駆動部2によって駆動される駆動機械、4は駆動機械の機械速度vmを検出して出力する速度検出器、305はトルク指令τrを入力しトルク変化信号dτを出力するトルク変化信号生成部、306は機械速度vmを入力し疑似加速度信号asを出力する疑似加速度信号生成部、307は疑似加速度信号asを入力し加速度変化信号daを出力する加速度変化信号生成部、308はトルク変化信号τdと加速度変化信号adを入力しイナーシャ推定値Jeを出力する機械定数推定部である。
【0004】
次に図9に示した従来の機械定数推定装置の動作について説明する。
まずトルク指令生成部1、駆動部2、駆動機械3および速度検出器4の動作について説明する。トルク指令生成部1は速度制御や位置制御などの目的に応じたトルク指令τrを発生して駆動部2へ出力し、駆動部2はトルク指令τrに一致するように駆動トルクτmを発生することにより、駆動機械3を駆動する。次に速度検出器4は駆動機械3の機械速度vmを検出して出力する。
【0005】
ここで、駆動トルクτmとトルク指令τrが一致するとし、外乱トルクをτdとすると、トルク指令τrおよび外乱トルクτdと機械速度vmの間には下記の式(1)および式(2)の関係が有る。
am=s・vm ・・・・・ (1)
τr=τd+J・am ・・・・・ (2)
ただし、amは駆動機械3の機械加速度、Jは駆動機械3のイナーシャ、sはラプラス演算子を表す。
【0006】
次に外乱トルクτdの性質について説明する。外乱トルクτdがクーロン摩擦によるものとした場合は、駆動機械3が静止状態にある場合には外乱トルクτdは駆動トルクτmと釣り合うように作用するため一定の値とは限らない。しかしながら駆動機械3が機械速度vmの符号が変わらずに動いている間は、特別な条件変化がないかぎりほぼ一定の大きさの外乱トルクになると考えられる。したがって駆動機械3が静止状態から動き始める始動時刻tsにステップ状の外乱トルクτdが加わり、機械速度vmが0になる次の静止状態が来るまで外乱トルクτdはほぼ一定の値になると考えられる。
【0007】
次にトルク変化信号生成部305の動作について説明する。トルク変化信号生成部305はトルク指令τrを入力し、トルク指令τrの現時点と一時点前とを差分することにより、トルク変化信号dτを出力する。ここでは説明の簡単のため連続時間系として表記し、上記の差分を微分としてトルク変化信号を生成すると表記する。したがってトルク変化信号dτはトルク指令τrから下記の式(3)により演算される。
dτ=s・τr ・・・・・ (3)
【0008】
次に疑似加速度信号生成部306は機械速度vmを入力し、疑似加速度信号asを生成するが、ここで、速度検出器4で検出する機械速度vmには高周波数のノイズ成分が含まれ、純粋な微分を用いるとノイズ成分を大きくして機械定数の推定誤差の原因となるため、それを除去するためにローパスフィルタ特性を付加した疑似微分演算を行う。したがって、前述のローパスフィルタ特性をF(s)とすると、疑似加速度信号asは下記の式(4)により生成され、機械加速度amとは式(5)の関係が有る。
as=s・F(s)・vm ・・・・・ (4)
as=F(s)・am ・・・・・ (5)
【0009】
次に加速度変化信号生成部307は疑似加速度信号asを入力し、下記の式(6)のように差分すなわち微分動作を行うことにより加速度変化信号daを出力する。
da=s・as ・・・・・ (6)
【0010】
ここで、式(2)、式(3)よりトルク変化信号dτ、クーロン摩擦による外乱トルクτd、機械加速度amの間には次の式(7)の関係が成り立ち、更に式(5)、式(6)を用いると、トルク変化信号dτ、外乱トルクτd、加速度変化信号daの間には式(8)の関係が成り立つ。
dτ=s・τd+J・s・am ・・・・・ (7)
dτ=s・τd+J・(1/F(s))・da ・・・・・ (8)
【0011】
また、クーロン摩擦による外乱トルクτdは前述のように駆動機械3が動いている間は一定の値だと考えられるため、前述の式(8)における右辺第1項は駆動機械3が始動する瞬間以外は0になると考えられる。したがって、前述のローパスフィルタ特性F(s)を無視して1とすると、駆動機械3が始動する瞬間以外はトルク変化信号dτと加速度変化信号daとの比から駆動機械3のイナーシャJを推定することが可能になる。
【0012】
ここで、上記のようにトルク変化信号dτと加速度変化信号daとの比から駆動機械3のイナーシャJを推定したとすると、上記の式(8)における右辺第1項は微分動作であるため、クーロン摩擦が大きい場合には、クーロン摩擦による外乱トルクτdが変化する瞬間、すなわち駆動機械3が始動する瞬間には大きな値となり、大きなイナーシャ推定誤差の原因となる。
【0013】
また、前述のようにローパスフィルタF(s)は速度検出器のノイズの影響を低減するためのものであるが、ノイズの影響を大きく低減するためにローパスフィルタの遮断周波数を低くすると、ローパスフィルタF(s)の特性が1から大きく離れるため、式(8)より、トルク変化信号dτの加速度変化信号daに対する比とイナーシャJとの誤差が大きくなる。したがつて、ノイズの影響を低減しながら高精度なイナーシャ推定を行うことが難しくなる。
【0014】
次に機械定数推定部308の動作について説明する。機械定数推定部308はトルク変化信号drと加速度変化信号daを入力し、下記の式(9)により時点kにおけるイナーシャ推定値Je〈k〉を1時点過去のイナーシャ推定値Je〈k−1〉から更新する。ここでP〈k〉(詳細は後述する)は、機械定数推定部308が内部に持つ推定ゲインである。
Je〈k〉=Je〈k−1〉+P〈k〉・da〈k〉・
(dτ〈k〉−da〈k〉・Je〈k−1〉) ・・・・・ (9)
【0015】
次に、前述の式(9)におけるP〈k〉は次の式(10)により時点kでP〈k〉を1時点過去のP〈kー1〉から更新する。
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(aw〈k〉)2 )………(10)
【0016】
上記の式(9)および式(10)を用いた推定方法は逐次最小二乗法と呼ばれる。またλは忘却係数と呼ばれる定数で、駆動機械3のイナーシャJの変化に対応するためには、忘却係数λは1より少し小さい値に選ばれる。
【0017】
ここで、駆動機械3を速度一定で長時間駆動したような場合、加速度一定の期間が長く続くため加速度変化信号daが0に近づく。したがって式(10)の忘却係数λを1より小さな値に選んだ場合は、推定ゲインP〈k〉はP〈k−1〉から1/λ倍され、延々と大きくなるため、イナーシャ推定値Jeを急峻に更新するようになる。その結果、加速度変化信号daのノイズ的な動作に対してイナーシャ推定値Jeがノイズ的に変化してしまう。
【0018】
上記の問題を防ぐために、従来の技術の機械定数推定装置では、加速度変化信号daの絶対値が閾値より小さく0に近い場合には上記の式(9)および式(10)によるイナーシャ推定値Jeの更新動作を止める。
【0019】
しかし、上述のように加速度変化信号daの絶対値が閾値より小さい場合にはイナーシャ推定値Jeの更新動作を止めるようにすれば、駆動機械3を駆動するパターンが加速度変化の小さい場合などはイナーシャ推定動作を全く行わないようになってしまう。またそれを防ぐには駆動機械3の動作条件に応じて閾値を適切に調整する必要が生じる。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
以上に説明したように、従来の技術の機械定数推定装置では、トルク指令τrの微分信号であるトルク変化信号dτと、機械速度vmを疑似微分した疑似加速度信号asの微分信号である加速度変化信号daだけに基づいて、逐次最小自乗法を用いて駆動機械のイナーシャを推定しており、駆動機械が始動した瞬間はクーロン摩擦の影響と加速度変化信号daの両方とも大きいため、駆動機械のクーロン摩擦が大きい場合はクーロン摩擦に起因したイナーシャ推定誤差が大きくなるという問題がある。
【0021】
また、トルク指令τrの微分信号であるトルク変化信号dτと、機械速度vmを疑似微分した疑似加速度信号asの微分信号である加速度変化信号daを用いてイナーシャ推定を行っており、速度検出器の高周波数ノイズによる誤差を小さくするために疑似微分を行っているため、高周波数ノイズの影響を小さくしながら高精度にイナーシャ推定誤差を行うのが困難であるという問題が有った。
【0022】
また、駆動機械を速度一定で長時間駆動したような場合に、加速度一定の期間が長く続いて、速度変化信号daの絶対値が閾値より小さくなるとイナーシャ推定値Jeの更新を止めるようにしているが、駆動機械の駆動パターンが加減速の小さい場合には、イナーシャ推定動作を全く行わないようになるという問題が有る。またこの問題を回避するためには駆動パターンに応じて閾値を調整する必要があるという問題が有った。
【0023】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る駆動機械の機械定数推定装置は、入力されたトルク指令に応じた駆動トルクを発生することにより駆動機械を駆動する駆動部と、前記トルク指令から直流成分を除去して過渡トルク信号を生成する過渡トルク信号生成部と、前記駆動機械の加速度、速度又は位置である動作信号から直流成分を除去した過渡動作信号を生成する過渡動作信号生成部と、前記駆動機械が静止状態から動き始めた後に所定の演算により変化する重み信号を生成する重み信号生成部と、前記過渡トルク信号と前記過渡動作信号と前記重み信号に基づき前記駆動機械の機械定数推定値を演算する機械定数推定部とを備えるものである。
【0024】
また、重み信号生成部は、駆動機械が静止状態から動き始める始動時点から所定の時間が経過するまでの間は、所定の時間経過後に比べて小さいレベルの重み信号を生成するものである。
【0025】
また、重み信号生成部は、駆動機械の速度の増加に対して増大するように重み信号を生成するものである。
【0026】
また、機械定数推定部は、過渡トルク信号と重み信号との積信号と、過渡動作信号と重み信号との積信号とに基づいて駆動機械の機械定数推定値を演算するものである。
【0027】
また、機械定数推定部は、過渡トルク信号と重み信号との積信号と、過渡動作信号と重み信号との積信号とを入力とした最小二乗法に基づいて機械定数推定値を演算するものである。
【0028】
また、機械定数推定部は、現時点の機械定数推定値を過去の機械定数推定値と重み信号とに基づき演算するものである。
【0029】
また、機械定数推定部は、少なくとも駆動機械のイナーシャを演算するものである。
【0030】
また、機械定数推定部は、少なくとも駆動機械の粘性定数を演算するものである。
【0031】
また、機械定数推定部は、重み信号と過渡トルク信号との積τwと、重み信号と駆動機械の加速度から直流成分を除去した過渡加速度信号との積awとから、時点kにおいて推定ゲインP〈k〉を
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(aw〈k〉)2 )
に基づいて更新演算し、イナーシャ推定値Je〈k〉を
Je〈k〉=Je〈k−1〉+P〈k〉・aw〈k〉・(τw〈k〉−aw〈k〉・Je〈k−1〉)
に基づき更新演算して出力するものである。
【0032】
また、機械定数推定部は、重み信号と過渡トルク信号との積τw、重み信号と駆動機械の加速度から直流成分を除去した過渡加速度信号との積awとから、時点kにおいて推定ゲインP〈k〉を
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(τw〈k〉)2 )
に基づいて更新演算し、
また、イナーシャ推定値Je〈k〉を
1/Je〈k〉=1/Je〈k−1〉+P〈k〉・τw〈k〉・(aw〈k〉−τw〈k〉/Je〈k−1〉)
に基づき更新演算するものである。
【0033】
また、過渡加速度信号があらかじめ定めた所定のレベルを下回った場合は、推定ゲインP〈k〉の更新演算を行わずに、イナーシャ推定値の更新演算のみを行うものである。
【0034】
また、過渡トルク信号があらかじめ定めた所定のレベルを下回った場合は、推定ゲインP〈k〉の更新演算を行わずに、イナーシャ推定値の更新演算のみを行うものである。
【0035】
また、推定ゲインP〈k〉の値のとりうる範囲に予め制限を設けるものである。
【0036】
また、入力されたトルク指令に応じたトルクを発生することにより駆動機械を駆動する駆動部と、前記駆動機械の速度あるいは位置を動作信号として検出する動作検出器と、前記トルク指令から直流成分を除去し更にローパスフィルタを通した信号を過渡トルク信号として生成する過渡トルク信号生成部と、前記動作信号を入力し過渡加速度信号を生成する過渡加速度信号生成部と、前記過渡トルク信号と前記過渡加速度信号を入力し前記駆動機械の機械定数を推定する機械定数推定部を備え、前記過渡加速度信号生成部は前記駆動機械の加速度から前記過渡加速度信号までの伝達特性と前記過渡トルク信号生成部の伝達特性とがほぼ同一になるように構成したものである。
【0037】
また、過渡トルク信号生成部は、前記トルク指令から前記過渡トルク信号までの伝達特性の次数を3次以上5次以下とするものである。
【0038】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1である駆動機械の機械定数推定装置の構成を示す図である。なお、以下の各図に於いて従来例の図と同一符号は同一又は相当部分を示すので、その詳細な説明は省略する。
図において1はトルク指令τrを発生するトルク指令生成部、2はトルク指令τrに応じた駆動トルクτmを発生するモータ等の駆動部、3は駆動部2によって駆動される駆動機械、4は駆動機械の機械速度vmを検出して出力する速度検出器、5はトルク指令τrを入力し過渡トルク信号τfを出力する過渡トルク信号生成部、6は機械速度vmを入力し過渡加速度信号afを出力する過渡加速度信号生成部、7は始動時点からの時間経過に依存した重み信号wtを生成する重み信号生成部、8は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afと重み信号wtを入力しイナーシャ推定値Jeを出力する機械定数推定部である。
【0039】
次に図1に示した機械定数推定装置の動作を説明する。
まずトルク指令生成部1、駆動部2、駆動機械3および速度検出器4の動作について説明する。トルク指令生成部1は速度制御や位置制御などの目的に応じたトルク指令τrを発生して駆動部2へ出力し、駆動部2はトルク指令τrに一致するように駆動トルクτmを発生することにより、駆動機械3を駆動する。次に速度検出器4は駆動機械3の機械速度vmを検出して出力する。
【0040】
ここで、駆動トルクτmとトルク指令τrが一致するとし、外乱トルクをτdとすると、トルク指令τrおよび外乱トルクτdと機械速度vmの間には、従来例で説明したと同様に下式が成立する。
am=s・vm ・・・・・ (1)
τr=τd+J・am ・・・・・ (2)
ただし、amは駆動機械3の機械加速度、Jは駆動機械3のイナーシャ、sはラプラス演算子を表す。
【0041】
式(2)より、外乱トルクτdが0の場合にはトルク指令τrの機械加速度amに対する比から駆動機械3のイナーシャJを推定できることが分かる。したがって後述するようにτdによる影響を除去できればトルク指令τrに基づく信号の機械加速度amに基づく信号に対する比から駆動機械3のイナーシャJを推定することが可能になる。
【0042】
次に外乱トルクτdをクーロン摩擦であると仮定した場合の性質について説明する。外乱トルクτdをクーロン摩擦であるとした場合は、駆動機械3が静止状態にある場合には外乱トルクτdは駆動トルクτmと釣り合うように作用するため一定の値とは限らない。しかしながら駆動機械3が機械速度vmの符号が変わらずに動いている間は、ほぼ一定の大きさの外乱トルクになると考えられる。したがって駆動機械3が静止状態から動き始める始動時刻tsにステップ状の外乱トルクτdが加わり、機械速度vmが0になる次回の静止状態になるまで外乱トルクτdはほぼ一定の値になると考えられる。
【0043】
図2に図1に示す機械定数推定装置の信号の応答例を示す。図2の(a)は機械速度vmを示し、図2は速度制御等を行うことにより図2の(a)のように機械速度vmが変化した場合の各信号の応答を示す。図2の(b)における破線は機械加速度amを示す。図2の(c)における破線はトルク指令τrを、点線は外乱トルクτdを示す。始動時刻tsより以前の静止状態ではトルク指令τrおよび外乱トルクτdが0である場合を示している。外乱トルクτdがクーロン摩擦の場合は図2の(c)の点線のように、外乱トルクτdは始動時刻tsにステップ的に変化し、駆動機械3が動いている間は一定の値と考えられる。したがって式(2)より図2の(c)の破線に示すトルク指令τrの波形は、図2の(b)の破線に示す機械加速度amに駆動機械3のイナーシャJを乗じ、更に外乱トルクτdのオフセットを加えたものになる。
【0044】
次に過渡トルク信号生成部5および過渡加速度信号生成部6の動作について説明する。過渡トルク信号生成部5はトルク指令τrを入力し下記の式(13)および式(14)で表すFτ(s)の伝達関数演算を行い、トルク指令τrから低周波数成分(直流成分)と高周波数成分を除去した過渡トルク信号τfを出力する。
τf=Fτ(s)・τr ・・・・・ (13)
Fτ(s)=s/f(s) ・・・・・ (14)
ただし、式(14)の分母多項式f(s)はsの3次多項式とし、その結果Fτ(s)は入力の低周波数成分と高周波数成分を遮断した信号を出力する特性を持つ。低周波成分の除去はこの発明に言う直流成分の除去と同等である。
【0045】
次に過渡加速度信号生成部6は機械速度vmを入力し、下記の式(15)および式(16)で表すFv(s)の伝達関数演算を行い過渡加速度信号afを出力する。
af=Fv(s)・vm ・・・・・ (15)
Fv(s)=s2 /f(s) ・・・・・ (16)
ここで、分母多項式f(s)は過渡トルク信号生成部5における式(14)の演算に用いるものと同一のsの多項式で、Fv(s)は下記の式(17)のように前述のFτ(s)に微分を乗じたものと同じ伝達特性になる。
Fv(s)=s・Fτ(s) ・・・・・ (17)
【0046】
したがって、式(1)、式(15)および式(17)より機械加速度amから過渡加速度信号afまでの間には、下記の式(18)の伝達特性が成り立ち、過渡トルク指令生成部5におけるトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と同一になる。
af=Fτ(s)・am ・・・・・ (18)
【0047】
ここで、式(13)に式(2)を代入すると、以下の式(19)が成り立つ。
τf=Fτ(s)・τd + J・Fτ(s)・am ・・・・・ (19)
したがって摩擦による外乱トルクτdが一定とし、始動時刻tsから有る程度時間が経過すると、式(19)の右辺第1項は0になる。
【0048】
また、式(18)に示したように、過渡トルク信号生成部5におけるトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と過渡加速度生成部6における機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性を同一にしているため、式(19)は下記の式(20)に変形される。
τf=Fτ(s)・τd + J・af ・・・・・ (20)
したがって始動時刻tsから有る程度時間が経過すると、過渡トルク信号τfの過渡加速度信号afに対する比が、駆動機械3のイナーシャJに一致する。
【0049】
ここで、式(16)より、速度検出器4で検出した機械速度vmを用いて過渡加速度生成部6をプロパーに構成するためには、分母多項式f(s)の次数は2次以上である必要がある。また分母多項式f(s)の次数を2次以上とし、上記のようにトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と、機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性が同一になるように構成すると、式(14)よりトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性Fτ(s)は必ず高周波数成分を遮断する特性を持つ必要が有る。すなわち、伝達特性Fτ(s)は高周波数成分と低周波数成分を除去(直流成分を除去)する特性とし、過渡トルク信号生成部5におけるトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と過渡加速度生成部6における機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性を同一とすることによって式(20)が成立し、過渡トルク信号τfの過渡加速度信号afに対する比からイナーシャJを高精度に推定することが可能になる。高周波数成分の除去はローパスフィルタを通すことで達成できる。
【0050】
更に、上記のように構成するとトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性は必ず高周波数成分を遮断する特性を持つため、高周波数成分はイナーシャ同定にあまり寄与しなくなる。しかしながら分母多項式f(s)を2次とすると、速度検出器4は通常ロータリーエンコーダなどを用いるため高周波数のノイズ成分が含まれており、式(16)より過渡加速度信号afのノイズ成分が強調され、イナーシャ推定誤差の元になる。したがって、分母多項式f(s)を3次以上として、元々イナーシャ推定に余り寄与しない高周波数成分を更に除去することにより、イナーシャ同定の性能を劣化させることなく速度検出器4におけるノイズの影響を低減させる効果を特に大きくする。また分母多項式f(s)を3次とすると、速度検出器4におけるノイズの影響を低減させる効果が特に大きく、更に計算時間を短くすることが可能になる。
【0051】
図2の(b)の実線は過渡加速度信号afを示す。図2の(c)の実線は過渡トルク信号τfを示す。過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afは、それぞれトルク指令τr、加速度amから低周波数成分が除去されるため、始動後、時間が経過すると過渡トルク信号τfは過渡加速度信号afに駆動機械3のイナーシャJを乗じたものに近づく。また始動後十分に時間が経過すれば、過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afは相似な形になり、その比は駆動機械3のイナーシャJに一致する。
【0052】
以上のように過渡トルク信号生成部5および過渡加速度信号生成部6を構成することにより、クーロン摩擦が存在しても、駆動機械3の始動時刻tsから十分に時間が経過すれば、速度検出器4の検出ノイズの影響が少なく、過渡トルク信号τfの過渡加速度信号afに対する比から正確に駆動機械3のイナーシャJを推定することが可能になる。
【0053】
次に重み信号生成部7の動作について説明する。重み信号生成部7は機械速度vmを入力し、機械速度vmの絶対値が0近傍より(予め定めた所定のレベルより)大きくなった時点を駆動機械3が静止状態から動き始めた時点として検出する。
次に、重み信号生成部7は検出した始動時点から予め定められた所定の期間増大するような時間関数の重み信号wtを生成する(速度は上記所定のレベル以上であれば、その値は関係しない)。すなわち、始動時点から所定の時間が経過する以前は、所定の時間が経過した後よりも小さいレベルの重み関数wtを生成する。図2の(d)にこのようにして生成される場合の重み信号wtの例を示す。ここで機械速度vmがゼロのとき(上記予め定めた所定のレベルより低いとき)はイナーシャの推定は不可能であるため機械定数推定装置の動作は止めるため、重み信号wtの値は特に限定しない。
【0054】
次に機械定数推定部8の動作について説明する。図3は機械定数推定部8の構成を示す図である。図において8aおよび8bは積算器であり、8cは最小二乗演算部である。機械定数推定部8は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afと重み信号wtを入力し、積算器8aは、過渡トルク信号τfと重み信号wtの積である重み付きトルク信号τwを演算する。また積算器8bは過渡加速度信号afと重み信号wtの積である重み付き加速度信号awを演算する。すなわち過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afに、駆動機械3の始動直後は相対的に小さな重みづけを行う。
【0055】
次に、最小二乗演算部8cは、時点kにおけるイナーシャ推定値Je〈k〉を1時点過去のイナーシャ推定値Je〈k−1〉から下記の式(21)を用いて更新する。ただし式(21)におけるP〈k〉は最小二乗演算部8cが内部で持つ推定ゲインであり、その演算については後述する。
Je〈k〉=Je〈k−1〉+P〈k〉・aw〈k〉・(τw〈k〉−aw〈k〉・Je〈k−1〉) ・・・・・ (21)
【0056】
上記の式(21)は下記の式(22)に変形できる。
Je〈k〉=Je〈k−1〉+P〈k〉・(af〈k〉)2 ・(wt〈k〉)2 ・(τf〈k〉/af〈k〉−Je〈k−1〉) ・・・・・ (22)
【0057】
したがって、最小二乗演算部8cは、時点kでイナーシャ推定値Jeが重み付きトルク信号τw〈k〉の重み付き加速度信号aw〈k〉に対する比に近づくように、Je〈k〉をJe〈k−1〉から更新して演算する。また、重み信号wt〈k〉が相対的に小さければイナーシャ推定値Jeの更新を相対的に緩やかに行い、始動時刻tsの直後は重み信号生成部7により重み信号wtを相対的に小さくしているため、駆動機械3の始動直後はイナーシャ推定値Jeの更新を相対的に緩やかにする。
【0058】
次に最小二乗演算部8cにおける推定ゲインP〈k〉の演算について説明する。最小二乗演算部8cは通常は時点kで推定ゲインP〈k〉を下記の式(23)のように重み付き加速度信号aw〈k〉に基づいてP〈kー1〉から更新する。
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(aw〈k〉)2 )……… (23)
ここで、式(21)および式(23)を用いた推定方法は逐次最小二乗法と呼ばれる。またλは忘却係数と呼ぶ定数で、駆動機械3のイナーシャJが変化する場合にこの変化に対応して推定するためには、忘却係数λは1より少し小さい値に選ばれる。このような逐次最小二乗法を用いることにより、白色雑音に対してイナーシャ推定誤差に基づく二乗和形式の評価関数を最小化するように、高精度にイナーシャ推定を行うことが可能になる。
【0059】
ここで、駆動機械3を速度一定で長時間駆動したような場合、加速度一定の期間が長く続くため過渡加速度信号afおよび重み付き加速度信号awが0に近づく。したがって式(23)の忘却係数λを1より小さな値に選んだ場合、推定ゲインP〈k〉はP〈k−1〉から1/λ倍されて延々と大きくなるため、イナーシャ推定値Jeを急峻に更新するようになる。その結果、過渡加速度信号afのノイズ的な動作に対してイナーシャ推定値Jeがノイズ的に変化してしまう。
したがって、過渡加速度信号afあるいは過渡加速度信号afに基づく重み付き加速度信号awが0に近く、絶対値が予め定めた閾値より小さい場合には、式(23)によるP〈k〉の更新だけを止めて推定ゲインP〈k〉が大きくなりすぎるのを防ぎ、式(21)によるイナーシャ推定値Jeの更新だけを行うことにより、過渡加速度信号afが0に近い場合も緩やかにイナーシャ推定の更新を行うようにする。このように構成することにより、駆動機械3を速度一定で長時間駆動したような場合や、緩やかな加減速運転を行った場合でも、イナーシャ推定値がノイズ的に変化することはなく、また緩やかにイナーシャ推定値を更新することが可能になる。
【0060】
図2の(e)の破線は重み信号wtが常に1、すなわち重み信号を用いない場合のイナーシャ推定値Jeの変化を示す。また図2の(e)の実線は図2の(d)に示す重み信号wtを用いた場合のイナーシャ推定値Jeの変化を示す。始動時刻tsの直後はクーロン摩擦の影響が除去されていないため、重み信号wtを用いない場合にはイナーシャ推定値Jeを大きく推定し、場合によっては次に駆動機械3が停止するときまで推定誤差が残る。一方、重み信号wtを用いた場合には、始動時刻tsの直後にはイナーシャ推定値Jeの更新を緩やかにさせているためイナーシャ推定誤差が小さくなる。またその結果、正確な推定値へ収束するのも速くなるため、イナーシャ推定の精度を向上させることが可能になる。
【0061】
本実施の形態では、機械定数推定部8および最小二乗演算部8cにおいて、過渡加速度信号afあるいは重み付き加速度信号awが0に近い場合には式(23)の推定ゲインP〈k〉の更新を止めて推定ゲインP〈k〉が大きくなりすぎるのを防いでいる。
なお、駆動機械3に対する外乱をクーロン摩擦として説明したが、例えば駆動機械3が静止している状態では機械的ブレーキを用いる場合など、始動時に機械的ブレーキを解放することにより、重力による外乱τdが加わるような、駆動機械3の始動時に特に加わるような外乱τdに対しても有効である。
【0062】
また、重み信号生成部7は機械速度vmを入力するとしたが、これは特に限定するものではなく、例えばトルク指令生成部1が速度指令信号に基づいて機械速度vmの速度を制御するようにトルク指令τrを生成する場合、重み信号生成部7は速度指令信号が0から大きくなった時点を検出するようにしても良い。
【0063】
また、速度検出器4を用いて機械速度vmを検出するとしたが、位置検出器を用いて機械位置xmを検出し、機械位置xmを差分あるいは微分した信号を機械速度vmとするような、等価な構成にしても良い。
【0064】
また、機械定数推定部8において重みつきトルク信号τwと重みつき加速度信号awを用いて逐次最小二乗法により駆動機械3のイナーシャ推定値Jeを計算しているが、重みつきトルク信号τwと重みつき加速度信号awを用いて電気学会論文誌Vol.114−D、No.4、p.424−p.431に記載の固定トレース法や、「MATLABによる制御のためのシステム同定」(東京電気大学出版局)、p.6、に記載の非正規化勾配法を用いても、同様に駆動機械3の始動直後は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afに相対的に小さな重み付けをして駆動機械3のイナーシャを推定することが可能になる。
【0065】
図1の機械定数推定装置では、以上のように構成することにより、トルク指令τrから低周波数成分を除去した過渡トルク信号τfと機械加速度amから低周波数成分を除去した過渡加速度信号afを生成し、駆動機械3の始動直後は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afに相対的に小さな重み信号を乗じた信号に基づいて逐次最小二乗法を用いて駆動機械3の機械定数を推定するため、駆動機械3の始動直後は相対的に小さな重みづけをして機械定数の推定を行い、クーロン摩擦による外乱トルクτdに起因した推定誤差を小さくして高精度な機械定数の推定を行うことが可能になる。
【0066】
またトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と、機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性を同一のFτ(s)とし、また高周波数成分を低減し、またFτ(s)の次数を3次以上(実効上は5次以下)としているため、速度検出器4のノイズの影響を小さくしながら、高精度な機械定数の推定が可能になる。
【0067】
また最小二乗演算部8cにおいて、過渡加速度信号afの絶対値が閾値より推定ゲインP〈k〉の更新を止め、イナーシャ推定値Jeの更新のみを行うことにより、駆動機械3が速度一定で長時間駆動されるような場合でも、過渡加速度信号afのノイズ的な変化に対してイナーシャ推定値Jeがノイズ的に変化するようなことはなく、また駆動機械3が低加減速で駆動されるような場合にもイナーシャ推定を行わないようなことは無い。
【0068】
実施の形態2.
実施の形態1では、機械定数推定部8および最小二乗演算部8cにおいて、過渡加速度信号afあるいは重み付き加速度信号awが0に近い場合には式(23)の推定ゲインP〈k〉の更新を止めて推定ゲインP〈k〉が大きくなりすぎるのを防いだが、駆動機械3を速度一定で長時間駆動し、機械加速度amが一定の期間が長く続くような場合、過渡加速度信号τfも小さくなる。したがって、機械定数推定部8および最小二乗演算部8cにおいて、過渡加速度信号afあるいは重み付き加速度信号awの代わりに、過渡トルク信号τfあるいは重み付きトルク信号τwが0に近く、絶対値が予め定めた閾値より小さい場合には、式(21)の推定ゲインP〈k〉の更新だけを止めるようにして、推定ゲインP〈k〉が大きくなりすぎるのを防いでも良い。
【0069】
本実施の形態2では以上のように機械定数推定装置を構成することにより、駆動機械3を速度一定で長時間駆動したような場合や、緩やかな加減速運転を行った場合でも、イナーシャ推定値がノイズ的に変化することはなく、また緩やかにイナーシャ推定値を更新することが可能になる。
【0070】
実施の形態3.
なお、上記の実施の形態1および実施の形態2では、機械定数推定部8および最小二乗演算部8cにおいて、過渡加速度信号afに基づく信号あるいは過渡トルク信号τfに基づく信号が0に近い場合には、式(21)のP〈k〉の更新だけを止めて推定ゲインP〈k〉が大きくなりすぎるのを防いだが、最小二乗演算部8cにおいて推定ゲインP〈k〉の値のとりうる範囲に予め制限を設け、P〈k〉が大きくなりすぎるのを防いでも良い。
また逆に、高加減速で駆動機械3で短時間駆動停止した場合には、過渡加速度信号afや過渡トルク信号τfが全体的に大きくなり、式(23)よりP〈k〉が小さくなる。したがって、イナーシャ推定値の更新が速くはならないため、短時間の駆動停止を行った場合には、停止までにイナーシャ推定が間に合わない場合も起きる。したがって、このように高加減速で短時間駆動停止を行った場合には急峻にイナーシャ推定を行うように、P〈k〉のとりうる範囲に予め制限を設け、P〈k〉が小さくなり過ぎるのを防いでもよい。
【0071】
即ち、以上のように機械定数推定装置を構成することにより、駆動機械3を速度一定で長時間駆動したような場合や、緩やかな加減速運転を行った場合でも、イナーシャ推定値が極端にノイズ的に変化することはなく、また緩やかにイナーシャ推定値を更新することが可能になる。また、高加減速で短時間駆動停止を行った場合には急峻にイナーシャ推定値を更新することが可能になる。
【0072】
実施の形態4.
上記の実施の形態では、最小二乗演算部8cにおいて、重み付き過渡トルク信号τfの重み付き加速度信号afに対する比に基づきイナーシャ推定値Jeを計算していたが、最小二乗演算部8cは重み付き加速度信号afの重み付き過渡トルク信号τfに対する比に基づき、逐次最小二乗法にてイナーシャ推定値Jeの逆数を求めた後、イナーシャ推定値Jeを出力しても良い。
【0073】
したがって、最小二乗演算部8cは、時点kにおいて下記の式(24)、式(25)に基づいてイナーシャ推定値Je〈k〉の逆数を演算し、逆数を出力しても良い。
1/Je〈k〉=1/Je〈k−1〉+P〈k〉・τw〈k〉・(aw〈k〉−τw〈k〉/Je〈k−1〉) ・・・・・ (24)
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(τw〈k〉)2 ) ……(25)
ただし、上記の実施の形態と同様に、λは忘却係数と呼ばれる予め定められた定数で、P〈k〉は最小二乗演算部8cが内部に持つ推定ゲインである。
【0074】
実施の形態5.
上記の実施の形態1では、最小二乗演算部8cにおいて、重み付きトルク信号τwおよび重み付き加速度信号awを元に逐次最小二乗法を用いて逐次的にイナーシャ推定値Jeを更新することによりイナーシャ推定を行っていたが、最小二乗演算部8cは、重み付きトルク信号τwおよび重み付き加速度信号awの複数の時点のデータを一旦メモリーに格納し、下記の式(26)を用いて一括型最小二乗法によりイナーシャ推定値Jeを算出してもよい。
Je=Σ(aw〈j〉・τw〈j〉)/Σ(aw〈j〉)2 ・・・・・ (26)
ここで、jは時点を表し、Σは時点j=1から時点j=Nまでの複数時点の和を表す。
【0075】
即ち、重み付きトルク信号τwおよび重み付き加速度信号awをメモリーに格納するとしたが、トルク指令τrおよび機械速度vmをメモリーに格納し、一括して重み信号wt,過渡トルク信号τf,過渡加速度信号af、重み付きトルク信号τwおよび重み付き加速度信号awを計算した後に、上記の式(26)を用いて一括型最小二乗法によりイナーシャ推定値Jeを算出してもよいことは言うまでも無い。
【0076】
本実施の形態5では以上のように機械定数推定装置を構成することにより、駆動機械3の始動直後は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afに相対的に小さな重み付けをして駆動機械3のイナーシャを推定するため、クーロン摩擦による外乱トルクτdに起因した推定誤差を小さくして高精度なイナーシャ推定を行うことが可能になる。
【0077】
実施の形態6.
上記の実施の形態1では、機械定数推定部8において、過渡トルク信号τfと重み信号wtの積である重み付きトルク信号τwと過渡加速度信号afと重み信号wtの積である重み付き加速度信号に基づいて逐次的にイナーシャ推定値Jeを更新することによりイナーシャ推定を行っていたが、機械定数推定部8は、重み付きトルク信号τwと重み付き加速度信号awを用いなくても、駆動機械3の始動直後はイナーシャ推定値Jeの更新を相対的に緩やかにすることは可能である。
【0078】
図4は本実施の形態6における機械定数推定部18の構成を示す。図4において8dは除算器、18eはイナーシャ推定値更新部である。本実施の形態6では機械定数推定部18以外の動作は上記実施の形態1と全く同様でありその説明を省略する。
【0079】
次に本実施の形態6における機械定数推定部18の動作を説明する。機械定数推定部8は前記過渡トルク信号τfと前記過渡加速度信号afと前記重み信号wtとを入力し、除算器18dは過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afの商信号τf/afを出力する。次にイナーシャ推定値更新部18eは時点kにおいて下記の式(27)を用いてイナーシャ推定値Jeを更新する。
Je〈k〉=Je〈k−1〉+g・wt〈k〉・(τf〈k〉/af〈k〉−Je〈k−1〉) ・・・・・ (27)
ここで、gは適切な定数のゲイン要素である。
【0080】
本実施の形態6では以上のように機械定数推定部8を構成することにより、駆動機械3の始動直後はイナーシャ推定値の更新を相対的に緩やかに行うことにより、相対的に小さな重みづけをして機械定数の推定を行うようにするため、クーロン摩擦による外乱トルクτdに起因した推定誤差を小さくして高精度なイナーシャ推定を行うことが可能になる。 図4では、過渡トルク信号τfをトルク指令τrから生成し、また過渡加速度信号afを機械速度vmから生成するとともに、トルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性を同一にするように構成したものである。
【0081】
実施の形態7.
上記の実施の形態では過渡トルク信号τfをトルク指令τrから生成し、また過渡加速度信号afを機械速度vmから生成するとともに、トルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性を同一にするように構成したが、必ずしもそうしなくても、駆動機械の始動直後は小さな重み付けをしてイナーシャ推定を行うことにより、クーロン摩擦による外乱トルクτdに起因した推定誤差を小さくすることが可能である。
【0082】
図5は実施の形態7による機械定数推定装置の構成を表す図である。図5の機械定数推定装置において図1と同一符号は同一部分を示し、その説明を省略する。図5において101はトルク指令生成部、101aはPI演算器、106は過渡加速度信号生成部である。
【0083】
次に、図5の動作について説明する。図5の構成はトルク指令生成部101が速度指令vrに応じた速度制御を行うようにトルク指令τrを発生するものであり、トルク指令生成部101は速度指令vrと機械速度vmを入力し、その差信号である速度偏差veを下記の式(28)を用いて演算する。
ve=vrーvm ・・・・・ (28)
【0084】
次にトルク指令生成部101はPI演算器101aを用いて下記の式(29)の演算によりトルク指令τrを演算する。ここで式(29)のKpは比例ゲイン、Kiは積分ゲインで、それぞれ駆動機械3の速度を良好に制御するために決定される定数である。
τr={(Kp・s+Ki)/s}・ve ・・・・・ (29)
【0085】
また、上記の式(29)より速度偏差veはトルク指令τrから下記の式(30)の演算を行ったものと同一になり、速度偏差veはトルク指令τrから低周波数成分を除去し、更に1/Kp倍した信号になるため、この速度偏差veを過渡トルク信号τfとして出力する。
ve={s/(Kp・s+Ki)}・τr ・・・・・ (30)
【0086】
次に、過渡加速度信号生成部106は機械速度vmを入力し、下記の式(31)を用いて過渡加速度信号afを演算し出力する。ここで、式(1)すなわちam=s・vmを用いると、式(31)は式(32)に変形され、更にKpおよびKiが十分に大きいとすると、式(32)は下記の式(33)に近似される。
af={s2 /(s2 +Kp・s+Ki)}・vm ・・・・・ (31)
af={s/(s2 +Kp・s+Ki)}・am ・・・・・ (32)
af≒{s/(Kp・s+Ki)}・am ・・・・・ (33)
したがって式(33)より、過渡加速度信号afは機械加速度amから低周波数成分を除去し、更に1/Kp倍した信号に近似されることが分かる。
【0087】
以上より、本実施の形態7においては、トルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性と機械加速度amから過渡加速度信号afまでの伝達特性が完全には一致しないが近似され、また共に低周波数数成分を除去しているため、過渡トルク信号τfおよび過渡加速度信号afを用いることにより、実施の形態1と同様にクーロン摩擦による外乱トルクτdに起因した誤差を小さくする機械定数推定装置を得ることが可能である。
【0088】
実施の形態8.
図6は本発明の実施の形態8による機械定数推定装置の構成を示す図である。本実施の形態8は駆動機械3の機械速度をそのまま重み信号wtとしたものである。図6において図1と同一符号は同一部分を表し、その説明を省略する。
【0089】
次に、図6の動作を説明する。図6では前記の過渡トルク信号τfおよび過渡加速度信号afと、機械速度vmをそのまま重み信号wtとしたものを機械定数推定部8に入力する。
【0090】
ここで、駆動機械3が始動すると、機械速度vmの絶対値は、必ず0から0より大きい値へと変化するため、機械速度vmの絶対値は始動直後は必ず相対的に小さい値となる。したがって、機械速度vmに基づいて駆動機械3の始動直後は相対的に小さな値を持つ重み信号wtを生成することも可能である。図6の構成は機械速度vmをそのまま重み信号wtとしたものであり、駆動機械3が始動した直後は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afに相対的に小さな重みづけを行うことが可能になる。
【0091】
図6では以上のように構成することにより、機械速度vmが相対的に小さい場合は、駆動機械3の始動直後は過渡トルク信号τfと過渡加速度信号afに相対的に小さな重み付けをして駆動機械3のイナーシャを推定するため、クーロン摩擦による外乱トルクτdに起因した推定誤差を小さくして高精度なイナーシャ推定を行うことが可能になる。
【0092】
実施の形態9.
図7は本発明の実施の形態9である機械定数推定装置の構成を示す図である。実施の形態1〜8では、駆動機械の機械定数として駆動機械のイナーシャのみを推定するものであったが、本実施の形態9は機械定数としてイナーシャとともに粘性定数も推定するものである。203は粘性摩擦も考慮された駆動機械である。208は過渡トルク信号τr、過渡加速度信号afおよび重み信号wtを入力し駆動機械203のイナーシャJおよび粘性定数Dを推定してイナーシャ推定値Jeおよび粘性定数推定値Deを出力する機械定数推定部である。209は機械速度vmを入力し過渡速度信号vfを出力する過渡速度信号生成部である。
【0093】
次に図7の機械定数推定装置の動作を説明する。
まず、駆動機械203の動作について説明する。駆動トルクτmとトルク指令τrが一致するとし、クーロン摩擦による外乱トルクをτdとすると、トルク指令τr、外乱トルクτd、機械速度vm、機械加速度amの間には下記の式(34)の関係が有る。ただしDは駆動機械203の粘性定数であり、クーロン摩擦による外乱トルクτdは駆動機械203の始動後は一定の値をとるものである。
τr=τd+J・am+D・vm ・・・・・ (34)
【0094】
次に、過渡速度信号生成部209の動作について説明する。過渡速度信号生成部209は機械速度vmを入力し、下記の式(35)に示すように、過渡トルク信号生成部5におけるトルク指令τrから過渡トルク信号τfまでの伝達特性Fτ(s)と同じ伝達特性で、低周波数成分を除去する特性をもつ伝達関数演算を行い、過渡速度信号vfを出力する。
vf=Fτ(s)・vm ・・・・・ (35)
【0095】
ここで、実施の形態1で説明したとおり、過渡トルク信号τfおよび過渡加速度信号afはそれぞれ、トルク指令τrおよび機械加速度amと式(13)および式(18)の関係が有る。
τf=Fτ(s)・τr ・・・・・ (13)
af=Fτ(s)・am ・・・・・ (18)
【0096】
したがって、式(34)、式(35)、式(13)、式(18)より、過渡トルク信号τr、外乱トルクτd、過渡加速度信号afおよび過渡速度信号vfの間には下記の式(36)の関係が成り立つ。
τr=Fτ(s)・τd+J・af+D・vf ・・・・・ (36)
【0097】
クーロン摩擦による外乱トルクτdは駆動機械203の始動後は一定の値と考えられるため、上記の式(36)における右辺第1項は始動後十分に時間が経過すると0に近づき無視することが可能になる。したがって、例えば後述する逐次最小二乗法を用いることにより、駆動機械203が始動して時間が十分経過した後はクーロン摩擦の影響無く、駆動機械203のイナーシャJと粘性定数Dを推定することが可能になる。
【0098】
図8に機械定数推定部208の構成の詳細を示す。図において、208a、208b、208cはそれぞれ積算器である。208dは機械定数推定部である。
【0099】
次に図7、図8の機械定数推定部208の動作について説明する。機械定数推定部208は前述の過渡トルク信号τf、過渡加速度信号af、過渡速度信号vfおよび重み信号wtを入力し、積算器208aは過渡トルク信号τfと重み信号wtの積信号である重み付きトルク信号τwを出力し、積算器208bは過渡加速度信号afと重み信号wtの積信号である重み付き加速度信号awを出力し、積算器208bは過渡速度信号vfと重み信号wtの積信号である重み付き速度信号vwを出力する。
【0100】
次に、機械定数推定部208における最小二乗演算部208dの動作について説明する。最小二乗演算部208dは重み付きトルク信号τwと重み付き加速度信号awと重み付き速度信号vwを入力し、後述する逐次最小二乗法に基づいてイナーシャ推定値Jeと減衰定数推定値Deを出力する。
【0101】
次に最小二乗演算部208dにおける逐次最小二乗法に基づく演算方法について説明する。まず、時点kにおけるイナーシャ推定値Je〈k〉および粘性定数推定値De〈k〉からなる機械定数推定ベクトルΘe〈k〉と。重み付き加速度信号aw〈k〉および重み付き速度信号vw〈k〉からなる入力ベクトルΨ〈k〉を下記の式(37)および式(38)で定義する。
Θe〈k〉=[Je〈k〉,De〈k〉]’ ・・・・・ (37)
Ψ〈k〉=[aw〈k〉,τw〈k〉]’ ・・・・・ (38)
ただし、x’はベクトルxの転置ベクトルを表す。以下同様。
【0102】
次に、最小二乗演算部208dは内部に持つ共分散行列P〈k〉を式(39)に基づいて更新し、更に機械定数推定ベクトルΘe〈k〉を式(40)に基づいて更新する。
P〈k〉=(1/λ)・{P〈k−1〉ー(P〈k−1〉・Ψ〈k〉・Ψ’〈k〉・P〈k−1〉)/(λ+Ψ’〈k〉・P〈k−1〉・Ψ〈k〉)}・・・・・ (39)
Θe〈k〉=Θe〈k−1〉+P〈k−1〉・Ψ〈k〉・ε〈k〉/(λ+Ψ’〈k〉・P〈k−1〉・Ψ〈k〉) ・・・・・ (40)
ただし、
ε〈k〉=τf〈k〉ーΨ’〈k〉・Θe〈k−1〉・・・・・ (41)
である。
【0103】
本実施の形態9の機械定数推定装置では、以上のように構成し、駆動機械203が始動した直後には過渡トルク信号τf、過渡加速度信号afおよび過渡速度信号vfに小さな重みを付けて機械定数を推定することにより、クーロン摩擦による外乱トルクτdによる推定誤差を小さくして高精度にイナーシャと粘性定数の推定を実現することが可能になる。
【0104】
【発明の効果】
この発明に係る駆動機械の機械定数推定装置は、以上に説明したように、入力されたトルク指令に応じた駆動トルクを発生することにより駆動機械を駆動する駆動部と、前記トルク指令から直流成分を除去して過渡トルク信号を生成する過渡トルク信号生成部と、前記駆動機械の加速度、速度又は位置である動作信号から直流成分を除去した過渡動作信号を生成する過渡動作信号生成部と、前記駆動機械が静止状態から動き始めた後に、所定の演算により変化する重み信号生成部と、過渡トルク信号と過渡動作信号と重み信号に基づき駆動機械の機械定数推定値を演算する機械定数推定部を備え、機械定数推定部は重み信号に基づき、駆動機械の始動直後には相対的に小さな重みづけをして駆動機械の機械定数推定値を演算するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくして機械定数を推定することができる。
【0105】
また、重み信号生成部は駆動機械が静止状態から動き始める始動時点を検出し、始動時点から所定の時間が経過するまでの間は、前記所定の時間経過後に比べて小さいレベルの重み信号を生成するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくして機械定数を推定することができる。
【0106】
また、重み信号生成部は駆動機械の機械速度の増加に対して増大するように重み信号を生成するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくして機械定数を推定することができる。
【0107】
また、機械定数推定部は過渡トルク信号と重み信号との積信号と、過渡動作信号と重み信号との積信号とに基づいて駆動機械の機械定数推定値を演算することにより、駆動機械の始動直後には相対的に小さな重みづけをして駆動機械の機械定数推定値を演算するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくして機械定数を推定することができる。
【0108】
さらに、機械定数推定部は過渡トルク信号と重み信号との積信号と、過渡動作信号と重み信号との積信号とを入力とした最小二乗法に基づく方法を用いて機械定数推定値を演算するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくし、白色雑音に対してイナーシャ推定誤差に基づく二乗和形式の評価関数を最小化するように、高精度に機械定数を推定すことができる。
【0109】
また、機械定数推定部は現時点の機械定数推定値を過去の機械定数推定値と重み信号とに基づき、クーロン摩擦などの外乱トルクの影響が残る駆動機械の始動直後は、機械定数推定値を過去の機械定数推定値から相対的に緩やかに更新し、時間経過後は相対的に急峻に更新するため、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくして機械定数を推定することが出来る。
【0110】
また、機械定数推定部は少なくとも駆動機械のイナーシャ推定値を演算するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくしてイナーシャを推定することができる。
【0111】
また、機械定数推定部は少なくとも前記駆動機械の粘性定数推定値を演算するので、クーロン摩擦などの外乱トルクに起因する推定誤差を小さくして粘性定数を推定することができる。
【0112】
また、機械定数推定部は前記重み信号と前記過渡トルク信号の積信号τwおよび前記重み信号と駆動機械の加速度から直流成分を除去した過渡加速度信号の積信号awから時点kにおいて推定ゲインP〈k〉を P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(aw〈k〉)2 )
に基づいて更新演算し、イナーシャ推定値Je〈k〉を
Je〈k〉=Je〈k−1〉+P〈k〉・aw〈k〉・(τw〈k〉−aw〈k〉・Je〈k−1〉)
に基づき更新演算して出力するので、白色雑音に対してイナーシャ推定誤差に基づく二乗和形式の評価関数を最小化するように、高精度にイナーシャを推定することができる。
【0113】
また、機械定数推定部は前記重み信号と前記過渡トルク信号の積信号τwおよび前記重み信号と駆動機械の加速度から直流成分を除去した過渡加速度信号の積信号awから時点kにおいて推定ゲインP〈k〉を
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(τw〈k〉)2 )
に基づいて更新演算し、イナーシャ推定値Je〈k〉の逆数を
1/Je〈k〉=1/Je〈k−1〉+P〈k〉・τw〈k〉・(aw〈k〉−τw〈k〉/Je〈k−1〉)
に基づき更新演算し、イナーシャ推定値Je〈k〉を出力するので、白色雑音に対してイナーシャ推定誤差に基づく二乗和形式の評価関数を最小化するように、高精度にイナーシャを推定することができる。
【0114】
さらに、過渡加速度信号が0に近づいた場合は推定ゲインP〈k〉の更新演算を行わずにイナーシャ推定値の更新演算のみを行うので、駆動機械が速度一定で長時間駆動される場合や低加減速で駆動される場合にも、イナーシャ推定値がノイズ的になることなく、またイナーシャ推定を全く行わないこともなく、高精度にイナーシャを推定することができる。
【0115】
また、過渡トルク信号が0に近づいた場合は推定ゲインP〈k〉の更新演算を行わずにイナーシャ推定値の更新演算のみを行うので、駆動機械が速度一定で長時間駆動される場合や低加減速で駆動される場合にも、イナーシャ推定値がノイズ的になることなく、またイナーシャ推定を全く行わないこともなく、高精度にイナーシャを推定することができる。
【0116】
また、推定ゲインP〈k〉の値のとりうる範囲に予め制限を設けるので、駆動機械が速度一定で長時間駆動される場合や低加減速で駆動される場合にも、イナーシャ推定値が大きくなりすぎてノイズ的になることなく、またイナーシャ推定を全く行わないこともなく、高精度にイナーシャを推定することができる。又、高加減速で短時間駆動した場合に急峻にイナーシャを推定することができる。
【0117】
また、入力されたトルク指令に応じたトルクを発生することにより駆動機械を駆動する駆動部と、駆動機械の速度あるいは位置を動作信号として検出する動作検出器と、トルク指令を入力し過渡トルク信号を生成する過渡トルク信号生成部と、動作信号を入力し過渡加速度信号を生成する過渡加速度信号生成部と、過渡トルク信号と過渡加速度信号を入力し、駆動機械の機械定数を推定する機械定数推定部を備え、過渡加速度信号生成部は駆動機械の加速度から前記過渡加速度信号までの伝達特性が過渡トルク信号生成部における伝達特性と同一になるように構成するので、駆動機械が始動した後、ある程度時間が経過すればクーロン摩擦などの外乱トルクの影響が除去されると同時に動作検出器のノイズによる影響を低減し、高精度にイナーシャを推定することができる。
【0118】
さらに、過渡トルク信号生成部は、トルク指令から過渡トルク信号までの伝達特性の次数を3次以上、5次以下とするので、イナーシャ推定の性能を落とさずに動作検出器のノイズの影響を低減する効果が特に大きく、高精度にイナーシャを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1の駆動機械の機械定数推定装置の構成図である。
【図2】 図1に示した実施の形態1の信号の応答例を示す図である。
【図3】 図1に示した実施の形態1の機械定数推定部の構成図である。
【図4】 本発明の実施の形態6の機械定数推定部の構成図である。
【図5】 本発明の実施の形態7の駆動機械の機械定数推定装置の構成図である。
【図6】 本発明の実施の形態8の駆動機械の機械定数推定装置の構成図である。
【図7】 本発明の実施の形態9の駆動機械の機械定数推定装置の構成図である。
【図8】 図7に示した実施の形態9の機械定数推定部の構成図である。
【図9】 従来の技術の駆動機械の機械定数推定装置の構成図である。
【符号の説明】
1 トルク指令発生部、 2 駆動部、 3 駆動機械、
4 速度検出器、 5 過渡トルク信号生成部、
6 過渡加速度信号生成部、 7 重み信号生成部、
8 機械定数推定部、 8a 積算器、 8b 積算器、
8c 最小二乗演算部、 8d 除算器、
8e イナーシャ推定値更新部、 101 トルク指令発生部、
101a PI演算器、 106 過渡加速度信号生成部、
203 駆動機械、 208 機械定数推定部、
209 過渡速度信号生成部、 208a 積算器、
208b 積算器、 208c 積算器、
208d 最小二乗演算部、 305 トルク変化信号生成部、
306 疑似加速度信号生成部、 307 加速度変化信号生成部、
308 機械定数推定部。
Claims (15)
- 入力されたトルク指令に応じた駆動トルクを発生することにより駆動機械を駆動する駆動部と、前記トルク指令から直流成分を除去して過渡トルク信号を生成する過渡トルク信号生成部と、前記駆動機械の加速度、速度又は位置である動作信号から直流成分を除去した過渡動作信号を生成する過渡動作信号生成部と、前記駆動機械が静止状態から動き始めた後に所定の演算により変化する重み信号を生成する重み信号生成部と、前記過渡トルク信号と前記過渡動作信号と前記重み信号とに基づき前記駆動機械の機械定数推定値を演算する機械定数推定部とを備えることを特徴とする駆動機械の機械定数推定装置。
- 重み信号生成部は、駆動機械が静止状態から動き始める始動時点から所定の時間が経過するまでの間は、前記所定の時間経過後に比べて小さいレベルの重み信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 重み信号生成部は、駆動機械の速度の増加に対して増大するように重み信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 機械定数推定部は、過渡トルク信号と重み信号との積信号と、過渡動作信号と前記重み信号との積信号とに基づいて機械定数推定値を演算することを特徴とする請求項2又は3に記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 機械定数推定部は、過渡トルク信号と重み信号との積信号と、過渡動作信号と前記重み信号との積信号とを入力とした最小二乗法に基づいて機械定数推定値を演算することを特徴とする請求項2又は3に記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 機械定数推定部は、現時点の機械定数推定値を過去の機械定数推定値と重み信号とに基づき演算することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 機械定数推定部は、少なくとも駆動機械のイナーシヤを演算することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 機械定数推定部は、少なくとも駆動機械の粘性定数を演算することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 機械定数推定部は、重み信号と過渡トルク信号との積τwと、前記重み信号と駆動機械の加速度から直流成分を除去した過渡加速度信号との積awとから、時点kにおいて推定ゲインP〈k〉を
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(aw〈k〉)2 )
に基づいて更新演算し、イナーシャ推定値Je〈k〉を
Je〈k〉=Je〈k−1〉+P〈k〉・aw〈k〉・(τw〈k〉−aw〈k〉・Je〈k−1〉)
に基づき更新演算して出力することを特徴とする請求項7に記載の駆動機械の機械定数推定装置。 - 機械定数推定部は、重み信号と過渡トルク信号との積τwと、前記重み信号と駆動機械の加速度から直流成分を除去した過渡加速度信号との積awとから、時点kにおいて推定ゲインP〈k〉を
P〈k〉=P〈k−1〉/(λ+P〈k−1〉・(τw〈k〉)2 )
に基づいて更新演算し、
また、イナーシャ推定値Je〈k〉を
1/Je〈k〉=1/Je〈k−1〉+P〈k〉・τw〈k〉・(aw〈k〉−τw〈k〉/Je〈k−1〉)
に基づき更新演算することを特徴とする請求項7に記載の駆動機械の機械定数推定装置。 - 過渡加速度信号があらかじめ定めた所定のレベルを下回った場合は、推定ゲインP〈k〉の更新演算を行わずに、イナーシャ推定値の更新演算のみを行うことを特徴とする請求項9または請求項10記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 過渡トルク信号があらかじめ定めた所定のレベルを下回った場合は、推定ゲインP〈k〉の更新演算を行わずに、イナーシャ推定値の更新演算のみを行うことを特徴とする請求項9または請求項10記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 推定ゲインP〈k〉の値のとりうる範囲に予め制限を設けることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の駆動機械の機械定数推定装置。
- 入力されたトルク指令に応じたトルクを発生することにより駆動機械を駆動する駆動部と、前記駆動機械の速度あるいは位置を動作信号として検出する動作検出器と、前記トルク指令から直流成分を除去し、更にローパスフィルタを通した信号を過渡トルク信号として生成する過渡トルク信号生成部と、前記動作信号を入力し過渡加速度信号を生成する過渡加速度信号生成部と、前記過渡トルク信号と前記過渡加速度信号を入力し、前記駆動機械の機械定数を推定する機械定数推定部を備え、前記過渡加速度信号生成部は前記駆動機械の加速度から前記過渡加速度信号までの伝達特性と前記過渡トルク信号生成部の伝達特性とがほぼ同一になるように構成したことを特徴とする駆動機械の機械定数推定装置。
- 過渡トルク信号生成部は、トルク指令から過渡トルク信号までの伝達特性の次数を3次以上5次以下とすることを特徴とする請求項14に記載の駆動機械の機械定数推定装置。
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