JP3677804B2 - インバータ制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、インバータ制御装置に関し、特にインバータのある相の電圧デューティ(duty ratio)を所定の位相において0%または100%に固定する二相変調方式のインバータ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、三相インバータのPWM制御装置において、電磁波ノイズ及びスイッチングロスの低減や電力変換効率の向上を図ることが可能な二相変調方式が提案されている。この二相変調方式とは、三相のうちのある一相の電圧レベルをハイレベルあるいはローレベルに固定し、残りの二相で変調する方式であり、USP4641075に開示されている。
【0003】
この公報の二相変調方式では、各相の電流指令値と各相の検出電流値との電流偏差により三相インバータの各相の出力段のスイッチング素子をそれぞれ開閉制御し、各相の出力段から三相負荷の各相の端子に印加される三相電圧のデューティ比を制御している。この場合において、各相の電流指令値をそれぞれ異なる所定の位相期間において最大値に固定することにより不所望な電圧ベクトルの発生を低減している。
【0004】
また上記公報の二相変調方式では、負荷の力率を一定とみなすとともに電流指令値に対応する理想相電圧は、出力電流指令値から容易に推定できるとしている。そして、既知の一定値と見做す負荷の力率Θvから推定される理想の相電圧がピークとなる期間を想定してこの期間にその相の電流指令値の振幅を最大値に固定し、残りの期間に各相の電流指令値を正弦波形としている。この結果、理想の相電圧がピークとなる期間に電流指令値が固定される相の電圧は最大値に固定されるので、各相の印加電圧は多少は歪むが略三相交流電圧の形に近くなり、そして残りの二相の検出電流値が電流指令値にきちんと追従する限りはこの電流指令値を固定した相の検出電流値も正弦波形となる筈である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このように、ある仮定の上で状況を推定し、この推定にもとづいて、ある期間にある相の電流を最大値に固定する上記公報の二相変調方式においては、次の問題があった。
第一に、負荷に通電する負荷電流と負荷への印加電圧との位相角(位相差ともいう)は通常のモータなどでは負荷電流の大きさ(負荷電流の大きさによりモータの内部インピーダンスが変化する)及び負荷へ印加する印加電圧の周波数(周波数によりモータの内部インピーダンスが変化する)に応じて変動するので、上記のように位相差を一定と仮定する場合には、負荷への印加電圧をピークとすべき期間にその負荷の相電圧を最大値に固定することはできず、その結果、負荷(モータ)に印加される電圧波形の歪みが増大し、効率低下や発熱及び騒音増加を招いてしまう。つまり、一定と仮定した位相差では良好な結果となるが、モ−タの力率によっては電圧のデュ−ティ−比を高いレベルとすべきでないタイミングでその相の電圧が最大値に固定されてしまう。
【0006】
第二に、上記第一の問題はこの制御系を正弦波信号を処理する交流回路として扱った場合の説明であるが、実際には上記した電圧固定動作により処理波形は非正弦波形となるので、モータなどのリアクタンスを含むインピーダンス系では正確には伝達関数の応答遅れを考慮する必要が生じる。すなわち、電流指令値に対する制御系の伝達位相遅れに基づく検出電流の遅れにより、ある相の電流指令値の位相から所定(見こみの)位相差だけずれた相電圧の位相と、検出電流の位相に対して実際の位相差だけシフトしている実際の相電圧の位相との間の位相ずれの度合いは更に大きくなってしまう。
【0007】
上記問題を更に説明すれば、従来の二相変調方式では、通常は正弦波形である電流指令値と検出電流(実電流値ともいう)との偏差によりインバータのデューティ比制御を行なって、モータへの印加電圧を制御している。モータのリアクタンスを含むインピーダンス系は上述のように、正弦波形の印加電圧に対しては検出電流(実電流値)が所定の位相角だけ遅れ、インパルス応答においては所定の応答遅れが生じるので、上記偏差の応答性すなわち印加電圧の変化に対する検出電流の応答性がかなり悪くなるという特性を有している。
【0008】
このために従来では、ある相の電圧をその相の電流指令値に対し所定の固定位相差だけ進むように電流指令値と検出電流との差である上記偏差(またはそれに比例する負荷への印加電圧)の位相をシフトしているが、これは上記した位相差とのずれが生じる問題、及び、上記した実電流値のインパルス応答遅れが生じるという問題を考慮して偏差(またはそれに比例する印加電圧)の位相をシフトしていないので、この応答遅れを位相的に補償できないという問題が生じ、これらの結果として印加電圧波形の歪みが増加し、それに伴い実電流値も歪み、騒音、効率低下を招くという問題が生じた。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、負荷の各相端子への通電状態を互いに異なる位相期間毎に順次所定値に固定する制御方式を採用するとともに負荷への印加電圧波形の歪みが小さいインバータ制御装置を実現することを、その目的としている。
この目的の達成のために、本発明では偏差信号に基づいて出力電圧のデュ−ティ−比を決定しているインバ−タにおいては、偏差信号と出力電圧との間に位相ずれが少ないことを利用して、偏差信号をみてデュ−ティ−比を固定するタイミングを決めるものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の構成は、多相交流モータの各相の端子に各相の電圧を印加するインバータと、前記モータの少なくとも2相の端子に通電する電流を検出する電流検出手段と、前記モータに通電すべき電流指令値を出力する電流指令値発生手段と、前記検出電流と前記電流指令値との偏差に応じた偏差信号に基づいて前記インバータを開閉制御して前記インバータが前記モータの各相の端子に印加する前記各相の電圧の波形を決定する信号発生手段と、互いに異なる位相期間を示すモ−ド毎に前記インバータの各相の出力段の作動状態を順次、一定レベルに固定する信号変更手段とを備えるインバータ制御装置において、前記信号変更手段が、前記検出電流と前記電流指令値との偏差に応じた偏差信号に基づいて前記モ−ドを決定することを特徴としている。
【0011】
本発明の第2の構成は、上記第1の構成において更に、前記信号変更手段が、前記検出電流と前記電流指令値との偏差を増幅した各相信号に基づいて前記位相期間を示すモ−ドを決定するものであることを特徴としている。
本発明の第3の構成は、上記第2の構成において更に、前記電流指令値が正弦波形を有することを特徴としている。
【0012】
本発明の第4の構成は、上記第1の構成において更に、前記信号変更手段が、前記位相期間を示すモ−ド毎に前記インバータの各相の出力段の一つの出力状態を最大電圧レベル又は最小電圧レベルすなわちどちらかのピークレベルに固定するものであることを特徴としている。
本発明の第5の構成は、上記第2の構成において更に、前記信号変更手段が、前記検出電流と前記電流指令値との偏差を各相毎に検出し、前記各相毎の偏差の内、他の二相の偏差と正負の符号が反対となる偏差の相を固定するものであることを特徴としている。
【0013】
本発明の第6の構成は、上記第1の構成において更に、前記信号変更手段が、前記インバータの各相の出力段の作動状態を順次、一定レベルに固定すると共に、この固定するための量に応じて他の相の電圧波形を変更するものであることを特徴としている。
本発明の第7の構成は、上記第1の構成において更に、前記信号変更手段による電圧波形の固定を禁止する信号変更禁止手段を備えることを特徴としている。
本発明の第8の構成は、多相交流モータの各相の端子に各相の電圧を印加するインバータと、前記モータの少なくとも2相の端子に通電する電流を検出する電流検出手段と、前記モータに通電すべき電流指令値を出力する電流指令値発生手段と、前記検出電流と前記電流指令値との偏差に応じた偏差信号に基づいて前記インバータを開閉制御して前記インバータが前記モータの各相の端子に印加する前記各相の電圧の波形を決定する信号発生手段と、前記偏差信号に関連して決定された互いに異なる位相期間を示すモ−ド毎に、前記インバータの各相の出力段の作動状態を順次、一定レベルに固定する信号変更手段とを備え、前記信号発生手段が、前記偏差信号と基準波形との比較に基づき前記各相電圧の波形を決定するパルス幅変調信号発生手段からなり、前記信号変更手段は、前記基準波形のレベルを切り換えることで前記電圧波形を固定すると共に、他の相の電圧波形を変更するものであることを特徴としている。
【0014】
本発明の第9の構成は、上記第8の構成において更に、前記信号変更手段が、固定された相の偏差信号と前記基準波形のピーク値との差分を算出する差分算出手段と、この差分算出手段により算出された差分に応じて前記基準波形をオフセットする切換手段とを備え、前記オフセットされた基準波形と他の相の偏差信号との比較に基づいて、他の相のデューティ信号を発生するものであることを特徴としている。
【0015】
本発明の第10の構成は、スイッチング素子で構成されたインバ−タを有してモ−タにパルス幅変調された3相交流電圧を印加するとともに前記3相交流電圧の周波数を変えて前記モ−タの回転速度を制御し、更に前記スイッチング素子の内、所定のスイッチング素子を順次全導通状態及び全遮断状態のどちらかに固定する2相変調方式のインバ−タ制御装置において、
前記モ−タの加速度合いを決定するアクセル信号を出力する手段と、
前記モ−タの回転数を検出する手段と、
前記モ−タに前記インバ−タから流れる少なくとも2つの相の電流を検出する電流検出手段と、
前記モ−タを加速する断面の前記アクセル信号と前記モ−タの回転数とに応じて決定され、互いに所定角度位相が異なる正弦波信号からなる少なくとも二つの相の電流指令値を発生する手段と、
前記電流指令値と前記電流検出手段にて検出した検出電流値との各相の偏差信号を検出する偏差信号検出手段と、
前記偏差信号の位相が現在どのモ−ドに相当するかを判定しモ−ド信号を発生する位相判定手段と、
三角波信号を発生する手段と、
前記三角波信号のピーク値と前記偏差信号とから前記モ−ド毎のシフト量を算出する手段と、
前記モ−ド信号に応じて前記シフト量の中から特定のシフト量を選択する手段と、
前記特定のシフト量と、前記三角波信号と、前記偏差信号とからパルス幅変調信号を演算する手段と、
前記パルス幅変調信号を前記インバ−タに与えるゲ−ト信号とするゲ−ト駆動手段と、
を備えることを特徴としている。
【0016】
本発明の第11の構成は、上記第10の構成において更に、前記シフト量を選択する手段が、前記シフト量を零とすることにより前記2相変調を禁止して3相変調を選択する手段を有することを特徴としている。
【0017】
【作用および発明の効果】
本発明の第1の構成のインバータ制御装置によれば、電流指令値と検出電流との偏差に応じた偏差信号に基づいてインバータを開閉制御して各相電圧の波形を決定する。
更に、本発明の二相変調方式によれば、上記偏差信号に応じて各相のインバータの各相の出力段の作動状態を互いに異なる位相期間毎に順次、一定レベルに固定する。
【0018】
したがって、従来の技術では重大な問題とならざるを得なかった印加電圧(相電圧)と通電電流(検出電流)との位相差の変動や、モータの電気的な応答遅れによる電流指令値と検出電流との位相ずれに起因する問題の発生を、大幅に低減することができる。
また、電流指令値に対する検出電流の応答遅れを含んだ偏差の波形に基づいて位相期間を定め、この期間毎に電圧固定制御をかけるので、上記応答遅れの影響を軽減することができる。
【0019】
本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成において更に、信号変更手段が、検出電流と電流指令値との偏差に基づいてインバータの各相の出力状態すなわち出力電圧値を固定する位相期間を決定する。このようにすれば、上記偏差により元々、各相の電圧の波形を決定しているので、偏差に基づいて上記各相の電圧固定のための位相期間を決定することにより、回路構成の複雑化を招くことなく、各相の電圧の元の波形と電圧固定波形との間で位相ずれを生じさせることなく、電圧の固定が可能となり、結局、位相ずれのない二相変調方式が実現する。
【0020】
本発明の第3の構成によれば、上記第1の構成において更に、電流指令値が従来公報に開示されるような電圧固定操作が不要な正弦波形のままなので、フィードバック制御等に係る電流指令値の合成処理が容易となる。
本発明の第4の構成によれば、上記第1の構成において更に、各位相期間毎に各相の電圧をその最大電圧レベル又は最小電圧レベルに固定する。各相の電圧はそのピーク時においてその振幅変化率が小さいので、インバータから出力される各相の電圧の歪みが小さくなる。更に好適な態様では、三相交流電圧に対して1周期内に6つの電圧固定用の位相期間が設定される。そして正弦波形である本来の各相の電圧の波形の最大値又は最小値(交流的には負の最大値を意味する)それぞれのピーク期間(π/3以下)に上記電圧固定用の位相期間が設定される。このようにすれば、3相交流電圧の歪みを減らしつつ二相変調方式を実現することができる。
【0021】
本発明の第5の構成によれば、上記第2の構成において更に、簡単に電圧固定相とその位相期間を決定することができる。
本発明の第6の構成によれば、上記第1の構成において更に、固定相を固定するための量に応じて、他の相の電圧波形を変更するため、固定する相の電圧変更量を他の相の電圧波形にて補うことができ、モータの制御性を向上することができる。
【0022】
本発明の第7の構成によれば、上記第1の構成において更に、電圧波形の固定を禁止する信号変更禁止手段を備えるため、二相変調方式から、三相変調方式へ任意のタイミングで切り換えて制御することができる。
本発明の第8の構成によれば、三角波等からなる基準波形に基づき電圧波形を決定し、この基準波形のレベルを切り換えることで各相の電圧波形を変更しているため、容易に、かつ、相毎の切り換えを同時に行えるため確実に固定する相の電圧変更量を他の相の電圧波形にて補うことができる。
【0023】
本発明の第9の構成によれば、上記第8の構成において更に、基準波形をオフセットすることで電圧波形を変更しており、容易に各相の電圧波形を変更することができる。
【0024】
本発明の第10の構成によれば、上記第1の独立発明のインバ−タ制御装置を簡単確実に実現することができる。
本発明の第11の構成によれば、上記第10の構成のインバ−タ制御装置を簡単に実現することができる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明のインバータ制御装置を用いた電気自動車について、以下、図面を参照して説明する。
この電気自動車60、図1に示すように、メインバッテリ61、インバータ62、アクセルセンサ63、制御部であるECU64、ギア65、スター接続かご型インダクションモータ(以下、単にモータともいう)66、回転センサ67、サスペンション68、走行用タイヤ69を備える。
【0026】
インバータ62は、図2に示すように、スイッチング素子である6個のトランジスタ(IGBT)620〜625と、3個の否定論理素子626〜628と、平滑コンデンサ629とからなっており、ECU(本発明でいうインバータ制御装置)64から出力される各相の制御信号U,V,Wにより制御される。これら各相の制御信号U,V,Wの波形は、所定キャリヤ周波数のパルス信号のデューティ比(パルス幅/パルス周期)を制御することにより形成される。
【0027】
ECU64の一例を図3を参照して説明する。
11はU相の電流指令値iuと電流センサ8にて検出された実電流値(検出電流値)iu’との偏差を算出するU相偏差算出器であり、同様に、13はW相の電流指令値iwと電流センサ8にて検出された実電流値iw’との偏差を算出するW相偏差算出器である。
【0028】
21はU相偏差算出器11にて算出された偏差をPI演算するU相PI演算部であり、U相信号電圧Su を出力する。同様に、23はW相偏差算出器13にて算出された偏差をPI演算するW相PI演算部であり、W相信号電圧Sw を出力する。なお、V相に与えるV相信号電圧Sv は、U相信号電圧Su とW相信号電圧Sw との和を算出し、反転加算器29にて符合を反転して求められる。
【0029】
更にこの実施例では、ECU64は、信号電圧Su、Sv、Swに基づいてインダクションモータ66に印加される各相の印加電圧Vu,Vv,Vwの位相状態を判定する位相判定器2と、加算回路7と、位相判定器2からの判定信号と加算回路7からの信号とに基づいてオフセット電圧OFVを発生するマルチプレクサ3と、三角波電圧発生回路5と、加算器6と、コントローラ640と、ゲート駆動回路34と、電流検出器9とを有している。
【0030】
コントローラ640は、図示しないアクセルセンサからのアクセル信号と回転センサ67からのモータ66の回転数に応じて決定された周波数及び振幅を有し、互いに120度位相が異なり正弦波信号(電圧信号でも電流信号でもよい)である電流指令値iu,iwを発生する回路であり、本発明とは趣旨が異なるので説明を省略する。
【0031】
三角波電圧発生回路5は所定のキャリヤ(サンプリング)周波数をもつ三角波電圧(鋸歯波電圧でもよい)Tを発生する回路である。
加算器6は、三角波電圧Tとオフセット電圧OFVとを加算してコンパレータ31〜33の+入力端に印加する加算回路である。
電流検出器9は、電流センサ8により検出されたモータ66へ通電されるU相及びW相の電流に対応する信号を電流指令値iu,iwと比較可能な大きさに増幅するものである。
【0032】
次に、図3の回路の作動を説明する。
U相の電流指令値iu及びW相の電流指令値iwと実電流値iu’及びiw’との偏差が各相毎に算出され、PI増幅されてU相、W相信号電圧Su、Swが形成され、それらの加算反転によりV相信号電圧Svが形成される。そして、これら各相信号電圧Su、Sv、Swはそれぞれコンパレータ31〜33の−入力端に印加される。なお、フィルタ回路にとおして偏差の低周波域成分のみを取り出してPI増幅してもよい。又、検出電流の低周波域成分のみを同様に取り出してもよい。なお、偏差又は検出電流から電流指令値の周波数の6倍以上、好ましくは4倍以上の高周波成分を遮断することが好ましい
ここで重要なことは、上記電圧レベルの固定を行わない場合、又は行ったとしても、モータの各相の印加電圧Vu,Vv,Vwのピーク期間又はボトム期間に合わせて各相の印加電圧Vu,Vv,Vwを順次所定の位相期間毎にその最大値又は最小値に固定する場合、この電圧固定処理済みの各相の印加電圧Vu,Vv,Vwの歪みはそれほどではなく、略三相交流電圧と見做して処理できることである。すなわち、上記偏差に対応する信号電圧Su、Sv、Swは、モータ印加電圧である各相電圧Vu,Vv,Vwに同位相の信号となっていることである。したがって、この信号電圧Su、Sv、Swの位相関係を判別して電圧レベルを固定する期間を決定すれば、従来の如き位相ずれが少なく、各相の印加電圧Vu,Vv,Vwの波形歪みを従来より大幅に縮小できる筈である。この知見に基づいて、この実施例では、位相判定器2により信号電圧Su、Sv、Swの位相関係を判別し、これによりマルチプレクサ3により電圧レベルを固定するためのオフセット電圧OFVを発生する。
【0033】
以下、位相判定器22による位相判定の方法と、マルチプレクサ3からのオフセット電圧OFVによる上記電圧固定を行う方法について分けて説明する。
(位相判定動作)
位相判定器2による位相判定動作について、説明を簡単とするために理想化したモデルについて説明する。
【0034】
いま、上記電圧固定の影響は検出電流(実電流値)iu’,iw’から無視できるものとすれば、電流指令値iu、ivが120度位相がずれ、振幅が等しい正弦波であるので、検出電流iu’,iw’も正弦波と見做せ、その結果、三相信号電圧Su、Sv、Swも正弦波形と大体見做せる。
図4(a)に三相信号電圧Su、Sv、Swの理想波形を示す。
【0035】
これら三相信号電圧Su、Sv、Swの振幅状態から1周期をモード1〜6の6個の期間に区分できる。すなわち、図4(b)に示すように、三相信号電圧Su、Sv、Swの交流成分の瞬時値が正か負かによって、図4(b)のように6つのモードに分けられることがわかる。3相をそれぞれ0または1で表現するため、3ビットの信号ですべてのモードが表現されることになる。
【0036】
なお、3ビットで表現される状態は8つあり、図4(b)のほかにすべての相がプラスの場合とすべての相がマイナスの場合が考えられるが、本実施例ではそれらのモードを表すコードは別の目的に使用することにし、後で説明する。また、この3ビットの信号を発生させる位相判定器2は、各三相信号電圧Su、Sv、Swを瞬時値0に相当する基準電圧と比較する3個のコンパレータ(図示せず)により構成することができる。
【0037】
なお、検出電流iu’,iw’に歪みがあるので、実際には、各モード1は上記理想モデルからずれるが、これは三相信号電圧Su、Sv、Swが上記歪みを含むので、実際の三相信号電圧Su、Sv、Swの波形に応じて電圧固定ができるという点で却って好都合である。
(電圧固定動作)
上記位相判定器2により判定された各モードの期間に、各相の印加電圧Vu,Vv,Vwの内の異なる相電圧を順次選択し、それを最大値又は最小値に電圧固定する動作について以下に説明する。
【0038】
この実施例では、本出願人により平成5年10月20日に出願された「インバータ制御装置(特願平5ー262665号)」に開示される二相変調方式を採用しており、具体的には、三相信号電圧Su、Sv、Swと比較される三角波電圧Tのオフセット電圧OFVを変更することにより、電圧固定すなわち二相変調を行っている。
【0039】
つまり、本来ならば三角波のみがコンパレ−タの入力に印加されるところ、三角波にオフセット電圧(シフト量)OFVを加算してコンパレ−タの入力とし、コンパレ−タ出力のデュ−ティ−比を特定の相に関してデュ−ティ−比100%又は0%に固定している。なお、図4の( )内は固定すべき相とモ−ドとの関係を示している。
【0040】
この二相変調方式について、以下に説明する。
図5(a)に示す如く、従来の三相変調においても各相の正弦波状の各相信号電圧と三角波の電圧とを比較し、何れのレベルが高いかに応じてPWM波形を生成している。図5(b)は、図5(a)の部分拡大図である。簡単のために実際は曲線のU相PI演算器の出力Suが、図5(b)の直線aで表されるとし、この電位をVaとする。このとき本発明の如くPWM信号のデューティ比を100%として二相変調とするには三角波(図3では加算器6の出力)の正のピーク値がVaであるようにオフセット電圧を加算して修正すればよい。よってそのシフト量を△Vaとすると、シフト量ΔVaは次式で求められる。なお、Vpは三角波電圧Tの正のピーク値、−Vpはその負のピーク値である。
【0041】
いいかえれば、図5(a)のように三角波の正のピーク値がU相のレベルを超えるのがわずかである時にデュ−ティ−比は大とされ、三角波の負のピーク値がU相電圧のレベルを超えるのがわずかである時にデュ−ティ−比が小とされる。よって、デュ−ティ−比を100%とするためには三角波の正のピーク値がU相のレベルをこえないようにし、0%とするためには下式の如く三角波の負のピーク値がU相のレベルをこえないようにするとよい。
【0042】
【数1】
△Va=Va−Vp=Va+(−Vp)
つまり、デュ−ティ−比を100%とするシフト量ΔVaは三角波電圧Tの負のピ−ク値−VpとPI出力Suとの加算で求められる。
次にV相PI演算器の出力Svが直線bで表されるとし、この電位をVbとする。この場合についてデュ−ティ−比を0%とすべきシフト量ΔVbを求めてみると上記の場合と同様に、次式の如く求められる。
【0043】
【数2】
△Vb=Vb−(−Vp)=Vb+Vp、
すなわち、シフト量ΔVbは三角波Tの正のピーク値VbとPI出力Svの電圧Vpとの加算で求められる。
他の相についても同様に求められ、デュ−ティ−比を100%又は0%に固定するシフト量はPI出力Sv、Swの電位と三角波Tの±ピ−ク値(Vp又は−Vp)との加算で求められることがわかる。これを各モ−ド毎に表にしたのが図7である。
【0044】
この加算を行う加算器7は図6のような簡単な抵抗の集合からなる回路により実現でき、上記したすべてのモード1〜6のシフト量を求め、適切なシフト量を選択すればよいことがわかる。
それぞれのモードに対するシフト量は図7のようになる。なお、図7におけるコードは、位相判定器2から出力される図4に示す3ビットの情報であり、モード1〜6の内の一つを示す。この中からマルチプレクサ3によりそのモードにあったシフト量を選択する。例えばモードが[011]の場合、マルチプレクサ3により入力端子2が選択され、シフト量はSu−Vpとなる。
【0045】
このマルチプレクサ3にて出力されたシフト量(オフセット電圧)OFVは加算器6に入力され、この加算器6にて三角波電圧Tに加算することで、オフセットを持った修正後の三角波電圧を合成している。
このオフセット電圧OFVが重畳された三角波電圧Tは、コンパレータ31〜33に入力され、三相信号電圧Su、Sv、Swと個別に比較されて、デューティ比、即ちPWM信号に変換される。
【0046】
このようにすれば、図7の表に示すようにモード1においてコンパレータ32のデューティ比が0%すなわちローレベルに固定され、モード2においてコンパレータ31のデューティ比が100%すなわちハイレベルに固定され、モード3においてコンパレータ33のデューティ比が0%すなわちローレベルに固定され、モード4においてコンパレータ32のデューティ比が100%すなわちハイレベルに固定され、モード5においてコンパレータ31のデューティ比が0%すなわちローレベルに固定され、モード6においてコンパレータ33のデューティ比が100%すなわちハイレベルに固定され、6種類の互いに異なる電圧固定パタンをもつ二相変調方式が実現する。
【0047】
これにより、ゲ−ト駆動回路34を介して3相インバ−タ62にPWM信号による電圧指令が印加され、モータ66の入力電流が電流指令値通りに流れる。
なお、マルチプレクサ3の出力(オフセット電圧OFV)がステップ状であり、コンパレ−タのデュ−ティ−比が急に100%や0%に変化してモータ66に悪影響を与えることがある。これを防止するために、マルチプレクサ3の出力をローパスフィルタや積分回路で鈍らせてもよい。
【0048】
また、三相インバータ62の制御において、2相変調はすべての場合に有効ではなく、3相変調で制御した方がよい場合もある。このような場合に以下に述べる実施例では2相変調と3相変調の切り替えが容易にできる。
本実施例では、2相変調のPWM波形を作る段階で三角波をシフトするという方法を用いている。すなわちこのシフト量を0とすると、一般の3相変調方式のPWM波形によるモータ制御と何等変わりがなくなる。そこで、位相判定器2の出力側に、図8に示す、3つのアンド回路44、45、46を設け、このアンド回路44、45、46のそれぞれに位相判定器2の出力が入力される回路47を設ける。この回路47ではアンド回路44、45、46に対して抵抗48を介して電源(図示省)に接続した状態での「High」信号か、スイッチSWを介してグランドに接続した状態での「Low」信号が入力される。そこで、ECU10からの指令により図26中のスイッチSWをオンする事で、3つのアンド回路44、45、46に「Low」信号を入力して[000]のコード信号を出力することができる。マルチプレクサ3では、シフト量0のモード、すなわち、オフセットする相を設けないようにするモードを[000]のコードに対応させておき、このシフト量0のモードを選択するようにすれば、3相変調と2相変調の切り替えを任意のタイミングで行うことができる。
【0049】
上記構成によれば、周波数や電流の変化による負荷の力率の変動にかかわらず、歪の少ない波形を得ることができ、更に2相変調によるスイッチングロスの低減効果を全領域で得ることができる。
なお、上記の実施例では、コンパレ−タの一方の入力となる三角波にオフセットを持たせて二相変調する例について説明したが、コンパレ−タの他方の入力となる三相信号電圧Su、Sv、Swにそれぞれオフセットを持たせて二相変調することもできる。以下、この実施例を図9を参照して説明する。
【0050】
図9の回路は、図3のマルチプレクサ3、加算回路7、加算器6の構成を変更したものである。
71〜76は加算器である。
71は、三角波電圧Tの正ピーク値+Vpと信号電圧Swとを加算し、図7のモード3のシフト量を発生する回路である。
【0051】
72は、三角波電圧Tの負ピーク値−Vpと信号電圧Swとを加算し、図7のモード6のシフト量を発生する回路である。
73は、三角波電圧Tの正ピーク値+Vpと信号電圧Svとを加算し、図7のモード1のシフト量を発生する回路である。
74は、三角波電圧Tの負ピーク値−Vpと信号電圧Svとを加算し、図7のモード4のシフト量を発生する回路である。
【0052】
75は、三角波電圧Tの正ピーク値+Vpと信号電圧Suとを加算し、図7のモード5のシフト量を発生する回路である。
74は、三角波電圧Tの負ピーク値−Vpと信号電圧Suとを加算し、図7のモード2のシフト量を発生する回路である。
3a、3b、3cはマルチプレクサである。
【0053】
マルチプレクサ3aは、位相判定器2からの3ビットの出力信号が001の場合に加算器71の出力を加算器61に送り、位相判定器2からの3ビットの出力信号が110の場合に加算器72の出力を加算器61に送り、他の場合にオフする。これにより、加算器61は、モード3、モード6において必要なオフセット電圧OFVだけシフトされた三角波電圧Tをコンパレータ33に出力する。
【0054】
マルチプレクサ3bは、位相判定器2からの3ビットの出力信号が010の場合に加算器73の出力を加算器62に送り、位相判定器2からの3ビットの出力信号が101の場合に加算器74の出力を加算器62に送り、他の場合にオフする。これにより、加算器62は、モード1、モード4において必要なオフセット電圧OFVだけシフトされた三角波電圧Tをコンパレータ32に出力する。
【0055】
マルチプレクサ3cは、位相判定器2からの3ビットの出力信号が100の場合に加算器75の出力を加算器63に送り、位相判定器2からの3ビットの出力信号が011の場合に加算器76の出力を加算器63に送り、他の場合にオフする。これにより、加算器63は、モード5、モード2において必要なオフセット電圧OFVだけシフトされた三角波電圧Tをコンパレータ32に出力する。
【0056】
そして、上記各オフセット電圧OFVが重畳された三角波電圧Tが−入力端に印加される期間だけ、コンパレータ31〜33の出力電圧はハイレベル又はローレベルに固定され、その他の期間に三角波電圧Tにより三相信号電圧Su、Sv、SwはPWM信号に変換される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例となるインバータ制御装置を採用した電気自動車のブロック図である。
【図2】 図1のインバータの回路図である。
【図3】 図1の主としてECU(本発明でいうインバータ制御装置)のブロック回路図である。
【図4】 (a)は、上記一実施例における各相の信号電圧の波形とモ−ドとの関係を示す図である。(b)はモ−ドを表わすビットのコード信号を示す図である。
【図5】 PWMによる変調を説明するものであり、図5(a)は、従来方式による各相の信号電圧の波形と三角波との関係および変調されたパルス列を示す図である。図5(b)は、上記一実施例における三角波のシフトを説明するものであり、図5(a)の一部拡大模式図に相当する(a)の部分拡大図である。
【図6】 図3の加算器の詳細を示す図である。
【図7】 上記一実施例における各モ−ドとシフト量との関係およびコンパレ−タ出力のデュ−ティ−比を示す図である。
【図8】 本発明の第2実施例であり、2相変調方式と3相変調方式との切換回路を追加する例を示す一部電気回路図である。
【図9】 第3実施例の要部を示す一部電気回路図である。
【符号の説明】
66 モータ(多相交流モータ)
62 三相インバータ(インバータ)
8 電流センサ(電流検出手段)
640 コントローラ(電流指令値発生手段)
31〜33 コンパレータ(信号発生手段)
2 位相判定器(信号変更手段の一部)
3 マルチプレクサ(信号変更手段の一部)
6 加算器(信号変更手段の一部)
7 加算回路(信号変更手段の一部)
Claims (11)
- 多相交流モータの各相の端子に各相の電圧を印加するインバータと、
前記モータの少なくとも2相の端子に通電する電流を検出する電流検出手段と、 前記モータに通電すべき電流指令値を出力する電流指令値発生手段と、
前記検出電流と前記電流指令値との偏差に応じた偏差信号に基づいて前記インバータを開閉制御して前記インバータが前記モータの各相の端子に印加する前記各相の電圧の波形を決定する信号発生手段と、
互いに異なる位相期間を示すモ−ド毎に前記インバータの各相の出力段の作動状態を順次、一定レベルに固定する信号変更手段とを備えるインバータ制御装置において、
前記信号変更手段は、
前記検出電流と前記電流指令値との偏差に応じた偏差信号に基づいて前記モ−ドを決定することを特徴とするインバータ制御装置。 - 前記信号変更手段は、前記検出電流と前記電流指令値との偏差を増幅した各相信号に基づいて前記位相期間を示すモ−ドを決定するものである請求項1記載のインバータ制御装置。
- 前記電流指令値は正弦波形を有する請求項2記載のインバータ制御装置。
- 前記信号変更手段は、前記位相期間を示すモ−ド毎に前記インバータの各相の出力段の一つの出力状態を最大電圧レベル又は最小電圧レベルすなわちどちらかのピークレベルに固定するものである請求項1記載のインバータ制御装置。
- 前記信号変更手段は、前記検出電流と前記電流指令値との偏差を各相毎に検出し、前記各相毎の偏差の内、他の二相の偏差と正負の符号が反対となる偏差の相を固定するものである請求項2記載のインバータ制御装置。
- 前記信号変更手段は、前記インバータの各相の出力段の作動状態を順次、一定レベルに固定すると共に、この固定するための量に応じて他の相の電圧波形を変更するものである請求項1記載のインバータ制御装置。
- 前記信号変更手段による電圧波形の固定を禁止する信号変更禁止手段を備える請求項1記載のインバータ制御装置。
- 多相交流モータの各相の端子に各相の電圧を印加するインバータと、
前記モータの少なくとも2相の端子に通電する電流を検出する電流検出手段と、
前記モータに通電すべき電流指令値を出力する電流指令値発生手段と、
前記検出電流と前記電流指令値との偏差に応じた偏差信号に基づいて前記インバータを開閉制御して前記インバータが前記モータの各相の端子に印加する前記各相の電圧の波形を決定する信号発生手段と、
前記偏差信号に関連して決定された互いに異なる位相期間を示すモ−ド毎に、前記インバータの各相の出力段の作動状態を順次、一定レベルに固定する信号変更手段と、
を備え、
前記信号発生手段は、前記偏差信号と基準波形との比較に基づき前記各相電圧の波形を決定するパルス幅変調信号発生手段からなり、
前記信号変更手段は、前記基準波形のレベルを切り換えることで前記電圧波形を固定すると共に、他の相の電圧波形を変更するものであることを特徴とするインバータ制御装置。 - 前記信号変更手段は、固定された相の偏差信号と前記基準波形のピーク値との差分を算出する差分算出手段と、この差分算出手段により算出された差分に応じて前記基準波形をオフセットする切換手段とを備え、前記オフセットされた基準波形と他の相の偏差信号との比較に基づいて他の相のデューティ信号を発生するものである請求項8記載のインバータ制御装置。
- スイッチング素子で構成されたインバ−タを有してモ−タにパルス幅変調された3相交流電圧を印加するとともに前記3相交流電圧の周波数を変えて前記モ−タの回転速度を制御し、更に前記スイッチング素子の内、所定のスイッチング素子を順次全導通状態及び全遮断状態のどちらかに固定する2相変調方式のインバ−タ制御装置において、
前記モ−タの加速度合いを決定するアクセル信号を出力する手段と、
前記モ−タの回転数を検出する手段と、
前記モ−タに前記インバ−タから流れる少なくとも2つの相の電流を検出する電流検出手段と、
前記モ−タを加速する断面の前記アクセル信号と前記モ−タの回転数とに応じて決定され、互いに所定角度位相が異なる正弦波信号からなる少なくとも二つの相の電流指令値を発生する手段と、
前記電流指令値と前記電流検出手段にて検出した検出電流値との各相の偏差信号を検出する偏差信号検出手段と、
前記偏差信号の位相が現在どのモ−ドに相当するかを判定しモ−ド信号を発生する位相判定手段と、
三角波信号を発生する手段と、
前記三角波信号のピーク値と前記偏差信号とから前記モ−ド毎のシフト量を算出する手段と、
前記モ−ド信号に応じて前記シフト量の中から特定のシフト量を選択する手段と、
前記特定のシフト量と、前記三角波信号と、前記偏差信号とからパルス幅変調信号を演算する手段と、
前記パルス幅変調信号を前記インバ−タに与えるゲ−ト信号とするゲ−ト駆動手段と、
を備えることを特徴とするインバ−タ制御装置。 - 前記シフト量を選択する手段は、前記シフト量を零とすることにより前記2相変調を禁止して3相変調を選択する手段を有する請求項10記載のインバ−タ制御装置。
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