JP3674529B2 - 吸光ラベルを用いる尿中疾患マーカータンパク質の迅速・簡易検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多発性骨髄腫に伴って過剰に産出され、尿中に排泄されることから、多発性骨髄腫の診断マーカーとして有用であるベンスジョーンズタンパク質を、高感度でしかも簡便迅速に検出及び/又は測定することのできる、微量ベンスジョーンズタンパク質の検出方法及び試薬に関する。特には、水性二相分配と吸光ラベルを用いる尿中骨髄腫マーカーの迅速・簡易検出方法に関する。
また、本発明は、腎前性タンパク質に属し、疾患の診断マーカーとして有用なベンスジョーンズタンパク質などの等電点の高い塩基性タンパク質を、高感度でしかも簡易迅速に検出及び測定することのできる、微量尿中塩基性タンパク質の検出法及び試薬に関する。特には、塩基性タンパク質の固相抽出/色素結合による検出法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベンスジョーンズタンパク質(Bence Jones Protein; BJP)は、多発性骨髄腫において多量に尿中に排泄されることの知られているタンパク質である。本尿中タンパク質は、1847年にHenry Bence Jones 博士が初めて発見したことにより「ベンスジョーンズタンパク質」と名付けられた。このタンパク質は、他の尿中のタンパク質と比較して特異な性質を有し、したがって「尿中に排泄され、60℃に加熱することにより一度は凝固するが、さらに100 ℃に加熱することにより再溶解するタンパク質」という定義が、発見者であるBence Jones 博士によりなされた。その後の研究で、該ベンスジョーンズタンパク質は、免疫グロブリンのL鎖に相当することが見出され、現在では上記の定義に加えて「モノクローナル免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(Light chain: L鎖) に相当するもの」との項目が付け加えられている。
ところで、通常、健常人の血中、尿中にもポリクローナルなL鎖は微量に存在することが知られているが、これはM蛋白由来でなく、したがって化学的には同一物質であってもベンスジョーンズタンパク質とは言わない。
【0003】
ベンスジョーンズタンパク質のサブクラスとしては、κ型とλ型が存在しており、κ、λ鎖のいずれも基本的にはアミノ末端側を構成する可変領域とカルボキシ末端側を構成する定常領域とからなる。そして定常領域は、生物種によってほぼ決まったアミノ酸配列を持っているが、可変領域は生体防御の際に認識する抗原によって決まるそれぞれ固有のアミノ酸配列となっている。そのため人などの同一種においてさえ、血中、尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質が、全体的に共通の構造をもつということはなく、結果としてイムノアッセイなどによる定量法では、サンプル間における再現性という点で大きな問題を与えることとなっている。
また、ベンスジョーンズタンパク質は様々な存在形態を示すことが知られており、尿中においてはモノマー、ダイマーが存在し、血液中ではトリマー、テトラマーなども存在することが報告されている。さらに、ベンスジョーンズタンパク質はサブクラス(κ型、λ型)によって異なった存在形態となる傾向を示す。すなわち、κ型ではジスルフィド結合形成が比較的困難であり、ほぼ等量の共有結合型と非共有結合型のダイマーが存在するとされているが、一方、λ型ではほとんど全てがジスルフィド結合形成に由来する共有結合型ダイマーをとるというように、複雑な存在様式である。こうしたこともその測定をより困難なものとしていることが窺えよう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
骨髄腫に侵された場合、尿中にモノクローナルなL鎖が排泄されるが、これは骨髄腫にみられる典型的な現象で、それは骨髄に多数存在している形質細胞を生産するB細胞が腫瘍化することに伴う疾患と考えられている。このように形質細胞の腫瘍化は尿中のベンスジョーンズタンパク質の増加と密接な関係にあるから、もし、尿中の微量なベンスジョーンズタンパク質の変動を捉えることができれば、骨髄腫の診断・治療に極めて有用と考えられる。
骨髄腫発症は約18年間にも及ぶとされる長い潜伏期間の後、初めて臨床症状が現れるが、一旦その臨床症状が現れてからの進行は極めて急速であり、多くのケースにおいて疾患発見から死亡まではおおよそ1〜2年程度という短さである。骨髄腫そのものも難治性疾患ではあるが、骨髄腫によって引き起こされる様々な合併症の予後に大きな影響を及ぼすことから問題でもある。形質細胞で異常発生したベンスジョーンズタンパク質は腎糸球体を経由して尿中に多量に排泄されることになるが、腎臓にとって多量のベンスジョーンズタンパク質の処理は大きな負担となり、この状態が継続すると腎糸球体の処理能力が次第に低下するようになり、腎障害が発生する。これを「骨髄腫腎」という。骨髄腫腎では尿中にベンスジョーンズタンパク質を排泄することが不可能となるため、血中、さらには各内蔵組織にベンスジョーンズタンパク質が沈着することになり様々な障害を発するようになる。これを「アミロイドーシス」という。これら骨髄腫に起因する疾患は、その骨髄腫の臨床症状の現れた後にはその進行が極めて早いため、現在でも治療が非常に困難である。
【0005】
上記したように健常人においても、ポリクローナルなL鎖は若干ながら尿中に排泄されている。したがって、正常な低濃度レベルの場合と発病により増加した場合とを識別して、ベンスジョーンズタンパク質を高い感度で検出測定することが求められている。骨髄腫は末期段階に至るまで疾患に特有な症状をほとんど示さないことから、侵襲のない尿を検体として使用してそこにベンスジョーンズタンパク質が排泄されているか否かを判定することは、骨髄腫の早期発見という意味で非常に有用と期待される。ところで、ほとんど自覚症状のない骨髄腫にあって、初期の段階で尿検査によりその早期診断に役立つ検査測定をなすには、簡便且つ安価に、そして短時間にその結果の得られるスクリーニング法が不可欠である。
【0006】
従来、ベンスジョーンズタンパク質の検出においては、煮沸法、イムノアッセイ法、電気泳動法などが用いられてきた。
煮沸法とは、Henry Bence Jones 博士が、1847年にこの尿中タンパク質の存在を発見したときに遡ることのできる方法で、該ベンスジョーンズタンパク質が、pH 5付近において、60℃に加熱すると凝固するが、100 ℃にまで加熱すると再び溶解するという特性を用いている方法である。しかし、その感度は、骨髄腫が既に重篤な段階に至っている場合に相当する 450 mg/L にしか過ぎないという低いレベルのもので、多発性骨髄腫を早期に発見するという観点からはその適用自体不適当なものでしかない。次に、イムノアッセイ法は、放射イムノアッセイ及び酵素イムノアッセイがあり、いずれも ppb レベルという高い感度を有するが、放射性ラベルを使用する方法では、取扱い施設とか廃液という問題などがあり、酵素を標識とする方法が開発されてきている。ところが、イムノアッセイ法では使用する抗体が極めて高価であるとか、測定に比較的長い時間がかかるとか、異なったサンプル間での再現性に問題があるとか、可変領域を含むタンパク質であることから、普遍性のある試薬を準備するという点で問題がある。
【0007】
電気泳動法は現在においてベンスジョーンズタンパク質を検出するのに最もよく利用されている。しかしながら、電気泳動法では分離(泳動)、染色、バックの脱色、そして検出という一連の操作が必要であるが、それに長時間を要するという問題があり、結果を手短に得ることは困難で、また多数の検体を処理するにも難がある。そして簡便な手法を採用するとその分解能が極めて悪くなり、微量のベンスジョーンズタンパク質を検出することが困難になるという問題もある。感度を高めるため尿を濃縮することも試みられているが、この濃縮法では濃縮に時間を要し、非常に高価な分離膜を使用しなければならないだけでなく、尿中の他のタンパク質濃度も高くなるので、必ずしも簡単に検出感度を高めることに成功しているとはいえない。つまり、ベンスジョーンズタンパク質らしきピークが得られても、分解能の悪さからベンスジョーンズタンパク質と同定することはなかなかに困難であり、解読に熟練を要するとか、機器の操作などにも技術を要するという問題もある。
【0008】
こうした状況下、現在日本において行われている骨髄腫診断法は、複雑な工程を経てなされているのが実情である。それは、先ず最初に来院した疾患予備群に対して総タンパク質試験などを行い、この検査において数回陽性を呈した場合に、尿・血清の電気泳動を行う。そして、この時点で異常が発見されると、尿に対して煮沸法などを適用し、この検査において陽性とされたものに対して免疫電気泳動を行い、もしこれでベンスジョーンズタンパク質が陽性であると、骨髄穿刺により骨髄腫を同定し、尿中ベンスジョーンズタンパク質のサブクラスの帰属を行い治療を開始する。このような複雑な行程を経るため、たとえ比較的早い時期(それでも骨髄腫の原因腫瘍細胞が生じてから10数年であるが) に診断を受けても、多発性骨髄腫の早期発見は不可能であった。また、症状がほとんど現れないこと、症状が見出されてからの進行は極めて早いこと、有効な治療法が確立されていないことなどの理由が相乗的に働き、骨髄腫は癌の中でも難治性疾患として位置付けられている。
どのような医療機関においても外来患者などに対して、簡便、短時間で、低コストに検査することができ、そして高感度である尿中ベンスジョーンズタンパク質の検知測定をなすことが求められている。また、早期発見などのため、集団検診などの無自覚な状況での該尿中ベンスジョーンズタンパク質の検知測定を簡便に行い得ることも求められている。個体差や検体間に関係なく、システムとしての恒常性を保つことが可能であり、安定性(再現性や正確性を含む)を維持しつつ、特に尿を検体として使用してもそこに含まれる塩類、共存タンパク質、薬剤を始めとした妨害物の悪影響を避けることができ、さらにはpH緩衝能の維持も可能であるようなベンスジョーンズタンパク質の検知測定法を開発する必要がある。
【0009】
尿中タンパク質の主要成分は、アルブミンであるが、上記のようにベンスジョーンズタンパク質のような特異的なタンパク質も含まれている。該ベンスジョーンズタンパク質は、多発性骨髄腫において最も高い頻度で、またまれには白血病、ホジキン病、及びリンパ肉腫に伴って尿中に現れるグロブリンのL鎖断片であり、このタンパク質は特異的な熱凝固性(40℃で混濁、60℃で凝固、100 ℃で溶解)を有することは上記した通りである。ところで、尿中タンパク質の検出には、一般的に熱凝固反応やアルカロイド試薬・強酸による沈殿反応を利用する試験管法、またはpH指示薬のタンパク誤差を利用した試験紙法が用いられている。それらの従来法のうち、スルホサリチル酸法が最も鋭敏であるが、非特異反応である。煮沸法は鋭敏性に欠け、試験紙法は感度がスルホサリチル酸法より劣り、タンパクの種類ごとに感度が異なる。試験紙法の疑陽性の時にはスルホサリチル酸法や煮沸法などが併用されている。しかし、ベンスジョーンズタンパク質のような塩基性タンパク質については、上記方法は反応性に乏しいし、また、ベンスジョーンズタンパク質の特異的な熱凝固性を利用した方法においても、検出感度は450mg/L 程度であり、骨髄腫が既に重篤な段階に陥っているレベルにとどまるものであり、例えば骨髄腫の早期発見という観点からは意味を持たない。
【0010】
またベンスジョーンズタンパク質のサブクラスとしては、κ型、λ型が存在し、いずれも可変領域を含み、共通の構造を持たないタンパク質であり、イムノアッセイ法による定量は難しい。さらに、ゲル電気泳動法は、広く尿中タンパク質を分画測定する方法として用いられているが、測定に長時間を要し、多数の検体を処理することも難しい。またその解読など熟練した技能を必要とする。上記したように、骨髄腫は初期の段階において自覚症状がなく、発症後の進行は極めて速い。その上有効な治療法が確立されていないことも相まって、癌の中でも難治性疾患として位置付けられている。現在行われている骨髄腫診断法は、総タンパク質試験→尿・血清の電気泳動→尿煮沸法→骨髄穿刺による骨髄腫同定→ベンスジョーンズタンパク質のサブクラスの帰属と複雑な行程を経て行われるため、疾患の早期発見が極めて難しいのが現状である。それゆえ早期発見を可能にするための、高感度、迅速、簡便、低コストを兼ね備えたスクリーニング法の開発が求められている。特に、腎前性、腎性、腎後性に分類される尿中タンパク質のうち、腎前性タンパク質に属し、疾患の診断マーカーとして有用なベンスジョーンズタンパク質などの等電点の高い塩基性タンパク質を、高感度でしかも簡易迅速に検出及び測定することのできる、微量尿中塩基性タンパク質の検出法及び試薬の開発が求められている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の問題点を解決すべくなされたものであり、前記イムノアッセイやゲル電気泳動のように高価な試薬や検査用材料を使用することなく、さらに長時間を要する特殊な技術を用いることなく、任意の場所で迅速簡便に且つ高感度に検知測定を達成でき、そして多数の尿試料を検査対象としてベンスジョーンズタンパク質を検出できる方法及び試薬を提供するものである。
本発明は、尿中のベンスジョーンズタンパク質の検知・測定方法で、該尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を、水溶性ポリマー及びカチオン修飾型ポリマーを用いる水性二相分配によって、他の尿中のタンパク質からベンスジョーンズタンパク質を抽出分離する工程と、目的タンパク質であるベンスジョーンズタンパク質を含む抽出相を洗浄する工程と、抽出されたベンスジョーンズタンパク質を色素と反応させる工程を含む方法であって、ベンスジョーンズタンパク質−色素結合体の呈色を水溶性ポリマーの共存による増感効果を利用することを特徴とするもので、それによりベンスジョーンズタンパク質を定性及び/又は定量的に分析、評価することが可能である。
【0012】
また、本発明は、多発性骨髄腫に伴うベンスジョーンズタンパク質などの微量尿中塩基性タンパク質の検出方法を提供するものである。すなわち、本発明は、尿中主要タンパク質の等電点は大部分中性から弱酸性領域にあり、等電点の差異を利用することにより、共存するこれらタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に選択的に分離抽出することができること、さらに固相表面上で水溶性ポリマーを含む色素溶液により吸光ラベル化すると、固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体は、水溶性ポリマーの発色増感効果で、高感度に検出することが可能であり、よって迅速簡便かつ定性、定量的に尿中微量塩基性タンパク質を分析及び/又は評価することができることを見出してなされたものである。
【0013】
本発明は、
〔1〕 多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質の検出方法であって、
(1) 尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出分離する工程、
(2) 分取されたベンスジョーンズタンパク質を含有する相を吸光ラベル化のための色素と混合する工程、
(3) 加熱により過剰の色素を沈殿させる工程、及び
(4) 吸光ラベル化によって呈色したタンパク質を測定する工程
を含有することを特徴とするベンスジョーンズタンパク質の検出方法;
〔2〕 多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質を検出するためのキットであって、
(i) 尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出するのに利用される剤として、
少なくとも (a)糖骨格を含有する中性のポリマー、(b) ポリアルキレングリコール及び(c) 塩基性残基で誘導体化され且つ糖骨格を含有するポリマーを含有し、且つ
(ii)抽出物をラベルする剤としてエリスロシンBを含有していることを特徴とするキット;
【0014】
〔3〕 少なくとも (a)糖骨格を含有する中性のポリマー、(b) ポリアルキレングリコール及び(c) 塩基性残基で誘導体化され且つ糖骨格を含有するポリマーを含有し、尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出するために使用されることを特徴とする多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質を検出するための試薬;及び
〔4〕 エリスロシンBを含有し、試料中のベンスジョーンズタンパク質を吸光ラベル化するために使用されることを特徴とする多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質を検出するための試薬を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、
〔5〕 尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出分離するのに利用される剤が、
少なくとも (a)糖骨格を含有する中性のポリマー、(b) ポリアルキレングリコール及び(c) 塩基性残基で誘導体化され且つ糖骨格を含有するポリマーを含有するものであることを特徴とする上記〔1〕記載の方法;
〔6〕 分取されたベンスジョーンズタンパク質を含有する相を吸光ラベル化するための色素が、エリスロシンBであることを特徴とする上記〔1〕又は〔5〕記載の方法;
〔7〕 水性二相分配が、少なくともリン酸イオン存在下になされることを特徴とする上記〔1〕、〔5〕及び〔6〕のいずれか一記載の方法;
〔8〕 水性二相分配が、少なくとも (a)デキストラン、(b) ポリエチレングリコール及び(c) DEAE- デキストランを含有する抽出剤を使用してなされることを特徴とする上記〔1〕及び〔5〕〜〔7〕のいずれか一記載の方法;
〔9〕 水性二相分配による抽出分離工程が、少なくともベンスジョーンズタンパク質を含有する抽出液を洗浄処理する工程を含むものであることを特徴とする上記〔1〕及び〔5〕〜〔8〕のいずれか一記載の方法;
【0016】
〔10〕 洗浄処理する工程が、少なくとも糖骨格を含有する中性のポリマーを含有する洗浄剤を使用して行われるものであることを特徴とする上記〔9〕記載の方法;
〔11〕 洗浄処理する工程が、少なくともデキストランを含有する洗浄剤を使用して行われるものであることを特徴とする上記〔9〕又は〔10〕記載の方法;
〔12〕 洗浄処理する工程が、少なくともリン酸イオン存在下になされることを特徴とする上記〔9〕〜〔11〕のいずれか一記載の方法;及び
〔13〕 吸光ラベル化処理を、ポリアルキレングリコール存在下エリスロシンBにより行うことを特徴とする上記〔1〕及び〔5〕〜〔12〕のいずれか一記載の方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、
〔14〕 上記〔2〕の(i) の剤が、少なくとも (a)デキストラン、(b) ポリエチレングリコール及び(c) DEAE- デキストランを含有するものであることを特徴とする上記〔2〕記載のキット;
〔15〕 上記〔2〕又は〔14〕の(i) の剤が、少なくともリン酸イオンを含有するものであることを特徴とする上記〔2〕又は〔14〕記載のキット;
〔16〕 水性二相分配により得られたベンスジョーンズタンパク質を含有する抽出液を洗浄処理するのに利用される剤として、少なくとも糖骨格を含有する中性のポリマーを含有することを特徴とする上記〔2〕、〔14〕及び〔15〕のいずれか一記載のキット;
〔17〕 水性二相分配により得られたベンスジョーンズタンパク質を含有する抽出液を洗浄処理するのに利用される剤として、少なくともデキストランを含有することを特徴とする上記〔2〕及び〔14〕〜〔16〕のいずれか一記載のキット;
【0018】
〔18〕 水性二相分配により得られたベンスジョーンズタンパク質を含有する抽出液を洗浄処理するのに利用される剤として、少なくともリン酸イオンを含有することを特徴とする上記〔2〕及び〔14〕〜〔17〕のいずれか一記載のキット;
〔19〕 少なくとも (a)デキストラン、(b) ポリエチレングリコール及び(c) DEAE- デキストランを含有することを特徴とする上記〔3〕記載の試薬;及び
〔20〕 少なくとも (a)デキストラン、(b) ポリエチレングリコール、(c) DEAE- デキストラン、及び (d)リン酸イオンを含有することを特徴とする上記〔3〕又は〔19〕記載の試薬を提供する。
別の態様では、本発明は、
〔21〕 尿試料に関して、検出濃度範囲が少なくとも20〜100 mg/Lより感度の高いものである上記〔1〕及び〔5〕〜〔13〕のいずれか一記載の方法を提供する。
【0019】
さらに、別の態様では、本発明は、
〔22〕 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定する方法であって、
(1) 等電点の差異を利用して、共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する工程、
(2) 固相表面上で水溶性ポリマーを含む色素溶液により吸光ラベル化する工程、及び
(3) 水溶性ポリマーの発色増感により、 固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価する工程
を含有することを特徴とする方法;
【0020】
〔23〕 (a) 塩基性タンパク質が、多発性骨髄腫に伴い尿中に排出されるベンスジョーンズタンパク質に代表されるものである;
(b) 工程(1) を、タンパク質の総電荷を調整して行う;
(c) 工程(1) を、検体試料に添加する緩衝液のpH調整によって試料溶液pHを調整することにより行う;
(d) 工程(1) を、アルブミンなどの共存タンパク質の固相媒体への吸着を抑制して行う;
(e) 色素存在下に工程(1) を行う;
(f) 負電荷を持つ色素存在下に工程(1) を行う;
(g) エリスロシンB存在下に工程(1) を行う;
(h) 工程(1) を、検体試料に添加する緩衝液のpH調整によって試料溶液pHを調整することにより行い、該緩衝液が、 HEPES-LiOH 緩衝溶液である;
(i) 吸光ラベル化が、水溶性ポリマーを含むエリスロシンBにより行われる; 及び
(j) 水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールである;
から成る群から選ばれたものであることを特徴とする上記〔22〕記載の方法;
【0021】
〔24〕 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定するためのキットであって、
(i) 等電点の差異を利用して、共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する機能を有する剤が、(a) 固相媒体及び緩衝液あるいは(b) 固相媒体及び色素含有緩衝液からなり、
(ii) 固相表面上で吸光ラベル化する剤が、水溶性ポリマーを含む色素溶液であることを特徴とするキット;
〔25〕 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質の固相媒体上に分離抽出する方法であって、等電点の差異を利用して、尿試料中に共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出することを特徴とする方法;
【0022】
〔26〕 (a) 塩基性タンパク質が、多発性骨髄腫に伴い尿中に排出されるベンスジョーンズタンパク質に代表されるものである;
(b) タンパク質の総電荷を調整して行う;
(c) 検体試料に添加する緩衝液のpH調整によって試料溶液pHを調整することにより行う;
(d) 緩衝液を試料に添加し、該緩衝液が、 HEPES-LiOH 緩衝溶液である;
(e) アルブミンなどの共存タンパク質の固相媒体への吸着を抑制して行う; (f) 色素存在下に行う;
(g) 色素存在下に行われ、該色素が負電荷を持つものである; 及び
(h) 色素存在下に行われ、該色素がエリスロシンBである
から成る群から選ばれたものであることを特徴とする上記〔25〕記載の方法;
【0023】
〔27〕 (a)固相媒体及び緩衝液あるいは(b) 固相媒体及び色素含有緩衝液からなり、等電点の差異を利用して、尿試料中に共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する機能を有することを特徴とする尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出するための試薬;
〔28〕 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定する方法であって、
(i) 固相媒体上に分離抽出された塩基性タンパク質を固相表面上で水溶性ポリマーを含む色素溶液により吸光ラベル化する工程、及び
(ii) 水溶性ポリマーの発色増感により、 固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価する工程
を含有することを特徴とする方法;
【0024】
〔29〕(a) 塩基性タンパク質が、多発性骨髄腫に伴い尿中に排出されるベンスジョーンズタンパク質に代表されるものである;
(b) 吸光ラベル化を、水溶性ポリマーを含むエリスロシンBにより行う; 及び(c) 水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールである
から成る群から選ばれたものであることを特徴とする上記〔28〕記載の方法; 及び
〔30〕 水溶性ポリマーを含む色素溶液からなり、水溶性ポリマーの発色増感により、 固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価することを可能にするものであることを特徴とする固相媒体上に分離抽出され且つ尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定するための試薬を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、
〔31〕 工程(1) を、固相媒体共存下、検体試料と緩衝液と色素とを混合することにより行うことを特徴とする上記〔22〕又は〔23〕記載の方法;
〔32〕 工程(1) を、固相媒体共存下、検体試料とHEPES-LiOH緩衝液とエリスロシンBとを混合することにより行うことを特徴とする上記〔22〕、〔23〕又は〔31〕記載の方法;
〔33〕 固相媒体が、(i)(a)ガラス及び二酸化ケイ素から成る群から選ばれた無機材料、(b) ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン及びポリメタクリレートから成る群から選ばれたプラスチック材料及び(c) 金属材料から成る群から選ばれたもの、(ii)ガラスセル、石英ガラスセル及び合成樹脂製セルから成る群から選ばれたセル、ビーズ、試験管、タイタープレート、タイターウェル及びdip stick から成る群から選ばれた固体物質の表面、あるいは(iii) プラスチック製ウェルの容器の内側表面であることを特徴とする上記〔32〕記載の方法;
〔34〕 工程(2) を、水溶性ポリマーを含むエリスロシンB溶液により吸光ラベル化することにより行うことを特徴とする上記〔22〕又は〔23〕記載の方法;
〔35〕 水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記〔34〕記載の方法;
〔36〕 緩衝液が、HEPES-LiOH緩衝液であることを特徴とする上記〔24〕記載のキット;
【0026】
〔37〕 色素が、エリスロシンBであることを特徴とする上記〔24〕又は〔36〕記載のキット;
〔38〕 緩衝液がHEPES-LiOH緩衝液で、色素がエリスロシンBであることを特徴とする上記〔24〕記載のキット;
〔39〕 水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記〔24〕、〔36〕又は〔37〕記載のキット;
〔40〕 固相表面上で吸光ラベル化する剤が、ポリエチレングリコールを含有するエリスロシンB溶液であることを特徴とする上記〔24〕又は〔39〕記載のキット;
〔41〕 固相媒体共存下、検体試料と緩衝液と色素とを混合することにより行うことを特徴とする上記〔25〕又は〔26〕記載の方法;
〔42〕 固相媒体共存下、検体試料とHEPES-LiOH緩衝液とエリスロシンBとを混合することにより行うことを特徴とする上記〔25〕、〔26〕又は〔41〕記載の方法;
【0027】
〔43〕 固相媒体が、(i)(a)ガラス及び二酸化ケイ素から成る群から選ばれた無機材料、(b) ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン及びポリメタクリレートから成る群から選ばれたプラスチック材料及び(c) 金属材料から成る群から選ばれたもの、(ii)ガラスセル、石英ガラスセル及び合成樹脂製セルから成る群から選ばれたセル、ビーズ、試験管、タイタープレート、タイターウェル及びdip stick から成る群から選ばれた固体物質の表面、あるいは(iii) プラスチック製ウェルの容器の内側表面であることを特徴とする上記〔41〕又は〔42〕記載の方法;
〔44〕 緩衝液が、HEPES-LiOH緩衝液であることを特徴とする上記〔27〕記載の試薬;
〔45〕 色素が、エリスロシンBであることを特徴とする上記〔27〕又は〔44〕記載の試薬;
〔46〕 固相媒体が、(i)(a)ガラス及び二酸化ケイ素から成る群から選ばれた無機材料、(b) ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン及びポリメタクリレートから成る群から選ばれたプラスチック材料及び(c) 金属材料から成る群から選ばれたもの、(ii)ガラスセル、石英ガラスセル及び合成樹脂製セルから成る群から選ばれたセル、ビーズ、試験管、タイタープレート、タイターウェル及びdip stick から成る群から選ばれた固体物質の表面、あるいは(iii) プラスチック製ウェルの容器の内側表面であることを特徴とする上記〔27〕、〔44〕又は〔45〕記載の試薬;
〔47〕 固相媒体が、(i)(a)ガラス及び二酸化ケイ素から成る群から選ばれた無機材料、(b) ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン及びポリメタクリレートから成る群から選ばれたプラスチック材料及び(c) 金属材料から成る群から選ばれたもの、(ii)ガラスセル、石英ガラスセル及び合成樹脂製セルから成る群から選ばれたセル、ビーズ、試験管、タイタープレート、タイターウェル及びdip stick から成る群から選ばれた固体物質の表面、あるいは(iii) プラスチック製ウェルの容器の内側表面であることを特徴とする上記〔28〕記載の方法;
【0028】
〔48〕 水溶性ポリマーを含むエリスロシンB溶液により吸光ラベル化することにより行うことを特徴とする上記〔28〕又は〔47〕記載の方法;
〔49〕 水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記〔48〕記載の方法;
〔50〕 色素が、エリスロシンBであることを特徴とする上記〔30〕記載の試薬;
〔51〕 水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコールであることを特徴とする上記〔30〕又は〔50〕記載の試薬; 及び
〔52〕 固相媒体が、(i)(a)ガラス及び二酸化ケイ素から成る群から選ばれた無機材料、(b) ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン及びポリメタクリレートから成る群から選ばれたプラスチック材料及び(c) 金属材料から成る群から選ばれたもの、(ii)ガラスセル、石英ガラスセル及び合成樹脂製セルから成る群から選ばれたセル、ビーズ、試験管、タイタープレート、タイターウェル及びdip stick から成る群から選ばれた固体物質の表面、あるいは(iii) プラスチック製ウェルの容器の内側表面であることを特徴とする上記〔30〕、〔50〕又は〔51〕記載の試薬を提供する。
【0029】
別の態様では、本発明は、
〔53〕 工程(2) の吸光ラベル化が、クエン酸緩衝液存在下になされるものであることを特徴とする上記〔1〕記載の方法;
〔54〕 ラベルする剤が、クエン酸緩衝液を有していることを特徴とする上記〔2〕記載のキット;
〔55〕 クエン酸緩衝液を有していることを特徴とする上記〔4〕記載の試薬;
〔56〕 pH 2〜3 のクエン酸緩衝液中のエリスロシンBにより吸光ラベル化されるものであることを特徴とする上記〔1〕、〔6〕、〔13〕及び〔53〕のいずれか一記載の方法;
〔57〕 ラベルする剤が、pH 2〜3 のクエン酸緩衝液及びエリスロシンBを含有するものであることを特徴とする上記〔2〕又は〔55〕記載のキット;
〔58〕 pH 2〜3 のクエン酸緩衝液及びエリスロシンBを有していることを特徴とする上記〔4〕又は〔55〕記載の試薬;
【0030】
〔59〕 吸光ラベル化が、クエン酸緩衝液存在下になされるものであることを特徴とする上記〔22〕、〔23〕又は〔34〕記載の方法;
〔60〕 吸光ラベル化する剤が、クエン酸緩衝液を含むものであることを特徴とする上記〔24〕又は〔40〕記載のキット;
〔61〕 吸光ラベル化が、クエン酸緩衝液存在下になされるものであることを特徴とする上記〔28〕又は〔29〕記載の方法;
〔62〕 クエン酸緩衝液を有していることを特徴とする上記〔30〕記載の試薬;
〔63〕 水溶性ポリマー及びエリスロシンBを含むクエン酸緩衝液により吸光ラベル化することを特徴とする上記〔28〕、〔29〕、〔47〕及び〔48〕のいずれか一記載の方法;
【0031】
〔64〕 吸光ラベル化が、pH 2〜3 のクエン酸緩衝液及びエリスロシンBを使用してなされることを特徴とする上記〔22〕、〔23〕、〔34〕及び〔59〕のいずれか一記載の方法;
〔65〕 吸光ラベル化する剤が、pH 2〜3 のクエン酸緩衝液を含むものであることを特徴とする上記〔24〕、〔40〕及び〔61〕のいずれか一記載のキット;
〔66〕 吸光ラベル化が、pH 2〜3 のクエン酸緩衝液存在下になされることを特徴とする上記〔28〕、〔29〕及び〔61〕のいずれか一記載の方法;
〔67〕 pH 2〜3 のクエン酸緩衝液を有していることを特徴とする上記〔30〕又は〔62〕記載の試薬; 及び
〔68〕 水溶性ポリマー及びエリスロシンBを含むpH 2〜3 のクエン酸緩衝液により吸光ラベル化することを特徴とする上記〔28〕、〔29〕、〔47〕、〔48〕及び〔63〕のいずれか一記載の方法を提供する。
【0032】
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明では、水性二相分配と吸光ラベルを用いる尿中骨髄腫マーカーの迅速・簡易検出方法及びそのための試薬などが提供される。
本発明のベンスジョーンズタンパク質の検出・測定法では、先ず尿試料は水性二相分配系に付され、該尿試料中に含まれるベンスジョーンズタンパク質を、該尿試料中に共存している他のタンパク質から抽出分離せしめられる。該水性二相分配系は、尿試料を、少なくとも (a)糖骨格を含有する中性のポリマー、(b) ポリアルキレングリコール及び(c) 塩基性残基で誘導体化され且つ糖骨格を含有するポリマーと混合することにより形成される。該尿試料は、放尿採取されたものを、直ぐさま使用してもよいし、あるいは放尿採取後一旦保存されていたものを使用してもよく、通常、放尿採取された尿はそれを濃縮などすることなくそのまま使用されるが、例えば一旦遠心分離処理された尿を使用する。遠心分離の処理条件は、実験により適切な条件を選択することができ、特に限定されることはないが、例えば、約5,000 〜8,000rpm、より好ましくは約6,000 〜7,000rpmで、約1〜30分間、より好ましくは約2〜10分間、さらに好ましくは約4〜7分間処理である。尿試料と混合されて該水性二相分配系を形成するのに使用される成分は、それが固体状態にあるものを使用してもよいが、通常、好ましくは、水溶液としてあるものを使用する。
【0034】
本明細書中、「糖骨格を含有する中性のポリマー」とは、水性二相分配用の相を形成する作用を有するものであればよく、グルコース骨格などの糖骨格を含有する水溶性ポリマーであって、電気的に中性のポリマーを指してよく、例えばデキストラン(DEX) などのスターチが挙げられる。好ましくは、デキストランが挙げられる。該デキストランとしては、実験により最適な重量平均分子量を持つものを選んで使用することができ、例えば重量平均分子量 60,000 〜600,000 のもの、さらには重量平均分子量 67,300 〜500,900 のものが挙げられ、例えばシグマ社などから入手できる。
【0035】
本明細書中、「ポリアルキレングリコール」としては、水性二相分配用の相を形成する作用を有するものであればよく、より親水性ポリマーあるいはより疎水性ポリマーと組み合わせることにより、分配用の相を形成することが知られたものが挙げられる。該ポリアルキレングリコールは、水溶性のもので、実験により最適なものを決定し、それを選んで使用することができ、例えばポリエチレングリコール(PEG) 、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。好ましくは、ポリエチレングリコールが挙げられる。該ポリエチレングリコールは、実験により最適な分子量を持つものを選んで使用することができ、例えばおおよそ 200〜25,000の範囲の数平均分子量を持つもの、好ましくは約 3,000〜20,000、より好ましくは約 6,000〜15,000、もっと好ましくは約 8,000〜10,000の範囲の数平均分子量を持つものが挙げられ、例えばシグマ社、和光純薬などから入手できる。
【0036】
本明細書中、「塩基性残基で誘導体化され且つ糖骨格を含有するポリマー」としては、水性二相分配における相間の分配に好ましい働きを有するものであればよく、グルコース骨格などの糖骨格を含有する水溶性カチオン修飾型ポリマーであって、例えばデキストラン(DEX) などのスターチにジエチルアミノエチル(DEAE)基などの塩基性残基を導入してその誘導体化したものが挙げられる。好ましくは、DEAE- デキストランが挙げられる。該DEAE- デキストランとしては、実験により最適な重量平均分子量を持つものを選んで使用することができ、例えば重量平均分子量 300,000〜700,000 のもの、さらには重量平均分子量 400,000〜600,000 のもの、より好ましくは約500,000 の重量平均分子量のものが挙げられ、例えばシグマ社などから入手できる。
【0037】
該水性二相分配系は、適したイオン成分を含んでいることができる。好適なイオン成分としては、リン酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。該リン酸イオンは、例えば当該分野で知られた供給源を使用して提供でき、例えばリン酸緩衝液などを使用できる。該リン酸緩衝液は、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウムなどのリン酸のアルカリ金属塩などを使用して作製できる。
【0038】
該尿試料について形成された水性二相分配系を構成する液相系は、それを攪拌してよく混合する。攪拌混合処理は、当業者に知られた手法を適用でき、例えば、容器を手で上下に激しく数回振ることにより行ってもよいし、あるいはハンドミキサー(例えば、immuno mixer; シノテスト社) を使用しておおよそ30秒程度それにかけることにより行ったり、その両者を組み合わせて行ってもよい。次に該攪拌混合処理された液体を含有する容器は、通常、遠心分離に付される。遠心分離の処理条件は、実験により適切な条件を選択することができ、二相に相分離させることができる条件であれば特に限定されることなく条件を選ぶことができ、例えば、約5,000 〜8,000rpm、より好ましくは約6,000 〜7,000rpmで、約1〜60分間、より好ましくは約5〜20分間、さらに好ましくは約8〜15分間処理し、二相に相分離させることができる。相分離させた二相のうち、上相は、ポリアルキレングリコールに富んだ相であり、本相に測定対象のベンスジョーンズタンパク質を抽出採取することができる。相分離させた二相系から上相を採取するのは、例えばマイクロピペットなどを使用して行うことができる。
【0039】
分離した上相は、必要に応じて洗浄処理を施すことができる。同様に、分離した下相についても、再度抽出分離処理をして、結果得られた上相を最初に得られた該上相を併せた後、洗浄処理を施すこともできるが、こうした再抽出分離処理を組み合わせると、操作が煩雑になるというマイナスが生じる。
該分離した上相の洗浄処理は、先ず該上相に少なくとも糖骨格を含有する中性のポリマーと混合することにより行われる。該上相は、上記相分離させた二相系から採取されたものを、直ぐさま使用してもよいし、あるいは採取後一旦保存されていたものを使用してもよく、通常、採取された上相はそれを濃縮などすることなくそのまま使用される。該上相と混合される成分は、それが固体状態にあるものを使用してもよいが、通常、好ましくは、水溶液としてあるものを使用する。該分離した上相の洗浄処理系は、適したイオン成分を含んでいることができる。好適なイオン成分としては、上記したリン酸イオンが挙げられる。
【0040】
該分離した上相の洗浄処理系を構成する液相系は、それを攪拌してよく混合する。攪拌混合処理は、当業者に知られた手法を適用でき、例えば、上記水性二相分配系におけると同様にして行ってよい。次に該攪拌混合処理された液体を含有する容器は、通常、遠心分離に付される。遠心分離の処理条件は、実験により適切な条件を選択することができ、二相に相分離させることができる条件であれば特に限定されることなく条件を選ぶことができ、例えば、上記水性二相分配系における遠心分離と同様にして行うことができる。測定対象のベンスジョーンズタンパク質を含んでいる相を採取するのは、上記と同様にして、例えばマイクロピペットなどを使用して行うことができる。
【0041】
上記工程を経て得られた測定対象のベンスジョーンズタンパク質を含有する相は、吸光ラベル化のための色素と混合される。該色素としては、エリスロシンB (Erythrosin B)が挙げられる。該色素との混合は、ベンスジョーンズタンパク質と該色素との結合体の発色が最適となる条件を選択して用いることができ、例えば少なくともポリアルキレングリコール存在下であることが好ましい。また、該色素との混合は、適したイオン成分存在下でもよい。好ましい態様では、ベンスジョーンズタンパク質とポリアルキレングリコールとを含有する水溶液(例えば、上記の上相に相当する)に、エリスロシンB 水溶液を添加し、必要に応じて攪拌処理した後、イオン成分を添加する。
【0042】
好適なイオン成分としては、クエン酸イオンなどが挙げられる。該クエン酸イオンは、当該分野で知られた供給源を使用して提供でき、例えばクエン酸緩衝液などを使用できる。該クエン酸緩衝液は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムなどのクエン酸のアルカリ金属塩などを使用して作製できる。
エリスロシンB は、酸性のpH条件、例えば pH 2 〜3 の下では、数時間で沈降するので、上記測定対象のベンスジョーンズタンパク質を含有する相と該色素との混合処理は、好ましくは、先ず上記工程を経て得られた測定対象のベンスジョーンズタンパク質を含有する相と、もし必要なら少なくともポリアルキレングリコールを含有している水溶液とを混ぜ、必要に応じて攪拌処理した後、エリスロシンB 含有水溶液を添加し、続けてあるいは必要に応じて攪拌処理した後、クエン酸イオンを含有している水溶液を添加し、必要に応じて攪拌処理することにより行われる。
【0043】
上記色素と混合せしめられた測定対象試料は、加熱処理される。該加熱処理は、過剰の色素を沈殿させるための処理であり、該加熱処理後、測定対象試料は、該吸光ラベル化によって呈色したタンパク質につきそれを検知・測定処理される。該加熱処理は、例えば約40℃〜溶液の沸点、より好ましくは約45〜100 ℃、さらに好ましくは約75〜95℃で、約2〜60分間、より好ましくは約5〜40分間、さらに好ましくは約10〜30分間である。該加熱処理の際の試料溶液のpHは、例えば約1.5 〜5、より好ましくは約2〜3、さらに好ましくは約2.5 である。代表的な加熱処理条件は、pH 2.5において約80℃又は約90℃で約10分間加熱するというものが挙げられる。
吸光ラベル化によって呈色したタンパク質の検知・測定は、544 nmに吸収極大を有する該色素とタンパク質の会合体(ピンク色を呈する)を利用して、溶液中に存在するタンパク質の量を求めて行うことができる。
【0044】
本発明に従った好ましい態様においては、尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質の検出は次のようにして実施できる。
まず、サンプルとして、被験者から採取された尿を、6,000 rpm で5分間遠心したものを尿検体として、該尿検体50μL を、図1に示されるような容器(a) に取り、そこに抽出液 450μL を添加する。抽出液は、例えば 13%デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 225μL, 21%ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 100μL, 2% DEAE- デキストラン水溶液50μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL に水を加えて450 μL としたものである。
【0045】
次に、得られた混合物溶液(全容積500 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、例えば手で上下に激しく数回攪拌し、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することが挙げられる。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、例えば6,000 rpm で10分間遠心する。相分離は通常相体積比で 1:1で分離している。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 200 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(b) に取り、そこに洗浄液 200μL を添加する。洗浄液は、例えば 27%デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 100μL,そして0.4 M リン酸バッファー(pH 5.7) 30μL に水を加えて200 μL としたものである。
【0046】
次に、得られた混合物溶液(全容積400 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、例えばハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することが挙げられる。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、例えば6,000 rpm で10分間遠心する。相分離は通常相体積比で 1:1で分離している。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(c) に取り、そこに色素溶液 50 μL 及び発色用緩衝溶液 150μL を添加する。色素溶液は、例えば6.6 ×10-5 mol dm -3のエリスロシンB 溶液としたものである。発色用緩衝溶液は、例えば10% ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 50 μL 及び 0.5 Mクエン酸バッファー(pH 2.5) 100 μL を混合したものである。
【0047】
エリスロシンB を添加された試料液は、90℃で10分間水浴中で加熱し、室温にて放冷した後、試料溶液に生ずる赤色を目視して検出する。該室温での放冷は、例えば5〜10分間室温に放置することで行われる。また、検出については、544nm における吸光光度法によりそれを行ってもよい。
本処理によれば、その検出感度は、尿中濃度換算で、20 mg/L までのベンスジョーンズタンパク質であることが認められる。また、純水溶液中では、10 mg/L までのベンスジョーンズタンパク質についてその検出感度を認めることができる。
尿中のベンスジョーンズタンパク質濃度が、20 mg/L であると、+ (うすいピンク色)、100 mg/Lであると、++(明瞭なピンク色)、そして 200 mg/L であると、+++ (赤色)であるという結果を得た。
【0048】
一方、試験紙法では、アルブミン(尿中の主要タンパク質)に対する感度は、100 〜200 mg/Lであるが、低分子量タンパク質に対しては反応性が低く、ベンスジョーンズタンパク質では、1000 mg/L 付近でようやく検出ができる。また煮沸法のベンスジョーンズタンパク質に対する感度は、450 mg/L である。
測定に使用する容器は、上記の形態のものに限定されず、市販のものから適宜選択して使用することができる。該市販のものとしては、例えば 1.5 mL のマイクロチューブ(遠心分離用の試験管)などが挙げられる。
【0049】
本発明に従った別の好ましい態様においては、尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質の検出は次のようにそれに適したキット化された試薬セットを使用して実施できる。
先ず、キット1、キット2、そしてキット3として構成された試薬セットを用意する。
キット1は、13% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 225μL, 21%ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 100μL, 2% DEAE- デキストラン水溶液50μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL が予め収容されている図1に示されるような容器(a) あるいはそれらの成分を乾燥した状態で含有し、該容器中へ添加される尿検体50μL と併せて水を加えることにより最終的に500 μL の容量とされるものであってよい。
【0050】
次に、キット2は、17% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 100μL,そして0.4 M リン酸バッファー(pH 5.7) 30μL が予め収容されている図1に示されるような容器(b) あるいはそれらの成分を乾燥した状態で含有し、該容器中へ添加される相分離処理されて得られる上相(ポリエチレングリコール相) 200 μL と併せて最終的に400 μL の容量とされるものであってよい。
そして、キット3は、10% ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 50 μL が予め収容されている図1に示されるような容器(c) であるが、それら容器内の成分は乾燥した状態で含有されているものであってもよく、相分離した上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を添加後、最終的に250 μL の容量とされるものであってよい。キット3には、好ましくは、色素溶液及び 0.5 Mクエン酸バッファー(pH 2.5) がそれぞれ本キット3の添付試薬として備えられている。色素溶液は、例えば6.6 ×10-5 mol dm -3のエリスロシンB 溶液としたものである。
【0051】
キット1、キット2、そしてキット3を使用しての尿中ベンスジョーンズタンパク質の検出は、先ず、被験者から採取された尿を、6,000 rpm で5分間遠心し、その遠心したものを尿検体として使用する。該尿検体50μL を、キット1の成分の入った容器に入れ、必要に応じ水を加えて、全体の量を500 μL とする。
次に、得られた混合物溶液を、上記のように、攪拌処理及び遠心処理し、2相に相分離させる。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 200 μL を取り、これをキット2の成分の入った容器に入れ、必要に応じ水を加えて、全体の量を400 μL とする。
次に、得られた混合物溶液を、上記のように、攪拌処理及び遠心処理し、2相に相分離させる。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を取り、これをキット3の成分の入った容器に入れ、必要に応じ水を加えて、全体の量を150 μL とする。
【0052】
こうして得られた混合物溶液は必要に応じて攪拌された後、そこに色素溶液 50 μL を添加する。色素溶液は、試薬セットの添付試薬として備えられているものであってよいし、別途調製したものであってよい。エリスロシンB を添加された試料液は、必要に応じて攪拌された後、そこに0.5 M クエン酸バッファー(pH 2.5) 100 μL を添加する。クエン酸バッファー試薬セットの添付試薬として備えられているものであってよいし、別途調製したものであってよい。得られた混合物溶液は必要に応じて攪拌された後、90℃で10分間水浴中で加熱し、室温にて放冷した後、試料溶液に生ずる赤色を目視して検出する。該室温での放冷は、例えば5〜10分間室温に放置することで行われる。また、検出については、544nm における吸光光度法によりそれを行ってもよい。
【0053】
本発明の別の好ましい態様においては、尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質の検出は次のようにして実施できる。
まず、尿検体50μL を、図1に示されるような容器(a) に取り、そこに抽出液 450μL を添加する。抽出液は、例えば 13%デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 225μL, 21%ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 100μL, 2% DEAE- デキストラン水溶液50μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL に水を加えて450 μL としたものである。
次に、得られた混合物溶液(全容積500 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、例えば手で上下に激しく数回攪拌するか、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することが挙げられる。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、例えば6,000 rpm で10分間遠心する。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(b) に取り、そこに洗浄液 400μL を添加する。洗浄液は、例えば 13.5%デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 200μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL に水を加えて400 μL としたものである。
【0054】
次に、得られた混合物溶液(全容積500 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、例えばハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することが挙げられる。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、例えば6,000 rpm で10分間遠心する。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(c) に取り、そこに色素溶液 50 μL 及び発色用緩衝溶液 130μL を添加する。色素溶液は、例えば6.6 ×10-5 mol dm -3のエリスロシンB 溶液としたものである。発色用緩衝溶液は、例えば10% ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 50 μL 及び 0.5 Mクエン酸バッファー(pH 2.5) 80μL を混合したものである。
エリスロシンB を添加された試料液は、90℃で10分間水浴中で加熱し、室温にて放冷した後、試料溶液に生ずる赤色(又は544nm における吸光光度)を検出する。該室温での放冷は、上記と同様にして実施される。
【0055】
また、本発明の別の好ましい態様においては、尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質の検出は次のようにそれに適したキット化された試薬セットを使用して実施できる。
キット1は、上記と同様のものであってよい。次に、キット2は、13.5% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 200μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL が予め収容されている図1に示されるような容器あるいはそれらの成分を乾燥した状態で含有し、該容器中へ添加される相分離処理されて得られる上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL と併せて水を加えることにより最終的に500 μL の容量とされるものであってよい。
そして、キット3は、10% ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 50 μL が予め収容されている図1に示されるような容器であるが、それら容器内の成分は乾燥した状態で含有されているものであってもよく、相分離した上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を添加後、最終的に150 μL の容量とされるものであってよい。キット3には、好ましくは、色素溶液及び 0.5 Mクエン酸バッファー(pH 2.5) がそれぞれ本キット3の添付試薬として備えられている。色素溶液は、例えば6.6 ×10-5 mol dm -3のエリスロシンB 溶液としたものである。
【0056】
キット1、キット2、そしてキット3を使用しての尿中ベンスジョーンズタンパク質の検出は、先ず、尿検体50μL を、キット1の成分の入った容器に入れ、必要に応じ水を加えて、全体の量を500 μL とする。
次に、得られた混合物溶液を、上記と同様に、攪拌処理及び遠心処理する。相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 200 μL を取り、これをキット2の成分の入った容器に入れ、必要に応じ水を加えて、全体の量を500 μL とする。得られた混合物溶液を、上記と同様に、攪拌処理及び遠心処理される。相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を取り、これをキット3の成分の入った容器に入れ、必要に応じ水を加えて、全体の量を150 μL とする。こうして得られた混合物溶液は必要に応じて攪拌された後、そこに色素溶液 50 μL を添加する。混合物溶液は必要に応じて攪拌された後、そこに0.5 M クエン酸バッファー(pH 2.5) 80μL を添加する。必要に応じて攪拌された後、エリスロシンB を添加された試料液は、90℃で10分間水浴中で加熱し、室温にて放冷した後、試料溶液に生ずる赤色(又は544nm における吸光光度)を検出することにより行われる。該室温での放冷は、上記と同様にして行われる。
【0057】
さらに、本発明では、疾患の診断マーカーとして有用なベンスジョーンズタンパク質などの等電点の高い塩基性タンパク質を、高感度でしかも簡易迅速に検出及び測定することのできる、微量尿中塩基性タンパク質の検出法及び試薬を提供する。本技術は、特には、塩基性タンパク質の固相抽出/色素結合による検出法及びそのための試薬を提供するものである。
本発明の「塩基性タンパク質の固相抽出/色素結合による検出法」では、まず固相媒体(ウエルなど)である容器に、尿試料を入れ、等電点の差異を利用して共存タンパク質の吸着を抑制するために、緩衝液でpHを共存タンパク質の等電点以上かつ塩基性タンパク質の等電点以下に調整し、さらに共存タンパク質の吸着を抑制するために陰イオン色素を混和し、全量を一定量にする。一定時間静置した後、全溶液を捨て、一度水洗する。その後、水溶性ポリマーを含む色素溶液を加え、緩衝溶液で色素発色の最適pHにする。一定時間静置反応させた後、全溶液を捨て、一度水洗した後、固相媒体上で呈色した塩基性タンパク質を目視定量する。
【0058】
本明細書中、「固相媒体」としては、本発明の塩基性タンパク質に対して悪影響がない限り、例えば酵素免疫測定法などで使用されている公知のものから選択して使用することができる。該固相媒体は、容器の内側の表面であってよい。該固相媒体としては、ガラス、二酸化ケイ素などの無機材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリレートなどのプラスチック材料、ステンレススチールなどの金属材料などからなるものが挙げられる。該固相媒体は、ビーズ、試験管、タイタープレート、タイターウェル、セル(例えばガラスセル、石英ガラスセル、合成樹脂製セルなど)、dip stick などの固体物質の表面などが挙げられる。多検体スクリーニングのためにはウエルの形状が好ましい。好ましい固相媒体としては、例えばプラスチック製ウェルの容器の内側表面が挙げられる。
【0059】
共存する他のタンパク質からの分離には、尿中ベンスジョーンズタンパク質の場合には、緩衝溶液は本発明の塩基性タンパク質の固相媒体上に分離抽出するにあたり悪影響がない限り、例えば免疫測定法などで使用されている公知のものから選択して使用することができるが、 HEPES-LiOH (pH 7.0)が好ましい。尿中主要タンパク質であるアルブミンの等電点は 4.6、トランスフェリンは 5.6〜5.9 であり、pH 7.0では負の電荷を持つ。しかし免疫グロブリンやベンスジョーンズタンパク質は等電点が 7.0〜9.0 であり、pH7.0では正の電荷を持ち、固相へ吸着する。
【0060】
本明細書中、「塩基性タンパク質」としては、例えば生体タンパク質であって、その等電点が 7.0以上のものが挙げられ、代表的には尿中にその存在が認められるものが挙げられ、例えば、ベンスジョーンズタンパク質、免疫グロブリンなどのグロブリンなどが挙げられる。免疫グロブリンとしては、IgM, IgG, IgA, IgE, IgD, 分泌型IgA などが挙げられ、さらにIgG としては、IgG 1 〜4 などが包含されてよく、IgA としては、IgA 1 〜2 などが包含されてよい。例えば、分子量の極めて大きなグロブリン、例えば16万程度もの大きさの分子量のものが尿中に排出されていると、腎臓がサイズバリア機能を損壊していることの証拠と考えられ、腎臓病や糖尿病などの疾患に関連したマーカーとして利用可能である。
【0061】
吸光ラベル化する色素として、エリスロシンBが挙げられるが、エリスロシンBは吸光ラベル化する役割のほか、色素として水溶液中で負の電荷を持つため、タンパク質の正に荷電したアミノ基と結合して、アルブミンの固相への吸着を抑制する効果も併せ持つと考えられる。
塩基性タンパク質と色素結合体の発色が最適となる条件としては、水溶性ポリマー存在下で、緩衝溶液は、前記したようなものから選択することができるが、クエン酸緩衝溶液(pH 2.5)を用いるのが好ましい。水溶性ポリマーとしては、当該分野で知られたものから選択して使用することができるが、例えばポリアルキレングリコールなどが挙げられる。該ポリアルキレングリコールの代表的なものとしては、ポリエチレングリコールが挙げられ、それは当該水溶性ポリマーとして好ましい。ポリエチレングリコールとしては、前記したようなものから選択することができる。また室温にて30分間静置し反応させるのが好ましい。
【0062】
本発明に従った好ましい態様においては、尿中に排出される塩基性タンパク質の検出は、次のようにして実施される。
まず、ウエルに、HEPES-LiOH 緩衝溶液 (pH 7.0) 70μl 、1 ×10-4M エリスロシンB溶液30μl 、そして被験者から採取された尿30μl を添加混和し、蒸留水で全量を 300μl とする。得られた混合溶液を20分間静置した後、ウエル中の全溶液を捨て、ウエルを水洗する。その後、該ウエルに 270μl の増感発色剤(1 % ポリエチレングリコール, 2 ×10-5M エリスロシンBを含む水溶液)を添加し、クエン酸緩衝溶液 (pH 2.5) 30μl を加え、室温にて30分間静置し反応させた後、全溶液を捨て、一度ウエルを水洗した後、ウエル上で呈色した赤色を目視比色する。
【0063】
代表的な塩基性タンパク質の固相抽出/色素結合による検出法の操作手順を、図9に示す。
本発明では、(1) 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定するためのキットであって、(i) 等電点の差異を利用して、共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する機能を有する剤が、(a) 固相媒体及び緩衝液あるいは(b) 固相媒体及び色素含有緩衝液からなり、(ii) 固相表面上で吸光ラベル化する剤が、水溶性ポリマーを含む色素溶液であることを特徴とするキット、(2)(a)固相媒体及び緩衝液あるいは(b) 固相媒体及び色素含有緩衝液からなり、等電点の差異を利用して、尿試料中に共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する機能を有することを特徴とする尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出するための試薬、(3) 水溶性ポリマーを含む色素溶液からなり、水溶性ポリマーの発色増感により、 固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価することを可能にするものであることを特徴とする固相媒体上に分離抽出され且つ尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定するための試薬なども提供される。それぞれ、上記固相媒体、緩衝液、色素、水溶性ポリマーなどは、上記したようなものである。
【0064】
【実施例】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【0065】
実施例1
本実施例では、エリスロシンB を吸光ラベルとして、尿中タンパク質(血清アルブミン、トランスフェリン、免疫グロブリンG 、ベンスジョーンズタンパク質) に対して、エリスロシンB による検出法を検証した。さらにポリエチレングリコールをエリスロシンB −タンパク質検出法に組み込むことで飛躍的に検出感度が向上することについても確認した。
(i) (試薬)
タンパク質溶液
本実施例では尿中タンパク質を想定して、人血清アルブミン(Human Serum Albumin)、人トランスフェリン(Human Transferrin)、人免疫グロブリンG (Human Immunoglobulin G) 、ベンスジョーンズタンパク質(Human Bence Jones protein)を用いた。各標準溶液の作成は以下の手順で行った。
(a) 人血清アルブミン(HSA)水溶液
HSA 粉末(シグマ社製)100 mgに0.1 M Tris-HCl溶液10 mL 、1 wt % アジ化ナトリウム水溶液10 mL を加え、水で100 mLとし、1 g/L の溶液とした。Tris-HClは変性防止のため、アジ化ナトリウムは防腐剤として使用した。
(b) 人トランスフェリン(TRF)水溶液
TRF iron rich (和光純薬製)をHSA 同様の操作にて1 g/L の溶液とした。
(c) 人免疫グロブリンG (IgG)水溶液
Protein A 精製IgG (Biogenesis 社製)50 mg に0.1 M Tris-HCl溶液10 mL 、1 wt % アジ化ナトリウム水溶液10 mL 、0.1 M 塩化ナトリウム10 mL を加え、水で100 mLとし、0.5 g/L の溶液とした。
(d) 人ベンスジョーンズタンパク質 (BJP(κ、λ))水溶液
2.2 g/L BJP (CORTEX BIOCHEM 社製)をそのまま用いた。
【0066】
(e) ポリエチレングリコール (PEG)水溶液
ポリエチレングリコール#8,000 、10,000(#;数平均分子量) はシグマ社製、20,000 (15,000±5,000)は和光純薬製 30 g をビーカーにとり、そこに熱水(二回蒸留水)を少しずつ加えていき、かき混ぜながら溶解させる。熱水を50 mL くらい加えた状態でポリマー溶液を加熱し、一度沸騰させる。これはポリマー中の細菌等を滅菌するためである。沸騰後のポリマー溶液は気泡を多く含んでいるので室温で約30〜40分放置する。気泡が抜けたらメスフラスコにこの溶液を少しずつ加えていき、40〜50℃位のぬるま湯でビーカーを洗いながら、その水でメスアップしていく。この時、PEG が底に徐々に溜まるため、ぬるま湯を加えながらメスフラスコをハンドミキサーで攪拌し、溶液を均一にする。最終的に100 mLにメスアップし、30 % g/vol H2Oとした。
(f) エリスロシンB 水溶液
エリスロシンB (和光純薬製) 0.03 gを100 mLの水に溶かし、0.3 g/L の溶液とした。
(g) クエン酸緩衝溶液
クエン酸(和光純薬製) 4.203 g を80 mL の二回蒸留水に溶かし、水酸化ナトリウム( 関東化学製) により所定pHとし、二回蒸留水にて100 mLにメスアップして0.2 M の緩衝溶液とした。
【0067】
(ii) (操作)
5 mLのマイクロチューブ(アイビス社製) に濃度を調整してあるタンパク質溶液(HSA, TRF, IgG, BJP) 50μL 、0.3g/LのエリスロシンB 水溶液50μL と0.2 M のクエン酸緩衝液250 μL を加え、二回蒸御製水にて500 μL とし、80℃で10分間加熱した。その後、10分間室温で放置し、反応溶液を96結合型ウェル(NUNC社製) に200 μL 分注し、デンシトメトリーにて544 nmの吸光度を測定した。ポリエチレングリコールの添加実験については所定量のPEG を、上述の方法においてエリスロシンB 色素添加前に加えた。
【0068】
(a) 最適条件の決定
1) pH 2.5 において色素ブランクの吸光度が加熱時間と温度にどのような影響を受けるのかについて調べた。加熱温度を45〜90℃に設定した場合の加熱時間に伴う色素ブランクの吸光度の変化を調べたところ、それぞれの温度に対し、加熱時間の経過とともに色素の吸収が減少していくことが認められる。特に、80℃、90℃において吸光度の減少は著しく、10分でほとんど色素の吸収がなくなってしまう。この状態では溶液の色はほとんど透明となる。よって、色素ブランクについては吸光度がほぼなくなる加熱条件、すなわち、80℃、10分、あるいは90℃、10分を最適条件とした。
次に反応温度を80℃に設定し、反応時間を変化させたときの色素、及びタンパク質−色素会合体の吸光度変化について検討した。タンパク質−色素会合体の吸光度は「タンパク質存在時の総吸光度」から「色素のみの場合(ブランク)の吸光度」を引いたものとし、そうして求めた図より、各タンパク質とも反応時間が10分において 544 nm における吸光度が最大となった。色素ブランクの吸光度が最小となる条件も、80℃、10分あるいは90℃、10分であり、この条件をタンパク質検出における反応の最適条件とすることができる。
【0069】
2) 次に、加熱温度80℃、反応時間10分におけるエリスロシンB とタンパク質が会合体を形成するための最適なpH条件を調べた。
タンパク質−エリスロシンB 会合体の吸光度は、上記と同様、「タンパク質存在時の反応溶液の総吸光度」から「色素のみの場合における吸光度」の差をとったもので、そうして求めた図より、タンパク種によって若干の異なりはあるものの会合体が最大の吸収を示すのはおおよそpH 2〜3 の間となった。このpH条件においては色素だけの吸収も最小となり、色素ブランクとサンプル間で良好な色のコントラストが得られた。そのため、最適pHを2.5 と設定できる。なお、緩衝溶液の種類としては、クエン酸緩衝溶液を用いることができる。
反応温度80℃についてpHを 2〜5 まで変化させた場合についても、エリスロシンB の吸光度の加熱時間依存性を調べた。その結果、pH2 及びpH3 においては反応時間が10分で十分に吸光度が減少していることがわかった。このことからもpH 2.5が最適条件であるという結論が導き出せる。
【0070】
3) 上記により得られた、エリスロシンB を吸光ラベルとした場合におけるタンパク質アッセイのための最適条件のもとで、4種類のタンパク質(すなわち、HSA, TRF, IgG, BJP) についてアッセイを行った。得られた検量線を図2に示す。 各タンパク質における検出限界、定量限界、Coomasie Brilliant Blue (CBB) 法における検出限界を次に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
該エリスロシンB 法は、CBB 法と比較して3〜9倍高感度化しており、タンパク質−色素結合法としては最高検出感度を持っていると評価できる。
ベンスジョーンズタンパク質 (BJP)については、9倍高感度であり、良好な検出感度が得られることが明らかとなった。
【0073】
(b) ポリエチレングリコールによる増感作用
本実施例において、ポリエチレングリコール (PEG)の添加によってエリスロシンB 法の感度に及ぼす影響を検討した。本実施例では、エリスロシンB アッセイにおけるPEG 添加効果について考察するとともに、タンパク質検出法としての最適条件を求めた。
PEG #10,000のエリスロシンB 及びエリスロシン−タンパク質会合体に及ぼす影響は、各タンパク質濃度 20 mg/Lにつき、上記した最適な測定条件のもとに測定し、図3に示す結果が得られた。PEG #10,000の添加に伴い色素−タンパク質会合体の吸光度は放物線を描き、一方色素ブランクの吸光度はほとんど変化しないことがわかる。PEG が2 % までは、色素−タンパク質会合体の吸光度は減少し、その後PEG 濃度の増加に伴い吸光度が増加する。
サンプルとしてBJP を用い、PEG #10,000の濃度を 0%, 5.5%, 6.0% とした場合のエリスロシンB アッセイへの影響を調べた結果を、図4に示す。
本法の検出限界、及び増感作用を施していないエリスロシンB 法、CBB 法との比較を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
上記表2において、「検出限界」及び「定量限界」ではPEG 添加したもので、検知はデンシトメーターによる吸光光度法で行った。括弧内は増感作用を施してないエリスロシンB 法の結果である。
BJP 低濃度領域においてもPEG 添加した場合にはブランクとの差が明確となり、1 mg/Lという(分子量に換算して2.3 ×10-8 M) 微量領域においても十分に目視判別が可能となった。PEG を添加するだけで検出感度が飛躍的に向上していることがわかる。特にBJP については CBB法と比較して280 倍も高感度化となっている。
この方法は、(1) コストが極めて安い、一回のアッセイに0.00〜0.1 円位のコストで済む、(2) 検出感度が飛躍的に良い、そして何より(3) タンパク質に関して定量性の違いがほとんど生じないことである。これは、尿中の総タンパク質を求めるのに非常に都合が良い。
【0076】
実施例2
水性二相分配系の設計
(i) 試薬
(a) ポリエチレングリコール(#8,000 、10,000)水溶液
実施例1と同様にして30(%)溶液を調製した。
(b) デキストラン(wt(重量平均分子量) 67,300〜500,900 )、DEAE- デキストラン水溶液
デキストラン(重量平均分子量 67,300, 500,900; シグマ社製) 、DEAE- デキストラン(重量平均分子量 500,000; シグマ社製) 30 gをビーカーにとり、そこに熱水(二回蒸留水)を少しずつ加えていき、かき混ぜながら溶解させる。熱水を50 mL くらい加えた状態でポリマー溶液を加熱し一度沸騰させる。これはポリマー中の細菌等を滅菌するためである。沸騰後のポリマー溶液は気泡を多く含んでいるので室温で約30〜40分放置する。気泡が抜けたらメスフラスコにこの溶液を少しずつ加えていき、40〜50℃位のぬるま湯でビーカーを洗いながら、その水でメスアップしていく。この時、ポリマーが底に除々に溜まるため、ぬるま湯を加えながらメスフラスコをハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) で攪拌し、溶液を均一にする。最終的に100 mLにメスアップし、30% g/vol H2O とした。
【0077】
(ii) 緩衝溶液
(a) クエン酸緩衝溶液
クエン酸(関東化学社製)を所定量、二回蒸留水に溶解させ、水酸化カリウム(関東化学社製)によって所定のpH (2 〜3.5)にし、0.2 M 水溶液となるように二回蒸留水により定容とした。
(b) リン酸緩衝溶液
リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム(共に大和薬品製)を所定量、二回蒸留水に溶解し 0.2 Mとし、これらを適量混合させることにより、所定のpHとし、0.1 M とした。
(c) 酢酸緩衝溶液
0.2 M 酢酸(関東化学社製)、0.2 M 酢酸ナトリウム(関東化学社製)水溶液を所定量混合し、0.1 M の緩衝溶液とした。
【0078】
(d) MES-NaOH緩衝溶液
MES (2-Morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate) (関東化学社製)を所定量蒸溜水に溶解させ、水酸化ナトリウム (Merck 社製)によって所定のpHにし、0.2 M 水溶液となるように二回蒸留水により定容とした。
(e) Bis-Tris-HCl緩衝溶液
Bis-Tris (Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane) (Merck社製)を所定量蒸溜水に溶解させ、塩酸(関東化学社製)によって所定のpHにし、0.2 M 水溶液となるように二回蒸留水により定容とした。
(f) Tris-HCl緩衝溶液
Tris(hydroxymethyl)aminomethane (Merck社製)を所定量蒸溜水に溶解させ、塩酸(関東化学社製)によって所定のpHにし、0.2 M 水溶液となるように二回蒸留水により定容とした。
【0079】
(iii) タンパク質溶液
実施例1と同様にして調製した。
(iv) タンパク質濃度測定試薬(Coomasie Brilliant Blue Protein Assay Kit) Bio-Rad社のCoomasie Brilliant Blue Protein Assay Kit をそのまま用いた。
【0080】
(v) 水性二相分配によるタンパク質の抽出試験
(タンパク質一成分系)
マイクロチューブにPEG 、デキストラン(DEX) 、バッファー、その他(イオン交換ポリマー) 、タンパク質サンプル (1,000 mg/Lを50μL)を所定濃度となるように添加していき、最後に水により定容(ほとんどの場合、総体積は、500 μL 、分配系におけるタンパク質濃度は 100 mg/L となる)とした。
混合した液を手で上下に激しく数回攪拌し、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌する。その後、卓上遠心分離機を用い、10分間、6,000 rpm の条件で遠心分離させて、二相に相分離させた。
マイクロピペットを用いて、上相 (PEG rich相)、下相 (DEX rich相)からそれぞれ 40 μL ずつ取り出し、96結合型ウェルに分注し、水を 120μL 加える。その後、Coomasie Brilliant Blue Protein Assay Kit (Bio-Rad社) を用いタンパク質濃度を測定する。手順としてはCoomasie Brilliant Blue (CBB) 溶液を40μL 加え、2 分間 Vortex mixer (シノテスト社製) を用いて攪拌する。その後デンシトメトリー(島津製作所製)によってタンパク質−CBB 会合体の最大吸光度である 595 nm の吸光度を測定し、タンパク質の濃度を求める。なお、サンプル溶液と水との混合割合(希釈率)は系に存在する妨害物質の影響が現れない領域(4〜16倍希釈)に設定して行った。
【0081】
(タンパク質多成分系)
単一成分系で得られた最適と思われる抽出結果を与える条件を利用し、混合タンパク質系についても分配実験を行い、結果をSDS-PAGEにて確認した。総分離の操作までは、タンパク質一成分系と同様の操作を行い、その後、上相、下相溶液をSDS-PAGEにかけ、各タンパク質を分離した後、Coomasie Brilliant Blue にて染色を行い、分離を確認した。
【0082】
(vi) 試験結果
(pHの影響)
PEG#8,000-DEX500,900系につき、pHを変化させた場合の各タンパク質の分配係数K を図5に示す。図5においては、PEG #8,000; 4.2%, DEX#500,900; 6.2%, バッファー; 0.0167 M (pH1.0; HCl, pH2.0 〜4.0;クエン酸緩衝液, pH4.5 〜5.5;酢酸緩衝液, pH6.0; MES-NaOH 緩衝液, pH6.5 〜7.8;Tris-HCl緩衝液, pH8.8; MOPS 緩衝液),タンパク質; 100 mg/Lの条件下に測定を行った。
その結果、pH 6付近でHSA とBJP が比較的良好に分離されていることから、pH 6付近で水性二相分配系の構築を目指すことが好ましいと判断された。
【0083】
(陽イオンポリマー効果の検討)
陽イオンポリマーとして、ジエチルアミノエーテル- デキストラン(DEAE-DEX)を使用し、水性二相分配系に及ぼす効果を試験した。pH5.5 付近において緩衝溶液として酢酸塩、リン酸塩を用いた場合のDEAE-DEXの分配に及ぼす影響について試験し、得られた結果を図6に示す。特に、リン酸緩衝液を用いた場合、HSA 、TRF がDEX 相に選択的に分配されることがわかる。かくして、少なくともpH6 付近においてリン酸塩を緩衝溶液として用いた場合、HSA 、TRF を良好にPEG 相から排除可能であると判断された。
次に、混合タンパク質系において、HSA, TRFを PEG相から排除することが可能か否かを、DEAE-DEXの濃度 0% 及び 0.2% の場合につき、各相のタンパク質の存在状態をSDS-PAGEにより調べた。その結果、DEAE-DEXが 0.2% 存在している条件では上相 (PEG rich相) から、HSA, TRFのバンドが殆ど消滅していることが確認された。特に、HSA のバンドは全くといってよい程度に消滅していた。一方、BJP については、DEAE-DEXの添加のある無しに拘らず、上相、下相の濃度は殆ど変化していなかった。
かくして、pH5.71において、DEAE-DEXを 0.2% 添加することにより、上相 (PEG rich相) にほぼBJP のみを存在させることが可能であることが確認された。
【0084】
次に、エリスロシンB アッセイ時のPEG による増感作用を有効に利用することを目指し、PEG #10,000-DEX500,900 系につき、pHを変化させた場合の各タンパク質の分配係数K を、DEAE-DEX共存系のもとで調べた。結果を、図6に示す。図6では、PEG #10,000; 4.2%, DEX #500,900; 6.2%, pH5.71 リン酸緩衝溶液0.024 M,タンパク質= 100 mg/Lの条件下に測定を行った。
リン酸緩衝液の尿に対してそのpHに与える効果を別途の試験で調べた結果、10倍希釈尿ではリン酸塩緩衝溶液濃度が0.03 M以上で緩衝能を示すことが確認された。pH5.71, PEG 10,000-DEX 500,900系において、リン酸緩衝液の濃度を変化させてHSA の分配に対するDEAE-DEXの影響を調べた。結果を、図7に示す。図7では、PEG #10,000; 4.2%, DEX #500,900; 6.2%, 全HSA 濃度= 100 mg/Lの条件下に測定を行った。
また、PEG 10,000-DEX 500,900系についてDEAE-DEX 0.2% 存在下でのリン酸緩衝液の濃度を変化させた場合の各タンパク質の分配挙動を調べた。結果を、図8に示す。図8では、PEG #10,000; 4.2%, DEX #500,900; 6.2%, DEAE-DEX; 0.2%, pH5.71 リン酸緩衝溶液; 0.024 〜0.1 M,タンパク質= 100 mg/Lの条件下に測定を行った。
以上を総合し、緩衝溶液濃度は 0.04 M とすることが好ましいと判断され、DEAE-DEXについては、 0.2% とする水性二相分配系PEG 10,000-DEX 500,900系が、尿中人ベンスジョーンズタンパク質 (BJP)の抽出測定系として好ましいと判断された。
【0085】
実施例3
まず、サンプルとして、人採取尿に実施例1に記載されたような人ベンスジョーンズタンパク質 (BJP)を、0 mg/L, 20 mg/L, 100 mg/L, 200 mg/L それぞれ添加したものを用意する。つぎに該サンプル尿試料を6,000 rpm で5分間遠心したものを尿検体として、該尿検体50μL を、図1に示されるような容器(a) に取り、そこに抽出液 450μL を添加する。抽出液は、13% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 225μL, 21%ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 100μL, 2% DEAE- デキストラン水溶液50μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL に水を加えて450 μL としたものである。
次に、得られた混合物溶液(全容積500 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、手で上下に激しく数回攪拌し、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することによりなされた。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、6,000 rpm で10分間遠心することによりなされた。相分離は通常相体積比で 1:1で分離している。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 200 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(b) に取り、そこに洗浄液 200μL を添加する。洗浄液は、27% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 100μL,そして0.4 M リン酸バッファー(pH 5.7) 30μL に水を加えて200 μL としたものである。
【0086】
次に、得られた混合物溶液(全容積400 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することによりなされた。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、6,000 rpm で10分間遠心することによりなされた。相分離は通常相体積比で 1:1で分離している。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(c) に取り、そこに色素溶液 50 μL 及び発色用緩衝溶液 150μL を添加する。色素溶液は、6.6 ×10-5 mol dm -3のエリスロシンB 溶液としたものである。発色用緩衝溶液は、10% ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 50 μL 及び 0.5 Mクエン酸バッファー(pH 2.5) 100 μL を混合したものである。
エリスロシンB を添加された試料液は、90℃で10分間水浴中で加熱し、室温にて放冷した後、試料溶液に生ずる赤色を目視して検出する。該室温での放冷は、例えば5〜10分間室温に放置することで行われる。
尿中のベンスジョーンズタンパク質濃度が、20 mg/L であると、+ (うすいピンク色)、100 mg/Lであると、++(明瞭なピンク色)、そして 200 mg/L であると、+++ (赤色)であるという結果を得た。
【0087】
実施例4
タンパク質溶液は実施例1と同様にして調製した。人ベンスジョーンズタンパク質 (BJP)を含有するタンパク質混合液を尿検体の代わりに使用した。該タンパク質混合液サンプル50μL を、図1に示されるような容器(a) に取り、そこに抽出液 450μL を添加する。抽出液は、13% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 225μL, 21%ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 100μL, 2% DEAE- デキストラン水溶液50μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL に水を加えて450 μL としたものである。
次に、得られた混合物溶液(全容積500 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、手で上下に激しく数回攪拌するか、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することによりなされた。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、6,000 rpm で10分間遠心することによりなされる。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(b) に取り、そこに洗浄液 400μL を添加する。洗浄液は、13.5% デキストラン(平均重合度: 500,900)水溶液 200μL,そして0.2 M リン酸バッファー(pH 5.7) 60μL に水を加えて400 μL としたものである。
【0088】
次に、得られた混合物溶液(全容積500 μL)を攪拌処理する。攪拌処理は、ハンドミキサー(Immuno mixer; シノテスト社製) を用いて30秒間攪拌することによりなされた。こうして攪拌した混合物溶液は次に遠心処理して2相に相分離させる。遠心処理は、6,000 rpm で10分間遠心することによりなされた。このように相分離したうちの上相(ポリエチレングリコール相) 100 μL を、新たな容器、すなわち図1に示されるような容器(c) に取り、そこに色素溶液 50 μL 及び発色用緩衝溶液 130μL を添加する。色素溶液は、6.6 ×10-5 mol dm -3のエリスロシンB 溶液としたものである。発色用緩衝溶液は、10% ポリエチレングリコール(平均重合度: 10,000) 水溶液 50 μL 及び 0.5 Mクエン酸バッファー(pH 2.5) 80μL を混合したものである。
【0089】
エリスロシンB を添加された試料液は、90℃で10分間水浴中で加熱し、室温にて放冷した後、試料溶液に生ずる赤色(又は544nm における吸光光度)を検出する。該室温での放冷は、上記と同様にして実施される。
本処理によれば、その検出感度は、尿中濃度換算で、20 mg/L までのベンスジョーンズタンパク質であることが認められる。また、純水溶液中では、10 mg/L までのベンスジョーンズタンパク質についてその検出感度を認めることができる。
以上の結果から、サンプル中に 10 mg/Lの濃度で存在しているベンスジョーンズタンパク質 (BJP)の検出も可能であり、実質的には尿に20 mg/L 以上の濃度で存在しているBJP を検出できる。上記方法では、大量の検体を安価に且つ短時間で処理することが可能である。操作が簡単であり、自動化処理に適していると判断された。
【0090】
実施例5
以下の実施例5及び6では、尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質の検出及び/又は測定する方法について検討した。
まず、本実施例では、尿中主要タンパク質であるアルブミンを全量 300μl 中の濃度として10mg/L含有する水溶液に、代表的な尿中疾患マーカータンパク質の塩基性タンパク質としてベンスジョーンズタンパク質を 0 mg/L 、2 mg/L、10 mg/L 、20 mg/L 、それぞれ添加して、本法を検証した。
(1)試薬
(a)ヒト血清アルブミン水溶液 (0.1g/L)
(b)ヒトベンスジョーンズタンパク質水溶液 (2.2g/L)
(c)エリスロシンB水溶液
(d)HEPES-LiOH緩衝溶液 (pH 7.0)
(e)ポリエチレングリコール水溶液
(f)クエン酸緩衝溶液 (pH 2.5)
【0091】
(2)操作
ウエルに、HEPES-LiOH緩衝溶液 (pH 7.0) 70μl 、 1×10-4M エリスロシンB溶液30μl を添加混和した。該ウエル中の溶液に、ヒト血清アルブミン水溶液を30μl 、そしてベンスジョーンズタンパク質を全量 300μl とした時の濃度として0 mg/L、2 mg/L、10 mg/L 、20 mg/L を、それぞれ添加し、蒸留水で全量を 300μl とした試料を用意する。
得られた混合溶液を20分間静置した後、ウエル中の全溶液を捨て、水洗する。その後、増感発色剤(1 % ポリエチレングリコール (分子量10,000), 2×10-5M エリスロシンBを含む水溶液)270 μl をウエルに添加し、クエン酸緩衝溶液 (pH 2.5) 30μl を加え、室温にて30分間静置し反応させた後、全溶液を捨て、一度水洗した後、ウエル上で呈色した赤色を目視比色する。
【0092】
(3)結果
ヒト血清アルブミンとベンスジョーンズタンパク質(BJP) を含有した試料において、全量 300μl の濃度として、BJP 、0 mg/Lは無色、2 mg/Lは薄いピンク色、10 mg/L は明瞭なピンク色、20 mg/L は濃い赤色であるという結果を得た。
以上の結果から、尿中主要タンパク質であるアルブミンの固相への吸着は抑制され、選択的にBJP を固相上に吸着、定量することができる。上記タンパク質混合溶液 300μl 中において 2mg/L以上の濃度で存在している BJPを検出できる。
【0093】
実施例6
本実施例では、人採取尿を用い、代表的な尿中疾患マーカータンパク質の塩基性タンパク質としてベンスジョーンズタンパク質を使用し、該ベンスジョーンズタンパク質を尿中濃度として、0 mg/L、20 mg/L 、100 mg/L、200 mg/L、をそれぞれ添加した水溶液試料を用い、本法を検証した。
(1)試薬
(a)ヒトベンスジョーンズタンパク質水溶液
(b)エリスロシンB水溶液
(c)HEPES-LiOH緩衝溶液 (pH 7.0)
(d)ポリエチレングリコール水溶液
(e)クエン酸緩衝溶液 (pH 2.5)
【0094】
(2)操作
ウエルに、HEPES-LiOH緩衝溶液 (pH 7.0) 70μl 、 1×10-4M エリスロシンB溶液30μl を添加混和した。該ウエル中の溶液に、人採取尿を30μl 、そしてベンスジョーンズタンパク質を全量 300μl とした時の濃度として0 mg/L、2 mg/L、10 mg/L 、20 mg/L を、それぞれ添加し、蒸留水で全量を 300μl とした試料を用意する。
得られた混合溶液を20分間静置した後、ウエル中の全溶液を捨て、水洗する。その後、増感発色剤(1 % ポリエチレングリコール, 2 ×10-5M エリスロシンBを含む水溶液) 270μl をウエルに添加し、クエン酸緩衝溶液 (pH 2.5) 30μl を加え、室温にて30分間静置し反応させた後、全溶液を捨て、一度水洗した後、ウエル上で呈色した赤色を目視比色する。
【0095】
(3)結果
ベンスジョーンズタンパク質(BJP) を添加した試料において、尿中濃度として、BJP 、0 mg/Lは無色、20 mg/L は薄いピンク色、100 mg/Lは明瞭なピンク色、200 mg/Lは濃い赤色であるという結果を得た。
以上の結果から、実質的には尿に 20mg/L 以上の濃度で存在しているBJP を検出できる。上記方法では、大量の検体を安価にかつ短時間で処理することが可能であり、マススクリーニング法に適していると判断される。また、固相媒体上の発色体は、長期間保存すること(結果の長期間保存) が可能であり、例えば、赤などに発色したウェルはそれを暗所で一ケ月以上あるいはそれより長期にわたり保存して置くことができる。
【0096】
【発明の効果】
本発明では、水性二相の遠心分離によって尿試料からベンスジョーンズタンパク質を簡便に且つ効率良く抽出することを可能にしているので、従来のように分離に煩雑で高価な方法を用いる必要はなく、さらに特別な機器や長い時間を要することもない。本発明では、尿試料からベンスジョーンズタンパク質を選択的に分離できることから、特異的なベンスジョーンズタンパク質の検知・測定が可能であるし、簡便且つ迅速に高い感度でのスクリーニングの実施ができる。
本発明では、エリスロシンB 色素結合アッセイにおいて、ポリエチレングリコールによる増感作用を利用でき、検出感度を飛躍的に高めることができる。
本発明により、尿試料を用いてのベンスジョーンズタンパク質の優れた検出及び/又は定量測定の手法が提供され、骨髄腫診断スクリーニング方法及び試薬、さらには骨髄腫の臨床モニタリングシステムを提供できる。マススクリーニング(発症前)や臨床モニタリング(骨髄腫などと診断された患者を対象)など幅広く適用できるという利点もある。
【0097】
また、本発明では、尿試料から疾患マーカーである塩基性タンパク質を、タンパク質の等電点の差異を利用する方法で選択的に固相媒体上に分離抽出することが可能であり、また水溶性ポリマーによる固相表面上での発色増感効果により、簡便、迅速かつ高感度に尿中塩基性タンパク質−色素結合体を定性、定量的に分析評価する手法が提供される。固相媒体としてウエルなどを用いることで、多検体同時測定が可能であり、尿中塩基性タンパク質のスクリーニングテスト法として、迅速、簡便かつ高感度な検出方法である。また、水溶性ポリマーの増感効果により、検出感度が飛躍的に向上する。本発明により各種疾患のスクリーニングテストや腫瘍などの臨床モニタリングシステムなどが提供できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の水性二相分配と吸光ラベルを用いる尿中骨髄腫マーカーであるベンスジョーンズタンパク質の検知・測定に適した容器(試験管)の形態を示す。 (a)〜(c) には必要に応じてそのサイズの異なるものが使用できるという意味での具体例が示されている。
【図2】 加熱温度80℃、反応時間10分、そしてpH 2.5におけるエリスロシンB を吸光ラベルとした4種類のタンパク質(すなわち、HSA, TRF, IgG, BJP)についてのアッセイの結果得られた検量線を示す。
【図3】 加熱温度80℃、反応時間10分、そしてpH 2.5におけるエリスロシンB を吸光ラベルとした4種類のタンパク質(すなわち、HSA, TRF, IgG, BJP)についてのアッセイにおいて、各濃度のPEG #10,000の存在が、如何なる影響を及ぼすかを測定した結果を示す。
【図4】 サンプルとしてBJP を用い、PEG #10,000の濃度を 0%, 5.5%, 6.0% とした場合のエリスロシンB アッセイへの影響を調べた結果を示す。
【図5】 水性二相分配の PEG#8,000-DEX500,900系につき、pHを変化させた場合に測定の結果得られた各タンパク質の分配係数K を示す。
【図6】 pH5.5 付近においての水性二相分配系において、各濃度のDEAE-DEXの存在が、如何なる影響を及ぼすかを測定した結果を示す。
【図7】 pH5.71, PEG 10,000-DEX 500,900水性二相分配系において、リン酸緩衝液の濃度を変化させてHSA の分配に対するDEAE-DEXの影響を調べた結果を示す。
【図8】 PEG 10,000-DEX 500,900水性二相分配系についてDEAE-DEX 0.2% 存在下でのリン酸緩衝液の濃度を変化させた場合の各タンパク質の分配挙動を調べた結果を示す。
【図9】 塩基性タンパク質の固相抽出/色素結合による検出法の代表的な操作手順を示す。
Claims (13)
- 多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質の検出方法であって、
(1) 尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出分離する工程、
(2) 分取されたベンスジョーンズタンパク質を含有する相を吸光ラベル化のための色素と混合する工程、
(3) 加熱により過剰の色素を沈殿させる工程、及び
(4) 吸光ラベル化によって呈色したタンパク質を測定する工程
を含有することを特徴とするベンスジョーンズタンパク質の検出方法。 - 多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質を検出するためのキットであって、
(i)尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出するのに利用される剤として、少なくとも(a)デキストラン、(b)ポリエチレングリコール及び(c)DEAE- デキストランを含有し、且つ
(ii)抽出物をラベルする剤としてエリスロシンBを含有していることを特徴とするキット。 - 少なくとも(a)デキストラン、(b)ポリエチレングリコール及び(c)DEAE- デキストランを含有し、尿試料中のベンスジョーンズタンパク質を水性二相分配により共存する他のタンパク質から抽出するために使用されることを特徴とする多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質を検出するための試薬。
- エリスロシンBを含有し、試料中のベンスジョーンズタンパク質を吸光ラベル化するために使用されることを特徴とする多発性骨髄腫に伴い且つ尿中に排泄されるベンスジョーンズタンパク質を検出するための試薬。
- 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定する方法であって、
(1) 等電点の差異を利用して、共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する工程、
(2) 固相表面上でポリエチレングリコールを含む色素溶液により吸光ラベル化する工程、及び
(3) ポリエチレングリコールの発色増感により、固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価する工程
を含有することを特徴とする方法。 - (a)工程(1)を、タンパク質の総電荷を調整して行う;
(b)工程(1)を、検体試料に添加する緩衝液のpH調整によって試料溶液pHを調整することにより行う;
(c)工程(1)を、アルブミンなどの共存タンパク質の固相媒体への吸着を抑制して行う;
(d)色素存在下に工程(1)を行う;
(e)負電荷を持つ色素存在下に工程(1)を行う;
(f)エリスロシンB存在下に工程(1)を行う;
(g)工程(1)を、検体試料に添加する緩衝液のpH調整によって試料溶液pHを調整することにより行い、該緩衝液が、HEPES-LiOH緩衝溶液である;及び
(h)吸光ラベル化が、ポリエチレングリコールを含むエリスロシンBにより行われる ;
から成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項5記載の方法。 - 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定するためのキットであって、
(i) 等電点の差異を利用して、共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する機能を有する剤が、(a)固相媒体及び緩衝液あるいは(b)固相媒体及び色素含有緩衝液からなり、
(ii) 固相表面上で吸光ラベル化する剤が、ポリエチレングリコールを含む色素溶液であることを特徴とするキット。 - 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質の固相媒体上に分離抽出する方法であって、等電点の差異を利用して、尿試料中に共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出することを特徴とする方法。
- (a)タンパク質の総電荷を調整して行う;
(b)検体試料に添加する緩衝液のpH調整によって試料溶液pHを調整することにより行う;
(c)緩衝液を試料に添加し、該緩衝液が、HEPES-LiOH緩衝溶液である;
(d)アルブミンなどの共存タンパク質の固相媒体への吸着を抑制して行う;
(e)色素存在下に行う;
(f)色素存在下に行われ、該色素が負電荷を持つものである; 及び
(g)色素存在下に行われ、該色素がエリスロシンBである
から成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項8記載の方法。 - (a) 固相媒体及び緩衝液あるいは(b) 固相媒体及び色素含有緩衝液からなり、等電点の差異を利用して、尿試料中に共存する他のタンパク質から塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出する機能を有することを特徴とする尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を固相媒体上に分離抽出するための試薬。
- 尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定する方法であって、
(1) 固相媒体上に分離抽出された塩基性タンパク質を固相表面上でポリエチレングリコールを含む色素溶液により吸光ラベル化する工程、及び
(2) ポリエチレングリコールの発色増感により、固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価する工程
を含有することを特徴とする方法。 - 吸光ラベル化が、ポリエチレングリコールを含むエリスロシンBにより行うことを特徴とする請求項11記載の方法。
- ポリエチレングリコールを含む色素溶液からなり、ポリエチレングリコールの発色増感により、固相表面上で呈色した塩基性タンパク質−色素結合体を、定性あるいは定量的に分析あるいは評価することを可能にするものであることを特徴とする固相媒体上に分離抽出され且つ尿中疾患マーカータンパク質である塩基性タンパク質を検出及び/又は測定するための試薬。
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