JP3673647B2 - フィルム状の可食性積層体およびこのフィルム状の可食性積層体を付着した脂質含有食品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、食用可能な装飾層と、その装飾層を食品に付着させるための食用可能な付着層とを備えてなる、フィルム状の可食性積層体に関する。また、そのフィルム状の可食性積層体を付着した脂質含有食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、金もしくは銀からなる装飾層を食品に付着させることのできる可食物としては、例えば、特開平7−231756号公報に記載のものがある。すなわち、ベース材と、離型層と、金もしくは銀の層と、接着層とが積層されてなる箔押し材にあって、ベース材以外の各層を構成する成分は、全て食用可能な素材からなる箔押し材を用いて、水溶性の可食性フィルムに、箔押し印刷することにより、金箔もしくは銀箔からなる装飾層を、その水溶性の可食性フィルムに付着させることができる。
【0003】
そして、この金箔もしくは銀箔からなる装飾層が箔押しされた水溶性の可食性フィルムは、食物とか飲物の食品に添えて、その食品とともに飲食することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来の、装飾層が箔押しされた水溶性の可食性フィルムは、例えば、シャーベットとかプリンのように水分を充分に備えた食品に対して、その装飾層を付着させることについては問題はなかったが、脂質含有食品、特にチョコレート、バター、チーズといった脂質を多く含む、脂質高含有食品に対しては、付着しにくく、その装飾層をそれら食品に付着させることは容易でないという問題があった。
【0005】
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、脂質含有食品に対しても良く付着して、装飾層をその食品に付着させることができる、フィルム状の可食性積層体を提供することにある。
【0006】
また、この発明の別の目的は、前記フィルム状の可食性積層体を付着した脂質含有食品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るフィルム状の可食性積層体およびこのフィルム状の可食性積層体を付着した脂質含有食品は、前記目的を達成するために、次の構成からなる。
【0008】
すなわち、食用可能な装飾層と、その装飾層を食品に付着させるための食用可能な付着層とを備えてなるフィルム状の可食性積層体であって、前記付着層は、高級脂肪酸または(および)油脂素材が浸透することが可能な第1の層と、その第1の層よりも前記装飾層側に、その第1の層内へ浸透する高級脂肪酸または(および)油脂素材を含有する第2の層とを、少なくとも有し、前記第1の層は、フィルム形成可能な多糖類または多糖類の誘導体を含有することを特徴とする。第2の層に含まれる高級脂肪酸または(および)油脂素材は、第1の層内へと浸透する。よって、このフィルム状の可食性積層体は、前記食品が脂質含有食品であっても、前記付着層を介してその食品に親和性良く付着する。
【0009】
【0010】
また、前記フィルム形成可能な多糖類の誘導体は、食用可能なセルロースエーテルであることが望ましい。食用可能なセルロースエーテルは、親油性の性質をも有するので、特に脂質含有食品との親和性に優れている。よって、食用可能なセルロースエーテルを用いて形成されたフィルム状の可食性積層体は、脂質含有食品に対して安定して付着される。
【0011】
また、前記第1の層は、グリセリンまたは(および)糖アルコールが含まれていることが望ましい。グリセリンとか糖アルコールは、第1の層を維持するために必要とされる水分を保持する保湿材として機能する。
【0012】
前記糖アルコールは、ソルビトールであることが望ましい。ソルビトールは、優れた保湿材である。
【0013】
また、前記第1の層には、さらに、トレハロースが含まれていることが望ましい。トレハロースが含まれることによって、第1の層が過剰に乾燥することを防ぐことができる。
【0014】
また、前記第2の層は、セラックまたはツェインが含まれていることが望ましい。セラックまたはツェインが含まれていると、第2の層は、フィルム状に容易に形成される。
【0015】
また、前記第2の層の高級脂肪酸は、オレイン酸であることが望ましい。オレイン酸は、前記セラックまたはツェインとの親和性が良い。
【0016】
さらに、この発明に係るフィルム状の可食性積層体は、次の構成からなっていてもよい。すなわち、前記付着層は、前記第2の層よりも前記装飾層側に、その装飾層を前記第2の層に定着させるための、介在皮膜層を有し、かつ、この介在皮膜層は、前記装飾層と前記第2の層の双方に接着可能で食用可能な素材から形成されていることが望ましい。装飾層は、第2の層に定着しにくいので、装飾層が第2の層から剥がれたり、ずれたりする現象が起きることがある。これらの現象を防止するために、すなわち、装飾層を第2の層に定着させるために、前記介在皮膜層を設けると良い。
【0017】
前記介在皮膜層には、ツェインが含まれることが望ましい。ツェインは、装飾層と第2の層の双方との接着性に優れている。また、ツェインは、装飾層が、スパッタリング等の相当の熱を伴う方法によって形成される場合に、その熱から第2の層に含まれる高級脂肪酸または(および)油脂素材を保護する機能を有する。
【0018】
つぎに、この発明に係る別のフィルム状の可食性積層体は、食用可能な装飾層と、その装飾層を食品に付着させるための食用可能な付着層とを備えてなるフィルム状の可食性積層体であって、前記付着層は、食用可能なセルロースエーテルを含有する第1の層と、その第1の層よりも前記装飾層側に、その装飾層を前記第1の層に定着させるための介在皮膜層とを有する。ここで、この介在皮膜層は、前記装飾層と前記第1の層の双方に接着可能で食用可能な素材から形成されている。よって、このフィルム状の可食性積層体は、高級脂肪酸または(および)油脂素材が含まれている第2の層がなくても、セルロースエーテル自身による脂質含有食品との親和性の良さから、装飾層をその脂質含有食品に付着させることができる。
【0019】
そして、この別のフィルム状の可食性積層体においても、既述したフィルム状の可食性積層体と同様の理由により、その第1の層は、グリセリンまたは(および)糖アルコールが含まれていることが望ましく、また、前記糖アルコールは、ソルビトールであることが望ましい。また、同様の理由により、前記第1の層には、さらに、トレハロースが含まれていることが望ましい。また、この別のフィルム状の可食性積層体においても、前記介在皮膜層には、ツェインが含まれることが望ましい。ツェインは、装飾層と第1の層の双方との接着性に優れるとともに、耐熱性にも優れている。
【0020】
また、この発明に係る前記フィルム状の可食性積層体あるいは前記別のフィルム状の可食性積層体は、前記装飾層および付着層が、支持材に、剥離可能に支持されて積層されていることが望ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムあるいは紙類からなる支持材に、前記装飾層および付着層が、剥離可能に支持されて積層されることにより、フィルム状の可食性積層体の取り扱いが容易となる。
【0021】
さらに、前記フィルム状の可食性積層体あるいは前記別のフィルム状の可食性積層体を脂質含有食品に付着することにより、それらフィルム状の可食性積層体が備える装飾層によって装飾された脂質含有食品が得られる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
この発明の第一の実施の形態に係る、可食性積層体1は、図1に示すように、少なくとも、食用可能な装飾層2と、その装飾層2の下層側に、装飾層2を食品に付着させるための、食用可能な付着層3とを備えるフィルム状の積層体(可食性フィルム)である。
【0024】
装飾層2は、例えば、食用可能な金、銀またはプラチナ、あるいは、食品添加物として利用できるその他の金属の皮膜層からなるのが好ましい。食用可能な金とは、食用可能な純度を有する金からなるものであればよく、例えば、日本国の食品衛生法4条違反として措置されない程度の純度を有する金、すなわち、金の組成率が94.4%、銀の組成率が4.9%、銅の組成率が0.7%程度の純度を有する金であれば使用することができる。もちろん、金の組成率は、前記数値に限定されるわけではないが、前記数値以上であることが望ましい。銀、プラチナおよび、食品添加物として利用できるその他の金属についても、食用可能な純度を有するものであればよく、銀、プラチナおよび、食品添加物として利用できるその他の金属の組成率が特定の数値からなるものに限られない。また、装飾層2は、可食性着色材が添加された可食性コーティング材の着色皮膜層から形成されていてもよい。使用される可食性着色材としては、例えば、オレンジ、カウベリー、柿、クチナシ、クサギ、ウグイスカズラ、エルダーベリー等の果実色素からなる食用インキとか、赤キャベツ、紫キャベツ等の野菜色素とか、また、魚鱗粉、イカ墨、甲殻類色素、オキアミ色素、甘草色素、カラメル色素の着色材を用いることができ、また、カロブ色素、カカオ色素、ウコン色素、アカネ色素、アナトー色素、アルカネット色素、赤米色素等のその他の色素の着色材を用いてもよく、さらに、日本国の食品衛生法で認められている合成着色材を用いてもよい。また、可食性コーティング材としては、例えば、セラック、ツェイン等を好適に用いることができる。これらの着色皮膜層からなる装飾層2が、食品に付着されると、その食品の外観を装飾し、美感を与える。
【0025】
次に、付着層3は、装飾層2を食品に付着させる機能を有し、その食品と接触する接触面cを備えるとともに高級脂肪酸または(および)油脂素材が浸透することが可能な第1の層3aと、その第1の層3aよりも装飾層2側に、高級脂肪酸または(および)油脂素材を含有する第2の層3bとを、少なくとも有する食用が可能な素材によって構成される。
【0026】
第1の層3aには、フィルム形成可能な多糖類または多糖類の誘導体が含まれていると良い。第1の層3aが、フィルム形成可能な多糖類またはその誘導体によって、多孔性フィルム状になると、第2の層3bに含まれる高級脂肪酸または(および)油脂素材は、その多孔性フィルム状の層によって形成されるすきまを通して第1の層3aを浸透することが可能となる。第1の層3aを浸透した高級脂肪酸または(および)油脂素材は、食品との接触面cにまで到達する。ここで、その食品が脂質含有食品である場合、その食品自身も高級脂肪酸とか油脂素材と同じか、もしくは類似の親油性の成分を含んでいるので、可食性積層体1が、親和性良くその食品上に付着される。
【0027】
なお、フィルム形成可能な多糖類または多糖類の誘導体としては、例えば、セルロースエーテル、アルギン酸塩、カラギーナン、プルラン等があるが、これらに限定される訳ではない。
【0028】
フィルム形成可能な多糖類または多糖類の誘導体は、アルギン酸塩、カラギーナン、プルラン等のように親水性の性質を有するものが多い。ところが、前記親水性の食品素材は、脂質含有食品に多く含まれる親油性の成分との親和性がよくない。そのため、前記親水性の食品素材を用いて形成される可食性積層体1は、前記第1の層3aを浸透した高級脂肪酸または(および)油脂素材の作用によって、脂質含有食品に付着させることはできても、長期間その効果を持続させることは難しい。
【0029】
そこで、本発明の可食性積層体1を、特に脂質含有食品に適用する場合には、第1の層3aに両親媒性の化合物であるセルロースエーテルが含まれていると良い。セルロースエーテルは、両親媒性の化合物であるので、親水性の性質とともに親油性の性質をも有し、脂質含有食品に多く含有される親油性の成分との親和性が良い。
【0030】
食用可能な代表的なセルロースエーテルとしては、メチルセルロースとかヒドロキシプロピルメチルセルロースが知られている。これらはいずれも、セルロースの水酸基の約2/3がメトキシ基あるいはヒドロキシプロポキシ基で置換されており、この置換度の程度は、親水性の性質を付与する一方で、親油性の性質をも持たせることができる。
【0031】
セルロースエーテルによって成形される第1の層3aは、多孔性フィルム状ですきまを持っているので、第2の層3bに含まれる高級脂肪酸とか油脂素材は、そのすきまを通って浸透して、食品との接触面cに到る。適用される食品が脂質含有食品である場合には、可食性積層体1は、前述したように、高級脂肪酸とか油脂素材の作用によって、その食品に親和性良く付着される。さらに、セルロースエーテルも、また、両親媒性の性質を有することにより、脂質含有食品の親油性の成分と親和性良く作用するので、可食性積層体1は、安定してその食品に付着される。
【0032】
もっとも、第1の層3aが食用可能なセルロースエーテルによって成形される場合には、高級脂肪酸または(および)油脂素材が含まれている第2の層3bがなくても、セルロースエーテル自身による脂質含有食品との親和性の良さから、可食性積層体1をその食品に付着させることが可能である。この場合、装飾層2は、食用可能なセルロースエーテルによって成形される第1の層3aに直接、積層されるよりも、後述するように、装飾層2を第1の層3aに定着させるための介在皮膜層3cを介して、積層されるのが好ましい。すなわち、この発明の第二の実施の形態に係る、可食性積層体1aは、図4に示されるように、食用可能な装飾層2と、その装飾層2を食品に付着させるための食用可能な付着層3とを備えてなるフィルム状の積層体(可食性フィルム)であって、前記付着層3は、食用可能なセルロースエーテルを含有する第1の層3aと、その第1の層3aよりも前記装飾層2側に、その装飾層2を前記第1の層3aに定着させるための、介在皮膜層3cとを有する。
【0033】
また、セルロースエーテルは、粘稠な溶液であるので、通常は純水に溶解させて適当な粘度に調整し、例えば、ナイフコーター、グラビアコーター、あるいはリバースコーターといった塗布装置を利用してフィルム成形化し、所望の厚さに調整する。なお、付着層3を構成するその他の層、すなわち第一の実施の形態における前記第2の層3b、並びに、第一および第二の実施の形態における介在皮膜層3cを形成するときにも、前記ナイフコーター、グラビアコーター、あるいはリバースコーターを使用すると良い。
【0034】
また、油脂素材とは、油脂を主材とする原料のことである。例えば、植物性の油脂素材として、あまに油、えごま油、オリーブ油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、ひまわり油等が挙げられ、また、動物性の油脂素材として、魚油、肝油、骨油、牛脂、豚油、馬油等が挙げられるが、食用が可能であれば、これらに限らず、本発明に使用することができる。
【0035】
また、高級脂肪酸とは、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノール酸、リノレン酸等に代表される炭素数11以上の長鎖の脂肪酸のことである。これらの脂肪酸を単一で使用しても良いし、また、二種以上複数種の混合物を用いても構わない。
【0036】
もっとも、オレイン酸は、第2の層3bを構成するオレイン酸以外の素材(後述するセラックとかツェイン)との親和性が良いので、優れている。また、第2の層3bのフィルム形成化を容易にするための溶媒としての機能もある。
【0037】
なお、第2の層3b中には、油脂素材と高級脂肪酸のいずれか一方のみが含まれていても、また、併存して含まれていても問題はない。
【0038】
ところで、第1の層3aは、フィルム形成された後、長時間経つと、水分の過剰な乾燥による剥離現象が見られることがある。したがって、第1の層3aは、保湿材として、グリセリンまたは(および)糖アルコールが含まれていることが望ましい。糖アルコールの代表的なものとして、ソルビトール、マルチトール、キシリトール等が知られている。
【0039】
糖アルコールは、保湿効果が知られているので、この糖アルコールをグリセリンと共に、もしくは単独で、第1の層3aの構成成分として添加すると、第1の層3a内の保湿能が向上する。
【0040】
グリセリンも、また、吸湿性の強い粘稠な液体であり、半乾燥食品、和菓子、ゼリー菓子などの新鮮味保持や、寒冷時におけるチューイングガムの軟化、砂糖などの結晶析出防止に使用されている。したがって、第1の層3aの構成成分として、グリセリンのみを添加しても有効に作用する。
【0041】
糖アルコールとグリセリンの併用使用は、これらの配合割合を変更することにより、保湿能を微妙に調整できるので、有利である。ここで、糖アルコールの中でも、特に、ソルビトールを使用すると、保湿効果がより有効に発揮される。
【0042】
第1の層3aは、さらに、トレハロースが含まれていることが望ましい。トレハロースは、高湿度条件下においても、ほとんど吸放湿しない安定な糖質で、食品の乾燥や凍結に対する保護作用を有する。例えば、トレハロースを添加せずに可食性積層体1(1a)を成形すると、その可食性積層体1(1a)は、食品に対して長期間、安定して付着されないことがわかる。この現象は、吸放湿しない安定な糖質であるトレハロースを第1の層3aに添加することにより、効果的に防止できる。
【0043】
次に、第2の層3bには、セラックまたはツェインが含まれることが望ましい。
【0044】
セラックは、カイガラムシ科ラックカイガラムシの分泌する樹脂状物質であり、食品に適用可能な動物性の天然樹脂である。高級脂肪酸とか油脂素材が、例えば、前記オレイン酸のようにセラックの可溶化材として作用するものである場合、第2の層3bのフィルム形成が容易になる。
【0045】
一方、ツェインは、水に溶けないトウモロコシ蛋白の一種であり、可食性コーティング材として、セラック同様に優れた皮膜性、接着性を有する。また、高度に脱色されたツェインを使用すると、隣接する装飾層2に対して色相面で影響を及ぼすことがないので、装飾層2の本来の色、艶が損なわれることがなく、有利である。
【0046】
また、これらのセラックまたはツェインに代えて、ロジン、サンダラック等の天然樹脂を第2の層3bに含有させるようにしても良い。
【0047】
ところで、装飾層2は、第2の層3bに含まれる高級脂肪酸または(および)油脂素材の影響によって、時間の経過とともに、第2の層3bから剥がれてきたり、ずれたりすることがある。このような現象が生じるのを防止するため、すなわち、装飾層2が第2の層3bに安定して積層されるように、第2の層3b上には、装飾層2を第2の層3bに定着させる機能を有する介在皮膜層3cを設けると良い。この介在皮膜層3cは、装飾層2と第2の層3bとの双方に接着可能で食用可能な素材から形成されることが必要とされ、例えば、そのような素材として、セラック、ロジン、サンダラック等の天然樹脂、あるいはツェイン等を使用することができる。
【0048】
また、この介在皮膜層3cは、装飾層2を形成するための種々の方法のうち、特に相当な熱を伴う方法により形成される場合、その熱から高級脂肪酸または(および)油脂素材を有効に保護する機能も有している。
【0049】
装飾層2を形成するための種々の方法について以下に述べる。すなわち、装飾層2が金、銀またはプラチナ、あるいは食品添加物として利用できる金属の皮膜層からなる場合は、スパッタリング法、真空蒸着法、活性化反応蒸着法、イオンプレーティング法、または箔押し印刷法によってそれらの皮膜層を形成したり、あるいは、箔打ちの金箔、銀箔もしくはプラチナ箔の手張りによってそれらの皮膜層を形成する。また、装飾層2が可食性着色材が添加された可食性コーティング材からなる着色皮膜層によって形成される場合は、可食性着色材を添加した、例えば、セラックまたはツェイン等の天然樹脂からなる、可食性コーティング材によって形成された色箔を、箔押し印刷によって転写することにより、前記着色皮膜層を形成する。また、可食性着色材を添加した可食性コーティング材を、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷手法を利用して、前記着色皮膜層を形成することができる。さらに、前記可食性着色材を添加した可食性コーティング材を、グラビアコーター等によりコーティングすることによりフィルム形成化して、前記着色皮膜層を形成することもできる。
【0050】
もっとも、スパッタリング法によれば、金、銀またはプラチナの組成率が、99.99%程度の極めて高純度の金、銀またはプラチナの皮膜層を得ることができるので有利である。
【0051】
しかしながら、スパッタリング法、真空蒸着法、活性化反応蒸着法、イオンプレーティング法、箔押し印刷法の各方法は、いずれも皮膜形成の際に、相当の熱を伴うために、第2の層3bの高級脂肪酸または(および)油脂素材が焦げて、色相が暗褐色を呈する現象がみられる。このため、第2の層3bよりも装飾層2側に位置する前記介在皮膜層3cによって、第2の層3bの高級脂肪酸または(および)油脂素材が、前記の熱から有効に保護されて、装飾層2の美感が損なわれないようにした方が良い。
【0052】
したがって、介在皮膜層3cに含まれる素材としては、可食性、接着性、および造膜性のある素材であることに加え、さらに、耐熱性の要件を満たす素材であれば、より好ましい。そして、これら全ての要件を満たす素材として、ツェインが挙げられる。前述したように、ツェインは、可食性コーティング材としての機能の他に、金、銀またはプラチナあるいは、食品添加物として利用できるその他の金属からなる装飾層2の色、艶を引き立てる効果を有し、さらに、このツェインは、前記装飾層2を形成する際の熱によっても溶解しない相当な耐熱性を有する。
【0053】
また、ツェインとともに、例えば、可食性着色材を添加すると、介在皮膜層3cが所望の色相に着色され、隣接する装飾層2に、絶妙な色相を付与することもできるので、趣がある。
【0054】
以上詳述したように、可食性積層体1(1a)は、少なくとも装飾層2と付着層3とを備えたフィルム状の積層体(可食性フィルム)からなり、各層を構成する成分は全て食用可能な素材である。そして、可食性積層体1(1a)が備える装飾層2は、例えば、エンボシング、型抜き等の方法によって文字、模様、絵柄等の像を形成することができるので、一層興趣に富んだ可食性積層体1(1a)を提供することができる。
【0055】
また、可食性積層体1(1a)は、図2(図5)に示すように、支持材4に、剥離可能に支持されて積層されているのが望ましい。可食性積層体1(1a)が支持材4に支持されていると、装飾層2に形成される文字、模様、絵柄等の像が崩れにくく、また食品に付着する際も取り扱いが容易で、好ましい。
【0056】
支持材4の素材としては、主に製造上の理由から、耐熱性、透明性、離型性および耐圧性のある素材が求められる。これらの条件を満たす素材として、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネード、ポリアミドあるいはポリエチレンテレフタレート等からなるプラスチックフィルムの他、グラシン紙、セロハン紙またはパラフィン紙等の紙類を使用することができる。
【0057】
支持材4の素材は、例えば、装飾層2および付着層3を腐食刃で型抜きする工程が必要な場合、40μm程度の厚みを有することが望ましいが、必ずしもこの数値に限定されない。また、可食性積層体1(1a)を支持した支持材4は、携帯上便利なようにロール状に巻くなどして保管すると良い。この場合、支持材4は、テープ状に細長く裁断されていると好ましい。もちろん、支持材4は、ロール状に巻かれていなくとも、例えば、カットシート状であっても良い。支持材4に支持された可食性積層体1(1a)は、例えば、ピンセット等を利用して支持材4から剥がして、食品表面に張り付けるように付着させる。
【0058】
こうして、図3に示すように、可食性積層体1(1a)が、例えば、ハート状に型抜きされて、脂質含有食品5、特に、チョコレート、バター、チーズ等のように脂質を多く含む脂質高含有食品の表面に付けられると、その可食性積層体1(1a)は、付着層3を介して、親和性良く付着し、装飾層2をその脂質含有食品5に付着できて、その食品5とともに食することができる。
【0059】
なお、この発明に係る可食性積層体1(1a)は、脂質含有食品5に限られず、例えば、ビスケット、クッキー、最中の皮または煎餅といった水分含量の少ない乾燥食品に対しても付着させることができる。このような乾燥食品に適用する場合、可食性積層体1(1a)をその食品に付着させる前に、予めその食品の装飾しようとする表面に、食用アルコールを薄く塗布すると付着し易くなる。また、この可食性積層体1(1a)は、食物に限らず飲物にも適用可能である。
【0060】
もっとも、この発明の可食性積層体1(1a)は、食品以外にも、漆器、陶器、布、紙、金属、プラスチック、ガラス、木等に付着させて、工芸品として利用しても構わない。
【0061】
【実施例】
以下、この発明の可食性積層体1およびこの可食性積層体1を付着した脂質含有食品5について、実施例に従い、詳細に説明する。
1)支持材4に第1の層3aをコーティングする工程
第1の層を構成するメチルセルロース3%、グリセリン1.4%、D−ソルビトール液0.6%、トレハロース0.6%、純水94.4%の配合比からなる溶液を調製し、ナイフコーターを用いて、支持材4のポリエチレンテレフタレートからなるフィルム(厚さ38μm)(以下、PETフィルム)にコーティングした。塗布厚さは、8μm。
【0062】
塗布厚さは、厚く調整するほど、支持材4からの剥離が容易になるが、一方で、脂質含有食品5に対する付着性がわるくなることを考慮して、許容な範囲で調整する。
【0063】
なお、PETフィルム上には、コーティングを行う前に、離型材として、食用可能なシリコーンを、極薄く塗布しておくとよい。
2)第2の層3bをコーティングする工程
第2の層3bを構成するセラック26%、オレイン酸13%、エタノール61%の配合比からなる溶液を調整し、グラビアコーターR60を用いて、前記1)で調製した第1の層3aを塗布面にして、2回、コーティングした。塗布厚さは、5μm。
【0064】
塗布厚さは、あまりに厚く調整しすぎると、機械的強度が弱くなり、また、オレイン酸を多量に含むようになるので、後のスパッタリング工程で焦げてしまうことがある。
3)介在皮膜層3cをコーティングする工程
介在皮膜層3cを構成するツェイン15%、エタノール65%、純水20%の配合比からなる溶液を調製し、グラビアコーターR80を用いて、前記2)で調製した第2の層3bを塗布面にして、2回、コーティングした。塗布厚さは、2μm。
【0065】
塗布厚さは、オレイン酸を保護するに充分な厚さが要求されるが、あまりに厚くすると、ツェインの乾燥により、PETフィルムが収縮し反ってしまうので、許容な範囲で調整する。
4)スパッタリング工程
金をターゲット(膜の材料)として、前記3)で調製した試料にスパッタリングした。スパッタリングにより、前記介在皮膜層3c上に高純度の金からなる皮膜を形成する。皮膜の厚さは、500〜800オングストローム(50〜80nm)。
【0066】
以上、1)〜4)の工程により、PETフィルム上には、第1の層3a、第2の層3b、介在皮膜層3c、金の皮膜層が順番に積層された。
5)箔押し、型抜き工程
前記4)で調製した試料をエンボシングした。すなわち、エンボシングを利用してツヤ消しを行い、金表面に変化をもたせた。エンボシングと同時に、PETフィルム上の第1の層3a、第2の層3b、介在皮膜層3c、金の着色層の部分をPETフィルムが傷つかないように型抜きし、所望の文字、模様、絵柄等からなる積層フィルム(可食性積層体1)が、PETフィルム上に残るように成形した。
6)食品への付着
前記5)で型抜きした試料は、例えば、ピンセットを利用すると、PETフィルムから容易に剥がすことができた。剥がした試料、すなわち可食性積層体1を、チョコレート、バター、チーズといった脂質含有食品5の表面に、張り付けるようにして載せると、親和性良く、付着させることができた。
【0067】
なお、第2の実施の形態に係る、第2の層3bを有しない可食性積層体1aおよびこの可食性積層体1aを付着した脂質含有食品5の実施例については、前記2)の第2の層3bをコーティングする工程が存在せず、また、介在皮膜層3cを、第1の層3aを塗布面にしてコーティングする点で相違するのみであり、その他については、前記第1の実施の形態に係る、可食性積層体1およびこの可食性積層体1を付着した脂質含有食品5の実施例を当てはめることができる。
【0068】
【発明の効果】
以上、詳述したところから明らかなように、この発明に係るフィルム状の可食性積層体およびこのフィルム状の可食性積層体を付着した脂質含有食品によれば、次の効果がある。
【0069】
請求項1に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、付着層を構成する第2の層の高級脂肪酸または(および)油脂素材が、同じく付着層を構成する第1の層に浸透することにより、例えば、チョコレート、バター、チーズといった脂質含有食品との親和性を向上させて、食用可能な装飾層を備えたそのフィルム状の可食性積層体と、前記脂質含有食品との付着性を高めることができる。
【0070】
また、第1の層は、フィルム形成可能な多糖類または多糖類の誘導体を含有していることから、第2の層の高級脂肪酸または(および)油脂素材の浸透作用が起こる。したがって、特に、脂質含有食品に適用される場合、フィルム状の可食性積層体は、その食品に親和性良く付着される。
【0071】
また、請求項2に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、フィルム形成可能な多糖類の誘導体は、セルロースエーテルであることから、特に、脂質含有食品に適用される場合、そのフィルム状の可食性積層体は、安定して付着される。
【0072】
また、請求項3に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、第1の層がグリセリンまたは(および)糖アルコールを含有することから、保湿能が向上する。
【0073】
また、請求項4に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、前記糖アルコールは、ソルビトールであることから、保湿能の向上が顕著に発揮されより効果的である。
【0074】
また、請求項5に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、さらに、第1の層がトレハロースを含有することから、食品に対してフィルム状の可食性積層体を長期間、安定的に付着させることができる。
【0075】
また、請求項6に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、第2の層がセラックまたはツェインを含有していることから、第2の層のフィルム形成を容易に行うことができる。
【0076】
また、請求項7に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、第2の層の高級脂肪酸はオレイン酸であることから、前記ツェインやセラックと親和性が良い溶媒として作用し、第2の層のフィルム形成をより容易に行うことができる。
【0077】
また、請求項8に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、第2の層よりも装飾層側に、その装飾層を前記第2の層に定着させるための介在皮膜層が設けられることにより、装飾層は、付着層から剥がれたり、ずれたりせずに安定して積層される。
【0078】
また、請求項9に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、前記介在皮膜層は、ツェインを含有することから、相当の熱を伴う方法によって装飾層が形成されるような場合でも、その熱から第2の層に含まれる高級脂肪酸または(および)油脂素材を有効に保護して、装飾層の美感を維持する効果を有する。
【0079】
また、請求項10ないし14に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、高級脂肪酸または(および)油脂素材を含有する第2の層が積層されていなくても、セルロースエーテルの作用により、そのフィルム状の可食性積層体を脂質含有食品に対しても付着させることが可能である。また、保湿能が向上し、第1の層のフィルム形成を容易にすることができる(請求項11)とともに、保湿能の向上が顕著に発揮されより効果的であり(請求項12)、さらに、食品に対してフィルム状の可食性積層体を長期間、安定に付着させることができ(請求項13)、しかも、相当の熱を伴う方法によって装飾層が形成されるような場合でも、その熱から第1の層を有効に保護する(請求項14)。
【0080】
また、請求項15に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、装飾層および付着層は、支持材に、剥離可能に支持されて積層されているので取り扱いが容易となる。
【0081】
また、請求項16に記載のフィルム状の可食性積層体によれば、支持材がプラスチックフィルムあるいは紙類からなり、かさばらない。
【0082】
また、請求項17に記載のフィルム状の可食性積層体を付着した脂質含有食品によれば、そのフィルム状の可食性積層体が備える装飾層によって装飾された脂質含有食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係るフィルム状の可食性積層体の第一の実施の形態の模式断面図である。
【図2】 同じく、支持材に支持されたフィルム状の可食性積層体を示す模式断面図である。
【図3】 フィルム状の可食性積層体が脂質含有食品に付着された状態を示す斜視図である。
【図4】 この発明に係るフィルム状の可食性積層体の第二の実施の形態の模式断面図である。
【図5】 図4に示されるフィルム状の可食性積層体の図2相当図である。
【符号の説明】
1、1a 可食性積層体 2 装飾層 3 付着層
3a 第1の層 3b 第2の層 3c 介在皮膜層
4 支持材 5 脂質含有食品
Claims (17)
- 食用可能な装飾層と、その装飾層を食品に付着させるための食用可能な付着層とを備えてなるフィルム状の可食性積層体であって、前記付着層は、高級脂肪酸または(および)油脂素材が浸透することが可能な第1の層と、その第1の層よりも前記装飾層側に、その第1の層内へ浸透する高級脂肪酸または(および)油脂素材を含有する第2の層とを、少なくとも有し、
前記第1の層は、フィルム形成可能な多糖類または多糖類の誘導体を含有することを特徴とするフィルム状の可食性積層体。 - 前記多糖類の誘導体は、食用可能なセルロースエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記第1の層は、グリセリンまたは(および)糖アルコールを含有することを特徴とする請求項2に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記糖アルコールは、ソルビトールであることを特徴とする請求項3に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記第1の層は、さらに、トレハロースを含有することを特徴とする請求項3または4に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記第2の層は、セラックまたはツェインを含有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記第2の層の高級脂肪酸は、オレイン酸であることを特徴とする請求項6に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記付着層は、前記第2の層よりも前記装飾層側に、その装飾層を前記第2の層に定着させるための介在皮膜層を有し、かつ、この介在皮膜層は、前記装飾層と前記第2の層の双方に接着可能で食用可能な素材から形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記介在皮膜層は、ツェインを含有することを特徴とする請求項8に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 食用可能な装飾層と、その装飾層を食品に付着させるための食用可能な付着層とを備えてなるフィルム状の可食性積層体であって、前記付着層は、食用可能なセルロースエーテルを含有する第1の層と、その第1の層よりも前記装飾層側に、その装飾層を前記第1の層に定着させるための介在皮膜層とを有し、かつ、この介在皮膜層は、前記装飾層と前記第1の層の双方に接着可能で食用可能な素材から形成されていることを特徴とするフィルム状の可食性積層体。
- 前記第1の層は、グリセリンまたは(および)糖アルコールを含有することを特徴とする請求項10に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記糖アルコールは、ソルビトールであることを特徴とする請求項11に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記第1の層は、さらに、トレハロースを含有することを特徴とする請求項11または12に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記介在皮膜層は、ツェインを含有することを特徴とする請求項10に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記装飾層および付着層は、支持材に、剥離可能に支持されて積層されていることを特徴とする請求項1または10に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 前記支持材は、プラスチックフィルムあるいは紙類からなることを特徴とする請求項15に記載のフィルム状の可食性積層体。
- 請求項1または10に記載のフィルム状の可食性積層体を付着してなる脂質含有食品。
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