JP3672475B2 - パンの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パンの製造方法に関するものであり、特にコンニャク精粉の水和ゾルを用いたパンの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、パンは小麦粉又はその他の穀粉を主原料とし、これにイースト及び食塩並びに水を添加してパン生地を作製し、発酵させた後、焙焼又は蒸し加熱することによって製造されている。
【0003】
しかしながら、このようにして製造されたパンは、使用した水分の大半が消失しているため、製造直後から急速に硬化が進行して、時間の経過と共にソフトでしっとりした食感が失われる。これを防ぐために、砂糖や脂肪分などを添加することが通常行われているが、硬化防止が十分でないうえ、弾力性に欠け、咀嚼するほどネトついた食感のパンとなりやすい。
【0004】
一方、食物繊維を添加してパンを製造することも行われ、その一つとして、市販こんにゃくの原料であるコンニャク精粉を小麦粉などの主原料に添加することも試行されている。コンニャク精粉は食物繊維でカロリーがゼロに近く、整腸作用やコレステロールの低下作用が着目されているためである。
【0005】
しかしながら、コンニャク精粉の主成分であるグルコマンナンは、水分の吸収能に優れているにもかかわらず、十分に水分を吸収するには1時間以上の時間を要する。そのため、コンニャク精粉をそのまま小麦粉などの主原料と共に水と混合すると、コンニャク精粉と小麦粉の水分吸収の速度に差が生じてしまい、どちらも十分に吸水できない状態となってしまう。このため、コンニャク精粉がダマになったり、小麦粉に必要な水分が不足しやすくなり、水分の偏在化のために良好なパン生地が得られず、商品化に至っていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
コンニャク精粉を使用して高品質なパンを製造する方法として、特開平10−179012号公報には、パン生地の製造に必要な水として、自由水の代わりにグルコマンナン(コンニャク精粉)の水和ゲルを使用してパンを製造することが提案されている。この方法によれば、パンの老化防止、弾力性保持、ネト食感の防止などの効果が得られるとされている。
【0007】
しかし、グルコマンナンの水和ゲルを製造するには、同公報にも記載されているように、グルコマンナン即ちコンニャク精粉を水と攪拌混合して膨潤させ、水酸化ナトリウムなどの凝固剤によりゲル化させなければならない。この凝固剤によるゲル化は、市販こんにゃくの製造と同じであって、攪拌により均一に混合しなければ均質な水和ゲルを得ることができない。
【0008】
しかも、使用する水和ゲルには水酸化ナトリウムなどの凝固剤成分が含まれるため、凝固剤成分であるアルカリがパンに残留してしまう。このため、パンの製造過程で小麦粉の物性が変化したり、イーストの発酵が低下するうえ、アルカリの残留量によってはパン自体にアルカリ臭やアルカリ味が残るという大きな欠点があった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、食物繊維であるコンニャク精粉を利用して、異臭や異味の無いのは勿論のこと、優れたソフト感やウエット感と食感を有すると共に、経時的な硬化を防止してウエット感やソフト感を保持できる、高品質なパンの製造方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明における小麦粉又はその他の穀粉を主原料とするパンの製造方法は、水に対し0.1〜2.0重量%のコンニャク精粉を添加混合して水和ゾルを調整し、このコンニャク精粉の水和ゾルと水を前記主原料に添加してパン生地を作製することを特徴とする。
【0011】
上記本発明のパンの製造方法において、前記コンニャク精粉の水和ゾルは、予め包装した状態において、100〜130℃で常圧又は加圧下に加熱処理したものであることを特徴とする。
【0012】
また、上記本発明のパンの製造方法においては、前記コンニャク精粉の水和ゾルを前記主原料に対し0.1〜50.0重量%添加することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明では、コンニャク精粉そのもの又はコンニャク精粉を水酸化ナトリウムのような凝固剤で固めた水和ゲルを使用するのではなく、コンニャク精粉の水和ゾルを使用するものであり、これを小麦粉又はその他の穀粉からなる主原料に添加してパン生地を作製しする。作製したパン生地は、通常のごとく、発酵させた後、焙焼するか又は蒸し加熱することによりパンを製造することができる。
【0014】
コンニャク精粉とは、市販こんにゃくの原料であるこんにゃく芋を加工した粉であり、好ましくは精製し、脱臭処理したものを使用する。このコンニャク精粉に水を加えて膨潤させることにより、本発明で使用する水和ゾルが得られる。水に対するコンニャク精粉の添加割合は、0.1重量%未満ではペースト状にならず、5.0重量%を越えると、主原料と混合したとき別途添加する水の量に拘わらず水分の偏在が起こりやすくなり、均一な混合が難しくなるので、0.1〜5.0重量%の範囲が好ましく、0 . 1〜2 . 0重量%の範囲が更に好ましい。
【0015】
一般に、コンニャク精粉の水和ゾルは保存性に欠け、腐敗しやすいうえ、数時間で粘度が低下してしまう。このため、コンニャク精粉は、水和ゾルとした後更に水酸化ナトリウムなどの凝固剤でゲル化して市販こんにゃくや白滝として食される以外には、水和ゾルの状態では従来から食品材料として殆ど使用されていない。従って、本発明方法においてコンニャク精粉に水を添加して作製した水和ゾルは、一般的には、その後あまり時間をおかず数時間以内に主原料と混合してパンを製造することが好ましい。
【0016】
しかし、このように保存性に欠けるコンニャク精粉の水和ゾルも、包装した状態において、100〜130℃で常圧又は加圧下に15〜150分程度の加熱処理することにより、常温でも長期保存が可能となることが判明した。即ち、作製したコンニャク製粉の水和ゾルに上記加熱処理を施せば、経時的な粘度低下を防止でき、細菌の繁殖を防ぐことができるので、小麦粉などの主原料に添加する前に長期にわたって保存することも可能である。
【0017】
パン生地の作製に際しては、上記コンニャク精粉の水和ゾルを小麦粉などの主原料に添加し、イースト及び食塩、水を加え、更に必要に応じて糖その他の添加物を加えて混合する。コンニャク製粉の水和ゾルの添加量は、少ないと添加の効果がなく、また多すぎてもパンの食感が損なわれるので、主原料に対して0.1〜50.0重量%の範囲が好ましく、1〜10重量%の範囲が更に好ましい。
【0018】
また、パン生地の作製には水を必要とするが、コンニャク精粉の水和ゾルは多くの水を含有しているので、パン生地の作製に必要な水の一部の代わりにコンニャク精粉の水和ゾルに含まれる水を使用することができる。即ち、添加するコンニャク精粉の水和ゾルに含まれる水の量だけ、パン生地の作製時に自由水として添加する水の量を少なくすることができる。
【0019】
このようにして作製したパン生地は、通常のごとく発酵させ、焙焼又は蒸し加熱することにより、シットリ感があり且つきめが細かく、経時的な硬化が遅く、2〜3日経過してもソフト感やシットリ感を保持できる高品質なパンを得ることができる。また、コンニャク精粉の水和ゾルは、優れた保水性と乳化力を有し、多量の水で膨潤されているため、短時間で簡単に良質なパン生地を作製することができると共に、水和ゲルのように凝固剤のアルカリを含まないので、得られるパンにアルカリの臭や味が残ることはない。
【0020】
【実施例】
精製と脱臭処理を施した市販のコンニャク精粉を水に対し2.0重量%となるように添加して攪拌し、十分に膨潤したことを確認した後、容器に密封して110〜120℃で40分間加熱処理した。得られたコンニャク精粉の水和ゾルは、常温で7日間保持した後も、粘度の低下や細菌の増殖が認められず、優れた保水性と長期保存性を有することが分かった。
【0021】
このコンニャク精粉の水和ゾルが小麦粉の物性に与える影響を調べるために、小麦粉に対してコンニャク精粉の水和ゾルを2〜3重量%添加して、公知のファリノグラフ試験を行った。その結果、無添加の試料と比較して、コンニャク精粉の水和ゾル1重量%当たりの吸水率は平均−0.7%であった。また、無添加の試料と比較して生地のまとまる時間に差は認められなかったが、伸展性に優れていることが分かった。
【0022】
次に、上記コンニャク精粉の水和ゾルを用いて、パンの焼き上げ試験と、破断強度試験を実施した。即ち、70%中種生地法により、100重量%の小麦粉に対して、合計で、イースト2.0重量%、食塩2.0重量%、グラニュー糖4.0重量%、ショートニング4.0重量%、水和ゾル2 . 0又は3 . 0重量%、及び水65.5〜67.5重量%の配合でパン生地を作製した。このパン生地を通常のごとく発酵した後、焼き上げを行ってパンを製造した。
【0023】
得られた本実施例のパンは、コンニャク精粉の水和ゾルを添加しなかった比較試料のパンと比べて、表皮及び内部の色相に差異はなかったが、気泡は僅かに細かく且つ気泡膜が薄く伸展して比較試料のパンよりも優れたス立を示すと共に、触感は比較試料のパンによりもソフト感及びウエット感に優れ、食味も優れていた。また、本実施例のパンは、コンニャク精粉の水和ゲルのように凝固剤である水酸化ナトリムなどを含まないので、アルカリ臭やアルカリ味が全くないことは言うまでもない。
【0024】
また、得られた各パンの体積を調べたところ、コンニャク精粉の水和ゾルを添加していない比較試料の体積を100としたとき、コンニャク精粉の水和ゾルの添加量が2.0重量%の試料の体積は101.6であり、及び同水和ゾルの添加量が3.0重量%の試料の体積は102.7であって、本発明によるパンは比較試料のパンよりも大きくなっていることが分かった。
【0025】
更に、上記と同様に焼き上げたパンを24℃と5℃でそれぞれ2日間放置した後、破断強度試験を行った。即ち、各試料のパンを厚さ13mmにスライスした後、32mm×32mmのプランジャーで50%まで圧縮したときの荷重(g)を求めた。その結果、24℃で保存した場合、コンニャク精粉の水和ゾルを添加していない比較試料の荷重を100としたとき、コンニャク精粉の水和ゾルの添加量が2.0重量%の試料では93.5及び同添加量が3.0重量%の試料では92.1であった。また、5℃で保存した場合には、コンニャク精粉の水和ゾルの添加量が2.0重量%の試料では92.5及び同添加量が3.0重量%の試料では91.7であった。
【0026】
この破断強度試験の結果から分かるように、コンニャク精粉の水和ゾルを添加して製造した本発明のパンは、室温(24℃)及び冷蔵庫(5℃)で保存しても柔らかく、ソフト感を維持することができ、2〜3日間であれば硬化の進行を防止できる。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、食物繊維であるコンニャク精粉の水和ゾルを添加することにより、水酸化ナトリウムなどの凝固剤で固めた水和ゲルを用いた場合のようなアルカリの異臭や異味が無いのは勿論のこと、優れたソフト感やウエット感と食感を有すると共に、室温又は冷蔵庫で2〜3日間保存しても経時的な硬化を防止でき、ウエット感やソフト感を保持できる、高品質なパンの製造方法を提供することができる。

Claims (3)

  1. 小麦粉又はその他の穀粉を主原料とするパンの製造方法において、水に対し0.1〜2.0重量%のコンニャク精粉を添加混合して水和ゾルを調整し、このコンニャク精粉の水和ゾルと水を前記主原料に添加してパン生地を作製することを特徴とするパンの製造方法。
  2. 前記コンニャク精粉の水和ゾルは、予め包装した状態において100〜130℃で常圧又は加圧下に加熱処理したものであることを特徴とする、請求項1に記載のパンの製造方法。
  3. 前記コンニャク精粉の水和ゾルを、前記主原料に対し0.1〜50.0重量%添加することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパンの製造方法。
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