JP3671754B2 - 車線追従装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車線情報を取り込み、操舵トルクを操舵力伝達系に与えることで前方車線に自車を追従させる車線追従を行う制御装置、もしくは、操舵反力トルクを操舵力伝達系に与えることで前方車線に自車を追従させるべくドライバー操舵をサポートする制御装置として適用される車線追従装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両前方の車線状況を検知し、この情報から車両の目標ラインを算出して、車線追従制御を行う車線追従装置としては、例えば、特開平8−337181号公報に記載のものが知られている。
【0003】
この公報には、走行車線内の障害物や先行車を検知し、速やかに先行車(障害物)を回避するべく車線を変更する技術が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の車線追従装置にあっては、同じ操舵力伝達系に設けられているパワーステアリング装置の特性変化によらず、一定の車線追従制御特性により車線追従制御を行う装置としているため、パワーステアリング装置の特性が変化すると、車線追従制御特性も変化することになり、安定した車線追従制御性能を得ることができないという問題点があった。
【0005】
本発明は上記課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、パワーステアリング装置の特性変化にかかわらず、安定した車線追従制御性能が実現される車線追従装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、操舵力伝達系に設けられ、操舵トルクもしくは操舵反力トルクを与える車線追従制御用の操舵アクチュエータと、
前方道路の車線状態を検出する車線情報検出手段と、
目標とする車両の走行車線である目標ラインが設定されている目標ライン設定手段と、
車線追従制御時、前記車線情報と前記目標ラインとに基づいて、前記目標ラインに自車を追従させる制御指令を前記操舵アクチュエータに対し出力する車線追従制御手段と、
を備えた車線追従装置において、
操舵力伝達系の前記操舵アクチュエータとは異なる位置に設けられているパワーステアリング装置と、
前記パワーステアリング装置の実アシスト力を検出する実アシスト力検出手段と、
前記パワーステアリング装置が正常時の推定アシスト力を演算する推定アシスト力演算手段と、
前記実アシスト力と前記推定アシスト力との特性偏差を演算し、前記実アシスト力が前記推定アシスト力に対し所定の偏差しきい値よりも低下していることを判別するアシスト力特性判別手段と、
前記アシスト力特性判別手段で前記実アシスト力の低下が判別されたとき、前記実アシスト力の低下を補うように前記車線追従制御手段の制御特性を補正する車線追従制御特性補正手段と、
を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の車線追従装置において、
前記車線追従制御手段に、パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、パワーステアリング装置に代え、車線追従制御用の操舵アクチュエータを用いて操舵アシスト力を付与する操舵アシスト制御部を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明では、請求項2記載の車線追従装置において、
前記操舵アシスト制御部を、パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、車線追従制御時における操舵アクチュエータへの出力制限を外して最大出力指令を出す最大アシスト制御モードと、最大アシスト制御モード中に直進走行が検出された場合、徐々にアシスト力を減少させるアシスト力減少制御モードと、アシスト力の減少によりアシスト力がゼロとなった時点からマニュアルステアリングとするマニュアルステアリングモードによる制御部としたことを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の車線追従装置において、
前記パワーステアリング装置を、油圧によりアシスト力を得る油圧式パワーステアリング装置とし、
前記車線追従制御手段に、パワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、パワーステアリング装置によるアシスト力に、操舵アクチュエータによるアシスト力を加え、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償を行う油温補償制御部を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明では、請求項4記載の車線追従装置において、
前記油温補償制御部を、パワーステアリング装置の操舵周波数に対するゲイン特性を油温の高低にかかわらず一定とする動特性油温補償と、パワーステアリング装置の操舵角に対するアシスト力特性を油温の高低にかかわらず一定とする静特性油温補償による制御部としたことを特徴とする。
【0011】
【発明の作用および効果】
請求項1記載の発明では、車線追従制御時、車線情報検出手段において、前方道路の車線状態が検出され、目標ライン設定手段において、目標とする車両の走行車線である目標ラインが設定され、車線追従制御手段において、車線情報と目標ラインとに基づいて、目標ラインに検出される自車走行ラインを一致させる指令、つまり、目標ラインに自車を追従させる制御指令が、操舵力伝達系に操舵トルクもしくは操舵反力トルクを与える操舵アクチュエータに出力される。
【0012】
そして、実アシスト力検出手段において、パワーステアリング装置の実アシスト力が検出され、推定アシスト力演算手段において、パワーステアリング装置が正常時の推定アシスト力が演算され、アシスト力特性判別手段において、実アシスト力と推定アシスト力との特性偏差が演算され、実アシスト力が推定アシスト力に対し所定の偏差しきい値よりも低下していることが判別されると、車線追従制御特性補正手段において、実アシスト力の低下を補うように車線追従制御手段の制御特性が補正される。
【0013】
よって、例えば、パワーステアリング装置の特性が正常時に比べてアシスト力が低い特性に変化している場合、低くなったアシスト力分を車線追従制御用の操舵アクチュエータにより補充しながら車線追従制御が行われることになるというように、パワーステアリング装置の特性変化にかかわらず、安定した車線追従制御性能を実現することができる。
【0014】
請求項2記載の発明では、パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、車線追従制御手段の操舵アシスト制御部において、パワーステアリング装置に代え、車線追従制御用の操舵アクチュエータを用いて操舵アシスト力が付与される。
【0015】
よって、従来のシステムでは、手動操舵により旋回途中でパワーステアリング装置がアシスト失陥すると、操舵アシスト力が無くなることで、急激な操舵力変化が発生し、ドライバーに違和感を与えることになる。これに対し、アシスト失陥時に、パワーステアリング装置に代え、車線追従制御用の操舵アクチュエータを用いて操舵アシスト力を付与する制御が操舵アシスト制御部において行われることで、アシスト失陥時の急激な操舵力変化を防止することができる。
【0016】
請求項3記載の発明では、パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出され、操舵アシスト制御部において制御が開始されると、まず、車線追従制御時における操舵アクチュエータへの出力制限を外して最大出力指令を出す最大アシスト制御モードとされ、この最大アシスト制御モード中に直進走行が検出された場合、徐々にアシスト力を減少させるアシスト力減少制御モードとされ、さらに、アシスト力の減少によりアシスト力がゼロとなった時点からマニュアルステアリングとするマニュアルステアリングモードとされる。
【0017】
つまり、車線追従制御において操舵アクチュエータは、通常、ドライバーによる操舵力分の出力しか発生しないように電流等の出力制限を行っているが、アシスト失陥時にはその出力制限を外し、ステアリングアシスト力として必要な出力を発生させる。しかし、最大出力を続けると、操舵アクチュエータの能力不足により、ある時間で操舵アクチュエータが破損に至る場合もあり得る。そこで、破損にまで至らない時間内に徐々にアシスト力を少なくし、最終的にはマニュアルステアリングとする。この徐々にアシスト力を落とすのは、操舵アシスト力を必要としない車両直進時に行う。
【0018】
これにより、操舵時にアシスト失陥が発生しても、直ちに最大アシスト制御モードに入ることで高いアシスト能力により急激な操舵力変化が抑えられると共に、直進走行を確認してアシスト力減少制御モードに入り、車線追従制御システム側でのアシスト力を解除することで、ドライバーへアシスト力解除違和感を与えることなく、操舵アクチュエータの破損を防止することができる。
【0019】
請求項4記載の発明では、油圧式のパワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、車線追従制御手段の油温補償制御部において、パワーステアリング装置によるアシスト力に、車線追従制御用の操舵アクチュエータによるアシスト力が加えられ、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償が行われる。
【0020】
よって、油圧式のパワーステアリング装置の場合、低油温時において油の粘度の影響で十分なアシスト力が発生しないことがある。これに対し、油圧式のパワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償が油温補償制御部において行われることで、油温が低温から高温まで安定したパワーステアリング特性を実現することができる。
【0021】
請求項5記載の発明では、油温補償制御部において、パワーステアリング装置の操舵周波数に対するゲイン特性を油温の高低にかかわらず一定とする動特性油温補償と、パワーステアリング装置の操舵角に対するアシスト力特性を油温の高低にかかわらず一定とする静特性油温補償とが行われる。
【0022】
よって、動特性油温補償により油温が低温から高温まで安定したゲイン特性、つまり、操舵速度に対する応答が油温にかかわらず一定となり、静特性油温補償により油温が低温から高温まで安定したアシスト力特性、つまり、操舵角に対するアシスト力が油温にかかわらず一定となり、過渡応答を含めて安定したパワーステアリング特性を実現することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
実施の形態1は請求項1〜6に記載の発明に対応する車線追従装置である。
【0024】
まず、構成を説明する。
【0025】
図1は実施の形態1の車線追従装置が適用された自動車用操舵系を示す全体システム図であり、図1において、1はステアリングホイール、2はステアリングシャフト(操舵力伝達系に相当)、3は自在継手、4はラックアンドピニオン式ステアリングギヤボックス、5はサイドロッド、6はウォームホイールギヤ、7はモータ(操舵アクチュエータに相当)、8はウォームギヤ、9は電磁クラッチ、10は操舵角センサ、11はCCDカメラ(車線情報検出手段に相当)、12は車線追従コントローラ(車線追従制御手段に相当)、13は自動操舵スイッチ、14は操舵トルクセンサ、15はパワーステアリングコントローラ、16は車速センサ、17はエンジン回転センサ、18は油圧センサ、19はパワステソレノイド、20は油温センサである。
【0026】
前記ステアリングシャフト2は、ステアリングホイール1と一体に回転するアッパーシャフト2aと、アッパーシャフト2aとは自在継手3により連結されたロアシャフト2bとで構成され、アッパーシャフト2aの上端にステアリングホイール1が取り付けられ、ロアシャフト2bの下端に設けられたピニオンがラックアンドピニオン式ステアリングギヤボックス4内で車両左右方向に延びるサイドロッド5の螺合されている。
【0027】
前記アッパーシャフト2aの下部には、ウォームホイールギヤ6が設けられ、これに螺合するウォームギヤ8がモータ7のモータ軸に設けられ、モータ駆動によりアッパーシャフト2aにモータ操舵トルクが与えられる。尚、モータ7には電磁クラッチ9が内蔵されている。
【0028】
前記操舵角センサ10は、アッパーシャフト2aの上部に設けられていて、アッパーシャフト2aの回転角θを検出し、その信号を車線追従コントローラ12に送る。そして、車線追従コントローラ12の実操舵角演算部では、回転角θとステアリングギヤ比を用いて実操舵角θdが算出される。
【0029】
前記CCDカメラ11は、進行方向の前方道路を撮影し、その映像信号を車線追従コントローラ12に送る。そして、車線追従コントローラ12の画像処理部では、CCDカメラ11からの信号に基づく前方映像を画像処理し、白線あるいはセンターラインなどの前方車線の境界線が抽出識別される。
【0030】
前記車線追従コントローラ12では、自動操舵モード選択時、自車走行状態情報と設定された目標ライン情報に基づいて、目標ラインに自車を追従させるために必要な目標操舵トルクTrが算出され、目標操舵トルクTrを得るべく前記モータ7に対し制御指令(モータ電流)を出力する車線追従制御が行われる。なお、制御による操舵状態は検出された実操舵角θdによりフィードバックされる。加えて、パワーステアリング装置の特性変化や失陥に応じた対応制御や油温補償制御が併せて行われる。
【0031】
前記自動操舵スイッチ13は、車室内のドライバーが操作可能な位置に設けられ、スイッチON操作により自動操舵モードに入る。
【0032】
前記操舵トルクセンサ14は、アッパーシャフト2aの上部に操舵角センサ10と隣接して設けられていて、ステアリングホイール1からのドライバー入力トルクに応じた捩れ角φを検出し、その信号を車線追従コントローラ12に送る。そして、車線追従コントローラ12の実操舵トルク演算部では、捩れ角φを用いて実操舵トルクTdが算出される。
【0033】
前記パワーステアリングコントローラ15は、車速センサ16及びエンジン回転センサ17からの入力情報に基づき、低速であるほどアシスト力を高くする車速感応のアシスト力特性を得る制御指令をパワステソレノイド19に出力する。なお、このパワーステアリングコントローラ15から車線追従コントローラ12へは、制御指令に基づくアシスト力特性信号が送られる。
【0034】
前記車速センサ16は、車速を検出し、パワーステアリングコントローラ15に送る。
【0035】
前記エンジン回転センサ17は、エンジン回転数を検出し、パワーステアリングコントローラ15に送る。
【0036】
前記油圧センサ18は、アシスト力となるパワーステアリング油圧を検出し、車線追従コントローラ12に送る。
【0037】
前記パワステソレノイド19は、操舵時にパワーステアリングコントローラ15からの制御指令により作動する。
【0038】
前記油温センサ20は、パワーステアリング油温を検出し、車線追従コントローラ12に送る。
【0039】
次に、作用を説明する。
【0040】
[車線追従制御処理]
図2は車線追従コントローラ12の車線追従制御部で自動操舵スイッチ13のON操作により開始される車線追従制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0041】
ステップ30では、進行方向の前方道路を撮影するCCDカメラ11からの映像信号を処理する画像処理部からの自車走行状態情報と、油圧センサ18からのパワーステアリング圧情報と、パワーステアリングコントローラ15からの車速及びエンジン回転情報が読み込まれ、ステップ31へ進む。
【0042】
ステップ31では、パワーステアリングコントローラ15からの車速及びエンジン回転情報によりパワーステアリングコントローラ15と同じ計算を行って推定アシスト力が演算される。一方、油圧センサ18からのパワーステアリング圧情報により実アシスト力が演算される(実アシスト力検出手段、推定アシスト力演算手段)。そして、推定アシスト力と実アシスト力との差である特性偏差が演算され、ステップ32へ進む。
【0043】
ステップ32では、特性偏差が絶対値A(正常時の誤差範囲)以下かどうかが判断され、YESの時にはステップ34へ進み、NOの時にはステップ33へ進む。
【0044】
ステップ33では、特性偏差が偏差しきい値E以上かどうかが判断され、NOの時にはステップ35へ進み、YESの時にはステップ36へ進む。なお、ステップ32及びステップ33は、アシスト力特性判別手段に相当する。
【0045】
ステップ34では、ステップ32にてアシスト力特性が正常時の誤差範囲内であるとの判断に基づき、車線追従制御ゲインGがGaに設定され、ステップ37へ進む。
【0046】
ステップ35では、車線追従制御ゲインGがGbに設定され、ステップ37へ進む。
【0047】
ステップ36では、車線追従制御ゲインGがGcに設定され、ステップ37へ進む。なお、Ga<Gb<Gcという関係にあり、ステップ34,35,36は、車線追従制御特性補正手段に相当する。
【0048】
ステップ37では、例えば、左右車線の中央位置が目標ラインYoptとして算出され(目標ライン設定手段dに相当)、この目標ラインYoptを自車が追従するのに必要な目標操舵トルクTrが算出され、ステップ38へ進む。
【0049】
ステップ38では、ステップ34,35,36のいずれかで決められた車線追従制御ゲインGと、ステップ37で演算された目標操舵トルクTrにより制御指令であるモータ電流I{=G・f(Tr)}がモータ7に対し出力される。
【0050】
[パワステ特性変化対応の車線追従制御作用]
車線追従制御時、油圧式パワーステアリング装置のアシスト力特性が正常であれば、図3のフローチャートにおいて、ステップ30→ステップ31→ステップ32→ステップ34→ステップ37→ステップ38へと進む流れとなり、車線追従制御ゲインGがGa(基準ゲイン)に設定され、操舵力伝達系に目標操舵トルクTrを与えるモータ電流Iがモータ7に対し出力される。
【0051】
また、油圧式パワーステアリング装置のアシスト力特性が正常なアシスト力よりも少し小さなアシスト力を発生しているような場合であれば、図2のフローチャートにおいて、ステップ30→ステップ31→ステップ32→ステップ33→ステップ35→ステップ37→ステップ38へと進む流れとなり、車線追従制御ゲインGがGb(>Ga)に設定され、操舵力伝達系に目標操舵トルクTrを与えるモータ電流Iがモータ7に対し出力される。さらに、油圧式パワーステアリング装置のアシスト力特性が正常なアシスト力よりもかなり小さなアシスト力を発生しているような場合であれば、図2のフローチャートにおいて、ステップ30→ステップ31→ステップ32→ステップ33→ステップ36→ステップ37→ステップ38へと進む流れとなり、車線追従制御ゲインGがGc(>Gb)に設定され、操舵力伝達系に目標操舵トルクTrを与えるモータ電流Iがモータ7に対し出力される。
【0052】
このように、油圧式パワーステアリング装置のアシスト力特性が検出され、アシスト力特性の変化レベルが判別されると、車線追従制御ゲインGが判別されたアシスト力特性に応じて設定され、判別されたアシスト力特性の変化にかかわらず、車線追従制御特性が油圧式パワーステアリング装置の正常時と同じ車線追従制御を達成するように補正される。
【0053】
よって、例えば、油圧式パワーステアリング装置の特性が正常時に比べてアシスト力が低い特性に変化している場合、低くなったアシスト力分をモータ7により補充しながら車線追従制御が行われることになるというように、油圧式パワーステアリング装置の特性変化にかかわらず、安定した車線追従制御性能を実現することができる。
【0054】
[アシスト力制御処理]
図3は車線追従コントローラ12の操舵アシスト制御部及び油温補償制御部でドライバーの操舵により開始されるアシスト力制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0055】
ステップ40では、油圧センサ18からのパワーステアリング圧情報と、操舵角センサ10からの操舵角情報と、油温センサ20からのパワーステアリング油温情報とが読み込まれ、ステップ41へ進む。
【0056】
ステップ41では、操舵時であって油圧式パワーステアリング装置においてパワーステアリング圧が発生していなければならないにもかかわらず、パワーステアリング圧の発生が無いアシスト失陥時であるかどうかが判断され、YESの時にはステップ42へ進み、NOの時にはステップ46へ進む。
【0057】
ステップ42では、モータ7への出力制限が解除され、ステップ43へ進む。
【0058】
ステップ43では、操舵角情報やCCDカメラ情報などから直進走行時であるかどうかが判断され、NOの時にはステップ44へ進み、YESの時にはステップ45へ進む。
【0059】
ステップ44では、モータ7に対し最大モータ電流により最大アシスト力を得る制御指令が出力される。
【0060】
ステップ45では、ステップ43で直進走行時であると判断されると、モータ7に対し最大モータ電流からモータ電流ゼロまで徐々にモータ電流を減少させる制御指令が出力される。
【0061】
ステップ46では、ステップ41でアシスト失陥ではないと判断されると、油圧式パワーステアリング装置の操舵周波数に対するゲイン特性を油温の高低にかかわらず一定とする動特性油温補償が行われ、ステップ47へ進む。
【0062】
ステップ47では、油圧式パワーステアリング装置の操舵角に対するアシスト力特性を油温の高低にかかわらず一定とする静特性油温補償が行われる。
【0063】
ステップ48では、操舵角と操舵速度(読み込まれた操舵角の時間微分値)に対応したアシスト制御指令がモータ7に対し出力される。
【0064】
[失陥時の操舵アシスト制御作用]
油圧式パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、図3のフローチャートにおいて、ステップ40→ステップ41→ステップ42→ステップ43→ステップ44へと進む流れとなり、油圧式パワーステアリング装置に代え、操舵アクチュエータであるモータ7を用いて操舵アシスト力が付与される。
【0065】
よって、従来のシステムでは、手動操舵により旋回途中で油圧式パワーステアリング装置がアシスト失陥すると、操舵アシスト力が無くなることで、急激な操舵力変化が発生し、ドライバーに違和感を与えることになる。これに対し、アシスト失陥時に、油圧式パワーステアリング装置に代え、操舵アクチュエータであるモータ7を用いて操舵アシスト力を付与する制御が行われることで、アシスト失陥時の急激な操舵力変化を防止することができる。
【0066】
油圧式パワーステアリング装置に代えての車線追従制御システムによる具体的な操舵アシスト制御を述べると、図4に示すように、アシスト失陥により制御が開始されると、まず、車線追従制御時におけるモータ7への出力制限を外して最大出力指令を出す最大アシスト制御モードとされる。そして、この最大アシスト制御モード中に直進走行が検出された場合、徐々にアシスト力を減少させるアシスト力減少制御モードとされ、さらに、アシスト力の減少によりアシスト力がゼロとなった時点からマニュアルステアリングとするマニュアルステアリングモードとされる。
【0067】
つまり、車線追従制御においてモータ7は、通常、ドライバーによる操舵力分の出力しか発生しないようにモータ電流の出力制限を行っているが、アシスト失陥時にはその出力制限を外し、ステアリングアシスト力として必要な出力を発生させる。しかし、最大出力を続けると、モータ7の能力不足により、ある時間でモータ7が破損に至る場合もあり得る。そこで、破損にまで至らない時間内に徐々にアシスト力を少なくし、最終的にはマニュアルステアリングとする。この徐々にアシスト力を落とすのは、操舵アシスト力を必要としない車両直進時に行う。
【0068】
これにより、操舵時にアシスト失陥が発生しても、直ちに最大アシスト制御モードに入ることで高いアシスト能力により急激な操舵力変化が抑えられると共に、直進走行を確認してアシスト力減少制御モードに入り、車線追従制御システム側でのアシスト力を解除することで、ドライバーへアシスト力解除違和感を与えることなく、モータ7の破損を防止することができる。
【0069】
[非失陥時の油温補償制御作用]
油圧式パワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、図3のフローチャートにおいて、ステップ40→ステップ41→ステップ46→ステップ47→ステップ48へと進む流れとなり、油圧式パワーステアリング装置によるアシスト力に、モータ7によるアシスト力が加えられ、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償が行われる。
【0070】
よって、油圧式パワーステアリング装置の場合、低油温時において油の粘度の影響で十分なアシスト力が発生しないことがある。これに対し、油圧式パワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償が行われることで、油温が低温から高温まで安定したパワーステアリング特性を実現することができる。
【0071】
車線追従制御システムによる具体的な油温補償制御について述べると、動特性油温補償は、図5に示すように、油圧式パワーステアリング装置の操舵周波数fに対するゲイン特性を油温の高低にかかわらず一定とする補償が行われる。また、静特性油温補償は、図6に示すように、油圧式パワーステアリング装置の操舵角に対するアシスト力特性を油温の高低にかかわらず一定とする補償が行われる。
【0072】
よって、動特性油温補償により油温が低温から高温まで安定したゲイン特性、つまり、操舵速度に対する応答が油温にかかわらず一定となり、静特性油温補償により油温が低温から高温まで安定したアシスト力特性、つまり、操舵角に対するアシスト力が油温にかかわらず一定となり、過渡応答を含めて安定したパワーステアリング特性を実現することができる。
【0073】
次に、効果を説明する。
【0074】
(1) 油圧式パワーステアリング装置のアシスト力特性が検出され、アシスト力特性の変化レベルが判別されると、車線追従制御ゲインGが判別されたアシスト力特性に応じて設定され、判別されたアシスト力特性の変化にかかわらず、車線追従制御特性が油圧式パワーステアリング装置の正常時と同じ車線追従制御を達成するように補正されるため、油圧式パワーステアリング装置の特性変化にかかわらず、安定した車線追従制御性能を実現することができる。
【0075】
(2) 油圧式パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、油圧式パワーステアリング装置に代え、操舵アクチュエータであるモータ7を用いて操舵アシスト力が付与されるため、アシスト失陥時の急激な操舵力変化を防止することができる。
【0076】
(3) 油圧式パワーステアリング装置に代えての車線追従制御システムによる操舵アシスト制御は、アシスト失陥により制御が開始されると、まず、車線追従制御時におけるモータ7への出力制限を外して最大出力指令を出す最大アシスト制御モードとされ、この最大アシスト制御モード中に直進走行が検出された場合、徐々にアシスト力を減少させるアシスト力減少制御モードとされ、さらに、アシスト力の減少によりアシスト力がゼロとなった時点からマニュアルステアリングとするマニュアルステアリングモードとされるため、高いアシスト能力により急激な操舵力変化が抑えられると共に、直進走行を確認してのアシスト力解除により、ドライバーへアシスト力解除違和感を与えることなく、モータ7の破損を防止することができる。
【0077】
(4) 油圧式パワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、油圧式パワーステアリング装置によるアシスト力に、モータ7によるアシスト力が加えられ、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償が行われるため、油温が低温から高温まで安定したパワーステアリング特性を実現することができる。
【0078】
(5) 車線追従制御システムによる油温補償制御は、油圧式パワーステアリング装置の操舵周波数fに対するゲイン特性を油温の高低にかかわらず一定とする動特性油温補償と、油圧式パワーステアリング装置の操舵角に対するアシスト力特性を油温の高低にかかわらず一定とする静特性油温補償により行われるため、操舵速度に対する応答が油温にかかわらず一定となり、また、操舵角に対するアシスト力が油温にかかわらず一定となり、過渡応答を含めて安定したパワーステアリング特性を実現することができる。
【0079】
(その他の実施の形態)
実施の形態1では、車線追従時に操舵トルクを付与する制御装置への適用例を示したが、車線追従時に操舵反力トルクを付与する制御装置へ適用しても良い。この場合、ドライバーの介入度合いが大きいほど操舵反力トルクが小さくなる制御が行われる。
【0080】
実施の形態1では、アシスト力特性判別に基づいて段階的に制御ゲインを変更する例を示したが、例えば、特性偏差に応じて無段階に制御ゲインを変更する例としても良い。
【0081】
実施の形態1では、油圧式パワーステアリング装置への適用例を示したが、モータを用いる電動パワーステアリング装置にも適用することができ、この場合、電動パワーステアリングのフェールセーフ作動信号をモニタし、車線追従制御特性の補正制御や車線追従制御システムでのアシスト制御代替えを行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1の車線追従装置が適用された自動車用操舵系を示す全体システム図である。
【図2】実施の形態1における車線追従コントローラの車線追従制御部で自動操舵スイッチのON操作により開始される車線追従制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】実施の形態1における車線追従コントローラの操舵アシスト制御部及び油温補償制御部でドライバーの操舵により開始されるアシスト力制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】アシスト失陥時に実施の形態1の車線追従制御装置でアシスト制御を行うときのタイムチャートである。
【図5】非アシスト失陥時に実施の形態1の車線追従制御装置での動特性油温補償を説明するゲイン特性図ある。
【図6】非アシスト失陥時に実施の形態1の車線追従制御装置での静特性油温補償を説明するアシスト力特性図ある。
【符号の説明】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 ラックアンドピニオン式ステアリングギヤボックス
5 サイドロッド
6 ウォームホイールギヤ
7 モータ
8 ウォームギヤ
9 電磁クラッチ
10 操舵角センサ
11 CCDカメラ
12 車線追従コントローラ
13 自動操舵スイッチ
14 操舵トルクセンサ
15 パワーステアリングコントローラ
16 車速センサ
17 エンジン回転センサ
18 油圧センサ
19 パワステソレノイド
20 油温センサ

Claims (5)

  1. 操舵力伝達系に設けられ、操舵トルクもしくは操舵反力トルクを与える車線追従制御用の操舵アクチュエータと、
    前方道路の車線状態を検出する車線情報検出手段と、
    目標とする車両の走行車線である目標ラインが設定されている目標ライン設定手段と、
    車線追従制御時、前記車線情報と前記目標ラインとに基づいて、前記目標ラインに自車を追従させる制御指令を前記操舵アクチュエータに対し出力する車線追従制御手段と、
    を備えた車線追従装置において、
    操舵力伝達系の前記操舵アクチュエータとは異なる位置に設けられているパワーステアリング装置と、
    前記パワーステアリング装置の実アシスト力を検出する実アシスト力検出手段と、
    前記パワーステアリング装置が正常時の推定アシスト力を演算する推定アシスト力演算手段と、
    前記実アシスト力と前記推定アシスト力との特性偏差を演算し、前記実アシスト力が前記推定アシスト力に対し所定の偏差しきい値よりも低下していることを判別するアシスト力特性判別手段と、
    前記アシスト力特性判別手段で前記実アシスト力の低下が判別されたとき、前記実アシスト力の低下を補うように前記車線追従制御手段の制御特性を補正する車線追従制御特性補正手段と、
    を備えていることを特徴とする車線追従装置。
  2. 請求項1記載の車線追従装置において、
    前記車線追従制御手段に、パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、パワーステアリング装置に代え、車線追従制御用の操舵アクチュエータを用いて操舵アシスト力を付与する操舵アシスト制御部を設けたことを特徴とする車線追従装置。
  3. 請求項2記載の車線追従装置において、
    前記操舵アシスト制御部を、パワーステアリング装置がアシスト失陥であると検出された場合、車線追従制御時における操舵アクチュエータへの出力制限を外して最大出力指令を出す最大アシスト制御モードと、最大アシスト制御モード中に直進走行が検出された場合、徐々にアシスト力を減少させるアシスト力減少制御モードと、アシスト力の減少によりアシスト力がゼロとなった時点からマニュアルステアリングとするマニュアルステアリングモードによる制御部としたことを特徴とする車線追従装置。
  4. 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の車線追従装置において、
    前記パワーステアリング装置を、油圧によりアシスト力を得る油圧式パワーステアリング装置とし、
    前記車線追従制御手段に、パワーステアリング装置がアシスト失陥でないと検出された場合、パワーステアリング装置によるアシスト力に、車線追従制御用の操舵アクチュエータによるアシスト力を加え、油温の高低にかかわらず一定のパワーステアリング特性を保つ油温補償を行う油温補償制御部を設けたことを特徴とする車線追従装置。
  5. 請求項4記載の車線追従装置において、
    前記油温補償制御部を、パワーステアリング装置の操舵周波数に対するゲイン特性を油温の高低にかかわらず一定とする動特性油温補償と、パワーステアリング装置の操舵角に対するアシスト力特性を油温の高低にかかわらず一定とする静特性油温補償による制御部としたことを特徴とする車線追従装置。
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