JP3671568B2 - 陰極線管用パネルガラスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主にテレビジョン放送受信等に用いられる陰極線管用パネルガラスの製造方法、特に物理強化法による陰極線管用パネルガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
物理強化法によるパネルガラスの表面への圧縮応力層の形成は、表面強度を向上させ、陰極線管製造中の熱的破損の防止や陰極線管完成後の遅れ破壊防止に有効である。
【0003】
物理強化法においては、ガラス内部の温度がガラスを構成する分子の再配置が可能な温度域にある段階で、ガラスを構成する分子の再配置が不可能な温度域までガラス表面を冷却して一時歪みを発生させ、内部と表面との歪みの非平衡な状態を実現した後、室温まで冷却することにより永久歪みを残留させている。
【0004】
パネルガラスの通常の成形および強化過程においては、第1過程として約1000℃のガラスをボトムモールド内に供給し、プランジャを用いて押圧成形する。さらに、プランジャを引き上げ、次いでパネルガラスの内面へ強制的に冷却風を吹きつけて、大きな粘性変形を生じずにボトムモールドとパネルガラスの外面とが固着しなくなる温度まで冷却固化する。この間、ガラス内部と表面との間に大きな温度差を生じるだけでなく、肉厚分布やパネルガラスの3次元的構造に起因して面内にも大きな温度分布を生じる。
【0005】
すなわち、パネルガラスは矩形状のフェースの肉厚が周辺に向かって漸増しているとともに、その周囲にスカート部を有する箱型であるために、周辺部では質量の分布に比べて放熱の伝熱面積が小さくなり、周辺部の奪熱量は相対的に減少する。そのうえ、現在の一般的なパネルガラスの製造方法では、箱状パネルの内面中央部にノズルから冷風を吹きつけて冷却しているので、必然的にフェース中央部の冷却効果が周辺部より高まる。特に、矩形状のフェース部の内面コーナー部は冷却が不十分となり、他部分に比べて高い温度を示すとともに、この部分の肉厚方向における中心部と表面層との温度差も相対的に小さい。しかし、この段階では内部のみならず表面も比較的高温なことから、生成される一時歪みは大きくない。
【0006】
次に第2過程として、従来、金型内からパネルガラスを取り出した後、全体的にはガラス内部と表面との大きな温度差を極力維持したまま徐冷点以下まで冷却し、大きな一時歪みを得ている。しかし、かかる状態で冷却を継続した場合、ガラス内に蓄積される一時歪みが過剰となり、冷却過程で自爆したりコンパクションが許容限界をはるかに超えて実用性を失う。
【0007】
このため、第3過程として、ガラスを構成する分子の再配列が可能な温度域に30〜40分程度保持してガラス内部と表面の温度差を縮小し、かつ適度に一時歪みとコンパクションを緩和させる徐冷操作を行い実用性を確保している。さらに、第3過程で適正な範囲に制御した一時歪みを保持しながら、ガラスを構成する分子の再配列が不可能な低温域を通過して室温まで冷却し、永久歪みをガラス内に残留させる第4過程を設けている。
【0008】
前述のような過程により、パネルガラスの表面に効果的な圧縮性の応力層を形成できるが、他方、かかる熱履歴を受けたパネルガラスは不要なコンパクションを生じることが知られている。コンパクションは再び熱処理を受ける際に、熱力学的に安定な構造を得ようとしてガラスを構成する分子の再配置により生じるもので、一般的なパネルガラスの組成範囲ではガラスの寸法が収縮する方向への変化する比率として定義される。
【0009】
カラー陰極線管の組立工程において、パネルガラスのフェース内面にスクリーン蛍光膜とその背後にアルミニウム膜を形成し、シャドウマスクを装着した後、パネルガラスとファンネルガラスを封着するために440℃付近で35分程度保持する熱処理を行う。
【0010】
この結果、パネルガラスのスクリーン有効面内では不要なコンパクションが生じる。一方、色純度を保つためには、相対すべきシャドウマスクの孔と蛍光体画素とが正確な位置関係を有することが求められる。しかし、かかるコンパクションにより両者の相対位置関係に狂いが生じる。ずれの量はミスランディング量として定義される。スクリーン有効面中央からrの距離の任意の位置でのミスランディング量U(r)とコンパクションCとの関係は数式1で表すことができる。
【0011】
【数1】
【0012】
すなわち、ミスランディング量はスクリーン中央からの累積値として表されるので、スカート部に近い有効面端におけるミスランディング量が最大になる。したがって、必ずしも特定の位置でコンパクションを最小化してもミスランディング量を最小化することにはならない。すなわち、有効面端においてミスランディング量を許容限界内に収めうるように有効面内全体のコンパクションの分布を低減する方向へ制御することが重要である。
【0013】
ところで、従来、前述のパネルガラスの成形および強化を行った場合、パネルガラスの箱型の3次元的構造や不等肉厚分布により、少なくとも第1過程および第2過程において断面方向または肉厚方向に温度差を生じるだけでなく、前記したようにフェース面内方向に不要な温度分布を生じる。特に、コーナー付近やフェース有効面端の領域においては、スカート部を近傍に有することからスカート部との相互の熱流を生じさせているので、単純な輻射面であるフェース中央の冷却速度とは異なり、必然的に小さな冷却速度を有している。
したがって、第2過程の開始段階や終了段階においては、フェース中央とフェース有効面端とでは面内に大きな温度差を生じる。特に、この傾向はフェースのコーナーとの間で著しく、また比較的長時間金型と接する外面よりも内面の方が甚だしい。
【0014】
このように強化過程においてフェース有効面内に大きな温度分布が生じた結果、ガラス表面に形成される圧縮応力値に面内分布を生じるだけでなく、コンパクションについてもかなりの分布を生じ、ミスランディング量が大きくなり好ましくない。また、フェース有効面端付近の内表面の冷却速度が遅いことから、強化過程におけるかかる領域での断面方向の温度差も必然的に小さくなり、フェース中央と比較すると表面に生成される圧縮応力の値も小さくなり好ましくない。
【0015】
従来、第3過程はガラス内部と表面の温度差を縮小し適度に一時歪みを解放するための徐冷操作であり、通常、ガラスを構成する分子の再配列が可能な温度域に30〜40分程度保持した場合、温度分布の解消はできるが、過度に歪みを解放する欠点を有する。また、短時間の保持ではかかる温度分布の存在により、不要な平面歪みを解消しえない。
【0016】
このため所要の応力を残存させようとすれば、第1過程および第2過程を経たパネルガラスの内面にはどうしても大きな温度分布が存在し、フェース中央部とフェース有効面端またはスカート部の内面に存在するこの温度分布が原因となり、フェース内面の有効面端付近には、圧縮性の強化応力とは異なる不要な引張り性の平面応力が発生し、好ましくない。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、パネルガラスの成形および強化過程における従来技術が有する前述の欠点を改善しようとするものである。
本発明の目的の一つは、主たる強化過程である第2過程において、従来技術よりフェース面内での温度の差異を縮小することにより、フェース有効面端で最大となるミスランディング量を低減することである。さらには、フェース内面有効面端部またはその付近に形成される圧縮応力値を大きくして、フェース内面中央部に形成される圧縮応力値との比率を大きくすることである。
【0018】
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、約1000℃の溶融ガラスを金型内に充填し押圧成形後、金型内でガラス表面温度が固着温度以下になるまで冷却固化する第1過程と、成形したガラスを金型内から取り出した後に急冷し強化する第2過程と、第2過程によりガラス内に生成した一時歪みを緩和する第3過程と、室温まで冷却し十分な永久歪みを残留させる第4過程からなり、第2過程の開始段階におけるフェース部内面の最高温度域である内面コーナー部の温度T2smaxと最低温度域である内面中央部の温度T2sminと、第2過程の終了時点における内面コーナー部の温度T2fmaxと内面中央部の温度T2fminとが、0.4 ≦(T 2fmax −T 2fmin )/(T 2smax −T 2smin )≦0.7なる関係式を満たすように冷却することを特徴とするパネルガラスの製造方法を提供する。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
本発明では、物理強化されたパネルガラスを製造する場合、第1および第2過程においてフェース部の面方向に発生する温度差を、少なくとも急冷強化する第2過程においてできるだけ解消または所定範囲内に管理することにより、フェース部における面方向および断面方向の応力分布を許容範囲にすることが重要である。
【0024】
一般に、フェース部内面の温度は最低温度域であるフェース中央からフェース有効面端に向かって漸増し、箱形パネルの隅角に近い内面コーナー部で最も高くなる。したがって、上記の温度差は内面コーナー部と内面中央部において最大となるので、高温の内面コーナー部の温度を重点的に冷却制御し、前記の温度差を小さくするものである。なお、内面コーナー部とは、矩形状のフェース部内面における対角線方向のコーナーに近い部分で、他部分より高温である領域をいう。
【0025】
本発明において、第2過程の開始段階におけるフェース部内面の最高温度域である内面コーナー部の温度T2smaxと最低温度域である内面中央部の温度T2sminと、第2過程の終了時点における内面コーナー部の温度T2fmaxと内面中央部の温度T2fminとが、0.4≦(T 2fmax −T 2fmin )/(T 2smax −T 2smin )≦0.7なる関係式を満たすように冷却する。ここで、T2smaxおよびT2sminはそれぞれ最高温度域である内面コーナー部における最高温度および最低温度域である内面中央部の最低温度として扱うことができ、T2fmaxおよびT2fmin等についても同様である。
【0026】
(T2fmax−T2fmin)/(T2smax−T2smin)が0.4より小さいと一時歪みが大きくなりすぎ破損する。また、0.7より大きいと効果的な物理強化が得られない。特に望ましい範囲は0.5〜0.6である。
【0027】
また、第2過程において、徐冷点≦T2smax≦650℃、400℃≦T2smin、350℃≦T2fmin、T2fmax<歪み点の範囲であることが好ましい。T2smaxが徐冷点未満では、パネルガラスに必要な強化応力を制御できなくなり、650℃を超えるとボトムモールドと固着し取り出すことが困難となるからである。また、T2sminが400℃未満では、取り出し直後にパネルが割れてしまうことが多い。T2fminが350℃未満では強化応力およびコンパクションが過剰となる。安定した強化応力を確保するにはT2fmaxが歪み点未満でなければならない。
【0028】
本発明においてフェース部の温度差の縮小は、第2過程において最高温度域である内面コーナー部と最低温度域である内面中央部の冷却速度によっても規定できる。
【0029】
すなわち、これらの範域での平均冷却速度をそれぞれR2maxおよびR2minとした場合、45℃/分≦R2max≦65℃/分、30℃/分≦R2min≦40℃/分にするのが好ましい。R2maxが45℃/分未満では、温度差の縮小に効果的でなくなり、65℃/分を超えると割れが発生する。R2minが30℃/分未満ではパネルの実用的な強化に対して効果的でなくなり、40℃/分を超えると温度差の縮小に効果的でない。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
本発明の第2過程において、フェース部の内面中央部と内面コーナー部との温度差を縮小するためには、高温域の内面コーナー部を第2過程の全体または一部において、他の部分より強く冷却する方法が最も簡便である。第2過程に入るときのパネルのフェース部は、一般に外面より内面の方が高温であり、フェース面における中央部とコーナー部との温度差も外面より大きい。そこで、前記の部分冷却はこのような内面コーナー部に対して行うのが効果的である。この冷却は通常冷却空気を使用して、肉厚方向の中心部と表面層との間に温度差が形成され、所望の強化が得られるような冷却速度で行う。
【0036】
第2過程におけるパネルは、モールドから取り出された後、空気中にさらされて全体が急冷される。前記の部分冷却はかかる冷却と一緒にまたは関連させて、通常はパネルが全体的にまだ高温状態にある第2過程の比較的早い段階で行うのが効果的である。この第2過程においてパネルのスカート部にピンを封着してもよい。
【0037】
【実施例】
本発明の実施例を旭硝子社製パネルガラス(5001)からなる29インチパネルを用いて行った結果について、従来方法の比較例とともに示す。
【0038】
「例1」
モールドから取り出したパネルのフェース内面中央から対角軸線上約300mmの内面コーナー部を、第2過程において取り出し後27秒後に空気流を約40秒間吹きつけ冷却した。このパネルの第1過程から第4過程における内面中央部と内面コーナー部の温度変化を図1に示す。
【0039】
「例2」
例1と同じ条件で、空気流を10秒間吹きつけた。この場合のパネルの温度変化を図2に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
「例3(比較例)」
従来方法の場合のパネルの温度変化を図3に示す。
【0043】
第1表は、例1〜例3の第2過程における開始時の温度T 2smax 、T 2smin および終了時の温度T 2fmax 、T 2fmin 、ならびに平均冷却速度R 2max 、R 2min 、さらに徐冷冷却されたこれらのパネルの強化応力およびミスランディング量をまとめたものである。
【0044】
【表1】
【0045】
【0046】
なお、ミスランディング量はフェース部の対角軸方位における有効面端について、次の方法で算出したものである。図4に示すようにフェース部1の対角軸線r’上の中央部a、コーナー部cおよびこれらの中間部bの領域からコンパクション測定用試験片(150mm×2mm)を切り出し、これらの試験片を実際のCRT製造工程における熱処理を想定して約440℃で処理した後、各領域のコンパクションC(r’)を測定する。次いで、これら3領域のコンパクション測定値を図5のようにプロットし、これを放物線で近似して、前記数式1によりミスランディング量を算出した。
【0047】
また、強化による表面層の圧縮応力値は、パネルを厚さ約15mmに割断し、JIS−S2305直接法(セナルモン法)による光弾性応力計を用いて測定した。
【0048】
平面応力は、パネルの応力を評価する部位に歪ゲージを貼り付けした後、スカート部を切り離し、測定点近傍を10cm×10cm程度の大きさに切り出して、その割断前後の歪み量変化を測定して求めた。
【0049】
これらの結果からわかるように、例1および例2の本発明に係るパネルは、例3の比較例に比べ、フェース部の内面中央部および内面コーナー部における強化応力の差異が小さく、均一に強化されている。さらに、強化の程度も比較例(例3)よりフェース部の中央およびコーナーのいずれにおいても大きくなっており強いパネルが得られる。特に、第2過程において内面コーナー部の部分的冷却を長く行った例1は、冷却時間が短い例2に比べ強化度が大きいだけでなく、中央とコーナーの応力差も小さくフェース部全体がより一層均一に強化されている。また、ミスランディング量もこのような均一な強化の結果、比較例(例3)より小さくなっており、改善されている。
【0050】
【0051】
【発明の効果】
本発明は、フェース部内面中央の強化応力値とフェース部内面の有効面端付近に形成される圧縮性の強化応力値との比率を増大できる。すなわちこれまで強化が得られにくかった内面コーナー部の強化を増大させてフェース部を均一に強化できるとともに、強化度を適宜選択して大きくすることが可能となる。そればかりでなく、このように均一で効果的な強化により、有効面端において最大となるミスランディング量を低減する効果をもたらす。
【0052】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法において、第2過程で内面コーナー部を部分的に急冷する場合のパネルの温度変化を示すグラフ。
【図2】図1の例において第2過程の急冷時間を変えた場合のパネルの温度変化を示すグラフ。
【図3】従来方法の場合のパネルの温度変化を示すグラフ。
【図4】コンパクションの測定用に切り出す試験片の説明図。
【図5】フェース部の有効面端におけるミスランディング量を算出する方法を説明するためのグラフ。
Claims (3)
- 溶融ガラスを金型内に充填し押圧成形後、金型内でガラス表面温度が固着温度以下になるまで冷却固化する第1過程と、
成形したガラスを金型内から取り出した後に急冷し強化する第2過程と、
第2過程によりガラス内に生成した一時歪みを緩和する第3過程と、
室温まで冷却し十分な永久歪みを残留させる第4過程からなり、
前記第2過程の開始段階におけるフェース部内面の最高温度域である内面コーナー部の温度T2smaxとフェース部内面の最低温度域である内面中央部の温度T2sminと、第2過程の終了時点における内面コーナー部の温度T2fmaxと内面中央部の温度T2fminとが、0.4≦(T 2fmax −T 2fmin )/(T 2smax −T 2smin )≦0.7なる関係式を満たすように冷却することを特徴とする陰極線管用パネルガラスの製造方法。 - 前記第2過程においてT2smax、T2smin、T2fmax およびT2fmin がそれぞれ、
徐冷点≦T2smax≦650℃、
400℃≦T2smin、
350℃≦T2fmin、
T2fmax<歪み点、
の範囲にある請求項1に記載の陰極線管用パネルガラスの製造方法。 - 前記第2過程において、フェース部内面コーナー部の平均冷却速度R2maxとフェース内面中央部の平均冷却速度R2minとが、
45℃/分≦R2max≦65℃/分、
30℃/分≦R2min≦40℃/分、
の範囲にある請求項1または請求項2に記載の陰極線管用パネルガラスの製造方法。
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