JP3670694B2 - 麻痺性貝毒の除去方法及びそれに用いる微生物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、麻痺性貝毒の除去方法に関し、更に詳しくは、麻痺性貝毒であるゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシンを微生物等を用いて分解する方法とその微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、魚介類の毒が従来になく注目されている。その背景には、水産物の輸入の増加、沿岸養殖漁業の発達による漁業形態の変化、消費者の安全意識の向上等の社会的要因が考えられる。
【0003】
麻痺性貝毒(以下、PSPという。PSP:paralytic shellfish poison)は、渦鞭毛藻のAlexandrium tamarensis、A. catenella、Gymnodinium catenatum、Pyrodnium bahamense var.compressa. (以下有毒プランクトンという)等が産生する猛毒で、食物連鎖によってまず貝類が毒化し、ついでヒトがこれを食べて中毒を起こす。最近日本では、このPSPによる種々の貝類の毒化が全国的に発生しており問題となっている。また、世界的にみてもアジア諸国を初め、北米大陸、北海沿岸諸国、ボルネオ、パプアニューギニア、南米のヴェネズエラ、チリなどで報告され、PSPの貝類毒化は増加傾向にある。このPSPの主体は、ゴニオトキシン類、サキシトキシンと考えられている。
【0004】
PSPの除去方法としては、先に本発明者が提案したホタテガイの減毒方法である用水のろ過・オゾン殺菌処理と無毒藻類の投与方法(養殖 Vol.30, No.2, P.74-77, (1993))があるが、設備が大型化したり、処理期間に1〜4週間程度要するなどの問題があった。このPSPは加熱などに対しても安定であり、100〜120℃で3時間処理(J. Food Sci., VOL.56, No.6, P.1572-1575 (1991))しても、ある程度しか減毒できない。そのうえ貝肉の味・肉質が変化したり、生では食べられない等の問題があった。また、ホタテガイなどでは、一般的にウロと呼ばれる中腸腺を摘出する物理的な方法も取られているが、毒が水溶性のため作業途中に可食部が汚染を受けるなど、必ずしも安全な方法ではなかった。このようにPSPを除去する方法は非常に困難であり、十分な方法がないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の課題は、貝の味、肉質、鮮度に影響を与えるような過激な処理をすることなく、かつ貝を死なせることなくPSPを食用可能な規制値(出荷の自主の規制値:4マウスユニット(MU);1MUは、体重20gのマウスを15分間で死亡させる毒量と定義され、約0.2μgのサキシトキシン様物質に相当する。(昭和53年水研第963号水産庁長官通達))以下にする穏和な貝毒除去方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、エンテロバクター属に属する微生物のうち、麻痺性貝毒であるゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシンを分解するものがあること、及び該微生物又は該微生物から得られる酵素を貝類に対して与えることにより、麻痺性貝毒を除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン分解能を有するエンテロバクター属に属する微生物菌体もしくは該微生物菌体含有物、又は該微生物から得られる酵素もしくは該酵素含有物を貝類に対して与えることにより、貝類に含まれるゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシンを分解することを特徴とする麻痺性貝毒の除去方法である。
また、本発明は、ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン分解能を有するエンテロバクター・クロアカエである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
I.微生物の分離・培養
PSPとしては、以下の一般式
【0009】
【化1】
【0010】
【0011】
で表されるゴニオトキシン類及びサキシトキシンが主に知られている。
本発明者は、PSPを分解する酵素を生産する微生物を捜すため、PSPで毒化した貝、たとえばホタテガイと同一の海域に棲息し、かつ同様の食餌性(好餌性)を有して有毒プランクトンを補食するにもかかわらず毒化しない魚類、たとえば北海道噴火湾沿岸に棲息するアイナメ(Hexagrammos otakii)の消化管から、PSPと炭素源及び窒素源とを含む培地で増殖する貝毒分解微生物を分離した。
【0012】
[分離方法]
有毒プランクトンを捕食し、その結果蓄積されるPSPが分解を受けていると思われる魚の消化管を菌の起源とし、分離培地としてYPGN培地(脱イオン水1リットル中に、酵母エキス2.5g、ペプトン5g、グルコース1g及び塩化ナトリウム30gを含み、固形培地の場合はさらに寒天15gを含む。pHは5.5である。)に、実施例1に記載した方法で調製したPSP粗精製画分を容量比で10%添加したものを用い、PSPと炭素源及び窒素源とを含む培地で生育できる微生物のみを検索した。培養温度としては、魚の体温、棲息海域の水温に近い23℃付近とし、この温度で分離した。
【0013】
本分離菌はPSP、主にはゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン、更に好ましくはゴニオトキシン−2、ゴニオトキシン−3を分解する酵素を有し、表1、表2、表3、表4及び図1の顕微鏡写真に示すような微生物学的性状を有する。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
【表3】
【0017】
【表4】
【0018】
以上の菌学的性質をもとに、本発明のPSP分解能を有する微生物(以下、PSP分解菌という)の分類学的地位をバージェイズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology Volume 1 (1989))の記載と分類項目を参照したところ、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)に属する新菌株と同定し、エンテロバクター・クロアカエ 1029株と命名した。なお、本菌は平成6年11月8日に日本国茨城県つくば市の工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP-4877として寄託されている。
【0019】
[微生物の培養方法]
上記PSP分解菌の培養は、YPGN培地やPSP粗精製画分を含む滅菌海水などを用いて、23℃程度で行うことができる。
特に好ましくは、既報(日本農芸化学会誌 Vol.65, No.12, P.1753-1760, (1991)、食品衛生学雑誌 Vol.33, No.3, P.223-230, (1992) )及び田沢らによって報告された方法(北海道衛生研究所報告書 Vol.38, P.60-62, (1988) )を以下のように改変して培養する。すなわち、毒化した試料ホタテガイの中腸腺約20gに20mlの0.1N塩酸を加え、テフロンホモジナイザーにて室温で3分間ホモジナイズした後、沸騰湯上で熱抽出する。抽出液をワットマンNo.1ろ紙でろ過し、得られたPSP粗画分を上記培地に容量比で10%程度添加するのが特に好ましい。
【0020】
II .PSPの除去方法
PSP、主にはゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン、更に好ましくはゴニオトキシン−2及び/又はゴニオトキシン−3を除去する方法としては、毒化した貝が生育する海域、又は貝を養殖する海域や蓄養池、養殖用水槽等において、上記のように培養したPSP分解菌の生菌や、該PSP分解菌の菌体含有物、あるいはPSP分解菌から分離精製したPSP分解酵素、該酵素含有物などを単独で又は組み合わせて給餌させたり、賦形剤や無毒プランクトン等と混合して投与し、捕食させる方法等が挙げられる。
【0021】
例えば、容量2.5トンの水槽に、ろ過海水2トンをはり、その中に、毒化した平均貝長15±2cm、平均貝重150±50g、中腸腺中のPSP量が約300MUのホタテガイ400枚を入れ、その中に本PSP分解菌を乾燥重量として約15〜20g程度添加し、12〜60時間程度培養する。
菌体含有物としては、PSP分解生菌、PSP分解生菌と動・植物プランクトン等との混在物、菌体破砕物等が挙げられる。
【0022】
PSP分解酵素の分離精製は、常法によって行えばよく、例えば、菌体破砕液をそのまま、特に好ましくは硫酸アンモニウムを添加して0〜40%飽和画分とすればよい。
【0023】
得られたPSP分解酵素は、好ましくは補酵素とともに使用する。補酵素としては、ジチオスレイトール(DTT)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸塩(NADPH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)等が挙げられ、それらの中でも特にDTTを含めて用いるのが好ましい。
【0024】
賦形剤としては、通常使用される乳糖、ケイソウ土等であればよく、特に限定されない。
また、混合投与に用いる無毒プランクトンとしては、例えば、カエトセロス属、スケレトネマ属、タラシオシラ属等の珪藻類に属する植物プランクトンや、ユーグレナ属等の緑藻類に属する動物(植物)プランクトン等が挙げられる。これら無毒プランクトンとPSP分解菌との混合比率は、特に限定されないが1:1〜1:5程度が好ましい。混合方法としては、PSP分解菌と無毒プランクトンを別々に培養した後混合する方法がある。
以上のような方法により、北海道噴火湾のホタテガイに夏場発生するPSPの最高値300MU付近のものを、自主規制値である4MU以下に減毒、又は除去できた。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
[PSP分解菌の分離、調製]
北海道噴火湾沿岸の2年齢ホタテガイ(Patinopecten yessoensis 、平均貝長:96±11mm、平均重量:98±16g)をPSP抽出のための試料貝として用いた。これらはいずれもマウス致死法(Schantz, J., McFarren, F., Schafer, C., and Lewis, H:J. Assoc. Off. Chem., No.41, p.160-172, (1958))による定量で規定値を越える毒性値が検出されたもので、この毒化した貝からのPSP粗画分(ゴニオトキシン類、サキシトキシン及びその他のPSP成分の混合画分)の抽出は、既報(日本農芸化学会誌 Vol.65, No.12, P.1753-1760, (1991)、食品衛生学雑誌 Vol.33, No.3, P.223-230, (1992) )及び田沢らによって報告された方法(北海道衛生研究所報告書 Vol.38, P.60-62, (1988) )を以下のように改変して行った。
【0027】
すなわち、試料ホタテガイの中腸腺約20gに20mlの0.1N塩酸を加え、テフロンホモジナイザーにて室温で3分間ホモジナイズした後、沸騰湯上で熱抽出した。抽出液をワットマンNo.1ろ紙及びSep-PackC18(Waters社製)でろ過後、さらに限外ろ過(ろ過膜:UT3TGC、ミリポア社製)してPSP粗画分とした。
【0028】
PSP粗画分におけるゴニオトキシン類及びサキシトキシンの検出と同定は、既報(日本農芸化学会誌 Vol.65, No.12, P.1753-1760, (1991)、食品衛生学雑誌 Vol.33, No.3, P.223-230, (1992) など)に従って薄層クロマトグラフィー及びろ紙電気泳動によって行った。PSPの定量は、安元と大島による高速液体クロマトグラフィー法(Kotaki Y.,Oshima, Y.,and Yasumoto, T.:Bull. Jpn. Soc. Sci. Fish.,Vol.51, No.6, p.1009-1013 (1985) 、安元 健「化学と生物」Vol.27, No.6, P.401-406 (1992))を以下のように改変して行った。
【0029】
すなわち、PSP標品をInertsil ODS-2 カラム(4.6×250mm)に負荷し、ゴニオトキシン類については1−ヘプタスルホン酸ナトリウム2mMを含む10mMリン酸アンモニウム溶液(pH7.2)を移動層として溶出し、またサキシトキシンについてはこの移動層にアセトニトリルを容量比で10%添加した溶液で溶出した。
【0030】
この溶出画分を、過ヨウ素酸7mMを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)で標識し、0.5M酢酸で中和した後、励起波長330nm、発光波長390nmで各PSP成分を検出し、そのピーク高さからゴニオトキシン類及びサキシトキシンを定量した。なお、サキシトキシン標準品は米国食品医薬品局(F.D.A)のS.Hall博士から譲渡されたものを使用し、ゴニオトキシン標準品は東北大学農学部大島康克博士から譲渡されたものを使用した。
【0031】
この結果、サキシトキシンが約10MU、ゴニオトキシン−2が約150MU及びゴニオトキシン−3が約50MUの粗画分得られた。
【0032】
一方、北海道噴火湾において捕獲したアイナメ(Hexagrammos otakii)から摘出した消化管約20gに30mlの滅菌海水を加え、ブレンダーミルによって室温で5分間ホモジナイズした後、3,000r.p.m. で10分間遠心分離した。上清液をYPGN培地(脱イオン水1リットル中に、酵母エキス2.5g、ペプトン5g、グルコース1g及び塩化ナトリウム30gを含み、固形培地の場合はさらに寒天15gを含む。pHは5.5である。)で希釈し、常法に従って固形YPGN培地表面に分散接種した。23℃で一夜培養して出現するコロニーのそれぞれをYPGN培地に釣菌接種し、再度23℃で一夜培養した。これら分離微生物のそれぞれを、上記で得られた約200MUのPSP粗画分を含む10mlの滅菌海水に接種し、23℃で振盪培養した。微生物の増殖を波長590nmにおける比濁度にて測定し、貝毒を含む栄養源として良好に生育する微生物1株を得た。
【0033】
(実施例2)
[PSP分解生菌体のみによるホタテガイ生体のPSP除去方法]
【0034】
【表5】
【0035】
上記培地組成の培地を500ml容の坂口フラスコに100ml入れ、綿栓後、オートクレーブにて121℃で20分殺菌した。PSP粗画分はオートクレーブにて110℃で15分間別殺菌後、上記培地に混ぜた。本培地に、別の斜面培地においてあらかじめ培養したPSP分解菌を1白金耳接種し、23℃にて24時間培養した。得られた培養液を3,000r.p.m.で30分遠心分離し、上澄みを廃棄後、pH5.5の10mM酢酸緩衝液で撹拌洗浄し、さらに10,000r.p.m.で20分間遠心分離し、この操作を2回繰り返しPSP分解菌を得た。
【0036】
得られた菌体約1.7gをpH5.5の10mM酢酸緩衝液20mlに懸濁し、この懸濁液とともに、毒化したホタテガイ(平均貝長及び平均貝重は同前)6枚を、海水30リットルを満たした水槽(大きさ37×25×50cm、容量約38リットル)中で蓄養した。水温は14℃に維持しながら、菌液浸漬により6時間、その後普通海水により18時間処理した。同様の処理を3日間続けた(添加区)。また、菌体を加えない以外、同様にしてホタテガイ6枚を蓄養した(無添加区)。
【0037】
上記処理を始めて24時間、48時間、72時間経過後に添加区及び無添加区のホタテガイ各2枚を取り出し、各ホタテガイの中腸腺約10gに10mlの0.1N塩酸を加え、テフロンホモジナイザーにて室温で3分間ホモジナイズした後、沸騰湯上で熱抽出した。抽出液をワットマンNo.1ろ紙及びSep-PackC18(Waters社製)でろ過後、さらに限外ろ過(ろ過膜:UT3TGC、ミリポア社製)して分析用サンプルとした。PSPの定量は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図2に示す。
図2から明らかなように、PSP分解菌体添加区のホタテガイは、無添加区に比べてPSP量が著しく低下し、出荷規制値4MU以下となった。
【0038】
[PSP分解生菌体のみによるPSP粗画分のPSP除去方法]
試験管内での前記の方法で得たPSP生菌体のPSP画分に対する効果について検討した。23℃で好気的に反応させた後、残存する各毒性成分を高速液体クロマトグラフィーで定量した。結果を図3に示す。
【0039】
数種の未同定ピーク、及び矢印で示したゴニオトキシン類の高さはいずれも反応時間の経過に伴なって減少し、特に我国における養殖ホタテガイの主要貝毒性成分であるゴニオトキシン−2のピークは反応開始後16時間で完全消失した。また、ゴニオトキシン−2の異性体であるゴニオトキシン−3のピーク高さの減少はゴニオトキシン−2のピーク高さの減少に遅れ、ゴニオトキシン−3のピークが完全に消失するためには24時間以上の反応が必要であった。更に、反応時間の経過に伴ってサキシトキシンの毒性値は10MUから3MUに減少した。
【0040】
[PSP分解生菌体のみによる中腸腺のPSP除去方法]
前記の方法で得たPSP分解生菌体1.8gをpH5.5の10mM酢酸緩衝液約20mlに懸濁し、毒化したホタテガイ(同前)6枚から摘出した中腸腺6個(平均重量約10g)に、濾過海水(水温14℃)500ml中で8時間作用させた。その後、中腸腺約10gに10mlの0.1Nの塩酸を加え、テフロンホモジナイザーにより室温下で3分間ホモジナイズした後、沸騰湯上で熱抽出した。抽出液をワットマンNo.1ろ紙及びSep-PackC18(Waters社製)でろ過後、さらに限外ろ過(ろ過膜:UT3TGC、ミリポア社製)して分析用サンプルとした。PSPの定量は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図4に示す。
【0041】
図4から明らかなように、反応8時間経過後、中腸腺中のゴニオトキシン類(特にゴニオトキシン−2及びゴニオトキシン−3)が分解されている。よって、本発明のPSP分解菌は、貝に捕食されてPSPの蓄積されている中腸腺に進入しなくても、直接中腸腺などの組織内に進入し、PSPを分解できることがわかった。
【0042】
(実施例3)
[PSP分解生菌のみによる部分精製したゴニオトキシン−2の分解反応]
北海道噴火湾沿岸で採取した2年齢ホタテガイ(Patinopecten yessoensis 、平均貝長:96±11mm、平均重量:98±16g)をPSP抽出のための試料貝として用いた。これらはいずれもマウス致死法(Schantz, J.,McFarren, F.,Schafer, C., and Lewis, H:J. Assoc. Off. Chem., 41, 160-172) による定量で規定値を越える毒性値が検出されたもので、この毒化した貝からのPSP粗画分(ゴニオトキシン類、サキシトキシン及びその他のPSP成分の混合画分)の抽出と、この画分からのゴニオトキシン−2の部分精製は、既報(日本農芸化学会誌 Vol.65, No.12, P.1753-1760, (1991)、食品衛生学雑誌 Vol.33, No.3, P.223-230, (1992) )及び田沢らによって報告された方法(北海道衛生研究所報告書 No.38, P.60-62, (1988))を以下のように改変して行った。
【0043】
すなわち試料ホタテガイの中腸腺約20gに20mlの0.1N塩酸を加え、テフロンホモジナイザーにて室温で3分間ホモジナイズした後、沸騰湯上で熱抽出した。抽出液をワットマンNo.1ろ紙及びSep-PackC18(Waters社製)でろ過後、さらに限外ろ過(ろ過膜:UT3TGC、ミリポア社)してPSP粗画分とした。
【0044】
ついで粗画分をBio-Gel P-2カラム(3×50cm)に負荷し、脱イオン水で洗浄した後、0.03M酢酸で溶出される画分を集めて濃縮した。その後これをBio-Rex70カラム(H+型、1.7×16cm)に負荷し、脱イオン水で洗浄した後、0.03M酢酸で溶出された画分を集めてこれをゴニオトキシン−2部分精製画分とした。
【0045】
このゴニオトキシン−2を基質として、実施例2に記載した方法に従って反応を行い、反応生成物の検討を行った。反応生成物の検出は、コンウェイ微量拡散法(Kikuchi,S. and Ishimoto, M. :Zeitshrift fur Allgemeine Mikrobiologie No.20, p.405-413 (1980))によって行った。結果を図5に示す。図5より、ゴニオトキシン−2の減少量に比例して生成するアンモニア量が増加していることから、ゴニオトキシン−2のアンモニアの遊離を伴う分解経路が推定される。
【0046】
(実施例4)
[菌体破砕物(酵素含有物)によるPSP粗画分のPSPの除去方法]
実施例1の方法にて得られたPSP分解生菌体を、DTTを含む50mMリン酸緩衝液(pH6.8)に懸濁した後、超音波によって破砕した。その後、10,000r.p.mで20分間遠心分離し、常法に従い上清液(粗酵素画分)を得た。この粗画分を部分精製するために、常法に従って硫安分画を行い、I:0〜40%、II:40〜70%、III :70〜90%、IV:90%の4分画を得た。各分画に対し、補酵素としてA:DTT(Dithiothreitol)を1mM、B:NADH(Redused Nicotinamide adenine dinucleotide)を100μM、C:NADPH(Redused Nicotinamide adenine dinucleotide phsphate)を100μM、D:FAD(Flavin adenine dinucleotide)及びFMN(Flavine mononucleotide)をそれぞれ20μM添加した。これを約200MUのPSP粗画分とともに1時間反応させ、各補酵素の影響を調べた。硫安分画Iの結果を表6に示す。
【0047】
【表6】
【0048】
表6より、菌体破砕物から得られた酵素がPSPを分解するにはDTTが必須であることが分かった。更に、その他の補酵素を加えると分解が促進された。
次に、各硫安画分におけるゴニオトキシン−2の分解活性について調べた。各硫安画分にDTTを1mM添加し、実施例2において部分精製したゴニオトキシン−2を基質として反応させた。実施例1と同様にして高速クロマトグラフィーにより反応後に残存するゴニオトキシン−2量を定量した。結果を図6に示す。
【0049】
図6から明らかなように、画分IVではゴニオトキシン−2はほとんど分解されておらず、酵素活性が見られない。これに対し、画分I及び画分IIではゴニオトキシン−2の残量が少なく、酵素の主体が画分I及び画分IIに分画されていることが分かる。
【0050】
(実施例5)
[PSP分解生菌体と無毒プランクトンとの混合給餌によるホタテガイ生体のPSP除去方法]
実施例1の方法で得られたPSP分解生菌体を、1010個/ml(乾燥重量約1.7g)の濃度になるように10mMの酢酸緩衝液300ml(pH5.5)に懸濁した。一方、カエトセロス属、スケレトネマ属及びタラシオシラ属の珪藻類に属するプランクトン、並びにユーグレナ属の緑藻類に属するプランクトンの生菌体を108個/ml(乾燥重量約2g)の濃度になるように同緩衝液300mlに懸濁した。
【0051】
両液を混合撹拌後、この混合懸濁液とともに、毒化したホタテガイ(平均貝長及び平均貝重は同前)6枚を、海水30リットルを満たした水槽(同前)中で蓄養した。水温は14℃に維持しながら、菌液浸漬により6時間、その後普通海水により18時間処理した。同様の処理を3日間続けた。
【0052】
上記処理を始めて24時間、48時間、72時間経過後にホタテガイ各2枚を取り出し、各ホタテガイの中腸腺約10gに10mlの0.1N塩酸を加え、テフロンホモジナイザーにて室温で3分間ホモジナイズした後、沸騰湯上で熱抽出した。抽出液をワットマンNo.1ろ紙及びSep-PackC18(Waters社製)でろ過後、さらに限外ろ過(ろ過膜:UT3TGC、ミリポア社)して分析用サンプルとした。
PSPの定量は実施例1と同様にして行った。結果を図7に示す。
なお、各実施例に示したように、PSPを出荷規制値に以下にまで減毒あるいは除去することが可能であり、かつホタテガイの味と肉質における品質の劣化もなかった。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、貝の味、肉質、鮮度に影響を与えたり、貝を死なせることなく、麻痺性貝毒を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明分離菌株エンテロバクター・クロアカエ 1029を示す顕微鏡写真である。
【図2】PSP分解菌添加及び無添加における各種PSPの量の経時変化を示すグラフである。
【図3】残存する各毒性成分を高速液体クロマトグラフィーで定量した結果を示すグラフである。
【図4】残存する各毒性成分を高速液体クロマトグラフィーで定量した結果を示すグラフである。
【図5】ゴニオトキシン−2の分解に伴うNH4 +の生成量を示すグラフである。
【図6】各硫安画分におけるゴニオトキシン−2の残量を示すグラフである。
【図7】無毒プランクトン及びPSP分解菌とPSPとの反応における、各反応時間でのPSP相対残存量を示すグラフである。
Claims (7)
- ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン分解能を有するエンテロバクター・クロアカエに属する微生物菌体もしくは該微生物菌体含有物、又は該微生物から得られる酵素もしくは該酵素含有物を貝類に対して与えることにより、貝類に含まれるゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシンを分解することを特徴とする麻痺性貝毒の除去方法。
- エンテロバクター・クロアカエに属する微生物がエンテロバクター・クロアカエ1029株である請求項1記載の麻痺性貝毒の除去方法。
- ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシンを生体蓄積する貝がホタテガイである請求項1記載の麻痺性貝毒の除去方法。
- ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン分解能を有するエンテロバクター・クロアカエに属する微生物菌体もしくは該微生物菌体含有物、又は該微生物から得られる酵素もしくは該酵素含有物を、動物及び/又は植物プランクトンに混合して貝類に捕食させることにより、貝類に含まれるゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシンを分解することを特徴とする麻痺性貝毒の除去方法。
- 蓄養池内にて捕食させることを特徴とする請求項4記載の麻痺性貝毒の除去方法。
- ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン分解能を有するエンテロバクター・クロアカエ。
- ゴニオトキシン類及び/又はサキシトキシン分解能を有するエンテロバクター・クロアカエ1029株。
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