JP3670034B2 - 軟磁性ステンレス鋼を用いたステッピングモータ及びそれに用いられるステータヨークの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は,ロータに永久磁石を用いた櫛歯状極部を有するステッピングモータおよびそのステータヨークの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より,ステッピングモータには,そのヨークを構成する材料として,電磁軟鉄(SUY)や冷間圧延鋼板(SPC)等が用いられている。しかし,近年,ステッピングモータには,省電力化,高出力化の要求が強くなってきているが,これらの材料では直流磁気特性は良好なものの実際のモータの駆動時における交流磁気特性は必ずしも良好ではないために,該要求を充分に満たすことができない。すなわち,これらの材料は変動磁場中では電気抵抗率が低いために多くの渦電流が発生し,その結果,鉄損が著しく多くなる。これは,駆動周波数が高くなるほど顕著となる。このため,モーターの効率が低下する原因となり,OA機器等において電池駆動力等に伴うステッピングモータの効率向上の要求を満たすためのネックとなっていた。
【0003】
そこで,以上の問題を解決するため,例えばステータヨークやフレームヨークにケイ素鋼板やソフトフェライトを用いたもの(例えば実開平3−104077号公報,実開昭62−135577号公報等)や,ステータヨークの一部(渦電流の流路)に貫通孔を設けるもの(特開平3−283049号公報)など,種々の提案がなされている。
【0004】
【発明が解決しようとする問題点】
しかしながら,上記した従来のステッピングモータでは,それぞれ以下に示す問題を有し,いずれも渦電流による効率低下の問題を十分に解消できるものではなかった。
【0005】
すなわち,ステータヨーク材としてケイ素鋼板を用いる場合には,前記のSUYやSPCと比べて曲げ加工(絞り加工)が困難であり,さらに防錆のためのメッキ処理が困難となるという問題がある。
【0006】
また,ソフトフェライトを用いた場合には,SUYやSPCに比べて飽和磁束密度が1/3以下と低く十分な出力トルクが得られないばかりか,曲げ加工が不可能であり,機械強度も弱い。しかも寸法精度が粗くなるという問題があり,実用化は困難である。
【0007】
さらにまた,貫通孔を設ける構成のものでは,貫通孔を形成するにつれて出力トルクが減少するという傾向があり,しかも加工工程が増えるとともにコストも高くなる。さらに貫通孔は櫛歯状の極部以外の部位に形成されるが,櫛歯状極部以外では磁束密度が低く,もともと渦電流損が小さいために貫通孔を形成した効果がさほどあらわれない。
【0008】
本発明は,上記のような背景に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,渦電流の発生を可及的に抑制し,高効率のステッピングモータを提供することにある。
【0009】
【問題を解決するための手段】
上記,目的を達成するため,本発明に係るステッピングモータでは,多極着磁された永久磁石からなるロータ部と,前記ロータ部と同軸上で対向するように設けられた複数個の櫛歯状極部を有するステータヨーク部と,前記ステータヨーク部の前記櫛歯状極部の外周囲に装着した励磁コイルと,前記励磁コイル並びに前記ステータヨーク部を囲みこむ様に形成されたフレームヨーク部を備えたステッピングモータにおいて,前記ヨークの少なくとも一部に,重量%で,C:0.02%以下,Si:0.7%を超え3.0%以下,Mn:0.7%以下,P:0.04%以下,S:0.005%以下,Ni:0.5%以下,Cr:9.0〜18.0%,N:0.02%以下,O:0.010%以下,Al:4.0%以下(無添加を含む)を含有し,且つ
F値=Cr+Si+2.1Al−37.0(C+N)−2.0Ni−0.6Mn−10.8
で定義されるF値が0以上8以下となるように各成分量が調整され,残部がFeおよび不可避的不純物からなり,電気抵抗率が86 . 0μΩ・cm以上の軟磁性ステンレス鋼を用いた。
【0010】
また,この軟磁性ステンレス鋼で作られるヨークは,必要なヨーク形状に形成加工後に700〜1200℃の温度範囲の焼鈍を行うという工程で製作される。
【0011】
【作用】
本発明に用いられる軟磁性ステンレス鋼は電気抵抗率ρがSUYやSPCに比べて6〜10倍高い。渦電流はヨークの電気抵抗率がρに反比例するため,本発明のステッピングモータでは,例えばモータ駆動中,交流磁場が生じているときの渦電流の発生が必然的に抑制される。その結果,損失が少なくなり入力電力に対する出力トルクが向上し,低消費電力のステッピングモータが実現できる。そして,このように渦電流を流れにくくすることから,逆磁場も減少し,入力電流を一定にすると総磁束量が増加し,出力トルクが増大する。換言すれば,同一トルクを得るためには励磁コイルに流す電流も少なくてすみ,その結果,銅損も低減できる。鉄損も銅損も低減することは,さらにモータ自身の発熱も低く抑えることができる。また,ヨーク部を焼鈍した場合その効果は顕著となる。
【0012】
一方,本発明に用いられる軟磁性ステンレス鋼は,加工性も良好であるので,従来のFe系合金における製造設備をそのまま用いて所定の形状にヨークを形成できる。
【0013】
以下に,本発明に用いられる軟磁性ステンレス鋼の各成分量を限定した理由並びにF値の限定理由について説明する。
【0014】
C:炭化物を形成しやすく磁気特性や耐食性を劣化されるため,0.02重量%以下に限定した。
【0015】
Si:フェライト生成元素でありかつ磁気特性を向上させるのに有効に作用する元素である。当該鋼においてフェライト単相組織を確保し,磁気特性を付与するためには0.7重量%を超える量で含有する必要がある。しかし,3.0重量
%を越えると逆に磁束密度が低下するとともに,加工性も劣化するため,Siの含有量は0.7重量%超え3.0重量%以下に限定した。
【0016】
Mn:製鋼時の脱酸に必要な元素であるが磁気特性を劣化させる元素であるため,その上限を0.7重量%とした。
【0017】
P:磁気特性を劣化させる元素であり,その上限を0.04重量%とした。
【0018】
S:不純物元素であるSは硫化物を形成しやすく磁気特性を劣化させるために低く抑える必要があることから,その上限を0.005重量%に限定した。
【0019】
Ni:オーステナイト生成元素であり,磁気特性を劣化させるため,その上限を0.5重量%とした。
【0020】
Cr:本用途に必要な耐食性を確保するのに必須の元素であり,9.0重量%以上含有させる必要がある。しかしCrを多量に含有させると磁束密度が低下するため,その上限を18.0重量%とした。
【0021】
N:Alなどと窒化物を形成して磁気特性を劣化させるため,その上限を0.02重量%とした。
【0022】
O:不純物元素であるOは酸化物を形成しやすく磁気特性を劣化させるため,低く抑える必要があり,その上限を0.010重量%に限定した。
【0023】
Al:鋼の脱酸材として添加される元素であり,脱酸にともなって不純物を低減し,磁気特性を向上させる作用を有している。しかしAl自体は磁気特性を劣化させる元素であり,その上限を4.0重量%に限定した。
【0024】
F値:F値を表す前記の式において,正の係数をもつCr,SiおよびAlは非磁性元素である。したがって,これらの元素濃度が高くなるほど磁束密度は低下することになり,これらの元素量の増大によりこのF値が8を超えると,後記実施例の図8示したように磁束密度が低下し,ヨークとして望ましい最大磁束密度1.15T(テスラ)を確保できなくなる。
【0025】
他方,F値が0未満では後記実施例の図8に見られるように磁束密度は急激に低下して,本発明の目的は達成できない。このF値はまたフエライト相の安定度を示す指標ともなる。本発明者らは,各種のフエライト系ステンレス鋼を800〜900℃の温度範囲で1時間加熱して急冷した試料の金属組織を調査し,鋼の組成と生成したマルテンサイト相の体積率を測定し,鋼の成分組成がマルテンサイト生成に及ぼす影響の度合いを数多くの試験から調査し,前記の式を導いた。そして,この式で表されるF値=0となるところで,フエライト相中にマルテンサイト相が存在するか否かの臨界となることを知った。したがって,このF値が0以上では磁気焼鈍後にマルテンサイトが生成せずフエライト単相組織となる。マルテンサイト相が存在すると磁気特性が急激に低下するので,このF値の下限は0に限定される。
【0026】
なお,ステッピングモータのヨーク部はプレス加工により成形されるため,プレス加工によって被加工材に加えられた加工歪みによりヨークの磁気特性は劣化する。したがって,ヨークに成形加工されたさいの加工歪みを除去し,ヨークの磁気特性を付与するため加工後に焼鈍を行うことが望ましい。この場合,焼鈍温度が700℃以下であれば歪みは十分除去されず,磁気特性の向上は期待できない。焼鈍温度が高い方が歪みは完全に除去され磁気特性は向上するが1200℃を越えると焼鈍炉の劣化が著しく焼鈍そのものが困難となる。したがって,ヨークの焼鈍温度は700〜1200℃に限定される。
【0027】
【実施例】
図1,図2および図3は,本発明に従うPM型ステッピングモータを示している。図1に示すように,シャフト1の周囲に,樹脂性の連結部材2を介して,筒状の永久磁石3が固着一体化され,これらによってロータ4が形成されている。永久磁石3の外周囲は円周方向に多数分極着磁されている。
【0028】
図2の例では2相タイプであるため,ロータの周囲には,第1〜4の4個のステータヨーク5〜8が同心円上に配置されている。具体的には,第1,第2のステータヨーク5,6で第1相を構成し,第3,第4のステータヨーク7,8で第2相を構成している。そして,各ステータヨーク5〜8は,いずれも平板のリング状のフランジ部5a〜8aの内周囲を,所定方向に90度折り曲げることにより櫛歯状磁極部5b〜8bを形成している。この対となるステータヨーク(5と6,7と8)は,ともに,極歯状磁極部5bと6b,7bと8bの先端側を向かい合わせるとともに,お互いの櫛歯状磁極部の未形成部位に挿入配置する。そして,第1相側と第2相側の櫛歯状磁極部は電気角で90度ずれるように配置される。
【0029】
さらに,このステータヨーク対(5と6,7と8)の外周に,コイルボビン9aに巻き付けたコイル部9bからなる励磁コイル9を装着する。これにより,励磁コイル9はフランジ部(5aと6a,7aと8a)間に介在する。
【0030】
そして,上記ロータ4,ステータヨーク5〜8並びに励磁コイル9を囲むように,その外周囲に同心円上に有底のカップ状のフレームヨーク10を配置する。換言すれば,フレームヨーク10内に上記各部品を挿入配置する。その状態で,フレームヨーク10の解放側をキャップ11で被覆する。尚,シャフト1はキャップ11に形成した軸受け11aとフレームヨーク10に形成した軸受け10a内を挿通して外部に突出し,出力軸として機能する。またキャップ11の外側面には,ステッピングモーターを他の装着位置に固定するためのフランジ12が一体に形成されている(図1参照)。本例では,ロータ部,ステータヨーク部,フレームヨーク部がそれぞれ独立した形で形成されており,ステータヨーク対(5と6,7と8)およびフレームヨーク10が本発明に従う軟磁性ステンレス鋼で形成されている。
【0031】
図3は,図2のステータヨーク5に相当する部分をフランジ12の内側に予め取付け,また図2のステータヨーク8に相当する部分をカップ状のフレームヨーク内に形成した以外は,図2と同様の構成を示す。すなわち,フランジ12の内側に上半身フレームヨーク15が取付けられ,その内側に図2のステータヨーク5が納められる(図には見えない)。また下半身フレームヨーク15内に,リング部15aに対し胴部15cと櫛歯状磁極部15bを一体成形したステータヨークが納められる。本例では,フレームヨーク15および各ステータヨークが本発明に従う軟磁性ステンレス鋼で形成されている。
【0032】
図4は,ステータヨーク7と8だけを本発明に従う軟磁性ステンレス鋼で形成した以外は,図2の例と同様の構成を示している。その他のヨーク,すなわち,ステータヨーク5’と6’やフレームヨーク10’は従来の電磁軟鉄が使用されている。
【0033】
図5は,ステータヨーク6と7だけを本発明に従う軟磁性ステンレス鋼で形成した以外は,図3の例と同様の構成を示している。その他のステータヨークやフレームヨーク15’は従来の電磁軟鉄が使用されている。
【0034】
なお,図示のステッピングモータはほんの一例であり,この例のほかにもステッピングモータのヨークを構成する部分に対して本発明に従う軟磁性ステンレス鋼が適用できる。そのさい,ヨークの少なくとも一部に本発明に従う軟磁性ステンレス鋼を適用し,ほかの部分は従来材を使用することもできる。例えば,磁束密度変化の少ない部分に対しては従来材を使用してもよい。
【0035】
次に本発明に従う軟磁ステンレス鋼をヨークに適用したときのモータ特性並びに材料特性を実験結果に基いて説明する。
【0036】
表1に示した化学成分値を有するステンレス鋼を溶解鋳造し,熱間圧延,冷間圧延,仕上げ焼鈍を施し,厚み1mmの板を製造した。表1において,A−1は従来の電磁軟鉄である。B−1〜B−18は本発明に従う化学成分値をもつ鋼,C−1〜C−5は比較鋼である。
【0037】
【表1】
【0038】
先ず,表1のA−1鋼とB−3鋼の鋼板を,前記図2に示したステッピングモータの各ヨークにそれぞれ加工し,A−1鋼をヨークとして用いたモータ(従来材料品)とB−3鋼をヨークとして用いたモータ(本発明品)のモータ特性を調べ,その結果を図6および図7に示した。モータ駆動条件は,2相励磁バイポーラ定電流チョッパ駆動である。図6は周波数に対するプルアウトトルク特性を,図7はその時の効率を示す。なお,図中の焼鈍品は,ヨークに加工後に850℃×1時間の焼鈍を施したものである。
【0039】
図6からわかるように入力電流が一定に関わらず,本発明品の方がトルクが高くなり,駆動周波数が高くなればその差は大きくなる。また,ヨークを焼鈍したものについてはさらにトルクが高くなる。効率についても図7に見られるようにトルクと同様な傾向を示す。
【0040】
次に各鋼の1mmt板から外径25mmおよび内径15mmのリング試験片を切り出し,850℃×1時間の焼鈍後,磁界の強さ800A/m,周波数500Hzの条件のもと,B−Hアナライザーで交流磁気特性を測定し,最大磁束密度(テスラ)を評価した。その結果を,図8に示した。
【0041】
図8の結果が示すように,F値が0を境界として磁束密度が急激に上昇し,F値が8まで高磁束密度を維持する。そしてF値が8を越えると,磁束密度が低下する傾向にあることがわかった。このことから,F値が0以上8以下が望ましいことが確認できた。
【0042】
また,表1に示される供試鋼を用いて,各鋼の性能,すなわち直流磁気特性の磁束密度,モータ特性,耐食性および電気抵抗率を評価し,その結果を表2に示した。
【0043】
なお,表2に試験項目において,直流磁気特性は,各鋼の1mm厚の板から外径45mmおよび内径33mmのリング試験片を切り出し,850℃×1時間の焼鈍後,磁束密度の測定を行った。また,モータ性能は各鋼を用いて作製したステータヨークを用いて前記図2のステッピングモータを組み立て,従来鋼(A−1)を基準に他のものと比較した。そして,従来の同レベルおよびそれ以下のものを×,従来よりも優れているものを○とした。
【0044】
耐食性はJISZ2371に準拠した24時間の塩水噴霧試験を行い,耐食性を評価した。目視評価によりほとんど錆が発生しないものを○,面積率で10%以上の錆が発生したものを×に判定した。さらに電気抵抗率はホイーストンブリッジ法により試験片として1mm厚×500mm長さの板材を用いて測定したものである。
【0045】
【表2】
【0046】
表2よりわかるように従来鋼であるA−1は,直流磁気特性,耐食性は良好にも関わらず,電気抵抗が9.8μΩ・cmと低く,渦電流が流れやすいため,モーター性能も低くなる。また,比較鋼であるC−1は電気抵抗率が54.2μΩ・cmであるがF値が0未満であるため,磁気特性が大幅に劣る。C−2に関しては耐食性は良好であるがCr含有量が20.18重量%と高く,F値が8以上であるため磁気特性が劣り,モーター性能も低くなる。C−3,4,5に関してもC含有量,N含有量,Mn含有量,Ni含有量が高く,所望のF値を満たしていないため磁気特性が著しく劣化し,しいてはモーター性能が劣化する。
【0047】
これらに対して,本発明であるB−1〜B−18はいずもれ所望のF値を満たし,各成分も本発明範囲内にあることから,磁束密度がB5≧1.0T,B10≧1.15T,B25≧1.25Tと優れた磁気特性を示し,かつ電気抵抗率も
80μΩ・cm以上であり,モーター性能は従来よりも優れている。また,耐食性についても良好なものである。
【0048】
なお,上述の実施例においては,試験片に対して焼鈍を行ったが,これは焼鈍を行った方が磁気特性が改善されるためである。ステータヨークは,本発明鋼の板材に対し,プレス加工により図2等に示すような平板のリング状のフランジ部5a〜8aの内周囲を所定方向に90度折り曲げて,櫛歯状磁極部5b〜8bを形成すると,この加工時に加わる残留応力により磁気特性が劣化する。そこで,係るプレス加工後は,所定雰囲気下,所定温度で焼鈍を行うことが望ましい。具体的には,アルゴンや窒素,水素などの雰囲気下,あるいは真空中で行うのが好ましい。
【0049】
この焼鈍を行う際の最適な温度条件を求めるため,焼鈍温度を変化させて焼鈍を行い,それぞれ交流磁気特性を測定し,その結果を図9に示した。なお,この実験は,所定の材料を扁平リング板,すなわち,ステータヨークのフランジ部と同一の形状に(内径15mm,外径25mm)に加工し,さらにそれを中央から折り曲げて,なす角が90度になるようにプレス加工した。これにより,上記櫛歯状磁極部の形成時に生じる残留応力を疑似的に与えた。その後,600℃〜1200℃の各温度で1時間,焼鈍を行った。使用した材料は表1に示されるB−2〜B−5,B−9〜B−14である。そして,このように折り曲げたリング板を磁界の強さが800A/m,周波数500Hzの条件のもとにB−Hアナライザーで交流磁気特性を測定し,最大磁束密度を評価した。
【0050】
図9からわかるように,磁束密度は焼鈍温度の増加にしたがって向上し,1000℃以上になると,磁束密度が1.2Tとなり飽和する。焼鈍温度が700℃以上であれば歪みは十分取れ,磁気特性が向上することがわかった。なお1200℃を越えると焼鈍炉の劣化が著しく焼鈍そのもが困難となるため,実験は1200℃で停止した。
【0051】
図10は,各ヨーク材料の加工による交流磁気特性の磁束密度の劣化と焼鈍による回復レベルを示したものである。このときの焼鈍条件は850℃×1時間,交流磁気特性の測定条件は,磁界の強さが800A/m,周波数が500Hzである。また上記と同様に,焼鈍前に板材を折り曲げて疑似加工を行ったものと,係る疑似加工後に焼鈍を行ったもののそれぞれの磁気特性を測定した。使用した材料は表1に示される従来鋼A−1と発明鋼B−3である。図10から明らかなように,各材料を比較すると,加工後の焼鈍による磁気特性の回復はB−3の方が大きく,焼鈍の必要性が高いことがわかる。
【0052】
なお,上記した実施例では,上記ヨークをいずれも本発明に従う軟磁性ステンレス鋼を用いて形成しているが,すべてのヨークに当該鋼を使用することなく,部分的に使用してよい。例えば,磁束密度の変化の少ないフレームヨークは従来の電磁軟鉄を用いてもよい,例えば図4のフレームヨーク10´を電磁軟鉄としたり,また一部のステータヨーク(例えば図4のステータヨーク5´,6´)を電磁軟鉄とし,他のステータヨーク(図4の7,8)だけを当該鋼で製造してもよい。
【0053】
また,このように一部のステータヨークのみを本発明鋼で製造する場合,その使用箇所は,図示の例に限ることなく,その組み合わせは任意である。さらに櫛歯状磁極部に相当する部分だけを当該鋼で製造してもよい。すなわち,本発明でいうところのステータヨークの一部とは,係る変形例のように,ステッピングモータを構成する複数のステータヨークのうちの一部と,1つのステータヨークのうちの一部分の両者を含む概念である。さらには,図示省略するが,すべてのステータヨークを本発明に従う鋼で形成し,フレームヨークは従来と同様に電磁軟鉄で形成するようにしてもよい。
【0054】
【発明の効果】
以上のように,本発明に係るステッピングモータでは,少なくとも交流磁場の影響を受けやすいステータヨークの一部を,本文に説明した特定の成分組成を有し且つF値が0〜8となるように調整されたフエライト単相組織の軟磁性ステンレス鋼で形成したため,良好な磁気特性を備え且つ渦電流の発生を可及的に抑制することができるようになった。その結果,渦電流により生じる鉄損が軽減し効率が向上する。
【0055】
また,当該ステンレス鋼は耐食性に優れるので特別なメッキ工程も不要となり従来の電磁軟鉄のものに比べ工程の削減をすることも可能となる。しかも,材料の品質をF値で管理したため安定した組織のフェライト単相組織となり,良好な磁気特性が得られると同時に加工性も良好となる。その結果,絞り加工が可能となり,従来から用いられてるステータヨークの製造設備をそのまま使用することができる。その結果,高出力のステッピングモータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るステッピングモータの実施例を示す一部破断斜視図である。
【図2】本発明に係るステッピングモータの実施例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明に係るステッピングモータの他の実施例を示す分解斜視図である。
【図4】本発明に係るステッピングモータの更に他の実施例を示す分解斜視図である。
【図5】本発明に係るステッピングモータの更に他の実施例を示す分解斜視図である。
【図6】本発明の効果を実証したモータ特性図である。
【図7】本発明の効果を実証した他のモータ特性図である。
【図8】本発明に従うF値に対する交流磁束密度の特性を示す図である。
【図9】本発明に従う軟磁性ステンレス鋼の焼鈍温度に対する交流磁束密度の特性を示す図である。
【図10】ヨーク加工後の焼鈍の有無に対する従来品および本発明品の交流磁束密度の関係を示す図である。
【符号の説明】
1 シャフト
2 連結部材
3 永久磁石
4 ロータ
5〜8 ステータヨーク
9 励磁コイル
10 フレームヨーク
11 キャップ
12 フランジ
Claims (2)
- 多極着磁された永久磁石からなるロータ部と,前記ロータ部と同軸上で対向するように設けられた複数個の櫛歯状極部を有するステータヨーク部と,前記ステータヨーク部の前記櫛歯状極部の外周囲に装着した励磁コイルと,前記励磁コイル並びに前記ステータヨーク部を囲みこむ様に形成されたフレームヨーク部を備えたステッピングモータにおいて,
前記ヨーク部の少なくとも一部が,重量%で,C:0.02%以下,Si:0.7%を超え3.0%以下,Mn:0.7%以下,P:0.04%以下,S:0.005%以下,Ni:0.5%以下,Cr:9.0〜18.0%,N:0.02%以下,O:0.010%以下,Al:4.0%以下(無添加を含む)を含有し,且つ
F値=Cr+Si+2.1Al−37.0(C+N)−2.0Ni−0.6Mn−10.8
で定義されるF値が0以上8以下となるように各成分量が調整され,残部がFeおよび不可避的不純物からなり,電気抵抗率が86 . 0μΩ・cm以上の軟磁性ステンレス鋼で形成されていることを特徴とするステッピングモータ。 - ステッピングモータのステータヨークを製作するにあたり,重量%で,C:0.02%以下,Si:0.7%を超え3.0%以下,Mn:0.7%以下,P:0.04%以下,S:0.005%以下,Ni:0.5%以下,Cr:9.0〜18.0%,N:0.02%以下,O:0.010%以下,Al:4.0%以下(無添加を含む)を含有し,且つ
F値=Cr+Si+2.1Al−37.0(C+N)−2.0Ni−0.6Mn−10.8
で定義されるF値が0以上8以下となるように各成分量が調整され,残部がFeおよび不可避的不純物からなるフエライト系ステンレス鋼の鋼板を所要のステータヨーク形状に成形加工し,次いで700〜1200℃の温度範囲で焼鈍することを特徴とする,電気抵抗率が86 . 0μΩ・cm以上のステッピングモータのステータヨークの製造方法。
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JPH0888965A (ja) | 1996-04-02 |
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