JP4284882B2 - 分割型鉄心 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、モーターや発電機等に好適に用いることができる分割型鉄心に関する。
【0002】
【従来の技術】
家電等に用いられる比較的小型のモーターのステーター鉄心は、一般に図1に示すように、円環状のコアバック2と放射状に配置されたティース1とを一体に打ち抜いた構造をもっており、素材として無方向性電磁鋼板が使用されてきた。しかしながら、近年ではモーターの小型化、銅損低減等を目的として、図2に示すように多数のT字型部材3を連結して、ステーター鉄心を組み立てる方式が採られるようになってきている。このようなステーター鉄心、さらにはこれを利用したステーターの組立方式については例えば『日経メカニカル』2000年No.554号、40〜42ページに解説されている。
【0003】
このような多数のT字型部材3を連結して組み立てる分割型のステーターでは、従来の一体打ち抜き型のステーター鉄心と異なり、ティースおよびコアバックの双方に磁化容易軸が存在するように打ち抜かれたT字型部材を利用すれば、鉄心に流れる磁束をティースとコアバックのそれぞれにおいて最適化することができ、ステーターに発生する鉄損を最小限にすることができる。従来の無方向性電磁鋼板は、特定の磁化容易軸を特定の方向に集積させたものではなく、したがって、そのような目的に対しては必ずしも最適の材料ではない。
【0004】
このような分割型ステーター鉄心用の電磁鋼板として、一方向性電磁鋼板を利用する試みもなされる。すなわち、一方向性電磁鋼板ではその圧延方向(L方向という)に結晶粒がゴス方位({110}〈001〉)に集積しているため、例えばT字型部材のティース軸方向を鋼板の圧延方向に取ることによってティース部に発生する鉄損を小さくすることができる。しかし、一方向性電磁鋼板は圧延方向に対する直角方向(C方向という)の磁気特性は低いのでコアバック部に発生する鉄損は必然的に高くならざるをえず、分割型鉄心製造用のT字型部材用の素材として必ずしも適切ではない。
【0005】
二方向性電磁鋼板は、キューブ方位({100}〈001〉方位)結晶粒が集積した電磁鋼板であり、その磁化容易軸は鋼板のL方向とC方向の双方にあるので、例えば、T字型部材のティース軸方向を鋼板の圧延方向に取ることによってティース部に発生する鉄損を小さくすることができ、併せてコアバック部に発生する鉄損も低くすることができ、一見理想的である。しかしながら、この二方向性電磁鋼板は板面内に二つの〈001〉軸を有するため、磁区構造が複雑である上、外部応力や加工歪によって磁区構造変化がおこりやすい。そのため、一方向性電磁鋼板に比べて磁気特性の歪感受性が大きく、鉄心の特性が不安定になるという問題がある。加えて、分割型鉄心の形状はティースとコアバックの幅が必ずしも等しくないため、L方向とC方向の特性が等しい二方向性電磁鋼板を用いてもモーターの鉄損を最低にできるとは限らない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の二方向に磁化される鉄心に適した分割型鉄心を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、種々の方位を有する電磁鋼板を試作して実際に分割型コアのT字型部材に用いる試験を多数行い、従来の一方向性電磁鋼板や二方向性電磁鋼板あるいは無方向性電磁鋼板と異なる特有の配向性をもった鋼板が、モーターの効率を最大にするのに最適なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の分割型鉄心は、{100}〈uvw〉(u,v,wは任意)の方位を有する結晶粒(A)の板面内に占める面積率が40%以上、{110}〈001〉方位の結晶粒(B)の板面内に占める面積率が5〜50%、かつ上記A及びBの結晶粒の占める合計の面積率が60%以上であり、Siを1〜4mass%含有する電磁鋼板を用い、かつ、前記電磁鋼板の圧延方向と鉄心のティースの磁化方向とが一致するように打ち抜いたT字形鉄心部材を組み立ててなる。ただし、前記電磁鋼板の結晶粒の各方位の許容範囲を±20°とする。
【0009】
上記分割型鉄心は、前記{100}〈uvw〉(u,v,wは任意)の方位を有する結晶粒(A)のうち、{100}〈001〉方位の結晶粒の板面内に占める面積率が30%以上であること、また、前記電磁鋼板の5000A/mにおける磁束密度B50が圧延方向で1.8T以上、圧延直交方向で1.7T以上であることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、その製造に用いる電磁鋼板の製造方法を含めて具体的に説明する。
【0011】
C:0.017mass%、Si:2.8mass%、Mn:0.08mass%、Sb:0.02mass%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを多数製造した。これらを熱間圧延により厚さ1.8〜3.4mmの熱延板とした。この熱延板に900〜1200℃の熱延板焼鈍を行い、酸洗後、1回若しくは1000℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延又は150〜270℃の温間圧延によって厚さ0.35mmの冷延板とした。得られた冷延板に均熱温度830〜1050℃、湿潤水素雰囲気下で脱炭焼鈍を行い、C含有量を0.002%以下に減少させた。次いで10vol%H2-90vol%N2雰囲気で850〜1050℃の仕上焼鈍を行って種々の方位(集合組織)をもつ方向性電磁鋼板とした。
【0012】
このようにして得られた種々の方向性電磁鋼板に対し、無方向性電磁鋼板に通常施される半有機絶縁コーティングを施した後、図2に示すような分割型コアのT字型部材を打ち抜きにより製作した。打ち抜きは、ティースの磁化方向が鋼板の圧延方向(L方向)になるように行った。
【0013】
得られたT字型部材を分割型鉄心に組みたて、巻線を施し、表面磁石タイプのローターと組み合わせて出力500WのDCブラシレスモーターを製作した。このモーターを4000rpmで回転させ、入力電力と出力との比、出力(W)/入力(W)によってモーター効率(%)を測定した。
【0014】
方向性電磁鋼板の具体的な製造条件、得られた電磁鋼板の結晶方位(集合組織)およびこれらを組み立てて得られたモーターのモーター効率の測定結果をまとめて表1、表2に示す。また、比較材として一方向性電磁鋼板および二方向性電磁鋼板を通常の方法で製造し、上記と同様にモーターに組み立てモーター効率を測定した。その結果も表1、表2に併せて示す。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
なお、結晶粒の方位の測定はEBSP(electron back scattering pattern)により行い、特定方位からのずれが20°以内であるものをその特定方位に属する結晶粒であるとし、結晶方位面積率はそのような特定方位に属する結晶の鋼板表面積に対する面積率によって算定した。この場合において、面積率の算定は、方向性電磁鋼板の結晶粒の場合は通常は鋼板の板厚方向を貫通しているので、鋼板の片面について行えば十分であるが、結晶粒が細かくて板厚を貫通していない場合には鋼板の表裏について上記面積率を算定しその平均値によって結晶方位面積率を決定した。また、結晶粒が大きい場合には、鋼板の広い範囲から多数の試料を採取して結晶粒の方位測定を行い、測定誤差が小さくなるようにした。なお、上記実験では、結晶粒の方位測定をEBSPで行ったが、X線回折等、他の方法で方位測定を行っても構わない。
【0018】
表2から{100}〈uvw〉方位(u,v,wは任意)の結晶粒(A)の面積率が大きく(この場合約50%以上)、{110}〈001〉方位(B)の結晶粒の面積率がある程度の値(この場合5〜42%)であり、かつ両者の合計が高い(この場合約65%以上)となっているときモーター効率が約85%を超えることが分かる。このような実験を繰り返しすことによって、2方向に磁化される分割型鉄心に用いる電磁鋼板としては、{100}〈uvw〉方位(u,v,wは任意)の結晶粒(A)の面積率が40%以上あり、{110}〈001〉方位(B)の結晶粒の面積率が5〜50%であり、かつ両者の合計を60%以上とする必要があることが確定できた。
【0019】
上記発明において、{100}〈uvw〉方位の結晶粒は、鋼板の板面内において2つの〈001〉軸を有している。したがってその面積率が高いことは、鋼板のL方向およびC方向の磁気特性を向上させ、これから打ち抜かれたT字型鉄心部材の、ティースとコアバックの境界部の回転鉄損を低減させることになる。したがって、その面積率は高いことが望ましく40%以上、できれば60%以上とするのがよい。
【0020】
特に、{100}〈001〉方位の結晶粒({100}〈uvw〉方位の結晶粒(A)のうち{001}軸が鋼板圧延方向および圧延方向と直角方向に向いたもの)の占める面積率が30%以上となると、L方向とC方向に多くの結晶の〈001〉軸が向くため、ティース及びコアバックの双方の磁化が容易になり、鉄損が低減し、モーターの効率がより向上する効果がある。
【0021】
一方、{110}〈001〉方位(ゴス方位)の結晶粒は、鋼板のL方向に〈001〉軸を有するため、L方向の磁気特性が高い。この性質を利用するため、T字型鉄心部材において、ティースの方向が鋼板のL方向と一致するように打ち抜き、これを組み立てて鉄心とすればより幅の小さいティースで大きな磁束を確保することができ、それにより、巻線のためのスペースを大きく取ることが可能になり、モーターの効率化に寄与する。しかも、この方位は鋼板板面内に〈001〉軸が一つしかないものであるから、巻線や鉄心固定にともなう締め付けや、振動に起因する応力が加わっても磁気特性が変動し難いという利点をもたらす。
【0022】
しかしながら、この{110}〈001〉方位(ゴス方位)の結晶粒の面積率が板面の50%を超えて存在するとL方向、上記の例では、T字型鉄心部材のティースの方向の透磁率のみが高くなりすぎ、C方向となるコアバック方向の透磁率が低下するので、{110}〈001〉方位(ゴス方位)の結晶粒の占める面積率は5〜50%とする。
【0023】
上記の方位以外の結晶粒、例えば{111}〈uvw〉方位のように板面内に〈001〉軸を有さない方位の結晶粒の面積率は、極力少ないことが望ましい。具体的には、前記{100}〈uvw〉方位の結晶粒(A)と{110}〈001〉方位の結晶粒(B)との占める面積率の合計が60%以上である必要がある。
【0024】
さらにL向のB50(5000A/mにおける磁束密度)は1.8T以上、C方向のB50は1.7Tであることが好ましい。このように鋼板の磁束密度を高くすることにより、モーターのステーター鉄心の励磁電流を小さくすることができ、ひいてはモーターの鉄損の減少、モーター効率の増大、モーターの小型化、高トルク化等の利点が得られる。
【0025】
なお、本発明の分割型鉄心に用いる電磁鋼板の板厚は限定しないが、高周波領域における鉄損を減少させるため、0.35mm以下、より好ましくは0.23mm以下とするのがよい。
【0026】
本発明に係る分割型鉄心に用いる電磁鋼板の製造方法は、特に限定しないが、以下に示す化学組成を有する素材スラブを用い、これを、例えば、特願平11-115965号、特願平11-2895523号、特願平2000-318899号に開示されているような、インヒビターを用いることなく、熱延板焼鈍温度、冷間圧延の圧下率、一次再結晶温度等を調整する方法を利用することによって製造することが可能である。その代表的な例はすでに示したところである。
【0027】
本発明に係る分割型鉄心に用いる電磁鋼板を製造するにはSi:1〜4mass%を含有する素材を用いる。Siは素材の電気抵抗を高めて鉄損を低減させる効果があり、さらに高温焼鈍におけるα−γ変態が抑制されるので結晶粒を成長させ、集合組織を発達させる効果がある。そのため、Siは1mass%以上含有させることが必要である。しかし、Siが4mass%を超えると加工性が劣り、製造時の圧延や製品のモーター等の部品への加工が困難になるので4mass%を上限とする。
【0028】
残部はFeとすればよいが、磁気特性への影響が少ない成分を含有させることができる。例えば、Mnは熱間圧延を容易にする効果があり、また、電気抵抗を高める効果があるので0.005mass%以上含有させるのが好ましい。しかし、多すぎると磁束密度が著しく低下させるので、上限を1mass%とする。また、Sb、Sn、As、P、Geは鋼板の集合組織を発達させる効果があるので0.1mass%以下含有させることができる。また、磁束密度向上、鉄損低減、耐食性向上等の目的でCo、Ni、Cr、Moを1mass%以下の範囲で含有させることもできる。
【0029】
sol.Al(酸可溶性Al)は素材スラブ中に0.001mass%以上含有させると、二次再結晶の際、特定方位の集積度を飛躍的に増大させる効果がある。しかし、0.03mass%を超えると二次再結晶が生じにくくなり、特定方位の集積度を高めることが困難になる。したがってsol.Alは素材スラブ中に0.001〜0.03mass%の間で含有させるのが好ましい。なお、sol.Alを、二次再結晶焼鈍の段階で又はその終了後の段階で鋼板地鉄中から、たとえば被膜中に移行させて鋼板中に実質的を残留させないようにしても構わない。
【0030】
Cは熱間圧延や温間圧延において集合組織を変化させ、ゴス方位や{100}〈001〉や{100}〈011〉方位の結晶粒を得るのに有効な元素であるので、素材スラブや半製品の状態では0.1mass%以下の範囲で含有させることができる。しかし、Cは最終製品では鉄損を増加させる原因になるので、製造過程で脱炭して0.05mass%以下に低減するのが好ましい。なお、スラブや半製品段階でのC量は0.05mass%以下にすることが脱炭の進行を容易にする上で好ましく、また、0.01%〜0.025mass%とすることが{100}〈001〉の集合組織の発達を促進する上で一層好ましい。
【0031】
S、SeおよびOは介在物を形成して鉄損を劣化させるため、それぞれ100mass ppm以下に制限することが好ましい。NはAlと結合して二次再結晶の際、特定方位の集積度を増大させる効果があるので微量含有させることが好ましいが、100mass ppmを超えると鉄損が劣化するので100mass ppm以下の範囲で素材スラブ中に含有させることができる。好ましくは40mass ppm以下である。
【0032】
本発明に係る分割型鉄心に用いる電磁鋼板は、その表面に絶縁コーティングを施し積層鉄心として利用できるようにするのがよい。その際、絶縁コーティングをいわゆる半有機コーティングとして打ち抜き性を改善しておくのが好ましい。また、コーティングを耐熱性のあるものとしておけば、歪み取り焼鈍によって鉄損の低減が可能になる。
【0033】
【実施例】
表3に示す製造条件により種々の結晶方位をもつ電磁鋼板を製造した。得られた電磁鋼板に半有機絶縁コーティングを施して製品とした。得られた電磁鋼板はすべて{100}〈uvw〉の方位を有する結晶粒の板面内に占める面積率が50%以上、また、{110}〈001〉方位の結晶粒の方位を有する結晶粒の板面内に占める面積率が5〜30%以上であった。
【0034】
得られた電磁鋼板についてエプスタイン試験によりL方向及びC方向の磁気特性を測定し、さらに、図2に示すような分割型鉄心のT字型部材を打ち抜きにより製作した。打ち抜きは、ティースの磁化方向が鋼板の圧延方向(T方向)になるように行い、得られたT字型部材を分割型鉄心に組みたて、巻線を施し、表面磁石タイプのローターと組み合わせて出力500WのDCブラシレスモーターを製作した。このモーターを4000rpmで回転させ、入力電力と出力との比、出力(W)/入力(W)によってモーター効率(%)を測定した。
【0035】
これらの測定結果は、鋼板のエプスタイン試験結果とともに表4にまとめて示す。ここに明らかなようにL方向のB50値が1.8T以上、C方向のB50値が1.7T以上のときには、モーター効率が90%以上の高い値となった。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
以上本発明を、分割型ステーター鉄心を有するモーターに適用する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、2方向に磁化される分割型鉄心、たとえばEIコア、分割型鉄心を有する発電機、リニアモーターなどに広く適用することができる。
【0039】
【発明の効果】
本発明は上記のように、分割型鉄心に用いる方向性電磁鋼板を選定したので、2方向に磁化される鉄心、たとえば、モーター鉄心に発生する鉄損を低減することができ、また、巻線のためのスペースを大きく取ることが可能になり、モーターの効率化に寄与するという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 円環状のコアバックと放射状に配置されたティースとを一体に打ち抜いた構造を有する従来のステーター鉄心の概略図である。
【図2】 分割型ステーター鉄心の概略図である。
【符号の説明】
1:ティース
2:コアバック
3:(分割型ステーター鉄心の)T字型部材
Claims (3)
- {100}〈uvw〉(u,v,wは任意)の方位を有する結晶粒(A)の板面内に占める面積率が40%以上、{110}〈001〉方位の結晶粒(B)の板面内に占める面積率が5〜50%、かつ上記A及びBの結晶粒の占める合計の面積率が60%以上であり、Siを1〜4mass%含有する電磁鋼板を用い、かつ、前記電磁鋼板の圧延方向と鉄心のティースの磁化方向とが一致するように打ち抜いたT字形鉄心部材を組み立ててなるものであることを特徴とする分割型鉄心。ただし、前記電磁鋼板の結晶粒の各方位の許容範囲を±20°とする。
- 前記{100}〈uvw〉(u,v,wは任意)の方位を有する結晶粒(A)のうち、{100}〈001〉方位の結晶粒の板面内に占める面積率が30%以上であることを特徴とする請求項1記載の分割型鉄心。
- 前記電磁鋼板の5000A/mにおける磁束密度B50が圧延方向で1.8T以上圧延圧延直交方向で1.7T以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の分割型鉄心。
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