JP3667650B2 - 防火性合わせガラス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は建築物や船舶等の扉、窓の開口部及び覗き窓、照明カバー等に適用でき、更には、火災に遭遇したときに火炎を遮断し、類焼を防ぐことのできる防火性合わせガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、防火ガラスとして強化ガラスの単板が検討されてきており、例えば特公昭58−52929号公報に開示されたものが知られている。この防火ガラスは、ソーダ石灰系ガラスの熱強化処理のレベルを通常品よりも上げて表面圧縮応力を高めている。また、熱強化処理に先立って端縁部を切削・研磨してその表面(研磨面)粗さを小さくして亀裂の発生を防ぐことによって、単板の防火ガラスとして好適なものとしている。表面圧縮応力は26kg/mm2 (255MPa)以上とするとされている。
【0003】
また、特開平8−132560号公報には、防火性合わせガラスとして、一枚もしくは複数枚の防火性ガラス板にテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体からなるフッ素樹脂フィルムを貼り合わせた構成の防火安全ガラスが提案されている。防火性ガラス板とフッ素樹脂フィルムとは熱圧着により接着されている。この防火安全ガラスは、火災時には防火戸として機能し、平常時には安全ガラスとして機能するとされている。また、使用する防火性ガラス板としては耐熱性透明結晶化ガラスが好ましく、他に強化ガラスも使用可能とされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、単板で防火ガラスとしての性能を出そうとすると、上記のような工程が必要となり、結果的に熱強化処理の増大により、ガラスの反り・ゆがみが大きくなるために用途や形状が制約されるとともに、端縁部の表面処理に手間が掛かりコストが高くなるという問題がある。
【0005】
また、後者の防火安全ガラスでは、耐熱性透明結晶化ガラスは高価なため、防火安全ガラスとしても用途が限定され、広く普及する上で難がある。高価な耐熱性透明結晶化ガラスに代えて、熱強化処理のレベルを高めた防火性強化ガラスを使用すると、通常工業的に行われている貼り合わせ加工を行った場合、ガラスの反り、表面のうねりが中間膜に使われるフッ素樹脂フィルムの変形で埋めることができないレベルにある。その結果、フッ素樹脂フィルムとガラス板との間に気泡が残存したり内部剥離が発生して、外観、ガラス板との接着性、耐衝撃性の機能を損ねるという問題がある。
【0006】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は外観、耐衝撃性及び防火性を満足でき、貼り合わせ加工を従来の加工条件で実施できる防火性合わせガラスを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、強化ガラスに関する検討を詳細に行った結果、強化ガラスの強化レベルと強化ガラスの平坦度の悪化(歪みの増大)とに相関関係があり、強化レベルを高めると平坦度が悪化するという知見を得た。そして、強化ガラスの応力状態を制御することによりガラス板の平滑性を向上させ、ひいては貼り合わせ加工を従来の加工条件で実施しても、防火性合わせガラスとしての良好な性質を満足できることを見出し、本願発明を完成した。
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、少なくとも強化ガラス板を1枚有する状態で、複数枚のガラス板と樹脂フィルムとが積層された防火性合わせガラスであって、前記強化ガラス板として表面圧縮応力が49MPa以上196MPa以下の強化ガラスを使用し、各ガラス板とフッ素樹脂フィルムとを接着層を介して積層一体化し、少なくとも両面に強化ガラス板が配置される状態で複数枚のガラス板と樹脂フィルムとが積層されている。
【0009】
この発明では、強化ガラス板の表面圧縮応力を49MPa以上196MPa以下とすることにより、強化ガラス板の平滑性が向上し、貼り合わせ加工が良好になる。そして、通常工業的に行われている貼り合わせ加工を行った場合、ガラスの反り、表面のうねりを中間膜に使われるフッ素樹脂フィルムの変形で埋めることができ、防火性合わせガラスの外観、耐衝撃性及び防火性が向上する。積層一体化されたガラス板は、強化ガラス板だけでなく非強化ガラス板を含む場合もあるが、非強化ガラス板は強化ガラス板より平滑性に優れているため、フッ素樹脂フィルムに良好に貼付される。強化ガラス板の間あるいは強化ガラス板と非強化ガラス板の間に接着層を介してフッ素樹脂フィルムが存在するため、平常時にガラス板が破損しても破片が飛び散ることがない。また、ガラスを破壊するのに時間がかかり、防犯機能も高くなる。一方、火災の際に、従来の熱強化レベルを高めた防火性ガラスより速い段階で熱応力によりガラス板が割れるが、フッ素樹脂フィルムに接着された状態で脱落せずに保持される。そして、フッ素樹脂フィルムの分解、ガス化、拡散・消失時までに、熱割れしたガラスが再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。また、フッ素樹脂は透明性及び耐熱性に優れているので、防火性合わせガラスの中間膜として好適である。
【0011】
また、少なくとも両面に強化ガラス板が存在するため、片面あるいは内部にのみ強化ガラス板が存在する状態の防火性合わせガラスに比較して、防火性がより向上する。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、非強化ガラス板を有し、該非強化ガラス板は強化ガラス板とフッ素樹脂フィルム及び接着層を介して積層一体化されている。この発明では、非強化ガラス板は強化ガラス板と隣接するように積層一体化されているため、非強化ガラス板が隣接して積層一体化されている状態の防火性合わせガラスに比較して、防火性が向上する。
【0013】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記強化ガラス板がソーダ石灰系ガラス又はホウ珪酸系ガラス製である。この発明ではガラス板を入手し易く、熱処理も通常の熱処理装置で行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記フッ素樹脂フィルムがテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライドの三元共重合体からなる。この発明では、フッ素樹脂の融点が110〜180℃と他のフッ素樹脂の融点より大幅に低いため、加工性が向上する。
【0015】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記強化ガラス板の表面圧縮応力が68MPa以上127MPa以下である。この発明では、所望の強化ガラスをより入手し易くなる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を説明する。
図1は本発明の防火性合わせガラス(以下、単に合わせガラスと称す)1の基本構成を示す模式側面図である。合わせガラス1は、フッ素樹脂フィルム2の両面に接着層3を介して強化ガラス板(以下、単にガラス板と称す)4が接着されている。即ち、両面にガラス板4が配置される状態で、複数枚のガラス板4とフッ素樹脂フィルム2とが接着層3を介して積層一体化されている。ガラス板4には、表面圧縮応力が49MPa以上196MPa以下、好ましくは68MPa以上127MPa以下の強化ガラスが使用されている。
【0017】
ガラス板4には通常のソーダ石灰系ガラス又はホウ珪酸系ガラスが使用でき、その製法は引上法、圧延研磨法、フロート法等の公知の方法が採用できる。しかし、好ましくは圧延研磨法又はフロート法で製造された、表面欠陥や歪みの少ない平滑面を有するガラス板を採用するのが望ましい。
【0018】
ガラス板4のサイズは限定されるものではないが、熱強化処理手段の処理可能なサイズの範囲において各種サイズのものが採用でき、通常、数百mm〜2000mm四方のものや長さが5000mm以下の長方形のものが使用される。ガラス板4の厚みは特に制限はないが、熱強化処理可能であることと、取扱い施工性を考慮すると、例えば4〜12mm程度が好ましい。
【0019】
熱強化処理方法としては、通常の方法例えば、ガラス板4を鉛直状態に保持しつつ熱強化する鉛直強化方法や、ガラス板4をロール上で搬送しながら熱強化を行う水平強化方法を採用でき、適宜選択して使用すればよいが、強化処理後の表面圧縮応力を高くする場合は、後者の方法が好ましい。熱処理条件の設定は、前者は加熱温度と風冷による冷却条件設定のみで行い、後者は加熱、冷却条件と搬送ロールの間隔の条件を組み合わせて行う。ガラス板4の加熱を搬送ロール上で行うと、半溶融したガラス板が搬送ロールの間で撓んだ状態になり、表面にうねりが生ずるので、撓みが小さくなるように搬送ロールの間隔及び径を適宜設定する。
【0020】
強化ガラスは表面圧縮応力が49〜196MPaであれば良く、JISR3206による熱強化処理で得られる表面圧縮応力が68〜127MPaの強化ガラスを使用すれば、入手が容易で工業的に効率が良い。この強化レベルでは、単板として防火ガラスに使用しても防火性を確保することができないが、本発明の構成の合わせガラス1とすることにより、防火性を確保できる。
【0021】
合わせガラス1の中間膜として使用されるフッ素樹脂フィルム2としては、フッ素樹脂を構成するモノマー成分がフッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素系モノマーの単独重合体又は共重合体、あるいは前記含フッ素系モノマーにエチレン、アルキルビニルエーテル等のビニルモノマー等が併用された共重合体等がある。そして、シート状に成形できる熱溶融成形可能なものであればよく、テトラフルオロエチレンの単独重合体以外のフッ素系樹脂は特に制限なく使用することができる。具体的にはポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライドの三元共重合体等比較的透明性の良いフッ素樹脂が挙げられる。
【0022】
フッ素樹脂は透明性及び耐熱性に優れているので、防火性合わせガラスの中間膜として好適である。中でもテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライドの三元共重合体(以下、THV共重合体と称す)は、引っ張り強度が大きく耐衝撃性に優れる等の特性を持つので、中間膜としてより好適である。また、THV共重合体は110〜180℃という低い融点を有するので、特別な貼り合わせ加工設備が不要である。THV共重合体の好ましい共重合比は、ビニリデンフルオライド20〜40重量%、テトラフルオロエチレン20〜60重量%、ヘキサフルオロプロピレン5〜30重量%である。
【0023】
フッ素樹脂フィルム2の厚さは0.05mm以上、より好適には0.2mm以上とするのが望ましい。厚さが0.05mmより薄いと、ガラス板4の反り、表面のうねりをフッ素樹脂フィルム2が埋め合わせることができず、貼り合わせ加工後に気泡が残存して、外観不良、ガラス板4との接着性、耐衝撃性の低下を生じ易い。また、厚さを2.0mmより大きくしても、コスト高になるだけで防火性合わせガラスとしての機能の向上は望めないので、2mm以下が好ましい。従って、厚さは0.05〜2mmの範囲で適宜選択すればよい。
【0024】
フッ素樹脂フィルム2の製法としては公知の方法を採用することができ、例えば押出成形、カレンダー成形等の熱可塑成形によりフィルム化する方法等が可能である。
【0025】
接着層3を構成する接着剤についても特に制限されるものではないが、例えばアクリル系、フッ素系、シリコーン系、ビニル系等の接着剤が使用でき、中でもアクリル系の接着剤が好適に使用できる。また、ガラス板4との接着を強固にするためシランカップリング剤等の接着促進剤を介在させることも好ましい。また、接着層3はガラス面に塗工しても予めフッ素樹脂フィルム2に積層加工してもよい。
【0026】
接着層3の厚さは0.001〜5μmが好ましい。0.001μm以下ではガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との十分な接着強度が得られず、また、5μmより厚くしても接着強度は飽和し、それ以上の接着強度の増大は期待できない。
【0027】
ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との貼り合わせ加工は、公知の方法が使用でき、積層構成順に積み重ねたものを加熱、加圧処理してフッ素樹脂フィルム2を接着層3を介してガラス板4に密着状態で接着させることができる。加熱手段としては、加熱炉、加熱ロール等が、加圧手段としはプレス板処理、ニップロール通過処理、ゴム製の袋に封入しての減圧処理を行う真空バック法等が使用でき、適宜組み合わせればよい。これらの設備は一般的に使用される設備を利用できる。
【0028】
次に前記のように構成された合わせガラス1の作用を説明する。
ガラス板4の表面圧縮応力を49MPa以上196MPa以下とすることにより、ガラス板4の平滑性が向上し、通常工業的に行われている貼り合わせ加工を行った場合、ガラスの反り、表面のうねりにより生じる隙間が、中間膜に使われるフッ素樹脂フィルム2の変形で埋められる。その結果、フッ素樹脂フィルム2とガラス板4との間に気泡が残存することがなくなり、合わせガラス1の外観、耐衝撃性及び防火性が向上する。
【0029】
平常時、合わせガラス1に物が衝突した場合、あるいは合わせガラス1を破壊しようして衝撃を加えた場合、ガラス板4の間に接着層3を介してフッ素樹脂フィルム2が存在するため、ガラス板4が割れ難く、また、破損しても破片が飛び散ることがない。
【0030】
火災時には、合わせガラス1の両面に存在するガラス板4のうち、火炎と対応する側のガラス板4が先ず熱応力により熱割れを発生する。ガラス板4の表面圧縮応力が単板で防火ガラスとして使用する強化ガラスの表面圧縮応力より小さいため、従来の熱強化レベルを高めた防火性ガラスより速い段階で熱応力によりガラス板4が割れる。しかし、ガラス片はフッ素樹脂フィルム2に接着された状態で脱落せずに保持され、炎がフッ素樹脂フィルム2に直接当たるのが防止される。温度が高くなるに伴い、フッ素樹脂フィルム2の分解、ガス化が進むが、発生したガスは、炎に面した側の割れたガラス片の隙間から拡散するため、両ガラス板4間の圧力が外側のガラス板4を破壊するほど高まることがない。そして、フッ素樹脂フィルム2の分解、ガス化、拡散・消失時までに、熱割れしたガラスが再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。
【0031】
(実施例及び比較例)
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
実施例及び比較例として、フッ素樹脂フィルム2の厚さと、ガラス板4の表面圧縮応力の値を変えた合わせガラスを準備し、外観観察、接着力(ボイル強度)、耐衝撃性及び防火性の評価を行った。
【0032】
評価に使用する試料は、次のように作製した。
フッ素樹脂フィルム2としてTHV、ガラス板4として厚さが6mmで評価目的に合わせた所定の大きさのソーダ石灰系ガラス板又はホウ珪酸系ガラス板、接着剤としてアクリル酸エステル共重合体とエポキシ系シランカップリング剤の混合系からなる接着剤を使用した。ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2の貼り合わせは真空バックを用いて140℃、20分で行った。
【0033】
ガラス板4の大きさは、外観観察用が500×500mm、ボイル強度試験用が300×300mm、耐衝撃性評価用(ショットバック試験用)が1930×864mm、防火試験用が800×500である。ガラス板4の表面圧縮応力は、旭テクノグラス(株)製FMS−60表面応力計(Naランプ光源使用)を使用して、公知の光弾性的方法により測定した。
【0034】
〔合わせガラスの評価〕
<外観評価>
外観観察用の合わせガラス1の外観を目視で観察した。ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との間に気泡残りや端部の剥離がないものを合格(○)とし、気泡残りや端部の剥離がある場合を不合格(×)とした。
【0035】
<接着力(ボイル強度)評価>
JISR3205の煮沸試験を行った。煮沸した水に合わせガラス1を2時間浸漬し、端部の浮きが13mm以内であれば合格(○)、13mmを超えれば不合格(×)とした。
【0036】
<耐衝撃性評価>
耐衝撃性試験をJISR3205のショットバックテストに準じた方法で行った。合わせガラス1を所定の試験枠に固定し、45kgの加撃体を鋼より線で試料の中心点に当たるようにして振り子式に自由落下させる。加撃体の静止の状態からの落下距離は120cmとし、ガラスが割れなければ○、ガラスが割れれば△、貫通すれば×と判定した。
【0037】
<防火試験>
ガス加熱炉を用いて建築基準法施行令第112条第1項の標準加熱曲線に基づいて防火試験用のサイズの合わせガラス1を加熱することによって判定した。判定は、特定防火設備(火炎通過なし60分保持)を○、火炎通過なし20分保持を△、火炎通過なし20分未満を×とした。なお、特定防火設備(火炎通過なし60分保持)の基準は、旧建設省告示第1125号に基づく甲種合格に相当する。
【0038】
各実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
表1から明らかなように、表面圧縮応力が49〜196MPaの範囲にある実施例1の場合は、外観、接着力、耐衝撃性及び防火性(防火試験)の全ての評価項目で○(合格)であった。一方、表面圧縮応力が49MPaより小さな比較例1(表面圧縮応力が0MPa(熱強化処理なし))及び比較例2(表面圧縮応力が29MPa)では、外観及び接着力の評価項目は○であったが、耐衝撃性及び防火性の評価項目が比較例1では×で、比較例2では△であった。詳述すると、比較例1ではショットバックは加撃体が合わせガラスにめり込んだ状態で止まり、防火試験は7分で出火した。また、比較例2ではショットバックはガラスが割れて、防火試験は25分で出火した。即ち、ガラス板4の表面圧縮応力が49MPaより小さな場合は、外観及び接着性は良いが、耐衝撃性及び防火性が不充分であることが確認できる。
【0040】
また、表面圧縮応力が196MPaより大きな比較例3(表面圧縮応力が240MPa)では、外観及び接着力の評価項目が不合格であった。詳述すると、外観観察の状態で、ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との間に局所的な気泡残りが数カ所見られ、合わせガラス1の端部には剥離が発生していた。そして、煮沸試験では浮きが18mmまで進行した。そのため、耐衝撃性及び防火試験は実施しなかった。以上の結果から、ガラス板4の表面圧縮応力が49〜196MPaの範囲の場合に、防火性合わせガラスとして満足できる性能を有することが確認された。
【0041】
フッ素樹脂フィルム2の厚さを変化させた場合、厚さが0.2〜2.5mmの実施例2の場合は、外観、接着力、耐衝撃性及び防火性の全ての評価項目で○(合格)であった。
【0042】
実施例3ではガラス板4としてソーダ石灰系ガラス板を使用した際に防火性合わせガラスとして満足できる条件において、ガラス板4としてホウ珪酸系ガラス板を使用した。この場合も実施例1,2と同様に、全ての評価項目で結果は○であった。
【0043】
この実施の形態では次の効果を有する。
(1) 合わせガラス1に使用するガラス板4として表面圧縮応力が49MPa以上196MPa以下の強化ガラス板を使用するため、強化ガラス板の平滑性が向上し、貼り合わせ加工性が良好になる。
【0044】
(2) ガラス板4の反りやうねりが小さく、フッ素樹脂フィルム2及び接着層3を介して積層一体化されているため、通常工業的に行われている貼り合わせ加工を行った場合でも、ガラス板4の反り、表面のうねりがフッ素樹脂フィルム2の変形で埋められて気泡残りが発生せず、合わせガラス1の外観、耐衝撃性及び防火性が向上する。
【0045】
(3) ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2とが接着層3を介して接着されているため、平常時にガラス板4が破損しても破片が飛び散ることがない。また、ガラスを破壊するのに時間がかかり、防犯機能も高くなる。一方、火災の際に、熱応力により従来の防火性強化ガラスに比べて火炎と対応する側のガラス板4が早く割れるが、ガラス板4が割れてもフッ素樹脂フィルム2に接着された状態で脱落せずに保持される。そして、フッ素樹脂フィルム2の分解、ガス化、拡散・消失時までに、熱割れしたガラスが再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。即ち、ガラス板4が熱応力で熱割れする温度を高める必要がないため、熱強化処理のレベルを通常より高める必要がなく、熱処理の際にガラス板の反りや歪みが発生し難くなり、平滑性に優れた合わせガラス1が得られる。また、フッ素樹脂は透明性及び耐熱性に優れているので、防火性合わせガラス1の中間膜として好適である。
【0046】
(4) ガラス板4がソーダ石灰系ガラス製又はホウ珪酸系ガラス製であるため、ガラス板を入手し易く、熱処理も通常の熱処理装置で行うことができるので製造コストを低減できる。
【0047】
(5) フッ素樹脂フィルム2としてTHV共重合体を使用した場合は融点が110〜180℃と他のフッ素樹脂の融点より大幅に低いため、加工性がより向上し貼り合わせ作業がより簡単になる。
【0048】
(6) ガラス板4の表面圧縮応力が68MPa以上127MPa以下とした場合、所望の強化ガラスをより入手し易くなる。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
【0049】
○ 合わせガラス1は、両面にガラス板4が配置される状態で複数枚のガラス板4とフッ素樹脂フィルム2とが接着層3を介して積層接着されていればよく、図2に示すように3枚のガラス板4を貼り合わせた構成や、4枚以上のガラス板4を貼り合わせた構成としてもよい。この場合も同様な効果を有する。
【0050】
○ 合わせガラス1は強化ガラス板(ガラス板4)のみが、フッ素樹脂フィルム2及び接着層3を介して複数枚積層一体化された構成に限らず、図3(a)に示すように、内部に非強化ガラス板5が配置された構成や、図3(b)に示すように、両面に非強化ガラス板5が配置された構成としてもよい。また、図4(a),(b)に示すように、片面に非強化ガラス板5が配置された構成としてもよい。これらの構成においても、強化ガラス板4に非強化ガラス板5がフッ素樹脂フィルム2及び接着層3を介して積層一体化されているため、火災の際に、熱応力により非強化ガラス板5が割れても、フッ素樹脂フィルムに接着された状態で脱落せずに保持される。非強化ガラス板5にもソーダ石灰系ガラス板あるいはホウ珪酸系ガラス板が使用される。
【0051】
○ 合わせガラス1を構成する複数枚のガラス板4の一部にソーダ石灰系ガラス板を使用し、残りをホウ珪酸系ガラス板としてもよい。例えば、図1のように2枚のガラス板4を使用する場合は、1枚をソーダ石灰系ガラス板に、1枚をホウ珪酸系ガラス板とする。
【0052】
○ 合わせガラス1を構成するガラス板4を3枚以上使用する場合、両面に配置されるガラス板4のみを表面圧縮応力が49MPa以上196MPa以下のガラス板として、他のガラス板を表面圧縮応力が50MPaより小さなガラス板としてもよい。
【0053】
前記実施の形態から把握できる技術的思想(発明)について以下に記載する。
(1) 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の発明において、前記フッ素樹脂フィルムの厚さは0.05mm以上である。
【0054】
(2) 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の発明において、前記接着層を構成する接着材はシランカップリング剤を含んでいる。
【0055】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜請求項5に記載の発明によれば、外観、耐衝撃性及び防火性を満足でき、貼り合わせ加工を従来の加工条件で実施できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の防火性合わせガラスの部分模式図。
【図2】 別の実施の形態の防火性合わせガラスの部分模式図。
【図3】 別の実施の形態の防火性合わせガラスの部分模式図。
【図4】 別の実施の形態の防火性合わせガラスの部分模式図。
【符号の説明】
1…防火性合わせガラス(合わせガラス)、2…フッ素樹脂フィルム、3…接着層、4…強化ガラス板(ガラス板)、5…非強化ガラス板。
Claims (5)
- 少なくとも強化ガラス板を1枚有する状態で、複数枚のガラス板と樹脂フィルムとが積層された防火性合わせガラスであって、前記強化ガラス板として表面圧縮応力が49MPa以上196MPa以下の強化ガラスを使用し、各ガラス板とフッ素樹脂フィルムとを接着層を介して積層一体化し、少なくとも両面に強化ガラス板が配置される状態で複数枚のガラス板と樹脂フィルムとが積層されていることを特徴とする防火性合わせガラス。
- 非強化ガラス板を有し、該非強化ガラス板は強化ガラス板とフッ素樹脂フィルム及び接着層を介して積層一体化されている請求項1に記載の防火性合わせガラス。
- 前記強化ガラス板がソーダ石灰系ガラス製又はホウ珪酸系ガラス製である請求項1又は請求項2に記載の防火性合わせガラス。
- 前記フッ素樹脂フィルムがテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライドの三元共重合体からなる請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の防火性合わせガラス。
- 前記強化ガラス板の表面圧縮応力が68MPa以上127MPa以下である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の防火性合わせガラス。
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