JP3638532B2 - 防火性合わせガラス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は建築物や船舶等の扉、窓の開口部及び覗き窓、照明カバー等に適用でき、更には、火災に遭遇したときに火炎を遮断し、類焼を防ぐことのできる防火性合わせガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、防火ガラスとして強化ガラスの単板が検討されてきており、例えば特公昭58−52929号公報、特開平9−208246号公報等に開示されたものが知られている。それらはソーダ石灰系ガラスの熱強化処理のレベルを通常品よりも上げて表面圧縮応力を高め、さらに熱強化処理に先立って端縁部を切削・研磨してその表面(研磨面)粗さを小さくして亀裂の発生を防ぐことによって、単板の防火ガラスとして好適なものとしている。前記研磨面の粗さ(凹凸)は30μm程度が好ましいとされている。
【0003】
また、特許登録第2575951号には、耐熱性結晶化ガラスとフッ素樹脂フィルムを熱圧着で積層接着し、火災時の火炎や煙を長時間に亘って遮断し、平常時においては破損しても破片が飛散せず、貫通孔が生じない安全性と防火性とを備えた防火安全ガラスが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、単板で防火ガラスとしての性能を出そうとすると、上記のような工程が必要となり、結果的に熱強化処理の増大により、ガラスの反り・ゆがみが大きくなるために用途や形状が制約され、また、端縁部の表面処理に手間が掛かりコストが高くなるという問題がある。
【0005】
また、後者の防火安全ガラスでは、耐熱性結晶化ガラスのコストが高く、経済性に劣るという問題がある。また、耐熱性結晶化ガラスとフッ素樹脂フィルムとが熱圧着で積層接着されているため、火災時に耐熱性結晶化ガラスが熱応力以外の原因で割れたときに、フッ素樹脂フィルムが割れたガラスを保持する機能が弱い。
【0006】
一方、防火ガラスにおいては、火災時に熱割れしたガラスが再溶着するまで割れた位置に保持できれば、再溶着したガラスが断熱層として働くので、防火性に寄与する。しかし、従来の防火ガラスでは、熱割れした各ガラス片が再溶着するまで保持する機能を有する補助具がなかった。
【0007】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は防火性と平滑性に優れ、しかも比較的容易かつ低コストで製造できる防火性合わせガラスを提供することにある。また、第2の目的は第1の目的に加えて簡単な補助具を使用することにより、防火性をより高めることができる防火性合わせガラスを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、両面にガラス板が配置される状態で複数枚のガラス板と樹脂フィルムとが積層された防火性合わせガラスにおいて、前記ガラス板がソーダ石灰系ガラス製又はホウ珪酸系ガラス製であって、端縁部が複数段の面取りが施された状態に切削・研磨されるとともに、前記ガラス板として全面が熱強化処理されたものがフッ素樹脂フィルムと直接又は接着層を介して積層一体化されるとともに、周縁部に複数枚のガラス板を押圧力により挟持する挟持具が装備されている。
【0009】
この発明では、ガラス端縁部の処理として複数段の面取りが施されるため、端縁部を円弧状に加工するより切削・研磨加工が容易である。ガラス板の間に接着層を介してフッ素樹脂フィルムが存在するため、平常時にガラス板が破損しても破片が飛び散ることがない。また、ガラスを破壊するのに時間がかかる。一方、火災の際に、熱応力により炎に面している側(防火試験の際の炉内側)のガラス板が細かく割れるが、フッ素樹脂フィルムに接着された状態で脱落せずに保持される。そして、フッ素樹脂フィルムの分解、ガス化、拡散・消失時までに、熱割れしたガラスが再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。合わせガラスのサイズが大きな場合は、割れたガラス同士が再溶着しても炎に面している側(防火試験の際の炉内側)のガラスが自重で倒れてガラスの欠落が生じる場合がある。しかし、外側のガラス板は防火試験開始後、18分程度保持されればその間に焼き鈍しが行われ、その後も割れずに保持される。また、合わせガラスの遮熱機能が大きく、火災の際の避難時に、合わせガラスにより炎から遮断された場所は、高温になり難いので通行することが可能になる。
【0010】
この発明では、火災時に熱割れしたガラスが再溶着するまで脱落せずに保持する役割を、挟持具が補助してフッ素樹脂フィルムと共同で行う。従って、熱割れしたガラスが再溶着するまでに脱落する割合が小さくなり、防火性が向上する。また、フッ素樹脂フィルムはガラス板を介して挟持具により挟持されているため、火災時に熱によりフッ素樹脂フィルムが溶融、沸騰した際、ガラス板同士が挟持具に圧接される状態となり、溶融、沸騰した状態のフッ素樹脂が合わせガラスを支持する枠の外に漏れ出るのが防止される。挟持具はガラス板を挟持する機能を有すればよく、簡単な構造でよい。
【0012】
この発明では、ガラス板の間にフッ素樹脂フィルムが存在するため、平常時にガラス板が破損しても破片が飛び散ることがなく、また、ガラスを破壊するのに時間がかかる。一方、火災の際に、炎に近い側のガラス板が熱応力により細かく割れるが、フッ素樹脂フィルムに対する接着力と、ガラス板の周縁部に配置されている挟持具が、割れたガラスの一部を保持することにより、熱割れしたガラスが再溶着するまで脱落せずに保持される。従って、接着層がなくても、熱割れしたガラスが再溶着するまでに脱落する割合が小さくなる。その結果、フッ素樹脂フィルムのガス化、拡散・消失時までに、熱割れしたガラスが再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。合わせガラスのサイズが大きな場合は、割れたガラス同士が再溶着しても炎に面している側(防火試験の際の炉内側)のガラスが自重で倒れてガラスの欠落が生じる場合がある。しかし、外側のガラス板は防火試験開始後、18分程度保持されればその間に焼き鈍しが行われ、その後も割れずに保持される。また、合わせガラスの遮熱機能が大きく、火災の際の避難時に、合わせガラスにより炎から遮断された場所は、高温になり難いので通行することが可能になる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記挟持具は前記合わせガラスの周縁部から50mm幅以内の箇所に設けられ、該挟持具による押圧力により合わせガラスの周囲の平均線圧が0.5N/cm以上となる挟持力を備えている。
【0014】
火災時にガラス板が割れた際、割れたガラス片は互いに接しており、中央付近のガラス片は周りを他のガラス片で取り囲まれているため脱落し難いが、周縁部のガラス片は一部が自由状態にあるので脱落し易い。しかし、この発明では、挟持具が合わせガラスの周縁部寄りでガラス板を挟持するため、熱割れしたガラス片の脱落が効果的に防止される。また、挟持具は合わせガラスの周囲の平均線圧が0.5N/cm以上となる挟持力を備えているので、比較的小さな力で確実にガラス片を保持できる。
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記熱強化処理は前記ガラス板の全面が78〜157MPaの表面圧縮応力となるように行なわれる。
請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記ガラス板の端縁部の表面粗さは、面平均粗さが1.5〜2.0μmで、かつ、最大粗さが15〜20μmである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を説明する。
図1(a)は本発明の防火性合わせガラス(以下、単に合わせガラスと称す)1の基本構成を示す模式側面図である。合わせガラス1は、フッ素樹脂フィルム2の両面に接着層3を介してガラス板4が接着されている。即ち、両面にガラス板4が配置される状態で、複数枚のガラス板4とフッ素樹脂フィルム2とが接着層3を介して積層一体化されている。
【0016】
図1(b)に示すように、合わせガラス1は、その周縁部にガラス板4を挟持する挟持具5が装備されていてもよい。図1(c)に示すように、挟持具5は書類等の綴じ具として用いるクリップと同様に構成され、ばね性を有する金属板の折り曲げ加工により形成されている。なお、図1(b)は挟持具5の合わせガラス1に対する装着位置を示す模式図であって、合わせガラス1と挟持具5の大きさの比は全く考慮されていない。
【0017】
挟持具5の挟持力は、合わせガラスの周囲の平均線圧が0.5N/cm以上となる大きさが必要である。前記平均線圧が0.5N/cm未満では熱割れ後の小片のガラスを維持できず、ガラス片が脱落することがある。また、挟持具5は合わせガラス1の大きさに対応して周縁部に適当な間隔で複数個設けるのが好ましく、例えば20〜100mm間隔で設けるのが良い。また、挟持具5がガラス板4を挟持する位置は、ガラス板4の周縁部に近い方が良く、周縁から幅50mm以内が良い。周縁から50mm以上離れた内側になると、火災時にガラス板4が熱割れした際、挟持具5に挟持されないガラス片が周縁部に存在する状態となり、その部分が脱落し易くなる。また、合わせガラス1としての有効部が減少もしくは施工時に枠内に収まらず、はみ出るという不具合が生じる。
【0018】
ガラス板4には汎用的なソーダ石灰系ガラスが用いられ、例えばJISR3206に該当する程度に全面が均一に熱強化処理されたものが使用される。この熱処理では、78〜157MPa程度の表面圧縮応力となる。ガラス板4の厚さは特に制限はないが、熱強化処理可能であることと、取扱い施工性を考慮すると、例えば4〜12mm程度が好ましい。
【0019】
フッ素樹脂フィルム2としては、フッ素樹脂を構成するモノマー成分がフッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素系モノマーの単独重合体又は共重合体、あるいは前記含フッ素系モノマーにエチレン、アルキルビニルエーテル等のビニルモノマー等が併用された共重合体等がある。そして、シート状に成形できる熱溶融成形可能なものであればよく、テトラフルオロエチレンの単独重合体以外のフッ素系樹脂は特に制限なく使用することができる。具体的にはポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等比較的透明性の良いフッ素樹脂が挙げられる。
【0020】
フッ素樹脂フィルム2の厚さは50〜2000μmの間が好ましく、50μm以下ではガラス板4との貼り合わせ加工時に気泡残りが発生する等の不具合が生じ易く、また、2000μmを超えるとコスト高になる。従って、適宜この厚さ範囲で選択すればよい。
【0021】
フッ素樹脂フィルム2の製法としては公知の方法を採用することができ、例えば押出成形、カレンダー成形等の熱可塑成形によりフィルム化する方法等が可能である。
【0022】
接着層3を構成する接着剤についても特に制限されるものではないが、例えばアクリル系、フッ素系、シリコーン系、ビニル系等の接着剤が使用でき、中でもアクリル系の接着剤が好適に使用できる。また、ガラス板4との接着を強固にするためシランカップリング剤等の接着促進剤を介在させることも好ましい。また、接着層3はガラス面に塗工しても予めフッ素樹脂フィルム2に積層加工してもよい。
【0023】
ガラス板4の端縁部は複数段の面取りが施された状態に切削・研磨されている。この実施の形態では図1(a)に示すように、2段糸面状に切削・研磨されている。なお、切削・研磨処理は例えば、ダイヤモンドホイールを備えた研削機やベルトサンダにより行われる。ダイヤモンドホイールの場合は、図3(a)に示すように2段糸面の形状に対応した断面形状を有するダイヤモンドホイール10を使用する。また、ベルトサンダを使用する場合は、図3(b)に示すように、ベルト11a,12aの対向する走行面が所定の角度を成すように配置されたベルトサンダ11,12を使用する。そして、その角度を2段糸面の角度に合わせて調整して切削・研磨する。
【0024】
ガラス板4の端縁部の表面粗さは、熱強化処理の際に割れが発生しない程度、例えば面平均粗さが1.5〜2.0μm、最大粗さが15〜20μm程度に調整される。この範囲内であれば、切削・研磨加工が容易である。さらに、防火試験時に炉内面側のガラス板4が試験初期の段階でガラス面内の温度分布の大きいことに起因する熱割れを起こし易いので、フッ素樹脂フィルム2の成分の分解・ガス化に伴って発生するガスが両ガラス板4間に滞留せず炉内側に拡散する。従って、両ガラス板4間に溜まったガスの爆発による吹き出しを起こす防火性不良が発生しない。
【0025】
ガラス板4の端縁部の面平均粗さが0.7μm以下、最大粗さが8.5μm以下では、熱強化処理の際や防火試験時に研磨面を起点とした亀裂が生じ難いが、切削・研磨加工が困難でありコスト高となる。また、防火試験時に炉内面側のガラスが試験初期の段階でガラス面内の温度分布の大きいことに起因する熱割れを起こし難く、その結果、フッ素樹脂フィルム2の成分の分解・ガス化まで維持されることに伴って溜まったガスにより、ガラスの急激な爆発による吹き出しを起こしたりする等の防火性能不良となる不具合がある。
【0026】
また、面平均粗さが3.5μm以上、最大粗さが40μm以上になると熱強化処理の際、研磨面を起点として亀裂が発生してガラス板4が破損するという不具合が発生する。基本的には研磨面の粗さは熱強化処理時に影響しない程度で良く、特別な精度を要求しなくとも充分使用できる。
【0027】
熱強化処理の方法は、通常の方法例えば、ガラス板4を鉛直状態に保持しつつ熱強化する鉛直強化方法や、ガラス板4をロール上で搬送しながら熱強化を行う水平強化方法を採用し得る。
【0028】
ソーダ石灰系ガラス板の熱強化処理に際して、ガラス板4はその粘度が109 ポイズに相当する温度またはそれ以下の近傍温度に加熱される。水平強化方法では、例えばガラス板4をローラーハース炉に投入し、加熱ゾーンで設定温度にガラス板を昇温後、風冷ゾーンおいてガラス板に接近して配置したブラストヘッドから冷却空気を設定圧力で噴射してガラス板を急冷して強化する。ガラス板の加熱を搬送ロール上で行うと、半溶融したガラス板が搬送ロールの間で撓んだ状態になり、表面にうねりが生ずるので、撓みが小さくなるように搬送ロールの間隔及び径を適宜設定する。
【0029】
ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との貼り合わせは、公知の方法が使用でき、積層構成順に積み重ねたものを加熱、加圧処理してフッ素樹脂フィルム2を接着層3を介してガラス板4に密着状態で接着させることができる。加熱手段としては、加熱炉、加熱ロール等が、加圧手段としはプレス板処理、ニップロール通過処理、ゴム製の袋に封入しての減圧処理を行う真空バック法等が使用でき、適宜組み合わせればよい。
【0030】
次に前記のように構成された合わせガラス1の作用を説明する。
挟持具5を備えた合わせガラス1は、挟持具5が装着された状態で施工される。挟持具5の部分はカバーで覆われた状態、あるいははめ殺しの状態で使用される。
【0031】
平常時、合わせガラス1に物が衝突した場合、あるいは合わせガラス1を破壊しようして衝撃を加えた場合、ガラス板4の間に接着層3を介してフッ素樹脂フィルム2が存在するため、ガラス板4が割れ難く、また、破損しても破片が飛び散ることがない。
【0032】
火災時には、合わせガラス1の両面に存在するガラス板4のうち、火炎と対応する側のガラス板が先ず熱応力により熱割れを発生する。ガラス端縁部が複数段の面取りが施された状態に切削・研磨されていることと、ガラス板4の全面が78〜157MPa程度の表面圧縮応力となる熱処理が行われていることとにより、当該ガラス板4は初期の段階で細かく割れる。しかし、割れたガラス片はフッ素樹脂フィルム2に接着された状態で脱落せずに保持される。従って、炎がフッ素樹脂フィルム2に直接当たるのが防止される。温度が高くなるに伴い、フッ素樹脂フィルム2の分解、ガス化が進むが、発生したガスは、炎に面した側の割れたガラス片の隙間から拡散するため、両ガラス板4間の圧力が外側のガラス板4を破壊するほど高まることがない。そして、フッ素樹脂フィルム2に接着された状態で脱落せずに保持されていたガラス片が、熱により再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。
【0033】
また、合わせガラスの遮熱機能が大きく、火災の際の避難時に、合わせガラスにより炎から遮断された場所は、高温になり難いので通行することが可能になる。
【0034】
炉内面側のガラス板4が試験初期の段階で熱割れを起こし難い場合は、フッ素樹脂フィルム2の成分の分解・ガス化により発生したガスが両ガラス板4に溜まり、ガス量の増加と熱膨張によりガス圧が高くなって、急激にガラス板4が破裂して吹き出しを起こしたりする防火性能不良等の不具合がある。しかし、この発明の合わせガラス1ではそのようなことはない。
【0035】
火炎と対応する側(内側)のガラス板4が熱割れした後、細かく割れたガラス片の一部が脱落(欠落)すると、その部分から外側のガラス板4に熱負荷がかかってガラス板4が破損し、防火性が損なわれる。挟持具5が存在する場合は、図2に示すように、熱割れを起こして細かく割れたガラス片4aの一部を挟持具5が保持するため、フッ素樹脂フィルム2のみでガラス片4aを保持する場合に比較して、ガラス片4aが再溶着するまでの間にガラス片4aの一部が脱落し難くなり、防火性が向上する。つまり、挟持具5は前記の再溶着するまでの間の接着補助機能を付与し、防火性向上に寄与する。また、フッ素樹脂フィルム2はガラス板4を介して挟持具5により挟持されているため、火災時に熱によりフッ素樹脂フィルム2が溶融、沸騰した際、ガラス板4同士が挟持具5に圧接される状態となり、溶融、沸騰した状態のフッ素樹脂が合わせガラス1を支持する枠の外に漏れ出るのが防止される。
【0036】
(実施例及び比較例)
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
フッ素樹脂フィルム2として、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンフルオライドの3元共重合体から成り、厚さ1200μmのフッ素樹脂フィルム2を使用した。ガラス板4として端縁部の研磨面の最大粗さを18μm程度に仕上げ、熱強化処理された板厚6mmで500×500mmの寸法のソーダ系石灰ガラス板を使用した。フッ素樹脂フィルム2の両面にアクリル酸エステル共重合体とエポキシ系シランカップリング剤の混合系からなる接着剤を塗布し、ガラス板4を140℃で加圧接着させて合わせガラス1を作製した。その合わせガラス1の周縁部から幅10mmの位置に、挟持具5として合わせガラス1に装着した時の辺と平行な長さが30mmで、挟持力が2.5Nの金属製クリップを、合わせガラス1の各辺に約20mm間隔で設けた合わせガラス1を作製した。
【0037】
この合わせガラス1を建築基準法施行令第112条第1項に基づいて防火試験を行った。その結果、特定防火設備(火炎通過なし60分保持)に合格した。なお、この基準は旧建設省告示第1125号に基づく甲種合格に相当する。
【0038】
防火試験時に炉外面側のガラス板4の温度を測定したところ、加熱曲線の温度が600℃を超えた付近から、800〜1000℃付近まで上昇する間、炉外面側のガラス板4の温度は、加熱曲線の温度より500〜600℃程度低い値であった。一方、比較のために単板のガラス板で同様に温度測定を行ったところ、単板のガラス板では炉外面側のガラス板4の温度は、加熱曲線の温度とほぼ同程度の温度であった。即ち、この実施の形態の合わせガラス1は遮熱機能が大きいことが確認された。
【0039】
防火試験時に炉内面側のガラス板4が試験初期の階段でガラス面内の温度分布の大きいことに起因する熱割れを起こし、フッ素樹脂フィルム2の成分の分解・ガス化で発生したガスがガラス片4aの隙間から炉内側に拡散する。従って、両ガラス板4間にガスが高圧になるまで溜まることがなく、両ガラス板4間に溜まったガスの爆発から吹き出しを起こす防火性不良がない。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同様に合わせガラス1を作製し、挟持具5を装着せずに防火試験を行った。試験用の炉内側のガラス板4が熱割れした後のフッ素樹脂フィルム2の分解時に、ガラス片4aの欠落部が発生し、そこから外側のガラス板4が25分後に割れて出火した。その結果、挟持具5を備えたものに比較して性能はやや落ちるものの、建築基準法施行令第109条の2(加熱時間20分)に合格した。
【0041】
(実施例3)
ガラス板4のサイズを914×914mmとした他は実施例1と同様の条件で合わせガラス1を作製し、防火試験を行った。この場合、割れたガラス同士が再溶着しても炎に面している側(防火試験の際の炉内側)のガラスが自重で倒れてガラスの欠落が生じる可能性がある。しかし、外側のガラス板4は防火試験開始後、18分程度保持されればその間に焼き鈍しが行われ、その後も割れずに保持された。
【0042】
(比較例1)
ソーダ石灰系ガラス板の端縁部を切り放しの状態で熱強化処理を行い、それ以外は実施例1と同様にして防火試験を行ったところ、試験開始後間もなく炉内、炉外両側ともにガラス板の端縁部から破損し、その数分後に火炎が通過した。
【0043】
(比較例2)
熱強化されていないソーダ石灰系ガラス原板を用いる以外、ガラス端縁部の切削研磨処理や他の構成も実施例と同様に積層接着した合わせガラス1を作成し、防火試験を行った。その結果、加熱開始直後に炉内側のガラス板4が割れ、更に数分後、炉外側のガラス板4も割れ不合格であった。
【0044】
この実施の形態では次の効果を有する。
(1) 端縁部が複数段の面取りが施された状態に切削・研磨されるとともに、全面が熱強化処理されたソーダ石灰系ガラス製のガラス板4がフッ素樹脂フィルム2と接着層3を介して積層一体化されて、合わせガラス1が形成されている。従って、平常時にガラス板4が破損し難く、破損しても破片が飛び散ることがないため、安全で、防犯機能も高くなる。また、火災の際には、フッ素樹脂フィルム2の分解ガスが両ガラス板4間に高圧状態で溜まることがなく、熱割れしたガラスが再溶着して断熱層として働くので、防火性が向上する。
【0045】
(2) ガラス板4の端縁部の表面粗さが、所望の熱強化処理の際に割れが発生しない程度、例えば面平均粗さが1.5〜2.0μm、最大粗さが15〜20μm程度に調整される。従って、切削・研磨加工が容易で、熱強化処理の際や、ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との貼り合わせの際にガラス板4の亀裂破損が防止される。
【0046】
(3) ガラス板4が火災の際の加熱初期に熱割れしないようにする必要がないため、熱強化処理のレベルを通常より高める必要がなく、熱処理の際にガラス板の反りや歪みが発生し難くなり、平滑性に優れた合わせガラス1が得られる。
【0047】
(4) 合わせガラス1の周縁部にガラス板4を挟持する挟持具5が装備されているため、火災時に熱割れしたガラス片4aが再溶着するまで脱落する割合が小さくなり、防火性が向上する。合わせガラスのサイズが大きな場合は、割れたガラス同士が再溶着しても炎に面している側(防火試験の際の炉内側)のガラスが自重で倒れてガラスの欠落が生じる場合がある。しかし、外側のガラス板は防火試験開始後、18分程度保持されればその間に焼き鈍しが行われ、その後も割れずに保持される。
【0048】
(5) 合わせガラスの遮熱機能が大きく、火災の際の避難時に、合わせガラスにより炎から遮断された場所は、高温になり難いので通行することが可能になる。
【0049】
(6) 挟持具5はガラス板4を挟持する機能を有すればよく、簡単な構造でよい。
(7) 挟持具5は合わせガラス1の周縁部から50mm幅以内の箇所に設けられているため、火災の際に熱割れしたガラス片4aの脱落が効果的に防止され、防火性の向上に寄与する。
【0050】
(8) 挟持具5は、その押圧力により合わせガラス1の周囲の平均線圧が0.5N/cm以上となる挟持力を備えている。従って、比較的小さな力で確実にガラス片4aを保持できる。
【0051】
(9) ガラス板4として汎用のソーダ石灰系ガラス板が使用されているため、入手し易く合わせガラス1の製造コストを低減できる。
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
【0052】
○ ガラス板4としてソーダ石灰系ガラスに代えて、ホウ珪酸系ガラスを使用してもよい。ガラス板4としてホウ珪酸系ガラスを使用する以外の条件を同じにして合わせガラスを作成し、前記実施例及び比較例と同様な試験を行った結果、同様な結果が得られた。即ち、挟持具5を備えた合わせガラスでは、建築基準法施行令第112条第1項に基づく特定防火設備の防火試験に合格し、挟持具5を備えない合わせガラスでは建築基準法施行令第109条の2に合格した。
【0053】
○ 合わせガラス1は、両面にガラス板4が配置される状態で複数枚のガラス板4とフッ素樹脂フィルム2とが接着層3を介して積層接着されていればよく、図4に示すように3枚のガラス板4を貼り合わせた構成や、4枚以上のガラス板4を貼り合わせた構成としてもよい。なお、図4ではガラス板4の端縁部の処理を図示を省略している。
【0054】
○ 挟持具5を備えた合わせガラス1の場合、ガラス板4とフッ素樹脂フィルム2との間に接着層3を介在させなくてもよい。この場合、フッ素樹脂フィルム2とガラス板4とを積層一体化するには、ガラス板4の間にフッ素樹脂フィルム2を挟んだ状態で300℃程度に加熱しながら、1.2MPa程度の圧力をかけて、熱圧着させる。挟持具5が存在する場合、火災時に火炎側のガラス板4が熱割れした際、ガラス片4aとフッ素樹脂フィルム2との接着力が弱くても、周縁部のガラス片4aが挟持具5に保持され、各ガラス片4a同士が互いに当接する状態に保持されることにより、脱落が防止される。
【0055】
○ 挟持具5として、書類等の綴じ具として使用されるクリップのように、一対の挟持片の間隔を拡げるための力を作用させる操作部を備えた構成のものを使用してもよい。
【0056】
○ 合わせガラス1を構成する複数枚のガラス板4の一部にソーダ石灰系ガラス板を使用し、残りをホウ珪酸系ガラス板としてもよい。例えば、図1(a)のように2枚のガラス板4を使用する場合は、1枚をソーダ石灰系ガラス板に、1枚をホウ珪酸系ガラス板とする。
【0057】
○ ガラス板4の端縁部の処理は、2段糸面処理に限らず、例えば3段や4段等、複数段の面取りが施された状態であればよい。
前記実施の形態から把握できる技術的思想(発明)について以下に記載する。
【0058】
(1) 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記ガラス板の熱強化処理はJISR3206に該当する、表面圧縮応力が78〜157MPa程度となるように行われている。
【0059】
(2) 請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記ガラス板はソーダ石灰系ガラス板である。
【0060】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜請求項4に記載の発明によれば、防火性及び平滑性に優れ、しかも比較的容易かつ低コストで製造できる。また、簡単な補助具である挟持具の存在により、防火性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は一実施の形態の防火性合わせガラスの部分模式図、(b)は挟持具を備えた防火性合わせガラスの模式平面図、(c)は挟持具の模式斜視図。
【図2】 防火性合わせガラスの作用を説明する模式平面図。
【図3】 (a)はガラス板の端縁部を切削・研磨処理に使用するダイヤモンドホイールの模式正面図、(b)はベルトサンダの模式側面図。
【図4】 別の実施の形態の防火性合わせガラスの部分模式図。
【符号の説明】
1…防火性合わせガラス(合わせガラス)、2…フッ素樹脂フィルム、3…接着層、4…ガラス板、5…挟持具。
Claims (4)
- 両面にガラス板が配置される状態で複数枚のガラス板と樹脂フィルムとが積層された防火性合わせガラスにおいて、
前記ガラス板がソーダ石灰系ガラス製又はホウ珪酸系ガラス製であって、端縁部が複数段の面取りが施された状態に切削・研磨されるとともに、前記ガラス板として全面が熱強化処理されたものがフッ素樹脂フィルムと直接又は接着層を介して積層一体化されるとともに、周縁部に複数枚のガラス板を押圧力により挟持する挟持具が装備されていることを特徴とする防火性合わせガラス。 - 前記挟持具は前記合わせガラスの周縁部から50mm幅以内の箇所に設けられ、該挟持具による押圧力により合わせガラスの周囲の平均線圧が0.5N/cm以上となる挟持力を備えている請求項1に記載の防火性合わせガラス。
- 前記熱強化処理は前記ガラス板の全面が78〜157MPaの表面圧縮応力となるように行なわれる請求項1又は請求項2に記載の防火性合わせガラス。
- 前記ガラス板の端縁部の表面粗さは、面平均粗さが1.5〜2.0μmで、かつ、最大粗さが15〜20μmである請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の防火性合わせガラス。
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