JP3666743B2 - 管状体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、主として一方向に引揃えた炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを巻装し、加圧加熱処理して形成する管状体に関する。従って、釣竿の竿管やゴルフクラブのシャフト等に利用可能である。
【0002】
【従来の技術】
釣竿は長時間保持するため、また、その操作性向上の観点から軽量化が要求され、更に魚による強い引き等による大きな曲げ力を受けるために強度の向上をも求められる。また、ゴルフクラブも軽く、かつ、高強度な特性が求められる。このように釣竿やゴルフクラブのシャフト等は、軽量かつ高強度という相反する性能の両立を要求される。このため従来から、炭素繊維等の高強度であって軽量な繊維を使用し、これにエポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸させたプリプレグを形成し、このプリプレグを巻装し、加圧加熱処理して軽量かつ高強度な管状体を形成している。
【0003】
この場合、プリプレグにおける樹脂の重量百分率は一般に35%から40%であることが特公平2−44492号公報に開示されている。また、この公報に係る発明は、芯金に対するなじみ性や各層の密着性等の観点から竿管の最内層の第1プリプレグの樹脂含浸量とその外側層の本体層用の第2プリプレグの樹脂含浸量との関係を規定したものであり、最内層のそれを外側層より多くして50%以下とし、外側層のそれを33%以下とすることが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
然しながら、上記公報に開示の樹脂量では繊維に対する量が多過ぎ、重いと共に、全体として樹脂量が多いために、層間剥離やクラックの発生し易い樹脂層や樹脂溜り(繊維が存在しないか極端に少ない部分)が形成されることが本出願人による顕微鏡写真撮影によって観察されている。また、成形中において樹脂流動が生じ、これに伴って繊維も移動し易く、繊維の蛇行や偏寄が生じ、強度低下や曲りが発生し易い。
【0005】
特に、本体層用プリプレグの樹脂量が25wt%程度を越えるものでは、それを巻回した後テープによって緊締して加熱成形すると、緊締条件によっては成形中にプリプレグ素材の円周方向のずれが生じ、成形不良が多く発生する。かといって、少ない樹脂量を平均的に含浸したプリプレグにすれば巻回層の境界における密着性が悪くなり、この境界にボイドが生じ、特に芯金の長手方向に指向した繊維のプリプレグ巻回層の境界ではそのボイドは長手方向に連続し易く、剥離による強度低下の原因となる。
【0006】
依って本発明は、成形不良を防止して、炭素繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグによって本体層が形成される、軽量かつ高強度な管状体の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的に鑑みて本発明は、請求項1において、シート状プリプレグを巻装して加圧加熱して形成され、熱硬化性合成樹脂をマトリックスとし、長手方向に指向するように引揃えられた炭素繊維を主体として強化され、前記合成樹脂の平均量が10wt%〜20wt%の範囲内である本体層と、該本体層の内側と外側に補強層を有し、前記本体層のシート状プリプレグの巻回開始端とこれに覆い被さる該プリプレグの内面と、該プリプレグの内側に位置している層の外面とに囲まれた領域と、前記本体層のプリプレグの巻回終了端とこれの内側に位置している該プリプレグの外面と、該プリプレグの外側に位置している層の内面とに囲まれた領域とが、樹脂溜りが排除され、これらの領域に前記本体層の炭素繊維が分散して、これらの領域が炭素繊維と熱硬化性合成樹脂の分散混合からなるよう形成されたことを特徴とする管状体を提供する。
ここでwt%は、繊維と樹脂との総重量に対する重量百分率を示す。
【0008】
請求項1に対応して、シート状プリプレグが巻回されて形成された管状体の場合、シート状プリプレグの重合端部付近に樹脂溜りが生じ易く、管状体が大きく曲げられたり圧縮変形させられると、一般にその重合端部の樹脂溜り部からクラックが生じるが、ここでは本体層の合成樹脂量が10wt%〜20wt%の範囲内であるため、余剰の合成樹脂は無く、樹脂溜りの発生が防止されてクラック発生が抑止され、強度が向上すると共に軽量である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を添付図面に示す実施の形態例に基づき、更に詳細に説明する。
図1は本発明に係る積層状の管状体10の部分断面図である。この管状体10は一方向に向くように引揃えられた炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを、炭素繊維の方向が管状体10の略長手方向に向くように適数回巻装し、それを加圧加熱処理した本体層12を有している。エポキシ樹脂は熱硬化性合成樹脂としての一例であって、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等であってもよい。
【0010】
上記本体層12の内側と外側には、本体層12よりも薄い層である補強層14と補強層16とがそれぞれ形成されている。この各補強層14,16は主として一方向に向くように引揃えられた炭素繊維束にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを、その繊維の主たる方向が管状体10の略円周方向を向くように巻装し、上記本体層12と一緒に加圧加熱の処理をして硬化させ、管状体10を形成している。
本体層12の炭素繊維の方向は管状体の長手方向であるが、この方向に交差する方向、例えば上記の円周方向の繊維を主体とする補強層を、長手方向指向の巻回層間に混在させてもよい。
【0011】
こうしたシート状プリプレグの成形は、例えば引揃えられた炭素繊維TSの束の一面側に熱硬化性合成樹脂のフィルムを沿わせて扱くようにするか、或いは炭素繊維束の両面側に熱硬化性合成樹脂フィルムを沿わせて一対のローラー間に挿入して押圧することによってなされるが、前者の場合は、プリプレグ単一の断面を模式的に示している図2における(a)のようになり、後者では(b)のようになる。即ち、(a)は熱硬化性合成樹脂としてのエポキシ樹脂が相対的に多くて、その樹脂含浸状態で加熱硬化させればボイドの発生が防止できる量の樹脂量リッチ領域RAが一面側に存在し、他面側には樹脂量が少なく、その樹脂含浸状態のまま加熱硬化させればボイドが発生する量の樹脂量プアー領域PAとなり、その間が両者の中間樹脂量領域MAとなり、一方、(b)は樹脂量リッチ領域RAが両面側にきて、真ん中が樹脂量プアー領域PAとなり、それらの間が樹脂量中間領域MAであることを示している。
【0012】
図示の如く、樹脂量プアー領域PAの炭素繊維TSの配列形態は、主として三角形配置であり、樹脂量リッチ領域RAの炭素繊維配列形態は、主として四角形配置である。繊維の断面形状が円形であって同一の大きさであれば、三角形配置では樹脂量は最少量となり、四角形配置ではより多く含浸できる。
本発明ではこうして形成されるプリプレグの合成樹脂の平均含浸量を概ね10wt%〜20wt%の範囲内の値としており、従来に比較して相当少なく構成している。このことが後述の樹脂溜り発生防止等の効果を生む。
【0013】
境界を挟む隣接巻回層の内、少なくとも一側の層が樹脂量リッチ領域RAを当該境界に対面させるような向きでシート状プリプレグを適数回巻回して、加圧加熱後に本体層12になる本体層対応層を形成し、この層の内外の補強層14,16に対応する層と共に、加圧しつつ加熱硬化処理して管状体10を形成する。この各補強層のうち、内側の補強層14の樹脂量は本体層12と同程度に設定してよく、また、外側の補強層16では、緊締テープによって加圧する場合においては、該緊締テープと補強層16との間にテープ重合による空気溜りが残存するので、これを排出させるために本体層12よりも多めに樹脂を含浸させておく。
なお、補強層はその補強の必要性から内外の一方だけの形態もある他、本体層12内の各巻回層間に配設する形態もある。
【0014】
上記の様にして形成した本体層の対応層では樹脂量が少なく、各巻回層の境界の密着性不良が心配されるところであるが、本発明では各巻回層内において樹脂量に不均一さを設けており、境界には少なくとも一側の層がリッチ領域RAを対面させているため密着性が確保できる。また、加圧加熱成形時にリッチ領域RAからプアー領域PAに対して樹脂の移動が生ずる他、多少の小さなボイドが残ることは問題にならない。更には、外側の補強層16の対応層では樹脂量が多目であるが、この層は薄いこともあって樹脂の絶対量が少なく、緊締テープによる空気溜りの排除に使用されて殆ど本体層対応層内部までは移動できず、隣接接触領域に浸透する程度である。内側補強層14の樹脂量を多めにする場合も薄い層であるため絶対的な樹脂量が少なく、隣接接触領域に浸透する程度である。また、補強層が本体層内の巻回層間に配設された場合も同じである。このように本発明では樹脂の量が適量であり、繊維のずれ、蛇行、偏寄が生じることが防止され、更には軽量でしかも巻回層境界の密着性をよくし、成形不良が発生し難く、管状体の比強度が向上する。
【0015】
この他、以下に説明する樹脂溜りJの防止にも効果がある。即ち、図3は従来の樹脂量を有するプリプレグを巻回して形成した管状体の加圧加熱硬化後の断面を模式的に示す図であり、内側の補強層14’と、本体層12’と、外側の補強層16’とからなり、本体層12’は内側の第1シート状プリプレグから形成された層12Aと、外側の第2シート状プリプレグから形成された層12Bとを有している。こうした場合、各シート状プリプレグの巻回開始端部と巻回終了端部は重合しており、こうした重合端部領域では、従来から樹脂溜りJが生じ易く、ここから剥離することが多かった。この重合端部領域を拡大図示したものが図4であり、樹脂溜りJには繊維TSは殆ど無く、熱硬化性合成樹脂が大部分を専有している。
【0016】
図4に対応させて、本発明に係る樹脂量を有するシート状プリプレグを用いて形成した本体層の重合端部領域は図5に示す様に樹脂溜りは無く、炭素繊維TSが適切に分散する。このように本発明によれば、樹脂溜りの発生が防止されて管状体の強度が向上する。
【0017】
また、図2のように厚さ方向に合成樹脂比率の偏在したプリプレグを使用して管状体を加熱形成すれば、その比率は変化するにしても各巻回層を加熱硬化させた各巻回形成層内の厚さ方向においては合成樹脂比率の偏在状態が残る。
例えば、図1のA部拡大図の図6に示すように、本体層12を構成する各巻回形成層の夫々の一側がリッチ領域RA、他側がプアー領域PAという樹脂比率の偏在した状態の3つの層がリッチ領域とプアー領域が隣接状態となるように、プリプレグ状態で向きを揃えて重ね合せれば、各層境界の密着力が向上し、均一な樹脂比率の場合よりも全体として樹脂量が低減でき、軽量化が達成できる。従って、比強度も向上する。この実施例の内外の補強層14,16の樹脂比率は、各層内においては略均一であり、本体層12のリッチ領域RAの樹脂比率と同程度以上に設定しており、本体層12との境界も樹脂不足を生じることは防止されて密着成形性がよく、また、補強層は薄く設定しており、樹脂の絶対量は少なく、管状体全体としての軽量化に反しない。
【0018】
図1の他の形態例のA部拡大図を示す図7では、本体層12を2層で構成し、互いにリッチ領域RAを対面させて構成している。この実施例も各補強層14,16は樹脂比率を各層内においては略均一としており、本体層12のリッチ領域RAの樹脂比率と同程度以上に設定している。従って、本体層12との境界においても樹脂不足が防止され、密着成形性がよく、また、補強層は薄く設定しており、樹脂の絶対量は少なく、管状体全体としての軽量化に反しない。
【0019】
何れかの表面に補強層を設けていない場合に、本体層のその表面側は樹脂比率を多くする。こうすると、略長手方向に指向した炭素繊維が保護され、傷つきが防止されて耐久性の高い管状体となる。
本体層が一層で形成される場合は、内外の補強層の樹脂比率が同程度の場合には、本体層の樹脂比率の高い側を外側の補強層に隣接させ、緊締テープの加圧による樹脂流れによって表面の空気を押し出す作用を補助する。内外の補強層の樹脂比率が異なる場合には、本体層の樹脂比率の高い側を樹脂比率の小さい補強層に隣接させ、この比率の小さい補強層に樹脂を補給する。
【0020】
補強層の強化繊維は、略長手方向に指向した本体層の主たる強化繊維(炭素繊維)と交差し、通常は略円周方向に指向させており、この補強層と本体層との界面は繊維が大きく交差しているため、成形時にボイドが発生し易い。このため、樹脂比率の高い側をこの境界側に対面させるよう構成し、この界面からの剥離や破損を防止しつつ、軽量化を達成することが好ましい。
【0021】
特に釣竿竿管やゴルフクラブのシャフトに要求される材料の曲げ強度につき実験確認した結果を以下に示す。
内径10mm、長さ600mmの管状試験体の4点曲げ(支点間隔が500mm、荷重間隔150mm)の曲げ強度を測定した。
従来品として、一方向に引揃えた炭素繊維にエポキシ樹脂を25wt%とした本体層プリプレグに、この繊維方向と直交する方向に引揃えた炭素繊維にエポキシ樹脂を40wt%とした裏打ち補強プリプレグ(本体層プリプレグの約1/5の厚さ)を重ねて4重に巻回して形成した。
本発明品としては本体層プリプレグを樹脂量20wt%とし、裏打ち等は上記の通りである。
【0022】
夫々4本ずつ成形した試験体の肉厚は僅かに異なるが、肉厚(mm)、自重(gw)、破断荷重(kgw)、比強度(kgw/gw)を対比して示す。
【0023】
以上の実験結果から分るように発明品は従来品よりも比強度が向上している。即ち、軽量で強度が強く、扱い易い。
本発明に係る管状体の製造方法において、留意すべき点は、加熱の際には急には硬化温度まで上昇させないで、硬化温度以下である樹脂の軟化温度で予熱し、この温度に保持して全体をなじませることが好ましい。
更に、従来よりも樹脂量が少ないため、従来の成形時よりも加圧力を高くして繊維間の接着性を向上させることが好ましい。
【0024】
本発明に係る図1の形態例の管状体10の本体層12は衝撃強度には必ずしも充分な強度を有しないため、その最外層である補強層16の外側か、或いは、本体層12の直接外側に、振動吸収性の良い熱可塑性樹脂の層を形成してもよい。この樹脂層の例として、ポリアミド繊維を既述のプリプレグを巻回した層の上に巻回し、この状態で既述の硬化のための熱処理を行うと、その温度によっては巻回ポリアミド繊維が軟化して層状に形成される。この軟化は不完全であってもよい。こうすればゴルフクラブのシャフト等においては特に耐久性が増す。
【0025】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば、成形不良を防止して、炭素繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグによって本体層が形成される、軽量かつ高強度な管状体の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明に係る管状体の部分断面図である。
【図2】図2は管状体を形成するプリプレグの2種類の断面を示す図である。
【図3】図3は従来の管状体の横断面の模式図である。
【図4】図4は図3に対応する重合端部拡大図である。
【図5】図5は本発明に係る管状体本体層の重合端部拡大図である。
【図6】図6は図1のA部形態例の拡大図である。
【図7】図7は図1のA部の他の形態例の拡大図である。
【符号の説明】
10 管状体
12 本体層
14,16 補強層
Claims (1)
- シート状プリプレグを巻装して加圧加熱して形成され、熱硬化性合成樹脂をマトリックスとし、長手方向に指向するように引揃えられた炭素繊維を主体として強化され、前記合成樹脂の平均量が10wt%〜20wt%の範囲内である本体層と、該本体層の内側と外側に補強層を有し、
前記本体層のシート状プリプレグの巻回開始端とこれに覆い被さる該プリプレグの内面と、該プリプレグの内側に位置している層の外面とに囲まれた領域と、前記本体層のプリプレグの巻回終了端とこれの内側に位置している該プリプレグの外面と、該プリプレグの外側に位置している層の内面とに囲まれた領域とが、樹脂溜りが排除され、これらの領域に前記本体層の炭素繊維が分散して、これらの領域が炭素繊維と熱硬化性合成樹脂の分散混合からなるよう形成されたことを特徴とする管状体。
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