JP3663118B2 - セラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミック繊維強化セラミックス複合材料を簡便に製造する方法、例えばガスタービン等の高温部材に用いるのに適する炭化ケイ素系繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セラミック繊維強化セラミック複合材料、特に炭化ケイ素系の繊維で強化された炭化ケイ素マトリックス基の複合材料において、高靱性を示すか否かは繊維とマトリックスの密着性に起因して、密着性が高いと脆くなり、適度に弱い密着強度であれば、マトリックスに発生した亀裂が繊維界面で偏向し、繊維の引き抜けが生じるため、複合材料としては高い靱性を示す。このため、従来、化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVDと略す)法により、繊維の界面に非常に薄い(100nm以下)熱分解炭素を成膜して、マトリックスと繊維との密着性を制御していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の熱分解炭素膜を有する炭化ケイ素系繊維強化炭化ケイ素複合材料は、高温での使用中に酸化消耗して、その空隙に繊維及びマトリックス中の炭化ケイ素が酸化した酸化シリコンが充填され、繊維とマトリックスの密着強度が上昇して、脆くなるという問題点があった。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば特開平05−085842号公報に示されるように、CVD法により繊維に非常に薄い膜を多層にコーティングする方法があり、この場合、膜と膜とは非結合である必要がある。このような多層コーティングにより、炭化ケイ素系繊維強化炭化ケイ素複合材料において、高温における耐久性が向上すると考えられる。なお、この公報には、成膜方法の詳細な記述はない。
【0005】
また、加熱された供試体に原料ガスを急速に充填し、急速に減圧するパルスCVD法を用いて、プロパンガス及びMTS(Methyltrichlorosilane、CH3 SiCl3 )と水素の混合ガスを交互に充填することにより、炭素と炭化ケイ素の多層コーティングを行う方法が開示されている(ECCM−8、EUROPEAN CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS、SCIENCE,TECHNOLOGIES and APPLICATIONS、3−6 JUNE 1998、NAPLES−ITALY、VOLUME4、WOODHEAD PUBLISHING LIMITED)。
【0006】
しかしながら、この文献記載の方法においては、大容量の真空排気装置が必要になるなど、高価な特別の設備を要するとともに、大型部品の製造は困難である。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、本発明の目的は、原料ガスとして、四塩化ケイ素(SiCl4 )及び炭化水素、並びに水素及び不活性ガスの希釈ガスを用いて、900〜1300℃、望ましくは1000〜1250℃の温度範囲で、希釈ガスを不活性ガスと水素に交互に入れ替えることにより、炭素と炭化ケイ素の多層コーティングを簡便に、短時間で行うことができるセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法を提供することにある。
本発明の方法は、通常の恒温恒圧CVD装置を用いる方法であり、大型部品への適用も可能である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法は、四塩化ケイ素及び炭化水素を主原料とし希釈ガスとしての不活性ガスと水素とを交互に用いて炭素の成膜工程と炭化ケイ素の成膜工程を繰り返すことにより、織物を構成する炭化ケイ素系繊維上に炭素膜と炭化ケイ素膜の多層コーティングを形成させた後、コーティングされた繊維の空隙を炭化ケイ素系セラミックスにより充填する炭化ケイ素複合化処理するように構成されている。
【0009】
この方法において、炭化ケイ素の成膜工程と炭素の成膜工程との間に希釈ガスの置換工程を設けることが好ましい。また、炭化ケイ素の成膜工程とガス置換工程とに圧力差を設けることが好ましい。
また、炭化ケイ素の成膜時間を調整することにより、炭化ケイ素の膜厚を変化させることができる。また、原料ガス中の四塩化ケイ素の濃度を高くすることにより、多層コーティング中の炭素膜にSiを含有させることができる。例えば、原料ガス中の四塩化ケイ素の濃度を徐々に変化させることにより、炭素膜中のSi含有量を傾斜的に変化させることができる。
【0010】
本発明の方法においては、恒温恒圧CVD装置を用いて多層コーティングを形成させる。また、繊維上に直接被覆する初層を、炭化水素と不活性ガスだけで成膜することが好ましい。希釈ガスとしての不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウム、窒素等が用いられる。
また、炭化水素としては、メタン、エタン、ブタン、エチレン、プロパン等が用いられる。
多層コーティングを形成させる温度は900〜1300℃、望ましくは1000〜1250℃の範囲、圧力は1Pa〜0.1MPa 、望ましくは100Pa〜0.1MPa の範囲である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は下記の実施の形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施することができるものである。
図1は本発明の実施の第1形態によるセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法により製造された炭化ケイ素系繊維強化炭化ケイ素複合材料を示している。
炭化ケイ素系繊維10からなる織物等を恒温恒圧CVD装置内にセットして、温度900〜1300℃、望ましくは1000〜1250℃、圧力1Pa〜0.1MPa 、望ましくは100Pa〜0.1MPa にて、四塩化ケイ素、炭化水素及び希釈ガスを流して、繊維表面に炭素と炭化ケイ素の多層コーティングを施す。12は炭素膜、14は炭化ケイ素膜である。
炭化ケイ素系繊維としては、ケイ素、炭素の他に酸素やアルミニウム、ジルコニウム、チタン等の金属を含有する繊維を用いることができる。
【0012】
供給する原料ガス中の四塩化ケイ素、炭化水素及び希釈ガスの濃度は、各々0.01〜50%、好ましくは0.1%〜20%、0.01〜50%、好ましくは0.1〜20%、及び10〜99.98%である。炭化水素ガスとしてはメタン、エタン、ブタン、エチレン、プロパン等を用いることができる。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素等を用いることができる。
900〜1300℃、望ましくは1000〜1250℃において、希釈ガスとして不活性ガスを用いた場合には、炭素膜が形成され、希釈ガスに水素を添加すると炭化ケイ素膜を形成することを見いだした。この特性から原料ガス中の希釈ガスを交互に流すことにより、炭素と炭化ケイ素の多層コーティングを行うことができる。この炭素膜はほとんどが層状構造を呈している。層間強度が低い層状構造が好ましく、繊維の引き抜きに寄与することが知られている。
【0013】
また、供給ガス中の四塩化ケイ素の濃度を上昇させることにより、炭素中にSiを含有させることができ、耐酸化性の高い炭素膜を形成することができる。なお、四塩化ケイ素濃度を徐々に変化させることにより、炭素膜中のSi含有率が傾斜的に徐々に変化して、炭素膜と炭化ケイ素膜との密着性を向上させることができる。
僅かな水素の添加も炭化ケイ素を生成させる原因となるため、炭化ケイ素のコーティング後に織物の空隙の水素をより完全にアルゴン等の不活性ガスと置換するためのアルゴン等の不活性ガスだけを充填するガス置換処理工程を入れることもできる。この際に、織物中の空隙のガスをより完全に置換するために、炭化ケイ素成膜時の圧力とガス置換処理時の圧力に差を設けて、例えば炭化ケイ素成膜時の圧力よりもガス置換処理時の圧力を低くして、織物の空隙中のガス流れを促進させることもできる。
【0014】
前述の工程において、炭化ケイ素膜の成膜時間を調整することにより、炭化ケイ素膜の厚さを変化させることもできる。繊維近傍よりも外側の炭化ケイ素の膜厚を厚くする方が優れた耐久性を示す。また、炭化ケイ素の膜厚を繊維側より傾斜的に厚くして、応力を緩和することもできる。炭化ケイ素の厚さは炭素膜の厚さとも関係するが、10nm〜1mm、好ましくは10nm〜500μm である。
炭素膜については、繊維に直接被覆する初層は、繊維への塩素による損傷を避けるために、四塩化ケイ素の使用を避けて、炭化水素と不活性ガスだけで成膜するのが好ましい。炭素膜厚さは200nm以下、好ましくは1〜100nmである。
【0015】
前述の方法で多層コーティングされた繊維を有する織物から炭化ケイ素複合材料を製造する。これらの方法として、ポリマー含浸焼成法:PIP(Polymer Impregnation and Pirolysis)と、気相含浸法:CVI(Chemical Vapor Infiltration)が知られている。
ポリマー含浸焼成法は、例えばポリカルボシラン等の有機ケイ素ポリマーをキシレン等の溶媒に溶解させてなる溶液に、セラミックス繊維製の補強材を浸して、その織糸間にポリマーを含浸させ、乾燥させた後、高温で焼成して炭化ケイ素のマトリックスを成形させるものである。
また、気相含浸法は、補強材であるセラミックス繊維による織物を炉内で高温に加熱し、減圧雰囲気にて炭化ケイ素のマトリックスを形成させるものである。例えば炭化ケイ素の析出には、前述と同様の四塩化ケイ素と炭化水素との反応やMTS(Methyltrichlorosilane、CH3 SiCl3 )の熱分解等を用いている。図1における16はセラミックマトリックスである。
【0016】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
実施例1
約8μm の径を有するSi−Ti−C−O系繊維を800本束ねた繊維束を恒温恒圧CVD装置内にセットして、13.3kPa 、1200℃にて、メタン0.5L /min 、アルゴン15L /min 、20分の炭素成膜の後に(表1には示していない)、13.3kPa 、1100℃にて表1の条件を4回繰り返した。この結果、初層の約50nm炭素層の上に200nmの炭化ケイ素と約30nmの炭素層とを交互に有する多層コーティングを形成させることができた。
【0017】
【表1】
【0018】
実施例2
Si−Ti−C−O系繊維からなる、厚さ3mmの直交3次元織物を恒温恒圧CVD装置内にセットして、13.3kPa 、1200℃にて、メタン0.5L /min 、アルゴン15L /min 、20分の炭素成膜の後に(表2には示していない)、1100℃にて表2の条件を4回繰り返した。この結果、初層の約50nm炭素層の上に200nmの炭化ケイ素と約20nmの炭素層とを交互に有する多層コーティングを形成させることができた。なお、炭化ケイ素成膜時の圧力を26.6kPa とし、ガス置換時及び炭素成膜時の圧力を6.7kPa とした。
【0019】
【表2】
【0020】
実施例3、比較例1
実施例2で多層コーティングを施した繊維からなる織物と、比較例として、繊維上に50nmの炭素単層皮膜を有する織物との2種類の織物を用いて、26.6kPa 、1100℃、四塩化ケイ素1.2L /min 、水素15L /min の条件下で20h の炭化ケイ素のCVI処理を施した後に、ポリカルボシランの真空加圧含浸及び窒素雰囲気下での1000℃の熱分解処理を5回繰り返して炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素複合材料を試作した。試作した複合材料を大気中で1300℃、30分保持の加熱・空冷を100回繰り返す熱サイクルを与えた後に、曲げ試験を行った。多層コーティングを施工した複合材料では繊維の引き抜きが生じたが、比較例としての炭素単層コーティングの複合材料では繊維の引き抜きが見られず、脆くなった。
【0021】
実施例4
実施例2で用いたものと同じ織物を恒温恒圧CVD装置内にセットして、13.3kPa 、1100℃にて、メタン0.5L /min 、アルゴン15L /min 、20分の炭素成膜の後に、1100℃にて表2の条件を2回繰り返し、さらに表3の条件を2回繰り返した。この結果、織物内の繊維において初層の約50nm炭素層の上に約20nmの炭素層と200nmの炭化ケイ素の4層と、約20nmの炭素層と400nmの炭化ケイ素の4層からなる多層コーティングを形成させることができた。すなわち、表3に示すように、炭化ケイ素成膜時間を表2の場合より5分間長くして20分間とし、この結果、炭化ケイ素膜の厚さが400nmと厚くなるようにした。
【0022】
【表3】
【0023】
実施例5
実施例2で多層コーティングを施した繊維からなる織物と実施例4の多層コーティングを有する織物の2種類の織物を用いて、26.6kPa 、1100℃、四塩化ケイ素1.2L /min 、水素15L /min の条件下で20h の炭化ケイ素のCVI処理を施した後に、ポリカルボシランの真空加圧含浸及び窒素雰囲気下での1000℃の熱分解処理を5回繰り返して炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素複合材料を試作した。試作した複合材料を大気中で1300℃、30分保持の加熱・空冷を300回繰り返す熱サイクルを与えた後に、曲げ試験を行った。この結果、いずれの場合も繊維の引き抜きが生じなかった。実施例4の炭化ケイ素の膜厚を繊維側より外側を厚くした複合材料では、繊維の引き抜きがより円滑に行われて、脆性がより向上していた。
【0024】
【発明の効果】
本発明は上記のように構成されているので、つぎのような効果を奏する。
(1) 原料ガスとして四塩化ケイ素(SiCl4 )及び炭化水素を用い、希釈ガスとして水素及び不活性ガスを用いて、希釈ガスを不活性ガスと水素とに交互に入れ替えることにより、炭化ケイ素系繊維上に、炭素と炭化ケイ素の多層コーティングを簡便に、かつ短時間で形成させることができ、セラミック繊維強化セラミックス複合材料の脆性を改善することができる。
(2) 通常の恒温恒圧CVD装置を用いて実施することができ、大型部品への適用も容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の第1形態によるセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法により製造された炭化ケイ素系繊維強化炭化ケイ素複合材料を示す断面図である。
【符号の説明】
10 炭化ケイ素系繊維
12 炭素膜
14 炭化ケイ素膜
16 セラミックマトリックス
Claims (11)
- 四塩化ケイ素及び炭化水素を主原料とし希釈ガスとしての不活性ガスと水素とを交互に用いて炭素の成膜工程と炭化ケイ素の成膜工程を繰り返すことにより、織物を構成する炭化ケイ素系繊維上に炭素膜と炭化ケイ素膜の多層コーティングを形成させた後、コーティングされた繊維の空隙を炭化ケイ素系セラミックスにより充填する炭化ケイ素複合化処理することを特徴とするセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 炭化ケイ素の成膜工程と炭素の成膜工程との間に希釈ガスの置換工程を設ける請求項1記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 炭化ケイ素の成膜工程とガス置換工程とに圧力差を設ける請求項2記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 炭化ケイ素の成膜時間を調整することにより、炭化ケイ素の膜厚を変化させる請求項1、2又は3記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 原料ガス中の四塩化ケイ素の濃度を高くすることにより、多層コーティング中の炭素膜にSiを含有させる請求項1〜4のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 原料ガス中の四塩化ケイ素の濃度を徐々に変化させることにより、炭素膜中のSi含有量を傾斜的に変化させる請求項1〜5のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 恒温恒圧CVD装置を用いて多層コーティングを形成させる請求項1〜6のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 繊維上に直接被覆する初層を、炭化水素と不活性ガスだけで成膜する請求項1〜7のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 希釈ガスとしての不活性ガスがアルゴン、ヘリウム及び窒素のいずれかである請求項1〜8のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 炭化水素がメタン、エタン、ブタン、エチレン及びプロパンの少なくともいずれかである請求項1〜9のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
- 多層コーティングを形成させる温度が900〜1300℃の範囲、圧力が1Pa〜0.1MPa の範囲である請求項1〜10のいずれかに記載のセラミック繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
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