JP3662362B2 - スピン偏極電子線源、その作成方法及び測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スピン偏極電子線源、その作成方法及び測定装置に関し、より詳しくは、特定方向のスピンを有する電子を放出するスピン偏極電子線源、その作成方法、及びスピン偏極電子線源を備えた、物質内の電子のスピンの状態を検出する測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体装置の微細化や磁気記録媒体の高記録密度化等の要求と、走査型トンネル顕微鏡法(STM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、低速電子線回折法(LEED)又は光電子分光法等に用いられる測定装置の精度向上とに伴い、より微細な物質の構造を評価することが要求されるようになってきている。
【0003】
その一つとして、物質からの電子のスピン状態を検出することにより、磁区観察を行ったり、物質からの二次電子の偏極度を調べたりする必要がある。例えば、磁気記録媒体の磁区観察を行う場合、走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いたスピンSEMがある。
この場合、通常のSEMを用い、物質から放出される二次電子のスピン状態を検出するスピン検出器を取り付けることにより観察が行われる。
【0004】
そして、電子ビームで照射された領域からの二次電子について、そのスピン偏極度をスピン検出器で検出して、磁区の違いを信号化する。このとき、電子ビームの照射径は20nm程度であり、実際には、スピン検出器の感度(10-4)を上げるため、200nmや、それ以上にビーム径を大きくして照射電流をかせぎ、スピン検出を行わなければ、十分な測定が出来ないものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、磁気記録密度が増すにつれて、一記録領域は微細化してきている。しかし、従来例のスピンSEMからなる磁区観察装置は通常の電子ビームを用い、低感度のスピン検出を行うため、微小領域に照射領域を絞りこむことには限界がある。このため、一記録領域内の一磁区に相当する領域は当然のこと、一記録領域にさえも、領域限定してスピン偏極電子を照射することが困難になってきつつあり、精度のよい磁区観察が困難になってきている。
【0006】
本発明は、上記の従来例の問題点に鑑みて創作されたものであり、微細領域に限定してスピン偏極電子を照射することが可能なスピン偏極電子線源、その作成方法及びスピン偏極電子線源を備えた測定装置を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、第1の発明である、針状基体の先端にスピン偏極電子励起膜が被着されるとともに、前記スピン偏極電子励起膜は、前記針状基体上に形成されたGaAs膜と、該GaAs膜上に形成されたボロンがドープされたGaAs膜と、該ボロンがドープされたGaAs膜上に形成されたCs2O膜とからなることを特徴とするスピン偏極電子線源によって解決され、
第2の発明である、第1の発明のスピン偏極電子線源を備え、該スピン偏極電子線源から供給されるスピン偏極電子を被測定試料に照射することにより前記被測定試料内の電子のスピンの状態を検出することを特徴とする測定装置によって解決され、
第3の発明である、棒状基体の先端部分を細くし、針状基体を形成する工程と、前記針状基体の先端部分にGaAs膜を形成する工程と、前記GaAs膜を加熱しながらArプラズマに曝して前処理する工程と、前記GaAs膜上にCs2O膜を形成する工程とを有することを特徴とするスピン偏極電子線源の作成方法によって解決される。
【0008】
本発明に係るスピン偏極電子線源においては、針状基体の先端にスピン偏極電子励起膜が被着されてなる。スピン偏極電子励起膜には、特定方向のスピンを有する電子が光照射により励起される。
上記スピン偏極電子線源は、棒状基体の先端部分をエッチング等により細くして針状基体を形成し、続いて針状基体の先端部分にスピン偏極電子励起膜を被着することにより作成可能である。
【0009】
このとき、スピン偏極電子励起膜としてGaAs膜とその上のCs2 O膜とを含む多層膜を形成する場合、Cs2 O膜を形成する前にGaAs膜を加熱しながらArプラズマに曝して前処理することにより、GaAs膜表面を清浄にしてGaAs膜とCs2 O膜との間で良好な接合を形成することができる。これにより、スピン偏極電子励起膜からスピン偏極電子が放出されやすくなる。
【0010】
本発明に係るスピン偏極電子線源は、針状基体にスピン偏極電子励起膜が被着されており、先端が細くなっているため、被測定試料へのスピン偏極電子の照射領域を微小領域に限定することができる。
また、針状基体の材料としてサファイアを用いた場合、サファイアは透明であるため電子を励起する光照射をスピン偏極電子線源の針先と反対側から行うことができる。これにより、スピン偏極電子線源を走査型トンネル顕微鏡等の測定装置に取り付けた場合、スピン偏極電子を励起するための光照射手段を、測定の邪魔にならないようにスピン偏極電子線源の先端側及び側面側のみならず先端と反対側に取り付けることができ、装置構成の自由度を高められる。
【0011】
スピン偏極電子励起膜としてサファイアの針状基体上に被着されたGaAs膜を有する多層膜を用いている。
GaAs膜とCs2O膜とが針状基体側から順に積層された多層膜では、Cs2O膜によりGaAs膜のエネルギバンドを曲げてGaAs膜からのスピン偏極電子のトンネル放出を容易にし、偏極度の向上を図ることができる。
【0012】
また、GaAs膜と、ボロンがドープされたGaAs膜と、Cs2 O膜とが針状基体側から順に積層された多層膜では、ボロンがドープされたGaAs膜中において電子と正孔との相互作用が抑制されるため、電子の寿命が長くなる。従って、特定方向のスピン偏極電子の消滅を防止してスピン偏極の割合を理論値に近く維持し、より理論値に近い偏極度でスピン偏極電子を放出させることができる。
【0014】
本発明に係るスピン偏極電子線源を備えた測定装置においては、上記スピン偏極電子線源を備えている。
上記スピン偏極電子線源では被測定試料へのスピン偏極電子の照射領域を微小領域に限定することが可能であるので、それを備えた測定装置により物質内の電子のスピンの状態を観察してより微細な領域の物質の構造の情報を得ることが可能となる。
【0015】
測定装置として、走査型トンネル顕微鏡(STM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、低速電子線回折測定装置(LEED)又は光電子分光測定装置に適用可能である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(1)第1の実施の形態
図1(a),(b)を参照しながら、本発明の第1の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について説明する。図1(a),(b)は斜視図である。
【0017】
まず、図1(a)に示すように、濃度1×1019cm-3のZnがドープされた、横幅1mm×縦幅1mm×長さ10mm寸法のGaAs棒(棒状基体)21の先端部分をエッチング液(H2 SO4 +H2 O2 +H2 O=3:2:2)22に浸漬してエッチングする。
先端部分101cが直径約50nmとなったところで、エッチング液22から取り出して、洗浄する。これにより、図1(b)に示すように、針状基体21aが形成される。
【0018】
なお、場合により、ウエットエッチング後に、Arプラズマに曝して針状基体21aの先端部101cの形を微調整してもよい。
第1の実施の形態と同じようにしてスピン偏極電子のスピン偏極度を測定したところ、30%であった。
上記第1の実施の形態に係るスピン偏極電子線源においては、針状基体21aの材料自体がスピン偏極電子の励起が可能なGaAsである。
【0019】
針状基体21aの先端が細くなっているため、被測定試料へのスピン偏極電子の照射領域を微小領域に限定することができる。
(2)第2の実施の形態
図2(a)〜(c)及び図3を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について説明する。図2(a)〜(c)は斜視図であり、図3は側面図である。
【0020】
まず、図2(a)に示すように、横幅1mm×縦幅1mm×長さ10mm寸法のサファイア棒(棒状基体)1の先端部分をエッチング液2に浸漬して電界研磨によりエッチングする。サファイア棒1aがある程度細くなったところで、エッチング液2から取り出し、洗浄する。なお、エッチング液2として20%の過塩素酸と80%のエタノールとの混合液を用い、電界研磨の条件を電圧5〜7V,電流密度0.05A/cm2 とする。
【0021】
続いて、図2(b)に示すように、Arプラズマに曝してサファイア棒1aの先端部101aの形を微調整し、先端部101bの直径をほぼ50nm程度にする。これにより、図2(c)に示すように、針状基体1aが形成される。なお、場合により、Arプラズマによるエッチングを省略してウエットエッチングのみにより所望の形状としてもよい。
【0022】
次に、図3に示すように、MBE法や蒸着法等により針状基体1aの先端部分101bにGaAs膜(スピン偏極電子励起膜)3を堆積する。これにより、スピン偏極電子線源11aの作成が完成する。
次に、スピン偏極電子線源11aにおける電子のスピンの偏極度Pを求める。以下のようにしてスピン偏極電子数(上向きスピンの電子数N↑,下向きスピンの電子数N↓)を測定し、次の式から偏極度Pを算出した。
【0023】
偏極度P=(N↑−N↓)/(N↑+N↓)
なお、N↑とN↓は3対1、或いは1対3の割合で生じるため、理論上の偏極度は50%となる。
測定装置の構成は以下のとおりである。即ち、上記スピン偏極電子線源11aを電子線回折法(LEED)による測定装置に設置した。上記スピン偏極電子線源11aの周りの装置構成を図7(a)に示すような構成とした。上記スピン偏極電子線源11aの針状先端部側にレーザ光の照射手段を設置し、さらに、スピン偏極電子線源11aの針状先端部周囲にスピン偏極電子線源11aから分離して、スピン偏極電子の放出を容易にするため電界放射グリッド31を設置した。また、レーザ光源としてArレーザ(5W)励起のTiサファイアレーザを用い、さらに、円偏光とするため、レーザ光の光路上に偏光子(グラントムソンプリズム)32と1/4波長板33とを設置した。
【0024】
この装置構成により、以下のようにして上記スピン偏極電子線源11aのスピン偏極度を測定した。即ち、上記スピン偏極電子線源11aの針状先端部側から上記スピン偏極電子線源11aに円偏光させた波長830nmのレーザ光を出力500mWで照射し、さらに電界放射グリッド31に10kVの電圧を印加して、スピン偏極電子線源11aと被測定試料との間に2μAの電流を流した。そして、スピン偏極電子のスピンの向きに応じた電流に分離し、解析した。
【0025】
そのスピン偏極度は20%であった。理論値より小さいのは、スピン偏極電子線源11aの形状や構造により理論どおりの割合でスピン偏極電子が取り出せないためである。従って、偏極度の高いほうが、スピン偏極電子線源11aの形状や構造が優れているといえる。
(3)第3の実施の形態
図2及び図4を参照しながら、本発明の第3の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について説明する。図4(a)は側面図である。
【0026】
まず、図2(a)〜(c)の工程を経てサファイアからなる針状基体1aを形成する。
次に、図4(a)に示すように、MBE法や蒸着法等により針状基体1aの先端部分101bにGaAs膜4を堆積する。
続いて、酸素雰囲気中でMBE法や蒸着法等によりCsを放出させ、GaAs膜4上に数原子層の厚さのCs2 O膜5を形成する。Cs2 O膜5の膜厚は1〜2原子層が好ましい。GaAs膜4とCs2 O膜5とがスピン偏極電子励起膜102aを構成する。これにより、スピン偏極電子線源11bが完成する。
【0027】
第2の実施の形態と同じようにして、スピン偏極電子線源11bのスピン偏極度を測定したところ、35%であった。
上記により作成されたスピン偏極電子線源11bでは、図4(b)に示すように、Cs2 O膜5によりGaAs膜4のエネルギバンドを曲げることでGaAs膜4からスピン偏極電子が大気中にトンネルし易くなる。このため、単にGaAs膜のみを被着した場合と比べて偏極度は向上している。
【0028】
なお、図4(a)に示す工程でGaAs膜4を形成した後、場合によりGaAs膜4をArプラズマに曝してGaAs膜4の表面を清浄にすることも可能である。これにより、GaAs膜4と次に形成されるCs2 O膜5との接合をより完全なものにすることができる。
(4)第4の実施の形態
図2及び図5を参照しながら、本発明の第4の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について説明する。図5は側面図である。
【0029】
まず、図2(a)〜(c)の工程を経てサファイアからなる針状基体1aを形成する。
次に、図5に示すように、MBE法や蒸着法等により針状基体1aの先端部分101bに膜厚約2μmのGaAs膜6を堆積する。
次いで、イオン注入によりGaAs膜の表層(約1nm)に濃度5×1018cm-3のボロンをドープし、ボロンドープ層(δドープ層)6aを形成する。なお、この場合も、GaAs膜6をArプラズマに曝してGaAs膜6の表面を清浄にしておくことが好ましい。
【0030】
続いて、酸素雰囲気中でMBE法や蒸着法等によりCsを放出させ、GaAs膜上に数原子層の厚さのCs2 O膜7を形成する。この場合も、Cs2 O膜7の膜厚は1〜2原子層が好ましい。ボロンドープ層(δドープ層)6aが表層に形成されたGaAs膜6とCs2 O膜7とがスピン偏極電子励起膜102bを構成する。
【0031】
上記により作成されたスピン偏極電子線源11cにおいて、第2の実施の形態と同じようにしてスピン偏極度を測定したところ、偏極度は40%であった。
第4の実施の形態に係るピン偏極電子線源11cでは、スピン偏極電子はδドープ層6a中で正孔との相互作用が抑制されて寿命が長くなる。このため、特定方向のスピン偏極電子の消滅を防止してスピン偏極の割合を理論値に近く維持したままスピン偏極電子を取り出すことができ、理論値により近いスピン偏極度を得ることができる。
【0032】
(5)第5の実施の形態
図2及び図6を参照しながら、本発明の第5の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について説明する。図6は側面図である。
まず、図2(a)〜(c)の工程を経てサファイアからなる針状基体1aを形成する。
【0033】
次に、MBE法や蒸着法等により針状基体1aの先端部分101bに膜厚約1μmのAl0.2 Ga0.8 As膜(半導体膜)8を堆積する。
次いで、Al0.2 Ga0.8 As膜8上にMBE法や蒸着法等により膜厚約50nmのGaAs膜9を堆積する。なお、この場合も、GaAs膜9をArプラズマに曝してGaAs膜9の表面を清浄にしておくことが好ましい。
【0034】
次に、酸素雰囲気中でMBE法や蒸着法等によりCsを放出させ、GaAs膜9上に数原子層の厚さのCs2 O膜10を形成する。この場合も、Cs2 O膜10の膜厚は1〜2原子層が好ましい。Al0.2 Ga0.8 As膜8とGaAs膜9とCs2 O膜10とがスピン偏極電子励起膜102cを構成する。
第2の実施の形態と同じようにしてスピン偏極電子線源11cのスピン偏極度を測定したところ、25%であった。
【0035】
上記第5の実施の形態に係るスピン偏極電子線源11cでは、Al0.2 Ga0.8 As膜8によりAl0.2 Ga0.8 As膜8上のGaAs膜9には結晶歪みが生じてスピン偏極電子の放出が増える。このため、単にGaAs膜のみを被着した場合と比べてスピン偏極度が向上している。
なお、上記では、GaAs膜9の下地にAl0.2 Ga0.8 As膜8を用いているが、GaAs膜9に結晶歪みを生じさせやすい膜、例えばInGaAs膜及びGaAsP膜等を用いてもよい。
【0036】
以上のように、上記第2乃至第5の実施の形態に係るスピン偏極電子線源においては、針状基体1aの先端に、特定方向のスピンを有する電子が光照射により励起されるスピン偏極電子励起膜3,102a〜102cが被着されてなる。
スピン偏極電子線源11a〜11dの先端が細くなっているため、被測定試料へのスピン偏極電子の照射領域を微小領域に限定することができる。
【0037】
また、針状基体1aの材料はサファイアを用いている。サファイアは透明であるため電子を励起する光照射をスピン偏極電子線源11a〜11dの針先と反対側から行うことができる。これにより、スピン偏極電子線源11a〜11dを測定装置に取り付けた場合、スピン偏極電子を励起するための光照射手段を、測定の邪魔にならないように先端側および側面側のみならず先端と反対側に取り付けることができ、このため、装置構成の自由度が増す。
【0038】
(6)第6の実施の形態
図9、図7(a),(b)及び図8を参照しながら、本発明の第6の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた走査型トンネル顕微鏡(STM)の構成について説明する。
図9は、走査型トンネル顕微鏡(STM)の全体の構成を示す図であり、図9に示すように、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aが被測定試料34aに対向して置かれている。また、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aと被測定試料34aの間にはトンネル電流を供給するための電源36とトンネル電流を検出するための測定器35が接続されている。
【0039】
また、図7(a),(b)及び図8はスピン偏極電子線源にスピン偏極電子を励起するためのレーザ光を照射する3種類の方法について示す側面図である。
図7(a)に示すように、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aの先端側から、即ちスピン偏極電子励起膜3,102〜104の表面からレーザ光を照射する方法があり、図7(b)に示すように、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aの先端と反対側から、即ち針状基体を通過させてスピン偏極電子励起膜3,102a〜102cの裏面からレーザ光を照射する方法があり、図8に示すように、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aの側面側から、即ちスピン偏極電子励起膜3,102a〜102cの側面からレーザ光を照射する方法がある。何れの場合も、レーザ光は、図示していない光ファイバによりスピン偏極電子線源11a〜11d,21aに導かれる。また、レーザ光源として、例えばArレーザ励起のTiサファイアレーザ等が用いられる。
【0040】
この場合、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aの先端部の周囲に電界放射グリッド31が設けられており、スピン偏極電子が放出されやすくなっている。さらに、円偏光とするため、レーザ光の光路上に偏光子(グラントムソンプリズム)32と1/4波長板33とが設置されている。なお、場合により、電界放射グリッド31は設けられなくてもよい。
【0041】
上記走査型トンネル顕微鏡(STM)では、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aの針先先端からスピンの揃った電子を被測定試料34aの表面に照射し、トンネル電流測定器35によりトンネル電流を測定する。被測定試料34aの表面の電子のスピンの向きに対応してトンネル電流を分離し、その大きさの違いによりスピンの状態を観察する。
【0042】
更に、検出されたスピンの状態から被測定試料34aの磁区を画像化し、或いは、特定位置でのスピンの向きに由来する物質の状態密度を測定することができる。
(7)第7の実施の形態
図10を参照しながら、本発明の第7の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)の構成について説明する。
【0043】
図10は装置構成図であり、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aと、スピン偏極電子の照射により被測定試料34bから発生した二次電子を検出するスピン検出器38とを備えている。また、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aから被測定試料34bに至る電子の行程の途中にスピン偏極電子線源11a〜11d,21aから放出された電子の方向を調整するための磁場を発生するコイル37が設けられている。なお、図10では省略されているが、この場合にも、図7(a),(b)又は図8に示すように、レーザ光照射手段や電界放射グリッド31を設けてもよい。
【0044】
上記走査型電子顕微鏡(SEM)では、被測定試料34bへのスピン偏極電子の照射により二次電子を発生させ、スピン検出器38により二次電子を検出する。スピン偏極電子及び二次電子のスピンの方向が保存されるとすると、二次電子のスピンの向きに対応した像を得ることができ、これにより、磁区観察を行うことができる。
【0045】
(8)第8の実施の形態
図11を参照しながら、本発明の第8の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた透過型電子顕微鏡(TEM)の構成について説明する。
図11は装置構成図であり、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aと、スピン偏極電子の照射により被測定試料34cを透過した二次電子を検出する不図示のスピン検出器とを備えている。また、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aから被測定試料34cに至る電子の行程の途中にスピン偏極電子線源11a〜11d,21aから放出された電子の方向を調整するための磁場を発生するコイル39を備えている。なお、図11では省略されているが、この場合にも、図7(a),(b)又は図8に示すように、レーザ光照射手段や電界放射グリッド31を設けてもよい。
【0046】
上記透過型電子顕微鏡(TEM)では、電子が被測定試料34cを透過する際、吸収や回折によって生じるコントラストを記録するものであり、電子線回折においてスピン偏極電子及び二次電子のスピンの方向が保存されるとして、被測定試料34cの磁区に由来するTEM像を得ることができる。
(9)第9の実施の形態
図12を参照しながら、本発明の第9の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた低速電子線回折測定装置(LEED)の構成について説明する。
【0047】
図12は装置構成図であり、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aと、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aから放出された電子のうち所定のエネルギを有する電子だけ通過させる電子エネルギ分析器40と、被測定試料34dから発生した散乱電子を検出するスピン検出器41とを備えている。なお、図12では省略されているが、この場合にも、図7(a),(b)又は図8に示すように、レーザ光照射手段や電界放射グリッド31を設けてもよい。
【0048】
上記低速電子線回折測定装置では、スピンの揃った電子線を被測定試料34dに照射し、被測定試料34dの表面で散乱した電子線を測定することにより被測定試料34dのスピン偏極度を調べることができる。
(10)第10の実施の形態
図13を参照しながら、本発明の第10の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた光電子分光測定装置の構成について説明する。
【0049】
図13は装置構成図であり、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aと、スピン偏極電子線源11a〜11d,21aから放出された電子を被測定試料34eの方に向かって通過させ、かつ被測定試料34eから発生した散乱電子のうち所定のエネルギを有する電子だけ通過させる円筒型エネルギ分析器42と、円筒型エネルギ分析器42を通過してきた散乱電子のスピン偏極度の測定が可能なスピン散乱結晶43と、スピン散乱結晶43から発生した散乱電子を検出するスピン散乱電子検出器44とを備えている。スピン散乱結晶43として、散乱電子のスピンの向きにより散乱機構が異なるタングステン(W)の(001)面結晶が用いられる。なお、図13では省略されているが、この場合にも、図7(a),(b)又は図8に示すように、レーザ光照射手段や電界放射グリッド31を設けてもよい。
【0050】
上記光電子分光装置では、主として、角度分解光電子分光法を用いて、スピン偏極に対応する、電子の束縛エネルギの磁気的相互作用についての情報を得ることができる。
以上のように、上記第6乃至第10の実施の形態に係る測定装置においては、それぞれ第1乃至第5の実施の形態に係るスピン偏極電子線源11a〜11d,21aを備えている。
【0051】
そのスピン偏極電子線源11a〜11d,21aでは被測定試料34a〜34eへのスピン偏極電子の照射領域を微小領域に限定することが可能であるので、それを備えた上記第6乃至第10の実施の形態に係る測定装置により物質内の電子のスピンの状態を観察して微細領域の物質の構造の情報を得ることが可能となる。
【0052】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係るスピン偏極電子線源においては、針状基体の先端にスピン偏極電子励起膜が被着されてなる。このように、スピン偏極電子励起膜が被着されたスピン偏極電子線源の先端が細くなっているため、微小領域に限定して被測定試料にスピン偏極電子を照射することができる。
【0053】
また、本発明に係るスピン偏極電子線源を備えた測定装置においては、上記スピン偏極電子線源を備えている。上記スピン偏極電子線源では被測定試料へのスピン偏極電子の照射領域を微小領域に限定することが可能であるので、それを備えた測定装置により物質内の電子のスピンの状態を観察して物質の微細領域の構造の情報を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a),(b)は、本発明の第1の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について示す斜視図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、本発明の第2乃至第5の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について示す断面図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第3の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について示す断面図であり、図4(b)は、本発明の第3の実施の形態に係るスピン偏極電子線源のスピン偏極電子励起膜からスピン偏極電子が放出される機構について示すエネルギバンド構造図である。
【図5】図5は、本発明の第4の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の第5の実施の形態に係るスピン偏極電子線源の作成方法について示す断面図である。
【図7】図7(a),(b)は、本発明の第6乃至第10の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた測定装置の部分構成について示す断面図(その1)である。
【図8】図8は、本発明の第6乃至第10の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた測定装置の部分構成について示す断面図(その2)である。
【図9】図9は、本発明の第6の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた走査型トンネル顕微鏡の構成について示す図である。
【図10】図10は、本発明の第7の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた走査型電子顕微鏡の構成について示す図である。
【図11】図11は、本発明の第8の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた透過型電子顕微鏡の構成について示す図である。
【図12】図12は、本発明の第9の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた電子線回折測定装置の構成について示す図である。
【図13】図13は、本発明の第10の実施の形態に係るスピン偏極電子線源を備えた光電子分光測定装置の構成について示す図である。
【符号の説明】
1 サファイア棒(棒状基体)、
1a 針状基体、
2 エッチング液(過塩素酸+エタノール)、
3 GaAs膜(スピン偏極電子励起膜)、
4,6,9 GaAs膜、
5,7,10 Cs2 O膜、
6a ボロンがドープされたGaAs膜(δドープ層)、
8 Al0.2 Ga0.8 As膜(半導体膜)、
11a〜11d,21a スピン偏極電子線源、
21 GaAs棒(棒状基体)、
22 エッチング液(H2 SO4 +H2 O2 +H2 O)、
31 電界放射グリッド、
32 偏光子(グラントムソンプリズム)、
33 1/4波長板、
34a〜34e 被測定試料、
35 トンネル電流測定器、
36 電源、
37,39 コイル、
38,41 スピン検出器、
40 電子エネルギ分析器、
42 円筒型エネルギ分析器、
43 スピン散乱結晶、
44 スピン散乱電子検出器、
101a,101b 針状基体の先端部、
101c スピン偏極電子線源の先端部、
102a〜102c スピン偏極電子励起膜。
Claims (3)
- 針状基体の先端にスピン偏極電子励起膜が被着されるとともに、前記スピン偏極電子励起膜は、前記針状基体上に形成されたGaAs膜と、該GaAs膜上に形成されたボロンがドープされたGaAs膜と、該ボロンがドープされたGaAs膜上に形成されたCs2O膜とからなることを特徴とするスピン偏極電子線源。
- 請求項1記載のスピン偏極電子線源を備え、該スピン偏極電子線源から供給されるスピン偏極電子を被測定試料に照射することにより前記被測定試料内の電子のスピンの状態を検出することを特徴とする測定装置。
- 棒状基体の先端部分を細くし、針状基体を形成する工程と、
前記針状基体の先端部分にGaAs膜を形成する工程と、
前記GaAs膜を加熱しながらArプラズマに曝して前処理する工程と、
前記GaAs膜上にCs2O膜を形成する工程とを有することを特徴とするスピン偏極電子線源の作成方法。
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