JP3661958B2 - 鋳造用耐火物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳造用耐火物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば鋼の鋳造に使用されるノズルのような鋳造用耐火物は、従来よりアルミナ−黒鉛質耐火物、ジルコニア−黒鉛質耐火物等が用いられている。しかしながら、このような鋳造用耐火物は、耐熱衝撃性、耐食性の点で十分に満足するものではなかった。また、前記鋳造用耐火物は使用する鋼種によってアルミナ析出物がノズル孔に付着して閉塞を生じる問題があった。
【0003】
一方、特開昭63−117950号公報には主たる鉱物相がムライトおよびバデライトからなり、Al2 O3 30〜65重量%、ZrO2 25〜45重量%、SiO2 10〜25重量%の化学組成を有する耐火原料を46〜85重量%、黒鉛および/またはカーボン3〜12重量%を配合し、混練、成形、焼成するスライド・ゲート用プレートれんがの製造方法が開示されている。しかしながら、このような組成のれんがは、前記耐火原料中のアルミナ含有量が30〜65重量%と高いことに起因して必ずしも十分な耐熱衝撃性が発揮されない。また、前記耐火原料はバデライト相の可逆的に結晶転移に起因して発生したマイクロクラックの助長に伴う亀裂を修復されず、そのまま残存するため、耐食性および強度の点で十分に満足するものではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、主な鉱物結晶相がムライト、バデライトで、特にアルミナの含有量が少なく、しかもシリカの含有量を逆に多くしたクリンカを含む耐熱衝撃性及び耐食性が優れ、かつ高強度の鋳造用耐火物およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる鋳造用耐火物は、耐火組成物および有機系バインダを含む原料から製造される鋳造用耐火物であって、
前記耐火組成物は、
(a) アルミナ(Al2 O3 )5〜22重量%、ジルコニア(ZrO2 )38〜68重量%およびシリカ(SiO2 )27〜40重量%からなり、主な鉱物結晶相がムライトおよびバデライトであるクリンカ3〜60重量%;
(b) 黒鉛およびカーボンから選ばれる少なくとも一つの炭素系材料(ただし焼成後に前記有機系バインダがカーボンとして残留する場合にはそのカーボンも含む)5〜40重量%;および
(c) 残部がアルミナ、溶融シリカ、ジルコニア、炭化珪素、ムライトおよび金属シリコンから選ばれる少なくとも一つの耐火成分(ただし、前記炭化珪素を用いる場合は最大30重量%、前記金属シリコンを用いる場合は最大10重量%);
からなることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係わる鋳造用耐火物の製造方法は
(a) アルミナ(Al2 O3 )5〜22重量%、ジルコニア(ZrO2 )38〜68重量%およびシリカ(SiO2 )27〜40重量%からなり、主な鉱物結晶相がムライトおよびバデライトであるクリンカ3〜60重量%;
(b) 黒鉛およびカーボンから選ばれる少なくとも一つの炭素系材料(ただし焼成後に前記有機系バインダがカーボンとして残留する場合にはそのカーボンも含む)5〜40重量%;および
(c) 残部がアルミナ、溶融シリカ、ジルコニア、炭化珪素、ムライトおよび金属シリコンから選ばれる少なくとも一つの耐火成分(ただし、前記炭化珪素を用いる場合は最大30重量%、前記金属シリコンを用いる場合は最大10重量%);からなる耐火組成物と有機系バインダを含む原料を混練し、成形する工程と、
成形体を非酸化性雰囲気中もしくはブリーズ中にて、800〜1200℃で焼成する工程と、
を具備したことを特徴とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の鋳造用耐火物は、耐火組成物および有機系バインダを含む原料から製造される鋳造用耐火物であって、
前記耐火組成物は、
(a) アルミナ(Al2 O3 )5〜22重量%、ジルコニア(ZrO2 )38〜68重量%およびシリカ(SiO2 )27〜40重量%からなり、主な鉱物結晶相がムライトおよびバデライトであるクリンカ3〜60重量%;
(b) 黒鉛およびカーボンから選ばれる少なくとも一つの炭素系材料(ただし焼成後に前記有機系バインダがカーボンとして残留する場合にはそのカーボンも含む)5〜40重量%;および
(c) 残部がアルミナ、溶融シリカ、ジルコニア、炭化珪素、ムライトおよび金属シリコンから選ばれる少なくとも一つの耐火成分(ただし、前記炭化珪素を用いる場合は最大30重量%、前記金属シリコンを用いる場合は最大10重量%);
からなる。
【0008】
前記耐火組成物を構成する各成分の作用および配合量を規定した理由を以下に説明する。
1)耐火組成物;クリンカ、炭素系材料および耐火成分
a)クリンカ
このクリンカは、主な鉱物結晶相がムライトおよびバデライトで形成され、前記バデライトが加熱により単斜晶から正方晶に、室温に冷却される際に正方晶から単斜晶に転移することに伴う体積収縮および体積膨脹によりマイクロクラックを発生させて鋳造用耐火物の耐熱衝撃性を改善する。クリンカの配合量を3重量%未満にすると、低熱膨張、耐食性および耐熱衝撃性の優れた鋳造用耐火物を得ることが困難になる。一方、クリンカの配合量が60重量%を超えると、鋳造用耐火物の耐食性がかえって低下する。より好ましいクリンカの配合量は、5〜55重量%、さらに好ましいクリンカの配合量は10〜40重量%である。
【0009】
a−1)アルミナ(Al2 O3 )
前記クリンカ中のアルミナの配合量を5重量%未満にすると、アルミナが持つ優れた耐食性を鋳造用耐火物に付与することが困難になる。一方、アルミナの配合量が22重量%を超えると鋳造用耐火物の熱膨張係数の低減効果を発揮することが困難になる。このような割合でのアルミナの配合により鋳造用耐火物の耐食性を維持しつつ、熱膨張率の低減を図ることが可能になる。より好ましいアルミナの配合量は、10〜20重量%である。
【0010】
a−2)ジルコニア(ZrO2 )
前記クリンカ中のジルコニアの配合量を38重量%未満にすると、バデライトが単斜晶と正方晶との間の可逆的な転移に伴う体積収縮・膨脹の効果が少なく鋳造用耐火物の耐熱衝撃性を改善することが困難になる。一方、ジルコニアの配合量が68重量%を超えると、鋳造用耐火物の熱膨張係数が大きくなり過ぎて、耐熱衝撃性を改善することが困難になる。より好ましいジルコニアの配合量は、45〜60重量%である。
【0011】
a−3)シリカ(SiO2 )
前記クリンカ中のシリカは、アルミナと反応してムライトを生成するが、さらにシリカが余剰に存在するようにその配合量を27〜40重量%の範囲にした。余剰のシリカは、ガラス相となってクリンカ中のバデライトの結晶転移に起因するマイクロクラックの助長による亀裂を埋め、耐火物の粒子の強度低下や崩壊を防ぐ効果を有する。また、シリカは熱膨張係数が低いために、鋳造用耐火物の耐熱衝撃性を向上することができる。このようにクリンカ中に配合されるシリカの下限値を従来の鋳造用耐火物に用いられているクリンカより多い量、つまり27重量%とする。ただし、シリカの配合量が多くなり過ぎると耐食性が低下するので上限値を40重量%とする。より好ましいシリカの配合量は、28〜35重量%である。
【0012】
b)炭素系材料
黒鉛およびカーボンから選ばれる少なくとも一つの炭素系材料は、溶鋼及びスラグに対し濡れ難い性質を有すると共に、高熱伝導率および低熱膨張率係数を有する。この炭素系材料は、焼成後に有機系バインダが例えば非晶質カーボンのようなカーボンとして残留する場合にはそのカーボンをも含む。炭素系材料の配合量を5重量%未満にすると、耐熱衝撃性の良好な鋳造用耐火物を得ることが困難になる。一方、炭素系材料の配合量が40重量%を超えると、鋳造用耐火物の耐食性が低下する。このように炭素系材料は、耐熱衝撃性と耐食性のバランスを考慮して配合される。より好ましい炭素系材料の配合量は8〜30重量%である。
【0013】
c)耐火成分
この耐火成分は、アルミナ、溶融シリカ、ジルコニア、炭化珪素、ムライトおよび金属シリコンの少なくとも1つからなる。ただし、耐火成分として炭化珪素を用いる場合には30重量%以下にする必要がある。炭化珪素の配合量が30重量%を越えると、鋳造用耐火物の耐食性が低下する。また、前記耐火成分として金属シリコンを用いる場合には10重量%以下にする必要がある。金属シリコンの配合量が10重量%を越えると、鋳造用耐火物の耐食性が低下する。
【0014】
前記有機系バインダとしては、例えばフェノール樹脂、フラン系樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂等を用いることができる。この有機系バインダは、前記耐火組成物に対して3〜25重量%配合されることが好ましい。
【0015】
本発明に係わる鋳造用耐火物は、前述した耐火組成物および有機系バインダを含む原料を混練し、成形した後、この成形体を非酸化性雰囲気中もしくはブリーズ中にて、800〜1200℃で焼成することにより製造される。
【0016】
前記成形手段としては、例えば静水圧プレス、油圧プレス、フリクションプレス等を採用することができる。
前記非酸化性雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガスから選ばれる単独ガスもしくは混合ガス等の雰囲気である。
【0017】
前記焼成温度を800℃未満にすると、十分に焼結された鋳造用耐火物を得ることができなくなる。一方、前記焼成温度が1200℃を越えると高温度にする利点がないばかりか、製造コストが高騰する。
【0018】
以上説明した本発明に係わる鋳造用耐火物は、前述した(a) 〜(c) の成分からなる耐火組成物と有機系バインダを含む原料から製造され、特に(a) 成分であるクリンカ中のバデライトが加熱により単斜晶から正方晶へ転移するのに伴って体積収縮をを生じ、室温に冷却される際に正方晶から単斜晶に転移するのに伴って体積膨脹を生じる。このようなバデライトの可逆的な結晶転移による体積の収縮・膨脹により熱応力を緩和する作用を持つマイクロクラックが生じる。また、前記(a) 成分であるクリンカ中のアルミナの含有量を5〜22重量%と少なくすることによって、熱膨張係数を低減することができる。その結果、前記マイクロクラックの生成および熱膨張係数の低減により耐熱衝撃性が改善された鋳造用耐火物を得ることができる。
【0019】
また、前記クリンカ中のシリカの含有量を逆に多くして、余剰のシリカをガラス相として存在させることによって、前記バデライトの可逆的な結晶転移に起因するマイクロクラックの助長による亀裂を埋めることができるため、耐食性に優れ、かつ高強度の鋳造用耐火物を得ることができる。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
(実施例1〜6)
まず、下記表1に示す化学組成からなる5種のクリンカA〜Eを用意した。これらの中で、クリンカBおよびクリンカCは、アルミナ、ジルコニアおよびシリカが本発明の範囲にあるものである。
【0021】
【表1】
【0022】
次いで、前記表1に示す組成のクリンカ、アルミナ、シリカ、黒鉛およびフェノール樹脂(有機系バインダ)を下記表2に示す割合で配合して6種の原料を調製した。つづいて、これらの原料をそれそれ混練した後、1500kg/cm2 の圧力で静水圧プレスを行って外径150mm、内径40mm、高さ170mmの6種の環状成形体を作製した。ひきつづき、これら成形体を1000℃の水素雰囲気中で5時間焼成することにより6種の鋳造用耐火物を製造した。
【0023】
得られた実施例1〜6の鋳造用耐火物の見掛気孔率、かさ比重、曲げ強さ、動弾性率、熱膨張率(1000℃)、熱衝撃抵抗係数、耐食性指数を調べた。その結果を下記表2に併記する。なお、クリンカ成分を含まず、アルミナ、シリカ、黒鉛およびフェノール樹脂を下記表2に示す割合で配合した原料を用いた以外、実施例1と同様な方法により製造された鋳造用耐火物を基準例1として表2に併記する。
【0024】
ただし、熱衝撃抵抗係数は次式から求められ、求めた数値が大きい程、耐熱衝撃性が優れていることを意味する。
熱衝撃抵抗係数=曲げ強さ/(熱膨張係数×動弾性率)
また、耐食性は高周波誘導炉による浸食テストによって評価し、耐食性指数は前記基準例1の鋳造用耐火物を100とした相対値で示した。前記耐食性指数が大きい程、優れた耐食性を有する。
【0025】
(比較例1〜7)
前記表1に示す組成のクリンカ、アルミナ、シリカ、黒鉛およびフェノール樹脂(有機系バインダ)を下記表3に示す割合で配合して7種の原料を調製した。つづいて、これら原料をそれぞれ混練した後、1500kg/cm2 の圧力で静水圧プレスを行って外径150mm、内径40mm、高さ170mmの7種の環状成形体を作製した。ひきつづき、これら成形体を1000℃の窒素雰囲気中で5時間焼成することにより7種の鋳造用耐火物を製造した。
【0026】
得られた比較例1〜7の鋳造用耐火物の見掛気孔率、かさ比重、曲げ強さ、動弾性率、熱膨張率(1000℃)、熱衝撃抵抗係数、耐食性指数を調べた。その結果を下記表3に併記する。なお、前述した基準例1を表3に併記する。前記比較例1〜7の鋳造用耐火物の耐食性指数は、前記基準例1の鋳造用耐火物を100とした相対値で示した。
【0027】
また、実施例1〜5および比較例1の結果から求めたクリンカCの添加量と鋳造用耐火物の熱膨張率との関係、および比較例4〜7の結果から求めたクリンカEの添加量と鋳造用耐火物の熱膨張率との関係をそれぞれ図1に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
前記表2および表3に示す各実施例および各比較例の鋳造用耐火物は、前述した表1に示す組成のクリンカの影響を明確にするために、基準例1の鋳造用耐火物の成分の中のAl2 O3 だけを減じ、その代わりにクリンカA〜Eの含有量のみを変化していったものである。
【0031】
すなわち、実施例1は基準例1の組成からアルミナを5重量%減じてクリンカCを5重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。実施例2は、基準例1の組成からアルミナを10重量%減じてクリンカCを10重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。実施例3は、基準例1の組成からアルミナを20重量%減じてクリンカCを20重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。実施例4は、基準例1の組成からアルミナを40重量%減じてクリンカCを40重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。実施例5は、基準例1のアルミナの代わりにクリンカCを60重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。実施例6は、基準例1の組成からからアルミナを10重量%減じてクリンカBを10重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。
【0032】
一方、比較例1はクリンカCを本発明で規定した量(3〜60重量%)から外れて加えた原料から製造された鋳造用耐火物である。比較例2は、本発明で規定された成分割合から外れたクリンカAを加えた原料から製造された鋳造用耐火物である。比較例3は、本発明で規定された成分割合から外れたクリンカDを加えた原料から製造された鋳造用耐火物である。また、比較例4〜7は基準例1の組成からアルミナ量を減少し、その分クリンカE量を増大させた原料からそれぞれ製造された鋳造用耐火物である。このような比較例1〜7の他の成分は、前述した実施例と同様である。
【0033】
前記表2および表3から明らかなように前記表1に示す組成のクリンカCの含有量が2.5重量%の原料から製造された比較例1の鋳造用耐火物は、熱衝撃抵抗係数が前記クリンカCを全く含まない基準例1の鋳造用耐火物と大差がない。これに対し、前記クリンカCおよびクリンカBを3重量%以上含む原料から製造された実施例1〜6の鋳造用耐火物は、耐熱衝撃性、耐食性のいずれもクリンカCを所定の量含まない比較例1の鋳造用耐火物に比べて優れていることがわかる。
【0034】
特に、前記クリンカCの含有量が5〜40重量%の原料から製造された実施例2〜5の鋳造用耐火物は極めて優れた耐熱衝撃性、耐食性を有する。これは、アルミナの含有量が低減されたクリンカCを用いることにより製造された鋳造用耐火物の熱膨張率が低下されることに起因する。同時に、アルミナとの反応によりムライトを生成した残りのシリカが、ガラス相となってバデライトの可逆的な結晶転移に起因するマイクロクラックの助長による亀裂を埋めて鋳造用耐火物の粒子の強度低下および腐食を防いだためと考えられる。実施例1〜6の鋳造用耐火物は、耐食性についても向上していることが認められる。本発明で規定された成分割合から外れたクリンカEを加えた原料から製造された比較例4〜7の鋳造用耐火物は、熱膨張率がいずれも実施例1〜6の鋳造用耐火物より大きい値を示した。
【0035】
また、本発明で規定された成分割合から外れたクリンカAを加えた原料から製造された比較例2の鋳造用耐火物は、クリンカA中のSiO2 成分が多いため、耐食性指数が低下している。本発明で規定された成分割合から外れたクリンカDを加えた原料から製造された比較例3の鋳造用耐火物は、クリンカD中のAl2 O3 成分が多いため、熱膨張係数の低減効果が認められない。
【0036】
(実施例7、8および比較例8、9)
前記表1に示す組成のクリンカ、ジルコニア、炭化珪素、金属シリコン、黒鉛およびフェノール樹脂(有機系バインダ)を下記表4に示す割合で配合して4種の原料を調製した。つづいて、これら原料をそれぞれ混練した後、1500kg/cm2 の圧力で静水圧プレスを行って外径150mm、内径40mm、高さ170mmの4種の環状成形体を作製した。ひきつづき、これら成形体を1000℃の窒素雰囲気中で5時間焼成することにより4種の鋳造用耐火物を製造した。
【0037】
得られた実施例7、8および比較例8、9の鋳造用耐火物の見掛気孔率、かさ比重、曲げ強さ、動弾性率、熱膨張率(1000℃)、熱衝撃抵抗係数、耐食性指数を調べた。その結果を下記表4に併記する。なお、クリンカ成分を含まず、ジルコニア、炭化珪素、金属シリコン、黒鉛およびフェノール樹脂を下記表4に示す割合で配合した原料を用いた以外、実施例7と同様な方法により製造された鋳造用耐火物を基準例2として表4に併記する。前記実施例7、8および比較例8、9の鋳造用耐火物の耐食性指数は、前記基準例2の鋳造用耐火物を100とした相対値で示した。
【0038】
【表4】
【0039】
前記表4に示す各実施例および各比較例の鋳造用耐火物は、前述した表1に示す組成のクリンカの影響を明確にするために、基準例2の鋳造用耐火物の成分の中のジルコニアだけを減じ、その量をクリンカA〜Dで置換えたものである。
【0040】
すなわち、実施例7、8は基準例2の組成からジルコニアを5重量%減じてクリンカB、クリンカCをそれぞれ5重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。一方、比較例8、9は基準例2の組成からジルコニアを5重量%減じて本発明で規定された成分割合から外れたクリンカA、クリンカDをそれぞれ5重量%とした原料から製造された鋳造用耐火物である。
【0041】
前記表4から明らかなように前記表1に示す組成のクリンカBおよびクリンカCをそれぞれ5重量%含む原料から製造された実施例7、8の鋳造用耐火物は、基準例2の鋳造用耐火物に比べて耐熱衝撃性、耐食性がいずれも優れていることがわかる。
【0042】
これに対し、本発明で規定された成分割合から外れたクリンカAを加えた原料から製造された比較例8の鋳造用耐火物は、基準例2の鋳造用耐火物に比べて耐熱衝撃性が優れているものの、耐食性が劣ることがわかる。また、本発明で規定された成分割合から外れたクリンカDを加えた原料から製造された比較例9の鋳造用耐火物は、基準例2の鋳造用耐火物に比べて耐熱衝撃性および耐食性のいずれも劣ることがわかる。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によればクリンカ中のバデライトの単斜晶・正方晶間の可逆的な結晶転移による体積の収縮・膨脹によりマイクロクラックを発生させて熱応力を緩和し、かつ前記クリンカ中のアルミナ含有量を少なくして熱膨張率を低減させると共に、逆に前記クリンカ中のシリカの含有量を増加させて余剰のシリカ分のガラス相により前記バデライトの結晶転移に起因するマイクロクラックの助長による亀裂を埋めることができ、結果として耐熱衝撃性、耐食性に優れ、高強度の鋼の鋳造ノズル等に有用な鋳造用耐火物を提供できる。
【0044】
また、前記クリンカは炭素系材料のような他の成分に比べて比較的高価であるが、本発明で好ましいとされるクリンカを用いれば、それ以外のクリンカに比べて少量の添加で熱膨張率が低減された鋳造用耐火物を得ることができる。さらに、仮に前記クリンカをそれ以外のクリンカと同量添加すれば熱膨張率が一層低減された鋳造用耐火物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】クリンカの添加量とこのクリンカを含む鋳造用耐火物の熱膨張率の関係を示す特性図。
Claims (8)
- 耐火組成物および有機系バインダを含む原料から製造される鋳造用耐火物であって、
前記耐火組成物は、
(a) アルミナ5〜22重量%、ジルコニア38〜68重量%およびシリカ27〜40重量%からなり、主な鉱物結晶相がムライトおよびバデライトであるクリンカ3〜60重量%;
(b) 黒鉛およびカーボンから選ばれる少なくとも一つの炭素系材料(ただし焼成後に前記有機系バインダがカーボンとして残留する場合にはそのカーボンも含む)5〜40重量%;および
(c) 残部がアルミナ、溶融シリカ、ジルコニア、炭化珪素、ムライトおよび金属シリコンから選ばれる少なくとも一つの耐火成分(ただし、前記炭化珪素を用いる場合は最大30重量%、前記金属シリコンを用いる場合は最大10重量%);からなることを特徴とする鋳造用耐火物。 - 前記クリンカ中のアルミナの配合量は、10〜20重量%であることを特徴とする請求項1記載の鋳造用耐火物。
- 前記クリンカ中のジルコニアの配合量は、46〜60重量%であることを特徴とする請求項1記載の鋳造用耐火物。
- 前記クリンカ中のシリカの配合量は、28〜35重量%であることを特徴とする請求項1記載の鋳造用耐火物。
- 前記クリンカは、前記耐火組成物中に5〜55重量%含有されることを特徴とする請求項1記載の鋳造用耐火物。
- 前記クリンカは、前記耐火組成物中に10〜40重量%含有されることを特徴とする請求項1記載の鋳造用耐火物。
- 前記炭素系材料は、前記耐火組成物中に8〜30重量%含有されることを特徴とする請求項1記載の鋳造用耐火物。
- (a) アルミナ5〜22重量%、ジルコニア38〜68重量%およびシリカ27〜40重量%からなり、主な鉱物結晶相がムライトおよびバデライトであるクリンカ3〜60重量%;
(b) 黒鉛およびカーボンから選ばれる少なくとも一つの炭素系材料(ただし焼成後に前記有機系バインダがカーボンとして残留する場合にはそのカーボンも含む)5〜40重量%;および
(c) 残部がアルミナ、溶融シリカ、ジルコニア、炭化珪素、ムライトおよび金属シリコンから選ばれる少なくとも一つの耐火成分(ただし、前記炭化珪素を用いる場合は最大30重量%、前記金属シリコンを用いる場合は最大10重量%);からなる耐火物原料と有機系バインダを含む原料を混練し、成形する工程と、
成形体を非酸化性雰囲気中もしくはブリーズ中にて、800〜1200℃で焼成する工程と、
を具備したことを特徴とする鋳造用耐火物の製造方法。
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1996
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