JP3661859B2 - 熱伝導シート及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子部品等の発熱体からの放熱を促すため、その発熱体に対して接触するように配置して使用される熱伝導シート、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、シリコーンゴムに熱伝導フィラーを充填し、混練・成形してなる熱伝導シートが考えられている。この種の熱伝導シートは、電気・電子装置の内部において、例えば、発熱源となる電子部品と、放熱板や筐体パネル等といったヒートシンクとなる部品(以下、単にヒートシンクという)との間に介在させるように配置して使用される。このように熱伝導シートを配置した場合、電子部品等が発生する熱をヒートシンク側へ良好に逃がすことができる。
【0003】
このため、この種の熱伝導シートは、例えばCPUの高速化等のために不可欠な素材として注目を集めている。また、上記熱伝導フィラーとして磁性体を使用すれば、その熱伝導シートを通過しようとする電磁波ノイズを吸収することができる。従って、このような熱伝導シートをCPU等の放熱用に使用すれば、同時にノイズ対策も行うことができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この種の熱伝導シートでは、熱伝導性を向上させるために一層多量の熱伝導フィラーを充填することが望まれる。しかしながら、一定量のシリコーンゴムに充填可能な熱伝導フィラーの量には限界があり、同じ物質を用いている限りは熱伝導シートの熱伝導性をある一定値以上に向上させることができなかった。
【0005】
また、シリコーンゴムに多量の熱伝導フィラーを充填すると、その熱伝導シートが非常に脆く(すなわち引裂強度が小さく)なり、薄い熱伝導シートの成形も困難となる。そこで本発明は、良好な熱伝導性を有すると共に、良好な引裂強度を有して薄膜成形も可能な熱伝導シートを提供することを目的としてなされた。
【0006】
また、この種の熱伝導シートでは、一方の面が他方の面に比べて粘着力の低い、いわゆる片面タック性を有することが望まれる。熱伝導シートがこのような片面タック性を有していると、熱伝導シートを所望の側から剥がすことができ、その熱伝導シートの着脱作業における作業性が向上する。しかしながら、熱伝導シートにこのような片面タック性を付与するためには、成形後に別工程を施す必要があった。
【0007】
そこで、発明は、上記目的に加えて、更に、製造が容易で良好な片面タック性を有する熱伝導シート、及びその熱伝導シートの製造方法を提供することを目的としてなされた。また更に、発明は、上記目的に加えて、電磁波ノイズを良好に吸収することのできる熱伝導シートを提供することを目的としてなされた。
【0008】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記目的を達するためになされた請求項1記載の発明は、流動性を有するシリコーンゴムに磁性体を含む熱伝導フィラーを充填し、混練・成形してなる熱伝導シートであって、上記シリコーンゴムに対して、Si−H基を有するシリコーンポリマーに硬化遅延物質を混合したものを3〜20wt%配合し、上記熱伝導フィラーが一方の面側に片寄って充填されたことを特徴としている。
【0009】
本願出願人は、流動性を有するシリコーンゴムに熱伝導フィラーを充填し、混練・成形して熱伝導シートを製造するに当たり、Si−H基を有するシリコーンポリマーに硬化遅延物質を混合したものを(通常のシリコーンゴムで一般的な硬化遅延剤が使用される量の約100倍の3〜20wt%)使用することによって熱伝導フィラーの充填性及びシートの引裂強度が向上することを発見した。
【0010】
これは、硬化遅延物質を多量に配合することによってシリコーンゴムの粘度が低下し、これによって熱伝導フィラーの充填性が向上する一方、その硬化遅延物質に混合されたSi−H基を有するシリコーンポリマーによってシリコーンゴムの架橋密度が向上し、引裂強度も向上したものと考えられる。
【0011】
従って、本発明の熱伝導シートは、熱伝導フィラーを多量に充填することによって良好な熱伝導性を呈することができ、良好な引裂強度を有して薄膜成形も可能である。例えば、従来は0.5mmの熱伝導シートを成形した場合、ガラスクロス等の網状の補強材を入れる必要があったが、本発明では、0.25mm等の薄膜でかつ充分な引裂強度・屈曲性・耐クラック性等を有する熱伝導シートが補強材を入れることなく得られる。
【0012】
更に、本発明は、上記構成に加え、上記熱伝導フィラーが一方の面側に片寄って充填されたことを特徴としている。
熱伝導フィラーが一方の面側に片寄って充填されると、その面は反対面に比べて粘着力が低下する。すなわち、本発明の熱伝導シートはいわゆる片面タック性を有している。また、このような片面タック性は、例えば次の請求項で述べるように、シートの一方の面を下方に向けて硬化させることによって容易に付与することができる。
【0013】
このように熱伝導シートが片面タック性を有していると、次のように熱伝導シートの着脱作業における作業性を向上させることができる。例えば、上記一方の面またはその反対面を電子部品等に被着することにより電子部品等とヒートシンクとの間に熱伝導シートを配設した後、上記電子部品等をヒートシンクから引き剥がしたとき、熱伝導シートが電子部品またはヒートシンクの所望の側に必ず付着するようにすることができる。また、熱伝導シートの両面にPETフィルム等を被着して使用時にがすようにした場合、PETフィルム等は必ず上記一方の面の側からがすことができる。
【0014】
従って、本発明では、上記効果に加えて、別工程を施すことなく熱伝導シートに片面タック性を付与して、その熱伝導シートの着脱作業における作業性を良好に向上させることができるといった効果が生じる。なお、本発明及び後述の請求項または記載の発明でいう硬化とは、ある程度の弾性を有するゴム状態となる場合も含む。
更に、本発明では、熱伝導フィラーが磁性体を含んでいるので、本発明の熱伝導シートを通過しようとする電磁波ノイズを吸収することができる。従って、本発明では、上記発明の効果に加えて、電子部品等の放熱用に使用した場合、同時にその電子部品等のノイズ対策も行うことができるといった効果が生じる。
【0015】
請求項記載の発明は、請求項記載の構成に加え、上記硬化遅延剤を上記熱伝導フィラーと共に上記シリコーンゴムに配合して、混練してシート状に成形した後、上記一方の面を下方に向けて硬化させることによって上記熱伝導フィラーを上記一方の面側に沈殿させ粘着力を低下させたことを特徴としている。
【0016】
硬化遅延剤を請求項1に関連して述べたように多量に使用すると熱伝導シートの硬化が大幅に遅延される。このため、上記硬化遅延剤を熱伝導フィラーと共にシリコーンゴムに配合して混練してシート状に成形した後、一方の面を下方に向けて硬化させれば、熱伝導フィラーは上記一方の面側に沈殿する。すると、上記一方の面はその反対面に比べて粘着力が低下し、前述のような片面タック性を極めて容易に付与することができる。従って、本発明では、請求項記載の発明の効果に加えて、製造を一層容易にしてその製造コストを一層低減することができるといった効果が生じる。
【0018】
請求項記載の発明は、請求項1または2記載の構成に加え、上記熱伝導フィラーがフェライトまたは磁性金属の少なくともいずれか一方を上記磁性体として含むことを特徴としている。
本発明では、上記熱伝導フィラーがフェライトまたは磁性金属の少なくともいずれか一方を上記磁性体として含んでいるので、電磁波ノイズを極めて良好に吸収することができる。従って、本発明では、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、電子部品等の放熱用に使用した場合、その電子部品等のノイズ対策を一層良好に行うことができるといった効果が生じる。
【0019】
請求項記載の発明は、流動性を有するシリコーンゴムに熱伝導フィラーを充填し、混練・成形して熱伝導シートを製造する熱伝導シートの製造方法であって、上記熱伝導フィラーと共に、Si−H基を有するシリコーンポリマーに硬化遅延物質を混合したものを3〜20wt%上記シリコーンゴムに配合して混練してシート状に成形した後、一方の面を下方に向けて硬化させることを特徴としている。
【0020】
このように、本発明では、流動性を有するシリコーンゴムに熱伝導フィラーを充填し、混練・成形して熱伝導シートを製造するに当たって、熱伝導フィラーと共にSi−H基を有するシリコーンポリマーに硬化遅延物質を混合したものを3〜20wt%シリコーンゴムに配合して混練してシート状に成形した後、一方の面を下方に向けて硬化させている。このため、熱伝導フィラーは上記一方の面側に沈殿し、その一方の面の粘着力が低下する。従って、本発明の方法では、請求項1〜3記載の片面タック性を有する熱伝導シートを容易に製造することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態では、以下の製造方法により熱伝導シートを製造した。先ず、液状シリコーンゴム,熱伝導フィラー,及び硬化遅延剤を混合することにより、シリコーンゴムに熱伝導フィラーを充填した。
【0022】
硬化遅延剤としては、Si−H基を有するものを使用し、その配合量を3〜20wt%とした。この種の硬化遅延剤としては、例えば、Si−H基含有オルガノハイドロジェンポリシロキサン等のシリコーンポリマーに、アセチルアルコール類,マレイン酸エステル類等の硬化遅延物質を混合したものが使用できる。
【0023】
また、上記液状シリコーンゴム,熱伝導フィラー,及び硬化遅延剤の混合法としては、真空脱泡ミキサー等の機械を用いて混練する方法の他、押し出し,2本ロール,バンバリーミキサー等の種々の方法を適用することができる。この内、ミキサーを使用して混練する場合、作業性が向上する点で望ましい。
【0024】
続いて、このように熱伝導フィラーを混練した液状シリコーンゴムをシート状に成形した。この成形の方法としては、コーター,カレンダロール,押し出し,プレス等の機械を用いて成形する方法等、種々の方法を適用することができるが、本実施の形態では次のようにロールを用いた成形機によって成形した。
【0025】
図2は、この種の成形機51の構成を概略的に表す説明図である。図2に示すように、この成形機51では、装置の上方に巻回保持されたPETフィルム91がロール53,55を介して搬送され、装置の下方に巻回保持されたPETフィルム93がロール57,59を介して搬送される。ロール55とロール59とは熱伝導シートの厚さに対応した隙間を開けて対向配置され、その間に搬送されるPETフィルム93の上には材料タンク61に設けられた材料注入口63から熱伝導シートの材料95(上記シリコーンゴム,熱伝導フィラー,硬化遅延剤を混練したもの)が供給される。
【0026】
すると、この材料95はロール55,59の間にPETフィルム91,93を介して挟まれることによってシート状に成形される。続いて、この材料95は、材料乾燥を行う常温の第1ゾーン71,加硫を行う第2ゾーン73,同じく加硫を行う第3ゾーン75,及び,更に同じく加硫を行う第4ゾーン77を経て搬送される。この間、材料95は一方の面(PETフィルム93が貼着された面)を下方に向けたまま略水平に搬送される。
【0027】
本実施の形態では、硬化遅延剤を前述のように多量に使用しているので、このように材料95の一方の面を下方に向けて硬化を行うと、硬化するまでの間に熱伝導フィラーがその一方の面側に沈殿する。この結果、得られた熱伝導シートは、図1に例示するように、基材としてのシリコーンゴム1の中に、熱伝導フィラー3が一方の面(図1の下方の面)側に片寄って充填された構造となる。すると、この面は反対面に比べて粘着力が低下し、熱伝導シートにいわゆる片面タック性が付与される。なお、この片面タック性の検証方法としては、ボーリングタック試験(ASTMD3121)を用いた。
【0028】
このように熱伝導シートが片面タック性を有していると、次のように熱伝導シートの着脱作業における作業性を向上させることができる。例えば、上記一方の面またはその反対面を電子部品等に被着することにより電子部品等とヒートシンクとの間に熱伝導シートを配設した後、上記電子部品等をヒートシンクから引き剥がしたとき、熱伝導シートが電子部品またはヒートシンクの所望の側に必ず付着するようにすることができる。また、本実施の形態の熱伝導シートには両面にPETフィルム91,93が被着されるが、使用時には必ずPETフィルム93からがすことができる。更に、このような片面タック性は、従来は別工程によって付与していたが、本実施の形態では、上記のように硬化中に片面タック性を付与することができる。
【0029】
従って、本実施の形態では、別工程を施すことなく熱伝導シートに片面タック性を付与して、その熱伝導シートの着脱作業における作業性を良好に向上させると共に製造コストも低減することができる。また、本実施の形態の熱伝導シートでは、熱伝導フィラーの充填性及び引裂強度が極めて向上していた。これは、硬化遅延剤を多量に配合することによってシリコーンゴムの粘度が低下し、これによって熱伝導フィラーの充填性が向上する一方、その硬化遅延剤が有するSi−H基によってシリコーンゴムの架橋密度が向上し、引裂強度も向上したものと考えられる。更に、前述のようにシリコーンゴムを低粘度化することにより、撹拌機羽等の摩耗量も低減することができる。
【0030】
また、本実施の形態における熱伝導フィラーとしてフェライトまたは磁性金属を使用すると、熱伝導シートを通過しようとする電磁波ノイズを吸収することができる。このような熱伝導シートでは、電子部品等の放熱用に使用した場合、放熱と同時にその電子部品等のノイズ対策も行うことができる。具体的には、熱伝導フィラーとしてフェライトのみを使用する場合、フェライトと磁性金属とを使用する場合、磁性金属のみを使用する場合が考えられ、それぞれの場合の代表的な配合は次のようである。
【0031】
フェライトのみを使用する場合
フェライト:75〜95wt%
シリコーン:4〜24.25wt%
硬化遅延剤:0.15〜5wt%
フェライトと磁性金属とを使用する場合
フェライト:1〜94wt%
磁性金属 :1〜94wt%
シリコーン:4〜24.25wt%
硬化遅延剤:0.15〜5wt%
磁性金属のみを使用する場合
磁性金属 :75〜95wt%
シリコーン:4〜24.25wt%
硬化遅延剤:0.15〜5wt%
更に、これらの熱伝導シートにおいて、硬化遅延剤の配合を種々に変化させて特性の変化を調べた。結果を表1に示す。なお、熱伝導フィラーとして上記のいずれを使用した場合にも硬化遅延剤の配合量(遅延剤量)と各種特性との対応関係はほぼ同様であった。
【0032】
【表1】
Figure 0003661859
【0033】
なお、表1において、◎は非常によい、○はよい、△は悪い、×は非常に悪い、を表す。表1に示すように、製造中(混練中)に硬化が始まるのを防止する遅延効果は硬化遅延剤を0.05wt%程度の微小量配合しただけでも発揮されるが、熱伝導フィラーの充填性向上に関する効果や、引裂強度向上に関する効果(補強効果)は、それぞれ1.0wt%または3.0wt%以上硬化遅延剤を配合しないと発揮されない。
【0034】
また、硬化遅延剤を33.3wt%以上配合すると、熱伝導シートが硬くなり過ぎて、タック性が低下すると共に折れやすくなってしまう。このため、硬化遅延剤の配合量は、3〜20wt%とするのが望ましい。この場合、0.25mm程度の薄膜状の熱伝導シートも成形可能となり、熱伝導シートの引裂強度・屈曲性・耐クラック性等も補強材を入れることなく良好に確保することができる。更に、この配合量では良好な片面タック性が得られる。
【0035】
なお、本発明は上記実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、熱伝導フィラーを熱伝導シートの片面に沈殿させるためには、プレス等の方法を用いてもよい。但し、上記ローラによる成型法はプレス等に比べてコスト的に有利である。また、熱伝導フィラーとしては炭化ケイ素等、他の熱伝導フィラーを使用することもでき、導電性の熱伝導フィラーを使用すれば電磁波シールドによってノイズ対策を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明が適用された熱伝導シートの構成を表す概略図である。
【図2】 ロールを用いた成形機の構成を表す概略図である。
【符号の説明】
1…シリコーンゴム 3…熱伝導フィラー 51…成形機
53,55,57,59…ロール 91,93…PETフィルム
95…材料

Claims (4)

  1. 流動性を有するシリコーンゴムに磁性体を含む熱伝導フィラーを充填し、混練・成形してなる熱伝導シートであって、
    上記シリコーンゴムに対して、Si−H基を有するシリコーンポリマーに硬化遅延物質を混合したものを3〜20wt%配合し、上記熱伝導フィラーが一方の面側に片寄って充填されたことを特徴とする熱伝導シート。
  2. 上記硬化遅延剤を上記熱伝導フィラーと共に上記シリコーンゴムに配合して、混練してシート状に成形した後、上記一方の面を下方に向けて硬化させることによって上記熱伝導フィラーを上記一方の面側に沈殿させ粘着力を低下させたことを特徴とする請求項記載の熱伝導シート。
  3. 上記熱伝導フィラーがフェライトまたは磁性金属の少なくともいずれか一方を上記磁性体として含むことを特徴とする請求項1または2記載の熱伝導シート。
  4. 流動性を有するシリコーンゴムに磁性体を含む熱伝導フィラーを充填し、混練・成形して熱伝導シートを製造する熱伝導シートの製造方法であって、
    上記熱伝導フィラーと共に、Si−H基を有するシリコーンポリマーに硬化遅延物質を混合したものを3〜20wt%上記シリコーンゴムに配合して混練してシート状に成形した後、一方の面を下方に向けて硬化させることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
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