JP3660978B2 - 抗健忘症ペプチド - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、健忘症の予防剤又は症状改善剤として有用な機能性ペプチドに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高齢化社会の到来により、老人性痴呆症や高コレステロール血症に由来する心血管疾患などの老人性疾患を、治療ないし予防することが求められている。従来、抗健忘症作用を有する物質として、鎮痛、麻酔等のオピオイド活性を有するペプチド(特開平9−227590)、プロリルプロリン誘導体(特開平8−3132)、プロリルエンドペプチダーゼ阻害活性を有するストレプトミセス属生物の発酵生産物BU−4164EA及びB(特開平6−279413)、プロリルエンドペプチダーゼ阻害作用を有するエンジュラシジンA(特開平5−301826)、アセチルコリンエステラーゼ阻害活性を有し、スコポラミン誘発健忘症モデルに対して活性を有するキノリン誘導体(特開平5−279355)、プロリルエンドペプチーゼ阻害作用を有し、ミクロビスボラ属微生物の発酵産生物であるペプチドSNA−115(特開平5−262795)等が知られている。
【0003】
他方、種々の疾病の予防あるいは治療に有用な機能性ペプチドについて様々な報告も近年数多くあり、本発明者らもGly−Tyr−Pro−Met−Tyr−Pro−Leu−Pro−Argで示される、米蛋白質に含まれる機能性ペプチドであるオリザテンシンが抗オピオイド活性、ファゴサイトーシス活性、インターロイキン1産生促進活性をもつことを報告した(特開平7−258288)。また、本発明者らは、牛乳カゼイン(κ−casein)のトリプシン消化物から得られ、補体C3aレセプターを介して回腸収縮活性、免疫促進活性を示す、抗オピオイドペプチドとして知られている、Tyr−Ile−Pro−Ile−Gln−Tyr−Val−Leu−Ser−Argで表されるカソキシン(Casoxin)Cの側脳室内投与によって、オピオイドの鎮痛作用を抑制すること、またスコポラミン誘発及び脳虚血による健忘にたいして改善効果示すことを報告した(Opioid Simposium 17,Supplement,96−100)。
【0004】
また、血清コレステロール低下作用を有する物質について、本発明者らは特開平11−292896において、X−Pro−Leu−Pro−Arg(XはLeu、Ile、Met、Phe、Trpである)で示されるペプチドが、血中コレステロールを低下させる作用を有することを報告している。また、4残基の回腸収縮ペプチドであるβ−ラクトテンシン(His−Ile−Arg−Leu)が、経口投与においてコレステロール低下作用を有することを見出している。また、ダイズ蛋白質由来の構造未知の高分子ペプチドが胆汁酸を吸着し、その再吸収を阻害することによってコレステロール低下作用を示すことが、知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらの知見にも関わらず、老化に伴う健忘症や高コレステロール血症の病態や発現態様には個人差が大きい事を考えると、より多くの抗健忘症作用やコレステロール低下作用を有する物質を得る事には意義がある。また、老人性疾患に有効な物質は長期間服用することが必要であることを考えると、経口投与が可能であることが望ましく、そのような特性を有する機能性ペプチドを提供することが本発明の課題である。また、健忘症に有効でありかつ血清コレステロールを低下させる機能性ペプチドは、これまで報告されていなかった。高齢化社会に対応するべく、抗健忘症作用と血清コレステロール低下作用とを併せ持つペプチドを提供することもまた、本発明の課題である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、procolipaseから派生する内因性ペプチドであるエンテロスタチン(Val−Pro−Asp−Pro−Arg)に注目した。当該ペプチドは、摂食抑制作用及びインスリン分泌抑制作用を示すことが知られており、更に本発明者らは、エンテロスタチンの新たな生理機能として、当該ペプチドが血清コレステロール低下作用を有することを見出して折り、1999年度の農芸化学会で報告している。そこで、エンテロスタチンのフラグメントペプチドもまた血清コレステロール低下作用を有しているか検討を行ったところ、Pro−Asp−Pro−Arg及びAsp−Pro−Argが、血清コレステロール低下作用を有していることを見出した。機能性ペプチドは短い程、生体内での分解を受けにくく、合成も容易となることから、より短い機能性ペプチドフラグメントを見出すことの意義は大きい。
【0007】
また、μ−オピオイドであるβ−カソモルフィネ(casomorphin)による摂食促進作用がエンテロスタチンにより阻害されることなどに知見により、エンテロスタチンがオピオイドレセプターの作用と拮抗する作用を有することが示唆された。オピオイドは学習阻害作用を有する為に、抗オピオイド作用という観点からエンテロスタチンが学習に及ぼす効果を検討したところ、エンテロスタチンが健忘症を改善する目的に対して有効であることを見出した。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、エンテロスタチン又はそのフラグメントペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、健忘症の予防剤又は症状改善剤である。即ち、Val−Pro−Asp−Pro−Arg、Pro−Asp−Pro−Arg、Asp−Pro−Arg又はcyclo(Asp−Pro)で表されるペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、健忘症の予防剤又は症状改善剤である。
【0009】
上記でいうValはバリン、Proはプロリン、Aspはアスパラギン酸、Argはアルギニンを示す。かかるアミノ酸はいずれもL−体である。
【0010】
本発明のペプチドは、ペプチド合成法で取得することができる。即ち、ペプチド合成に通常用いられる方法である液相法または固相法で、ペプチド結合の任意の位置で二分される2種のフラグメントの一方に相当する反応性カルボキシル基を有する原料と、他方のフラグメントに相当する反応性アミノ基を有する原料とを、2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)等の活性エステルを用いた方法や、カルボジイミドを用いた方法等を用いて縮合させることができる。生成する縮合物が保護基を有する場合、その保護基を除去することによっても製造し得る。
【0011】
この反応工程において反応に関与すべきでない官能基は、保護基により保護される。アミノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル(Bz)、t−ブチルオキシカルボニル(Boc),p−ビフェニルイソプロピロオキシカルボニル、9ーフルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)等が挙げられる。カルボキシル基の保護剤としては例えばアルキルエステル、ベンジルエステル等を形成し得る基が挙げられるが、固相法の場合は、C末端のカルボキシル基はクロロトリチル樹脂、クロルメチル樹脂、オキシメチル樹脂、P−アルコキシベンジルアルコール樹脂等の担体に結合している。縮合反応は、カルボジイミド等の縮合剤の存在下にあるいはN−保護アミノ酸活性エステルまたはペプチド活性エステルを用いて実施する。
【0012】
縮合反応終了後、保護基は除去されるが、固相法の場合はさらにペプチドのC末端と樹脂との結合を切断する。更に、本発明のペプチドは通常の方法に従い精製される。例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。
合成したペプチドの合成はエドマン分解法でC−末端からアミノ酸配列を読み取るプロティンシークエンサー、GC−MS等で分析される。
【0013】
次に医薬品として用いる場合について説明する。
本発明で使用するペプチドの投与経路としては、経口投与、非経口投与、直腸内投与のいずれでもよい。本発明の抗脱毛症剤は、経口的あるいは非経口的に投与することが可能である。本ペプチドの投与量は化合物の種類、投与方法、患者の症状、年齢等により異なるが、1日あたり通常は0.1mg/kg〜1000mg/kg、好ましくは1mg/kg〜100mg/kgである。本発明のペプチドは通常、製剤用担体と混合して調製した製剤の形で投与される。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明のペプチドと反応しない物質が用いられる。
【0014】
具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0015】
剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解または懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明のペプチドを水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0016】
これらの製剤は、本発明のペプチドを0.01%〜100重量%、好ましくは1〜90重量%の割合で含有することができる。これらの製剤はまた、治療上価値のある他の成分を含有していてもよい。
【0017】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸−メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、あるいはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0018】
経口投与用の液状製剤を製造するには、有効成分と白糖、ソルビトール、グリセリンなどの甘味剤とを水に溶解して透明なシロップ剤、更に精油、エタノールなどを加えてエリキシル剤とするか、アラビアゴム、トラガント、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを加えて乳剤又は懸濁剤としてもよい。これらの液状製剤には所望により矯味剤、着色剤、保存剤などを加えてもよい。
【0019】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ぶどう糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
【0020】
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
【0021】
皮膚用外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加えて必要ならば加湿して練合し軟膏剤とするか、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合した後ポリアルキルなどの不織布に展延してテープ剤とする。
【0022】
【実施例】
次に実例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(ペプチドの合成)
市販のFmoc−Arg(Pmc)−Wang樹脂(置換率0.50meq/g)0.60gをPS3型ペプチド合成機(Protein Technologies社製)の反応槽に分取し、新規ペプチドについて以下のように合成を行った。
まず、上記の樹脂を反応容器に入れて、1mmolのFmoc−Proと、活性化剤として、1mmolのHBTUを10mlの0.4M N−メチルモルフォリンを含むジメチルフォルムアミドに溶解したものを反応槽に加え、室温にて20分攪拌反応させた。
【0023】
得られた樹脂を20重量%ピペリジンを含むジメチルフォルムアミド20ml中で、Fmoc基を除去し、ついで上記のFmoc−Proをカップリングさせた方法と同様にC末端から順次Fmoc−アミノ酸をカップルさせて、Val−Pro−Asp(oBzl)−Pro−Arg(Pmc)−樹脂を得た。該樹脂を10mlの脱保護液(82容量%トリフルオロ酢酸、5容量%チオアニソール、3容量%エタンジオール、2容量%エチルメチルスルフィド、3容量%フェノール、5容量%水)中で室温にて4時間攪拌し、ペプチドを樹脂から遊離させた。
【0024】
ここに40mlの冷エーテルを添加し、ペプチドを沈殿させ、さらに冷エーテルにて3回洗浄し粗ペプチドを得た。これをODSカラム(Cosmosil5C18−AR,20×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1重量%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開、精製し、Val−Pro−Asp−Pro−Argを得た。
本品をプロテインシーケンサー(アプライド バイオシステムズ社製477A型)により分析した結果、上記の組成であることが判明した。
尚、Pro−Asp−Pro−Arg、Asp−Pro−Argについても、同様の手法により合成を行った。cyclo( Asp−Pro) の合成については以下に示す。
【0025】
10mmolのBoc−Asp(OBzl)とPro−OMeをジクロロメタンに溶解し、20mmolのジシクロヘキシルカルボジイミドおよびヒドロキシベンゾトリアゾールを添加して2時間反応させBoc−Asp(OBzl)−Pro−OMeを得た。これをトリフルオロ酢酸中でAsp(OBzl)−Pro−OMeに変換し、1M酢酸を含む2−ブタノール中で3時間環留することによってcyclo( Asp(OBzl)−Pro)を得た。これを白金黒存在下で水素還元することによcyclo( Asp−Pro)を得た。
【0026】
(抗健忘作用)
学習能に対するペプチドの効果を、ステップスル−装置を用いた受動的回避実験により検討した。ddyマウス(オス、体重24±2g)を明暗2室に分かれた装置の明室に入れると、マウスは暗いところを好ことから暗室に入る。暗室に入ると床から電気ショック(28−29V、5sec duration)を与えて、暗室が危険なことを教育する。24時間マウスを再び同じ装置に入れ明暗に止まっている時間を測定することにより、記憶の保持を評価した。訓練歩行30分前にスコポラミンの0.1mg/kgを腹腔内に投与することにより、スコポラミン健忘を誘発させた。訓練試行直後に100、50または25nmol/マウスの用量でペプチドを側脳質内または経口投与し、24時間後テスト試行を行った。
【0027】
スコポラミン誘発健忘に対して、エンテロスタチンを側脳質内投与(100nmol/マウス)した事が及ぼす影響を検討した、即ち、ケージの明室へ入れられたマウスが暗室へ移動するまでの時間(step−through latency:sec)を指標として、エンテロスタチンの抗健忘作用を検討した結果を図1に示す。マウスは暗室へ移動する性質を有しているが、学習により暗室が危険である事を記憶していると明室に留まるので、step−throughlatencyが長くなる。図1より、エンテロスタチンの投与によりstep−through latencyは回復していることから、スコポラミンによる健忘がコントロール並に改善されていることが示された。図1においてn=8であり、マン アンド ホイットニ−(Mann and Whitney)の有意差検定を行ったところ、5%の危険率でコントロールとACSF(人工脳脊髄液)は差が認められ、コントロールとエンテロスタチン投与群は差が認められなかった。
【0028】
更に、エンテロスタチン(Val−Pro−Asp−Pro−Arg)、Pro−Asp−Pro−Arg、Asp−Pro−Arg及びcyclo( Asp−Pro) について経口投与による抗健忘作用を検討した。その結果、それらはスコポラミン誘発健忘に対して有効であった。上記のペプチドが経口投与で抗健忘症作用を発現させる、最小用量を表1に示す。即ち、n=8において5%の危険率でstep−through latencyが回復する、ペプチドの最小用量を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
μ−オピオイドペプチドは抗鎮痛作用と共に、学習阻害効果を有することが知られている。それを考えると、エンテロスタチンの抗健忘作用はμ−オピオイドペプチドと拮抗することによりもたらされる可能性がある。尚、本発明者らは、上記のエンテロスタチン及びその誘導体ペプチドが、モルヒネによる抗鎮痛作用に拮抗するという知見を得ている。尚、κ−オピオイドやδ−オピオイドの鎮痛作用に対しては、本発明のペプチドは抑制作用を示さなかった。上記の知見は、本発明のペプチドの抗健忘作用は、μ−オピオイドレセプターを介している可能性を示している。
【0031】
(血清コレステロール低下作用)
ddyマウス(オス、体重20g)を予備飼育した後、高コレステロール、高コール酸食を与え、0日、1日目および2日目にサンプルを経口投与し、3日目に心臓採血した。37℃でインキュベート後、遠心により血清を採取し、酵素法にて総コレステロール濃度を測定した。また、ヘパリンを用いてLDLとVLDLを沈殿させることにより、HDLを分離し、HDLコレステロールを定量した。ヘパリン沈殿性リポ蛋白質(HPL)は、総コレステロールからHDLコレステロールを差し引くことにより求めた。高コレステロール・高コール酸食には0.6%のコレステロールと0.2%のコール酸を含有しており、餌の組成については表2に示した。LDLとVLDLが含まれるHPLの値は、虚血性心疾患の発生に、特に関係が深いと言われている。
【0032】
【表2】
【0033】
血清総コレステロール値及びヘパリン沈殿性リポ蛋白質の値に対して、PDPR(Pro−Asp−Pro−Arg)が及ぼす影響を図2に、DPR(Asp−Pro−Arg)が及ぼす影響を図3に、それぞれ示す(n=8)。その結果、両ペプチドとも、100mg/kgの投与で、総コレステロール値及びヘパリン沈殿性リポ蛋白質値について、5%の危険率でコントロールと有意差を認めた。即ち、血清総コレステロール値で20〜30%、ヘパリン沈殿性リポ蛋白質の値で30〜40%の低下が認められ、血清脂質の改善にこれらのペプチドが、経口投与で有効であることが示された。機能性ペプチドは生体内における安定性と合成の容易という意味で、より短いことが好ましいので、エンテロスタチンのフラグメントが経口で有効であることの意義は大きい。尚、抗健忘症作用を有するペプチドと、血清コレステロール低下作用を有するペプチドのスペクトルは異なっていたために、抗健忘症作用と血清コレステロール低下作用は、異なった機構を介していると考えられる。
【0034】
【発明の効果】
エンテロスタチン(Val−Pro−Asp−Pro−Arg)及びそのフラグメントペプチド(Pro−Asp−Pro−Arg、Asp−Pro−Arg、cyclo( Asp−Pro) )は抗健忘作用を有しており、健忘症の予防剤又は症状改善剤として有用な機能性ペプチドが、本発明により与えられた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、スコポラミン健忘に対して、エンテロスタチンが及ぼす効果を示す図である。
【図2】 図2は、PDPRが血清コレステロール値の低下に及ぼす影響を示す、グラフである。
【図3】 図3は、DPRが血清コレステロール値の低下に及ぼす影響を示す、グラフである。
Claims (4)
- Val−Pro−Asp−Pro−Argで表されるペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、健忘症の予防剤又は症状改善剤。
- Pro−Asp−Pro−Argで表されるペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、健忘症の予防剤又は症状改善剤。
- Asp−Pro−Argで表されるペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、健忘症の予防剤又は症状改善剤。
- cyclo(Asp−Pro)で表されるペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、健忘症の予防剤又は症状改善剤。
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