JP3657294B2 - プラスチック光ファイバ母材の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、プラスチック光ファイバの母材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コア部及びクラッド部が共にプラスチックから構成されるプラスチック光ファイバは、ガラスファイバに比べ加工や取扱いが容易で低コストであるため、その伝送損失が実質的に問題にされない程度に短距離の光伝送路等として、多用されている。このような特徴を有するプラスチック光ファイバは、LAN(local area network)、ISDN(integrated service digital network)等の次世代通信網構想において、その重要性が増大してきている。
【0003】
プラスチック光ファイバとしては、図10に模式的に示すように、階段状に変化する屈折率分布を有するステップインデックス型(SI型)ファイバが既に実用化されている。このSI型ファイバは、極く短距離の伝送用として、電子機器内部の部品同士の伝送用等に用いることができるが、伝送容量が少ないため、通信用としては必ずしも適していない。
【0004】
上記SI型ファイバに比較して時間当りの情報量を多量に送ることが可能(伝送容量が多い)で、通信用光伝送路としてより好適な特性を有する光ファイバとして、図11に模式的に示すように、半径方向に変化するコア部屈折率分布を有するグレーデッドインデックス(GI)型光ファイバが提案されている。
【0005】
GI型のプラスチック光ファイバを作製するには、あらかじめ屈折率分布を持ったプラスチック光ファイバ母材を作製しこれを線引する方法によれば、曲げ損失の少ないファイバを簡便に製造できる。そして、このような母材を製造する方法としては、特開平2−16504に記載されているように、屈折率の異なる2種以上の重合性混合物の積層状物を同心円状に押し出す方法がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許に開示された方法は積層押し出し法であるため、屈折率の異なる層は多くとも10層程度しか形成できない。従って、屈折率分布は階段状を呈することになり、このような方法では、図11に示すような、中心部から半径方向外側に向かって降下する滑らかな屈折率分布を有する母材を作製することができない。
【0007】
また、このような方法を利用して、押し出し後にモノマーを各層間で拡散させることにより、連続した滑らかな屈折率分布を得る方法もあるが、この場合には工程数が増加し、その結果、生産性が損なわれる。更に、この場合は、コア部とクラッド部との屈折率の差を充分大きくとれない。従って、この母材製造方法で製造された母材を線引しても、曲げ特性の優れたファイバを得ることはできない。
【0008】
従って、本発明は、コア部とクラッド部との屈折率の差が充分大きく且つ滑らかな屈折率分布を有するプラスチック光ファイバ母材を生産性良く容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記問題を解決するプラスチック光ファイバ母材の製造方法を実現するに当たり、屈折率の高いポリマーから成るロッドの上に屈折率が漸次低くなる多数の層を形成する手法を用いることにより、プラスチック光ファイバ母材を製造することを考えた。そして、実験と試作を重ねた結果、このような手法において各層の形成にはモノマーを重合する重合法を採用することが、上記目的を実現する製造方法を提供することに極めて効果的であることを見出だした。
【0010】
従って、本発明のプラスチック光ファイバの母材の製造方法は、(1)略円柱形状の部分を有し屈折率nを有するポリマーから成る1つのコア中心部に対し、(a)中空の略円筒形状である複数の第1の数iの個数の第1コア部製造モールド(M(1)〜M(i))であって、内径に関して、コア中心部の直径より大きく且つ1<a≦iの数aに対して(M(a−1)の内径)≦(M(a)の内径)の関係をもつ第1コア部製造モールド(M(1)〜M(i))と、(b)屈折率上昇剤をモノマーに添加した第1の数iの個数のモノマー屈折率上昇剤混合液(S(1)〜S(i))であって、重合した際の屈折率に関して、1<a≦iの数aに対してn≧(S(a−1)の屈折率)≧(S(a)の屈折率)の関係をもつモノマー屈折率上昇剤混合液(S(1)〜S(i))とを用いて、1≦x≦iの数xに対して、コア中心部を含む部材を第1コア部製造モールドM(x)の中空部中央に配置して該部材と第1コア部製造モールドM(x)との間に画成された空間に、モノマー屈折率上昇剤混合液S(x)を投入し重合させてx番目の層を形成する操作を、数xに関して1からiまで順に行い、コア中心部の側面表面上に、第1の数iの層から成り且つ半径方向外向きに屈折率が減少する屈折率分布を有する第1コア部を形成する第1のステップと、(2)第1コア部が形成された1つの部材に対し、(c)中空の略円筒形状である複数の第2の数jの個数の第2コア部モールド(N(1)〜N(j))であって、内径に関して、第1コ000000ア部最外層の直径よりも大きく且つ1<b≦jの数bに対して(N(b−1)の内径)≦(N(b)の内径)、の関係をもつ第2コア部製造モールド(N(1)〜N(j))と、(d)屈折率降下剤をモノマーに添加した第2の数jの個数のモノマー屈折率降下剤混合液(T(1)〜T(j))であって、重合した際の屈折率に関して、1<b≦jの数bに対して(T(b−1)の屈折率)≧(T(b)の屈折率)、の関係をもつモノマー屈折率降下剤混合液(T(1)〜T(j))とを用いて、1≦y≦jの数yに対して、第1コア部を含む部材を第2コア部製造モールドN(y)の中空部中央に配置して該部材と第2コア部製造モールドN(y)との間に画成された空間に、モノマー屈折率降下剤混合液T(y)を投入し重合させてy番目の層を形成する操作を、数yに関して1からjまで順に行い、第1コア部最外層の側面表面上に、第2の数jの層から成り且つ半径方向外向きに屈折率が減少する屈折率分布を有する第2コア部を形成する第2のステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
この方法によれば、屈折率上昇剤をモノマーに添加した混合液を充填し重合させて、屈折率の充分に高いコア中心部の上に外側に向かって漸次屈折率が低下する第1コア部を形成した後、その上に屈折率降下剤をモノマーに添加した混合液を充填し重合させて、外側に向かって更に漸次屈折率が低下し充分に低い屈折率をもつコア最外殻を有する第2コア部を形成することにより、コア中心部とコア最外殻との屈折率の差が充分大きく且つ滑らかな屈折率分布をもつプラスチック光ファイバ母材を得ることが可能となる。また、各層の形成には、作業性が悪くまた反応に時間のかかるCVDや溶液塗布乾燥法を用いず、簡便で反応に要する時間の比較的短い重合法を用いているため、作業性が良好で時間のかからない方法で、プラスチック光ファイバ母材を製造することが可能となる。
【0012】
また、屈折率降下剤の中でも著しく屈折率を下げる効果のある弗素化合物は稀少でありそのため高価でもあるが、これを厚いクラッド部に用いるのではなく、本発明のように薄い層に用いて第2コア部を形成して、コア最外殻の屈折率がクラッド部よりも低くなるような屈折率分布を成すことにより、稀少な物質を大量に消費することなく屈折率差が充分大きなプラスチック光ファイバ母材を量産できるようになる。
【0013】
尚、本発明では、屈折率上昇剤を添加したポリマーから成るコア部を第1コア部、屈折率降下剤を添加したポリマーから成るコア部を第2コア部、第1コア部がその外側に形成される第1コア部の内側の部分をコア中心部と称する。また、円柱形状とは、特に中空部分のない円筒形状を指す。
【0014】
また、本発明によるプラスチック光ファイバ母材の製造方法は、第1のステップが、全ての第1コア部製造モールド(M(1)〜M(i))の直径よりも小さな内径を有する中空の略円筒形状であるコア中心部製造モールドの中空部分に、モノマーと屈折率上昇剤とを含有する混合物を投入し重合させることにより屈折率nを有するコア中心部を作製するコア中心部製造操作を含むことを特徴としてもよい。
【0015】
また、本発明によるプラスチック光ファイバ母材の製造方法は、コア部をコア部の直径より大きな内径を有する中空の略円筒形状であるクラッド部製造モールドの中空部中央に配置し、コア部とクラッド部製造モールドとの間に画成された空間に、モノマーを投入し重合させコア部の円筒側面表面上にクラッド部を形成する第3のステップを更に含むことを特徴としてもよく、又は、コア部をコア部の直径より大きな内径を有する中空の略円筒形状であるクラッド部製造モールドの中空部中央に配置し、コア部とクラッド部製造モールドとの間に画成された空間に、重合した際屈折率n1 よりも屈折率が小さくなる比率で屈折率上昇剤をモノマーに添加したモノマー屈折率上昇剤混合液を投入し重合させコア部の円筒側面表面上にクラッド部を形成する第3のステップを更に含むことを特徴としてもよい。
【0016】
また、本発明によるプラスチック光ファイバ母材の製造方法は、第1のステップ、第2のステップ又は第1のステップ及び第2のステップのいずれかにおいて、投入後に第1コア部製造モールド、第2コア部製造モールド又は第1コア部製造モールド及び第2コア部製造モールドを中空部の長手軸を中心に回転させて重合を行うことを特徴としてもよい。尚、本発明における長手軸とは、円筒又は円柱を回転体と見たときに、その回転軸のことである。
【0017】
また、本発明によるプラスチック光ファイバ母材の製造方法は、第3のステップにおいて、投入後にクラッド部製造モールドを中空部の長手軸を中心に回転させて重合を行うことを特徴としてもよい。
【0018】
また、本発明によるプラスチック光ファイバ母材の製造方法は、モノマーがメタクリル酸メチルを含むことを特徴としてもよい。
【0019】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0020】
(モノマー又は係るモノマーを重合したポリマー)
公知の透明なポリマーを特に制限なく用いることができるが、例えば、メタクリル酸メチルのホモポリマー(ポリメタクリル酸メチル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとフェニルエステルとのエステル交換反応により生成されるポリカーボネート、並びに、メタクリル酸と、次に挙げる他のモノマーとの透明な共重合体が、好適に使用可能である。この他のモノマーとは、例えば、単官能性の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸弗化アルキル、多官能性のアクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類、スチレン、スチレンの塩化物等が使用可能である。更に好適な材料は、ポリメタクリル酸メチル(屈折率n=1.490)並びに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとフェニルステルとのエステル交換反応により生成されるポリカーボネート(屈折率n=1.59)である。
【0021】
(屈折率上昇剤)
本発明では、係るモノマーに添加した混合物を重合させた際、モノマーのみの重合物の屈折率よりも高い屈折率を与える添加剤を、屈折率上昇剤と称する。所望の屈折率分布を与え、且つ上記ポリマーと安定に共存することが可能である限り、屈折率上昇剤の分子量は特に制限されない。また、屈折率上昇剤自体が重合性の官能基(例えば、ビニル基等の不飽和結合を有する官能基等)を有していてもよい。即ち、屈折率上昇剤は、単量体ないしその混合物であってもよく、またオリゴマーないしポリマーであってもよい。メタクリル酸メチル(屈折率n=1.490)がモノマーとして用いられた場合、コア部には、好適には以下に挙げるような屈折率上昇剤を添加したポリメタクリル酸メチルが用いられる。この屈折率上昇剤には、例えば、フタル酸ブチルベンジルエステル(屈折率n=1.536)、酢酸2−フェニルエチル(n=1.51)、フタル酸ジメチル(n=1.515)、ジフェニルスルフィド(n=1.635)、安息香酸ビニル(n=1.577)、ベンジルメタクリレート(n=1.568)、フタル酸ジアリル(n=1.518)等が好適に使用可能である。尚、上記した中で、安息香酸ビニル、ベンジルメタクリレート、フタル酸ジアリルは、重合性の官能基を有する屈折率上昇剤である。
【0022】
(屈折率降下剤)
本発明では、係るモノマーに添加した混合物を重合させた際、モノマーのみの重合物の屈折率よりも低い屈折率を与える添加剤を、屈折率降下剤と称する。所望の屈折率分布を与え、且つ上記ポリマーと安定に共存することが可能である限り、屈折率上昇剤の場合と同様に、屈折率降下剤の分子量は特に制限されない。また、屈折率降下剤自体が重合性の官能基(例えば、ビニル基等の不飽和結合を有する官能基等)を有していてもよい。即ち、屈折率降下剤は、単量体ないしその混合物であってもよく、またオリゴマーないしポリマーであってもよい。メタクリル酸メチル(屈折率n=1.490)がモノマーとして用いられた場合、コア部には、好適には以下に挙げるような屈折率上昇剤を添加したポリメタクリル酸メチルが用いられる。この屈折率降下剤には、例えば、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、(屈折率n=1.361)、酢酸ヘキシル(n=1.408)、フタル酸ビス(3,5,5−トリメチルヘキシル)(n=1.478)、フタル酸ビス(2−メチルヘキシル)(n=1.486)等が好適に使用可能である。尚、上記した中で、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートは重合性の材料である。
【0023】
(母材の分子量)
本発明においては、光ファイバ母材線引の際の作業性(線引時の断線防止、ないし母材加熱時の硬さ)の点からは、該母材のコア部とクラッド部とを構成する高分子の、GPC(gel permeation chromatography )による重量平均分子量が、10, 000以上300, 000以下であることが好ましく、更には30, 000以上250, 000以下(特に50, 000以上200, 000以下)であることが好ましい。
【0024】
光ファイバ母材のコア部とクラッド部とを構成する高分子の重量平均分子量は、例えば、以下のようにして測定することが可能である。
【0025】
(重量平均分子量の測定方法)
平均分子量を測定すべきプラスチック光ファイバ母材の全体を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解して、濃度が0.1mg/ml程度のTHF溶液とする。
【0026】
このようにして得たTHF溶液を、必要に応じてメンブレン・フィルター(例えば、ミリポア社のメンブレン・フィルター)を通過させた後、GPC測定系に導入してGPC分析を行い、該GPC分析結果に基づき光ファイバ母材の重量平均分子量を求める。このGPC分析の際には、例えば、以下の測定条件が好適に用いられる。
【0027】
本発明に用いることのできる母材の分子量は、特に制限されないが、光ファイバ母材線引の際の作業性(線引時の断線防止、ないし母材加熱時の硬さ)の点からは、コア部を構成する高分子の重量平均分子量(MR )は、10, 000以上300, 000以下であることが好ましい。また、クラッド部を構成する高分子の重量平均分子量(MD )も、10, 000以上300, 000以下であることが好ましい。このようなコア部またはクラッド部の重量平均分子量も、上記した母材全体の重量平均分子量と同様に測定することが可能である。
【0028】
光ファイバ母材線引の際の作業性(線引時の断線防止、ないし母材加熱時の硬さ)の点からは、上記MR とMD との比MD /MR は、0.8〜1.2程度、更には0.9〜1.1程度であることが好ましい。
【0029】
本発明において、上記分子量を得るための方法は特に制限されないが、例えば、コア部および/又はクラッド部の重合を、重合開始剤および/又は重合反応を停止させる連鎖移動剤の存在下に行うことにより、更には、該重合開始剤および/又は連鎖移動剤の量を調整することにより、前記した特定の分子量を得ることができる。
【0030】
(重合反応)
例えば、モノマーにメタクリル酸メチルを用いた場合、好適には、O−O結合を有する過酸化物やアゾ系化合物等を開始剤とするラジカル重合が用いられる。この開始剤には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の、約40℃〜約100℃で有効にラジカルを解離するいわゆる中温開始剤が好適に使用可能である。従って、このような中温開始剤を用いた場合、重合反応の温度条件は、好適には約40℃〜約100℃である。重合反応速度は、反応熱や反応自体による膨脹収縮によって重合反応中若しくは反応後ポリマーにクラック等が生じないように、並びに、反応熱によってメタクリル酸メチルモノマーが反応中に沸騰することのないように調節される必要があり、これは重合温度と開始剤添加量との組み合わせにより調節可能である。該開始剤の添加量は、約40℃〜約100℃において、モノマーに対して0.001〜10重量%程度、更には0.01〜0.3重量%程度(特に0.05〜0.15重量%程度)であればよい。例えば、メタクリル酸メチルに0.1重量%の過酸化ベンゾイルを添加し70℃で重合反応を行えば、クラック等を生じず且つモノマーの沸騰を起こさずにポリマーを生成することができる。尚、このような熱エネルギーによる塊状重合以外にも、光エネルギーを用いた塊状重合等も使用可能である。また、メタクリル酸メチル以外のモノマーを用いた場合でも、同様に、温度等の入力エネルギー量と濃度との組み合わせにより、重合反応速度を調節することが可能である。
【0031】
また、クラッド部、コア部の重合の際必要に応じて使用される連鎖移動剤は、上記したプラスチック母材としての重量平均分子量10, 000〜300, 000を与える限り特に制限されず、公知の連鎖移動剤から適宜選択して使用することが可能である。このような公知の連鎖移動剤としては、例えば、ベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化物;ブチルメルカプタン等のメルカプト系化合物(−SH基を有する化合物)が挙げられる。
【0032】
(母材製造装置及び回転数)
プラスチック光ファイバ母材及びモールドを一体で回転可能で、且つ温度制御の機能をもつ加熱手段を有する装置であれば、形態を問わず、本発明に好適に使用できる。但し、重合反応には、空気中の酸素に反応の進行が阻害される場合もあるため、母材をモールドに挿入して設置する際、その両端を封止できる必要がある。
【0033】
上記重合反応の際、母材及びモールドを回転させる場合は、回転数が約10, 000rpm以下(特に、約100rpm〜約5, 000rpm)であることが好ましい。
【0034】
(モールド)
第1コア部、第2コア部、クラッド部及びコア中心部のそれぞれの製造に用いられるモールドは、中空の円筒形状であればよく、ガラス等様々な材料が使用可能である。第1コア部製造モールド及び第2コア部製造モールドは、それぞれ、多数の層の形成に対応して、内径の異なる多数のモールドを用いる必要がある。また、第2コア部製造モールドの中で最大内径のモールドを、コア部を形成するポリマーであってクラッド部に好適な屈折率を有するポリマーの材質のものとし、第2コア部形成終了後モールドを脱型せずにそのままコラプスして、これをクラッド部としてもよい。
【0035】
(線引方法)
次に、光ファイバ母材を光ファイバに線引する方法について説明する。
【0036】
本発明の方法により製造された母材の線引に使用可能な、図9の模式断面図(縦断面図)を参照しつつ説明する。なお、以下の図面においては、説明の便宜のため、実際とは若干異なる縮尺を用いる場合がある。
【0037】
図9に示されるように、この態様のプラスチック光ファイバの線引装置910は、線引炉912と、外径モニタ914と、巻き取り手段916とから構成される。
【0038】
線引炉912は、金属製のカバー920と、該カバー920の上下にそれぞれ配置された上部円筒928と下部円筒932とからなるハウジングを有する。線引炉912は、上記ハウジングと、その内部に配置された円管状の炉芯管922と、該炉芯管922の外側に配置されたヒータ924と含む。
【0039】
上記構成を有する線引装置910を用いて円筒形状のプラスチック光ファイバ母材926を線引する場合、該母材926は、後述するネックダウン部927を与えるべきその先端部分を下にして、上部円筒928から下方へ向かうように炉芯管922の内側に挿入され、線引炉912内に配置される。
【0040】
線引された母材の一部(すなわち、光ファイバ)が巻き取り手段916により巻き取られることにより、図9に示すように、光ファイバ母材926は加熱によって生じたネックダウン部927を下にして線引炉912内に配置されることとなる。
【0041】
上記プラスチック光ファイバ母材926は、通常はカバー920に完全に包囲されず、一部が上部円筒928の上方に突き出たまま残った状態となっている。線引炉912内の気密性を保つために、上部円筒928の上面は、プラスチック光ファイバ母材926の外径とほぼ同等の大きさの穴を有するリング930により、シールされている。一方、下部円筒932の下面には、金属製のシャッター934が備えられており、該シャッター934の中心付近には、線引されたファイバが通過可能なように、小さな開口が設けられている。
【0042】
上記した図9の線引装置を用いた場合、プラスチック光ファイバ母材926はヒータ924によって加熱され、一方、不活性なガスは、リング930を通過して線引炉912内へ供給され、矢印929に沿って炉芯管922内部を流れ母材926と接触する。加熱されて溶融した母材926は、所定の速度で紡糸されてプラスチック光ファイバ938となり、上記シャッター934の開口部を通過し、外径モニタ914を通過してその外径が測定された後、巻き取り手段916に巻き取られる。
【0043】
以下、実施例、比較例により本発明を更に具体的に説明する。
【0044】
【実施例】
以下、必要に応じて添付した図面を参照しつつ、実施例により本発明を更に詳細に説明する。尚、添付した図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略した。
【0045】
図1は、本発明に好適に使用されるプラスチック光ファイバ母材の製造装置の斜視図である。図1に示されるように、製造装置100は、台102と、モールド収容部104とにより構成される。モールド収容部104には、2台のモールド組み立て体108a、bが収容され、それぞれモータ106a、bに接続されて回転可能な状態にある。底面部を持たないモールド収容部104は、台102の上面が無い部分の上に設置される。モールド収容部104の下方の台102の底面には、ヒータ110(点線で図示)が配置される。従って、ヒータ110とモールド組み立て体108a、bとの間には遮るものが存在せず、モールド組み立て体108a、bは、ヒータ110から直接加熱される。ヒータ110は、温度制御の機能を有している。
【0046】
以下、構成の同一な左右のモールド組み立て体108a及びbのうち、108aに関して説明する。
【0047】
図2は、モールド組み立て体108の断面図である。図1及び図2に示されるように、モールド組み立て体108は、円筒状のガラス製モールド120と、両側に1個づつの円柱状のテフロン製チャック122、123及びカバー124、125とから成り、内部に母材126を包含する。モールド組み立て体108は、以下のようにモールド収容部に保持される。モールド組み立て体108の片方の端のチャック122は、モータ106の駆動を伝える軸128に固定された支持円筒132に係合し、他方の端のチャック123は、軸受け130に挿入された軸129に固定された支持円筒133に係合する。即ち、モールド組み立て体108は、モータ106の駆動によって回転可能な状態で、その両端で支持されてモールド収容部104に保持される。
【0048】
図2に示されるように、チャック122及び123はそれぞれ、一方の底面の中心に母材126と同じ直径の窪み134及び135を有し、母材126がこれら窪み134及び135に係合される。更に、モールド120は、チャック122及び123にそれぞれ固定されたカバー124及び125に挿入されることにより、チャック122及び123の中心と同じ中心をもつように保持される。従って、モールド120と母材126とは、同じ中心軸を有するように、モールド組み立て体108内に固定されている。即ち、母材126をこのようなモールド組み立て体108内に設置することで、モールド120と母材126との間には、均一な厚さの円筒状の空間140が形成される。
【0049】
図2に示されるように、チャック122及び123には、組み立てた時に空間140に通じるように、注入ベント用開口(点線で図示)142及び143が形成されている。組み立て体108を収容部104に設置する前に、モノマー等がこの開口の一方より注入され、同時に、空間140内の空気が他方の開口より押し出され、空間140はモノマー等によって充填される。
【0050】
実施例1
図3は、本実施例に係るプラスチック光ファイバの工程図であり、製造の各工程におけるプラスチック光ファイバ母材の側面図である。尚、工程毎の変化をわかり易く表現するため、図3では厚さの尺度を実際より誇張して描いている。本実施例では、図1及び図2に示すプラスチック光ファイバ母材製造装置を用い、モノマーにメタクリル酸メチル、屈折率上昇剤にフタル酸ブチルベンジルエステル、屈折率降下剤に酢酸ヘキシルを用いて、GI型プラスチック光ファイバ母材を作製した。尚、図1に示されるプラスチック光ファイバ母材製造装置は、以後全ての実施例及び比較例において使用される。
【0051】
本実施例では、以下のようにプラスチック光ファイバ母材を作製した。図1及び図3を参照して、工程を説明する。先ず、フタル酸ブチルベンジルエステルを含有したポリメタクリル酸メチルから成る直径5mmの円柱形状のロッド302を用意した(図3(a)参照)。このロッドの屈折率は、1.51であった。このロッド302をコア中心部として用いる。また、第1コア部製造のための内径の異なる20個の第1コア製造モールドM(1)〜M(20)と、第2コア部製造のための内径の異なる3個の第2コア製造モールドN(1)〜N(3)と、クラッド部製造用のクラッド部製造モールドとを、それぞれ用意した。これらのモールドは、全てガラス製の中空円筒であった。尚、これらのモールドに与えられた番号、即ち第1コア部用は1〜20、第2コア部製造用は1〜3の番号は、内径の小さい順に付されている。
【0052】
以下に示すように、第1コア部を形成した。図1及び図2によれば、母材126(本明細書の実施例において、少なくともコア中心部を有するものを総称して母材と称する)をモールド組み立て体108に設置した。即ち、母材126(この場合はコア中心部302)を第1コア部製造モールドM(1)120に挿入し、これらの両端にチャック122及び123を係合させ、カバー124、125を配してモールド組み立て体108を形成した。このとき、母材126とモールド120との間には、円周方向及び長手方向にわたって一定の幅を有する円筒状の空間140が形成されている。次いで、この空間140内に、メタクリル酸メチル100部(重量基準、以下同じ)にフタル酸ブチルベンジルエステル70部を加えた混合液S(1)に、混合液中のメタクリル酸メチルの重量に対して重量比で0.1%の過酸化ベンゾイルを混合して注入し空間140に充填する。注入が終了した後、モールド組み立て体108を製造装置100に設置し、ヒータ110を70℃の温度に設定して作動させ、同時にモータ106を作動させてモールド組み立て体108を約1000rpmで回転させた。この状態で加熱及び回転を続け、母材のコア中心部の上に第1コア部の第1層304を形成した(図3(b1)参照)。第1層形成の重合反応が完全に終了し、即ち硬化が完了した後これを製造装置から取り外して、モールドから第1コア部の第1層304が形成された母材を脱型し、この母材を第1コア部製造モールドM(2)の中空の中心部に配置されるように、製造装置のモールド組み立て体108に設置する。そして、上記のメタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルとの混合液S(1)にメタクリル酸メチルを少量加えて僅かに希釈し新たに調製した混合液S(2)に、混合液中のメタクリル酸メチルの重量に対して重量比で0.1%の過酸化ベンゾイルを混合して、母材とモールドとの間に形成された空間に注入し、先程と同様に、加熱回転して重合を行った。これと同様の操作を、第1コア部製造モールドM(3)〜M(20)まで、徐々に希釈した混合液S(3)〜S(20)を順に1つずつ用いて行い、第1層の上に、徐々に屈折率が低くなる順に、第3層から第20層までを形成して、第1コア部305を形成した(図3(bi)参照、本実施例では、i=20)。第1コア部第20層、即ち第1コア部の最外殻の屈折率は、1.49であった。
【0053】
次に、上述した第1コア部の形成方法と同様に、第2コア部を形成した。即ち、図2に示されるように母材126を第2コア部製造モールドN(1)120に挿入し、これらの両端にチャック122及び123を係合させてモールド組み立て体108を作製した。即ち、ロッド126とモールド120との間には、円周方向及び長手方向にわたって一定の幅を有する円筒状の空間が形成されている。母材126と第2コア部製造モールドN(1)との間に形成された空間に、メタクリル酸メチル100部に対して酢酸ヘキシルを加えた混合液T(1)に、メタクリル酸メチルの重量に対して過酸化ベンゾイルを0.1%添加して注入した。注入の終了後、製造装置を70℃に加熱し、モールド組み立て体108を約1000rpmで回転させた。この状態で、約12時間加熱及び回転を続け重合反応を完結させて、第1コア部305の上に第2コア部の第1層306を形成した(図3(c1)参照)。そして、このメタクリル酸メチルと酢酸ヘキシルとの混合液に酢酸ヘキシルを添加して徐々に希釈した混合液T(2)〜T(3)及びN(2)〜N(3)までの第2コア部製造モールドを、1つずつ順に用いて、第2コア部第1層の形成と同様に、徐々に屈折率が低くなる順に、第2層から第3層までを形成して、第2コア部307を製造した(図3(cj)参照、本実施例では、j=3)。第2コア部第3層、即ち第2コア部最外殻の屈折率は、1.41であった。このように、内径5mmのコア中心部の半径方向に向かって第1コア部と第2コア部とを形成して作製されたコア部の直径は40mmであった。
【0054】
そして、このように形成されたコア中心部302と第1コア部305と第2コア部307とから成るコア部の上に、これらコア部の各層の形成と同様の方法で、クラッド部308を形成した。即ち、コア部が形成された母材を製造装置のモールド組み立て体108に設置し、母材がモールドの中空の中心部に配置されるように、クラッド部製造モールドを母材の外側に配した。そして、母材とモールドとの間に形成された空間に、メタクリル酸メチルに過酸化ベンゾイルを0.1重量%添加して注入し、70℃の温度に加熱し4000rpmの回転数でモールド組み立て体108を回転させ、重合を行い、クラッド部308を形成した(図3(d)参照)。クラッド部を形成後の母材の直径は、50mmであった。ここで、プラスチック光ファイバ母材の製造工程は終了した。
【0055】
以上のように形成されたプラスチック光ファイバ母材の屈折率分布を、プリフォームアナライザ法(測定装置:ヨーク社製、商品名:P−101、以下、全ての実施例及び比較例の屈折率分布測定において、この方法及び装置を用いる)により調べたところ、図4のような滑らかな屈折率分布を有することが明らかになった。
【0056】
また、母材の全体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解してGPC分析を行い、該GPC分析結果に基づき母材の重量平均分子量を求めたところ、該分子量は50, 000であった。
【0057】
そして、このプラスチック光ファイバ母材を、図9に示した線引装置を用いて線引して、直径650μmのプラスチック光ファイバを作製した。このプラスチック光ファイバを直径10mmのマンドレルに巻き付けた状態で、まきつけ法により(測定装置名:AQ−6315B 光スペクトラムアナライザ(安藤電気社製)、以下、全ての実施例及び比較例における曲げ損失の測定にこの方法及び装置を使用)曲げ損失を測定した。このときの曲げ損失の値は、0.6dBであった。
【0058】
尚、実施例1と同様の操作で、第1コア部及び第2コア部を形成する際の層の数を、第1コア部が3層、第2コア部が2層の、計5層として行った例も、比較のために示しておくと、この場合に作製された母材の屈折率分布は、図5のように階段状であった。
【0059】
実施例2
図6は、図2に示したモールド組み立て体108の断面図であり、本実施例のコア中心部の形成の工程における充填前の様子を示す。本実施例では、図1及び図2に示すプラスチック光ファイバ母材製造装置を用い、モノマーにメタクリル酸メチル、屈折率上昇剤にフタル酸ブチルベンジルエステル、屈折率降下剤に酢酸ヘキシルを用いて、図3に示される工程により、コア中心部、第1コア部、第2コア部及びクラッド部の全てを重合により形成して、GI型プラスチック光ファイバ母材を作製した。
【0060】
図1、図2、図3及び図6を参照し、以下のようにコア中心部を作製した。まず、図6に示されるように、内径5mmのガラス製コア中心部製造モールド120の両端をチャック122及び123に係合させてモールド組み立て体108を作製した。このとき、コア中心部製造モールド120の内部には母材126は存在せず、従って、コア中心部製造モールド120の内部は円筒状の空洞141である。この空洞に、メタクリル酸メチル100部に対してフタル酸ブチルベンジルエステルを70部加えた混合液に、メタクリル酸メチルの重量に対して過酸化ベンゾイルを0.1%添加して注入した。次いで、注入が終了した後、モールド組み立て体108を製造装置100に設置し、ヒータ110を70℃の温度に設定して作動させ、同時にモータ106を作動させてモールド組み立て体108を約1000rpmで回転させた。この状態で加熱及び回転を続け、直径5mmの円筒状のコア中心部を形成した(図3(a)参照)。
【0061】
そして、実施例1の第1コア部及び第2コア部の形成方法と全く同様に、図3(b)〜(d)に示される工程を行い、コア中心部の上に第1コア部及び第2コア部とクラッド部とを重合により形成して、直径50mmのプラスチック光ファイバ母材を作製した。
【0062】
以上のように形成されたプラスチック光ファイバ母材の屈折率分布を調べたところ、図4のような滑らかな屈折率分布を有することが明らかになった。また、実施例1と同様にして測定された重量平均分子量は、80, 000であった。
【0063】
そして、このプラスチック光ファイバ母材を、図9に示される装置を用いて線引して、直径650μmのプラスチック光ファイバを作製した。このプラスチック光ファイバを、直径10mmのマンドレルに巻き付けた状態で曲げ損失を測定した。このときの曲げ損失の値は、0.6dBであった。
【0064】
実施例3
本実施例では、図1、図2及び図6に示すプラスチック光ファイバ母材製造装置を用い、モノマーにメタクリル酸メチル、屈折率上昇剤にフタル酸ブチルベンジルエステル、屈折率降下剤に2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを用いて、図3に示される工程により、コア中心部、第1コア部、第2コア部及びクラッド部の全てを重合により形成して、GI型プラスチック光ファイバ母材を作製した。
【0065】
本実施例では、実施例2と同様に、メタクリル酸メチル100部に対してフタル酸ブチルベンジルエステルを70部加えた混合液に過酸化ベンゾイルを添加してコア中心部製造モールドの空洞に注入し、70℃及び1000rpmの条件で重合させてコア中心部を作製した(図3(a)参照)。その後、実施例1及び2と同じ層の数及び温度、回転数等の重合条件で、図3(b)〜(d)に示される工程を行い、メタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルとの混合液を重合させることにより第1コア部を形成し、その上にメタクリル酸メチルと2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートとの混合物を重合させて第2コア部を形成してコア部を作製した後、更にその上にメタクリル酸メチルを重合させることによりクラッド部を形成して、母材を作製した。
【0066】
以上のように形成されたプラスチック光ファイバ母材の屈折率分布を調べたところ、図4のような滑らかな屈折率分布を有することが明らかになった。また、実施例1と同様にして測定された重量平均分子量は、100, 000であった。
【0067】
そして、このプラスチック光ファイバ母材を、図9に示される装置を用いて線引して、直径650μmのプラスチック光ファイバを作製した。このプラスチック光ファイバを、直径10mmのマンドレルに巻き付けた状態で曲げ損失を測定した。このときの曲げ損失の値は、0.5dBであった。
【0068】
実施例4
本実施例では、図1及び図2に示すプラスチック光ファイバ母材製造装置を用い、モノマーにメタクリル酸メチル、屈折率上昇剤に酢酸2−フェニルエチル、屈折率降下剤に酢酸ヘキシルを用いて、図3に示される工程により、予め用意したメタクリル酸メチルと酢酸2−フェニルエチルとから成るコア中心部の上に、第1コア部、第2コア部及びクラッド部を重合により形成して、GI型プラスチック光ファイバ母材を作製した。
【0069】
本実施例では、実施例1と同様に、メタクリル酸メチルと酢酸2−フェニルエチルとから成る直径5mmのロッドを用意し、これをコア中心部とした(図3 (a)参照)。そして、実施例1〜3と同じ層の数及び温度、回転数等の重合条件で、図3(b)〜(d)に示される工程を行い、メタクリル酸メチルと酢酸2−フェニルエチルとの混合液を重合させることにより第1コア部を形成し、その上にメタクリル酸メチルと酢酸ヘキシルとの混合物を重合させて第2クラッド部を形成した後、更にその上にメタクリル酸メチルを重合させてクラッド部を形成して、直径50mmの母材を作製した。
【0070】
以上のように形成されたプラスチック光ファイバ母材の屈折率分布を調べたところ、図4のような滑らかな屈折率分布を有することが明らかになった。また、実施例1と同様にして測定された重量平均分子量は、150, 000であった。
【0071】
そして、このプラスチック光ファイバ母材を、図9に示される装置を用いて線引して、直径650μmのプラスチック光ファイバを作製した。このプラスチック光ファイバを、直径10mmのマンドレルに巻き付けた状態で曲げ損失を測定した。このときの曲げ損失の値は、0.6dBであった。
【0072】
実施例5
本実施例では、図1及び図2に示すプラスチック光ファイバ母材製造装置を用い、モノマーにメタクリル酸メチル、屈折率上昇剤に、フタル酸ブチルベンジルエステル、屈折率降下剤に2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを用いて、図3に示される工程により、予め用意したメタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルから成るコア中心部の上に、第1コア部、第2コア部及びクラッド部を重合により形成して、GI型プラスチック光ファイバ母材を作製した。
【0073】
本実施例では、実施例1と同様に、メタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルとから成る直径5mmのロッドを用意し、これをコア中心部とした。そして、実施例1〜4と同じ層の数及び温度、回転数等の重合条件で、図3(b)〜(d)に示される工程を行い、メタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルとの混合液を重合させて第1コア部を形成し、その上に、メタクリル酸メチルと2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートとの混合物を重合させて第2コア部を形成していき、その最外殻層として、それ自身で重合してポリマーになる屈折率降下剤2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを重合させて第2コア部を形成した。更にその上に、メタクリル酸メチルに、コア中心部よりも低い屈折率を与えるような添加量でフタル酸ブチルベンジルエステルを添加した混合液を重合させてクラッド部を形成して、直径50mmの母材を作製した。
【0074】
以上のように形成されたプラスチック光ファイバ母材の屈折率分布を調べたところ、図4のような滑らかな屈折率分布を有することが明らかになった。また、実施例1と同様にして測定された重量平均分子量は、130, 000であった。
【0075】
そして、このプラスチック光ファイバ母材を、図9に示される装置を用いて線引して、直径650μmのプラスチック光ファイバを作製した。このプラスチック光ファイバを、直径10mmのマンドレルに巻き付けた状態で曲げ損失を測定した。このときの曲げ損失の値は、0.5dBであった。
【0076】
比較例1〜3
以上のように説明した実施例1〜5によるプラスチック光ファイバ母材の製造方法との比較のため、重合により多層を形成することによりコア部及びクラッド部を形成する方法であるが、屈折率上昇剤又は屈折率降下剤のいずれかのみを用いる方法、即ち、コア中心部の外側に第1コア部又は第2コア部のいずれか一方のみを形成する方法によって、プラスチック光ファイバ母材を作成した例を、3例挙げておく。
【0077】
図7は、比較例1〜3における工程図であり、製造の各工程におけるプラスチック光ファイバ母材の側面図である。本比較例では、図1及び図2に示すプラスチック光ファイバ母材製造装置を用い、モノマーにメタクリル酸メチル、屈折率上昇剤にフタル酸ブチルベンジルエステルを用いて、図7に示される工程により、第1コア部若しくは第2コア部のいずれか一方、及びクラッド部を重合により形成して、GI型プラスチック光ファイバ母材700を作製した。
【0078】
比較例1では、メタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステル(屈折率上昇剤)とから成る直径5mmのロッドを用意し、これをコア中心部702とした。そして、実施例1の第1コア部形成の場合と同じ重合条件で、図7(b)〜(c)に示される工程を行い、メタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルとの混合液を重合させることにより第1層703から順に形成して、第1コア部704を形成した後、メタクリル酸メチルに、第1コア部の最外殻の屈折率よりも屈折率が低くなるような添加量でフタル酸ブチルベンジルエステルを添加した混合液を重合させることによりクラッド部706を形成して、直径50mmの母材700を作製した。
【0079】
比較例2では、メタクリル酸メチルと酢酸ヘキシル(屈折率降下剤)とから成る直径5mmのロッドを用意し、これをコア中心部702とした。そして、実施例1の第2コア部形成の場合と同じ重合条件で、図7(b)〜(c)に示される工程を行い、メタクリル酸メチルと酢酸ヘキシルとの混合液を重合させることにより、コア中心部702の上に第2コア部704を形成した後、メタクリル酸メチルに、第2コア部の最外殻の屈折率よりも屈折率が低くなるような添加量で酢酸ヘキシルを添加した混合液を重合させることによりクラッド部706を形成して、直径50mmの母材700を作製した。
【0080】
比較例3では、実施例2におけるコア中心部の形成及び第1コア部の形成の場合と同じ重合条件で、図7(a)〜(c)に示される工程を行い、メタクリル酸メチルとフタル酸ブチルベンジルエステルとの混合液を重合させることによりコア中心部702及び第1コア部704を形成した後、メタクリル酸メチルに、第1コア部の最外殻の屈折率よりも屈折率が低くなるような添加量でフタル酸ブチルベンジルエステルを添加した混合液を重合させることによりクラッド部706を形成して、直径50mmの母材700を作製した。
【0081】
このようにして比較例1〜3において作製された3本のプラスチック光ファイバ母材の屈折率分布のグラフを、図8に表した。また、実施例1と同様にして測定された重量平均分子量は、比較例1では200, 000、比較例2では80, 000、比較例3では140, 000であった。
【0082】
また、これらを実施例1〜5と同じ条件で線引した直径650μmの光ファイバについて、それぞれ直径10mmのマンドレルに巻き付けた状態で曲げ損失を測定した。このときの曲げ損失の値は、比較例1及び比較例3では2.6dB、比較例2では2.5dBであった。
【0083】
線引した光ファイバの曲げ損失に関して、屈折率上昇剤にフタル酸ブチルベンジルエステルを用いた実施例1、2、3及び5と、同じく屈折率上昇剤にフタル酸ブチルベンジルエステルを用いた比較例1及び3とを比較するため、これらの結果を表1に纏めて示す。表1によれば、コア部形成において、コア中心部の上に屈折率上昇剤を用いた第1コア部を形成するステップのみの比較例1及び3による光ファイバの曲げ損失が2.6dBであったのに対し、第1コア部を形成するステップに加えて、更に屈折率降下剤を用いて第2コア部を形成するステップを含む本発明の実施例1、2、3及び5による光ファイバの曲げ損失は、0.5〜0.6dBと、顕著に向上している。また、図4と図8とを比較すれば、第1コア部を形成するステップと第2コア部を形成するステップとを含む本発明の実施例1、2、3及び5において、滑らかな屈折率分布をもち且つ屈折率差の大きなプラスチック光ファイバ母材が作製されたことが示された。
【0084】
【表1】
【0085】
同様に、屈折率降下剤に酢酸ヘキシルを用いた実施例1、2及び4と、同じく屈折率降下剤に酢酸ヘキシルを用いた比較例2とを比較するため、これらの結果を表2に示す。表2によれば、第2コア部を形成するステップのみの比較例2では、曲げ損失が2.5dBであったのに対し、第2コア部形成のステップの前に行われる第1コア部形成のステップを含む実施例1、2及び4では、曲げ損失が0.5〜0.6dBと、顕著に向上している。また、図4と図8とを比較すれば、第1コア部を形成するステップと第2コア部を形成するステップとを含む本発明の実施例1、2及び4において、滑らかな屈折率分布をもち且つ屈折率差の大きなプラスチック光ファイバ母材が作製されたことが示された。
【0086】
【表2】
【0087】
【発明の効果】
以上詳細に説明してきたように、コア部の形成に対して、屈折率上昇剤を用いた第1コア部形成のステップと、屈折率降下剤を用いた第2コア部形成のステップとを含む本発明のプラスチック光ファイバ母材の製造法によれば、滑らかな屈折率をもち且つ屈折率差の大きなプラスチック光ファイバ母材を、生産性良く容易に製造することができ、このように製造された母材から、曲げ損失の低いプラスチック光ファイバが容易に製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に好適に使用されるプラスチック光ファイバ母材製造装置の斜視図である。
【図2】本発明に好適に使用されるプラスチック光ファイバ母材製造装置のモールド組み立て体の縦断面図であり、母材を内部に包含している状態を表す。
【図3】実施例1〜5の工程図であり、各工程毎のプラスチック光ファイバ母材の状態を表す。
【図4】実施例1及び2により作製されたプラスチック光ファイバ母材の半径方向屈折率分布を表すグラフである。
【図5】実施例1により作製されたプラスチック光ファイバ母材の半径方向屈折率分布を表すグラフである。
【図6】本発明に好適に使用されるプラスチック光ファイバ母材製造装置のモールド組み立て体の縦断面図であり、実施例2において、コア中心部の形成工程前の状態を表す。
【図7】比較例1〜3の工程図であり、各工程毎のプラスチック光ファイバ母材の状態を表す。
【図8】比較例1及び3により作製されたプラスチック光ファイバ母材の半径方向屈折率分布を表すグラフである。
【図9】本発明で作製された母材の線引に使用可能な線引装置の縦断面図である。
【図10】ステップインデックス(SI)型ファイバの屈折率分布を示すグラフである。
【図11】グレーデッドインデックス(GI)型ファイバの屈折率分布を示すグラフである。
【符号の説明】
100…製造装置、102…台、104…モールド収容部、106a、b…モータ、108a、b…モールド組み立て体、110…ヒータ、120a、b…モールド、122a、b、123…チャック、124a、b、125…カバー、126…母材、128a、b、129a、b…軸、130a、b…軸受け、132a、b、133…支持円筒、134、135…窪み、140…空間、141…空洞、142、143…注入ベント口、302…コア中心部、304…第1コア部第1層、305…第1コア部、306…第2コア部第1層、307…第2コア部、308…クラッド部、700…母材、702…コア中心部、703…第1層、704…第1コア部又は第2コア部、706…クラッド部、910…線引装置、912…線引炉、914…外径モニタ、916…巻取手段、920…カバー、922…炉芯間、924…ヒータ、926…母材、927…ネックダウン部、928…上部円筒、929…矢印、930…リング、932…下部円筒、934…シャッター、938…プラスチック光ファイバ。
Claims (7)
- コア中心部と第1コア部と第2コア部とから成るコア部を有し、略円柱形状の部分をもつプラスチック光ファイバの母材を製造する方法であって、
(1)略円柱形状の部分を有し屈折率nを有するポリマーから成る1つのコア中心部に対し、
(a)中空の略円筒形状である複数の第1の数iの個数の第1コア部製造モールド(M(1)〜M(i))であって、内径に関して、前記コア中心部の直径より大きく且つ1<a≦iの数aに対して(M(a−1)の内径)≦(M(a)の内径)、の関係をもつ第1コア部製造モールド(M(1)〜M(i))と、
(b)屈折率上昇剤をモノマーに添加した前記第1の数iの個数のモノマー屈折率上昇剤混合液(S(1)〜S(i))であって、重合した際の屈折率に関して、1<a≦iの数aに対してn≧(S(a−1)の屈折率)≧(S(a)の屈折率)の関係をもつモノマー屈折率上昇剤混合液(S1〜Si)と
を用いて、1≦x≦iの数xについて、前記コア中心部を含む部材を前記第1コア部製造モールドM(x)の中空部中央に配置して該部材と前記第1コア部製造モールドM(x)との間に画成された空間に、前記モノマー屈折率上昇剤混合液S(x)を投入し重合させてx番目の層を形成する操作を、数xに関して1からiまで順に行い、前記コア中心部の側面表面上に、前記第1の数i層から成り且つ半径方向外向きに屈折率が減少する屈折率分布を有する第1コア部を形成する第1のステップと、
(2)前記第1コア部が形成された1つの前記コア中心部を含む部材に対し、(c)中空の略円筒形状である複数の第2の数jの個数の第2コア部モールド (N(1)〜N(j))であって、内径に関して、前記第1コア部最外層の直径よりも大きく且つ1<b≦jの数bに対して(N(b−1)の内径)≦(N(b)の内径)、の関係をもつ第2コア部製造モールド(N(1)〜N(j))と、(d)屈折率降下剤をモノマーに添加した前記第2の数jの個数のモノマー屈折率降下剤混合液(T(1)〜T(j))であって、重合した際の屈折率に関して、1<b≦jの数bに対して(T(b−1)の屈折率)≧(T(b)の屈折率)の関係をもつモノマー屈折率降下剤混合液(T(1)〜T(j))と
を用いて、1≦y≦jの数yについて、前記第1コア部が形成された前記部材を前記第2コア部製造モールドN(y)の中空部中央に配置して該部材と前記第2コア部製造モールドN(y)との間に画成された空間に、前記モノマー屈折率降下剤混合液T(y)を投入し重合させてy番目の層を形成する操作を、数yに関して1からjまで順に行い、前記第1コア部最外層の側面表面上に、前記第2の数j層から成り且つ半径方向外向きに屈折率が減少する屈折率分布を有する第2コア部を形成する第2のステップと
を含むことを特徴とするプラスチック光ファイバ母材の製造方法。 - 前記第1のステップが、全ての前記第1コア部製造モールド(M(1)〜M(i))の直径よりも小さな内径を有する中空の略円筒形状であるコア中心部製造モールドの中空部分に、モノマーと屈折率上昇剤とを含有する混合物を投入し重合させることにより前記屈折率nを有する前記コア中心部を作製するコア中心部製造操作を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック光ファイバ母材の製造方法。
- 前記コア部を前記コア部の直径より大きな内径を有する中空の略円筒形状であるクラッド部製造モールドの中空部中央に配置し、前記コア部と前記クラッド部製造モールドとの間に画成された空間に、前記モノマーを投入し重合させ前記コア部の円筒側面表面上にクラッド部を形成する第3のステップを更に含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ母材の製造方法。
- 前記コア部を前記コア部の直径より大きな内径を有する中空の略円筒形状であるクラッド部製造モールドの中空部中央に配置し、前記コア部と前記クラッド部製造モールドとの間に画成された空間に、重合した際前記屈折率n1 よりも屈折率が小さくなる比率で屈折率上昇剤を前記モノマーに添加したモノマー屈折率上昇剤混合液を投入し重合させ前記コア部の円筒側面表面上にクラッド部を形成する第3のステップを更に含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ母材の製造方法。
- 前記第1のステップ、前記第2のステップ、又は前記第1のステップ及び前記第2のステップのいずれかにおいて、前記投入後に前記第1コア部製造モールド、前記第2コア部製造モールド又は前記第1コア部製造モールド及び前記第2コア部製造モールドを前記中空部の長手軸を中心に回転させて前記重合を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ母材の製造方法。
- 前記第3のステップにおいて、前記投入後に前記クラッド部製造モールドを前記中空部の長手軸を中心に回転させて前記重合を行うことを特徴とする請求項3、4または5のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ母材の製造方法。
- 前記モノマーがメタクリル酸メチルを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチック光ファイバ母材の製造方法。
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