JP3656366B2 - 地下構造物構築工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、地下水位が高く、透水性の高い砂礫地盤などの大量の地下水が湧水する地盤に建築物地階や地下駐車場などの大深度構造物を構築する場合に好適に用いられる地下構造物構築工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
地下水位が高く透水性の高い地盤に大深度地下構造物を構築するときの工法として従来、下記の工法が一般的に用いられている。
(1)揚水工法
山留壁で締切った後、内部の地下水を深井戸などで揚水して水位を低下させながら掘削、山留支保工を繰り返して、計画床付け地盤から順巻で躯体を構築する工法である。
(2)薬液注入工法、地盤改良工法
山留壁で締切った後、計画床付け盤以深の掘削地盤が盤膨れを生じない深さに不透水層になるよう、地表面から薬液を注入したり、セメントミルクを混合・撹拌する工法である。
(3)凍結工法
上記(2)で説明した工法と同じ目的で、計画床付け以深の地盤を凍結させて不透水層を構築する工法である。
(4)ケーソン工法
地上または半地下で構築した躯体内部を水中掘削(オープン・ケーソン)したり、地下水圧とバランスした圧力まで送気しながらドライ掘削して順次沈降させる工法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来の工法にあっては、次の問題があった。
(1)の工法では、地下水位の高い透水性地盤の場合、揚水による周辺地盤の変状、家屋被害、井戸枯れ、構築する躯体品質の低下、排水の下水料金や井戸設置による工費増、あるいは工期が長いといった問題があった。
(2)の工法では、施工面積が広い時や不透水にする地盤が深い場合に、工費、工期を大幅に増加させたり、地下水を汚染させる等の問題があった。
(3)の工法では、工費・工期の増加の他、凍結時の地盤隆起、あるいは躯体品質の低下といった問題があった。
(4)の工法では、工費・工期の増加の他、躯体形状や壁厚に制約が生じる上、周辺地盤の変状やそれに伴う家屋被害、施工時の景観疎外、漏気音などの公害、仮壁撤去に伴う産廃物の発生などの問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、地下水位が高い透水性地盤において大深度地下構造物を構築する際、地下水の揚水や凍結、薬液注入等の方法をとることなく構築でき、これにより前記の諸問題を解決することができる地下構造物構築工法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明では、地下構造物の外壁に当たる箇所に山留め壁を構築し、該山留め壁の内側の地盤を揚水しながら盤膨れなどの問題が生じない浅深度部分まで掘削し、この掘削した浅深度部分にて大深度部分に設置する下部躯体を構築し、その後、掘削した浅深度部分を湛水して前記下部躯体を浮遊させ、該浮遊させた下部躯体を曳航させながら該下部躯体上から大深度部分を水中掘削し、該水中掘削した大深度部分に前記下部躯体を該下部躯体内部に注水する方法で沈設させ、この下部躯体と前記山留め壁との隙間を止水処理し、下部躯体の上部の浅深度部分を排水し、この浅深度部分にて上部躯体を構築する地下構造物構築工法において、前記下部躯体を複数の分割下部躯体から構成し、これら分割下部躯体を曳航させながら該下部躯体上から水中掘削を行い、少なくとも最後に沈設させる分割下部躯体を、他の分割下部躯体上にて構築し、他の分割下部躯体を沈設させることにより、最後の分割下部躯体を浮遊させ、この浮遊させた最後の分割下部躯体を曳航して所定位置に沈設することを特徴としている。
【0006】
請求項2記載の地下構造物構築工法は、地下構造物の外壁に当たる箇所に山留め壁を構築し、該山留め壁の内側の地盤を揚水しながら盤膨れなどの問題が生じない浅深度部分まで掘削し、この掘削した浅深度部分にて大深度部分に設置する下部躯体を構築し、その後、掘削した浅深度部分を湛水して前記下部躯体を浮遊させ、該浮遊させた下部躯体を曳航させながら該下部躯体上から大深度部分を水中掘削し、該水中掘削した大深度部分に前記下部躯体を該下部躯体内部に注水する方法で沈設させ、この下部躯体と前記山留め壁との隙間を止水処理し、下部躯体の上部の浅深度部分を排水し、この浅深度部分にて上部躯体を構築する地下構造物構築工法において、前記下部躯体を複数の分割下部躯体から構成し、これら分割下部躯体を曳航させながら該下部躯体上から水中掘削を行い、少なくとも最後に沈設させる分割下部躯体以外の他の 分割下部躯体上にて、上部が開放された箱状の鋼殻を構築し、他の分割下部躯体を沈設させることにより、前記鋼殻を浮遊させ、この浮遊させた鋼殻上に最後の分割下部躯体を構築し、この最後の分割下部躯体を曳航して所定位置に沈設することを特徴としている。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1〜図3は、本発明工法によって構築する地下構造物を示すものであり、ここでは地下駐車場を構築する例を示す。図1(a)は地下1階、図1(b)は地下2階のそれぞれ平面図であり、図2は図1(a)のAーA線に沿った断面図、図3は他の面に沿った断面図である。
これらの図に示すように地下1階には複数の入庫エレベータ1、複数の出庫エレベータ2、並びにエントランス部3が設けられ、エレベータホールの下方に当たる地下2階は駐車場スペース4とされている。
【0008】
このような地下構造物の構築は以下の手順による。
(1)山留め壁及び簡易排水施設の構築工程
図4に示すように、地下構造物の外壁より大きい形状で、掘削機10Aによって例えばTRD連壁や矢板板による連続地中壁等の山留め壁10を構築する。また、山留め壁10によって囲まれる内側部分には、簡易な深井戸11を設置する。これは、後述する浅深度深さまでドライ掘削するためのものである。
図4中符号13は、ベノト機、14aは第1滞水層、14bは第2滞水層、14cは第3滞水層をそれぞれ示す。
【0009】
(2)掘削、山留め支保工、下部躯体の構築工程
図5及び図6に示すように、深井戸11から山留め壁10内を揚水して地下水を低下させてドライ掘削を行い、山留め壁10をその上方側から順次アースアンカー15などで支保していく。そして、この掘削した浅深度部分にて、駐車場スペース4となる下部躯体16を、下部躯体16A,16Bに分割してクレーン17等を用いて構築する。
このときの一次掘削深さH1は、許容揚水量、構築する下部躯体16A,16Bが地下水によって浮上する限界深さHU、盤膨れなど問題が発生する限界などから判断して決定される。
ここで、H1≦HUの時には、下部躯体16A,16Bの一部を構築し、それ以外の時は下部躯体16A,16Bの全てを構築する。また、下部躯体16A,16Bが浮かないくらい浅い場合には、下部躯体16A,16Bを途中まで構築して浮かせた後、水面上で構築する。
【0010】
(3)床付け掘削、躯体曳航工程
図7及び図8に示すように、下部躯体16A,16Bの構築後、山留め壁10内を湛水し、構築した下部躯体16A,16Bを浮上させる。ここで、下部躯体16A,16Bが未完成の場合は、浮かせた状態にて完成させる。
次いで、下部躯体16A,16B上に掘削機18、土砂水切り設備19及び外部からの渡り桟橋20、下部躯体16A,16B同士の渡り桟橋21を設置し、その後、下部躯体16A,16Bを前後(図における左右方向)等に曳航させながら、下部躯体16A,16Bの下方側の設置個所を設置深さまで掘削する。
このとき、山留め壁10は無支保工となるため、山留め壁10の強度を、設置深さまでの掘削に耐えられる強度としておく。つまり、山留め壁10の強度から最終床付け深さが決定される。
【0011】
(4)下部躯体沈設、止水工程
図9に示すように、掘削完了後、潜水夫等によってスライムを除去し、下部躯体16A,16Bの沈設部に仮設支持台22を構築するとともに、仮設支持台22の高さまで基礎栗石23を敷き並べて沈設部におけるスライムを防止する。
次いで、下部躯体16A,16Bの内部に仮壁を用いて複数の室に分割し、下部躯体16A,16Bにエアーシャフト24を取り付け、下部躯体16A,16Bの内部の注水量を制御したり、あるいは下部躯体16A,16Bに浮きを取り付けて、これら下部躯体16A,16Bを沈設部の仮設支持台22上に沈設させる。なお、下部躯体16A,16Bは、水面上あるいは沈設後に、PC鋼線などによって緊張して一体化する。
その後、下部躯体16A,16Bの周囲、つまり、下部躯体16A,16Bと基礎栗石23、下部躯体16A,16Bと山留め壁10との空隙に、注入管25からモルタルあるいは流動化処理土等の不透水性材料からなる注入材を注入し、完全に止水する。図中符号26は、注入材を注入する注入装置である。
【0012】
(5)排水及び浮き上がり防止アンカー設置工程
図10に示すように、前記注入材が硬化したら、山留め壁10内の浅深度部分を排水する。なお、下部躯体16A,16Bが浮き上がるような場合には、浮き上がり防止アンカー27等を設置して対策する。図中符号28は、アンカー打ち込み機である。
また、下部躯体16A,16B同士の間等、他の躯体と一体化する部分には、表面の目荒らし、アンカー筋29の設置等を行っておく。
【0013】
(6)上部躯体の構築工程
図11及び図12に示すように、下部躯体16A,16Bにアンカー筋29と一体に、入庫エレベータ1及び出庫エレベータ2が設けられた入出庫部30、エントランス部3及び駐輪場31等からなる上部躯体32を構築する。
そして、この上部躯体32の外壁部に外防水を施し、その後、躯体の埋め戻しを行いながら、アースアンカー15を除去していく。
上部躯体が完全に構築されたら、下部躯体16A,16B内を排水して各種仕上げ施工を行う。
以上の工程によって前記図1〜図3に示した地下駐車場を構築することができる。
【0014】
なお、上記工法において、構造物の構築面積が狭い場合は、床付け掘削躯体曳航工程にて、水中掘削が困難となる場合があるが、このような場合は、下部躯体を分割するとともに、少なくとも最後の分割躯体を鋼殻躯体として、水面上で構築して沈設する方法を行う。
この場合には、以下の手順を行う。
まず、図13に示すように、浅深度地盤上にて最後の躯体以外の躯体16Aをコンクリートにて構築し、その後、湛水して躯体16Aを浮遊させ、この躯体16A上から水中掘削を行い、次いで、この躯体16Aの上部にて、鋼殻33を溶接して箱状に一体化する。
【0015】
そして、図14に示すように、躯体16Aを所定位置に沈設して、その上部にて組み立てた鋼殻33を浮かせ、この浮かせた鋼殻33上にコンクリートにて躯体16Bを構築する。
鋼殻33上に構築した躯体16Bを鋼殻33とともに所定位置に沈設し、その後、躯体16A,16Bと山留め壁10との間に止水性材料からなる注入材を充填して止水処理を施し、躯体16A,16B同士を連結する。
【0016】
なお、前記実施の形態では、本発明工法により地下駐車場を構築する場合を例にとって説明したが、勿論、本発明工法は、他の地下構造物を構築する場合にも適用できる。
【0017】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の地下構造物構築工法によれば、下記の効果を得ることができる。
(1)地下水を低下させるための揚水量が大幅に低下するとともに、周辺地盤の変状、井戸枯れ、地盤沈下等の不具合が減少する。
(2)山留め壁の断面が小さいもので済むうえ、支保形式がアースアンカーになるため作業効率が大幅に向上する。
(3)揚水や地盤改良のように完成後不必要な工種がほとんど無く、工費、工程が改善される。
(4)掘削のための仮設構台が不要になり、これにかかる箱抜きなどの本設の躯体品質の低下が無いうえ、工費、工程も改善される。
(5)下部躯体と山留め壁との間を止水処理するため、漏水の危険が大幅に低下する。
(6)浅深度地盤にて躯体を構築するため、構築に関わる作業効率が大幅に向上する。
(7)薬液注入や圧気に係わる地下水汚染、漏気音などの公害の心配がない。
(8)排水にかかる下水や河川の容量負担がほとんどない上、下水料金などに係わる工事費を低減できる。
(9)下部躯体を分割して水中掘削するので、構造物構築面積が狭い場合でも、分割下部躯体を曳航させて、その下方の地盤を確実に水中掘削することができる。
(10)下部躯体を分割し、少なくとも最後の分割下部躯体を他の下部躯体の上部にて構築して、他の下部躯体の沈設時に浮遊させて所定場所にて沈設するので、狭い構築面積でも確実に水中掘削を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法により構築される地下駐車場を示し、(a)が地下1階の平面図、(b)が地下2階の平面図である。
【図2】 図1(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図3】 同他の面に沿う断面図である。
【図4】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図5】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する平面図である。
【図6】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図7】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する平面図である。
【図8】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図9】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図10】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図11】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する平面図である。
【図12】 本発明の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図13】 本発明の他の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【図14】 本発明の他の実施の形態による地下構造物構築工法の手順を説明する断面図である。
【符号の説明】
10 山留め壁
16 下部躯体
32 上部躯体
33 鋼殻
Claims (2)
- 地下構造物の外壁に当たる箇所に山留め壁を構築し、
該山留め壁の内側の地盤を揚水しながら浅深度部分まで掘削し、
この掘削した浅深度部分にて大深度部分に設置する下部躯体を構築し、
その後、掘削した浅深度部分を湛水して前記下部躯体を浮遊させ、
該浮遊させた下部躯体を曳航させながら大深度部分を水中掘削し、
該水中掘削した大深度部分に前記下部躯体を沈設させ、
この下部躯体と前記山留め壁との隙間を止水処理し、
下部躯体の上部の浅深度部分を排水し、
この浅深度部分にて上部躯体を構築する地下構造物構築工法において、
前記下部躯体を複数の分割下部躯体から構成し、これら分割下部躯体を曳航させながら水中掘削を行い、
少なくとも最後に沈設させる分割下部躯体を、他の分割下部躯体上にて構築し、他の分割下部躯体を沈設させることにより、最後の分割下部躯体を浮遊させ、この浮遊させた最後の分割下部躯体を曳航して所定位置に沈設することを特徴とする地下構造物構築工法。 - 地下構造物の外壁に当たる箇所に山留め壁を構築し、
該山留め壁の内側の地盤を揚水しながら浅深度部分まで掘削し、
この掘削した浅深度部分にて大深度部分に設置する下部躯体を構築し、
その後、掘削した浅深度部分を湛水して前記下部躯体を浮遊させ、
該浮遊させた下部躯体を曳航させながら大深度部分を水中掘削し、
該水中掘削した大深度部分に前記下部躯体を沈設させ、
この下部躯体と前記山留め壁との隙間を止水処理し、
下部躯体の上部の浅深度部分を排水し、
この浅深度部分にて上部躯体を構築する地下構造物構築工法において、
前記下部躯体を複数の分割下部躯体から構成し、これら分割下部躯体を曳航させながら水中掘削を行い、
少なくとも最後に沈設させる分割下部躯体以外の他の分割下部躯体上にて、上部が開放された箱状の鋼殻を構築し、他の分割下部躯体を沈設させることにより、前記鋼殻を浮遊させ、この浮遊させた鋼殻上に最後の分割下部躯体を構築し、この最後の分割下部躯体を曳航して所定位置に沈設することを特徴とする地下構造物構築工法。
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