JP3654078B2 - 印刷版材料及びそれを用いた画像形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、画像様加熱により平版印刷版が得られる印刷版材料及びそれを用いた画像形成方法に関し、さらに詳しくは、赤外線レーザーによる画像露光によって層のアブレートなしに平版印刷版が得られる印刷版材料及び該印刷版材料を用いた印刷版の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体レーザー及びコンピュータを用いるデジタル画像処理技術の進歩に伴い、コンピュータで形成されたデジタル画像データからPS版に直接半導体レーザーで走査露光を行い平版印刷版を作製する技術(CTP)が注目されている。このような印刷データのデジタル化に伴い、安価で取り扱いが容易でPS版と同等の印刷適正を有したCTPが求められている。特に近年、赤外線レーザー記録による種々の方式のCTPが提案されている。それらの中でも特別な現像処理を必要としない、いわゆるドライCTP(印刷機上での現像を含む)が注目されている。このような技術として、例えば次のようなものが挙げられる。
【0003】
特表平8−507727号公報には、インク受容性表面を有する支持体上に、光熱変換物質を含有する記録層と、光熱変換物質を含有する硬膜親水性表面層とを有するヒートモード記録材料により、レーザーにより該記録層より上層をアブレーションにより除去して画像形成する材料と方法が開示されている。
【0004】
特開平6−186750号公報には、インク又はインク付着防止液体に対して親和性の異なる第1層及び第2層を有するプレートを赤外線レーザーで走査し、これらの層の1層以上をアブレーションにより除去して画像を形成する方法及び装置が開示されている。
【0005】
特開平6−199064号公報には、赤外線吸収層である上層第1層と、その下層である第2層とを基体上に有するか、上層第1層と、その下層である赤外線吸収層である第2層とを有し、該1層及び該2層がインク又はインク付着防止液に対して異なる親和性を示し、アブレーションにより画像を形成するレーザー記録用平版印刷版材料が開示されている。
【0006】
特開平7−314934号公報には、アブレーションしない最上層と、アブレーションするチタン又はチタン合金薄層金属層と、基体とを有し、上記最上層及び基体がインク又はインク不溶性流体に対して異なる親和性を示すレーザー記録用印刷部材とアブレーションにより画像形成する方法が開示されている。
【0007】
特開平10−58636号には、基板上にレーザー感応性の親水性膨潤層(好ましくは色顔料または黒色染料を含有する)を有し、レーザー照射で該親水性膨潤層をアブレーションにより除去しインク着肉画像を形成する平版印刷版原版が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記の公知技術はいずれも表層をアブレートさせて画像部または非画像部を形成するタイプの印刷版であり、解像度が低い、点質が不良であるといった問題点がある。また、アブレートした表層が露光機内部を汚染する懸念があることや、印刷版表面に残存するアブレート残滓をなんらかの手段(拭き取る、専用の装置でリンス処理する等)で除去する必要があり、完全なドライ処理とは言えないなどの問題点も残っている。
【0009】
また、特開平10−58636号公報記載の技術には、親水性ポリマーを用いた親水性膨潤層は印刷初期の親水性は良好であるが、該層中にインキエマルジョンが侵入するなどにより徐々に親水性が低下し地汚れが発生する問題及び層の耐久性も低く耐刷性に劣る問題もある。この耐刷性を向上させるために、親水性ポリマー(有機、無機、又は有機−無機ハイブリッド)を架橋させて用いる親水性層も提案されているが、親水性を有する官能基を架橋点としてしまうために、架橋度が上がるほど親水性は低下し、親水性と耐刷性の両立が困難である。
【0010】
これらの欠点を補うべく、アブレーションを生じさせずに、レーザー露光部と未露光部とのインキ着肉性/親水性又はインク着肉性/インク反発性に差を生じさせることにより印刷を可能とする、いわゆるスイッチャブルの印刷版材料の検討が行われているが、未だ十分な性能(PS版と同等の印刷適性)を得るにいたっていない。
【0011】
スイッチャブルの印刷版材料としては、一般に、画像部と非画像部との印刷時のインク濃度差、つまりはS/Nを向上させることが困難であり、画像部のインク着肉性を向上させると非画像部の汚れが生じ、また、非画像部の汚れ低減に注力すると画像部のインク着肉が得られにくいという問題がある。
【0012】
また、画像露光の後に印刷機上で湿し水で現像し得る印刷版材料が知られている(特表平6−502931号公報等)。この技術は特別の処理操作は必要としないが印刷機上での処理を必要とし、また、現像の過程で湿し水で膨潤した画像形成層が、層を成したまま剥離してブランケットに付着し、汚れの原因となる等の懸念を有している。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は下記▲1▼〜▲4▼の印刷版材料及びそれを用いた画像形成方法を提供することである。
【0014】
▲1▼アブレーションにより画像形成するタイプの印刷版材料と比較して、高解像度記録が可能であり、点質も良好な印刷版材料。▲2▼表層が導電性を有する金属酸化物光熱変換材を含有した高親水性層(非画像部)の高親水性を維持しつつ画像部を形成することが可能な印刷版材料。▲3▼スイッチャブルの印刷版材料と比較して地汚れ、ブランケット汚れ、汚し回復性が非常に良好(特にアロマフリーインクやエコマーク付きインクの場合)な印刷版材料。▲4▼完全に無処理で印刷版が得られ(Dry−CTP)、印刷機上現像タイプの印刷版材料と比較して印刷機汚染(ブランケットのゴースト等を含む)がない印刷版材料。
【0015】
【課題を解決するための手段】
これらの経緯を踏まえて、本発明者が検討した結果、本発明に到った。すなわち、上記課題を解決する本発明の構成は下記である。
【0016】
(1)基材上に融点が50℃以上122℃以下で、かつ140℃での溶融粘度が8〜150cpsである素材を含有する層[A]と、その上に形成される平均粒子径が1μm以下である多孔質無機粒子および光熱変換機能を有する素材を含有する層[B]とを有する印刷版材料。
【0017】
(2)層[A]にも光熱変換機能を有する素材を含有する上記(1)に記載の印刷版材料。
【0018】
(3)光熱変換機能を有する素材が赤外線を吸収し、熱に変換する素材である上記(1)又は(2)に記載の印刷版材料。
【0019】
(4)光熱変換機能を有する素材が導電性を有する素材である上記(1)、(2)又は(3)に記載の印刷版材料。
【0020】
(5)光熱変換機能を有する素材が導電性を有する金属酸化物である上記(4)に記載の印刷版材料。
【0022】
(6)層[B]の平均厚さが0.1〜3μmである上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0024】
(7)層[B]に含有される多孔質無機粒子が多孔質シリカ、多孔質アルミノシリケート及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0025】
(8)層[B]が平均粒径100nm以下の金属酸化物微粒子を含有する上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0026】
(9)金属酸化物微粒子がコロイダルシリカである上記(8)に記載の印刷版材料。
【0027】
(10)層[B]に含有される有機成分が層全体の0〜30wt%である上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0028】
(11)融点が50℃以上122℃以下である素材が水反撥性である上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0029】
(12)融点が50℃以上122℃以下である素材が軟化点40℃以上122℃未満である上記(1)〜(11)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0030】
(13)融点が50℃以上122℃以下である素材が粒径0.05〜10μmの粒子状である上記(1)〜(12)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0031】
(14)基材上に形成されたいずれかの層が熱により発色または消色または色相が変化する機能を有する素材を含有するか、又は層自体の光透過度が変化する機能を有する上記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の印刷版材料。
【0032】
(15)上記(1)〜(14)のいずれか1項に記載の印刷版材料を画像様に加熱し、層[A]に含有する融点が50℃以上122℃以下である素材を溶融させ、少なくともその一部を層[B]に浸透又は層[B]表面にまで浸出させることで画像部を形成する画像形成方法。
【0033】
(16)画像様の加熱を赤外線レーザー光で行う上記(15)に記載の画像形成方法。
【0034】
本発明は、基材上に融点が50℃以上200℃以下である素材(以下「熱溶融素材」という)を含有する層[A]と、その上に形成される多孔質無機粒子および光熱変換機能を有する素材を含有する層[B]とを有する印刷版材料及び上記(2)〜(18)の発明である。熱溶融素材は画像形成(インク着肉性を有する)素材であり、熱溶融素材を含有する層[A]の上に、多孔質無機粒子および光熱変換機能を有する素材を含有する多孔質な層[B]を設けることにより、未露光部は多孔質な親水性素材による良好な保水性を示して、地汚れやブランケット汚れを抑制することができ、また、露光部は層[B]が発熱することにより、層[A]中の熱溶融素材を溶融させ、かつ、多孔質な層[B]中へ吸い上げてインク着肉性の画像部を形成する。画像形成には層[B]のアブレーションは必要なく、露光後、完全な無処理で印刷することが可能である。また、アブレーションさせずに画像形成が可能であるため、高解像度の記録が可能であり、点質も良好である。
【0035】
本発明のような親水性の多孔質無機粒子を用いた親水性層は、無機素材自体が極性を有した親水性の高い素材であり、かつ、多孔質であるため比表面積が高く、その相乗効果で非常に高い親水性を示す。また、無機素材であるため層の耐久性も良好で、耐刷性が改善される。
【0036】
さらに、上記多孔質無機粒子を用いた親水性層に導電性を有する金属酸化物を光熱変換機能を有する素材として含有させると、親水性を低下させることなく光熱変換機能を付与することが可能である。また、導電性を有する金属酸化物自体も極性の高い素材であることから、含有量によっては親水性が向上する場合もある。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。本発明の印刷版材料の層[B]が含有する光熱変換機能を有する素材(以下「光熱変換材」という)としては赤外線を吸収し熱に変換する機能を有する素材、すなわち赤外部に吸収の有る素材を使用することが好ましい。そのひとつとして、一般的な赤外吸収色素(シアニン、フタロシアニン)が挙げられるが、水溶性の色素を多孔質層中に添加すると層の耐水性、耐久性が低下し、また、水不溶性の色素を添加する場合は水系分散液中に固体色素を極微粒子状に均一に分散させることが困難であり、凝集した状態の色素では光熱変換効率が悪く、また、印刷時の汚れ原因となる。
【0038】
本発明において、光熱変換材としては導電性を有する素材、特に金属酸化物であることが好ましい。該素材は半導体であってもよい。理由は明らかではないが、導電性を有する光熱変換材、特に金属酸化物を層中に添加した場合、親水性を低下することなく光熱変換機能を付与することが可能である。
【0039】
このような光熱変換材としては、金属、導電性カーボン、グラファイト、導電性金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも特に導電性金属酸化物が好ましい。
【0040】
上記金属としては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下の微粒子であれば、いずれの金属であっても使用することができる。形状としては、球状、片状、針状等いずれの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0041】
上記導電性カーボンとしては、特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。また、下式で示される導電性指標が30以上であることが好ましく、50以上であることがさらに好ましい。
【0042】
導電性指標=(比表面積[m2/g]×DBP吸油量[ml/100g])1/2/(1+揮発分)
上記グラファイトとしては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0043】
上記導電性(もしくは半導体)金属酸化物としては、ZnO、AlをドープしたZnO、SnO2、SbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。また、これらの金属酸化物で心材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
【0044】
上記導電性金属酸化物の中でもチタンブラック、ATO、ITOが好ましい。特に塗膜中に分散させた際に実質的に着色しない(無色もしくは白色を呈する)、透明導電膜として利用されるATOやITOが好ましい。また無色もしくは白色の心材をATOやITOで被覆した素材も好ましく使用できる。これは、印刷機上でわずかずつながら塗膜が摩耗していった際にもインクの色濁りを生じさせることがないためである。
【0045】
これらの光熱変換材は塗膜中に均一に分散させることが重要であり、単独で、あるいは他の塗膜組成成分のいずれかと同時に機械的に分散させて塗布液とすることが好ましい。その際に分散剤を使用してもよい。
【0046】
層[B]中の光熱変換材の含有量は、層[B]全体の2〜40wt%が好ましく、5〜30wt%がさらに好ましい。含有量が2wt%より少ないと低感度となり、40wt%以上では実用領域の露光エネルギーでアブレーションを生じ易くなる。
【0047】
本発明において、層[B]が含有する多孔質無機粒子の多孔質とは、粒子が結晶性でない場合は、該粒子が細孔容積で0.3ml/g以上の空隙を有するか、又は粒子がゼオライトのような結晶であり、孔径が0.1〜1nm程度の細孔が規則正しい三次元網目構造を形成していることを意味する。
【0048】
本発明において、多孔質無機粒子としては、多孔質シリカ、多孔質アルミノシリケート及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0049】
多孔質シリカ粒子は一般に湿式法または乾式法により製造される。湿式法ではケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では四塩化珪素を水素と酸素とともに燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。
【0050】
多孔質アルミノシリケート粒子は、例えば特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。すなわち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。また、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0051】
上記粒子の多孔性としては、分散前の状態で、細孔容積で0.5ml/g以上であることが好ましく、0.8ml/g以上であることがより好ましく、1.0ml/g以上2.5ml/g以下であることがさらに好ましい。細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。細孔容積が0.5ml/g未満の場合には、印刷時の汚れにくさ、水量ラチチュードの広さが不充分となる。
【0052】
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然および合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0053】
(MI,MII1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O
ここで、MI、MIIは交換性のカチオンであって、MIはLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)、C7H15N2 +、C8H16N+等であり、MIIはCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、C8H18N2 2+等である。また、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、したがって親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、さらに好ましくは0.8〜1.0である。
【0054】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、また粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、たとえば、ゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで層[B]自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。また、指紋跡の汚れも大きく改善される。
【0055】
Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。粒径としては、層[B]に含有されている状態で(分散破砕工程を経た場合も含めて)、実質的に1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。粗大な粒子が存在すると層[B]表面に多孔質で急峻な突起が形成され、突起周囲にインクが残りやすくなって非画線部汚れが劣化する。
【0056】
本発明において、多孔質無機粒子の平均粒子径は、層[B]に含有されている状態で(前記分散破砕工程を経た場合も含めて)、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。粗大な粒子が存在すると層[B]の表面に多孔質で急峻な突起が形成され、突起周囲にインクが残りやすくなって非画線部汚れが劣化する。
【0057】
多孔質粒子の含有量は層[B]全体の30〜95wt%であることが好ましく、40〜80wt%であることがより好ましい。
【0058】
本発明において、層[B]には、平均粒径100nm以下の金属酸化物微粒子を含有することが好ましい。該金属酸化物微粒子は、自己造膜性を有し結合剤として使用できるものである。該金属酸化物微粒子としては、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他のいずれの形態でも良い。平均粒径は、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。また、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0059】
金属酸化物微粒子はその造膜性を利用して、結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、層[B]への使用に適している。上記のなかでも特にコロイダルシリカが比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高く好ましい。コロイダルシリカの場合、粒子径は小さいほど結合力が強くなる。粒子径が100nmよりも大きくなると結合力は大きく低下し、結合剤として使用した場合には強度が不足する。
【0060】
これらの金属酸化物微粒子を多孔質シリカ粒子とともに使用する場合は、該微粒子自体が陽電荷を帯びている状態で使用することが好ましく、例えば、アルミナゾルや酸性コロイダルシリカを使用することが好ましい。また、これらの金属酸化物微粒子を多孔質アルミノシリケート粒子およびまたはゼオライト粒子とともに使用する場合は、該微粒子自体が陰電荷をおびている状態で使用することが好ましく、例えば、アルカリコロイダルシリカを使用することが好ましい。多孔質シリカ粒子と多孔質アルミノシリケート粒子およびまたはゼオライト粒子とともに使用する場合は、例えば、表面をAlで処理して広いpH範囲での安定性を付与したコロイダルシリカを使用することが好ましい。
【0061】
層[B]の耐摩耗性向上のために、多孔質ではない硬度の高い(具体的には新モース硬度5以上の)無機粒子、例えば金属酸化物粒子(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化鉄、酸化クロム等)や金属炭化物粒子(炭化珪素等)、窒化ホウ素粒子、ダイアモンド粒子等を層[B]を形成する組成物に添加してもよい。ここで、多孔質でないことの指標としては、比表面積がBET値で50m2/g以下であることが好ましく、10m2/g以下であることがさらに好ましい。また、上記無機粒子の平均粒径は0.1〜5μmが好ましく、0.2〜3μmがさらに好ましい。新モース硬度5以上の無機粒子の含有量としては、層[B]塗布層全体の1〜50wt%であることが好ましく、3〜30wt%であることがより好ましい。
【0062】
層[B]塗布層のクラック防止等の目的で、層状鉱物粒子を添加することもできる。層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、クリソタイル、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物および、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、さらに好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)、マイカ(電荷密度〜1;陰電荷)、ハイドロタルサイト(電荷密度〜2;陽電荷)、マガディアイト(電荷密度〜1;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。また、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものがさらに好ましい。また、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング剤等)を施したものも使用することができる。
【0063】
層状鉱物粒子のサイズとしては、層[B]中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が20μm以下であり、また平均アスペクト比(粒子の最大長/粒子の厚さ)が20以上の薄層状(平板状)であることが好ましく、平均粒径が10μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることがさらに好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性および柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく強靱な塗膜とすることができる。粒子径が上記範囲をはずれると、不必要な表面粗さの増加を伴って、非画線部の汚れやブランケット汚れが劣化する場合がある。また、アスペクト比が上記範囲以下である場合、柔軟性が不充分となり、塗膜のクラック抑制効果が低減する。
【0064】
層状鉱物粒子の含有量としては、層[B]塗布層全体の1〜50wt%であることが好ましく、3〜30wt%であることがより好ましい。
【0065】
本発明において、多孔質無機粒子はあらかじめ分散破砕して用いるか、塗布層の他の素材と同時に分散する過程で破砕して用いることができる。同様に層状鉱物粒子もあらかじめ分散破砕及び/又は剥離して用いるか、塗布層の他の素材と同時に分散する過程で破砕及び/又は剥離して用いることができる。
【0066】
粒子の分散破砕または層剥離には大きく乾式と湿式とに分けることができる。乾式の分散破砕では乾燥工程が不要であるため工程は比較的シンプルとなるが、サブミクロンオーダーまでの分散破砕および100nm以下の層厚までの層剥離には通常湿式の方が有利である。
【0067】
乾式の分散破砕装置としては、高速回転衝撃剪断式ミル(例えばアニュラータイプのイノマイザ)、気流式粉砕機(ジェットミル)、ロール式ミル、乾式の媒体撹拌ミル(例えばボールミル)、圧縮剪断型粉砕機(例えばオングミル)などが使用できる。湿式の分散破砕装置としては、湿式の媒体撹拌ミル(例えばボールミル、アクアマイザ)、高速回転式剪断摩擦式ミル(例えばコロイドミル)などが使用できる。
【0068】
分散破砕後の多孔質無機粒子の粒径は実質的に1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。また、粗大粒子が残存した場合には分級もしくはろ過により除去しても良い。
【0069】
また、分散破砕後の層状鉱物粒子は平均粒径(粒子の最大長)が20μm以下であり、また平均アスペク比(粒子の最大長/粒子の厚さ)が20以上の薄層状であることが好ましく、平均粒径が10μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることがさらに好ましい。また、層状鉱物粒子の分散破砕の前に後述する膨潤工程を行っても良い。
【0070】
特に湿式分散を行った場合は、多孔質無機粒子、層状鉱物粒子ともに乾燥させることなく塗布液を調整することが好ましい。分散破砕または分散剥離を行った粒子を乾燥させると再凝集を生じる場合があるためである。塗布液の固形分濃度を調整するために濃縮または希釈することは行っても良い。
【0071】
さらに、上記分散破砕または分散層剥離工程において、表面処理剤を添加することで粒子に表面処理を行うこともできる。また、上記分散破砕または分散層剥離工程において、塗布液に添加する他の成分を添加して同時に分散しても良く、あるいは上記分散破砕または分散層剥離工程の後で、塗布液に添加する他の成分を添加して再度分散を行ってもよい。分散破砕または分散層剥離工程においては、メカノケミカルな反応が同時に起こっていると考えられ、塗布液に添加する他の成分と同時に分散した場合、塗膜となった際の強度向上効果が得られる場合がある。
【0072】
自由膨潤である膨潤性合成フッ素雲母は水と混合・撹拌するだけでも十分に膨潤し、平均厚さで10nm以下の薄層に分断して安定した分散液となる。Mg−バーミキュライトは、例えば下記のようなイオン交換処理を行うことで膨潤性を示すようになる。
【0073】
Mg−バーミキュライト+クエン酸リチウムaq.→Li−バーミキュライト+クエン酸マグネシウムaq.
さらに浸透圧で限定膨潤したLi−バーミキュライトを機械的に分散・層剥離することで平均厚さ10nm以下の薄層にまで分断することが可能となる。
【0074】
上記成分以外に、層[B]中には有機の結合剤または添加剤を含有させることができる。有機の結合剤としては親水性を有するものが好ましい。例えば、カゼイン、大豆タンパク、合成タンパク等のタンパク質類、キチン類、澱粉類、ゼラチン類、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0075】
また、層[B]中にはカチオン性樹脂を含有しても良い。カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号公報に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0076】
さらに、層[B]中には架橋剤を添加しても良い。架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、イソオキサゾール類、アルデヒド類、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物等を挙げることができる。
【0077】
層[B]に添加する結合剤としては、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止することから好ましい。
【0078】
層[B]に添加する結合剤としては、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーを使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著、アグネ承風社 発行)に記載されているか、または本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0079】
層[B]中に含有する上記のような有機成分は、たとえ親水性の樹脂であっても耐久性、耐水性等を向上させるために架橋させた場合は親水性が大きく低下し、印刷時の汚れ原因となる。また、有機成分は多孔質粒子の開口部を塞いだり、孔中に浸透することで層[B]の多孔性を損なって保水性を低下させる可能性もある。以上の理由から有機成分の添加量は少ない方が好ましい。具体的には、好ましくは、層[B]全体に対する有機成分の量が重量比で0〜40%であり、より好ましくは1〜30%であり、さらに好ましくは2〜15%である。層[B]の平均厚さは0.1〜3μmであることが好ましい。
【0080】
本発明において層[A]が含有する熱溶融素材は、水反撥性であることが好ましい。また、軟化点が40℃以上150℃以下で、かつ融点が50℃以上200℃以下であることが好ましく、軟化点が60℃以上100℃以下で、かつ融点が80℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。軟化点が40℃未満、または融点が50℃未満では保存性が問題であり、軟化点が150℃よりも高いか、または融点200℃よりも高い場合には感度が低下する。
【0081】
熱溶融素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、マイクロワックス、脂肪酸系ワックス及び酸化ポリエチレンワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものであり、通常高圧及び低圧重合法により低密度及び高密度ポリエチレンとして、また高分子ポリオレフィンの熱分解により得られる。また、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。また、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスを併用する事も可能である。後者としては、ステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミドまたはこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどが挙げられ、これらの併用も可能である。また、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用する事ができる。
【0082】
また、熱溶融素材の形態としては、0.05〜10μmの粒子状であることが好ましい。さらに好ましくは、0.1〜5μmである。0.05μm未満だと、層[A]の強度が低下して、印刷版としての耐刷性が低下する。10μmよりも大きい場合は、解像度が低下する。
【0083】
また、粒子状の熱溶融素材(インク受容性素材粒子)は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法、静電吸着法等が適用できる。
【0084】
層[A]の結合剤としては層[B]と同様の素材を使用することが可能である。ただし、層の多孔性は層[A]よりも層[B]の方が高いことが好ましい。これは、層[A]中で溶融した熱溶融素材が、層[A]内に浸透拡散するよりも、層[B]中へ浸透しやすくするため(感度向上に寄与する)、および、層[A]の強度を向上させるためである。
【0085】
この場合の層の多孔性とは、数nm〜数100nmの空隙を意味し、これは層中への上述の多孔質無機粒子の添加量と関係している。したがって、層[A]に多孔質無機粒子を含有させる場合、その添加量は、層[B]への添加量よりも少ないことが好ましく、かつ、熱により溶融する素材を除いた層[A]全体に対する比率で、0〜60wt%であることが好ましく、0〜40wt%であることがさらに好ましい。
【0086】
層[A]には層[B]と同様の光熱変換材を含有させることが可能である。層[A]に含有させる光熱変換材は導電性金属酸化物であることが好ましい。含有量は層[A]全体の0〜40wt%、好ましくは2〜20wt%である。
【0087】
本発明において、層[A]の下、則ち層[A]と基材との間にさらに光熱変換機能を有する層を設けても良い。該層に含有させる光熱変換材は層[B]と同様の素材を使用することが可能であり、導電性金属酸化物であることが好ましい。
【0088】
本発明において、層[B]の上に水溶性樹脂を含む保護層を設けることもできる。また、保護フィルムを貼合することも可能である。
【0089】
後述の可視画性付与のために、層[A]の下(層[A]と基材との間)に着色層を設けてもよい。
【0090】
本発明の印刷版材料の基材としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500mのものが一般的に取り扱いやすい。
【0091】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組合わせて使用することもできる。例えば陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材表面に、特開平8−240914号公報に記載されているような方法により有機−無機ゾルゲル皮膜を形成してもよい。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム板を使用することもできる。
【0092】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。
【0093】
また、複合基材は、上記材料を適宜貼り合わせて使用するが、親水性層を形成する前に貼り合わせても良く、また、親水性層を形成した後に貼り合わせても良く、印刷機に取り付ける直前に貼り合わせても良い。
【0094】
本発明の印刷版材料の製造には一般的な塗布方法が使用可能である。本発明の印刷版材料の製造において、層[A]の塗布乾燥時、および基材上に層[A]が形成された後のその他の層の塗布乾燥時は、熱により溶融する素材の融点以下の温度で乾燥させることが好ましく、融点以上の温度で乾燥させる場合も1分以下の短時間での乾燥が好ましい。また、塗布乾燥後に適宜エイジング処理を行うこともできる。エイジング処理は乾燥雰囲気、40〜70℃で6〜200時間行うことが好ましい。
【0095】
本発明の印刷版材料は、いずれかの層に露光可視画性を示すような素材を添加することができる。露光可視画性の付与には、例えば、感熱紙に使用されている公知の技術を適用することができる。また、露光による加熱により層の光透過性や光散乱性を変化させることで、露光部と未露光部との識別性を付与してもよい。例えば、層[A]にチタンブラック等の着色性の高いの光熱変換剤を含有させるか、もしくは層[A]の下にさらに着色した層を設けると、未露光部は着色がされて見え、露光部は光散乱性が増加して白くなることで可視画性が得られる。
【0096】
本発明の印刷版材料を使用して印刷版を製造するには、画像露光は赤外線レーザー(近赤外線レーザーを包含する)による露光が好ましい。露光機にはサーマルCTP用の一般的な露光機を使用できる。露光エネルギーは100〜500mJ/cm2が好ましい。このような画像露光により層[A]に含有する熱により溶融する素材が溶融し、少なくともその一部が層[B]に浸透、又は層[B]の表面にまで浸出し、インキ受容性の画像部を形成する。
【0097】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
塗布液の作製
表1〜表4に示す組成、分散条件及び多孔質無機粒子の粒径(SEM観察による)で塗布液を作製し、ろ過して層[B]の塗布液及び比較用塗布液とした(塗布液No.[1]〜[8])。また、表5〜表6に示す組成及び分散条件で塗布液を作製し、ろ過して層[A]の塗布液とした(塗布液No.[9]〜[15])。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
基材の調製
(Al基材)
Al基材1
厚さ0.24mmの1050材アルミニウム基材を、2wt%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、50℃で30秒間浸漬して脱脂した。十分に水洗した後、2wt%の3号ケイ酸ナトリウム水溶液に70℃で30秒間浸漬処理し、水洗した後、十分に乾燥した。
【0106】
Al基材2
Al基材1と同様にして脱脂したアルミニウム基材を、20wt%の硫酸水溶液を用い、25℃で20Vの電圧で陽極酸化処理して、0.5g/m2の陽極酸化皮膜を形成した。水洗した後、Al基材1と同様にしてケイ酸ナトリウム処理を行った。
【0107】
Al基材3
Al基材1と同様にして脱脂したアルミニウム基材を、2.0wt%の硝酸水溶液に10秒間浸漬・中和し、30℃、2.0wt%の硝酸水溶液を用いて、ピークの電流密度が60A/dm2の正弦波で正の電気量が500C/dm2となるように電解粗面化処理を行った。次いで、1wt%水酸化ナトリウム水溶液を用い、30℃で20秒間浸漬し、水洗した後、Al基材2と同様にして陽極酸化処理とケイ酸ナトリウム処理を行った。
【0108】
Al基材4
Al基材2と同様にして陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材表面に、特開平8−240914号公報の実施例1に記載されているものと同一の方法により有機−無機ゾルゲル皮膜を形成した。
【0109】
(ポリエチレンテレフタレート基材)
下塗り層の形成
厚さ0.18mmのポリエチレンテレフタレートフィルムに以下の方法により下記第1下塗り層と第2下塗り層の2層からなる下塗り層を形成した。
【0110】
第1下塗り層
ポリエチレンテレフタレートフィルム基材の塗布面にコロナ放電処理を施した後、下記組成の第1下塗り層塗布液を、20℃、相対湿度55%の雰囲気下でワイヤーバーにより乾燥後の膜厚が0.4mとなるように塗布した。その後、140℃で2分間乾燥を行った。
【0111】
第1下塗り層塗布液
以上に蒸留水を加えて1000mlとし、塗布液とした。
【0112】
第2下塗り層
上記の第1下塗り層を形成した面にコロナ放電処理を施した後、下記組成の第2下塗り層塗布液を、35℃、相対湿度22%の雰囲気下でエアーナイフ方式により乾燥後の膜厚が0.1μmとなるように塗布した。その後、140℃で2分間乾燥を行った。
【0113】
第2下塗り層塗布液
ゼラチン 9.6g
界面活性剤(A) 0.4g
硬膜剤(b) 0.1g
以上に蒸留水を加えて1000mlとし、塗布液とした。
【0114】
【化1】
【0115】
印刷版材料の作製
表7に示した基材および層構成で実施例1〜16、比較例1〜5の印刷版材料を作製した。各層はワイヤーバーを用いて指定の付量となるように塗布した後、70℃で3分間乾燥した。また、得られた印刷版材料は相対湿度30%、55℃の条件で48時間エイジングを行った。
【0116】
【表7】
【0117】
上記各印刷版材料を層[B]を外側にしてレーザー露光機のドラムに巻きつけ、830nmの赤外線レーザーで4000dpiの解像度(レーザービーム径6μm)で露光エネルギー量を変化させて画像様に露光して画像を形成し印刷版を作製し、下記品質について下記の方法で評価した。以上の結果を下記表8に示す。
【0118】
レーザー露光時のアブレーションの有無
印刷版材料の露光後の画像部をSEM観察し、アブレーションが発生し始める最低露光エネルギー量を求めた。
【0119】
可視画性
露光部と未露光部とのコントラストを目視で判断した。
【0120】
感度
露光して得られた印刷版を使用し、印刷機として三菱重工業(株)製DAIYA1F−1を用い、コート紙、湿し水(東京インキ(株)製H液SG−51 濃度1.5%)、インキ(東洋インキ(株)製トーヨーキングハイエコーM紅)を使用して印刷を行った。目視判断でかすれのない良好な印刷画像が得られた最低の露光エネルギー量を感度とした。
【0121】
解像度
上記感度評価で感度として示した露光エネルギー量に対応する紙面上の画像細線部を顕微鏡観察し、途切れること無く再現している細線幅と、その細線エッジのシャープさを評価した。
【0122】
印刷適性(地汚れの発生し難さ)
湿し水供給量を低減していった際の地汚れの発生し難さを評価した。
【0123】
印刷適性(汚し回復性)
1000枚印刷後、湿し水の供給を切り、インクのみを印刷版全体に付けた後、再度湿し水を供給して、印刷を再開した。紙面非画線部の汚れの程度が1000枚印刷時点と同等になった印刷枚数で汚し回復性を評価した。この印刷枚数が多いほど不良である。
【0124】
印刷適性(ブランケット汚れ)
5000枚印刷後のブランケット上の非画線部の相当する部分の汚れを目視で判定した。
【0125】
【表8】
【0126】
【発明の効果】
本発明によれば、下記▲1▼〜▲4▼に示す印刷版材料及びそれを用いた画像形成方法が提供される。
【0127】
▲1▼アブレーションにより画像形成するタイプの印刷版材料と比較して、高解像度記録が可能であり、点質も良好な印刷版材料。
【0128】
▲2▼表層が導電性を有する金属酸化物光熱変換材を含有した高親水性層(非画像部)の高親水性を維持しつつ画像部を形成することが可能な印刷版材料。
【0129】
▲3▼他方式相変換CTPの印刷版材料と比較して地汚れ、ブランケット汚れ、汚し回復性が非常に良好(特にアロマフリーインクやエコマーク付きインクの場合)な印刷版材料。
【0130】
▲4▼完全無処理Dry−CTPであり、機上現像タイプCTPの印刷版材料と比較して印刷機汚染(ブランケットのゴースト等を含む)がない印刷版材料。
Claims (16)
- 基材上に融点が50℃以上122℃以下で、かつ140℃での溶融粘度が8〜150cpsである素材を含有する層[A]と、その上に形成される平均粒子径が1μm以下である多孔質無機粒子および光熱変換機能を有する素材を含有する層[B]とを有する印刷版材料。
- 層[A]にも光熱変換機能を有する素材を含有する請求項1記載の印刷版材料。
- 光熱変換機能を有する素材が赤外線を吸収し、熱に変換する素材である請求項1又は2記載の印刷版材料。
- 光熱変換機能を有する素材が導電性を有する素材である請求項1、2又は3記載の印刷版材料。
- 光熱変換機能を有する素材が導電性を有する金属酸化物である請求項4記載の印刷版材料。
- 層[B]の平均厚さが0.1〜3μmである請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 層[B]に含有される多孔質無機粒子が多孔質シリカ、多孔質アルミノシリケート及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 層[B]が平均粒径100nm以下の金属酸化物微粒子を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 金属酸化物微粒子がコロイダルシリカである請求項8記載の印刷版材料。
- 層[B]に含有される有機成分が層全体の0〜30wt%である請求項1〜9のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 融点が50℃以上122℃以下である素材が水反撥性である請求項1〜10のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 融点が50℃以上122℃以下である素材が軟化点40℃以上122℃未満である請求項1〜11のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 融点が50℃以上122℃以下である素材が粒径0.05〜10μmの粒子状である請求項1〜12のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 基材上に形成されたいずれかの層が熱により発色または消色または色相が変化する機能を有する素材を含有するか、又は層自体の光透過度が変化する機能を有する請求項1〜13のいずれか1項に記載の印刷版材料。
- 請求項1〜14のいずれか1項に記載の印刷版材料を画像様に加熱し、層[A]に含有する融点が50℃以上122℃以下である素材を溶融させ、少なくともその一部を層[B]に浸透又は層[B]表面にまで浸出させることで画像部を形成する画像形成方法。
- 画像様の加熱を赤外線レーザー光で行う請求項15記載の画像形成方法。
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