JP3651700B2 - アンモニア吸着濾過布 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、水溶液中のアンモニアを速やかに吸着するアンモニア吸着濾過布に関する。
【0002】
【従来の技術】
生活様式の変化、居住環境の高密度化や機密性の高まり等により、悪臭が問題とされ、臭いの除去に対する要求が高まっている。一方ペツトの飼育の中でも、水を取り替えるという手間を除けば比較的世話が簡単で室内のアクセサリ−にもなるということで近年、特に観賞魚に対するブ−ムが起こっている。しかし、従来の塩化ビニリデン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維で構成された不織布では、観賞魚から排泄されたアンモニアを吸着することが困難で、水の取り替えを頻繁に行うといった煩雑な面があった。消臭繊維としては、消臭性物質を繊維表面に付着固定させたものや、活性炭素繊維等が知られているが、前者は耐久性や風合いなどに問題があり、後者は価格やアンモニアに対する消臭性能に問題がある。アンモニアに対する消臭繊維としては、中和反応による消臭機構を利用したものが多く知られているが、繊維に該反応に関わる物質を後加工により付着させたものは、水中に溶けだすなどの問題を有しており、基本的に消臭能力が得られない。また繊維中に官能基を導入する方法としては、アクリル繊維中にカルボキシル基を導入する方法があるが、この方法では官能基を増やすことによって繊維物性が悪くなることから、機械的な繊維物性も兼備した消臭能力の大きなものは得られていないのが実状である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、観賞用としての飼育槽等から排泄される水溶液中のアンモニアを効率よく吸着する濾過布を安価に提供するにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、アンモニアに対する吸着量が多く吸着速度も速い、しかも取扱いが容易で且つ各種形態に容易に加工しえる、機械的物性を有するアンモニア吸着繊維を見いだし、その調合や形態を研究し本発明の完成に至った。
【0005】
本発明のアンモニア吸着濾過布は、アンモニア吸着繊維を5〜90重量%含有し、熱融着繊維により熱接着された不織布からなりアンモニア吸着繊維は、ヒドラジン架橋による窒素含有量の増加が1.0〜8.0重量%である架橋アクリル系繊維であって、残存ニトリル基の一部には2.0〜6.0m mol/g、好ましくは3.0〜6.0m mol/gのカルボキシル基が、残部にはアミド基が導入されており、1g/d以上の引張強度を有するものである。
【0006】
本発明に用いるアンモニア吸着繊維は、架橋アクリル系繊維であるが、その出発アクリル系繊維としてはアクリロニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であり短繊維、トウ等いずれの形態のものでも良く、また、製造工程中途品、廃繊維などでも構わない。
【0007】
AN系重合体は、AN単独重合、ANと他のモノマ−との共重合体のいずれでも良く、他のモノマ−としては、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル(なお(メタ)の表記は、該メタの語の付いたもの及び付かないものの両方を表す);メタリルスルホン酸、P−スチレンスルホン酸等のスルホン酸含有モノマ−及びその塩;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸含有モノマ−及びその塩;アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等のその他のモノマ−が挙げられる。
【0008】
出発アクリル系繊維の製造手段に限定はなく、適宜公知の手段がもちいられる。
【0009】
該アクリル系繊維に、ヒドラジン架橋を導入する方法としては、窒素含有量の増加が 1.0〜 8.0重量%に調整しうる手段である限り採用できるが、ヒドラジン濃度 6〜80重量%の水溶液、温度50〜 120℃で 1〜5 時間処理する手段が工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とは原料アクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン架橋アクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。なお、窒素含有量の増加が下限に満たない場合には、最終的に実用上満足し得る物性の繊維が得られない。また上限を越えると、最終的にアンモニアの充分な吸着能力が得られない。本発明である該増加が 1.0〜 8.0重量%となる条件については、反応の温度、濃度、時間等の反応因子と窒素含有量の増加の関係を実験で明らかにすることにより、容易に決定出来る。ここに使用するヒドラジンとしては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン等が例示される。
【0010】
次に、加水分解反応により,ヒドラジン架橋されずに残存しているニトリル基を実質的に消失させ、 2.0〜6.0m mol/gのカルボキシル基と残部にアミド基を導入する方法としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア等の塩基性水溶液、或いは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液を含浸、又は該水溶液中に原料繊維を浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。本発明であるカルボキシル基量が 2.0〜6.0m mol/gとなる条件については、反応の温度、濃度、時間等の反応因子と導入されるカルボキシル基量の関係を実験で明らかにすることにより、容易に決定出来る。なお、前記架橋結合の導入と同時に加水分解反応を行うことも出来る。ここにおいて、塩基で加水分解した場合にはカルボキシル基をH型にする必要がある。
【0011】
カルボキシル基をH型にする方法としては、上述した加水分解繊維を下記に例示する各種の酸性水溶液に浸漬し、しかる後に乾燥する方法が好適に用いられる。酸性水溶液としては、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等の水溶液を挙げることが出来る。
【0012】
なお、カルボキシル基が上記下限に満たない場合には、代表的な脱臭剤である活性炭と同レベルの吸着しか得られず、また上限を越えると、実用上満足し得る繊維物性が得られない。
【0013】
この様にして、引張強度が1 g/d以上でアンモニアの吸着能力に優れ、その吸着速度が速い繊維を提供することが出来る。
【0014】
また、実用上問題のない繊維物性と高度のアンモニア吸着能力を兼ね備えた繊維を提供するためには、特に下記性能を備えた出発アクリル系繊維を採用することが望ましい。即ち、繊維を形成するAN系重合体分子が充分に配向しておりコンゴ−レッド(以下CRという)二色性比が 0.4以上、更に好ましくは 0.5以上のアクリル系繊維を選択することが望ましい。なお、CR二色性比は、高分子化学23 (252) 193 (1966) 記載の方法に従って求められるものである。
【0015】
なお、かかるアクリル系繊維の製造手段に限定はなく、上記CR二色性比が満たされる限り、適宜公知の手段を用いることが出来るが、中でも全延伸倍率を6倍以上、好ましくは8倍以上とし、かつ工程収縮率を30%以下、好ましくは20%以下とする手段の採用により工業的有利に所望のアクリル系繊維を作製することが出来る。
【0016】
更に、出発アクリル系繊維として、延伸後であって熱処理前の繊維(AN系重合体の紡糸原液を常法に従って紡糸し、延伸配向されてはいるが、乾燥緻密化、湿熱緩和処理等の熱処理の施されていない繊維、中でも湿式又は乾/湿式紡糸延伸後の水膨潤ゲル状繊維:水膨潤度30〜150 %)を使用することにより、反応液中への繊維の分散性、繊維中への反応液の浸透性などが改善され、以て架橋結合の導入や加水分解反応が均一且つ速やかに行われるので望ましい。言うまでもないが、水膨潤度とは乾燥繊維重量基準で表した含有又は付着水分量の百分率である。
【0017】
また本発明に用いる不織布の製造方法は、一般的な方法が採用出来る。例えばクロスレイ法、エアレイ法で熱融着繊維を混綿する方法等でよい。使用時の密度を保持し、さらに不織布の強力向上のため、熱処理を行いアンモニア吸着繊維を熱融着繊維により熱接着させる必要がある。
【0018】
本発明のアンモニア吸着濾過布は、アンモニア吸着繊維を 5〜90重量%含有する。好ましくは10〜90重量%である。5 重量%未満では、実用上アンモニア吸着能力が不足し、90重量%を越えると不織布としての強力が得られない。
【0019】
本発明に用いる熱融着繊維の種類は、特に限定は認められない。例えば市販されている芯にポリプロピレン、鞘にポリエチレンを複合した繊維、芯にホリエステル、鞘にポリエチレンを複合した繊維、芯にホリエステル、鞘に変性ポリエステルを複合した繊維等がある。熱融着繊維のデニ−ルは特に限定しないが、一般には 2〜30デニ−ルの範囲のものが用いられる。熱融着繊維の混率は、通常10重量%以上あればよい。
【0020】
本発明のアンモニア吸着濾過布は多層構造で使用しても何ら構わない。例えばポリエステル不織布とアンモニア吸着濾過布との組み合わせポリエステル不織布、活性炭素繊維不織布とアンモニア吸着濾過布との組み合わせ及びこれら組み合わせの不織布をニ−ドルパンチする前のカ−ドウェブの状態で熱処理し一体とした不織布等である。
【作用】
本発明に係るアンモニア吸着繊維並びに該製造方法が高度のアンモニア吸着能力を有しつつ糸物性を兼ね備える理由は、充分に解明するに至っていないが、概ね次のように考えられる。
【0021】
即ち、本発明に係る繊維は、AN系重合体から出発していながら、実質的にニトリル基が消失していることから、ポリマ−鎖に結合している側鎖は、ヒドラジンとの反応により生成した窒素を含有する架橋構造と、ニトリル基の加水分解反応により生成したカルボキシル基と考えられる。当該繊維がアンモニアを吸着するのは、カルボキシル基とアンモニアが酸・塩基反応により結合するためであろう。この酸・塩基反応は可逆反応であるので、該繊維の吸着能力は容易に再生される。ここで、高度のアンモニア吸着能力と糸物性を兼ね備えることが出来たのは、内部に架橋構造を有しているためで、以てアクリル系繊維の糸状を形成するのに必須であるニトリル基を消失させカルボキシル基に変換しても、糸物性が保持されるのであろう。
【0022】
また、加工性能を支えているのは、CR二色性比に見られる配向構造に由来するところが大であろう。
【0023】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の要旨はこれによって限定されるものではない。実施例中の百分率は、断りのない限り重量基準で示す。なお、カルボキシル基量は以下の方式により求めた。
【0024】
(1)カルボキシル基量(m mol/g)
充分乾燥した供試繊維1gを精秤し (Ag)、これに 200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1N塩酸水溶液を添加してpH2にし、 0.1N苛性ソ−ダ水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された苛性ソ−ダ水溶液消費量 (Bcc) を求め、次式によってカルボキシル基量を算出した。
カルボキシル基量(m mol/g) = 0.1B/A
【0025】
参考例1
AN90%及びアクリル酸メチル10%からなるAN系重合体 (30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度〔η〕:1.2 ) 10部を48%のロダンソ−ダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸 (全延伸倍率;10倍) した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥 (工程収縮率14%) して単繊維繊度1.5dの原料繊維I (CR二色性比0.58) を得た。
【0026】
原料繊維Iを表1に示した条件でヒドラジン処理、加水分解処理を行い、1N塩酸水溶液に30分浸漬して酸処理を行った。これを脱水、水洗、乾燥し、繊維No. 1〜4を得た。得られた繊維の特性値を表1に示した。
得られた繊維 (繊維No. 1〜4) の引張強度は、1g/d以上あり、通常のカ−ドに仕掛けることができた。
【0027】
【表1】
Figure 0003651700
【0028】
実施例1
参考例1で製造した繊維No. 1のアンモニア吸着繊維と市販の芯ポリプロピレン、鞘ポリエチレンの熱融着繊維 4デニ−ル51mm、市販のポリエステル綿 4デニ−ル51mmを表2に示す割合で調合し、一般に用いられる乾式不織布法により不織布を製造した。即ち、混綿後、カ−ディング、ニ−ドルパンチし、 140℃の熱処理を行い目付 200g/m2 の不織布を製造した。
【0029】
【表2】
Figure 0003651700
【0030】
幅30cm、長さ60cm、深さ30cmの水槽にpH 6.8の水を満たし金魚20匹を入れポンプ付ろ過装置 (ニッソ−製;商品名スライドフィルタ−600)にこれらの不織布を取り付け 2週間運転した。水槽の濁りは JIS K0101 9.2に準じて透過光濁度〔度 (カオリン) 〕で求めた。数値が大きい程濁りは大きくなる。これら不織布のフィルタ−効果を表3に示した。
【0031】
【表3】
Figure 0003651700
【0032】
調合No. 7はアンモニア吸着効果は優れていたが、不織布の強力が不足した。調合No. 8はアンモニア吸着効果がないため水槽のpH及び濁度共に高くなった。調合No. 1〜7はアンモニア吸着によりpHは、ほとんど変化しなかった。

Claims (1)

  1. アンモニア吸着繊維を5〜90重量%含有し、熱融着繊維により熱接着された不織布からなり、該アンモニア吸着繊維がアクリル系繊維にヒドラジン処理により架橋結合を導入して窒素含有量の増加を 1.0 8.0 重量%の範囲に調整し、加水分解反応により、残存ニトリル基の一部に 2.0 6.0m mol/g のカルボキシル基を残部にはアミド基導入したものであることを特徴とするアンモニア吸着濾過布。
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