JP3651453B2 - 車両用空調装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、暖房時に圧縮機吐出ガス冷媒(ホットガス)を室内熱交換器(蒸発器)に直接導入することにより、室内熱交換器をガス冷媒の放熱器として使用するホットガス暖房機能を発揮する車両用空調装置において、特に、暖房モード時に室内熱交換器で凝縮水が蒸発して窓ガラスが曇ることを防止するシステムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両用空調装置では冬期暖房時に温水(エンジン冷却水)を暖房用熱交換器に循環させ、この暖房用熱交換器にて温水を熱源として空調空気を加熱するようにしている。この場合、温水温度が低いときには車室内への吹出空気温度が低下して必要な暖房能力が得られない場合がある。
【0003】
そこで、特開平5−272817号公報等において、ホットガスヒータサイクルにより暖房機能を発揮できる車両用空調装置が提案されている。この従来装置では、エンジン始動直後のごとく温水温度が所定温度より低いときには、圧縮機吐出ガス冷媒(ホットガス)を凝縮器をバイパスして室内熱交換器(蒸発器)に導入して、室内熱交換器でガス冷媒から空調空気に放熱することにより、補助暖房機能を発揮できるようにしている。すなわち、上記の従来装置おいては、空調ケース内に設置された1個の室内熱交換器を冷房モード時の冷却器および暖房モード時の放熱器として切替使用している。
【0004】
ところで、車両用空調装置では冬期暖房時に汚染外気の導入防止のため内気モードを設定する場合がある。この場合は、窓ガラスの曇り止めのために、室内熱交換器(蒸発器)の冷却、除湿作用を発揮する必要が生じるので、外気温が0°C付近に低下するまで、冷凍サイクルを冷房モードで使用することがある。
【0005】
従って、外気温=0°C付近において、窓ガラスの曇り止めのために、冷凍サイクルを冷房モードで運転させた後に、暖房能力の向上のために冷凍サイクルをホットガスヒータサイクル(暖房モード)に切り替える場合が生じる。また、冷凍サイクルの前回の冷房モード運転後、冷凍サイクルを一旦停止し、その後、冷凍サイクルを今度はホットガスヒータサイクル(暖房モード)で起動する場合がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような場合には、冷凍サイクルの冷房モード時に発生した凝縮水が室内熱交換器の表面に残存しているので、冷凍サイクルを暖房モードで起動すると、室内熱交換器が冷媒ガスの放熱器として作用し、室内熱交換器の温度が急上昇する。このため、室内熱交換器表面の凝縮水が蒸発して高湿度の空気が車室内へ吹き出して、車両窓ガラスが曇るという不具合が発生する。
【0007】
また、冷房モードの運転により室内熱交換器で一度発生した凝縮水は冬期の低外気温時では蒸発しにくく、長期間残存することがあるので、冷房モードから暖房モードへの切替直後でなくても、冷凍サイクルの暖房モードの起動により車両窓ガラスの曇りを発生させることがある。
【0008】
そこで、本発明者らは、先に、特開平12−219034号公報においてホットガス暖房機能を発揮する車両用空調装置において、暖房モード時に室内熱交換器で凝縮水が蒸発して窓ガラスが曇ることを防止することを目的とした発明を提案している。
【0009】
この従来技術では、窓ガラスの温度や窓ガラス付近の室内空気湿度に関連する物理量を検出し、この物理量に基づいて窓ガラスが曇る状態か否かを判定し、窓ガラスが曇る状態であると判定されたときは、室内熱交換器の温度、具体的には室内熱交換器の吹出空気温度を抑制するように冷凍サイクルを制御し、これにより、室内熱交換器での凝縮水の蒸発を抑え、窓ガラスの曇りを防止するようにしている。
【0010】
しかし、上記従来技術について具体的に実験検討してみると、窓ガラスが曇る状態か否かを、窓ガラスの温度や窓ガラス付近の室内空気湿度に関連する物理量に基づいて間接的に判定(推定)する方式であるので、室内熱交換器での凝縮水の保持量(本明細書では保水量という)の実態から離れた温度制御をしてしまう場合が生じる。
【0011】
すなわち、上記従来技術では、室内熱交換器での保水量を直接、判定していないので、室内熱交換器に凝縮水が保持されていない場合、つまり、実際には保水量がなくて窓ガラスの曇り防止の制御が不要となる場合にも、室内熱交換器の吹出空気温度を抑制して、ホットガス暖房モードの暖房能力を無駄に制限してしまう場合が生じる。
【0012】
本発明は上記点に鑑みてなされたもので、ホットガス暖房モード時における、車両窓ガラスの曇り防止効果を確保すると同時に、窓ガラスの曇り防止制御の必要有無を的確に判定して、ホットガス暖房モードの暖房能力を有効に発揮できるようにすることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、室内熱交換器(18)を蒸発器として作動させる冷房用冷凍サイクル(C)と、室内熱交換器(18)を放熱器として作動させるホットガスヒータサイクル(H)とを切替可能に構成し、
冷房用冷凍サイクル(C)により室内熱交換器(18)で冷却された空気を車室内へ吹き出すことにより冷房モードを実行し、また、ホットガスヒータサイクル(H)により室内熱交換器(18)で加熱された空気を車室内へ吹き出すことにより暖房モードを実行するようになっており、
更に、室内熱交換器(18)における保水量の有無を判定する判定手段(S20)と、
暖房モード時に判定手段(S20)にて保水量があると判定されたときに、空調ケース(22)からの吹出空気が車両窓ガラスにより冷却されても露点に到達しない範囲に室内熱交換器(18)の吹出空気温度を制御する制御手段(S40、S30、S50)とを備え、
少なくとも、前記冷房モード時における前記室内熱交換器(18)での凝縮水量と、前記暖房モード時における前記室内熱交換器(18)での凝縮水の蒸発量と、前記圧縮機(10)が停止状態にある放置時における前記空調ケース(22)の排水口(22a)からの凝縮水の排水量とに基づいて前記保水量を算出することを特徴とする。
【0014】
これによると、暖房モード時に保水量があると判定されたときは空調ケース(22)からの吹出空気が車両窓ガラスにより冷却されても露点に到達しない範囲に室内熱交換器(18)の吹出空気温度を制御するから、ホットガス暖房モード時における車両窓ガラスの曇り防止効果を確実に発揮できる。
【0015】
しかも、室内熱交換器(18)における保水量の有無を直接判定し、暖房モード時に保水量があると判定されたときに、室内熱交換器(18)の吹出空気温度を抑制する制御を行って、室内熱交換器(18)に保水量がない場合は室内熱交換器(18)の吹出空気温度の抑制制御を行わない。
その結果、防曇制御の必要ないときにも室内熱交換器(18)の吹出空気温度を抑制することが無くなり、ホットガス暖房モードの暖房能力を有効に発揮できる。
また、冷房モード時の凝縮水量から暖房モード時の蒸発量と放置時の排水量を減算することにより、保水量を正確に算出できる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、請求項1において、判定手段(S20)にて保水量があると判定されたときに室内熱交換器(18)の吹出空気温度を車両窓ガラスの温度以下となるように制御することを特徴とする。
【0017】
ところで、ホットガス暖房モード時に凝縮水が蒸発しても室内熱交換器(18)に強制通風されているので、室内熱交換器(18)の吹出空気の相対湿度は通常、80〜90%程度である。従って、窓ガラス近傍の空気が窓ガラスにより冷却され窓ガラスと同一温度になっても、請求項2によると、窓ガラス近傍の空気の相対湿度は室内熱交換器吹出空気と同じ80〜90%程度に上昇するだけであり、窓ガラスの曇りを生じることはない。
【0018】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2において、車両窓ガラスの温度に対する室内熱交換器(18)の目標吹出空気温度を、空調ケース(22)からの吹出空気の吹出モードおよび空調ケース(22)内に送風される空気の風量に基づいて補正することを特徴とする。
【0019】
ところで、ホットガス暖房モード時に凝縮水が蒸発しても室内熱交換器(18)の吹出空気の相対湿度は、空調ケース(22)内の送風空気の風量増加に応じて減少する。また、凝縮水の蒸発による水分が車両窓ガラスの内面側に吹き出される割合は吹出モードにより変化する。
【0020】
そこで、上記点に着目して請求項3では、吹出モードおよび送風空気の風量に基づいて室内熱交換器(18)の目標吹出空気温度を補正することにより、送風空気の風量が多い時、および車両窓ガラスの内面側への蒸発水分の吹出割合が少ない吹出モードでは、室内熱交換器(18)の目標吹出空気温度を高めの温度に補正して、ホットガス暖房モードの暖房能力の制限を緩和し、ホットガス暖房モードの暖房能力を有効に発揮できる。
【0021】
請求項4に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つにおいて、圧縮機(10)の吐出能力を制御することにより室内熱交換器(18)の吹出空気温度を制御すればよい。ここで、圧縮機(10)の吐出能力は、より具体的には圧縮機作動の断続制御、圧縮機吐出容量の可変制御、圧縮機回転数の可変制御等により制御することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明のように、請求項1ないし4のいずれか1つにおいて、凝縮水量は、室内熱交換器(18)の吸い込み空気の絶対湿度に関連する情報と圧縮機(10)の作動時間に基づいて算出することができる。
【0025】
請求項6に記載の発明のように、請求項1ないし4のいずれか1つにおいて、凝縮水量を、室内熱交換器(18)の吸い込み空気温度と、室内熱交換器(18)の通過風量と、圧縮機(10)の作動時間とに基づいて算出するようにしてもよい。
【0026】
請求項7に記載の発明のように、請求項1ないし6のいずれか1つにおいて、蒸発量は室内熱交換器(18)の吹出空気温度に基づいて算出することができる。
【0027】
請求項8に記載の発明では、請求項1ないし7のいずれか1つにおいて、放置時に、空調ケース(22)内へ送風する送風機(23)を作動させる送風モードが設定可能になっており、
放置時における排水量を、送風機(23)の停止時における排水量と送風モードにおける排水量とに基づいて算出することを特徴とする。
【0028】
これにより、放置時における排水量を送風機(23)の作動時と停止時に区分して精度良く算出できる。
【0029】
請求項9に記載の発明のように、請求項8において、送風機(23)の停止時における単位時間当たりの排水量は室内熱交換器(18)の保水量に基づいて算出することができる。
【0030】
請求項10に記載の発明のように、請求項8または9において、送風モードにおける単位時間当たりの排水量を、少なくとも室内熱交換器(18)の通過風量を含む情報に基づいて算出することができる。
【0031】
請求項11に記載の発明では、請求項8ないし10のいずれか1つにおいて、送風モードにおける室内熱交換器(18)での凝縮水の蒸発量を算出し、送風モードにおける蒸発量を保水量を算出するための情報として用いることを特徴とする。
【0032】
これにより、送風モードにおける蒸発量をも考慮して保水量をより正確に算出できる。
【0033】
請求項12に記載の発明のように、請求項1ないし11のいずれか1つにおいて、車両窓ガラスの温度を、外気温と、空調ケース(22)からの吹出空気による温度上昇分とに基づいて算出することができる。
【0034】
これにより、窓ガラス温度検出用の専用の温度センサを必要とせずに、既存のセンサ信号を利用して窓ガラス温度を算出できる。
【0035】
請求項13に記載の発明のように、請求項12において、前記温度上昇分は、具体的には、空調ケース(22)からの吹出空気の温度に関連する情報と、空調ケース(22)からの吹出空気のうち車両窓ガラス側に向かう吹出空気の風量に関連する情報とに基づいて算出することができる。
【0036】
請求項14に記載の発明では、請求項13において、圧縮機(10)は車両エンジン(12)により駆動され、空調ケース(22)内において、室内熱交換器(18)の下流側に車両エンジン(12)からの温水を熱源として空気を加熱する温水式熱交換器(24)を配置し、空調ケース(22)からの吹出空気の温度に関連する情報は、温水の温度であることを特徴とする。
【0037】
このように温水式熱交換器(24)を備えるものでは、温水の温度と車両窓ガラス側への吹出空気の風量とに基づいて、吹出空気による温度上昇分を算出することができる。
【0038】
請求項15に記載の発明のように、請求項14において、車両窓ガラスに向かって吹き出される空気の風量に関連する情報として、具体的には、空調ケース(22)から車室内へ吹き出す空気の吹出モードと空調ケース(22)内に送風される空気の風量を用いることができる。
【0039】
請求項16に記載の発明では、請求項1ないし11のいずれか1つにおいて、車両窓ガラスの温度を、外気温と、空調ケース(22)から車両窓ガラス側へ向かって吹き出される空気の温度に関連する情報と、車速に関連する情報とに基づいて算出することを特徴とする。
【0040】
ところで、車両窓ガラス温度は、車両走行動圧による車速風の冷却効果の影響を受けるので、請求項16のように、外気温および車両窓ガラス側への吹出空気温度の情報の他に、車速をも考慮して車両窓ガラス温度を算出することにより、車両窓ガラス温度の算出精度を向上できる。
【0041】
請求項17に記載の発明では、請求項16において、圧縮機(10)は車両エンジン(12)により駆動され、空調ケース(22)内において、室内熱交換器(18)の下流側に車両エンジン(12)からの温水を熱源として空気を加熱する温水式熱交換器(24)を配置し、車両窓ガラス側へ向かって吹き出される空気の温度に関連する情報は、温水の温度と、室内熱交換器(18)の吹出空気温度と、空調ケース(22)から車室内へ吹き出す空気の吹出モードと、空調ケース(22)内に送風される空気の風量とを包含していることを特徴とする。
【0042】
これにより、温水式熱交換器(24)を備えるものにおいて、車両窓ガラス側への吹出空気温度を的確に把握できる。
【0043】
請求項18に記載の発明では、請求項1ないし17のいずれか1つにおいて、ホットガスヒータサイクルによる暖房モード時に、車両窓ガラスの曇り止め制御に関与するセンサ群の故障を判定すると、ホットガスヒータサイクルによる暖房モードを停止することを特徴とする。
【0044】
これにより、曇り止め制御に関与するセンサ群が万一故障しても、ホットガスヒータサイクルによる暖房モードの停止により車両窓ガラスの曇りを未然に防止できる。従って、センサ群の万一の故障に際しても、車両の安全運転を確保でき、実用上、非常に有益である。
【0045】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0046】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態による車両用空調装置の全体構成を例示している。圧縮機10は、電磁クラッチ11を介して水冷式の車両エンジン12により駆動されるもので、例えば、固定容量型の斜板型圧縮機から構成される。
【0047】
圧縮機10の吐出側は冷房用電磁弁13を介して凝縮器14に接続され、この凝縮器14の出口側は冷媒の気液を分離して液冷媒を溜める受液器15に接続される。凝縮器14は圧縮機10等とともに車両エンジンルームに配置され、電動式の冷却ファン14aにより送風される外気(冷却空気)と熱交換する室外熱交換器である。
【0048】
そして、受液器15の出口側は冷房用減圧装置をなす温度式膨張弁16に接続されている。この温度式膨張弁16の出口側は逆止弁17を介して蒸発器18に接続されている。蒸発器18の出口側はアキュームレータ19を介して圧縮機10の吸入側に接続されている。
【0049】
上記した圧縮機10の吐出側から冷房用電磁弁13→凝縮器14→受液器15→温度式膨張弁16→逆止弁17→蒸発器18→アキュームレータ19を経て圧縮機10の吸入側に戻る閉回路により通常の冷房用冷凍サイクルCが構成される。
【0050】
温度式膨張弁16は周知のごとく通常の冷凍サイクル運転時(冷房モード時)に蒸発器18出口冷媒の過熱度が所定値に維持されるように弁開度(冷媒流量)を調整するものである。アキュームレータ19は冷媒の気液を分離して液冷媒を溜め、ガス冷媒および底部付近の少量の液冷媒(オイルが溶け込んでいる)を圧縮機10側へ吸入させる。
【0051】
一方、圧縮機10の吐出側と蒸発器18の入口側との間に、凝縮器14等をバイパスするホットガスバイパス通路20が設けてあり、このバイパス通路20には暖房用電磁弁21および絞り21aが直列に設けてある。この絞り21aは暖房用減圧装置をなすものであり、オリフィス、キャピラリチューブ等の固定絞りで構成することができる。圧縮機10の吐出側から暖房用電磁弁21→絞り21a→蒸発器18→アキュームレータ19を経て圧縮機10の吸入側に戻る閉回路により暖房用のホットガスヒータサイクルHが構成される。
【0052】
車両用空調装置の空調ケース22は車室内へ向かって空気が流れる空気通路を構成するもので、この空調ケース22内を電動式の空調用送風機23により空気が送風される。空調用送風機23は、図示の簡略化のために軸流式で示しているが、実際は、遠心式ファンを持つ遠心式送風機であり、この空調用送風機23は送風機駆動回路により制御されるブロワモータ23aにより回転駆動される。なお、本実施形態の送風機23の送風量は、ブロワモータ23aに印加するブロワ制御電圧を調整することにより、連続的または段階的に切り替え可能になっている。
【0053】
また、空調用送風機23の吸入側には、車室外空気(以下外気と言う)を吸い込むための外気吸込口70、車室内空気(以下内気と言う)を吸い込むための内気吸込口71、および内外気切替ドア(内外気切替手段)72が設けられている。なお、内外気切替ドア72は、図示しないリンク機構を介してサーボモータ等のアクチュエータにより駆動されて、外気吸込口70から外気を吸い込む外気モードと内気吸込口71から内気を吸い込む内気モードとを少なくとも切り替える。
【0054】
蒸発器18は空調ケース22内に設置される室内熱交換器であって、冷房モード時には冷房用冷凍サイクルCにより冷媒が循環して、蒸発器18での冷媒蒸発(吸熱)により空調用送風機23の送風空気が冷却される。また、暖房モード時には、蒸発器18はホットガスバイパス通路20からの高温冷媒ガス(ホットガス)が流入して空気を加熱するので、放熱器としての役割を果たす。
【0055】
なお、空調ケース22において蒸発器18の下方部位には、蒸発器18で発生する凝縮水を排水する排水口22aが設けられ、この排水口22aに接続される図示しない排水パイプを通して凝縮水は車室外へ排水される。
【0056】
空調ケース22内において蒸発器18の空気下流側には、車両エンジン12からの温水(エンジン冷却水)を熱源として送風空気を加熱する温水式の暖房用熱交換器24が設置されている。この暖房用熱交換器24への温水回路には温水流れを制御する温水弁25が備えられている。
【0057】
ところで、温水式の暖房用熱交換器24は、車室内の暖房のための主暖房手段をなすものであり、これに対して、ホットガスヒータサイクルHによる放熱器をなす蒸発器(室内熱交換器)18は補助暖房手段を構成する。
【0058】
一方、空調ケース22の最も空気下流側には、車両フロント窓ガラスの内面に向けて空調風(主に温風)を吹き出すためのデフロスタ(DEF)吹出口31と、車両乗員の顔部(上半身)に向けて空調風(主に冷風)を吹き出すためのフェイス(FACE)吹出口32と、車両乗員の足元部(下半身)に向けて空調風(主に温風)を吹き出すためのフット(FOOT)吹出口33が設けられている。更に、これらの各吹出口31〜33を選択的に開閉する複数個のモード切替ドア34〜36が回動可能に設けられている。なお、このモード切替ドア34〜36は吹出モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介してサーボモータ等のアクチュエータにより駆動される。
【0059】
空調用電子制御装置(以下ECUという)26は、マイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、予め設定されたプログラムに従って所定の演算処理を行って、電磁弁13、21の開閉およびその他の電気機器(11、14a、23、25等)の作動を制御する。
【0060】
図2は第1実施形態の電気制御ブロック図であり、ECU26には、車両エンジン12の水温センサ27a、外気温センサ27b、蒸発器18の吹出空気温度センサ27c、圧縮機吐出圧力の圧力センサ27d、内気温センサ27e、車室内への日射量を検出する日射センサ27f等のセンサ群から検出信号が入力される。
【0061】
また、車室内計器盤付近に設置される空調操作パネル28から以下の操作スイッチ群の操作信号がECU26に入力される。すなわち、エアコンスイッチ29aは冷凍サイクルの圧縮機10の起動または停止を指令するものであり、冷房モードを設定する冷房スイッチの役割を果たす。ホットガススイッチ29bはホットガスヒータサイクルHによる暖房モードを設定するもので、暖房スイッチの役割を果たす。
【0062】
更に、空調操作パネル28には、空調の吹出モードを切り替える吹出モード切替スイッチ29c、車室内の温度を所望の温度に設定する温度設定スイッチ(温度設定手段)29d、送風機23のオン、オフおよび風量切替を指令するブロワスイッチ29e、外気モードと内気モードの切替を指令する内外気切替スイッチ29f等が設置されている。
【0063】
次に、上記構成において本実施形態の作動を説明する。まず、最初に、冷凍サイクル部分の作動を説明すると、エアコンスイッチ29aが投入され、冷房モードが設定されると、ECU26により冷房用電磁弁13が開状態とされ、暖房用電磁弁21が閉状態とされる。従って、電磁クラッチ11が接続状態となり、圧縮機10が車両エンジン12にて駆動されると、圧縮機10の吐出ガス冷媒は開状態の冷房用電磁弁13を通過して凝縮器14に流入する。
【0064】
凝縮器14では、冷却ファン14aにより送風される外気にて冷媒が冷却されて凝縮する。そして、凝縮器14通過後の冷媒は受液器15で気液分離され、液冷媒のみが温度式膨張弁16で減圧されて、低温低圧の気液2相状態となる。
【0065】
次に、この低圧冷媒は逆止弁17を通過して蒸発器18内に流入して送風機23の送風する空調空気から吸熱して蒸発する。蒸発器18で冷却された空調空気は車室内へ吹き出して車室内を冷房する。蒸発器18で蒸発したガス冷媒はアキュームレータ19を介して圧縮機10に吸入され、圧縮される。
【0066】
冬期においてホットガススイッチ29bが投入され、ホットガスヒータサイクルHによる暖房モードが設定されると、ECU26により冷房用電磁弁13が閉状態とされ、暖房用電磁弁21が開状態とされ、ホットガスバイパス通路20が開通する。このため、圧縮機10の高温吐出ガス冷媒(過熱ガス冷媒)が開状態の暖房用電磁弁21を通って絞り21aで減圧された後、蒸発器18に流入する。つまり、圧縮機10からの過熱ガス冷媒(ホットガス)が凝縮器14等をバイパスして蒸発器18に直接導入される。
【0067】
このとき、逆止弁17はホットガスバイパス通路20からのガス冷媒が温度式膨張弁16側へ流れるのを防止する。従って、冷凍サイクルは、圧縮機10の吐出側→暖房用電磁弁21→絞り21a→蒸発器18→アキュームレータ19→圧縮機10の吸入側に戻る閉回路(ホットガスヒータサイクルH)にて運転される。
【0068】
そして、絞り21aで減圧された後の過熱ガス冷媒が蒸発器18にて送風空気に放熱して、送風空気を加熱する。ここで、蒸発器18にてガス冷媒から放出される熱量は、圧縮機10の圧縮仕事量に相当するものである。蒸発器18で放熱したガス冷媒はアキュームレータ19を介して圧縮機10に吸入され、圧縮される。
【0069】
なお、エンジン12の始動直後のように温水温度が低いときは空調用送風機23は低風量で始動するようにウォームアップ制御される。温水式の暖房用熱交換器24に温水弁25を介して温水を流すことにより、蒸発器18で加熱された送風空気を熱交換器24において更に加熱することができる。従って、寒冷時においても、蒸発器18と温水式の暖房用熱交換器24の両方で加熱された、より温度の高い温風を車室内へ吹き出すことができる。
【0070】
次に、第1実施形態によるホットガスヒータサイクルHの暖房モード時の能力制御を図3により具体的に説明する。図3の制御ルーチンは車両エンジン12の始動(イグニッションスイッチの投入)によりスタートし、ステップS10にて空調操作パネル28のホットガススイッチ29bが投入(ON)されているか判定する。ホットガススイッチ29bが投入(ON)されていると、すなわち、ホットガス暖房モードの設定時にはステップS20に進み、蒸発器18の保水量があるか判定する。この保水量の具体的算出方法については図5、6により後述する。なお、ホットガススイッチ29bの投入時には、冷房用電磁弁13を閉弁し、暖房用電磁弁21を開弁する。
【0071】
ステップS20では、蒸発器18の保水量が0に近い所定の最小量以下になると、蒸発器18の保水量がないと判定する。蒸発器18の保水量がないときは蒸発器18がホットガスの放熱器として作用しても蒸発器18での凝縮水の蒸発が発生せず、従って、窓ガラスの曇り発生の心配がない。そこで、ステップS30に進み、電磁クラッチ11に通電して電磁クラッチ11を接続(ON)状態とする。これにより、圧縮機10は電磁クラッチ11を介して車両エンジン12により駆動され作動(ON)状態となる。
【0072】
一方、ステップS20において、蒸発器18の保水量が所定の最小量より多いと、蒸発器18の保水量があると判定され、ステップS40に進み、蒸発器吹出空気温度Teが窓ガラスの温度Twsより高いか判定する。ここで、蒸発器吹出空気温度Teは温度センサ27cにより直接検出される温度であり、一方、窓ガラスの温度Twsはガラス内面温度であり、後述するように、外気温Tamと、車室内への吹出空気(温風)による温度上昇分とに基づいて算出(推定)されるものである。
【0073】
そして、Te>TwsであるときはステップS50に進み、電磁クラッチ11への通電を遮断(OFF)して圧縮機10を停止(OFF)させる。一方、Te≦TwsであるときはステップS30に進み、電磁クラッチ11を接続(ON)状態として圧縮機10を作動(ON)状態とする。
【0074】
以上のように圧縮機10の作動を断続制御することにより、蒸発器吹出空気温度Teを窓ガラスの温度Tws以下の温度に制御できる。ここで、暖房時には窓ガラスの曇り止めのために、通常、内外気吸入モードは絶対湿度の低い外気を導入する外気モードが選択される。そして、ホットガスヒータサイクルHの暖房モード運転を必要とする寒冷時には0℃付近の低温外気が蒸発器18に導入される。低温外気は絶対湿度が低くても相対湿度は元々高くなっている。これに加えて、蒸発器18での凝縮水の蒸発が起きると、蒸発器吹出空気の相対湿度は85%〜90%程度の高い値となる。
【0075】
蒸発器吹出空気はその後、温水式熱交換器24で加熱されて温度上昇した後、車室内へ吹き出される。この吹出空気が低温の窓ガラスに接触して蒸発器吹出空気温度Teより低い温度に冷却されると露点に到達して結露し、窓ガラスに曇りを発生することになる。
【0076】
しかし、第1実施形態によると、蒸発器18の保水量があるときは上記ステップS40、S30、S50により圧縮機10の作動を断続制御して、蒸発器吹出空気温度Teを窓ガラスの温度Tws以下となるようにしているから、車室内への吹出空気が低温の窓ガラスに接触し、窓ガラスと同等の温度まで冷却されても、その相対湿度は蒸発器吹出後の値(85%〜90%程度)に上昇するだけである。
【0077】
つまり、上記ステップS40、S30、S50において、車室内への吹出空気が窓ガラスにより冷却されても露点に到達しない範囲に蒸発器吹出空気温度Teを制御できる。これにより、蒸発器18で凝縮水の蒸発が起きても、窓ガラスの曇り発生を確実に防止できる。
【0078】
図4(a)は第1実施形態によるホットガス暖房モード時の防曇効果を説明するもので、縦軸に蒸発器吹出温度Teをとり、横軸に窓ガラス温度Twsをとったものである。窓ガラス温度Twsは車室内側の内面ガラス温度である。図中の丸印はフットモードにて、窓ガラス(車両フロントガラス)が曇り始めるときの実車評価値である。ここで、フットモードはフット吹出口33から空気を主に車室内足元部に吹き出し、且つ、少量の空気をデフロスタ吹出口31から車室内の窓ガラス内側に吹き出す吹出モードである。
【0079】
また、四角印はデフロスタ吹出口31から空気を車室内の窓ガラス内側に吹き出すデフロスタモードにて、窓ガラス(車両フロントガラス)が曇り始めるときの実車評価値である。なお、フットモードもデフロスタモードも風量はともに150m3/h程度の小風量(Lo)状態に設定している。また、蒸発器吹出空気の相対湿度は90%である。
【0080】
図4(a)の線Aは、この相対湿度:90%の蒸発器吹出空気が露点に達する窓ガラス温度Twsのライン、すなわち、曇り限界ラインであり、この曇り限界ラインAの上側が窓ガラスの曇り領域で、下側が晴れ域となる。
【0081】
従って、蒸発器保水量があるときに、上述したように、蒸発器吹出温度Teを窓ガラス温度Tws以下の温度に維持することにより、蒸発器吹出温度Teが常に曇り限界ラインAの下側の晴れ域に位置し、窓ガラスの曇りを確実に防止できる。
【0082】
なお、窓ガラス温度Twsが−8℃付近よりも低い領域では、ホットガス暖房モードを実行しても蒸発器18での凝縮水の蒸発量が減少するので、曇り限界ラインAが蒸発器吹出温度Teに対して高温側に折れ曲がり、曇り域が狭くなる。
【0083】
図4(b)は窓ガラスが曇り始めるときの蒸発器吹出温度Teと窓ガラス温度Twsとの関係を示すもので、ラインAは図4(a)の曇り限界ラインAと同じである。蒸発器吹出温度Teを窓ガラス温度Twsの変化に対してこのラインAのガラス温度以下となるように制御すれば、窓ガラスの曇りを防止できる。ラインA上の蒸発器吹出温度Teは窓ガラス温度Twsより僅かに高い温度であるから、蒸発器吹出温度Teを窓ガラス温度Tws以下となるように制御すれば、窓ガラスの曇りをより確実に防止できる。
【0084】
図4(a)(b)から分かるように、窓ガラス温度Twsが−8℃付近よりも低い領域では、窓ガラスが曇り始めるときの蒸発器吹出温度Teが窓ガラス温度Twsに対してより高温側に変化するから、図3のステップS40における窓ガラス温度Twsとして実際の窓ガラス温度よりも高温側に補正した値を用いてよいことになる。
【0085】
次に、図3のステップS30について捕捉説明すると、ステップS30では電磁クラッチ11を単に接続(ON)したままとするのではなく、実際には、圧力センサ27dにより検出される圧縮機10の吐出圧Pdが所定圧力(例えば、20kg/cm2 G)以下となるように、電磁クラッチ11を断続制御して圧縮機10の作動を断続する。
【0086】
すなわち、圧縮機10の吐出圧Pdが所定圧力以下であれば、電磁クラッチ11に通電し、圧縮機10を作動させる。これに対し、圧縮機10の吐出圧Pdが所定値より高いときは、電磁クラッチ11の通電を遮断し、圧縮機10を停止させる。このように圧縮機10を断続制御することにより、ホットガスヒータサイクルHの暖房モード時に圧縮機10の吐出圧Pdの上限を上記所定圧力以内に制御することができ、これにより、圧縮機10の吐出圧Pdの異常上昇を未然に防止して、圧縮機10の耐久寿命を向上できる。
【0087】
なお、本第1実施形態において、上記ステップS20は、蒸発器18における保水量の有無を判定する判定手段を構成し、また、ステップS40、S30、S50は、暖房モード時における蒸発器18の吹出空気温度を制御する制御手段を構成する。
【0088】
次に、蒸発器18の保水量算出の考え方を図5により説明する。図5(a)は空調用冷凍サイクルの作動形態の変化とそれに伴う蒸発器保水量の変化との関係を示すもので、車両エンジン運転時において冷房モードが設定されたときには蒸発器18の冷却除湿作用により凝縮水が発生するので、蒸発器保水量は冷房モードの作動時間(圧縮機作動時間)に比例して増加する。
【0089】
なお、図5においては、蒸発器18における凝縮水の最大保持量(満水量)が250ccである場合の保水量変化を示している。蒸発器18は車両用空調装置において一般的に使用される積層型蒸発器であり、積層プレートにより構成された偏平チューブとコルゲートフィンとを組み合わせた熱交換器構造からなり、凝縮水はフィン表面等に付着して保持される。
【0090】
図5の例では満水量が250ccであるので、ECU26はその算出保水量が満水量(250cc)に到達すると、それ以上保水量を増大せず、保水量を一定に維持するようになっている。
【0091】
図5(b)の▲1▼は冷房モード時における凝縮水量の具体例を示している。この凝縮水量は単位時間当たりの量(cc/min)であり、蒸発器18での凝縮水発生量から空調ケース22の排水口22aからの凝縮水排水量を減算した値である。図5(b)の▲1▼において、横軸の温度は蒸発器吸い込み空気の温度であり、%は蒸発器吸い込み空気の相対湿度である。蒸発器吸い込み空気の温度が高くなると、蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が増大して凝縮水量が増加する。
【0092】
図5(b)の▲1▼において、横軸のMe2は、空調用送風機23の風量が第2中間風量(本例では280m3/h程度)であることを示している。なお、空調用送風機23の風量は低風量(Lo)、第1中間風量(Me1)、第2中間風量(Me2)、大風量(Hi)の4段階にマニュアル操作で切替可能になっており、第2中間風量(Me2)は、大風量(Hi)の次に大きい風量レベルである。
【0093】
次に、放置時は、車両エンジン12の運転時に圧縮機10を停止させ、冷房モードおよびホットガス暖房モードをいずれも設定しないときと、車両エンジン12の停止に伴って圧縮機10が停止するときの両方を包含する。従って、本発明における放置時とは要は圧縮機10の停止状態を言う。
【0094】
ここで、放置時には、空調用送風機23の作動時と停止時の両方が包含される。車両エンジン12の運転時には、通常、空調用送風機23が作動状態になっているので、図5(a)の放置時のうち、空調用送風機23の停止時は車両エンジン12の停止時である。
【0095】
この放置時では、空調ケース22の排水口22aから凝縮水が排水されるので、この排水口22aからの排水量によって蒸発器保水量が減少することになる。図5(b)の▲2▼は、放置時のうち、空調用送風機23の停止時に、排水口22aからの排水量によって蒸発器保水量が放置時の経過時間とともに減少していく現象を概略図示している。
【0096】
本発明者の実験検討によると、放置時のうち、空調用送風機23の停止時では圧縮機10の停止後、所定時間(具体的には、1時間)の間、排水口22aからの排水量が大きい状態が維持され、蒸発器保水量が急激に減少する。その後は、排水量が僅少量に減少して保水量の減少が僅少になることが判明している。そして、放置時において、空調用送風機23を作動させる送風モードを設定すると、送風空気の風圧により凝縮水が蒸発器18から押し出されて排水量が再び増加するので、図5(a)の放置時の後半部分のように蒸発器保水量が再び減少する。
【0097】
次に、ホットガス暖房モードが設定されたときには蒸発器18の放熱作用により蒸発器18にて凝縮水が蒸発するので、その蒸発量の分だけ保水量が減少する。ここで、ホットガス暖房モード時にも、空調ケース22の排水口22aから凝縮水が排水されるので、図5(b)の▲3▼の蒸発量は排水口22aからの排水量を含む値である。ホットガス暖房モード時の蒸発量は蒸発器吹出空気温度Teが高くなるほど、増加する関係にある。
【0098】
以上の図5による検討から、蒸発器保水量は基本的には次の数式1により表すことができる。
【0099】
【数1】
蒸発器保水量=凝縮水量−蒸発量−放置時の排水量
ここで、放置時の排水量は、前述のように空調用送風機23の作動時、停止時の両方の排水量を包含している。
【0100】
次に、蒸発器保水量の具体的算出方法を図6により説明すると、図6の制御ルーチンは車両エンジン12の始動(イグニッションスイッチの投入)によりスタートし、車両エンジン12の運転中およびエンジン停止後の一定時間(例えば、1時間)は常時、蒸発器保水量の算出を行い、所定の時間間隔で(例えば、1分毎に)蒸発器保水量の算出値を更新するようになっている。
【0101】
図6において、先ず、ステップS100にて記憶保水量を読み込む。この記憶保水量は、前回のエンジン運転停止後、一定時間経過時点において算出され、ECU26の記憶手段にて記憶されている蒸発器保水量である。この記憶手段はECU26への電源供給停止後も、保水量の情報を記憶保持できるものである。
【0102】
次のステップS200にて冷房モードが設定されているか判定する。具体的には、エアコンスイッチ29aの投入有無等により冷房モードの設定有無を判定できる。冷房モードの設定時にはステップS300に進み、冷房モード時の保水量を、保水量=記憶保水量+凝縮水量の式にて算出する。
【0103】
ここで、冷房モード時の凝縮水量は具体的には図7(a)のマップに基づいて算出する。凝縮水量は、蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が高い程、また、冷房モード時における圧縮機(電磁クラッチ)ON時間が大きい程、増加する関係にあるので、蒸発器吸い込み空気の絶対湿度に関連する情報と圧縮機ON時間とにより凝縮水量を算出するようになっている。図7(a)の▲1▼〜▲4▼は蒸発器吸い込み空気の絶対湿度に関連する情報により選択される特性であり、▲1▼は蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が最も高い場合の空気吸い込み条件である。すなわち、空調の内外気吸入モードが外気モードであって、且つ、外気温が20℃以上の場合である。あるいは空調の内外気吸入モードが内気モードの場合である。内気は通常、外気に比較して絶対湿度が常に高いので、内気温の高低にかかわらず、内気モードの場合は常に、蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が最も高い場合に該当するとして、特性▲1▼を選択する。特性▲1▼の場合は、単位時間当たりの凝縮水量が8.3cc/minである。
【0104】
次に、▲2▼は蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が▲1▼の次に高い場合の空気吸い込み条件であり、空調の内外気吸入モードが外気モードであって、且つ、外気温が20℃未満で、10℃以上の場合である。特性▲2▼の場合は、単位時間当たりの凝縮水量が4.2cc/minである。
【0105】
▲3▼は蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が▲2▼の次に高い場合の空気吸い込み条件であり、空調の内外気吸入モードが外気モードであって、且つ、外気温が10℃未満で、5℃以上の場合である。特性▲3▼の場合は、単位時間当たりの凝縮水量が2.8cc/minである。▲4▼は蒸発器吸い込み空気の絶対湿度が最も低い場合の空気吸い込み条件であり、空調の内外気吸入モードが外気モードであって、且つ、外気温が5℃未満の場合である。特性▲4▼の場合は、単位時間当たりの凝縮水量が2.1cc/minである。
【0106】
ステップS300では、図7(a)のマップに基づいて冷房モード時の凝縮水量を算出し、この凝縮水量を記憶保水量に加えることにより、冷房モード時の保水量を算出する。
【0107】
なお、冷房モード時の凝縮水量は蒸発器吸い込み空気の風量とも相関があり、この風量が増加すれば凝縮水量が増加する関係にある。従って、凝縮水量算出の精度を高めるために、図7(a)のマップに基づいて算出される凝縮水量を風量の増加により増加するよう補正してもよい。
【0108】
図7(b)は、この風量による凝縮水量補正の具体例を示すものであり、蒸発器吸い込み空気の風量が多くなるほど、また、外気温が高くなるほど、単位時間当たりの凝縮水量を増加するようにしている。
【0109】
すなわち、空調の内外気吸入モードが外気モードであるときは、図7(b)に示すように外気温と風量とに基づいて単位時間当たりの凝縮水量を算出し、この単位時間当たりの凝縮水量と、冷房モード時における圧縮機ON時間との積により冷房モード時の凝縮水量を算出する。
【0110】
なお、空調の内外気吸入モードが内気モードであるときは、図7(b)の横軸の外気温を内気温に置換して、単位時間当たりの凝縮水量を算出するようにしてもよい。このようにすれば、内気モード、外気モードに対応して、それぞれの凝縮水量を精度良く算出できる。
【0111】
また、車室内吹出空気温度を調整する温度調整手段としてのエアミックスドアや温水流量調整弁の操作、送風機23の風量切替操作、内外気吸入モードの切替操作、吹出モードの切替操作等を乗員のマニュアル操作により行うマニュアル式空調装置の場合には、内外気吸入モードや風量レベルを示す信号が得られないので、単位時間当たりの凝縮水量として固定値を用いてもよい。この固定値としては、図7(b)に示す最大値付近の値、例えば、50cc/minが窓ガラスの曇り止め制御からみて安全側に働くので好ましい。
【0112】
一方、ステップS200の判定がNOであると、ステップS400に進み、ホットガス暖房モードが設定されているか判定する。具体的には、ホットガススイッチ29bの投入有無等によりホットガス暖房モードの設定有無を判定できる。ホットガス暖房モードの設定時にはステップS500に進み、ホットガス暖房モード時の保水量を、保水量=記憶保水量−蒸発量の式にて算出する。
【0113】
ここで、ホットガス暖房モード時の蒸発量は具体的には図8のマップに基づいて算出する。蒸発器吹出温度Teが高くなれば、蒸発器周囲の相対湿度が低下しようとするするので、凝縮水の蒸発量は増加する。そのため、単位時間当たりの蒸発量(cc/min)は蒸発器吹出温度Teの上昇に応じて増加する関係にあって、図8に示すように、蒸発器吹出温度Teが−5℃以上となる範囲で蒸発量が急増する2次曲線の特性となる。
【0114】
但し、ホットガス暖房モードの実際の使用条件は、低外気温時であって、蒸発器吹出温度Teが5℃以上に上昇する頻度が少ないことと、窓ガラスの曇り止めに対する安全性の確保とを考慮して、蒸発器吹出温度Teが5℃以上となる範囲では単位時間当たりの蒸発量を上限値の8cc/minに維持する特性としている。
【0115】
なお、ホットガス暖房モード時に空調用送風機23の送風量(蒸発器通過風量)が増加すると、蒸発器吹出温度Teが低下するという反比例の関係にあるので、図8の特性は空調用送風機23の送風量変化に影響される割合が小さい。また、蒸発器吹出温度Teが0℃以下となる低温領域では氷結状態の凝縮水が融解するという現象も発生するから、図8の蒸発量はこの融解凝縮水の量も包含している。
【0116】
一方、ステップS400の判定がNOであるときは、冷房モードでもホットガス暖房モードでもないとき、すなわち、圧縮機10が停止している放置時であり、このときはステップS600に進み、放置時の保水量を、保水量=記憶保水量−排水量の式にて算出する。ここで、放置時の排水量は排水口22aから空調ケース22外へ排水される凝縮水量であり、具体的には図9(a)、(b)のマップに基づいて算出する。
【0117】
図9(a)は放置時において空調用送風機23が停止している場合における、排水口22aからの単位時間当たりの凝縮水排水量(cc/min)を示す。この送風機停止時における凝縮水排水量は、放置時の現在の蒸発器保水量との相関が高く、蒸発器保水量が150cc付近よりも増加すると、単位時間当たりの排水量が急激に上昇する。これに反し、蒸発器保水量が150cc付近よりも減少すると、単位時間当たりの排水量が急激に減少し、そして、蒸発器保水量が50cc付近まで減少すると、単位時間当たりの排水量がほとんど0になる。従って、放置時間が長時間に及んでも、50cc程度の凝縮水は蒸発器18のフィン表面等に付着したまま残存する。
【0118】
なお、放置時において空調用送風機23が停止している場合は、車両エンジン12の運転時と車両エンジン12の停止時の両方があり、そして、車両エンジン12の停止時の場合は、車載バッテリの充電容量の減少を極力抑えるため、車両エンジン12の停止後におけるECU26の作動は極力短時間に制限すべきである。
【0119】
前述の図5(a)の特性によると、放置モード開始後(送風機停止後)の一定時間(例えば、1時間)にて排水量が僅少量に減少する。そこで、車両エンジン12の停止後の放置時においては、ECU26によりエンジン停止後の一定時間(例えば、1時間)のみ、排水量算出の演算処理を行って、エンジン停止後の一定時間後における蒸発器保水量をECU26の記憶手段により記憶保持する。エンジン停止後の一定時間の計時は、ECU26のタイマ機能により行えばよい。
【0120】
図9(b)は放置時において空調用送風機23が作動している場合、すなわち、送風モードにおける排水口22aからの単位時間当たりの凝縮水排水量(cc/min)を示す。この送風モードでは蒸発器18のフィン表面等に付着している凝縮水が送風空気の風圧により強制的に押し出されるので、図9(a)の送風機停止時に比較して凝縮水排水量が格段と増加する。
【0121】
この送風モード(送風機作動時)の凝縮水排水量は図9(b)に示すように送風量(送風空気の風圧)が増加するにつれて増加する関係にある。また、蒸発器吹出温度Teが上昇するにつれて増加する関係にある。
【0122】
なお、車両エンジン12の運転中に冷房モードとホットガス暖房モードと放置モードとを切り替える場合があるが、その場合は、ステップS300、S500、S600において、記憶保水量としてそれ以前のモードにおいて算出した最後の保水量を用いればよい。
【0123】
ところで、図3のステップS40の判定に用いる窓ガラス温度Twsは、窓ガラス内面に専用の温度センサを設置して、専用の温度センサにより直接検出するようにしてもよいが、この方式ではセンサ追加によるコストアップが生じる。そこで、本第1実施形態では、空調装置の既存のセンサ信号を利用して窓ガラス温度Twsを算出(推定)するようにしている。
【0124】
すなわち、窓ガラス温度Twsは、空調始動前の初期状態では外気温Tamと同一温度になっている。その後、暖房モードの実行により温風が車室内へ吹き出されると、その温風吹出によって窓ガラス温度Twsが上昇する。従って、温風吹出による窓ガラス温度の上昇分をΔTwsとすると、窓ガラス温度Twsは、Tws=Tam+ΔTwsの式で算出できる。
【0125】
ここで、ホットガス暖房モード時に車室内へ吹き出す温風は蒸発器18を通過後に温水式暖房用熱交換器24にて加熱されるので、温風温度は温水温度に大きく依存する。そのため、温風吹出による窓ガラス温度の上昇分ΔTwsは、図10に示すようにエンジン水温(温水式暖房用熱交換器24を循環する温水温度)の上昇に比例して増加する関係がある。従って、温風吹出による窓ガラス温度の上昇分ΔTwsはエンジン水温(温水温度)に基づいて算出することができる。
【0126】
温風吹出による窓ガラス温度の上昇分ΔTwsは、温風の温度の他に窓ガラス内側への温風風量の影響も受けるので、窓ガラス温度の上昇分ΔTwsの算出精度を高めるためには、温風の風量の影響を考慮した方がよい。図11はこの温風の温度と温風の風量の影響の両方を考慮して、窓ガラス温度の上昇分ΔTwsを算出するマップであり、温風の風量の影響度は空調用送風機23の送風レベルと吹出モードとにより判定している。
【0127】
なお、図11において、ブロワレベルとは空調用送風機23の駆動用モータ23aの印加電圧レベルのことであり、このブロワレベルの切替により空調用送風機23の回転数、ひいては風量が調整されるようになっている。本第1実施形態では、送風機23の風量のオート制御を行う際にはECU26の制御出力によりブロワレベルを32段階に制御可能になっており、ブロワレベル=6は小風量(Lo)状態に相当し、150m3/h程度の風量レベルである。
【0128】
図11(a)(b)は吹出モードがフットモードおよびフットデフロスタモードの場合であり、図11(a)は上記ブロワレベル≦6の場合(小風量(Lo)状態の場合)を示し、図11(b)は上記ブロワレベル>6の場合を示す。なお、フットデフロスタモードはフットモードに比較してフット吹出風量を減少させ、デフロスタ吹出風量を増加して、フット吹出風量とデフロスタ吹出風量とを同程度にする吹出モードである。
【0129】
これに対し、図11(c)(d)は吹出モードがデフロスタモードの場合であり、図11(c)は上記ブロワレベル≦6の場合(小風量(Lo)状態の場合)を示し、図11(d)は上記ブロワレベル>6の場合を示す。
【0130】
更に、ホットガス暖房モードは車両エンジン112の始動後、その直後に始動される場合に限らず、車両エンジン112の始動後、時間が経過してエンジン水温Twがある程度上昇した後にホットガス暖房モードが始動される場合がある。後者の場合には、エンジン水温Twが上昇していても窓ガラス温度は上昇していないから、このことをも考慮して窓ガラス温度の上昇分ΔTwsを算出することが精度向上のために好ましい。このため、図11においては、エンジン水温Tw≦20℃でホットガス暖房モードを始動した場合▲1▼と、20℃<エンジン水温Tw≦40℃でホットガス暖房モードを始動した場合▲2▼と、および40℃<エンジン水温Tw≦60℃でホットガス暖房モードを始動した場合▲3▼との3つに分けて、窓ガラス温度の上昇分ΔTwsを算出するようにしている。
【0131】
図11のマップを用いると、窓ガラスへ吹き出す温風の温度と温風の風量の影響の両方を考慮して、窓ガラス温度の上昇分ΔTwsを精度良く算出することができる。その結果、窓ガラス温度検出用の専用の温度センサを必要とすることなく、既存のセンサ類を使用して、窓ガラス温度を精度良く算出できる。
【0132】
(第2実施形態)
第1実施形態では蒸発器保水量を、冷房モード時の凝縮水量と、ホットガス暖房モード時の蒸発量と、放置時の排水量とに基づいて算出しているが、圧縮機10を停止させる放置時には前述のように空調用送風機23のみを作動させる送風モードを設定する場合がある。この送風モードにおいて、外気モードが選択されていると、車体側の外気通路(図1の外気導入口70の上流通路)を通過する際に車両エンジン12の熱を外気が受熱して温度上昇する。この受熱による外気温度の上昇によって蒸発器18の保水が蒸発するという現象が発生する。
【0133】
そこで、第2実施形態では、上記の送風モード時における蒸発量をも考慮して蒸発器保水量を次の数式2により算出する。
【0134】
【数2】
蒸発器保水量=冷房モード時の凝縮水量−ホットガス暖房モード時の蒸発量−放置時の排水量−送風モード時の蒸発量
なお、数式2において、放置時の排水量は、空調用送風機23も停止している放置時の排水量であり、また、送風モード時の蒸発量は排水口22aからの排水量を含む値である。
【0135】
車両エンジン12からの受熱による温度上昇分は、蒸発器吹出温度Teと外気温Tamとの差(Te−Tam)で算出でき、この温度差(Te−Tam)が増加するにつれて「送風モード時の蒸発量」が増加する。また、外気温Tamが高いほど、外気の相対湿度が低下して「送風モード時の蒸発量」が増加する。従って、送風モード時の蒸発量は、具体的には上記温度差(Te−Tam)と外気温Tamとに基づいて算出することができる。
【0136】
図12は上記考え方による送風モード時の単位時間当たりの蒸発量W(cc/min)の算出例である。但し、上記数式2における送風モード時の蒸発量は排水口22aからの排水量を含む値としているが、図12の蒸発量Wは排水口22aからの排水量を含まない、外気受熱による蒸発器保水の純粋な蒸発分のみの値である。
【0137】
図12(a)において▲1▼は上記温度差(Te−Tam)が大きく、且つ、外気温Tamも高い場合であり、蒸発量W=5.00cc/minとしている。そして、▲6▼は上記温度差(Te−Tam)が小さく、且つ、外気温Tamも最も低温である場合であり、蒸発量W=0.83cc/minとしている。▲1▼から▲3▼へ向かって蒸発量Wを順次小さくし、また、▲4▼から▲6▼へ向かって蒸発量Wを順次小さくしている。
【0138】
なお、図12の蒸発量Wの算出は、空調の内外気吸入モードが外気モードであるときに送風機23のみを作動(ON)させた場合であり、そして、上記▲1▼〜▲6▼以外の条件、すなわち、空調の内外気吸入モードが内気モードであるとき、温度差(Te−Tam)<3℃であるとき、およびTam<0℃であるときはいずれも蒸発量W=0とする。
【0139】
図12(b)は図12(a)の上記▲1▼〜▲6▼の単位時間当たりの蒸発量Wの場合に、それぞれの送風機作動時間による合計蒸発量(cc)を示している。
【0140】
(第3実施形態)
第1実施形態では、車両エンジン12の停止後における放置時(送風機停止時)の排水量を、ECU26のタイマ手段によりエンジン停止後の一定時間、例えば1時間の間、図9(a)のマップに基づいて算出する場合について説明したが、第3実施形態では、エンジン停止後の一定時間の計時は、タイマ手段を用いずに、次のように既存のセンサ信号を用いて行うことができるようにしている。
【0141】
すなわち、図13はエンジン水温Twのエンジン停止後における変化を示すものであり、ケース22の排水口22aから蒸発器凝縮水が排水される最低温度である外気温Tam=0℃の場合の水温変化を示している。なお、外気温Tamが0℃よりも低下すると、蒸発器凝縮水が凍結するので、排水口22aからの排水はなくなる。
【0142】
図13はTam=0℃の場合であるから、エンジン水温Twはエンジン停止後の時間経過により0℃に向かって低下していく。従って、このエンジン停止後における水温Twの低下特性を利用してエンジン停止後の経過時間hを算出(推定)できる。
【0143】
図14はその具体例を示すものであり、エンジン停止前にエンジン水温Twが80℃以上あって、エンジン停止後にエンジン水温Twが40℃以下に低下した場合は、エンジン停止後に30分経過したとする。また、エンジン停止前にエンジン水温Twが80℃以上あって、エンジン停止後にエンジン水温Twが30℃以下に低下した場合は、エンジン停止後に1時間経過したとする。
【0144】
更に、水温Twと外気温Tamとの温度差(Tw−Tam)が5℃以下となった場合は、エンジン停止後に1.5時間経過したとする。
【0145】
このように、エンジン停止後における水温Twの低下度合い、水温Twと外気温Tamとの温度差(Tw−Tam)を判定して、エンジン停止後の経過時間hを算出(推定)できるので、このエンジン停止後の経過時間hを用いて、エンジン停止後における一定時間の間、排水量を算出して蒸発器保水量の算出値を更新することができる。これにより、タイマ手段を用いずに、既存のセンサ信号を利用した簡便な手段にて、エンジン停止後の蒸発器保水量の更新を行うことができる。
【0146】
また、エンジン停止後の蒸発器保水量の更新を行って、蒸発器保水量算出の精度を高めることにより、次回のホットガス暖房モード時に、蒸発器吹出温度Teの上限の制限(ホットガス暖房能力の制限)を行う頻度が減少して、ホットガス暖房能力を車室内暖房性能向上のために有効に発揮できる。
【0147】
なお、エンジン水温Twの代わりに内気温Trを用いてエンジン停止後の経過時間hを算出(推定)できる。図15はTam=0℃の場合におけるエンジン停止後の内気温Trの低下度合いからエンジン停止後の経過時間hを算出する具体例である。例えば、エンジン停止後の内気温Tr=10℃→経過時間h=0.5時間、エンジン停止後の内気温Tr=0℃→経過時間h=1時間として算出する。
【0148】
また、エンジン水温Twの代わりに、車両エンジン12の停止時の外気温Tam1と車両エンジン12の始動時の外気温Tam2との温度差(Tam1−Tam2)を算出して、エンジン停止後の経過時間hを算出(推定)してもよい。図16はこのエンジン停止前後の外気温度差によりエンジン停止後の経過時間hを算出する具体例を示す。
【0149】
(第4実施形態)
第1実施形態では、外気温Tamと温風吹出による窓ガラス温度の上昇分ΔTwsとに基づいて、窓ガラス温度Twsを、Tws=Tam+ΔTwsの式で算出しているが、第4実施形態は、この窓ガラス温度Twsの算出精度をより一層向上するものである。
【0150】
図17は第4実施形態による窓ガラス温度Twsの算出(推定)の考え方を説明するものであり、車両窓ガラス40は、車両走行による車速風(走行動圧による風)によって冷却されるので、第4実施形態ではこの車速風の冷却効果をも考慮して、窓ガラス温度Twsを算出する。
【0151】
具体的には、窓ガラス温度Twsを下記数式3により算出する。
【0152】
【数3】
【0153】
但し、数式3において、
αi:車両窓ガラス40の内側熱伝達率
t:車両窓ガラス40の板厚
λ:車両窓ガラス40の熱伝導率
Ta:車両窓ガラス40におけるガラス温度推定位置40a(図17参照)での温風吹出温度
αo:車両窓ガラス40の外側熱伝達率
Tam:外気温である。
【0154】
(1)ガラス内側熱伝達率αiについて、
ガラス内側熱伝達率αi=f(吹出モード、送風機風量)で表され、吹出モードがフットモード→フットデフロスタモード→デフロスタモードへと変化するにつれて、また、送風機風量が増加するにつれてαoが増加する関係となっている。
【0155】
つまり、送風機風量が増加するにつれて車室内への吹出風量が増加し、そして、吹出モードがフットモード→フットデフロスタモード→デフロスタモードへと変化するにつれて、車室内への吹出風量のうち車両窓ガラス40の内面に吹き出すデフロスタ吹出風量の割合が増加するので、αoが増加する。
【0156】
(2)ガラス外側熱伝達率αoについて
ガラス外側熱伝達率αo=f(車速SPD)で表され、車速SPDが上昇するにつれてαoが増加する関係となっている。つまり、車速SPDの上昇に応じて車速風による冷却効果が増加して、ガラス外側熱伝達率αoを増加させる。
【0157】
(3)ガラス温度推定位置40aでの温風吹出温度Taについて
この温風吹出温度Taは、Ta=E(Tam−Taout)+Taoutの式で求めることができる。この算出式において、Taoutは、図1のデフロスタ開口部に接続されるデフロスタ吹出口(図示せず)からのデフロスタ吹出温度であって、Taoutは、Taout=Tam+K(Tw−Te)の式で求めることができ、Twはエンジン水温、Teは蒸発器吹出温度、Kは補正係数である。また、Taの算出式において、Eは吹出モードと送風機風量とに基づいて決定される補正係数である。
【0158】
図18は第4実施形態による窓ガラス温度Twsの算出(推定)値と、窓ガラス温度Twsの実測値とを対比して示すものであり、横軸は、ホットガス暖房モード始動後の経過時間である。図18(a)は40km/h走行時、図18(b)はアイドル時、図18(c)は40km/h走行とアイドル運転とを所定のパターンで繰り返す走行条件時のデータであり、外気温、吹出モード、送風機風量レベルはそれぞれ図の上部に記載した通りである。
【0159】
図18(a)〜(c)のいずれの条件においても、第4実施形態による窓ガラス温度Twsの算出値は、実測値に対して略2℃以内の僅少値だけ低めの温度を算出できる。このように、窓ガラス温度Twsの算出値が実測値に対して略2℃以内の僅少値ずれるだけあり、窓ガラス温度Twsの算出値の精度を向上できることを確認できた。また、窓ガラス温度Twsとして実測値よりも低めの温度を算出することは、車両窓ガラスの曇り止めに対して安全側に働く。
【0160】
(第5実施形態)
第1実施形態では、図4に示すように、窓ガラス温度Twsのみに基づいて蒸発器吹出温度Teを決めている。そして、図3のステップS20にて蒸発器18に保水量があると判定され、ステップS40、S30、S50にて窓ガラスの曇り止めのための制御を行う時、蒸発器吹出温度Teが窓ガラス温度Tws以下となるように、圧縮機10の作動を断続制御している。
【0161】
ところで、蒸発器18において凝縮水が相対湿度:100%となるように蒸発する最悪の条件の場合には、蒸発器吹出温度Teが窓ガラス温度Twsより低くなるように圧縮機作動を制御する必要があるが、実際には、蒸発器18に送風機23の送風空気が強制通風されるので、蒸発器通過空気の相対湿度が100%に上昇することはなく、送風機風量が大きい程、蒸発器通過空気の相対湿度が低下する。
【0162】
また、吹出モードがフットモードである場合は、デフロスタモードよりも、車両窓ガラスの内面への吹出風量が減少するので、蒸発器18にて蒸発した水分が車両窓ガラスの内面へ吹き出す割合がデフロスタモードより減少する。これにより、フットモードでは、凝縮水が蒸発しても車両窓ガラス内面付近の絶対湿度がデフロスタモードより低くなる。
【0163】
そこで、第5実施形態では、上記点を考慮して図19に示すように、窓ガラス温度Twsに対して送風機風量の上昇に応じて蒸発器吹出温度Teを高めの温度に補正する。また、吹出モードがフットモードである場合は、デフロスタモードよりも蒸発器吹出温度Teを高めの温度に補正する。すなわち、窓ガラス温度Twsに対する目標蒸発器吹出温度を送風機風量が大きい程、また、車両窓ガラスの内面への吹出風量が減少する吹出モードになる程、高めの温度に補正する。
【0164】
このように、蒸発器吹出温度Teを送風機風量および吹出モードに応じて高めの温度に補正することにより、蒸発器18に保水量がある場合のホットガス暖房能力の制限を緩和して、暖房能力をより効果的に発揮できる。
【0165】
なお、上記の説明では、ホットガス暖房モード時に、吹出モードとしてフットモードとデフロスタモードを切り替える場合について説明したが、フットモードとフットデフロスタモードとデフロスタモードとを切り替える場合には、車両窓ガラスの内面への吹出風量がデフロスタモード→フットデフロスタモード→フットモードの順に減少するので、この吹出モードの切替の順に目標蒸発器吹出温度を高めの温度に補正すればよい。
【0166】
(第6実施形態)
ホットガス暖房モード時において車両窓ガラスの曇り止め制御のために用いるセンサ群に故障が発生すると、曇り止め制御を適切に実施できず、その結果、車両窓ガラスの曇りが発生する場合が生じる。
【0167】
そこで、第6実施形態では、車両窓ガラスの曇り止め制御のために用いるセンサ群に故障が発生すると、このセンサ群の故障をECU26にて判定して、ホットガス暖房モードの作動を強制的に停止する。これにより、センサ群の故障に起因する車両窓ガラスの曇りを未然に防止できる。
【0168】
上記の曇り止め制御のために用いるセンサ群は、具体的には、蒸発器吹出温度Teを検出する蒸発器吹出温度センサ27cと、窓ガラス温度Twsの算出に用いる検出するセンサであり、更に、この後者のセンサは、具体的には、外気温センサ27d、エンジン水温センサ27a、車速センサ(図示せず)である。なお、吹出モード信号、送風機風量信号等は、ECU26自身の制御信号をそのまま利用できるので、外部からのセンサ信号は不要である。
【0169】
(他の実施形態)
なお、上記の実施形態では、空調操作パネル28に乗員より手動操作される専用のホットガススイッチ29bを備え、このホットガススイッチ29bの投入によりホットガス暖房モードを設定しているが、このような手動操作の専用スイッチ29bを設けずに、例えば、ECU26にて最大暖房状態等を判定してホットガス暖房モードを自動的に起動するようにしてもよい。
【0170】
また、マニュアル操作式の空調装置においては、冷温風の風量割合を調整するエアミックスドア、ヒータコア温水流量を調整する温水弁等の温度調整手段を手動操作するためのダイアル状あるいはレバー状の温度調整操作部材を空調操作パネル28に装備するので、この温度調整操作部材を最大暖房位置に操作すると、これに連動してホットガススイッチ29bが投入されるようにしてもよい。これによれば、ホットガススイッチ29bのための専用の操作部材が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の全体構成を示すシステム構成図である。
【図2】第1実施形態の電気制御のブロック図である。
【図3】第1実施形態によるホットガス暖房モード時の圧縮機制御を示すフローチャートである。
【図4】(a)は第1実施形態によるホットガス暖房モード時の蒸発器吹出温度制御の防曇効果を示す実験結果のグラフ、(b)はホットガス暖房モード時の蒸発器吹出温度の制御特性図である。
【図5】第1実施形態による蒸発器保水量算出の考え方の説明図である。
【図6】第1実施形態による蒸発器保水量の算出方法を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態による冷房モード時の凝縮水量を算出するための特性図である。
【図8】第1実施形態によるホットガス暖房モード時の蒸発量を算出するための特性図である。
【図9】第1実施形態による放置時の排水量を算出するための特性図である。
【図10】ガラス温度上昇分とエンジン水温との関係を示す特性図である。
【図11】第1実施形態によるガラス温度上昇分を算出するための特性図である。
【図12】(a)は第2実施形態による送風モード時の蒸発量の算出例を示す図表、(b)は送風機作動時間と送風モード時の蒸発量との関係を示す特性図である。
【図13】エンジン水温とエンジン停止後の経過時間との関係を示す特性図である。
【図14】第3実施形態においてエンジン停止後の経過時間をエンジン水温に基づいて算出するための特性図である。
【図15】第3実施形態においてエンジン停止後の経過時間を内気温に基づいて算出するための特性図である。
【図16】第3実施形態においてエンジン停止後の経過時間を外気温の変化度合いに基づいて算出するための特性図である。
【図17】第4実施形態によるガラス温度算出の考え方の説明図である。
【図18】第4実施形態によるガラス温度算出値と実測値とを示すグラフである。
【図19】第5実施形態による蒸発器吹出温度制御を説明する特性図である。
【符号の説明】
10…圧縮機、14…凝縮器(室外熱交換器)、
16…温度式膨張弁(冷房用減圧装置)、18…蒸発器(室内熱交換器)、
20…ホットガスバイパス通路、21a…絞り(暖房用減圧装置)、
C…冷房用冷凍サイクル、H…ホットガスヒータサイクル。
Claims (18)
- 圧縮機(10)より吐出された冷媒を、室外熱交換器(14)、冷房用減圧装置(16)および室内熱交換器(18)を通して前記圧縮機(10)に戻すことで、前記室内熱交換器(18)を蒸発器として作動させる冷房用冷凍サイクル(C)と、
前記圧縮機(10)より吐出された冷媒を、ホットガスバイパス通路(20)により前記室内熱交換器(18)に直接導入して前記圧縮機(10)に戻すことで、前記室内熱交換器(18)を放熱器として作動させるホットガスヒータサイクル(H)とを切替可能に構成し、
前記室内熱交換器(18)を、車室内へ向かって空気が流れる空調ケース(22)内に配置し、
前記冷房用冷凍サイクル(C)により前記室内熱交換器(18)で冷却された空気を車室内へ吹き出すことにより冷房モードを実行し、また、前記ホットガスヒータサイクル(H)により前記室内熱交換器(18)で加熱された空気を車室内へ吹き出すことにより暖房モードを実行するようになっており、
更に、前記室内熱交換器(18)における保水量の有無を判定する判定手段(S20)と、
前記暖房モード時に、前記判定手段(S20)にて前記保水量があると判定されたときに、前記空調ケース(22)からの吹出空気が車両窓ガラスにより冷却されても露点に到達しない範囲に前記室内熱交換器(18)の吹出空気温度を制御する制御手段(S40、S30、S50)とを備え、
少なくとも、前記冷房モード時における前記室内熱交換器(18)での凝縮水量と、前記暖房モード時における前記室内熱交換器(18)での凝縮水の蒸発量と、前記圧縮機(10)が停止状態にある放置時における前記空調ケース(22)の排水口(22a)からの凝縮水の排水量とに基づいて前記保水量を算出することを特徴とする車両用空調装置。 - 前記判定手段(S20)にて前記保水量があると判定されたときに前記室内熱交換器(18)の吹出空気温度を前記車両窓ガラスの温度以下となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
- 前記車両窓ガラスの温度に対する前記室内熱交換器(18)の目標吹出空気温度を、前記空調ケース(22)からの吹出空気の吹出モードおよび前記空調ケース(22)内に送風される空気の風量に基づいて補正することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
- 前記圧縮機(10)の吐出能力を制御することにより前記室内熱交換器(18)の吹出空気温度を制御することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
- 前記凝縮水量を、前記室内熱交換器(18)の吸い込み空気の絶対湿度に関連する情報と前記圧縮機(10)の作動時間に基づいて算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
- 前記凝縮水量を、前記室内熱交換器(18)の吸い込み空気温度と、前記室内熱交換器(18)の通過風量と、前記圧縮機(10)の作動時間とに基づいて算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
- 前記蒸発量を前記室内熱交換器(18)の吹出空気温度に基づいて算出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
- 前記放置時に、空調ケース(22)内へ送風する送風機(23)を作動させる送風モードが設定可能になっており、
前記排水量を、前記送風機(23)の停止時における排水量と前記送風モードにおける排水量とに基づいて算出することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用空調装置。 - 前記送風機(23)の停止時における単位時間当たりの排水量を前記室内熱交換器(18)の保水量に基づいて算出することを特徴とする請求項8に記載の車両用空調装置。
- 前記送風モードにおける単位時間当たりの排水量を、少なくとも前記室内熱交換器(18)の通過風量を含む情報に基づいて算出することを特徴とする請求項8または9に記載の車両用空調装置。
- 前記送風モードにおける前記室内熱交換器(18)での凝縮水の蒸発量を算出し、
前記送風モードにおける前記蒸発量を前記保水量を算出するための情報として用いることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1つに記載の車両用空調装置。 - 前記車両窓ガラスの温度を、外気温と、前記空調ケース(22)からの吹出空気による温度上昇分とに基づいて算出することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
- 前記温度上昇分を前記空調ケース(22)からの吹出空気の温度に関連する情報と、前記空調ケース(22)からの吹出空気のうち前記車両窓ガラス側に向かう吹出空気の風量に関連する情報とに基づいて算出することを特徴とする請求項12に記載の車両用空調装置。
- 前記圧縮機(10)は車両エンジン(12)により駆動され、
前記空調ケース(22)内において、前記室内熱交換器(18)の下流側に前記車両エンジン(12)からの温水を熱源として空気を加熱する温水式熱交換器(24)を配置し、
前記空調ケース(22)からの吹出空気の温度に関連する情報は、前記温水の温度であることを特徴とする請求項13に記載の車両用空調装置。 - 前記車両窓ガラスに向かって吹き出される空気の風量に関連する情報は、前記空調ケース(22)から車室内へ吹き出す空気の吹出モードと前記空調ケース(22)内に送風される空気の風量であることを特徴とする請求項14に記載の車両用空調装置。
- 前記車両窓ガラスの温度を、外気温と、前記空調ケース(22)から前記車両窓ガラス側へ向かって吹き出される空気の温度に関連する情報と、車速に関連する情報とに基づいて算出することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
- 前記圧縮機(10)は車両エンジン(12)により駆動され、
前記空調ケース(22)内において、前記室内熱交換器(18)の下流側に前記車両エンジン(12)からの温水を熱源として空気を加熱する温水式熱交換器(24)を配置し、
前記車両窓ガラス側へ向かって吹き出される空気の温度に関連する情報は、前記温水の温度と、前記室内熱交換器(18)の吹出空気温度と、前記空調ケース(22)から車室内へ吹き出す空気の吹出モードと、前記空調ケース(22)内に送風される空気の風量とを包含していることを特徴とする請求項16に記載の車両用空調装置。 - 前記暖房モード時に、車両窓ガラスの曇り止め制御に関与するセンサ群の故障を判定すると、前記暖房モードを停止することを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
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