JP3651231B2 - 光学的情報記録用媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザー光照射による相変化によって生じる反射率差または反射光位相差を利用した記録消去可能な光学的情報記録用媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
光ディスクは再生専用型、記録可能型(書換可能型を含む)に分けられ、再生専用型はビデオディスク、オーディオディスク、さらには大容量コンピューター用ディスクメモリーとしてすでに実用化されている。
記録可能型の代表的なものには孔あけ・変形型、有機色素型、光磁気型、相変化型がある。孔あけ・変形型としてはTe等の低融点金属または染料等の記録層が用いられ、レーザー光照射により局所的に加熱され、孔もしくは凹凸部が形成される。
【0003】
有機色素型としては色素または色素を含むポリマー等からなる記録層が用いられ、記録前後で反射率(屈折率)が変化する。CDフォーマット信号の記録をおこなう光記録媒体として実用化されている。
光磁気型は記録層の磁化の向きにより記録や消去を行い、磁気光学効果によって再生を行う。
【0004】
一方、相変化型は相変化前後で反射率または反射光の位相が変化することを利用するものであり、外部磁界を必要とせず反射光量の違いを検出して再生を行う。相変化型は光磁気型と比較すると、磁石を必要としない、光学系が単純である等の理由によりドライブ作製が容易で、小型化、低コスト化にも有利である。さらに、レーザー光のパワーを変調するだけで、記録・消去が可能であり、消去と再記録を単一ビームで同時に行う、1ビームオーバーライトも可能であるという利点を有する。
【0005】
相変化記録方式に用いられる記録層材料としては、カルコゲン系合金薄膜を用いることが多い。例えば、Ge−Te系、Ge−Te−Sb系、In−Sb−Te系、Ge−Sn−Te系、Ag−In−Sb−Te系合金薄膜等の使用が試みられている。
1ビームオーバーライト可能な相変化記録方式では、結晶状態の記録膜を非晶質化させることによって記録ビットを形成し、結晶化させることによって消去を行う場合が一般的である。
この場合、as−depo状態はアモルファスである場合が一般的であるため、初期状態を結晶状態とするために媒体全面を短時間で結晶化させる。この工程を初期結晶化とよぶ。通常この初期結晶化は数十〜百μm程度に絞ったレーザービームを回転する媒体に照射することにより行なう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来、共晶組成近傍の合金材料は、非晶質形成能は高いものの結晶化の際に相分離を伴うため、100ナノ秒未満の短時間の加熱では結晶化できず、オーバーライト可能な光記録媒体の記録層としては不適当であると考えられてきた(文献 Appl. Phys. Lett., vol.49(1986), p502等)。
特に、GeSbTe3元合金に注目した場合、Te85Ge15共晶組成近傍では実用的な結晶化速度は得られていない。
【0007】
一方、Sb70Te30共晶組成近傍では、反射率変化のみをモニタした極めて初歩的な方法であるけれども、Sbx Te1-x (0.58<x<0.75)2元合金が結晶−非晶質状態間で繰り返し記録消去可能であることが米国特許第5015548号において開示されている。しかし、本発明者らによれば、この組成範囲の2元合金の結晶化温度は高々120℃で非晶質状態の安定性に問題があった。
Sb70Te30に第3元素、特にGeを加えた組成範囲を含む先願としては特開平1−115685、特開平1−251342、特開平1−303643、特開平4−28587各号公報等が挙げられる。
【0008】
しかしながら、それ以後SbTe共晶組成近傍の相変化媒体に関しては実用化にむけての進展はなかった。殊に、成膜後の記録層を結晶化させる初期化操作が困難であるために生産性が低く実用に供されないという深刻な問題があった。
このため、初期化の容易な金属間化合物組成近傍の材料、あるいはその擬似2元合金のみが実用的な特性を示すと考えられていた(特開平2−243388、特開平2−243389、特開平2−243390、特開平2−255378、特開昭63−228433、特開昭61−89889各号公報、文献 Jpn. J. Appl. Phys., vol.69(1991), p2849 )。
【0009】
例えばGeSbTe3元合金については、近年、GeTe−Sb2 Te3 擬似2元合金近傍組成のみが注目され実用化されてきた。
こうした動向は、例えば1991年より毎年開催されている「相変化光メモリシンポジウム」の発表論文(予稿集に掲載されている)に顕著にあらわれている。
【0010】
本発明者らは、単純化のためSbTeからなる2元合金に注目し、従来の説にとらわれず共晶組成組成近傍の結晶化/非晶質化特性につき、より高密度記録に適した光ディスク評価機を用い、マーク長記録への適性の観点から再検討を行った。
その結果、Sb70Te30共晶組成近傍のSbTe合金を主成分とする記録層は、初期結晶化は困難であるものの一旦初期結晶化してしまえば以後の非晶質−結晶相変化による記録消去は極めて高速に行なうことができることを見出した。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、基板上に、少なくとも下部保護層、相変化型光記録層、上部保護層、反射層からなる多層構成を有してなり、結晶状態を未記録状態、非晶質状態を記録状態として光強度の2値以上の変調によりオーバーライト記録を行う光学的情報記録用媒体であって、該相変化型光記録層がMz Ny (Sbx Te1-x )1-y-z (ただし、MはAgであり、NはSi、Sn、Pbのすくなくとも1種であり、0.65≦x≦0.80、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.15である)なる組成を有することを特徴とする光学的情報記録用媒体に存する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は本発明の光学的情報記録用媒体の記録層の(N+M)、Sb、Teの組成範囲を示している。
本発明におけるMNSbTe(MはAg、NはSi、Sn、Pbのすくなくとも1種)合金薄膜の組成範囲は、Sb70Te30共晶組成近傍をベースに図1に示すようにN=Si,SnもしくはPbを添加し、さらにAgを所定量添加したものである。
【0013】
本記録層材料を用いる最大の利点は、非晶質マークの周辺部あるいは消去されたマーク内に、初期化状態と反射率の異なる粗大グレインが生じにくいということである。これは結晶成長が相分離によって律速されている共晶点近傍の合金に特有の現象である。
しかし、この記録層には、固相での結晶化速度を高めると非晶質マーク形成時の再凝固時の再結晶速度まで極端に速くなってしまい、溶融領域の外周部が再結晶化して非晶質マークの形成が不十分になりやすいという特徴がある。
【0014】
すなわちこの記録層は共晶点近傍の組成であるため、結晶化速度は相分離のための原子の拡散速度によって支配されており、拡散速度が最大となる融点直下まで加熱しないと結晶化による高速消去ができない。つまり、現在広く使用されているGeTe−Sb2 Te3 擬似2元合金組成近傍の記録層にくらべて、高結晶化速度が得られる温度範囲が狭く、かつ高温に偏っているのである。
【0015】
従って本記録層を光記録媒体に適用するためには、高結晶化速度と十分な大きさの非晶質マークの形成とを両立させるため、再凝固時の融点近傍での冷却速度をとりわけ大きくしてやる必要がある。
そこで、本発明の光学的情報記録用媒体においては、記録層材料がSb7 Te3 比を一定とする線上では基本的にSb相とSb2 Te3 相とに相分離することを利用した。
平衡状態で熱アニールした場合には、相分離がX線回折で確認できる。
【0016】
しかし、光記録媒体において非晶質マークを形成するような非平衡な過冷却状態では、過剰のSbが含まれると再凝固時にまず微小Sbクラスタが析出する。このSbクラスタが結晶核となって非晶質マーク中に残存するため、以後の非晶質膜の消去(再結晶化)は相分離に時間をかけることなく短時間で終了するものと考えられる(過剰Sbの添加効果については、奥田等、Proc. Int. Symp. on Optical Memory, 1991, p73 に詳しい)。
【0017】
本発明は、本記録層組成のこうした特徴に関する考察に基づいてなされた。
本発明記録媒体は前述のようにSb70Te302元共晶組成をベースにしており、これにSi、Sn、Pbの少なくとも1種と、Agを所定量添加する。
本発明の記録用媒体の記録特性すなわち非晶質および結晶化の可逆的プロセスは、ほとんどSb/Te比、すなわち母体となるSb70Te30共晶組成に含まれる過剰Sb量で決まる。
【0018】
Sbが多くなれば急冷状態で析出するSbクラスタサイトが増え、結晶核生成が促進されると考えられる。これは、各結晶核から同一結晶成長速度を仮定しても、成長した結晶粒で埋め尽くされるに要する時間が短縮され、結果として非晶質マークを結晶化するに要する時間が短縮されることを意味する。従って、高線速度で短時間のレーザー光照射で消去する場合に有利である。
【0019】
一方、記録層の冷却速度は記録時の線速度にも依存する。すなわち、同一層構成であっても低線速度ほど冷却速度は低下する。従って、低線速度ほど非晶質形成のための臨界冷却速度が小さい組成、すなわち過剰Sb量の少ない組成が望ましい。
まとめると、Sb70Te30共晶組成を基準として、過剰Sb量が多い組成ほど高線速度に適している。
【0020】
Si、Sn、Pbのうちの1種を添加することは特に、ガラス転移温度を高め非晶質状態の熱的安定性を改善する効果がある。
N(=Si、Sn、Pbのうちの1種)の添加量に関しては、20原子%を越えるとN−Te、N−Sb2元合金の金属間化合物組成が相分離しやすくなり、繰り返しオーバーライトによる組成変動の原因となるので好ましくない。より好ましくは15原子%以下とする。なお、1原子%未満では、添加効果がほとんど得られない。
【0021】
また、後に詳しく述べるがAgもしくはZnを添加することにより後述の初期化操作における結晶化時間が短縮される。AgとZnを併せ用いても良い。
Si、Sn、Pb、Ag、Znの添加により、母体となるSbTeが共晶となるのはSb60Te40からSb65Te35程度にずれるようである。
さて、本発明の(Ag、Zn)NSbTe(=Si、Sn、Pbのうちの1種)合金全体としての線速依存性は、上記のようにこの組成をベースに過剰のSbをどれだけ含むかによって決まる。
【0022】
高線速に対応させるには、前述のように過剰なSb量を増やせばよいが、あまり増やすと非晶質ビットの安定性が損なわれるので、Sbx Te1-x の比からいえば、0.65≦x≦0.80である。好ましくは0.70≦x≦0.75である。さらに繰り返しオーバーライトによるSbもしくはN−Sb合金の析出を防ぐには0.70≦x≦0.73が望ましい。
【0023】
本発明における光学的情報記録用媒体の層構成は、基板上に少なくとも下部保護層、相変化型記録層、上部保護層、反射層を設けてなる。保護層、記録層、反射層はスパッタリング法などによって形成される。記録膜用ターゲット、保護膜用ターゲット、必要な場合には反射層材料用ターゲットを同一真空チャンバー内に設置したインライン装置で膜形成を行うことが各層間の酸化や汚染を防ぐ点で望ましい。また、生産性の面からもすぐれている。
【0024】
本発明における記録媒体の基板としては、ガラス、プラスチック、ガラス上に光硬化性樹脂を設けたもの等のいずれであってもよいが、コストを含む生産性の面ではプラスチックが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂が好ましい。
記録層の膜厚は好ましくは15nm以上、30nm以下である。15nm未満ではコントラストが取りにくく、また結晶化速度が遅く、消去が困難となる。30nmを超えるとやはりコントラストが得にくく、また記録感度が悪くなる。
【0025】
上下の保護層の材料は、屈折率、熱伝導率、化学的安定性、機械的強度、密着性等に留意して決定される。一般的には透明性が高く高融点であるMg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ho、Er、Yb、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Si、Ge、Pb等の酸化物、硫化物、窒化物やCa、Mg、Li等のフッ化物を用いることができる。これらの酸化物、硫化物、窒化物、フッ化物は必ずしも化学量論的組成をとる必要はなく、屈折率等の制御のために組成を制御したり、混合して用いることも有効である。
【0026】
繰返し記録特性を考慮すると誘電体混合物が好ましい。具体的にはZnSや希土類硫化物と酸化物、窒化物、炭化物等の耐熱化合物の混合物が挙げられる。
下部保護層は特に、プラスチック基板の熱変形を抑える機能も求められるので、少なくともその膜厚は50nm以上が好ましい。また、500nmを超えると内部応力によりクラックが生じ易くなるので500nm以下であるのが好ましい。
好ましい膜厚範囲は50nm以上500nm以下と広いが、通常はこの範囲から、光干渉効果を考慮して反射率や、記録前後の反射率差、位相差が適当な値になるように選ばれる。
【0027】
特に好ましい構造としては、該下部保護層の記録層に接する側の1nm以上10nm以下の部分がカルコゲン化合物と分解温度または融点が1000℃以上のカルコゲン化物ではない耐熱性化合物との混合物からなり、残部が上記耐熱性化合物と異種又は同種の耐熱性化合物からなるものが挙げられる。
カルコゲン化合物としては、MgS、CaS、SrS、BaSなどのIIa属元素の硫化物や、MgSe、CaSe、SrSe、BaSeなどのIIa属元素のセレン化物が挙げられる。
【0028】
上記硫化物又はセレン化物はカルコゲン元素を含むため相変化型記録層に主として含まれるカルコゲン及びその周辺元素との密着性も良い。
単なる酸化物よりなる誘電体層を用いた場合に比べ大幅な改善が見られる。
カルコゲン化物ではない耐熱性化合物としては、Al、Si、Ge、Y、Zr、Ba、Ta、Nb、V、W、Hf、Sc又はランタノイドの酸化物、Al、Si、Ge、Ta、Bの窒化物、Mg、Ca、Nd、Tb、Laの弗化物、Si、Bの炭化物等が挙げられる。
【0029】
これらのうち、弗化物を用いる場合には、酸化物も合わせて用いた方が脆性が改善される傾向にあるので好ましい。
コスト、ターゲット製造の容易さ等の観点から、二酸化珪素、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化タンタル、LaF3 、NdF3 、TbF3 、SiC、Si3 N4 、AlNを用いるが好ましい。
【0030】
上記2種の物質の膜中の合計量は含有率にして50mol%以上が好ましく、さらに好ましくは80mol%以上である。この含有率が50mol%を下回ると、基板や記録膜の変形防止効果が不十分であり、保護層としての役目をなさない傾向がある。
またカルコゲン化合物の含有率は保護層全体の10mol%以上、95mol%以下が好ましい。10mol%未満では望みの特性が発揮されない。また95mol%を超えると光学吸収係数が大きくなり、好ましくなく、より好ましくは15mol%以上90mol%以下である。
【0031】
また上記耐熱性化合物の含有率は誘電体層全体の5mol%以上、90mol%以下が好ましく、より好ましくは10mol%以上である。これ以外の範囲では望みの特性が得られないことがある。
耐熱性化合物は1000℃以上の耐熱性と共に記録再生に用いるレーザー光に対して光学的に十分透明であることが必要となる。
【0032】
すなわち、50nm程度の厚さで約600nm以上の波長領域で複素屈折率の虚部が0.05以下であることが望ましい。
この光学的透明性を得るために、スパッタ成膜時に、Arと酸素及び/又は窒素との混合ガスを用いると好ましい。
特に、硫化物、及びセレン化物中のSやSeは蒸気圧が高いために、スパッタ中に一部が分解、蒸発する傾向がある。
このように、保護層中にSやSeの欠損が多いと、光吸収性の欠陥となり、また、化学的にも不安定であるために好ましくない。
【0033】
上記のように、酸素や窒素をスパッタガスに添加することは、この欠損を酸素や窒素で置き換えることを目的としている。
このとき上記カルコゲン化合物の金属元素の酸化物や窒化物が膜中に一部形成されるが、耐熱性化合物の一部として働くために、膜の特性は特に損なわれない。
ところで、本誘電体層は、一般に高周波放電スパッタで製造されるため、成膜速度が遅い傾向があり、生産性の面からは200nm以上の厚膜を設けることは好ましくはない。
【0034】
従って、厚膜を形成する必要がある場合には、全膜厚のうち記録層に接する側の1nm以上10nm以下の部分がカルコゲン化合物と分解温度または融点が1000℃以上のカルコゲン化物ではない耐熱性化合物との混合物からなり、残部が上記耐熱性化合物と異種又は同種の耐熱性化合物からなる保護膜とするのがよい。
少なくとも記録層界面側に本組成の誘電体層を適用すれば、全膜厚を本発明で特徴とする組成の誘電体層とした場合と同様の効果が得られる。
【0035】
ただし、記録層界面側の複合誘電体層と、その上に設ける耐熱化合物保護膜との密着性が良くなければ、剥離を生じやすいので、両者の組み合わせには注意を要する。最も問題の少ない組み合わせは、記録層界面側の複合誘電体層に含まれる耐熱性化合物と同種の材料を上に設ける耐熱性化合物保護膜として用いることである。
【0036】
上部保護層にも上述のような材料が使用されるが、その膜厚範囲は10nm以上、30nm以下が好ましい。その最大の理由は、反射層への放熱を有効に作用させるためである。放熱を促進し、記録層再凝固時の冷却速度を高める層構成を採用することで、再結晶化の問題を回避しつつ、高速結晶化による高消去比を実現する。
【0037】
上部保護層の膜厚が30nmより厚くなると、記録層の熱が反射層に到達する時間が長くなり、反射層による放熱効果が有効に作用しにくい。すなわち、反射層は熱をくみ出すポンプであり、上部保護層はポンプへ熱流を伝える配管であると見なせる。保護層が厚いということは配管が長いということであり、いくらポンプの性能が高くても(反射層の熱伝導が大きくても)、有効に作用しない。
配管の流量は配管の太さ、つまり上部保護層の熱伝導率にも作用されるが、一般に、100nm未満の薄膜の熱伝導率は同じ物質のバルクの熱伝導率より2−3桁以上小さく、物質による差が小さくなるから、厚さが重要な因子となる。
【0038】
一方、上部保護層が10nmより薄いと、記録層溶融時の変形等によって破壊されやすく好ましくない。また、放熱効果が大きすぎて記録に要するパワーが不必要に大きくなる点でも好ましくない。
ここで提案した層構成は、相変化媒体では「急冷構造」と呼ばれ、それ自体は公知である(特開平2−56746号公報、文献Jpn. J. Appl. Phys., Vol.28(1989), suppl.28-3, p123 )。
【0039】
ただし、本発明記録層にとっては、この層構成は従来のGeTe−Sb2 Te3 系にくらべ必然性が高く、急冷の範囲がより限定され、より急冷であることが必要である。
反射層は反射率の大きい物質が好ましく、本発明では特に熱伝導率が大きく上部誘電体層を介しても、放熱効果が期待できるAu、Ag、Alを85原子%以上含む金属が好ましく用いられる。
【0040】
反射層自体の熱伝導度制御、耐腐食性改善のためTa、Ti、Cr、Mo、Mg、V、Nb、Zr等を少量加えてもよい。特にAlv Ta1-v (0<v≦0.15)なる合金は、耐腐食性に優れており本光学的情報記録用媒体の信頼性を向上させる上で効果がある。
反射層の膜厚としては、透過光がなく完全に入射光を反射させるために50nm以上が望ましい。膜厚500nmより大では、放熱効果に変化はなくいたずらに生産性を悪くし、また、クラックが発生しやすくなるので500nm以下とするのが望ましい。
【0041】
本発明では、この急冷構造にさらに、以下の記録方法を合わせ用い、記録層の再凝固時の冷却速度を正確に制御することで、マーク長記録に適した本発明記録層材料の特徴をいかんなく発揮させることが可能となる。
図2は、光記録時のレーザーパワーの照射パターンの一例を示す図である。
長さnT(Tは基準クロック周期、nはマーク長変調記録において取りうるマーク長であり、2以上の自然数をとる)にマーク長変調された非晶質マークを形成する。図では例としてn=7の場合を示している。
【0042】
本発明記録媒体に対しては、長さnTのマークに記録する際に、m=n−k(0≦k≦2なる整数、ただしnの最小値をnminとしてnmin −k≧1)個の記録パルスに分割し、個々の記録パルス幅をαiTとし、個々の記録パルスにβiT(ただし、2≦i≦m−1においてαi≦βi)なる時間のオフパルス区間が付随する。オフパルス区間では0<Pb≦0.5Peなるバイアスパワーを照射する。
ここで、マーク長を検出した際に、正確なnTマークが得られるよう、Σαi+Σβiはn−j(jは0≦j≦2なる実数)のように調整できるものとする。
【0043】
本発明媒体は、これまでGeTe−Sb2 Te3 擬似2元合金系で用いられてきたような記録パワーPwと消去パワーPeの2値変調よりも、上記オフパルス区間を設けバイアスパワーPbを照射する3値変調により記録消去を行うことが望ましい。2値変調のオーバーライトも可能ではあるが、3値変調方式を用いることで、パワーマージン、記録時線速マージンを広げることができる。
【0044】
特に本発明記録層ではオフパルス時のバイアスパワーPbを0<Pb≦0.5Peなるように十分低くとることが必要である。ただし、βmTにおいては0<Pb≦Peとなってよい。
なお、消去パワーPeは非晶質マーク部を100ナノ秒未満の照射で再結晶化させうるパワー、記録パワーPwはαiTなる時間で記録層を溶融させるに足るパワーであり、Pw>Peである。
【0045】
図3は、本発明の媒体に光記録を行ったときの記録層の温度変化の模式図である。記録パルス幅をm=2として分割し、1番目の記録パルス(記録パワー)、1番目のオフパルス(バイアスパワー)、2番目の記録パルス、2番目のオフパルスを順に照射して非晶質マークを形成する場合であって、(a)αi=βi=0.5でPb=Peとした場合と、(b)αi=βi=0.5でPb*0(≠0)とした場合である。
【0046】
記録層の位置としては、1番目の記録パルスの後端が照射される位置の記録層を想定している。
(a)ではオフパルス区間でもPeが照射されるため、後続の記録パルスによる加熱の影響が前方に及び、1番目の記録パルス照射後の冷却速度が遅く、かつオフパルス区間での温度降下で到達する最低温度TLaが融点近傍に留まっている。
一方(b)では、オフパルス区間のPbがほとんど0のため、最低温度TLbは融点より十分低い点まで下がり、かつ途中の冷却速度も大きい。非晶質マークは1番目の記録パルス照射時に溶解し、その後のオフパルス時の急冷によって形成される。
【0047】
前述のように、本発明媒体における記録層は融点近傍でのみ大きな結晶化速度を示す。
従って図3(b)に示す温度プロファイルをとることは、再結晶化を抑制し、良好な非晶質マークを得る上で重要なことである。
逆に、冷却速度及び最低温度TLを制御することで再結晶化をほぼ完全に抑制し、溶融領域とほぼ一致するクリアな輪郭を有する非晶質マークが得られるためマーク端において低ジッタが得られる。
【0048】
一方、GeTe−Sb2 Te3 擬似2元系合金では、図3(a)、(b)いずれの温度プロファイルでも非晶質マーク形成プロセスに大差がない。
なぜなら、広い温度範囲で速度は若干遅いものの再結晶化を示すからである。この場合、パルス分割方法によらずある程度の再結晶化が生じ、これが非晶質マーク周辺の粗大グレインとなってマーク端でのジッタを悪化させる傾向がある。この記録層組成では、オフパルスを行うより、むしろ従来の2値変調によるオーバーライトが単純で望ましい。
【0049】
すなわち、本発明記録層にとってオフパルスは好適であるが、従来のGeTe−Sb2 Te3 系記録層あるいは本記録層を特開平1−303643号公報の実施例に示されたようなマーク位置記録に適用した場合にとっては必ずしも好ましいものではない。
さて、本発明媒体は記録層を結晶化温度以上で固相にて結晶化させる初期結晶化では結晶化が遅く生産性が良くないことは既に述べた。これは、本記録層組成は成膜直後の非晶質状態から、いったん相分離させ安定な結晶状態を形成する必要があるためと考えられ、この相分離には通常、固相(融点以下)では1μ秒以上の加熱が必要である。
【0050】
例えば記録層としてGe2 Sb2 Te5 を用いた場合にas−depo状態の媒体を十分高速に結晶化できる条件で、Ge10Sb66Te24等の記録層の媒体の初期結晶化を試みると多くの部分が結晶化しないままアモルファス状態として残ってしまう。この操作を数十回繰り返すことにより相分離が完了し、初期化できる場合もあるがこれでは生産性が低く実用的でない。しかしながら、いったん初期化してしまえば、以後は高速で結晶化(消去)できるようになる。
【0051】
as−depo状態の膜が結晶化しにくい原因の一つは、as−depoのアモルファスの状態が記録マークのアモルファスの状態と異なり結晶化しにくいためと考えられる。また、結晶核がas−depo状態の記録層にはほとんどないことが結晶化しにくい原因となっていることも考えられる。実際、光学顕微鏡で初期結晶化を試みた部分の観察をすると、結晶化のすすんだ部分が高反射率の島状に観察される。これは結晶核のできた部分でのみ結晶化がすすんでいるとすれば理解できる。
このように初期結晶化が困難である場合、生産性は著しく悪化する。
【0052】
本発明では、Ny(SbxTe1-x)1-y 合金(N=Si、Sn、Pbのうちの1種)にさらに、Agを適量添加することにより上記初期化の困難さを解決した。添加するAgの量は、1原子%以上、15原子%以下である。
1原子%未満では添加効果不十分で、15原子%を超えると、N添加による非晶質ビット安定化効果が失われてしまう。また、新たな合金相が析出するためと考えられるが、記録マーク端のジッタが悪化するので好ましくはない。好ましくは10原子%以下である。
【0053】
発明者らはさらに、初期化に要する時間を短縮し、確実に1回の光ビームの照射で初期化するための一つの方法として、本発明記録層には溶融初期化が有効なことを見出した。
上記層構成を有する限り、溶融したからといって記録媒体がただちに破壊されるものではない。例えば、直径100μm程度に集束した光ビーム(ガスもしくは半導体レーザー光)を用いて局所的に加熱し、ビーム中心部に限定して溶融させれば、記録媒体は破壊されることはない。加えて、ビーム周辺部の加熱により、溶融部が余熱されるため冷却速度が遅くなり、良好な再結晶化が行われる。
溶融初期化自体は公知の方法であるが、本発明記録媒体にとっては非常に好適な手法であることを見出した。この方法を用いれば、例えば、従来の固相結晶化に対して10分の1の初期化時間を短縮でき、生産性が大幅に短縮できるとともに、オーバーライト後の消去時における結晶性の変化を防止できる。
【0054】
従来、GeSbTe3元合金が相変化媒体に適用された例があるが、基本的にSb2 Te3 −GeTe擬似2元合金をベースとしたもの(特開昭61−89889、特開昭62−53886、特開昭62−152786各号公報等)であって本発明の組成範囲とは大きく異なり、本発明組成範囲は実用的な光記録媒体への応用検討からは実際上、見捨てられていたのである。
【0055】
一部の特許で前述のように、SbTe共晶近傍組成の合金が開示されている(米国特許4670345号、特開平1−115685、特開平1−251342、特開平1−303643、特開平4−28587各号公報)が、本発明で開示したマーク長記録に適した記録方法を適用することについては述べられていない。
【0056】
従って、本発明媒体の組成・層構成はSb70Te30共晶組成近傍の合金を実用的相変化媒体とするための欠くべからざる進歩改良である。また、従来、省みられることの少ない組成でも、いったん初期化し、本発明の記録方法と組み合わせて使用すればむしろ高密度記録に適していることを見出したことは、一定の思想の飛躍が必要であることは言うまでもない。さらに、短時間で初期化するために本発明記録媒体に適した初期化方法を組み合わせたことも産業上重要なことである。
【0057】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
以下で示す合金記録層の検討にあたっては、Ag5 N5 Sb68Te22の4元合金ターゲットとSb2 Te3 のコスパッタを利用した。各ターゲットの放電パワーを調整することで組成の調整を行った。得られた合金薄膜の組成は、化学分析によって校正された蛍光X線強度で測定した。なお、下記においてSb2 Te3 を添加したにもかかわらずAg5 N5 組成が維持されているのは、ターゲット組成と膜組成の差、及び測定誤差の影響である。
結晶化温度は、ガラス基板上に成膜した記録層をヒーターで昇温した時の反射(透過)率の急激な変化を生じる温度として測定した。
【0058】
(実施例1)
ポリカーボネート基板上に(ZnS)80(SiO2 )20層を100nm、記録層としてN=Snとした記録層Ag5 Sn5 Sb63Te27を18nm、(ZnS)80(SiO2 )20層を40nm、Al99.0Ta1.0 合金層を250nm、順次マグネトロンスパッタリング法にて積層し、さらに紫外線硬化樹脂層を4μm設け光ディスクを作製した。
【0059】
この光ディスクを、楕円形の照射ビームの長軸の長さを50μm程度とした光ディスク初期化装置を用い、線速度4.5m/s、ビーム送り速度5μm/回転、レーザーパワー250mWで溶融初期結晶化を試みたところ、初期結晶化が可能であった。
光ディスク評価装置(レーザー波長780nm、NA0.55)を用いて、2.8m/sの線速度でEFMランダム信号(CDで用いられる変調方式、ここでのクロック周波数は115ナノ秒)の記録を行なった。記録時にはα1 =1、αi =0.5(i≧2)、βi =0.5とし、Pw=13mW、Pe=6.5mW、Pb=0.8mWとした。実際の信号特性を示すジッタの値は最短マーク長でクロック周期の10%未満となり良好な値が得られた。同様の特性は最適線速度は1.2m/sから7m/sまで変化するもののAg5 Sn5 Sb61Te29,Ag5 Sn5 Sb66Te24でも得られた。この場合、Sbリッチほど、高線速に有利である。また、上記Ag5 Sn5 Sb63Te27を中心として、Sbが−3原子%(Teが+3原子%)からSbが+6原子%(Te−6原子%)の範囲に対して、全ての実施例において結晶化温度は140℃以上であった。Ag5原子%をZn5原子%で置換したZn5 Sn5 場合にも同様の特性が得られた。
【0060】
(実施例2)
N=Siとして実施例1と全く同様に実験を行ったところAg5 Si5 Sb62Te37記録層に対して、同様の特性が得られた。上記組成に対してSb,Te量が±3%程度ふれた組成においても全く同様の特性が得られた。また、結晶化温度は、やはり上記組成に対しSbが−3原子%(Teが+3原子%)からSbが+7原子%(Te−7原子%)の範囲に対して、全て160℃以上であった。尚、N=Pbについても同じ組成で良好な特性が及び結晶化温度160℃以上が得られた。
【0061】
(比較例1)
Sb70Te30ターゲットをスパッタして記録層を成膜した。層構成を実施例1と同様の構成とした場合、記録消去は可能であった。しかし、Tgは120℃で非晶質マークの安定性に問題があった。
【0062】
(比較例2)
Ag4 Sn4 Sb76Te16組成の記録層を得たが、あまりにも再結晶化速度が速いために、非晶質マークの形成が不十分で、EFM変調において11Tのような長マークがうまく形成できなかった。Si,Pbの場合でもここまでSb量が多いと再結晶化が著しいので良好な非晶質マーク形成は困難である。
【0063】
【発明の効果】
本発明により、より高密度化記録、マーク長記録に適した相変化型光記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明で用いる記録層の組成範囲を説明する図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる光記録時のレーザー照射パターンの一例を説明する図である。
【図3】図3は、本発明の媒体に光り記録を行った場合の温度変化の模式図である。
Claims (6)
- 基板上に、少なくとも下部保護層、相変化型光記録層、上部保護層、反射層からなる多層構成を有してなり、結晶状態を未記録状態、非晶質状態を記録状態として光強度の2値以上の変調によりオーバーライト記録を行う光学的情報記録用媒体であって、該相変化型光記録層がMz Ny (Sbx Te1-x )1-y-z (ただし、MはAgであり、NはSi、Sn、Pbのすくなくとも1種であり、0.65≦x≦0.80、0.01≦y≦0.20、0.01≦z≦0.15である)なる組成を有することを特徴とする光学的情報記録用媒体。
- 0.70≦x≦0.75、0.01≦y≦0.15、0.01≦z≦0.10である請求項1記載の光学的情報記録用媒体。
- 相変化型光記録層の膜厚が15nm以上30nm以下、上部保護層の膜厚が10nm以上30nm以下であり、反射層が膜厚50nm以上500nm以下であって、Au、AgまたはAlを85原子%以上含む金属からなる請求項1または2記載の光学的情報記録用媒体。
- 下部保護層の膜厚が50nm以上500nm以下であり、記録層に接する側の1nm以上10nm以下の部分がカルコゲン化合物と分解温度または融点が1000℃以上のカルコゲン化物ではない耐熱性化合物との混合物からなり、残部が該耐熱性化合物と異種又は同種の耐熱性化合物からなる請求項1乃至3のいずれか記載の光学的情報記録用媒体。
- 相変化型光記録層を成膜後、エネルギービームを照射して結晶化せしめる初期化操作を行うにあたり、該記録層を局所的に溶融せしめ、再凝固の際に結晶化させる請求項1乃至4のいずれか記載の光学的情報記録用媒体。
- 線速度1m/s以上7m/s以下において、レーザーパワーをクロック周期Tに従って少なくとも3値の間で変調することでマーク長変調記録及び消去を行う光学的情報記録用媒体であって、
マーク間部を形成する際には非晶質マーク部を再結晶化させうる消去パワーPeを照射し、
長さnT(nは2以上の整数)のマーク部を形成する際には、記録パワーPwを印加する期間をα1T、α2T、・・・、αmTとし、かつバイアスパワーPbを印加する期間をβ1T、β2T、・・・、βmTとして、レーザパワーのための印加期間を順次にα1T、β1T、α2T、β2T、・・・・、αmT、βmTとしてレーザーパワーをm個のパルスに分割するとともに、
2≦i≦m−1においてはαi≦βiとし、
kを0から2までの整数からなるパラメータ、jを0から2までの実数からなるパラメータとし、かつ前記nの最小値をnmin として
nmin −k≧1、m=n−k、α1+β1+・・・・・+αm+βm=n−jとしたとき、
Pw>Pe、0<Pb≦0.5Pe(ただし、βmTにおいては0<Pb≦Peとなりうる)であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の光学的情報記録用媒体。
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