JP3651061B2 - アルミニウムの表面処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、電解着色処理により、アルミニウムの表面に均一な高品質の着色皮膜を形成することができるアルミニウムの表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム(アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称していう、以下同じ)の表面に美しい着色皮膜を形成するために、陽極酸化処理工程と電解着色処理工程との間に酸化皮膜の改質処理工程を介在させることが知られている(たとえば、特公昭59−48960号公報、特開昭57−188698号公報)。ただし、ここでいう酸化皮膜の改質処理とは、陽極酸化処理によってアルミニウム表面に形成された酸化皮膜の微細孔をさらに拡大成長させることにより、電解着色処理工程において金属を孔底部に析出し易くし、良好な着色効果を発現させることをいう。
【0003】
従来の酸化皮膜の改質処理は、皮膜の孔構造を変形させ得る電解浴、たとえば、リン酸、ピロリン酸、亜リン酸、高濃度硫酸などの浴中において、交流、直流または交直重畳波形の電圧を加えて電解処理する方法が一般的である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
かかる従来技術によるときは、材料表面の酸化皮膜に対して均一な改質効果を及ぼすことが難しいために、電解着色処理における付まわり性が良好でなく、製品の表面全体に均一な着色皮膜を形成することが難しい上、浴温度による色調変化が大きいために、色調の再現性が十分でないという問題があった。また、改質処理時間を長くしないと十分な改質効果が得られないことがあり、皮膜表面が白濁化して商品価値を消失させることがあるという問題もあった。
【0005】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、酸化皮膜の改質処理用の中間処理に使用する電解用のパルス電圧の周波数を変化させることによって、電解着色処理における付まわり性や色調の再現性を大きく改善するとともに、改質処理時間を短縮し、均一な高品質の着色皮膜を形成することができるアルミニウムの表面処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、アルミニウムの表面に陽極酸化処理を施した後、電解浴中で酸化皮膜を改質する中間処理を施し、つづいて電解着色処理を施すアルミニウムの表面処理方法であって、中間処理は、アルミニウムと対極との間に正極性のパルス電圧を印加し、パルス電圧の終期周波数(中間処理の終期における周波数をいう、以下同じ)を初期周波数(中間処理の初期における周波数をいう、以下同じ)より小さくすることをその要旨とする。ただし、正極性とは、アルミニウムをパルス電圧の正極側に接続し、対極を負極側に接続することをいう。
【0007】
なお、中間処理は、パルス電圧の周波数を初期周波数から終期周波数まで連続的または段階的に低下させることができる。
【0008】
【作用】
かかる発明の構成によるときは、陽極酸化処理工程によって生成される酸化皮膜は、中間処理工程において改質されるが、このときの改質速度は、数100Hzの高周波パルス電圧を使用することにより、直流を使用する場合に比して約2倍に向上させ得ることが判明した。ただし、中間処理において使用する電解浴は、酸化皮膜の孔構造を変化させ得る浴であれば特に制限がなく、リン酸、ピロリン酸、亜リン酸、高濃度硫酸などを使用することができる。また、陽極酸化処理は、多孔質の酸化皮膜が得られればよく、通常の前処理の後、硫酸浴、蓚酸浴などを用いて直流電解すればよい。さらに、電解着色処理も、一般的な方法でよい。すなわち、ニッケル、コバルト、銅、すず、マンガン、亜鉛、クロム、鉄、鉛、モリブデンなどの着色に関与する金属の酸または塩を含む着色浴を用い、交流電解、直流負極電解または交直重畳電解などによる電解処理を行ない、改質済みの酸化皮膜の孔底部に金属を析出させればよい。
【0009】
中間処理において使用するパルス電圧は、正極性の矩形波、三角波、台形波、半波または両波整流波、交直重畳波などとし、いずれにしても、最小電圧は、0Vとすることが好ましい。最小電圧が正に大きくなり、パルス電圧が直流電圧に近付くと、改質速度が低下し、最小電圧が負に大きくなり、交流電圧に近付くと、材料表面から気泡が発生し、皮膜性能が劣化する。
【0010】
パルス電圧の最大電圧(ピーク電圧)は、数Vないし数10Vに選択することができる。ただし、一般に、ピーク電圧を高くすると、電解着色後の色調の明度が向上し、明るい色調を得ることができる。
【0011】
パルス電圧の周波数は、高周波の一定周波数とするだけでは、改質速度の向上を図ることができても、材料表面の酸化皮膜の改質が均一に行なわれず、電解着色処理における付まわり性が却って低下し、均一な着色皮膜を作ることができない。そこで、パルス電圧の周波数は、中間処理工程の初期において高くし、終期において低くすることにより、終期周波数が初期周波数より小さくなるように変化させ、付まわり性を低下させることなく、改質処理時間を短縮することができる。なお、終期周波数を初期周波数より大きくし、パルス電圧の周波数を逆方向に可変すると、付まわり性の改善効果は殆ど認められなかった。
【0012】
パルス電圧の周波数は、高い初期周波数から低い終期周波数に向けて直線的または曲線的に連続的に可変してもよく、短時間ごとに段階的に低下させてもよい。すなわち、時間に対する周波数低下曲線は、途中にピークを作らない限り、任意に設定してよいものとする。
【0013】
また、このようにしてパルス電圧の周波数を変化させると、最終の着色皮膜の色調に対し、浴温度変化の影響を小さくすることができる。一般に、直流または商用周波交流などによって改質処理をするとき、±3℃程度の浴温度変化があると、着色皮膜の色調に顕著に影響するが、パルス電圧の周波数を変化させることにより、この程度の浴温度変化は、色調の差として殆ど無視し得ることがわかった。
【0014】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、陽極酸化処理工程と電解着色処理工程との間に酸化皮膜の改質処理を目的とする中間処理工程を設け、これに使用する正極性のパルス電圧の終期周波数を初期周波数より小さくすることによって、必要な改質処理時間を短くするとともに、改質効果を均一にし、電解着色処理における付まわり性を大きく改善することができ、均一な高品質の着色皮膜を再現性よく形成することができるという極めて優れた効果がある。
【0015】
【実施例1】
アルミニウム合金A6063Sからなる試料を脱脂洗浄、エッチング処理、デスマット処理して前処理し、15wt%硫酸浴により40分間陽極酸化処理して表面に酸化皮膜を形成した。浴温度は20℃、電流密度は1A/dm2 とした。
【0016】
陽極酸化処理した試料は、中間処理として100g/lリン酸浴により酸化皮膜を改質処理した。このときの浴温度は25℃とし、最小電圧0V、ピーク電圧52.5Vの正極性の矩形波パルス電圧(デューティ比50%)を使用した。
【0017】
つづいて、硫酸ニッケル50g/l、硼酸40g/lの着色浴により、商用周波交流を用いて電解着色処理を施した。浴温度は25℃とし、電流密度0.5A/dm2 、負方向の正味の着色電気量4C/dm2 とした。
【0018】
中間処理におけるパルス電圧の周波数により、改質処理時間t(分)に対する最終製品の着色皮膜の表裏の最大色差ΔEを評価すると、図1のとおりであった。
【0019】
図1において、横軸は、改質処理時間t(分)を示し、縦軸は、最大色差ΔEを示す。ただし、最大色差ΔEは、カラーメータによって製品の表裏各面の着色皮膜の色調をL* * * 表色系(1976年国際照明委員会(CIE)規格準拠)により実測し、ΔE=((ΔL* 2 +(Δa* 2 +(Δb* 2 1/2 により算出した。ここで、ΔL* は、表裏の色調の最大明度差、Δa* 、Δb* は、表裏の色調の色相差、彩度差を示す最大色度差である。また、試料は、表面積1dm2 の板材とし、中間処理は片側対極とし、電解着色処理は、両側対極とした。すなわち、最大色差ΔEは、中間処理における改質効果の均一性、それに基づく電解着色処理における付まわり性の均一性を評価する指標となり得る。
【0020】
図1の曲線▲1▼、▲2▼、▲3▼は、それぞれ、中間処理におけるパルス電圧の周波数を10Hz一定、150Hz一定、300Hz一定とした比較例であり、曲線▲4▼は、パルス電圧の周波数を初期周波数10Hzから終期周波数300Hzにまで直線的に連続変化させた比較例である。曲線▲5▼は、パルス電圧の周波数を初期周波数300Hzから終期周波数10Hzにまで直線的に連続変化させた実施例である。
【0021】
この実施例によれば、改質処理時間tが短いにも拘らず、最大色差ΔEが最も小さく、均一な着色皮膜が得られることがわかる。
【0022】
なお、この比較例、実施例によって得られた製品の色調変化を改質処理時間t=1(分)ごとに示せば、図2のとおりであり、この実施例に係る製品の最大色差ΔEに関する数値データを示せば、図3のとおりである。
【0023】
また、この実施例において、中間処理の浴温度を±3℃程度変化させても、目視によって認識し得る色調の差は全く認められなかった(図4の曲線▲5▼の行)。図1の曲線▲1▼に対応する比較例では、明らかな色調の差が認められた(同図の曲線▲1▼の行)。
【0024】
【実施例2】
実施例1の試料に対し、実施例1と同様の前処理、陽極酸化処理を施した上、中間処理を施した。ただし、中間処理の条件は、パルス電圧のピーク電圧30V、改質処理時間t=5(分)とした他は、実施例1と同様である。
【0025】
つづいて、硫酸第1すず20g/l、スルファミン酸15g/l、硫酸ヒドラジン5g/lの着色浴により、電解着色処理を施した。このときの浴温度は25℃とし、電流密度0.2A/dm2 とした。
【0026】
電解着色処理における着色電気量Q(C/dm2 )に対する着色皮膜の最大色差ΔEを評価すると、図5のとおりであった。ただし、同図の曲線▲2▼は、図1の曲線▲2▼と同じく、中間処理におけるパルス電圧の周波数を150Hz一定とした比較例であり、曲線▲5▼は、図1の曲線▲5▼と同じく、パルス電圧の周波数を初期周波数300Hzから終期周波数10Hzにまで直線的に連続変化させた実施例である。実施例によれば、最大色差ΔEを約1/2に改善することができる。
【0027】
なお、このとき、着色電気量Q(C/dm2 )に対する製品の表裏各面の色調の変化は、図6のとおりであった。
【0028】
【実施例3】
実施例1において、試料をアルミニウム合金A1100Pとし、電解着色処理条件は、電流密度0.3A/dm2 、着色電気量3C/dm2 とした。
【0029】
中間処理の改質処理時間t(分)に対する着色皮膜の最大色差ΔEの評価は、図7のとおりであった。ただし、同図における曲線▲2▼、曲線▲5▼も、それぞれ、図1の曲線▲2▼、曲線▲5▼に対応する比較例、実施例を示している。
【0030】
なお、改質処理時間t=4、5、6(分)において、着色皮膜の色調は、比較例、実施例ともに、青みの灰色、暗い灰青、暗い灰青であると認められた。
【0031】
【実施例3A】
実施例3において、試料を純度99.99%の純アルミニウムとした。
【0032】
中間処理の改質処理時間t(分)に対する着色皮膜の最大色差ΔEの評価は、図8のとおりであった。
【0033】
また、改質処理時間t=4、5、6(分)において、着色皮膜の色調は、比較例、実施例ともに、青みの灰色、暗い灰青、暗い灰青であった。
【0034】
【実施例4】
実施例1において、中間処理のパルス電圧のピーク電圧30Vとし、つづいて、硫酸コバルト30g/l、硼酸10g/lの着色浴により、電解着色処理を施した。ただし、浴温度25℃、電流密度0.4A/dm2 、着色電気量5C/dm2 とした。
【0035】
中間処理の改質処理時間t(分)に対する着色皮膜の最大色差ΔEの評価は、図9のとおりであった。
【0036】
また、改質処理時間t=4、5、6(分)において、着色皮膜の色調は、比較例、実施例ともに、灰色、青みの灰色、青みの灰色であった。
【0037】
【実施例5】
アルミニウム合金A6063Sからなる試料を実施例1と同様に前処理し、陽極酸化処理を施した後、亜リン酸100g/l、浴温度25℃、パルス電圧のピーク電圧30Vの条件により、改質処理を施した。
【0038】
その後、硫酸ニッケル50g/l、硼酸40g/l、浴温度25℃の着色浴により、電流密度0.5A/dm2 、着色電気量6C/dm2 の電解着色処理を施した。
【0039】
改質処理時間t(分)に対する着色皮膜の最大色差ΔEの評価は、図10のとおりであり、t=4、5、6(分)において、着色皮膜の色調は、実施例、比較例ともに、青みの灰色、青みの灰色、暗い青みの灰色であった。
【0040】
【実施例6】
アルミニウム合金A6063Sからなる試料を実施例1と同様に前処理し、陽極酸化処理を施した後、ピロリン酸200g/l、浴温度35℃、パルス電圧のピーク電圧30Vの条件により、5分間改質処理を施した。
【0041】
その後、硫酸第1すず15g/l、スルファミン酸15g/l、硫酸ヒドラジン5g/l、浴温度25℃の着色浴により、電流密度0.3A/dm2 の電解着色処理を施した。
【0042】
電解着色処理における着色電気量Q(C/dm2 )に対する着色皮膜の最大色差ΔEの評価は、図11のとおりであり、Q=2、3、4、5(C/dm2 )において、着色皮膜の色調は、実施例、比較例ともに、黄みの灰色、黄みの灰色、灰黄、くすんだ赤みの黄であった。
【0043】
実施例2ないし実施例6において、図5、図7ないし図11に曲線▲5▼として示す実施例は、曲線▲2▼として示す比較例に比して、最大色差ΔEが一様に改善されている。なお、図6ないし図11の曲線▲2▼、▲5▼は、それぞれ、中間処理におけるパルス電圧の周波数を図1、図5における曲線▲2▼、▲5▼と同一の態様により、150Hz一定に維持した場合の比較例、初期周波数300Hzから終期周波数10Hzにまで直線的に変化させた場合の実施例に対応している。
【0044】
【実施例7】
実施例1において、中間処理において使用するパルス電圧のピーク電圧を45V、60V、75Vに変更した。
【0045】
このとき、ピーク電圧による最終製品の着色皮膜の色相H、明度V、彩度Cの変化は、図12のとおりであった。
【0046】
パルス電圧のピーク電圧により、彩度Cの若干の変化を伴うが、色相Hは殆ど変化せず、明度Vは、ピーク電圧にほぼ比例して変化することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1における色差特性線図
【図2】 実施例1における色差特性図表(1)
【図3】 実施例1における色差特性図表(2)
【図4】 実施例1における色差特性図表(3)
【図5】 実施例2における色差特性線図
【図6】 実施例2における色差特性図表
【図7】 実施例3における色差特性線図
【図8】 実施例3Aにおける色差特性線図
【図9】 実施例4における色差特性線図
【図10】 実施例5における色差特性線図
【図11】 実施例6における色差特性線図
【図12】 実施例7における色差特性図表

Claims (3)

  1. アルミニウムの表面に陽極酸化処理を施した後、電解浴中で酸化皮膜を改質する中間処理を施し、つづいて電解着色処理を施すアルミニウムの表面処理方法であって、前記中間処理は、アルミニウムと対極との間に正極性のパルス電圧を印加し、パルス電圧の終期周波数を初期周波数より小さくすることを特徴とするアルミニウムの表面処理方法。
  2. 前記中間処理は、パルス電圧の周波数を初期周波数から終期周波数まで連続的に低下させることを特徴とする請求項1記載のアルミニウムの表面処理方法。
  3. 前記中間処理は、パルス電圧の周波数を初期周波数から終期周波数まで段階的に低下させることを特徴とする請求項1記載のアルミニウムの表面処理方法。
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