JP3648926B2 - 平版印刷用濃縮湿し水 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版のオフセット印刷法に有用な平版印刷用湿し水材料を含有した濃縮湿し水に関する。
【0002】
【従来の技術】
平版印刷版を用いたオフセット印刷法は、水と油が本質的に混じり合わない性質を巧みに利用した印刷方式であり、印刷版面は水を受容しインキを反撥する部分と、水を反撥しインキを受容する部分からなり、前者が非画線部で、後者が画線部である。この方式では、インキと湿し水とを適度なバランスで版面に供給することが重要であり、湿し水を与えすぎるとインキの乳化が激しくなり、転移不良が発生する。一方、湿し水が少なすぎると、非画線部にインキが付着し汚れの原因になる。
【0003】
このインキと湿し水とのバランスを保つため、従来から湿し水中へイソプロピルアルコール(以下IPAと略す)が添加され、更に、各種親水性物質(例えば、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースなど)、各種界面活性剤等、版表面酸化物を除去をする整面剤としてリン酸、クエン酸等の酸、版腐食防止剤として重クロム酸アンモニウムや硝酸塩など、各種添加物の溶解性を調整する有機溶剤などが添加されている。ここでIPAを添加する効果としては、湿し水の表面張力を下げることによって親水性非画線部への濡れが良好になる効果と、湿し水の粘度をあげて版面への湿し水の供給を滑らかにするという効果が挙げられる。
【0004】
しかしIPAは危険物第4類アルコール類に該当し、使用に際して火気には細心の注意を払う必要がある。また、有機溶剤予防規則(有機則)第2種有機溶剤であり、湿し水中には通常5〜20重量%程度の濃度で添加されることから、作業環境浄化措置を講ずる必要がある等の問題があった。
【0005】
このため近年IPAを全く用いないか、用いても湿し水中濃度が5重量%以下であるような湿し水ないしは湿し水組成物が提案されてきた。例えばIPAの代替化合物として他の有機溶剤を添加したものとして、特開昭57−1,792号、同57−199,693号、同63−4,994号、特開平2−48,996号、同2−269,094号、同2−292,092号、同2−310,092号、同3−63,187号、同3−63,188号、同3−90,389号、同3−90,390号、同3−155,991号、同4−1,091号、同4−201,495号、同5−92,677号、同5−201,167号、同6−64,362号、同6−183,171号、同6−206,391号、同8−132,753号、特公平4−46,760号公報、同7−41,748号公報、同7−85,947号公報および同7−96,344号公報等を挙げることができるが、これらIPA代替化合物は高沸点有機化合物であって、湿し水が印刷機内で循環を繰り返す間に水が蒸発すると高沸点有機溶剤が濃縮され残査として残存し、平版印刷版の画像領域を侵すと言う問題を有していることが判ってきた。また更に、消防法規制(有機溶剤40%未満、引火点40℃以上、燃焼点60℃以上)等を満足させるために多量の水を混合使用する必要があるが、このとき特に液安定性が不安定になり易いと言う問題があった。
【0006】
また、IPAの表面張力低下能力に注目し、各種界面活性剤を添加したものとして、例えば、特開昭63−25,093号、同63−134,293号、特開平2−48,996号、同2−196,696号、同2−209,294号、同2−255,386号、同2−269,094号、同3−63,187号、同3−63,188号、同3−90,389号、同4−351,593号、同5−92,677号、同5−112,085号、同5−116,476号、同5−139,068号、同5−201,167号、同5−221,179号、同5−221,180号、同5−286,279号、同6−32,082号、同6−64,362号、同6−183,171号、同6−206,391号、同6−219,076号、同7−195,859号、特公平7−41,748号公報および同7−96,344号公報等をあげることができるが、これらに記載された種々の界面活性剤を含有した湿し水を印刷に必要な適性表面張力に保つには、湿し水中の界面活性剤濃度をかなり高くしておく必要があり、そのための不都合として使用時に湿し水が濃縮された場合発泡し易い、また特に高分子量(重合度が15以上)のポリオキシエチレン化合物の場合には版トレによる画像部の損傷を来すなど致命的な欠陥が起き易い、等があった。また、実際の平版印刷においては、高速度で回転するインキロール、印刷版、湿し水供給ロールの下でインキと水が激しく運動しているため、インキ皮膜上に水が付着したり、水の表面にインキが拡散する等が問題となっているが、上記に提案されている界面活性剤ではこれらの問題点を完全に解消するには十分ではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の第1の目的は、従来のIPAを含有した湿し水のもつ危険性や毒性のない、消防法および労働安全衛生法の規制に適合した液安定性に優れた平版印刷用濃縮湿し水を提供することにある。本発明の第2の目的は、印刷作業を行うに当たり泡立ちが少なくて供給量の調節を容易に行うことができ、印刷版の汚れやブラインディングを防止するだけではなく、印刷版の画像領域を損なうことなく、高品位の印刷物を容易に得られる優れた湿し水特性を持った平版印刷用濃縮湿し水を提供することにある。本発明の第3の目的は、上記平版印刷用濃縮湿し水に使用される、容易に再現性よく合成でき、界面活性効果をも併せ持った多価アルコールの多塩基酸モノエステルまたはその塩を良好な平版印刷用湿し水材料として提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、下記一般式(I)で表される多価アルコールの多塩基酸モノエステルまたはその塩を含有させた平版印刷用濃縮湿し水により達成された。
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、Aは炭素数50以下の多価アルコール残基を示す。Rは炭素数20以下の置換されていても良いアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、フェニルアルキレン基、α,ω−ジアミノアルキレン基、アザアルキレン基またはオキシアルキレン基を示す。Mは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子または第一級アミン、第二級アミンまたは第三級アミンから導かれる有機カチオンまたは第四級アンモニウムカチオンを示す。)
【0011】
一般式(I)で表される多価アルコールの多塩基酸モノエステルまたはその塩は、A−OHで表される炭素数50以下の多価アルコールとHOCO−R−COOHで表されるRが炭素数20以下の多塩基酸との脱水縮合反応によって導かれるモノエステル化合物であり、Mによって表されたカウンターカチオンと塩を形成していてもよい。
【0012】
本発明のモノエステル化合物を導くのに用いられるA−OHで表された炭素数50以下の多価アルコールの具体例としては、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンーポリプロピレン共重合物、ヘキシレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、グルコース、キシロース、ガラクトース、アラビノース、マンノース、フルクトース、ソルボース、リブロース、スクロース、マルトース、ラクトース、メリビオース、ラフィノースまたは2−エチルー1、3−ヘキサンジオールの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、アセチレンアルコールまたはアセチレングリコールの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、トリメチロールプロパンの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、グリセリンの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、ポリテトラメチレングリコールの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、ネオペンチルグリコールの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、ポリグリセリンの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物、およびソルビトールの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物等を挙げることができる。
【0013】
本発明のモノエステル化合物を導くのに用いられるHOCO−R−COOHで表されるRが炭素数20以下の多塩基酸は、Rの炭素数が20以下であって置換されていても良いアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、フェニルアルキレン基、α,ω−ジアミノアルキレン基、アザアルキレン基またはオキシアルキレン基である多塩基酸である。置換されていても良い置換基としては、ハロゲン原子、カルボヒドロキシル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アミノ基、イミノ基、チオール基、スルホニル基、スルフィニル基、ホスホニル基、ホスフィニル基などを挙げることができる。
【0014】
本発明に用いられる多塩基酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、琥珀酸、マレイン酸、シトラコン酸、クエン酸、イタコン酸、グルタル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、3−メチルグルタル酸、イソエポキシ琥珀酸、スルホコハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ナジック酸、ピロメリット酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミノテトラカルボン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸、オキサビシクロ[2,2,1]ヘキセン−1,2−ジカルボン酸などを挙げることができる。
【0015】
本発明に用いられる多価アルコールの多塩基酸モノエステルの塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属原子のカチオン、または第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンから導かれる有機カチオンまたは第四級アンモニウムカチオンが用いられる。
【0016】
本発明に用いられる多価アルコールの多塩基酸モノエステルは当モルの多価アルコールと多塩基酸の脱水縮合反応により容易に得ることができる。反応条件としては、摂氏50℃から170℃の温度、30分から数日間の時間、有機溶媒を用いても用い無くても良く、触媒としてトルエンスルホン酸などの酸性触媒またはトリエチルアミン等のアルカリ性触媒を用いても良い。好ましい反応方法としては、当モルの多価アルコールと多塩基酸の酸無水物とを酸触媒下70℃から90℃で数時間反応させることにより、目的の多価アルコールの多塩基酸モノエステルを得ることができる。その後、蒸留法、再結晶法、抽出法、塩析法、カラムクロマト法など適当な精製方法を駆使して目的とする本発明のモノエステル化合物を単離することができる。
【0017】
本発明に用いられる多価アルコールの多塩基酸モノエステルは前述した多価アルコールと多塩基酸の組み合わせから得られるモノエステル全てが平版印刷用濃縮湿し水に有効であるが、中でも好ましく用いられるモノエステル化合物の具体例を以下に挙げるが本発明はこれら化合物に限定されるものではない。
【0018】
本発明に用いられる好ましいモノエステル化合物の具体例としては、ジエチレングリコール琥珀酸モノエステル、ジエチレングリコールマレイン酸モノエステル、ジエチレングリコールスルホ琥珀酸モノエステル、ジエチレングリコールフタル酸モノエステル、トリプロピレングリコール琥珀酸モノエステル、トリプロピレングリコールマレイン酸モノエステル、トリプロピレングリコールスルホ琥珀酸モノエステル、トリプロピレングリコールフタル酸モノエステル、ソルビトール琥珀酸モノエステル、ソルビトールマレイン酸モノエステル、ソルビトールスルホ琥珀酸モノエステル、ソルビトールフタル酸モノエステル、グリセリン酸化プロピレン付加物の琥珀酸モノエステル、グリセリン酸化プロピレン付加物のマレイン酸モノエステル、グリセリン酸化プロピレン付加物のスルホ琥珀酸モノエステル、グリセリン酸化プロピレン付加物のフタル酸モノエステル等を挙げることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に本発明による濃縮湿し水について説明する。本発明の平版印刷用濃縮湿し水は、本発明の平版印刷用湿し水材料を0.01から20重量%、好ましくは0.1から15重量%含有することを特徴とする濃縮湿し水であり、さらに皮膜形成性親水性高分子、pH緩衝剤、湿潤剤、有機溶剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、着色剤、香料およびキレート剤などを含有することができる。平版印刷用湿し水材料である多価アルコールと多塩基酸のモノエステルまたはその塩の含有率が0.01重量%よりも少ない場合には、表面張力が十分には低下せず、湿し水表面へのインキの拡散現象が生じて印刷物に浮き汚れおよび地汚れが出る。また含有量が20重量%を越えた場合には、湿し水の粘度を増加させると言う点では水上がりを良好ならしめるが、コスト的には不利でありこれ以上の含有量増加は望ましくない。また、平版印刷用湿し水材料である多価アルコールと多塩基酸のモノエステルまたはその塩は2種類以上を併用して用いることもできる。
【0020】
平版印刷における湿し水の作用は、印刷版面の非画像領域を湿潤させることにより画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反発性と画像領域のインキ受容性とを増大させる作用を有しており、この作用を有意に発現させるため皮膜形成性親水性高分子、pH緩衝剤、湿潤剤、有機溶剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、着色剤、香料およびキレート剤などから構成されている。
【0021】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水は、水道水や井戸水などの水で10から100倍に希釈し、平版印刷用湿し水として印刷機上で使用される。このとき希釈された平版印刷用濃縮湿し水は、良好な平版印刷用湿し水としての性能を発揮する。
【0022】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される皮膜形成性を有する親水性高分子化合物の好ましい具体例としては、アラビアガム、澱粉およびその誘導体(例えば、デキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、リン酸澱粉、オクテニルコハク酸エステル化澱粉)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、これら化合物のグリオキサール変性体等)などの天然物とそれの変性体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびその誘導体ポリアクリルアミドおよびその共重合体、ポリアクリル酸およびその共重合体、ビニルメチルエーテルと無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニルと無水マレイン酸共重合体などの合成物が挙げられる。これら高分子化合物の使用量は、平版印刷用濃縮湿し水中0.01から10重量%、好ましくは0.1から5重量%である。またこれら具体例の中から2種以上を選んで併用しても良い。
【0023】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用されるpH緩衝剤としては、水溶性の有機酸、無機酸またはそれらの塩を配合したものでもよく、これにより濃縮湿し水のpH調整あるいはpH緩衝、平版印刷版支持体の適度なエッチングまたは防腐食に効果がある。好ましい有機酸としては、例えばクエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸、シュウ酸、マロン酸、レブリン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸などが挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、硝酸、硫酸が挙げられる。さらにこれら有機酸および/または無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩も好適に用いられ、これらの有機酸、無機酸および/またはこれらの塩は単独でも2種以上の併用でも良い。これらの化合物の本発明の平版印刷用濃縮湿し水中での濃度は、0.01から15重量%の範囲が好ましい。水で希釈された平版印刷用湿し水のpHは3から7の範囲の酸性領域が好ましいが、アルカリ金属塩、リン酸、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸塩などを含有したpH7から11のアルカリ性領域で用いることもできる。
【0024】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される湿潤剤としては、各種の界面活性剤がある。アニオン型界面活性剤の具体例としては、例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン錯塩類、硫酸化ひまし油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレンと無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類などが挙げられる。
【0025】
非イオン型界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル化物類、ソルビタン脂肪酸部分エステル化物類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル化物類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル化物類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル化物類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル化物類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル化物類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル化物類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N、N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、トリアルキルアミンオキシド類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。その他弗素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤も使用することができる。
【0026】
カチオン型界面活性剤の具体例としては、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体などが挙げられる。
【0027】
これら界面活性剤の使用は単独で用いても、2種以上を併用しても良い。また、本発明の平版印刷用濃縮湿し水にはこれら界面活性剤の使用はかならずしも必要とはしないが、使用する場合には平版印刷用濃縮湿し水中に2.0重量%以下が適当である。
【0028】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される有機溶剤としては、1価、2価および3価のアルコール類が用いられる。有機溶剤の具体例としては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、ベンジルアルコール、3−ブトキシ−2−プロパノール、3−メチル−3−ブトキシブタノール、ネオペンチルアルコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ヘキシルセロソルブ、ヘキシルカルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、グリセリン、ジグリセリン、トリグセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトールおよびマンニットなどを挙げることが出来る。有機溶剤は単独でも併用してもよく、本発明の平版印刷用濃縮湿し水中での含有量は35重量%以下であり、好ましくは25重量%以下で用いられる。
【0029】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される消泡剤としては、シリコン消泡剤および/または弗素系消泡剤が好ましく使用される。その中で乳化分散型および可溶化型などいずれも使用できる。望ましい添加量は濃縮湿し水全体に対して1重量%以下である。
【0030】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される防腐剤としては、フェノールまたはその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジンまたはグアジニンの誘導体、4級アンモニウム塩類、ピリジンまたはキノリンの誘導体、ダイアジンまたはトリアゾールの誘導体、オキサゾールまたはオキサジンの誘導体などが挙げられる。好ましい添加量は、細菌、カビ、酵母などに対して安定に効力を発揮する量であって、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、本発明の平版印刷用濃縮湿し水に対して4重量%以下の範囲が好ましく、また種々の細菌、カビ、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
【0031】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、5−メトキシベンゾトリアゾール、4−クロロベンゾトリアゾール、4−ブロモベンゾトリアゾール、4−ブロモ−6−メチルベンゾトリアゾール、4−ブロモ−6−トリフロロメチルベンゾトリアゾールなどが挙げられる。またこれらの化合物の1Hの位置をアルカリ金属塩(K,Na、Li)またはNH4 に置換した化合物、ベンゾイミダゾールおよびその誘導体、メルカプト化合物および/またはチオエーテル化合物およびこれら化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などが挙げられる。これら化合物の平版印刷用濃縮湿し水中での含有量は、5重量%以下の範囲で好ましく用いられる。これら防錆剤は単独でも2種以上を混合しても使用できる。
【0032】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される着色剤としては、水溶性の食品用色素などが好ましく使用できる。例えば、黄色色素としてはCINo.19140、15985、赤色色素としてはCINo.16185、45430、16255、45380、45100、紫色色素としてはCINo.42640、青色色素としてはCINo.42090、73015、緑色色素としてはCINo.42095などが挙げられる。
【0033】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水に使用される香料としては、キンモクセイ臭、レモン臭、バニリン臭などが好適に用いられ、作業環境の環境性を高めることができる。添加量は微量混入で良い。
【0034】
本発明の平版印刷用湿し水に使用されるキレート剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)などやこれらのナトリウム塩類、カリウム塩類、および有機アミン塩類などを挙げることが出来る。これらのキレート剤は濃縮湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加使用量は平版印刷用濃縮湿し水中10重量%以下である。
【0035】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
本発明の多価アルコールの多塩基酸モノエステル化合物として、下記の化合物1から6を使用して、表1に示した濃縮湿し水1から6を作製した。
【0037】
化合物1;ポリプロピレングリコール(#400)モノ琥珀酸エステル
化合物2;ポリプロピレングリコール(#400)モノマレイン酸エステル
化合物3;ポリプロピレングリコール(#400)モノアジピン酸エステル
化合物4;ポリプロピレングリコール(#700)モノ琥珀酸エステル
化合物5;グリセリン酸化プロピレン付加物(#700)モノ琥珀酸エステル
化合物6;ポリエチレングリコール(#400)モノ琥珀酸エステル
【0038】
【表1】
【0039】
但し,表1中の数字はgを表わす。又、ベストサイド700は大日本インキ化学工業製の防腐剤、ETBはエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、HPCは信越化学製のヒドロキシプロピルセルロースを示す。更に、この他に、それぞれ、大日本インキ化学工業製の消泡剤メガファックF−815を0.15g添加した
【0040】
次に、本発明による濃縮湿し水1から6をそれぞれ、水で50倍に希釈し、それに対応する平版印刷用の湿し水1から6を作製した。
【0041】
また別に、比較湿し水として比較例1と比較例2を作製した。比較例1は、古くから処方されているイソプロピルアルコールを含有した湿し水であり、ポリオキシエチレンセチルエーテル0.1部、クエン酸2部、リン酸2部および水95.9部から成る濃縮湿し水を用い、水89.5部、イソプロピルアルコール10部および前述の濃縮湿し水0.5部から成る平版印刷用湿し水である。比較例2はイソプロピルアルコールの作用を有機溶剤類にて置き換えた処方のもので、水570部、ヒドロキシプロピルセルロース19部、メタリン酸1部、クエン酸5部、硝酸ソーダ27部、ベストサイト700を8部、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル200部、ポリプロピレングリコールメチルエーテル120部、ブチルカービトール50部から成る濃縮湿し水を用い、水にて50倍に希釈し、メガファックF−815を0.003部添加して湿し水とした。
【0042】
本発明による湿し水1から6および比較例1,2の湿し水特性を表2に示す。動的表面張力は最大泡圧法、25℃に於ける値であり、版トレテストはポジ型PS版RP(ポリクロームジャパン製)を湿し水中に24時間室温にて浸漬した場合の版の状態を、「(A);全く変化なし、(B);オリジナルと比べると若干変化あり、(C);変化が認められるが問題ない程度、(D);部分的に版トレが生じている、(E);全面で版トレ」の5段階に評価したものである。インキ乳化テストはインキの湿し水保持力をダクテット試験機(川村理研製)により、インキ「ジオスG−紅Nタイプ」(大日本インキ化学工業製)を用い設定条件1500rpm/60rpm、40℃で測定した値である。
【0043】
【表2】
【0044】
表2より動的表面張力においては本発明の湿し水は比較例1と比較例2の中間の値を示し、版トレテストでは本発明の湿し水は水のみの場合と同じで全く版トレを起こさず、インキ乳化テストにおいては測定インキに対して乳化し易い特性を示した。このことから、本発明による湿し水は比較例と比べて版トレで優れており、インキの乳化特性においては比較例の湿し水と比較してインキに馴染み易いことが判る。
【0045】
(実施例2)
本発明の湿し水1から6および比較例湿し水1および2を使用して印刷テストを実施した。印刷条件は以下の通りである。
印刷機:ローランドR−700(ローランド社製)、印刷速度:10,000枚/1時間、印刷用紙:十条ダイヤコート57.5kg/A全、湿し水機構:ローランドマチック、温湿度:23〜24℃,50〜60%RH、インキ:ジオスG紅−S(大日本インキ化学工業製)、PS版:RP(ポリクロームジャパン社製)
【0046】
各々の湿し水について10,000部の印刷テストを行い、印刷物の汚れ、水幅、発泡および汚れもどりの程度について判定した。その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3において、印刷物の汚れは、10,000部印刷後の非画線部の汚れの程度を「(○):汚れなし、(×):汚れ発生・印刷物不可」で評価した。水幅は版面に供給する水を減らしてゆき、印刷物に汚れが生じた時の水ダイアル値であり、この値が小さい方が少ない湿し水量で非画線部を均一に保護できることを示す。発泡の程度は、「(◎):発泡なし、(○):発泡は認められたが印刷上問題なし、(×):発泡が激しく印刷が困難である」により評価した。汚れもどりは、印刷物を5,000部印刷した後印刷機を10分間停止し、印刷を再開したとき発生した汚れがとれて正常な印刷物を得るまでの印刷枚数の程度を、「(○):イソプロピルアルコールを使用した湿し水を標準とし、(◎):標準の2/3以下で回復、(△):標準の1.3倍以上で回復、(×):回復せず」の評価基準で評価した。
【0049】
表3の結果より、本発明による湿し水はイソプロピルアルコールを含有しないにも拘らず、イソプロピルアルコールを含有した湿し水と同等あるいはそれ以上の印刷適性性能をもっていることが判る。
【0050】
【発明の効果】
本発明による平版印刷用湿し水材料を含有した平版印刷用濃縮湿し水は、IPAを含有しない消防法および労働安全衛生法の規制に適合した液安定性に優れた濃縮湿し水であって、本発明による濃縮湿し水を希釈して作製した平版印刷用湿し水は、印刷物の汚れや版トレのない高品位の印刷物を容易に得られると言う優れた湿し水特性を持った湿し水である。
Claims (2)
- 前記した多価アルコールの多塩基酸モノエステルまたはその塩の含有量が0.01から20重量%である請求項1に記載の平版印刷用濃縮湿し水。
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