JP4920289B2 - 平版印刷用湿し水組成物 - Google Patents
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Description
平版印刷法では一般的に湿し水を用いて、非画像領域を湿潤させて画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインキ受容性とを増大させることがなされる。
通常湿し水には平版印刷版の非画像領域のインキ反発性を維持するため、硝酸、リン酸、ホスホン酸、硫酸、塩酸またはこれらの塩等が添加されている。
特にリン酸及び/又はリン酸塩、ホスホン酸及び/又はホスホン酸塩は印刷版の非画像領域の親水性を高めるため、有効に用いられている。
一方、湿し水は通常濃縮液の形態で供給され、使用時に水道水や井戸水などで希釈して使用される。その水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオンなどが湿し水中の成分と反応して不溶性の析出物を生成し、この析出物が印刷機のロールに付着して印刷に悪影響を与える原因となることがある。
このようにして増大した湿し水中のカルシウムイオンが、前述のリン酸及び/又はリン酸塩、あるいはホスホン酸及び/又はホスホン酸塩と反応し、不溶性の塩を形成することがある。このような不溶性の塩が印刷版の画像領域上に析出、付着したり、印刷機のインキロール上に付着、堆積して、インキの正常な転移性を損なうことになり、インキ着肉性の低下や、いわゆるローラーストリップ(インキロール上のインキ剥げ)などの問題を引き起こす場合があった。
従って本発明は、下記一般式(I)で示される化合物の少なくとも1種及び下記一般式(II)で示される化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする、平版印刷用湿し水組成物である。
本発明の湿し水組成物の実施態様として、下記一般式(III)で示される化合物及び/又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールをさらに含ませることができる。
R1O−(−CH2CH(R2)−O−)m−H (III)
(式中、R1は炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜3の整数を表す。)
本発明の湿し水組成物は、リン酸、リン酸塩、ホスホン酸及びホスホン酸塩のいずれも含まない組成とすることが望ましい。
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、印刷版面への濡れ性に優れ、長時間の連続印刷条件下においても、インキロール上のインキを印刷に好適な状態に安定に維持することができる。本発明の平版印刷用湿し水組成物によれば、印刷時に、印刷版の汚れ、ブラインディング、水負け、及びインキ着肉不良といった問題を発生させずに長期間安定に連続印刷をすることができ、印刷適性が良好である。
本発明の平版印刷用湿し水組成物によればまた、長時間にわたり印刷版を交換することなく多部数の印刷を行っても、非画像部に地汚れが発生したり、網点ハイライト部分の飛びなどの画像欠落を起こすことなく、安定に高品質の印刷物を得ることができ、印刷の能率化、生産性の向上を図ることができる。本発明の平版印刷用湿し水組成物によれば、印刷機を一旦停止した後の印刷再スタート時のインキ汚れの回復が早い。よって損紙が少なく印刷を再開することができる。
本発明の平版印刷用湿し水組成物はまた、印刷作業にあたって、専門的熟練を必要とすることなく、各種の連続給水式印刷機において湿し水組成物中のイソプロピルアルコールを代替することができる。
湿し水は通常商業ベースとするときは濃縮化し商品化するのが一般的であり、使用するときに、そのような濃縮液を適宜希釈して湿し水として使用することになる。本明細書中では濃縮化されたものを湿し水組成物と称する。
本明細書中で以下に言及する各種成分の含有量や添加量は、特に記載しない限り、使用時の湿し水の全質量に基づいたものである。
[一般式(I)で示される化合物]
本発明の平版印刷用湿し水組成物は、下記一般式(I)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む。
上記一般式(I)で示される化合物は市場で一般に入手することができ、本発明において市販品を使用することができる。一般式(I)の化合物の市販品の例として、東京化成工業社製のイミノ二酢酸、及び同仁化学研究所製の商品名IDAなどがある。
本発明の湿し水組成物において、一般式(I)で示される化合物を1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。湿し水における一般式(I)で示される化合物の含有量は、一般に0.001〜1.0質量%の範囲であり、この範囲にあると非画像領域の親水性の維持が良好で、且つインキロール上へのカルシウム塩などの析出、堆積を防止でき、インキロール上のインキ剥げに関して充分な抑制効果が得られる点で好ましい。その量はより好ましくは0.002〜0.05質量%であり、特に好ましくは0.005〜0.03質量%である。
本発明の平版印刷用湿し水組成物には、さらに以下の一般式(II)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含ませる。
エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの結合構造としては、先にエチレンオキサイドを付加し、その後プロピレンオキサイドを付加したブロック構造、先にプロピレンオキサイドを付加し、その後エチレンオキサイドを付加したブロック構造、同時にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加したランダム構造があるが、いずれの構造のものもほぼ同様の効果が得られる。
本発明で使用する一般式(II)で示される化合物において、その重量平均分子量は500〜20000の範囲が一般的であり、500〜5000が適当であり、好ましくは500〜3000であり、特に好ましくは重量平均分子量800〜2000のものである。
一般式(II)で示される化合物の例として、下記の化合物があり、このような化合物は例えば、アミノエタノールアミン(H2N-CH2CH2-NH-CH2CH2-OH)に、KOHを触媒として加え、プロピレンオキサイドを反応させ、次いでエチレンオキサイドを反応させることによって、合成することができる。
上記一般式(II)の化合物の分子量やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの比率は、例えば水酸基価及びアミン価の測定、NMR測定などにより決定することができる。
湿し水における一般式(II)で示される化合物の添加量は、湿し水の濡れ性を向上させる観点から0.001〜1質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.5質量%であり、より好ましくは0.02〜0.2質量%である。
本発明の平版印刷用湿し水組成物には、pH緩衝性を有する有機酸及びその塩類から選ばれる少なくとも1種を含ませることが好ましい。
一般式(I)の化合物が印刷版の非画像領域の親水化に有効に機能するには、湿し水のpHを所定の範囲に維持することが望ましい。具体的には、湿し水のpHを酸性領域から中性領域に保持し、一般式(I)の化合物の化合物のカルボン酸基の一部を解離させた状態に維持しておく必要がある。この目的に適当なpH値は3〜8の範囲であり、pH4〜7がより好ましく、pH4.5〜6.5の範囲が特に好ましい。
このようなpH値を維持できるように、本発明の湿し水組成物にpH緩衝性を有する有機酸化合物を添加する。pH緩衝性を有する有機酸の具体例としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸、酢酸、グリコール酸、蓚酸、アスコルビン酸、レブリン酸などが挙げられる。また、それらの塩類としてアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩が挙げられる。これらの中でもクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸及びその塩類が、多部数の印刷を行っても地汚れや網点ハイライト部分の飛びなどの印刷トラブルを発生させることがなく好ましい。さらにリンゴ酸、コハク酸、グルタル酸及びその塩類が特に好ましい。これらの有機酸及びその塩類は、2種以上の混合物として使用してもよい。
上述の有機酸は、NaOHやKOH、アンモニア、有機アミン類などのアルカリ剤を添加するか、有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩などと併用することによりpH値を所望の範囲に調整して使用される。
これらの有機酸及び/又はその塩類の湿し水における添加量は、ローラーストリップを抑制する点から、一般に0.002〜0.2質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.1質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.06質量%である。
本発明の湿し水組成物にはさらに、湿し水の濡れ性を向上させる溶剤や界面活性剤などを含ませることができる。
それらの中で、下記一般式(III)で示される化合物及び2−エチル−1,3−ヘキサンジオールが特に挙げられる。従って、本発明の湿し水組成物の実施態様として、下記一般式(III)で示される化合物及び/又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含ませることが挙げられる。
R1O−(−CH2CH(R2)−O−)m−H (III)
(式中、R1は炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜3の整数を表す。)
一般式(III)の化合物において、R1は炭素原子数3〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、R1としては具体的にn−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2-エチルヘキシル基などがある。mは1〜3の整数を表す。
中でも、プロピレングリコールのn−ブチルエーテル、イソブチルエーテル又はt−ブチルエーテル、及びエチレングリコールのt−ブチルエーテルが好ましく使用できる。
湿し水における一般式(III)で示される化合物及び2−エチル−1,3−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種の含有量は、0.05〜5質量%が適当であり、好ましくは0.2〜2質量%であり、特に好ましくは0.4〜1質量%である。
これらの界面活性剤の含有量は発泡の点を考慮すると、湿し水中10質量%以下、好ましくは0.01〜3.0質量%が適当である。
水溶性高分子化合物の具体的な例としてはアラビアゴム、澱粉誘導体(例えばデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、燐酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉など)、アルギン酸塩、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、それらのグリオキサール変性体など)などの天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体などの合成物が挙げられる。これらの高分子化合物は単独でまたは混合して使用でき、その添加量は湿し水中、0.0001〜5質量%の範囲が適当であり、好ましくは0.003〜1質量%の範囲である。
これらポリビニルピロリドンは1種単独でも、又は分子量の異なるものを2種以上組み合わせて使用することもできる。また、低分子量のポリビニルピロリドン、例えば重合度3〜5のビニルピロリドンオリゴマーと組み合わせることができる。
このようなポリビニルピロリドンとしては、市販品を使用することができる。例えば、ISP社製のK−15、K−30、K−60、K−90、K−120などの各種グレードのものを使用することができる。
湿し水におけるポリビニルピロリドンの含有量は、0.001〜0.3質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.2質量%である。
またグリセリンを単独で使用してもよく、又は糖類と併用してもよい。
湿し水において、糖類及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加する量としては湿し水中0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%が適当である。
本発明で使用するベンゾトリアゾール及びその誘導体として具体的に、下記一般式(IV)で示されるものがある。
Rで示されるアルキル基の例として炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基があり、これらのアルキル基は置換されていてもよく、該置換基として例えば、アミノ基、N-アルキルアミノ基、N,N-ジアルキルアミノ基などがある。
R1又はR2で示されるアルキル基及びアルコキシ基の例として、炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及びアルコキシ基が挙げられる。R1又はR2で示されるハロゲン原子の例として塩素原子及び臭素原子などが挙げられる。
中でも、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール及びジメチルベンゾトリアゾールが好ましく使用される。
本発明で使用するベンゾトリアゾール及びその誘導体は、市販品を使用することができる。
本発明の湿し水組成物には、ベンゾトリアゾール及びその誘導体から選ばれる1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。このようなベンゾトリアゾール類化合物を湿し水において、0.00001〜0.1質量%の範囲で含有させることにより、金属に対して適当な防腐食及び防錆効果を発揮することできる。より好ましくはベンゾトリアゾール類化合物を湿し水において0.00005〜0.01質量%、特に好ましくは0.0002〜0.005質量%の範囲で含有させる。
ずれも使用することができる。
本発明の湿し水組成物には更に、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸アンモニウムなどの腐食抑制剤、クロム化合物、アルミニウム化合物のような硬膜剤、環状エーテル:例えば4−ブチロラクトンなどの有機溶剤、特開昭61−193893号公報記載の水溶性界面活性有機金属化合物などを湿し水中0.0001〜1質量%の範囲で添加することもできる。
ASTM D 2369-95の測定法は、試料3mlを熱風オーブン110℃で1時間の条件で、次式により揮発性有機溶剤量を求めるものである。
式:{(試料の質量−加熱残分の質量−試料中の水分質量)/(試料の質量)}×100=揮発性有機溶剤量(質量%)
また、使用時の湿し水中に15質量%程度までのイソプロピルアルコールを併用しても印刷品質上問題はない。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製PN-V)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製HP−F、HP−L)、及びサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
下記表1の組成に従って、実施例1〜6及び比較例1〜4の各種湿し水組成物を調製した。表中、単位はグラムであり、水を加えて最終的に1000mlとした。これらはいずれも濃縮タイプで、使用時に希釈する。表1の組成に記載した化合物(I-a)及び(I-b)の構造は次のとおりである。
化合物(I-a):一般式(I)においてM1及びM2がナトリウム原子であるもの
化合物(I-b):一般式(I)においてM1及びM2が水素原子であるもの
また表1の組成に記載した化合物(II)の構造は次のとおりである。
化合物(II):
印刷機はハイデルMOV(アルカラー給水装置)を使用して、T&K TOKA(株)の名称スーパーバイタルの紅インキと、使用プレートとして富士写真フイルム(株)製のポジ型PS版VSを富士写真フイルム製FQIチャートのフィルムを用い、ウシオ製PSライトで露光後、富士写真フイルム製現像液DP−4で現像処理を行い、富士写真フイルム製ガム液FP−2でガム引き処理を行って製版したものを用い、中越パルプ(株)の軽量コート紙、名称エミネを用いて、下記の印刷テストを実施した。それらの結果を下記表2に示す。
汚れを生じず、水負けを起こさない湿し水の量(最小水上げ量)を求め、その水目盛りで連続印刷を実施した。印刷物に汚れ又は水負けが発生し良好な印刷物が得られなくなるまでの印刷枚数により判定する。
10000枚以上 A
10000〜3000枚以上 B
2999〜1枚 C
(b)汚れ回復性:
3000枚印刷後、印刷機上で1時間放置した後、印刷を再開した時、印刷版面のインキ汚れが解消するまでに要した印刷用紙の枚数を調べる。
20枚未満 A
20枚以上100枚未満 B
100枚以上 C
(c)耐ローラーストリップ性:
50,000枚印刷したところで印刷機の運転を休止し、インキロール上における不溶性のカルシウム塩の析出、堆積およびインキロ−ルのインキハゲの発生の有無を調べた。
A インキロールへのカルシウム塩の堆積、インキハゲの発生が全くない
B インキロールへのカルシウム塩の堆積がややあるが、インキハゲの発生はない
C インキロールへのカルシウム塩の堆積が多く、インキハゲの発生がある
Claims (4)
- 下記一般式(I)で示される化合物の少なくとも1種及び下記一般式(II)で示される化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする、平版印刷用湿し水組成物。
- さらにpH緩衝性を有する有機酸及びその塩類から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載の平版印刷用湿し水組成物。
- さらに下記一般式(III)で示される化合物及び/又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含む、請求項1又は2記載の平版印刷用湿し水組成物。
R1O−(−CH2CH(R2)−O−)m−H (III)
(式中、R1は炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、mは1〜3の整数を表す。) - リン酸、リン酸塩、ホスホン酸及びホスホン酸塩を含有しない、請求項1〜3のいずれか1項記載の平版印刷用湿し水組成物。
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