JP4672483B2 - 平版印刷用湿し水組成物 - Google Patents
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Description
しかしながら、このイソプロピルアルコールは水と蒸発のし易さが異なるために、湿し水のイソプロピルアルコール濃度を一定に保つための特殊な高価な装置が必要である。また、イソプロピルアルコールは特有の不快臭があることと共に、毒性の面でも問題があり、有機溶剤中毒予防規則(有機則)第2種有機溶剤であって規制を受ける。さらに、危険物第4類アルコール類に該当し、引火し易い化合物であるため、取り扱いや保管管理に注意が必要で作業環境上好ましくない。また、このイソプロピルアルコールを添加した湿し水を、通常の水棒を用いるオフセット印刷に適用しても、ローラー上および版面上でイソプロピルアルコールが蒸発するため、その効果を発揮することができないなどの問題があった。
しかしながらこれらの代替技術では揮発性を有する有機溶剤を使用するため、VOC(揮発性有機化合物)を排出する原因となり、改良が求められる。
一方、イソプロピルアルコール代替化合物として不揮発性もしくは高沸点化合物を使用する技術も開発されている。例えば、特定のアルキレンオキサイド系非イオン系界面活性剤を湿し水組成物に含めることが提案され(例えば、特許文献20参照。)、及び、アルキレンジアミンのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物を湿し水組成物に含めることが提案されている(例えば、特許文献21参照。)。しかしながら、このような湿し水組成物を用いたとき、印刷機停止時に版面上に残った湿し水が水滴となり水分が蒸発すると、これらの不揮発性もしくは高沸点の化合物が濃縮されて残存し、平版印刷版の画像領域を溶解し画像を損なうという欠点がある。
さらにこれらのイソプロピルアルコール代替技術では、特にUVインキを使用した印刷やハイデルベルグをはじめとする間接給水型の給水装置を備えた印刷機で、インキの乳化が進行しやすく、長時間の印刷を行うとインキの過乳化により転移性の低下を起こしてしまい、水負けや着肉不良などのトラブルが発生する問題があり、湿し水にイソプロピルアルコールを添加せざるを得ない場合があった。
本発明の目的は特に、長時間連続印刷しても、印刷版の汚れ、ブラインディング及び水負けといった問題や、版へのインキ着肉不良を発生させずに安定に印刷できる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はまた、インキを過度に乳化させることなく、インキロール上のインキを印刷に好適な状態に維持することができる湿し水組成物を提供することである。本発明のまた別の目的は、印刷機停止時に版面上に残った湿し水が水滴となり、水分が蒸発しても、画像部を溶解せず画像を損なうことがない平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はさらに、高品質の印刷物を得ることができる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。
したがって本発明は、エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物で重量平均分子量が500〜1500である該化合物と、
以下の(I)〜(III):
(I)アルキル基によって変性された澱粉系の水溶性高分子化合物、
(II)アルキル基によって変性されたセルロース系の水溶性高分子化合物、及び
(III)ビニル基を含む不飽和単量体のビニル重合から誘導される水溶性高分子化合物
からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子化合物と、
一般式(1):R1−O−(CH2CHR2O)n−H (1)
(R1は炭素原子数4のアルキル基を表し、R2は水素又はメチル基を表し、nは1である。)で示される化合物
とを含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物である。
本発明の好ましい実施態様として、上記湿し水組成物にさらに、糖類から選ばれる少なくとも1種を含有させる。
本発明の湿し水組成物によれば、揮発性有機溶剤の量を極めて少量にしてイソプロピルアルコールを完全に代替することができ、労働衛生上及び消防安全上の問題が全くない上、高品質の印刷物を得ることができ、印刷の能率化、生産性の向上を図ることができる。
本発明で使用される、エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物は、重量平均分子量が500〜1500のものであり、好ましくは800〜1200であり、最適なのは重量平均分子量1000付近のものである。
このような分子量を有する上記化合物は、印刷機停止時に版上に残った水滴が放置により水が蒸発し、濃縮されて残ったときでも、画像領域にダメージを与えることがない。上記化合物はまた、揮発性を有する有機溶剤と併用することなしに、イソプロピルアルコールを代替することが可能である。
エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの結合構造としては、先にエチレンオキサイドを付加し、その後プロピレンオキサイドを付加したブロック構造、先にプロピレンオキサイドを付加し、その後エチレンオキサイドを付加したブロック構造、同時にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加したランダム構造があるが、いずれの構造のものもほぼ同様の効果が得られる。
本発明で使用される、エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物は、常法に従って製造することができ、例えばエチレンジアミンに触媒の存在下でエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させる。
該化合物の分子量やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの比率は、例えば水酸基価及びアミン価の測定、NMR測定などにより決定することができる。
本発明の湿し水組成物には更に、以下の(I)〜(III)からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子化合物を含有させる。
(I)アルキル基によって変性された澱粉系の水溶性高分子化合物
(II)アルキル基によって変性されたセルロース系の水溶性高分子化合物
(III)ビニル基を含む不飽和単量体のビニル重合から誘導される水溶性高分子化合物
上記(I)のアルキル基によって変性された澱粉系の水溶性高分子化合物において、該アルキル基としては具体的にメチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられ、これらのアルキル基から選ばれる少なくとも1種によって変性された澱粉系水溶性高分子化合物が例示される。上記(I)の水溶性高分子化合物の具体例として、メチル澱粉、エチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、及びオクテニルコハク化澱粉などが挙げられる。中でも、メチル基、プロピル基によって変性された澱粉系水溶性高分子化合物が好ましく、例えばヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリンなどがある。
本発明で使用する水溶性高分子化合物(I)〜(III)は比較的低粘度のものが望ましく、その0.1%水溶液が100cps以下のものが適当であり、より好ましくはその1%水溶液が100cps以下のものである。
湿し水におけるこれらの水溶性高分子の含有量は、印刷性能を向上させる観点から0.001〜0.3質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.2質量%である。
上記(I)〜(III)の水溶性高分子化合物は市場で一般に入手することができ、本発明では市販品を使用することができる。市販品の例として、例えば信越化学工業(株)製のメトローズがあり、メチルセルロースのSMタイプとしてSM-4、SM-15、SM-25、SM-100などがあり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのSHタイプとして60SH-3、60SH-6、60SH-15、60SH-50、65SH-50などがある。
本発明の湿し水組成物には、さらに下記の一般式(1)の化合物を含ませる。この化合物を使用することで、印刷性能が向上するとともに、インキの過乳化現象が起きにくくなり、UVインキを使用した印刷やハイデルベルグをはじめとする間接給水型の給水装置を備えた印刷機でも、イソプロピルアルコールを全く使用せずに良好な印刷性能を発揮することができる。
R1−O−(CH2CHR2O)n−H (1)
(R1は炭素原子数4のアルキル基を表し、R2は水素又はメチル基を表し、nは1である。)
式中、R1はn−ブチル基、イソブチル基及びt−ブチル基が適当である。
一般式(1)の化合物は、具体的にエチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールイソブチルエーテル、及びプロピレングリコール−t−ブチルエーテルである。
労働安全上の観点から、R2がメチル基であるプロピレングリコール系の化合物が望ましい。
湿し水における一般式(1)で示される化合物の含有量は、0.001〜1質量%が適当であり、好ましくは0.1〜0.5質量%である。
本発明の湿し水組成物にはまた、糖類から選ばれる少なくとも1種を含ませることが好ましい。使用する糖類としては、単糖類、二糖類及びオリゴ糖類などから選択することができ、水素添加によって得られる糖アルコールもこれに含まれる。具体例としてD−エリトロース、D−スレオース、D−アラビノース、D−リボース、D−キシロース、D−エリスロ−ペンテュロース、D−アルロース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノース、D−タロース、β−D−フラクトース、α−L−ソルボース、6−デオキシ−D−グルコース、D−グリセロ−D−ガラクトース、α−D−アルロ−ヘプチュロース、β−D−アルトロ−3−ヘプチュロース、サッカロース、ラクトース、D−マルトース、イソマルトース、イヌロビオース、マルトトリオース、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズルシット、アロズルシット、マルチトール、還元水あめなどが挙げられる。これらの糖類を1種単独で使用してもよいし又は2種以上を併用してもよい。湿し水組成物に糖類を含ませることにより、印刷性能をいっそう向上させることができる。
湿し水において、糖類から選ばれる少なくとも1種の含有量は0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
実使用に際して、湿し水は濃縮液である湿し水組成物として供給され、それを0.5〜5%程度に希釈して使用するのが通常である。
上記一般式(1)で示される化合物の配合にあたっては、濃縮液である湿し水組成物を調製する際に、液安定性を良好に保つため、可溶化補助溶剤を併用することが望ましい。
該可溶化補助溶剤の例として、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどが挙げられる。中でも3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが好ましく使用される。
このような可溶化補助溶剤は、濃縮液である湿し水組成物において一般的に3〜30質量%添加され、好ましくは5〜20質量%添加される。可溶化補助溶剤は使用時の湿し水に一般的に0.1〜1質量%程度の量で含まれる。
本発明の湿し水組成物はまた、アルカリ金属水酸化物、燐酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、珪酸塩等を含有させ、pH7〜11付近のアルカリ領域で用いることもできる。
上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加する量としては湿し水中0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%が適当である。
消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型などのいずれも使用することができる。
これらの界面活性剤の含有量は発泡の点を考慮すると、湿し水中10質量%以下、好ましくは0.01〜3.0質量%が適当である。
これらの湿潤剤を単独又は2種以上の併用で、湿し水中0.01〜1質量%程度含ませることができる。
従って、上述の各種成分の湿し水における含有量や湿し水組成物の希釈率などを考慮して、水、好ましくは脱塩水、即ち、純水を使用して各種成分を適宜な濃度で溶解し、濃縮液である湿し水組成物を調製することができる。このような濃縮液を、使用時に通常水道水、井戸水等で20〜200倍程度に希釈し、使用時の湿し水とする。
また、湿し水中15質量%程度までのイソプロピルアルコールを併用しても印刷品質上問題はない。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LP−NX)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−PI)、及びサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
下記表1〜2の組成に従って、実施例1〜8及び比較例1〜4の各種湿し水組成物を調製した。表中、単位はグラムであり、水を加えて最終的に1000mlとした。これらはいずれも濃縮タイプで、使用時に希釈する。
*1 商品名:メトローズ SM-4(信越化学工業(株)製)
*2 商品名:HPC L(日本曹達(株)製)
*3 商品名:KL-506((株)クラレ製)
*4 商品名:アロン A-10(東亜合成(株)製)
*5 商品名:K-15(ISP社製)
*6 商品名:GANEX P(ISP社製)
*7 商品名:クリームデキストリン(松谷化学工業(株)製)
印刷機はハイデルベルグ製MOVを使用して、東洋インキ(株)の名称FDカルトンACEのプロセス4色(墨、藍、紅、黄)インキと、使用プレートとして富士写真フイルム(株)製のサーマル型CTP−PS版HP−Sを用いて、Creo社製プレートセッターにて書き込み後、富士写真フイルム製現像液DT−2で現像処理を行い、富士写真フイルム製フィニッシャー液FG−1でガム引き処理を行って製版したものを用いて、印刷テストを実施した。
(a) 連続印刷安定性:
汚れを生じず、水負けを起こさない湿し水の量の最小水上げ量を求め、各種の湿し水を用いてこの最少水あげ量で印刷を行い、印刷物の汚れの発生、又は水負けにより良好な印刷物が得られなくなるまでの印刷枚数により判定する。
10000枚以上 A
10000〜3000枚以上 B
2999〜1枚 C
なし D
10000枚印刷したときの、インキ練りローラー上のインキの乳化状態を調べる。
良い A
やや悪い B
悪い C
(c) 画像部劣化:
印刷機を停止し、PS版のベタ部と30%網点部の画像部にシリンジを用いてそれぞれの湿し水を5μl、10μl、20μl及び50μlを滴下し、60分間放置する。その後印刷を再開し、画像領域の劣化について評価する。
問題なし A
若干劣化有り(リング状跡有り) B
劣化 C
テスト結果を下記の表3に示す。
さらに上記実施例1〜8の湿し水組成物は、イソプロピルアルコールとは異なり、労働安全上及び消防安全上の問題が全くないうえ、既存のイソプロピルアルコール代替湿し水とは異なり、UVインキ使用時などの困難な条件やハイデルベルグなどの印刷機でも、イソプロピルアルコールを併用することなしに良好な印刷性能が発揮でき且つ環境上好ましい。
Claims (2)
- エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物で重量平均分子量が500〜1500である該化合物と、
以下の(II)〜(III):
(II)アルキル基によって変性されたセルロース系の水溶性高分子化合物、及び
(III)ビニル基を含む不飽和単量体のビニル重合から誘導される水溶性高分子化合物であってポリビニルピロリドン及びアルキレートポリビニルピロリドンから選ばれる水溶性高分子化合物
からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子化合物と、
一般式(1):R1−O−(CH2CHR2O)n−H
(R1は炭素原子数4のアルキル基を表し、R2は水素又はメチル基を表し、nは1である。)で示される化合物と、
ソルビトール及びサッカロースから選ばれる少なくとも1種の糖類と、
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール
を含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物。 - エチレンジアミンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加した化合物においてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加モル数比率が5:95〜50:50の範囲である、請求項1記載の平版印刷用湿し水組成物。
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