JP3648013B2 - 加工性に優れた耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板およびその使用方法 - Google Patents
加工性に優れた耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板およびその使用方法 Download PDFInfo
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【発明の属する技術分野】
本発明は、200〜500℃の高温環境で使用される耐熱部材用の加工性に優れたZn−Al系溶融めっき鋼板、およびその高温脆化の進行を抑制した使用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Zn−Al系溶融めっき鋼板は、Znの犠牲防食作用による優れた耐食性を発揮することから、従来から屋根,壁等の建材用途に広く使用されている。ところが近年、コスト・品質のバランスが重要視され、部材の使い分けが細分化してきた。その結果、Zn−Al系溶融めっき鋼板も従来からの耐食用途のみならず、耐熱用途にも使用されるようになってきた。中でもZn−55%Al合金めっき鋼板はめっき層自体の耐食性および耐熱性に優れていることから、総合的な耐久性が良好なめっき鋼板であり、種々の用途への適用が期待されている。
【0003】
しかし、Zn系めっき層で被覆された鋼材は、約200℃以上の高温で使用するとめっき層中のZnが母材鋼板の結晶粒界へ拡散し、母材鋼板自体が脆化する現象(ここでは「高温脆化」と呼ぶ)を生じることが知られている。このため、例えば自動車に搭載される排気系部材のように、約200℃以上の温度に昇温し、しかも振動等による外力が加わる部材にZn系めっき鋼材を使用することは好ましくなく、そのような用途にはAlめっき鋼板やステンレス鋼等の高価な材料を使用せざるを得なかった。
【0004】
このようなZn系めっき鋼材の高温脆化の問題に対処する方法として、特公平1−35071号公報には、めっき母材である炭素鋼にPを少なくとも0.039重量%以上含有させて高温脆化を防止する方法が開示されている。それによると、900°F(482℃)で最大600時間まで加熱した場合の引張伸びのデータが示されており、例えば55%Al−Zn合金被覆鋼材では母材にPを0.042%以上含有させたものにおいて600時間加熱後の伸びが加熱前の伸びを上回る結果となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特公平1−35071号公報に記載の方法では、Pを多量に添加するために母材鋼板自体が硬質化し、本来炭素鋼が有する加工性を損なうことになる。このため複雑形状の耐熱部材を作ることが難しく、昨今の多用なニーズに十分応えることができない。また、本発明者らが追試したところ、上記P添加手段によれば、めっき後に加工せずに加熱した試料においては確かに優れた耐高温脆化性を示すが、塑性加工を施した後に加熱した場合にはその加工部分での耐高温脆化性が必ずしも十分とは言えない。例えば加熱温度400℃の場合、加熱時間が600時間を超えても依然として加工部分で脆化の進行が認められ、特に複雑形状の加工が必要な用途においては更なる耐久性の向上が望まれる。
【0006】
このように従来の技術では、Zn−Al系めっき鋼板を加工して作った耐熱部材における高温脆化の問題については十分解消するには至っていない。また、加工部分の脆化の程度を引張試験だけで評価することは困難であり、新たな評価方法の導入を検討する必要もある。
そこで、本発明は、Zn−Al系めっき鋼板に塑性加工を付与して製作した耐熱部材においても優れた耐高温脆化性を発揮するZn−Al系めっき鋼板であって、特に1000時間以上といった長時間の加熱使用においても安定した耐久性を維持できる材料を提供することを目的とする。さらに、高温脆化の進行を抑制した耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板の使用方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、質量%において、C:0.01%以下,Si:0.05%以下,Mn:0.5%以下,P:0.020%以下,N:0.0040%以下であり、B:0.0007〜0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる母材鋼板の表面に、Al:0.1〜75質量%を含むZn−Al系溶融めっき層を形成した加工性に優れた鋼板であって、当該鋼板にその板厚t( mm )の2倍の内側半径で 90 °曲げを施した試料を 400 ℃の大気中で加熱して 600 時間加熱後の脆化深さD 600 ( mm )および 1000 時間加熱後の脆化深さD 1000 ( mm )を測定したとき、下記(1)式および(2)式の関係が成立し、200〜500℃の高温環境で使用される耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板を提供するものである。
D 1000 ≦ 0.20 ×t ----- (1)
1.2 ×D 600 ≧D 1000 ----- (2)
なお、ここでいう脆化深さとは、 90 °曲げを付与した部分について加熱後にさらに密着曲げを行い、その曲げ加工部分の板厚方向に垂直な断面の金属組織を顕微鏡観察して、曲げ部外側に生じた割れの最大深さを、曲げ部外側のめっき層と母材の界面を基準として測定したmm単位の値を意味する。したがって、これは実際に割れの発生する程度を直接評価し得るものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の母材鋼板を、C:0.01%以下,Si:0.05%以下,Mn:0.5%以下,P:0.030%以下,N:0.0040%以下であり、B:0.0007〜0.0050%を含有し、さらにTi,Nb,Zrのうち1種以上を合計でC+N(質量%)の4倍以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる母材鋼板に変えたものである。ここでC+N(質量%)とは、質量%で表されたC含有量とN含有量の合計値を意味する。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明の母材鋼板において、そのB含有量を特に0.0013〜0.0050質量%の範囲としたものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3の発明における溶融めっき層を、特に、質量%において、Al:0.1〜75%を含み、さらにSi:5%以下,Mg:3%以下,Ti:1%以下,Cr:1%以下のうち1種以上を含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるZn−Al系溶融めっき層としたものである。不可避的不純物としては、例えば製造上混入を避けることが困難であるMn,Sn,Fe等の元素が挙げれれる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4の発明において、溶融めっき層の厚さを特に5〜60μmとしたものである。
【0013】
請求項6の発明は、Bを0.0007〜0.0050質量%含有し、Pを0.020質量%以下の含有量に抑えた低炭素鋼板表面にAlを0.1〜75質量%含むZn−Al系溶融めっき層が形成されたZn−Al系溶融めっき鋼板であって、当該鋼板にその板厚t( mm )の2倍の内側半径で 90 °曲げを施した試料を 400 ℃の大気中で加熱して 600 時間加熱後の脆化深さD 600 ( mm )および 1000 時間加熱後の脆化深さD 1000 ( mm )を測定したとき、前記(1)式および(2)式の関係が成立する鋼板を、加工して耐熱用部材とし200〜500℃の高温環境で使用する、高温脆化の進行を抑制した耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板の使用方法を提供するものである。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6の発明における加工を、特に塑性加工を含むものとしたものである。ここで、塑性加工とは塑性変形を伴う加工であり、その例としては例えば、曲げ加工,フレア加工,張り出し加工,絞り加工,バーリング加工等が挙げれれる。
【0015】
請求項8の発明は、請求項6または請求項7の発明において、耐熱用部材を特に自動車排気系部材としたものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、Zn−Al系溶融めっき鋼板の高温脆化の克服に関し、特に当該鋼板を複雑形状に加工した耐熱部材においても優れた耐高温脆化性を付与する手段について検討を重ねた。その結果、母材鋼板にBを適量含有させることによってめっき後に加工した部分における耐高温脆化性が飛躍的に向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。以下、本発明を特定する事項について説明する。
【0017】
〔母材鋼板〕
本発明では、安価な低炭素普通鋼をベースとした鋼板を使用することを前提としている。
Cは、母材鋼板においてその含有量が増加すると鋼板自体が硬質化するので、良好な加工性が要求される本発明の母材鋼としてはC含有量は低いほど望ましい。しかし、C含有量を必要以上に低減させることは製鋼過程での負荷を増大させ、コスト上昇を招くだけである。本発明では複雑形状の耐熱部材への加工性を考慮して、C含有量は0.01質量%以下とすることが望ましい。
【0018】
Siは、母材鋼板においてその含有量が増加すると鋼板自体の硬質化を招くとともに、不めっき等のめっき欠陥を誘発し易くなり、外観不良,耐食性低下等のトラブル発生要因となる。このためSi含有量は低く抑える必要があり、本発明では0.05質量%以下とすることが望ましい。
Mnも、母材鋼板においてその含有量が増加すると鋼板自体を硬質化させるので、母材鋼板中の含有量を低く抑える必要がある。本発明ではMn含有量は0.5質量%以下とすることが望ましい。
【0019】
Pは、上記各元素と同様に母材鋼板において含有量が増加するほど鋼板自体の硬質化をもたらす元素である。加えて、Pの含有量が高いと、Zn−Al系溶融めっき後に加工を施した部分における高温脆化を十分に抑制することが困難となることが判明した。本発明者らの実験の結果、母材鋼板のP含有量が0.030質量%を超えると、後述のB添加による高温脆化抑制作用が十分発揮できなくなり、例えば400℃で600時間を超える長時間の加熱を行った場合に加工部分での脆化の進行をくい止めることが困難となった。したがって、本発明では母材鋼板のP含有量をできるだけ低減させることが重要であり、0.030質量%を超えて含有させてはならない。特に加工度の大きい耐熱部材に用いることが想定される場合には、母材鋼板のP含有量は0.020質量%未満とすることが望ましい。
【0020】
Nは、鋼中における含有量が増加するとめっき材自体の機械的性質を劣化させるだけでなく、高温環境での脆化抑制能も低下させてしまう。したがって、母材鋼板のN含有量は低いほど良く、本発明では0.0040質量%以下とすることが望ましい。
【0021】
Bは、本発明において非常に重要な役割を果たす元素である。すなわちBは、本発明においてZn−Al系溶融めっき鋼板に耐高温脆化性を付与するうえで欠くことのできない鋼成分である。本発明者らは詳細な検討の結果、Pを前記のように低減したうえでBを0.0007質量%以上含有させた母材鋼板にZn−Al系溶融めっき層を形成させたとき、そのZn−Al系溶融めっき鋼板をそのまま加熱した場合のみならず、その鋼板に塑性加工部を形成させた後に加熱した場合においても、母材鋼板の高温脆化が顕著に抑制されることを見出した。つまり、Zn−Al系溶融めっき鋼板を複雑な形状に加工した耐熱部材を高温環境に曝して使用する際、長時間の加熱によってもその加工部分の脆化の進行が顕著に抑制され、非常に優れた耐久性を発現するのである。具体的には、例えば加工後に500℃以下の温度で600時間を超える長時間の加熱を行ったとき、加工部においても脆化の進行は非常に遅くなり、長期にわたる耐久性が維持される。以上のことから、本発明においては母材鋼板のB含有量を0.0007質量%以上に規定した。なお、特に加工部での脆化の進行をより顕著に低減するためには母材鋼板のB含有量を0.0013質量%以上とすることが好ましい。
このようなBの効果については後述の実施例において実証する。
【0022】
目下のところ、Bが母材鋼板自体の高温脆化を抑制するメカニズムについては不明な点が多いが、以下のようなことが考えられる。すなわち、Zn−Al系溶融めっき鋼板に生じる高温脆化は、そのめっき鋼板を高温で使用中に、めっき層中のZnが母材鋼板の結晶粒界に優先的に拡散・侵入することによって引き起こされると考えられ、これはZnを含んだめっき層を有するめっき鋼板に共通する現象である。したがって、このZnの拡散・侵入を阻止することができれば高温脆化は抑制されると考えられる。鋼中に適量のBを含有した鋼板では、それを約200〜500℃の温度範囲で使用した際、拡散速度の速いBが優先的に母材鋼板の結晶粒界に偏析し、Znの粒界拡散を抑制する。しかも、加工によって生じた微少な粒界欠陥に対してもBは十分に偏析することができるので、特に加工部での高温脆化を抑制するうえでBはとりわけ有効に作用する。これに対し、従来高温脆化の改善に有効であるとされていたPでは、加工部の粒界におけるこのような偏析作用を十分果たすことができないと考えられる。つまり、Bに比べ原子径が大きいPの場合、加工によって引き起こされた微少な粒界欠陥すべてをPの粒界偏析だけでカバーすることが困難であり、その結果、加工部においてZnの粒界拡散を抑制しきれないものと推測される。また、PとBを複合添加したZn系めっき鋼板ではPの粒界偏析がBの働きを妨害し、B本来の作用が発揮できなくなると考えられる。
【0023】
以上のような作用が発揮される限り、Bの含有量の範囲には特に上限を設ける必要はない。ただし、あまり多量のBを添加すると鋼板自体の硬質化を招くこともあるため、母材鋼板のB含有量は0.0050質量%以下とすることが望ましい。さらに実操業におけるBの添加効果とコストのバランスを考慮したとき、0.0030質量%以下の含有量とすることがより好ましい。
【0024】
Ti,Nb,Zrは、Free-C,Free-Nを固定し、母材鋼板自体の機械的性質等をさらに改善させるうえで有効な元素である。その効果はTi,Nb,Zrの含有量の合計がC+N(質量%)の4倍以上のとき顕著になり、1種単独添加でも2種以上の複合添加でもかまわない。したがって、Ti,Nb,Zrを含有させる場合には、これらのうち1種以上を合計でC+N(質量%)の4倍以上含有させることが望ましい。
【0025】
〔めっき層〕
Alを含有したZn系溶融めっき層の耐食性,耐熱性は、めっき層中のAl含有率が高くなるほど向上するが、実用材料としてAlを0.1質量%以上含むものが使用されており、これら比較的安価な実用材料の用途においても耐高温脆化性を改善しためっき鋼板を提供することが重要であることに鑑み、本発明ではめっき層中のAlの含有量が0.1質量%以上のものを対象とした。ただし、溶融めっきの実操業を考慮したとき、めっき浴のAl濃度が高くなるに従ってめっき浴温が上昇し、スナウト内でのZn蒸発に起因しためっき欠陥の発生や、めっき浴中のドロスの増加に伴うめっき鋼板の外観不良の問題が生じやすくなる。そこで、製品製造時における不良品の発生頻度とめっき浴組成との関係を検討した結果、めっき層中のAlの含有量が75質量%以下のものを対象とすることとした。
【0026】
Zn−Al系溶融めっき層は、Si,Mg,Ti,Cr等が適量添加されたものであっても、母材鋼板の脆化挙動およびB添加による高温脆化抑制機能には本質的に影響を与えない。これらの元素を添加する効果は概ね以下のとおりである。
【0027】
Siは、10質量%以上のAlを含むZn−Al系溶融めっき鋼板に形成される合金層の成長を抑制する効果があり、めっき鋼板の加工性を改善するうえで効果的である。その含有量は概ね5質量%まで許容される。Mgは、めっき層の耐食性を改善する効果があり、概ね3質量%まで含有できる。Tiは、スパングルを微細化する効果があり、概ね1質量%まで含有できる。Crは、めっき層自体の耐食性を向上させる効果があり、概ね1質量%まで含有できる。
以上のように、本発明では用途に応じた特性を付与するため、Si:5質量%以下,Mg:3質量%以下,Ti:1質量%以下,Cr:1質量%以下のうち1種以上を含むZn−Al系溶融めっき層を形成させることができる。
【0028】
なお、Zn−Al系溶融めっき層の厚さは、耐食性等の優れた特性を維持するために5〜60μmとすることが望ましい。
【0029】
〔Zn−Al系溶融めっき鋼板の特性〕
本発明のZn−Al系溶融めっき鋼板は、複雑形状の耐熱部材に加工して使用された場合に特に優れた耐高温脆化性を発揮するものである。したがって、Zn−Al系溶融めっきが施された状態で、その鋼板が良好な加工性を有していなくてはならない。鋼板の加工性を示す指標として「伸び」が最も一般的に用いられるが、曲げ加工をはじめ種々の塑性加工を想定したとき、鋼板の板厚の影響も考慮する必要がある。本発明者らの検討の結果、Zn−Al系溶融めっき鋼板自体の加工性を引張試験による「伸び」を用いて表したとき、伸び(%)≧35×0.9×板厚(mm)の関係を満足するZn−Al系溶融めっき鋼板とすることが望ましい。
【0030】
また、本発明で提供するZn−Al系溶融めっき鋼板は、そのめっき鋼板を加工した後の加工部における高温脆化の進行が、長期間の加熱使用によって一定以下に抑制される性能を有する鋼板であることが望ましい。そのような鋼板は、以下のように特定される。
【0031】
鋼板の性能を客観的に特定するには、一定の評価方法に従う必要がある。そこで、本発明者らは加工部材を実際に使用した場合の性能を適切に評価できる手法として、次のような手法を導入した。すなわち、当該鋼板にその板厚t(mm)の2倍の内側半径で90°曲げを施した試料を400℃の大気中で加熱した場合の、当該曲げ加工部における脆化の進行の程度を調べる手法を用いた。その進行の程度は、1000時間加熱後の脆化深さが板厚に応じた値以下であるか否か、および、600時間加熱後と1000時間加熱後の脆化深さの変化率が一定値以下であるか否かによって評価する。具体的には、前者は下記(1)式を、また後者は下記(2)をそれぞれ満たすか否かで判断できる。
D1000≦0.20×t -----(1)
1.2×D600≧D1000 -----(2)
【0032】
ここで、D600およびD1000は、それぞれ600時間加熱後および1000時間加熱後の脆化深さをmm単位で表した値である。脆化深さの測定は、先に述べたとおり、90°曲げを付与した部分について加熱後にさらに密着曲げを行い、その曲げ部分の板厚方向に垂直な断面の金属組織を顕微鏡観察して、曲げ部外側に生じた割れの最大深さを曲げ部外側のめっき層と母材の界面を基準として測定する。このようにして求めた脆化深さが上記(1)式および(2)式の関係を満たすとき、そのZn−Al系溶融めっき鋼板は長期の加熱使用によって安定した耐久性を示すものであると判断される。この評価手法は、600時間加熱後と1000時間加熱後の脆化深さの変化を調べることによって、1000時間を超える長期の使用における高温脆化の進行状況を推定するものであり、本発明者らの実験の結果、この方法によって実際の使用におけるZn−Al系溶融めっき鋼板の耐久性を実用上問題なく評価できることがわかった。
【0033】
〔使用環境〕
Zn−Al系溶融めっき鋼板の高温脆化は、約200℃未満の使用では実用上ほとんど問題にならない。また、500℃を超える環境で使用すると、めっき層中のAl濃度にかかわらず、めっき層においてFeとの金属間化合物が生成し、Zn−Al系溶融めっき鋼材本来の優れた特性が発揮できなくなる。したがって、加工部における高温脆化の進行を抑制する性能を有する本発明のZn−Al系溶融めっき鋼板は、200〜500℃の温度範囲で長期間使用したときにその性能を最大限に引き出すことができるのである。
【0034】
本発明のZn−Al系溶融めっき鋼板は、自動車排気系部材,家電機器用部材,燃焼機器用部材等の用途において好適に使用される。
【0035】
【実施例】
〔実施例1〕
表1に示す化学組成の鋼について常法によって板厚1.0mmの冷延鋼板を作製した。
【0036】
【表1】
【0037】
これらの鋼板を母材鋼板としてNOFタイプの溶融めっきラインに通板し、50体積%H2−N2雰囲気下で再結晶焼鈍した後、連続的にめっき浴へ浸漬してZn−Al系溶融めっき鋼板を得た。めっき層の厚さは10〜15μmの範囲であった。めっき条件は次のとおりである。
・還元雰囲気:50体積%H2−N2,D.P.=−40℃
・めっき浴組成:4.0質量%Al−0.1質量%Mg−Zn
・めっき浴温:450℃
得られたZn−Al系溶融めっき鋼板から40×100mmサイズの試験片を切り出し、平板(未加工)のまま200〜450℃の種々の温度で大気中1000時間の加熱を施した。1000時間加熱後のめっき鋼板に、そのまま0t密着曲げを施し、その曲げ部分の板厚方向に垂直な断面の金属組織を顕微鏡観察して、曲げ部外側に生じた割れの最大深さを曲げ部外側のめっき層と母材の界面を基準として測定し、その測定値をその鋼板の未加工部の脆化深さ(mm)とした。また、これとは別にめっき後の各鋼板から切り出した引張試験片を用いて引張試験を行い、全伸びを測定することによってその鋼板の加工性を評価した。表2にこれらの試験結果を示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2から、P含有量を低減しB含有量を適正範囲に調整した本発明に係る母材鋼板を用いた4%Al−0.1%Mg−Zn溶融めっき鋼板(No.2,7,8,9)は各温度において脆化が非常に少なく、まためっき鋼板の伸びも35%を超え、実用上十分な加工性を有していた。これに対し、Pを多量に含む母材鋼板を用いたもの(No.3,4,10,11)は、脆化深さは低く抑えられているものの、めっき鋼板の伸びが低く、加工性に劣っていた。また、PとBの含有量がいずれも低い母材鋼板を用いたもの(No.1,5,6)は、著しい脆化が生じた。
【0040】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、表1の各鋼について、板厚1.0mmの母材鋼板を作製し、Zn−Al系溶融めっき鋼板を得た。ただし、めっき条件は以下のとおりとした。
・還元雰囲気:50体積%H2−N2,D.P.=−40℃
・めっき浴組成:55質量%Al−1.5質量%Si−Zn
・めっき浴温:600℃
めっき層の厚さは15〜18μmの範囲であった。得られたZn−Al系溶融めっき鋼板について実施例1と同様の試験を行った。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3からわかるように、55%Al−1.5%Si−Zn溶融めっき鋼板の未加工部についても、実施例1と同様の結果が得られた。
【0043】
〔実施例3〕
実施例2と同じ55%Al−1.5%Si−Zn溶融めっき鋼板について、今度は加工部における脆化の程度を調べた。実際の使用環境を模擬するため、めっき後の各鋼板に板厚の2倍の内側半径(2mmR)の90°曲げを施し、それらの試料を200〜450℃の種々の温度で1000時間加熱した。1000時間加熱後の試料の前記曲げ加工部分についてさらに180°密着曲げを施し、実施例1と同様の顕微鏡観察による手法によって、加工部の脆化深さを求めた。その結果を表4に示す。また図1に、400℃×1000時間加熱後の試料における上記顕微鏡観察結果の例を示す。またこれとは別に、上記90°曲げを施した後の試料を400℃に加熱し、100時間,300時間,600時間,1000時間加熱後の脆化深さを前記同様の手法によって求めた。図2にその脆化深さの経時変化をいくつかの試料について示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4から、P含有量を低減しB含有量を適正範囲に調整した本発明に係る母材鋼板を用いた55%Al−1.5%Si−Zn溶融めっき鋼板(No.2,7,8,9)は、加工部分においても脆化深さが低く抑えられていることがわかる。これに対し、Pを多量に含む母材鋼板を用いたもの(No.3,4,10,11)は、先の実施例1,2で未加工部分の脆化は低く抑えられていたにもかかわらず、加工部分についてはかなり顕著な脆化が認められた。
また図2から、本発明に係るNo.2およびNo.7の母材鋼板を用いたものでは600時間経過後の脆化深さの進行がほとんど見られず、1000時間を超える長時間の加熱使用においても安定して耐久性が維持できることが期待できる。これに対し、Pを多量に含有するNo.10の母材鋼板を用いたものは、600時間経過後も脆化が進行した。
【0046】
〔実施例4〕
実施例1〜3の結果からめっき母材鋼板にBを含有させたZn−Al系溶融めっき鋼板が加工部においても耐高温脆化性に優れることが判明したので、今度は耐高温脆化性に及ぼす母材鋼板中のB含有量の影響を詳細に検討するため、AK鋼およびTK鋼をベースとして、B含有量を変化させためっき母材鋼板(板厚1.0mmの冷延鋼板)を常法により作製した。それらの化学組成を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
これらの鋼板をガス還元型のラボめっき試験機を用いて50体積%H2−N2雰囲気下で再結晶焼鈍した後、同雰囲気下にあるめっき浴へ浸漬してZn−Al系溶融めっき鋼板を得た。めっき条件は次のとおりである。
・還元雰囲気:50体積%H2−N2,D.P.=−40℃
・めっき浴組成:55質量%Al−1.5質量%Si−Zn
・めっき浴温:600℃
めっき層の厚さは22〜25μmの範囲であった。得られたZn−Al系溶融めっき鋼板について板厚の2倍の内側半径(2mmR)の90°曲げを施し、それらの試料を400℃の温度で1000時間加熱した。1000時間加熱後の試料の前記曲げ加工部分についてさらに密着曲げを施し、実施例1と同様の顕微鏡観察による手法によって、加工部の脆化深さ(D1000に相当する)を求めた。その結果を図3に示す。
【0049】
図3からわかるように、母材鋼板のB含有量が0.0007質量%以上の場合において、TK鋼ベースのめっき鋼板の加工部でも密着曲げ試験後に破断しないという、高い脆化抑制効果が認められた。また、B含有量が0.0013質量%以上になると脆化深さが顕著に浅くなり、加工部における耐高温脆化性が非常に優れたZn−Al系溶融めっき鋼板が得られることがわかった。
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、Zn−Al系溶融めっき鋼板を高温で長時間使用した際に問題となっていた高温脆化の現象を、母材鋼板にPを添加することなく克服することができた。母材鋼板にPを添加しないので、本発明に係るZn−Al系溶融めっき鋼板は加工性に優れ、しかも加工部においても高温脆化の進行を顕著に抑制する性能を有する。したがって本発明は、Zn−Al系溶融めっき鋼板を複雑形状の耐熱部材に加工して長期間使用することを可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】密着曲げ加工部分の板厚方向に垂直な断面の金属組織を表す光学顕微鏡写真。
【図2】 55%Al−1.5%Si−Zn溶融めっき鋼板の加工部分を400℃で加熱した場合の、加熱時間と脆化深さの関係を表すグラフ。
【図3】 55%Al−1.5%Si−Zn溶融めっき鋼板の加工部分を400℃で1000時間加熱した場合の、母材鋼板のB含有量と脆化深さの関係を表すグラフ。
Claims (8)
- 質量%において、C:0.01%以下,Si:0.05%以下,Mn:0.5%以下,P:0.020%以下,N:0.0040%以下であり、B:0.0007〜0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる母材鋼板の表面に、Al:0.1〜75質量%を含むZn−Al系溶融めっき層を形成した加工性に優れた鋼板であって、当該鋼板にその板厚t( mm )の2倍の内側半径で 90 °曲げを施した試料を 400 ℃の大気中で加熱して 600 時間加熱後の脆化深さD 600 ( mm )および 1000 時間加熱後の脆化深さD 1000 ( mm )を測定したとき、下記(1)式および(2)式の関係が成立し、200〜500℃の高温環境で使用される耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板。
D 1000 ≦ 0.20 ×t ----- (1)
1.2 ×D 600 ≧D 1000 ----- (2) - 質量%において、C:0.01%以下,Si:0.05%以下,Mn:0.5%以下,P:0.030%以下,N:0.0040%以下であり、B:0.0007〜0.0050%を含有し、さらにTi,Nb,Zrのうち1種以上を合計でC+N(質量%)の4倍以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる母材鋼板の表面に、Al:0.1〜75質量%を含むZn−Al系溶融めっき層を形成した加工性に優れた鋼板であって、当該鋼板にその板厚t( mm )の2倍の内側半径で 90 °曲げを施した試料を 400 ℃の大気中で加熱して 600 時間加熱後の脆化深さD 600 ( mm )および 1000 時間加熱後の脆化深さD 1000 ( mm )を測定したとき、下記(1)式および(2)式の関係が成立し、200〜500℃の高温環境で使用される耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板。
D 1000 ≦ 0.20 ×t ----- (1)
1.2 ×D 600 ≧D 1000 ----- (2) - 母材鋼板のB含有量は0.0013〜0.0050質量%である請求項1または請求項2に記載の耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板。
- 溶融めっき層は、質量%において、Al:0.1〜75%を含み、さらにSi:5%以下,Mg:3%以下,Ti:1%以下,Cr:1%以下のうち1種以上を含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるZn−Al系溶融めっき層である請求項1〜請求項3に記載の耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板。
- 溶融めっき層の厚さが5〜60μmである請求項1〜請求項4に記載の耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板。
- Bを0.0007〜0.0050質量%含有し、Pを0.020質量%以下の含有量に抑えた低炭素鋼板表面にAlを0.1〜75質量%含むZn−Al系溶融めっき層が形成されたZn−Al系溶融めっき鋼板であって、当該鋼板にその板厚t( mm )の2倍の内側半径で 90 °曲げを施した試料を 400 ℃の大気中で加熱して 600 時間加熱後の脆化深さD 600 ( mm )および 1000 時間加熱後の脆化深さD 1000 ( mm )を測定したとき、下記(1)式および(2)式の関係が成立する鋼板を、加工して耐熱用部材とし200〜500℃の高温環境で使用する、高温脆化の進行を抑制した耐熱部材用Zn−Al系溶融めっき鋼板の使用方法。
D 1000 ≦ 0.20 ×t ----- (1)
1.2 ×D 600 ≧D 1000 ----- (2) - 加工は塑性加工を含むものである請求項6に記載のZn−Al系溶融めっき鋼板の使用方法。
- 耐熱部材は自動車排気系部材である請求項6または請求項7に記載のZn−Al系溶融めっき鋼板の使用方法。
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