JP3647603B2 - 光記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、相変化型の光記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、後から情報をオーバーライトすることができる光記録媒体として、相変化型の光記録媒体が実用化されている。このような光記録媒体は、単一ビームによるオーバーライトが可能であり、ドライブ側の光学系の構造が単純であるという特色を備え、コンピュータや映像音響関連の機器における記録媒体として応用されている。具体的には、円盤状の樹脂基板表面に0.8μm幅の案内溝を1.6μmピッチで螺旋状に形成し、このような基板表面に相変化記録材料の薄膜からなる記録層を形成し、この記録層の上に保護層を設けた構造のものが広く知られている。
【0003】
相変化型の光記録媒体における情報の記録、再生、及び消去の原理としては、レーザビームの照射による相変化記録材料の結晶−非結晶相間あるいは結晶−結晶相間の相転移を利用して情報の記録等を行うというものである。つまり、相変化記録材料は、加熱後の徐冷によって結晶質となり、溶融後に急冷すると非晶質となる。そこで、このような相変化記録材料の性質を利用し、これを結晶状態と非結晶状態とに可逆的に変化させることによって情報をマークの形態で記録する。つまり、記録信号に応じて、記録層に照射する光ビームの強度を記録層が結晶状態に留まる結晶レベルと非結晶状態になる非結晶レベルとの間で変化させる。この際、マークを形成する場合には光ビームの強度を記録層が溶融する程度の非結晶レベルに設定し、これによって記録層に非結晶化したマークを形成する。また、マーク以外の部分では光ビームの強度を記録層が溶融しない程度の結晶レベルに設定し、記録層を結晶化させる。この場合、マークを形成しない部分は、溶融しない程度に加熱されて徐冷されるため、以前の状態が非結晶状態であろうと結晶状態であろうと結晶状態になる。
【0004】
ここで、相変化記録材料としては、GeTe,GeTeSe,GeTeS,GeSeS,GeSeSb,GeAsSe,InTe,SeTe,SeAs,Ge-Te-(Sn,Au,Pd),GeTeSeSb,GeTeSb,Ag-In-Sb-Te等が用いられる。また、記録層をSiO2等の母材中に埋め込み、記録材料の不可逆的変化を抑制するようにした技術も提案されている(特開平57−208648号)。さらに、相変化記録材料としてAg-In-Sb-Teを用いることも提案されている(特開平2−37466号、特開平2−171325号、特開平2−415581号、特開平4−141485号)。 Ag-In-Sb-Teは、高感度で非結晶部分の輪郭が明確であるという特性を有するため、マークエッジ用の記録層として優れる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
相変化型の光記録媒体では、繰り返し記録特性の改善が求められている。また、繰り返し記録特性とその他の特性、例えば変調度、所定の反射率等との両立が重要な課題となっている。このようなことから、記録層に窒素等を添加し、これによって記録層の流動を抑制して繰り返し記録特性を向上させるようにした発明が特開平4−11336号公報、特開平4−10980号公報、特開平4−10979号公報、特開平4−52188号公報、及び特開平4−52189号公報等に開示されている。
【0006】
しかしながら、低価格で比較的低い記録線速を有する光記録システムに光記録媒体を用いた場合、あるいは、CDと再生互換性がある光記録媒体(CD−RW)では、記録層に窒素等を添加したとしても、記録層の流動が抑制しきれず、また、オーバーライトに伴う粗大結晶粒の成長、レーザ照射時の熱衝撃による膜剥がれ、反射層に使用する金属の劣化等によって、繰り返し記録回数は数百〜百万回のレベルに留まる。このため、コンピュータの周辺機器等で頻繁に書き換えを行う場合にはこれに対応することができないという問題がある。特に、DC光照射により非結晶化する線速の下限である転移線速よりも低い線速で記録を行う場合、記録(非結晶化)のためにマルチパルスを必要とするが、この場合にはレーザ光の強度変調による熱衝撃が過大となり、繰り返し記録特性が劣化してしまう。
【0007】
また、高機能のドライブによる高速での記録再生へ対応させる場合、比較的高い線速での再生では良好なC/Nを得るために高パワーでの再生が望ましい。しかし、この場合には再生光による記録層の劣化が問題となる。また、転移線速よりも速い比較的高い線速での記録では、レーザビームによる記録層の非結晶化が生じ易く、消去(結晶化)特性に問題が生ずる。このため、マークの形状に乱れが生じ易く、ジッタの発生防止、C/N比や変調度の確保等が困難であるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、オーバーライト特性、繰り返し再生特性、高記録線速での消去特性に優れた光記録媒体を得ることである。
【0009】
本発明の別の目的は、比較的低い記録線速での記録において、繰り返し記録特性に優れる光記録媒体を得ることである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、CD−ROMと互換性がある光記録媒体やDVD−RAMにおいて、生産性の向上及び繰り返し記録特性の向上を図ることである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、案内溝を有する基板上に、第1保護層、レーザビームの照射による昇温・冷却プロセスによって非結晶状態から結晶状態へ可逆的に変化する性質を有する相変化型の記録層、第2保護層、及び反射放熱層を順に積層した光記録媒体の製造方法であって、前記記録層の成膜に際して、薄膜形成雰囲気ガスに窒素ガスを添加することにより、Ag,In,Sb,Teを有する相変化材料に結晶化温度を変化させる窒素を添加する工程と、前記相変化材料に窒素を添加する工程中、窒素ガス流量を変化させることにより前記記録層の膜厚方向における結晶化温度を制御する工程と、を具備する。ここで、「結晶化温度」というのは、初期結晶化における所定の時定数に対応する結晶化温度と、初期結晶化完了後の急冷により形成される非結晶相のための所定の時定数に対応する結晶化温度との両者を含む。
【0014】
本発明中、「基板」は、ポリカーボネート等の樹脂やガラス等からなる透明体であり、基板が有する案内溝はトラッキングサーボに用いられる。「第1保護層及び第2保護層」は、ZnS・SiO2やAl等の公知の誘電体によって形成され、所定の屈折率を有している。「反射層」は、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Pt、Fe、Cr、Ni、Si、Ge等の金属又は半導体、あるいはこれらの合金等の公知の反射放熱部材によって形成されている。もっとも、そのような金属、半導体、合金は、微量の他の添加元素を含んでいても良い。例えば、Al合金にはTiやNが含まれていても良い。
【0015】
「記録層」は、 GeTe,GeTeSe,GeTeS,GeSeS,GeSeSb,GeAsSe,InTe,SeTe,SeAs,Ge-Te-(Sn,Au,Pd),GeTeSeSb,GeTeSb,Ag-In-Sb-Te等の公知の相変化記録材料により形成されている。記録層の結晶化温度は、相変化材料の組成、添加元素の膜厚方向の差、添加元素の粒径等の形態の膜厚方向の差に応じて変化する。このように記録層の結晶化温度をその膜厚方向に異ならせることは、結晶化温度が異なる記録層を積層させたり、連続的に結晶化温度が膜厚方向に変化する構造を用いたりすることによって実現する。
【0016】
ここで、「添加元素」というのは、記録層の結晶化温度を変化させる作用を有するN、B、C、O、F、P、S、As、金属、半金属、半導体、希土類等である。添加元素には、その特性、例えば、熱伝導率、応力、引張り強さ膜の密着力等を変化させる副次的効果もある。
【0017】
このような請求項1記載の製造方法により製造された光記録媒体では、記録層の結晶化温度に所定の膜厚依存性が生ずる。これは、記録層にレーザビームを照射した際に記録層内に温度分布を生ずるからである。このため、記録層の結晶化温度が記録層内の温度分布に適合化し、オーバーライト時の結晶化が良好に行われる。また、結晶化のタイミングの膜厚方向の差により、粗大結晶粒の成長が抑制され、これにより、境界が鮮明なマークが形成され、オーバーライト特性が良好になる。また、記録層の膜厚方向の温度分布を考慮に入れ、最高温度に達する記録層の内部温度の結晶化温度を高くすれば、再生光による非結晶部の結晶化という問題が解決される。さらに、消去光による温度分布、冷却速度を考慮に入れて記録層の結晶化温度を設定すれば、面内方向で良好な消去が可能となる。
また、請求項1記載の製造方法によれば、Ag,In,Sb,Teを有する相変化材料に結晶化温度を変化させる窒素を添加し、記録層の膜厚方向の濃度に変化を持たせて、記録層の結晶化温度をその膜厚方向に異ならせた。Ar等の薄膜形成雰囲気ガスに窒素ガスを添加することにより、容易にAg,In,Sb,Te系記録層の結晶化温度が制御される。そして、膜厚方向の窒素濃度は、窒素ガス流量や成膜レート等を変化させることにより、単一ターゲット等を用いて容易に制御される。ここで、Ag,In,Sb,Te系の記録層は、窒素の添加によって結晶化温度が上昇する。したがって、請求項2記載の発明のように、保護層との界面付近の窒素濃度を記録層内部より高くした光記録媒体とすることも容易であり、このような光記録媒体では、比較的低い記録線速における繰り返し記録特性が向上する。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記記録層の膜厚方向における結晶化温度を変化させる工程では、前記保護層との界面近傍の結晶化温度が他の部分の結晶化温度よりも高くなるように制御した。このような製造方法により製造された光記録媒体では、比較的低い線速での記録/消去プロセスの繰り返しにおいて、記録層の界面部分は記録層内部と比較して完全には結晶化しない。つまり、界面は結晶−非結晶の変化が生じにくく、繰り返しの記録に伴う構造変化が比較的小さい。このため、記録層の界面の構造が安定化し、繰り返し記録に伴う粗大結晶粒の成長や偏析が抑制され、これにより、オーバーライト特性が良好になる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法により製造された光記録媒体の第一の実施の形態を図1に基づいて説明する。図示しない案内溝を有するポリカーボネート製の基板1上に第1保護層2、AgInSbTeからなる多層の記録層10、第2保護層3、及び反射放熱層4が順に積層されている。保護層2,3はZnS(80mol%)からなり、反射放熱層4はAl−Siからなる。
【0021】
ここで、記録層10の積層数は2〜30程度であり、全膜厚は5〜100nmの範囲にある。このような記録層10は、結晶化温度が高い層11と低い層12とが交互に積層されて形成されている。したがって、加熱による結晶化のタイミングが膜厚方向で異なるため、結晶粒の粗大化が抑制され、オーバーライト特性が向上する。記録波長780nmの場合の好ましい記録層10の全膜厚範囲は、15〜40nmである。その他の層2,3,4の膜厚は、光学特性、案内溝形状、熱特性、機械特性等を考慮に入れて最適化される。
【0022】
ここで、記録層10における結晶化温度が高い層11と低い層12とは、初期化後に発生するような構成としてもよい。つまり、初期化後の結晶化状態を完全なものとせず、初期結晶化状態の好ましい膜厚方向の差異を発生させ、初回書き込みと2回目以降のオーバーライト特性(変調度、ジッタ)との差異を解消するようにする。このような初期結晶化を実現する手法としては、記録層10の一部を結晶化後に部分的に非結晶化するような所定の急冷速度を有するものとしたり、記録層10を非結晶化する急冷速度よりは緩やかな冷却速度である比較的低い初期化温度で部分的に結晶化するものとしたりすることが考えられる。後者の記録層10の場合、結晶化が不完全な部分が残存するような条件で初期化することになる。いずれの場合にも、記録層10の結晶化温度の差異に対応する結晶化状態の膜厚方向の差異が生じ、初回書き込みと2回目以降のオーバーライト特性(変調、ジッタ)との差異が解消される。
【0023】
なお、実施にあたっては、必要に応じて反射保護層4上に環境保護層を付加してもよい。
【0024】
本発明の製造方法により製造された光記録媒体の第二の実施の形態を図2に基づいて説明する。図示しない案内溝を有するポリカーボネート製の基板1上に第1保護層2、多層の記録層10、第2保護層3、及び反射放熱層4が順に積層されている。保護層2,3はZnS(80mol%)・SiO2(20mol%)からなり、反射放熱層4はAl−Siからなる。
【0025】
ここで、記録層10は、AgInSbTe(5:10:55:30at. %)からなる第1記録層11と、 AgInSbTe(5:5:62:28at. %)からなる第2記録層12と、第1記録層11とが順に積層されて形成されている。この場合、記録層10の結晶化温度は第1記録層11の方が高い。このため、低線速での記録に適した構成となっている。
【0026】
各層の膜厚としては、第1保護層2の膜厚範囲は30〜300nmであり、光学的な干渉を考慮に入れて考慮される。反射放熱層4、第2保護層3、第1保護層2に隣接する第1記録層11、第2記録層12、第2保護層3に隣接する第1記録層11の膜厚は、それぞれ、所定の記録線速に対応して設定される。これにより、適切な第2記録層12の冷却速度が得られ、かつ、良好な変調度が得られる。例えば、記録線速2.8m/s、記録波長780nmの場合、反射放熱層4は100nm、第2保護層3は20nm、第1保護層2に隣接する第1記録層11は5nm、第2記録層12は20nm、第2保護層3に隣接する第1記録層11は5nmである。
【0027】
このような構成において、記録層10は、結晶化温度が高い層11と低い層12とが交互に積層されて形成されている。したがって、加熱による結晶化のタイミングが膜厚方向で異なるため、結晶粒の粗大化が抑制され、オーバーライト特性が向上する。
【0028】
また、比較的低い線速での記録/消去プロセスの繰り返しにおいて、第1記録層11は第2記録層12と比較して完全には結晶化しない。つまり、第1記録層11は結晶−非結晶の変化が生じにくく、繰り返しの記録に伴う構造変化が比較的小さい。このため、第1記録層11の構造が安定化し、繰り返し記録に伴う粗大結晶粒の成長や偏析が抑制され、これにより、オーバーライト特性が良好になる。
【0029】
なお、実施にあたっては、第1の記録層11と第2の記録層12とを別の材料によって形成するようにしてもよい。
【0030】
本発明の製造方法により製造された光記録媒体の第三の実施の形態を図3に基づいて説明する。図示しない案内溝を有するポリカーボネート製の基板1上に第1保護層2、AgInSbTeからなる多層の記録層10、第2保護層3、及び反射放熱層4が順に積層されている。保護層2,3はZnS(80mol%)・SiO2(20mol%)からなり、反射放熱層4はAl−Tiからなる。
【0031】
ここで、記録層10は、第1記録層11と第2記録層12と第1記録層11とが順に積層された構成となっており、各記録層11,12には窒素Nが添加されている。各記録層11,12における窒素濃度は第1記録層11の方が高く、その窒素組成は、記録線速に応じ、所定の熱特性が得られる組成に最適化されている。第1記録層11の窒素濃度の範囲は、概ね、2〜20at.%で、第2記録層12の窒素濃度の範囲は0〜10at.%である。
【0032】
このような構成において、記録層10は、結晶化温度が高い層11と低い層12とが交互に積層されて形成されている。したがって、加熱による結晶化のタイミングが膜厚方向で異なるため、結晶粒の粗大化が抑制され、オーバーライト特性が向上する。
【0033】
また、比較的低い線速での記録/消去プロセスの繰り返しにおいて、第1記録層11は第2記録層12と比較して完全には結晶化しない。つまり、第1記録層11は結晶−非結晶の変化が生じにくく、繰り返しの記録に伴う構造変化が比較的小さい。このため、第1記録層11の構造が安定化し、繰り返し記録に伴う粗大結晶粒の成長や偏析が抑制され、これにより、オーバーライト特性が良好になる。
【0034】
そして、これらの効果は、各記録層11,12の窒素濃度を適宜設定するとによって容易に得られる。したがって、光記録媒体の製造が容易になる。
【0035】
課題を解決するための手段の項で、「請求項1記載の製造方法によれば、Ag,In,Sb,Teを有する相変化材料に結晶化温度を変化させる窒素を添加し、記録層の膜厚方向の濃度に変化を持たせて、記録層の結晶化温度をその膜厚方向に異ならせた。Ar等の薄膜形成雰囲気ガスに窒素ガスを添加することにより、容易にAg,In,Sb,Te系記録層の結晶化温度が制御される。そして、膜厚方向の窒素濃度は、窒素ガス流量や成膜レート等を変化させることにより、単一ターゲット等を用いて容易に制御される。ここで、Ag,In,Sb,Te系の記録層は、窒素の添加によって結晶化温度が上昇する。したがって、請求項2記載の発明のように、保護層との界面付近の窒素濃度を記録層内部より高くした光記録媒体とすることも容易であり、このような光記録媒体では、比較的低い記録線速における繰り返し記録特性が向上する。」と述べた。
ここで、記録層10の結晶化温度は、窒素Nの添加量に略比例して高くなる。本発明の発明者等は、これを実験によって確かめた。表1は、AgInSbTeからなる記録層10に窒素Nを添加した場合の初期結晶化に関するDSC熱分析結果(昇温レート10℃/min)を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1より、成膜時の窒素流量が増加すると、記録層10の結晶化温度も高くなることが分かる。この場合、SIMS分析の結果から、窒素流量1sccmでの窒素濃度は約5×1020/cm3 程度と推定され、窒素濃度は窒素流量に比例すると考えられる。したがって、記録層10の結晶化温度は、窒素濃度、つまり、窒素Nの添加量に略比例して高まることになる。
【0038】
本発明の発明者は、第三の実施の形態に示す光記録媒体をCD−RWとして試作し、繰り返し記録後の3Tジッタの記録パワー依存性を実験により確かめた。比較のための、記録層10として第1記録層11のみ有する光記録媒体(比較例)も試作して同様の実験をした。実験条件としては、記録信号はEFMランダムパターン(8064MHz)で、記録再生線速は2.4m/sである。そして、各層の膜厚は、第1保護層2を100nm、反射放熱層4を140nm、第2保護層3を20nm、第1保護層2側の第1記録層11を2nm、第2記録層12を17nm、第2保護層3側の第1記録層11を10nmとした。
【0039】
図4は、オーバーライト回数1000回での3Tジッタの記録パワー依存性を示すグラフである。図4のグラフからも明らかなように、第三の実施の形態の光記録媒体によれば、比較例との比較で記録パワー依存性が極めて少ない。
【0040】
また、本発明の発明者等は、第三の実施の形態に示す光記録媒体を用い、記録層10の初期結晶化状態とオーバーライト特性との関係を実験によって確かめた。実験では、初期化専用の大出力・大口径の半導体レーザによって光記録媒体を8.5mW、9.0mW、9.5mWの初期化パワーでそれぞれ初期化を行ない、記録パワーが12mWで記録再生線速が2.4m/sという記録条件で1300回オーバーライトした後のジッタ値を計測した。表2は、初期化パワーと光記録媒体の特性(初期反射率(%)・1300回オーバーライト後のジッタ値(ns)・初期変調度(%))との関係を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2中、初期反射率及び初期変調度の値より、初期化パワーが増加すると記録層10が十分に加熱され、初期結晶化がより進行することが分かる。そして、初期化パワーを9.5mWに設定した場合には記録層10の全てが完全に初期結晶化し、このような光記録媒体では、オーバーライト特性に劣化が認められることが分かる。すなわち、本発明の光記録媒体では、既に述べたように、結晶化温度が高い記録層11の結晶化が不完全な段階に留まるという初期化条件が存在し、これによって記録層10の結晶化温度に膜厚分布が生ずる。これに対し、このような初期化条件より強いパワーのレーザビームで記録層10の全体を過度に結晶化させた場合、ジッタ値が増加してオーバーライト特性に悪影響が及んでしまう。これは、初期化パワーを8.5mWに設定した場合の1300回オーバーライト後ジッタ値が12ns、初期化パワーを9.0mWに設定した場合の1300回オーバーライト後ジッタ値が13.5nsであるのに対し、初期化パワーを9.5mWに設定した場合には1300回オーバーライト後ジッタ値が25.1nsと急激に高まることから明かである。よって、本発明の光記録媒体にとって望ましい初期化状態は、記録層10の膜厚方向の結晶化状態が異なる程度に留まるような初期化状態である。
【0043】
【発明の効果】
請求項1記載の発明では、記録層をその膜厚方向に結晶化温度が異なるようにしたので、記録層の結晶化温度が記録層内の温度分布に適合化し、オーバーライト時の結晶化を良好に行うことができる。また、結晶化のタイミングの膜厚方向の差により、粗大結晶粒の成長を抑制し、これにより、オーバーライト特性を良好にして境界が鮮明なマークを形成することができる。また、記録層の膜厚方向の温度分布を考慮に入れ、最高温度に達する記録層の内部温度の結晶化温度を高くすれば、再生光による非結晶部の結晶化という問題を解決することができる。さらに、消去光による温度分布、冷却速度を考慮に入れて記録層の結晶化温度を設定すれば、面内方向で良好な消去を可能とすることができる。この際、Ag,In,Sb,Teを有する相変化材料に結晶化温度を変化させる窒素を添加して記録層を形成し、窒素の膜厚方向の濃度に変化を持たせて記録層の結晶化温度を異ならせたので、単一ターゲット等を用いて容易に記録層を形成することができ、その製造の容易化を図ることができる。
【0044】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、記録層における保護層との界面近傍の結晶化温度を他の部分の結晶化温度よりも高くしたので、比較的低い線速での記録/消去プロセスの繰り返しにおいて、記録層の界面部分が記録層内部と比較して完全には結晶化しないようにすることができ、これにより、繰り返しの記録に伴う構造変化を比較的小さくすることができる。このため、記録層の界面の構造の安定化や、繰り返し記録に伴う粗大結晶粒の成長や偏析の抑制等を図ることができ、これにより、オーバーライト特性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す光記録媒体の縦断側面図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態を示す光記録媒体の縦断側面図である。
【図3】本発明の第三の実施の形態を示す光記録媒体の縦断側面図である。
【図4】第三の実施の形態の光記録媒体におけるレーザビームのパワーとジッタとの対応関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 第1保護層
3 第2保護層
4 反射放熱層
10 記録層
Claims (2)
- 案内溝を有する基板上に、第1保護層、レーザビームの照射による昇温・冷却プロセスによって非結晶状態から結晶状態へ可逆的に変化する性質を有する相変化型の記録層、第2保護層、及び反射放熱層を順に積層した光記録媒体の製造方法であって、
前記記録層の成膜に際して、薄膜形成雰囲気ガスに窒素ガスを添加することにより、Ag,In,Sb,Teを有する相変化材料に結晶化温度を変化させる窒素を添加する工程と、
前記相変化材料に窒素を添加する工程中、窒素ガス流量を変化させることにより前記記録層の膜厚方向における結晶化温度を制御する工程と、
を具備することを特徴とする光記録媒体の製造方法。 - 前記記録層の膜厚方向における結晶化温度を変化させる工程では、前記保護層との界面近傍の結晶化温度が他の部分の結晶化温度よりも高くなるように制御したことを特徴とする請求項1記載の光記録媒体の製造方法。
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