JP3645541B2 - 冷凍生ウニ製造方法およびこれにより製造された冷凍生ウニ - Google Patents

冷凍生ウニ製造方法およびこれにより製造された冷凍生ウニ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷凍生ウニ製造方法およびこれにより製造された冷凍生ウニに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、冷凍生ウニ、冷凍ブランチング生ウニに関しては他の魚介類とは異なり−20℃において3〜4週間、−30℃においても2〜3ヶ月以上保管されると生ウニ本来の旨味が減少しエグ味、苦味成分が生成される。また、この旨味、エグ味、苦味成分の特定、旨味からエグ味、苦味への変化の過程も現在のところ解明がなされていないため、防止策も未だ確立されていない。そのため冷凍生ウニの商品価値の低下が問題となっている。また、生ウニは殆どが冷蔵状態で流通されるため殺菌剤の使用等による風味の低下、腐敗による廃棄、賞味期限等の種々の問題も多い。
【0003】
また生ウニ加工処理法に対して、特開平2−177853号公報において分枝デキストリン添加による鮮度維持、特開平2−261339号公報にてゲル化性を有する硫酸化多糖を主成分とする水溶液の付着浸透による鮮度保持など種々の発明、出願がなされているがいずれも生鮮出荷前処理および冷凍凍結前処理においてミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)を使用しないことによる苦味の改善、生鮮保持期間および凍結時での表面組織の溶解防止策であり、冷凍保管中においての旨味の変質、エグ味の生成に対しての改善策は未だ確立されていないのが現状である。
【0004】
一方、冷凍食品に対してのトレハロース含有に関して特開平6−253801号公報において飲食品の凍結時におけるタンパク質の変性、離水による食感、食味、風味の低下に効果的であることが見出され出願されている。また特開平11−308983号公報においてトリメチルアミン生成の抑制力が見出され出願されているが、生ウニに関して冷凍保管時での旨味成分の分解とともに発生されると推察されるエグ味の増加に関しては旨味成分はアミノ酸、核酸の系統と推測され、その分解と脂質との係わりにおいて発生すると考えられるエグ味成分の特定、変化の過程を解明されていないため、未だ生ウニ冷凍保管中における旨味成分の分解現象、エグ味成分の増加防止に対しての試みはなされていない。
【0005】
また生ウニに対しトレハロースを含有させる際生ウニ表皮組織に対する影響により凍結保管後、解凍時に起きる表皮組織の崩壊による溶解(ダレ)が問題となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、生ウニ本来の食味、食感を長期間維持し、かつ、解凍後においても表面組織破壊による溶解を起こさず、生ウニの形態を維持することのできる商品価値の高い冷凍生ウニ製造方法およびそのような冷凍生ウニを提供することを課題とする。
【0007】
より具体的には、本発明は、生ウニ冷凍保存時に特有の問題点である、旨味の減少とエグ味、苦味の増加を起こすことなく長期間の保存が可能であり、さらに、解凍時に身崩れ等を起こさない、冷凍生ウニ製造方法およびそのような冷凍生ウニを提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究、試作を重ねた結果、生ウニをトレハロースにより処理し、さらにその生ウニの表皮部を加熱処理することにより、驚くべきことに、生ウニ冷凍時に発生する特有の問題である、旨味の減少とエグ味、苦味の増加を抑制し、しかも解凍時に身崩れが起こらないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、生ウニにトレハロースを含有せしめた後、表皮部を加熱処理し、次いで、凍結することを特徴とする冷凍生ウニ製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の冷凍生ウニの製造方法(以下、「本発明の方法」ともいう)を詳細に説明する。
【0011】
本発明の方法を適用することのできる、「生ウニ」とは、ウニの殻から取り出された、食用に供されるウニの生殖巣(卵巣および精巣)部分のことをいう。
【0012】
本発明の方法を適用することのできるウニの種類や生育海域等に特に制限はなく、食用に供される全てのウニに対して適用することができる。
【0013】
また、「トレハロース」とは、2分子のD−グルコースが還元基どうしで結合した非還元性ニ糖として知られている物質である。2分子の結合様式による3種の異性体(α,α−体、α,β−体およびβ,β体)いずれの異性体でも、2種以上の異性体の混合物としても用いることができるが、入手容易性、コスト等を考慮すると、α,α−体を用いることが好ましい。
【0014】
トレハロースは、澱粉を分解酵素により処理することにより製造されている。また、α,α−トレハロースは、商業的に入手可能であり、例えば、株式会社林原商事から、登録商標「トレハオース」として市販されているものを用いることができる。また、食品の添加物としての安全性においての認知度が高い。
【0015】
本発明の方法において、まず、生ウニにトレハロースを含有せしめる。
【0016】
この生ウニにトレハロースを含有せしめる工程を施す時期は、採取したウニの殻から生ウニを取り出した後、できるだけ早く施すことが鮮度維持、歩留まり等の観点から好ましいが、殻やゴミ等を取り除くために、食塩水等で洗浄してからトレハロースを含有せしめる工程を施すことが好ましい。
【0017】
生ウニにトレハロースを含有せしめる方法は、トレハロースが生ウニに含有せしめられる限り、特に制限はなく、例えば、トレハロースまたはその水溶液を生ウニに直接適用(例えば、塗布、スプレー)することもできるし、また、生ウニをトレハロース水溶液に浸漬することもできるが、トレハロース水溶液に生ウニを浸漬させることが、コスト、製造工程の簡便性等の観点から好ましい。
【0018】
トレハロースの水溶液に生ウニを浸漬する場合、トレハロース水溶液の濃度および時間は、通常、2〜10%(w/w)程度の濃度で、30〜120分程度にすることができるが、生ウニの大きさ、種類等に応じて適宜変更することができる。
【0019】
浸漬させる水溶液の量に特に制限はないが、生ウニ内部にまでトレハロースを含有せしめるためには、生ウニが完全に溶液に浸かっていることが好ましい。また、この際のトレハロース水溶液の温度は、鮮度保持等の観点から5〜15℃程度にすることが好ましい。
【0020】
生ウニに含有せしめるトレハロースの量は、本発明の効果を奏する限り特に制限はなく、生ウニの種類、大きさ、鮮度等に応じて適宜設定することができるが、通常、生ウニの重量に対して0.05〜3%にすることができる。
【0021】
本発明の方法において、このトレハロースを生ウニに含有せしめることにより、驚くべきことに、魚介類の冷凍保存における生ウニ特有の問題である、冷凍保存中の味の変化(旨味成分の減少と、エグ味、苦味成分の生成)を抑えることができる。トレハロースを生ウニに含有せしめることによりこのような味の変化を抑えることの理由は、明らかではないが、本発明者は、生ウニ中のアミノ酸、核酸等の構造を支え、変性を抑制すると同時に、その介在により、一部変質したアミノ酸、核酸等の成分の脂質への影響も抑制するからではないかと推定している。
【0022】
本発明の方法では、トレハロース水溶液等のトレハロース処理液においては、トレハロースに限らず、必要に応じて食塩その他の物質を併せて添加することもできる。
【0023】
次に、本発明の方法では、トレハロースを含有せしめた生ウニの表皮部を加熱処理する。この加熱処理にあたっては、予め生ウニ表面に残留する水分を除去することが望ましい。
【0024】
加熱処理の温度および時間は、生ウニの種類、大きさ、鮮度等に応じて適宜設定することができる。この処理は、生ウニの表皮部のみを凝固させ、かつ、本発明の方法により製造された冷凍生ウニを解凍した際に、生ウニ表面の組織が溶解しないようにする。通常、加熱処理は、90〜100℃の温度で、2〜10秒間加熱することにより行うことができるが、解凍時の食感を損なわず、かつ表面組織の溶解がおこらない程度の処理をすればよい。
【0025】
ここで、「表皮部を加熱処理する」とは、通常、表面から0.5〜1mm程度の深さの組織を加熱処理することである。本発明の方法において、生ウニ表皮部を凝固させるのは、解凍時に表皮組織が崩壊することを防止するとともに、解凍後の生ウニの食感を損なわないようにするためである。
【0026】
加熱方法は、生ウニの表皮部を凝固させることができれば特に制限はなく、例えば、トレハロースを生ウニに含有せしめるために用いたトレハロース処理液の温度を上げる方法、すなわち、当業界で既知のブランチング操作や、加熱した水等に生ウニを浸漬する等の方法により行うことができる。これらの加熱操作は、いずれも、製造工程が簡単なため、本発明の方法を安価なコストで行うことができる。
【0027】
本発明の方法では、この加熱処理を施すことにより、先の工程(トレハロースを生ウニに含有せしめる工程)に起因して衰弱した生ウニ表皮組織におけるタンパク質を変性凝固させることができるので、表面組織を物理的に安定にすることができる。また、この加熱工程は、生ウニの殺菌も兼ねることができるので、殺菌剤等の使用量を抑えるか、あるいは全くなくすことができる。近年、食品添加物についての消費者の関心が高いなか、このように殺菌剤等の添加物の使用を低減あるいは回避することのできる本発明の方法は、本発明の方法により製造される生ウニの商品価値を更に高めることができる。
【0028】
次に、本発明の方法では、加熱処理した生ウニを凍結させる。
【0029】
凍結処理は、加熱処理後、直ちに行うこともできるが、一旦、5〜15℃程度に温度が低下した後に行うことが、作業効率、品質等を考慮すると好ましい。
【0030】
加熱処理後の生ウニの凍結は、通常の冷凍条件で行うことができる。凍結温度および時間は、生ウニの大きさ等に応じて適宜設定できる。冷凍条件としては、一例を挙げると、−10〜−30℃の温度で、30〜120分程度凍結させることができる。また、この際に用いる冷凍器具も、通常用いる器具(例えば、トンネルフリーザ、エアーブラスト、ガス凍結等)を用いることができる。
【0031】
このようにして製造された本発明の冷凍生ウニは、解凍するまで通常の凍結温度で保管される。
【0032】
また、解凍する際の条件にも特に制限はなく、自然解凍によっても、電子レンジ等による加熱によっても解凍することができる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明の方法を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の方法は、この実施例により限定されるものではない。
【0034】
次のようにしてサンプルA、A’、BおよびB’を調製した。
【0035】
<サンプルAの調製>
1.水1000重量部に対し無水結晶トレハロース50重量部、食塩20重量部を均一に混合し、A液を得る。
【0036】
2.A液10Lを約15℃に保ち、生ウニ卵巣部500gを約1.5時間浸漬する。
【0037】
3.A液10Lを約100℃に沸騰させ、(2)にて浸漬した生ウニ卵巣部を水きり後、3〜10秒ブランチングし、表皮部タンパク質を凝固する。
【0038】
4.A液10Lを約3〜7℃に保ち、(3)にてブランチングしたウニを約10分間冷却する。
【0039】
5.約5℃の冷蔵室で(4)にて冷却したウニを約30〜60分水切りする。
【0040】
6.水切り後のウニを吸水紙が引かれたトレーに並べ、蓋をする。
【0041】
7.(6)にてトレーに並べられ、蓋をしたウニを約−30℃にて約120分凍結する。
【0042】
8.凍結されたウニを約−20℃にて凍結保管する。
【0043】
<サンプルA’の調製>
a.水1000重量部に対し無水結晶トレハロース50重量部、食塩20重量部を均一に混合し、A液を得る。
【0044】
b.A液10Lを約15℃に保ち、生ウニ卵巣部500gを約1.5時間浸漬する。
【0045】
c.約5℃の冷蔵室で(b)にて浸漬したウニを約30〜60分水切りする。
【0046】
d.水切り後のウニを吸水紙が引かれたトレーに並べ、蓋をする。
【0047】
e.(d)にてトレーに並べられ、蓋をしたウニを約−30℃にて約120分凍結する。
【0048】
f.凍結されたウニを約−20℃にて凍結保管する。
【0049】
<サンプルBの調製>
イ.水1000重量部に対して食塩20重量部を均一に混合し、B液を得る。
【0050】
ロ.B液10Lを約15℃に保ち、生ウニ卵巣部500gを約1.5時間浸漬する。
【0051】
ハ.B液10Lを約100℃に沸騰させ、(ロ)にて浸漬した生ウニ卵巣部を水きり後、3〜10秒ブランチングし、表皮部タンパク質を凝固する。
【0052】
ニ.B液10Lを約3〜7℃に保ち、(ハ)にてブランチングしたウニを約10分間冷却する。
【0053】
ホ.約5℃の冷蔵室で(ニ)にて冷却したウニを約30〜60分水切りする。
【0054】
ヘ.水切り後のウニを吸水紙が引かれたトレーに並べ、蓋をする。
【0055】
ト.(ヘ)にてトレーに並べられ、蓋をしたウニを約−30℃にて約120分凍結する。
【0056】
チ.凍結されたウニを約−20℃にて凍結保管する。
【0057】
<サンプルB’の調製>
I.水1000重量部に対して食塩20重量部を均一に混合し、B液を得る。
【0058】
II.B液10Lを約15℃に保ち、生ウニ卵巣部500gを約1.5時間浸漬する。
【0059】
III.約5℃の冷蔵室で(II)にて浸漬したウニを約30〜60分水切りする。
【0060】
IV.水切り後のウニを吸水紙が引かれたトレーに並べ、蓋をする。
【0061】
V.(IV)にてトレーに並べられ、蓋をしたウニを約−30℃にて約120分凍結する。
【0062】
VI.凍結されたウニを約−20℃にて凍結保管する。
【0063】
2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間静置保管後の表面組織の溶解、旨味、エグ味の官能比較試験を行った。なお解凍条件は全て同一で、室温約20℃、解凍時間約2時間の自然解凍とした。この結果を表1に示す。なお、表中の○は良好、△は普通、×は悪いを意味している。
【0064】
【表1】
Figure 0003645541
【0065】
表1の結果より、トレハロース溶液に浸漬した後に表面加熱処理後凍結したサンプルA(本発明)は、3ヶ月保管後の解凍検査においても良好の結果が得られた。
【0066】
トレハロース溶液に浸漬した後表面加熱処理することなく凍結したサンプルA’(比較例)は、旨味、エグ味においては良好な結果であったが、2週間保管後において解凍時表面組織の破壊による溶解現象がおきた。
【0067】
トレハロース溶液に浸漬することなく、表面加熱処理後凍結したサンプルB(比較例)は3ヶ月間保管後においても表面組織の溶解に関しては良好であるが、1ヶ月保管後において旨味の減少、エグ味の発生がおきた。
【0068】
トレハロース溶液に浸漬することなく、また、表面加熱処理もすることなく冷凍したサンプルB’(比較例)は、2週間以上保管後において表面組織の溶解現象が若干見られ、解凍後1時間経過後表面組織のほぼ全体において溶解現象が発生した。旨味の減少、エグ味の増加に関しては、1ヶ月以上保管した場合発生した。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の方法において、トレハロースを生ウニに含有せしめることと、生ウニ表皮部の加熱処理を組み合わせることにより、従来は不可能であった生ウニ本来の食味、食感を維持することと、解凍後においても表面組織破壊による溶解を起こさず、生ウニの形態を維持することを同時に達成することができるので、極めて商品価値の高い冷凍生ウニを製造することができる。
【0070】
さらに、本発明の方法において行う、トレハロースを含有せしめる工程および表皮部の加熱処理を行うための設備は、いずれも製造工程が簡単である。したがって、本発明の方法は、安価なコストで行うことができるという利点もある。
【0071】
従来は、生ウニを冷凍保存することにより旨味が低下し、エグ味、苦味が増加するという、魚介類を含む他の飲食品には見られない味の変化の問題があった。この味の変化の過程は、未だ解明されていないため、その改善策も打ち出されていなかったところ、本発明の方法によれば、特にトレハロースの使用によりこの味の変化を抑えることができる。また、トレハロースには、従来用いられていたミョウバンのようにそれ自体が苦味を有するような欠点がない。また、トレハロース特有の低甘味により、ウニ自体のもつ甘味も若干増強される。このように、本発明の方法によれば、冷凍中の苦味等の発生が抑えれることに加えて、添加物による苦味の発生、香りの変化もないので、新鮮なウニが有する食味、食感を維持することができる。特に生鮮食料品は、賞味期限の管理が困難なことが多いなか、このように生ウニの品質を安定して維持できることは、大きな利点である。
【0072】
ウニは、季節、漁場の状況により漁、不漁があるため、大漁の際には腐敗等の問題があり、一方、不漁の際には供給不足の問題が発生する。しかしながら、本発明の方法によれば、大漁のときに冷凍保存しておくことが可能なので、不漁時の供給を可能にするとともに、大漁時の腐敗による廃棄の問題も解決することができる。また、従来、冷凍保存した生ウニにおいては、2〜3ヶ月後には旨味が減少し、エグ味、苦味が増加していたため、生ウニの市場価値を低下させる原因となっていたが、本発明の方法によれば、3ヶ月という長期にわたっても依然として旨味を維持し、エグ味および苦味の発生を抑えることができるので、市場価値を高めることができる。近年、ウニは、アメリカ東海岸あるいはカナダ、さらにはチリ等外国からの輸入量が増加しているため、このような長期の保存を可能にする本発明の方法により、高い品質の生ウニを、より安定して供給することができる。
【0073】
また、本発明の方法で行う加熱処理は、解凍時の身崩れを防止できるのみならず、殺菌も兼ねることができるので、例えば殺菌剤の使用量を抑えるか、あるいは全くなくすことができる。近年、食品添加物についての消費者の関心が高いなか、このように殺菌剤の使用を低減あるいは回避できる本発明の方法は、本発明の方法により製造される生ウニの商品価値をさらに高めることができる。

Claims (2)

  1. 生ウニにトレハロースを含有せしめた後、表皮部を加熱処理し、次いで、凍結することを特徴とする冷凍生ウニ製造方法。
  2. 請求項1の方法により製造された冷凍生ウニ。
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