JP3642195B2 - 電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサ - Google Patents
電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサ Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は各種電子機器に使用される電解コンデンサに用いる、電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の電解コンデンサ駆動用電解液(以下、電解液という)としては、エチレングリコール溶媒に、電解質としてホウ酸やアジピン酸のアンモニウム塩を溶解させたものが知られている。
【0003】
また、低温特性の優れた電解液としては、低温での粘性が低いγ−ブチロラクトンに有機酸や無機酸またはそれらの塩を電解質として溶解させたものが用いられており、トリエチルアミン、ジエチルアミン塩を電解質とした電解液(特開昭54−1024号公報)等が知られている。さらに、マレイン酸またはシトラコン酸の第4級アンモニウム塩を電解質とした電解液(特公平3−6646号公報)や、芳香族カルボン酸の第四級アンモニウム塩を電解質とした電解液(特公平3−8092号公報)等も知られている。
【0004】
さらに、沸点の高い電解液の溶媒として、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン(特開昭62−266817号公報および特開平6−5471号公報)が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記従来の電解液では、エチレングリコール溶媒にホウ酸やアジピン酸のアンモニウム塩を溶解した電解液や、γ−ブチロラクトンやN,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンにトリエチルアミン塩やジエチルアミン塩や第4級アンモニウム塩を電解質として溶解した電解液では、これらの溶媒の沸点(耐熱性)が十分ではなく、これらで電解コンデンサ(以下、コンデンサという)を構成し面実装部品として使用した場合、面実装時の熱処理条件(半田付けの温度やリフロー炉を通過する時間)によっては内部圧力の上昇により外観の変形が生じ、その結果、実装の際に半田付け不良が生じる場合があるという課題があった。
【0006】
特に、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンに有機酸塩を電解質として溶解した電解液は、低温で凝固しやすく、−25℃以下の温度ではコンデンサの性能が発揮できないと言う問題点があった。
【0007】
本発明はこのような従来の問題点を解決するものであり、面実装時の熱ストレスによるコンデンサの外観変形を抑制し、これにより面実装時の半田付け不良を改善すると共に、電解コンデンサの低温での性能の維持向上を図ることが可能な電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサを提供とすることを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した構成の電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサとしたものである。この構成によれば、沸点の高いN,N’−ジメチルプロピレンウレアを溶媒成分として含有するために高温雰囲気においても電解液が気化しにくくなり、内部圧力の上昇が抑制でき、その結果、電解コンデンサの外観変形が抑制でき、これにより面実装時の半田付け不良を改善するものである。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの電導度を改善することができるために副溶媒を混合する場合においても、その沸点を200℃以上に限定することにより、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの特徴である耐熱性を損なうことなく、高電導度な電解液を構成することができる。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する電解液は−40℃においても凝固しないので、−40℃の温度においてもコンデンサの性能を発揮することができるものである。
【0009】
また、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に溶解する有機酸塩の塩基成分に第4級アンモニウムを含有させないことで、電気分解時に強アルカリ成分がコンデンサの負極近傍で発生しにくくなり、この結果、封口ゴムの封止力が安定し、信頼性の高いコンデンサを構成することができるものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、N,N’−ジメチルプロピレンウレア単独、またはN,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した構成の電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、この構成によれば、沸点の高いN,N’−ジメチルプロピレンウレアを溶媒成分として含有するため、高温雰囲気においても電解液が気化しにくくなり、内部圧力の上昇が抑制でき、その結果、コンデンサの外観変形が抑制でき、これにより面実装時の半田付け不良を改善することができる。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する電解液は−40℃においても凝固しないので、−40℃の温度においてもコンデンサ性能を発揮できるものである。更には、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に溶解する有機酸塩の塩基成分に第4級アンモニウムを含有させないことで、電気分解時に強アルカリ成分がコンデンサ負極近傍で発生しにくくなり、この結果、封口ゴムの封止力が安定し、信頼性の高いコンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、N,N’−ジメチルプロピレンウレアと沸点200℃以上の有機溶媒を含有する混合有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した構成の電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、この構成によれば、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの電導度を改善するために副溶媒を混合する場合においても、その沸点を200℃以上に限定することにより、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの特徴である耐熱性を損なうことなく、高電導度な電解液を構成することができるという作用を有する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、N,N’−ジメチルプロピレンウレアと混合する沸点200℃以上の有機溶媒として、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いた構成とした電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、この構成によれば、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとN,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンとの混合により生じる凝固点降下効果により、−40℃以下でも電解液が凝固しない上、低温での電導度も高い電解液を構成できるという作用を有する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとN,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンの混合比率を、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン=20〜40:80〜60の範囲とした構成の電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、2種の有機溶媒の混合比率が、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン=20未満:80を越える場合では、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの高温での低蒸気圧と言った特徴が十分に発揮されず、内部圧力の抑制が不十分となり、その結果、コンデンサの外観変形の程度が大きくなる場合がある。また、この場合には、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンの低温凝固性の影響が顕在化することで、−25℃以下で電解液が凝固するので好ましくない。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン=40を越える:60未満の場合では、低温での電導度が低下するので好ましくない。従って、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとN,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンを含有する混合有機溶媒を用いて電解液を構成する際の最適な範囲は、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン=20〜40:80〜60の範囲である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、N,N’−ジメチルプロピレンウレアと混合する沸点200℃以上の有機溶媒として、γ−ブチロラクトンを用いた構成とした電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、この構成によれば、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとγ−ブチロラクトンとの混合により生じる凝固点降下効果により、−40℃以下でも凝固しない上、低温での電導度も高い電解液を構成することができるという作用を有する。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとγ−ブチロラクトンを含有する有機溶媒に溶解する有機酸塩の塩基成分に第4級アンモニウムを選定した場合には、電気分解時に強アルカリ成分がコンデンサの負極近傍で発生し、これが封口ゴムの封止力を低下させ、内部の電解液が負極リード線の周辺部より漏出する場合があるので好ましくない。更には、この第4級アンモニウムが原因となり発生する強アルカリ物質はγ−ブチロラクトンと反応し、ヒドロキシ酪酸を生成し、電解液の劣化や封口ゴムの封止力低下を促進させるので好ましくない。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとγ−ブチロラクトンの混合比率を、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:γ−ブチロラクトン=20〜40:80〜60の範囲とした構成の電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、2種の有機溶媒の混合比率が、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:γ−ブチロラクトン=20未満:80を越える場合では、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの高温での低蒸気圧と言った特徴が十分に発揮されずに内部圧力の抑制が不十分となり、その結果、コンデンサの外観変形の程度が大きくなる場合がある。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:γ−ブチロラクトン:40を越える:60未満の場合では、低温での電導度が低下する場合がある。従って、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:γ−ブチロラクトンを含有する有機溶媒を用いて電解液を構成する際の最適な範囲は、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:γ−ブチロラクトン=20〜40:80〜60の範囲である。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一つに記載の発明において、有機酸塩の有機酸がカルボン酸である構成の電解コンデンサ駆動用電解液としたものであり、この構成によれば、コンデンサの誘電体である陽極酸化皮膜の化成性に優れた電解液を得ることができ、この電解液によりコンデンサを構成した際に、漏れ電流が少なく信頼性の高いコンデンサを得ることができるという作用を有する。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一つに記載の発明において、カルボン酸がマレイン酸、フタル酸、アジピン酸、安息香酸、または以上の化合物のアルキルまたはニトロ置換体からなる群より選ばれる1種以上である構成とした電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、この構成によれば、電導度が高く、熱的な電導度変化の少ない電解液を構成できるので、この電解液によりコンデンサを構成した際に、漏れ電流を少なくできることと併せて、低損失で耐熱試験時の性能変化の少ないコンデンサを得ることができるという作用を有する。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一つに記載の発明において、有機酸塩の塩基がアンモニウム、第3級アミン、アルキル置換アミジン基を有する化合物、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩からなる群より選ばれる1種以上である構成とした電解コンデンサ駆動用電解液というものであり、この構成によれば、熱的な電導度変化の少ない電解液を構成できるので、この電解液によりコンデンサを構成した際に、耐熱試験時の性能変化の少ないコンデンサを構成することができるという作用を有する。また、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に溶解する有機酸塩の塩基成分に第4級アンモニウムを選定した場合には、電気分解時に強アルカリ成分がコンデンサの負極近傍で発生し、これが封口ゴムの封止力を低下させ、内部の電解液が負極リード線の周辺部より漏出する場合があるので好ましくない。従って、電気分解時にも強アルカリ成分を発生しにくい、アンモニウム、第3級アミン、アルキル置換アミジン基を有する化合物、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩からなる群より選ばれる1種以上を電解質塩として選定することで信頼性の高いコンデンサを構成することができるものである。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩がイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物(ピリミジン化合物、イミダゾリン化合物)の群より選ばれる1種以上を用いた構成とした電解コンデンサ駆動用電解液としたものであり、この構成によれば電導度が高い上に、電気化学的変化により強アルカリ成分を発生しにくい電解液を構成できるので、この電解液によりコンデンサを構成した際に、耐熱試験時の性能変化を少なくできることと併せて、低損失かつ負電位側のリード線部からの漏液のしづらい信頼性の高いコンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0020】
請求項11に記載の発明は、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサとした構成のものであり、この構成によれば、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する電解液の有する、高沸点、200℃以上の温度範囲での低蒸気圧といった特性を活かし、高温雰囲気においても外観変形が少ないコンデンサを構成できるという作用を有する。
【0021】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の発明において、電解コンデンサが面実装用部品である構成としたものであり、基板実装時の半田付け不良の少ないコンデンサを構成することができるという作用を有する。
【0022】
請求項13に記載の発明は、請求項11または12に記載の発明において、電解コンデンサの封口体に用いる弾性体が過酸化物加硫および/または樹脂加硫ブチルゴムであり、かつ弾性体の少なくとも一部の硬度が、75IRHD(国際ゴム硬さ単位)以上である構成としたものである。この構成によれば、過酸化物加硫および/または樹脂加硫ブチルゴム弾性体が耐アルカリ性に優れるため、アンモニウム、第3級アミン、アルキル置換アミジン基を有する化合物、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩からなる群より選ばれる1種以上を電解質塩基とする電解質を使用する限りは、経時的な封止力低下が生じないので、負極側のリード線部からの漏液のしづらい信頼性の高いコンデンサを構成することができ、また、弾性体の少なくとも一部の硬度を、75IRHD(国際ゴム硬さ単位)以上とすることで、内部圧力の上昇の際に生じやすい封口面の外観変形を物理的な強度で抑制することができるので、その結果、コンデンサの外観変形を抑制でき、これにより実装時の半田付け不良をより一層改善することができるという作用を有する。
【0023】
請求項14に記載の発明は、請求項11〜13のいずれか一つに記載の発明において、電解コンデンサのリード線部の少なくとも表層の一部に、鉛を含まない金属層を設けた構成としたものであり、この構成により、鉛は半田の成分として電子部品のリード部のメッキ材料として多用されているものの、近年の世界的な地球環境保護の観点より使用削減が望まれており、鉛を使用しない金属により電子部品のリード部にメッキを施すことは技術的には可能であるが、リード部のメッキ材を鉛を使用しない金属とした場合には、プリント基板への電子部品の実装時に従来の鉛入り金属のメッキ層を有するリードの電子部品の実装時よりも、より高い温度を加えなければ実装不良(リード線メッキ層とプリント基板側半田層との接着不良)が生じるため、電子部品を使用する上での問題が残っていた。しかし、この構成によればN,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する電解液の有する、高沸点、200℃以上の温度範囲での低蒸気圧といった特性を活かし、高温雰囲気においても外観変形が少なく、かつ面実装部品とした際には、基板実装時の半田付け不良の少ないコンデンサを構成できるので、鉛を含まない金属でリードの表層部のメッキを構成しても実装不良の問題の生じないコンデンサを実現することができるという作用を有する。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
本発明の基本は、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサである。
【0026】
本発明の電解液に用いる三級アミンの例としては、トリアルキルアミン類[トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルn−プロピルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、メチルエチルn−プロピルアミン、メチルエチルイソプロピルアミン、ジエチルn−プロピルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、トリn−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリn−ブチルアミン、トリtert−ブチルアミンなど]
フェニル基含有アミン[ジメチルフェニルアミン、メチルエチルフェニルアミン、ジエチルフェニルアミンなど]である。
【0027】
これらのうち、好ましくは電導度が高い、トリアルキルアミンであり、更に好ましくはこの中でも電導度の高い、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリエチルアミンからなる群より選ばれる1種以上である。
【0028】
本発明の電解液に用いるアルキル置換アミジン基を有する化合物の例としては、イミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物(ピリミジン化合物、イミダゾリン化合物)が挙げられる。具体的には、電導度が高く、低損失のコンデンサを提供できる、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5、1,2−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1−メチル−2−エチル−イミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−(3’へプチル)イミダゾリン、1−メチル−2−ドデシルイミダゾリン、1,2−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジン、1−メチルイミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾールが好ましい。
【0029】
本発明の電解液に用いるアルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩の例としては、炭素数1〜11のアルキル基またはアリールアルキル基で4級化されたイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物(ピリミジン化合物、イミダゾリン化合物)が挙げられる。具体的には、電導度が高く、低損失のコンデンサを提供できる、1−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、1−メチル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−エチル−イミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3−エチル−イミダゾリニウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−ヘプチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−(3’ヘプチル)イミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−ドデシルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1,3−ジメチルベンゾイミダゾリウムが好ましい。
【0030】
本発明の電解液に用いる有機酸の例としては、ポリカルボン酸(2〜4価):脂肪族ポリカルボン酸[飽和ポリカルボン酸、例えばシュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバチン酸,1,6−デカンジカルボン酸,5,6−デカンジカルボン酸:不飽和ポリカルボン酸、例えばマレイン酸,フマル酸,イコタン酸];芳香族ポリカルボン酸、例えばフタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,トリメリット酸,ピロメリット酸;脂環式ポリカルボン酸、例えばテトラヒドロフタル酸(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸等),ヘキサヒドロフタル酸;これらのポリカルボン酸のアルキル(炭素数1〜3)もしくはニトロ置換体、例えばシトラコン酸,ジメチルマレイン酸,ニトロフタル酸(3−ニトロフタル酸,4−ニトロフタル酸);および硫黄含有ポリカルボン酸、例えばチオプロピオン酸;
モノカルボン酸;脂肪族モノカルボン酸(炭素数1〜30)[飽和モノカルボン酸、例えばギ酸,酢酸,プロピオン酸,酪酸,イソ酪酸,吉草酸,カプロン酸,エナント酸,カプリル酸,ペラルゴン酸,ラウリル酸,ミリスチン酸,ステアリン酸,ベヘン酸:不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸,メタクリル酸,オレイン酸];芳香族モノカルボン酸、例えば安息香酸,o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、ケイ皮酸,ナフトエ酸;オキシカルボン酸、例えばサリチル酸,マンデル酸,レゾルシン酸
これらの内で好ましいのは電導度が高く熱的にも安定な、マレイン酸,フタル酸,アジピン酸,安息香酸である。
【0031】
電解液を構成する有機酸と塩基との比率は、電解液のpHにして、通常4〜11、好ましくは6〜9である。この範囲外では、電解液の火花電圧が低下する。
【0032】
本発明の電解液には、必要により水を含有することもできる。その含有量は電解液の重量に基づいて通常5%未満である。更に好ましくは1%未満である。水の含有量が5%以上では水の沸点と蒸気圧の影響により半田耐熱性が著しく低下する。
【0033】
本発明の電解液には、低温特性の改善や、電導度や、放電電圧の向上を目的にN,N’−ジメチルプロピレンウレアと相溶する溶媒を混合してもよい。混合する副溶媒としては、沸点200℃以上の他の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0034】
具体的な副溶媒としては、3−アルキル−1,3−オキサゾリジン−2−オン(より具体的には、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン:沸点260℃)、N,N’−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(より具体的には、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン:沸点225℃、N,N’−ジエチル−2−イミダゾリジノン:沸点236℃、N,N’−ジプロピル−2−イミダゾリジノン沸点255℃、N−メチル−N’−エチル−2−イミダゾリジノン:沸点230℃)、N,N’,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(より具体的には、N,N’,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン:沸点241℃)、N,N’,4,5−テトラアルキル−2−イミダゾリジノン(より具体的には、N,N’,4,5−テトラメチル−2−イミダゾリジノン:沸点249℃)、環状ラクトン(より具体的には、γ−ブチロラクトン:沸点204℃)、多価アルコール(より具体的には、エチレングリコール:沸点201℃、グリセリン:沸点290℃)、カーボネート(より具体的にはエチレンカーボネート:沸点238℃、プロピレンカーボネート:沸点242℃)の群より選ばれる単独もしくは2種以上の混合溶媒が挙げられる。この上記した高沸点な溶媒群より選ばれる単独もしくは2種以上を副溶媒とし電解液を構成すれば、N,N’−ジメチルプロピレンウレアとの混合による凝固点降下効果が発現し、−40℃でも凝固しない電解液を構成することできる上、電導度の向上により低温でも低損失な電解コンデンサを構成することができる。また、副溶媒の沸点を200℃以上のものに限定した際には、N,N’−ジメチルプロピレンウレアの特徴である、高温雰囲気での内部圧力上昇抑制効果を損なうことも少なく好ましい。
【0035】
本発明の電解液は必要により、種々の添加剤を混合しても良い。添加剤としては、リン系化合物[リン酸、リン酸エステルなど]、ホウ酸系化合物[ホウ酸、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビット、など)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、など)]との錯化合物、ニトロ化合物[o−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、など]が挙げられる。これらの添加剤を加えることで電解液の火花電圧が上昇し好ましい場合がある。
【0036】
本発明の電解液における電解質の含有量は、電解液の重量に基づいて通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%である。この範囲外では電導度が著しく低下する。
【0037】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、部はすべて重量部を示す。
【0038】
(表1)は本発明のN,N’−ジメチルプロピレンウレアと従来の電解液溶媒の沸点を測定した結果である。
【0039】
【表1】
この(表1)より明らかなように、本発明のN,N’−ジチメルプロピレンウレアは従来の電解液溶媒に比較して高い沸点を有することが判る。また、窒素原子上のアルキル基の分子量をさらに大きなもの(例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基など)にすることで溶媒分子の持つ熱力学的なエネルギーが高まり、より沸点が高くなり、同様な効果が得られると思われる。
【0040】
(表2)は本発明の実施例1〜6および比較例1〜4の電解液の組成を示したものである。
【0041】
【表2】
これら本発明の実施例1〜6および比較例1〜4の電解液を使用して面実装型のアルミ電解コンデンサ(定格電圧4V−静電容量220μF、サイズ;φ6mm×L5.5mm)を作成した。封口ゴムには過酸化物加硫のブチルゴム(硬度:75IRHD)を使用した。コンデンサのリード線の表層には、鉛を含まないSn−Bi系金属にてメッキ処理を施した。このコンデンサ各々100個をエポキシ基板(厚さ:2mm)に実装し、半田リフロー炉を通した。この際の外観変形の発生率を(表3)に示す。また、半田リフロー炉を通した際のエポキシ基板の時間−温度プロファイルを図1に示す。図1の実装条件はSn−Ag−Bi系半田(環境影響を考慮した鉛を含有しない半田)での実装を考慮した条件であり、従来良く知られている実装条件と比較して実装時のコンデンサへの熱ストレスはより大きいものである。温度はエポキシ基板上に熱電対を接着し、その起電力より間接的に測定したものである。
【0042】
【表3】
比較例1では、溶媒がエチレングリコール単独であり、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有しないので半田耐熱性に劣る。比較例2では、溶媒がγ−ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合単独であり、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有しないので半田耐熱性が未だ十分ではない。
【0043】
この(表3)から明らかなように、本発明の実施例1〜6の電解液を用いたコンデンサは、比較例1〜3の電解液を用いたコンデンサと比較して、面実装時の熱ストレスによるコンデンサの外観変形はなく、実装時の半田付け不良を改善できることが明らかである。
【0044】
また、封口ゴムに樹脂加硫のブチルゴム(硬度:80IRHD)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
【0045】
更に本発明の実施例1〜6および比較例1〜4の電解液を用いて上記と同様に構成したコンデンサを用いて、温度85℃−相対湿度85%RHの雰囲気中で定格電圧を連続印加して1000時間の信頼性試験を実施した。試験後の封口体表面の様子(電解液の液漏れ等の異常の有無の観察)を(表4)に示す。
【0046】
【表4】
比較例4では、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する電解液ではあるものの、強アルカリ成分を発生させやすい第4級アンモニウムの1種であるテトラメチルアンモニウムを電解質成分に使用しているので、封口体の封止力低下による液漏れが発生している。
【0047】
この(表4)から明らかなように、本発明の実施例1〜6の電解液を用いたコンデンサは、電解質成分に第4級アンモニウムを含有しないので、比較例4の電解液を用いたコンデンサと比較して信頼性が高いことが明らかである。
【0048】
次に、本発明の実施例1〜6および比較例1〜4の電解液の低温での電導度測定の結果を(表5)に示す。
【0049】
【表5】
比較例1では、溶媒がエチレングリコール単独であるため電解質の溶解性が十分でなく、−40℃において電解質の析出が生じている。従って、比較例1の電解液によりコンデンサを構成した際には、−40℃においてコンデンサの機能が発揮できない。比較例3では、溶媒がN,N’ジメチル−2−イミダゾリジノン単独であり、N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有しないので、電解液の凝固性が大きく、−25℃で電解液が固化している。従って、比較例3の電解液によりコンデンサを構成した際には、−25℃以下の温度においてコンデンサの機能が発揮できない。
【0050】
この(表5)から明らかなように、本発明の実施例1〜6の電解液は、比較例1〜4の電解液と比較して、いずれの温度範囲においても電導度が高いことが明らかである。従って、本発明の実施例1〜6の電解液によりコンデンサを構成した際には、低温での電気特性が良好なものとなる(容量変化が少なく、損失の増大も少ない)。
【0051】
以上の通り、本発明の実施例1〜6の電解液によりコンデンサを構成することにより、(1)面実装時の熱ストレスによるコンデンサの外観変形を抑止し、実装時の半田付け不良を改善できる、(2)温度85℃−相対湿度85%RHの雰囲気中の試験においても信頼性が高い、(3)低温での電気特性が良好、といった全ての項目を同時に満たすことができるものである。
【0052】
【発明の効果】
以上のように本発明の電解コンデンサ駆動用電解液は、電解液溶媒の沸点が高いため高温での安定性に優れ、その結果、面実装時の熱ストレスによるコンデンサの外観変形を抑制し、実装時の半田付け不良を改善すると共に、低温でのコンデンサの性能の維持向上を可能とするものであり、その工業的価値は大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】半田リフロー炉を通した際のエポキシ基板の時間−温度の関係を示す特性図
Claims (14)
- N,N’−ジメチルプロピレンウレア単独、またはN,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した電解コンデンサ駆動用電解液。
- N,N’−ジメチルプロピレンウレアと沸点200℃以上の有機溶媒を含有する混合有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した電解コンデンサ駆動用電解液。
- N,N’−ジメチルプロピレンウレアと混合する沸点200℃以上の有機溶媒として、N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いた請求項2に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- N,N’−ジメチルプロピレンウレアとN,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノンの混合比率が、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:N,N’−ジメチル−2−イミダゾリジノン=20〜40:80〜60の範囲である請求項3に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- N,N’−ジメチルプロピレンウレアと混合する沸点200℃以上の有機溶媒として、γ−ブチロラクトンを用いた請求項2に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- N,N’−ジメチルプロピレンウレアとγ−ブチロラクトンの混合比率が、N,N’−ジメチルプロピレンウレア:γ−ブチロラクトン=20〜40:80〜60の範囲である請求項5に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- 有機酸塩の有機酸がカルボン酸である請求項1〜6のいずれか一つに記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- カルボン酸がマレイン酸、フタル酸、アジピン酸、安息香酸、または以上の化合物のアルキルまたはニトロ置換体からなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜7のいずれか一つに記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- 有機酸塩の塩基がアンモニウム、第3級アミン、アルキル置換アミジン基を有する化合物、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩からなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜8のいずれか一つに記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩がイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物(ピリミジン化合物、イミダゾリン化合物)の群より選ばれる1種以上である請求項9に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
- N,N’−ジメチルプロピレンウレアを含有する有機溶媒に第4級アンモニウムを含有しない有機酸塩を電解質として溶解した電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサ。
- 電解コンデンサが面実装用部品である請求項11に記載の電解コンデンサ。
- 電解コンデンサの封口体に用いる弾性体が過酸化物加硫および/または樹脂加硫ブチルゴムであり、かつ弾性体の少なくとも一部の硬度が、75IRHD(国際ゴム硬さ単位)以上である請求項11または12に記載の電解コンデンサ。
- 電解コンデンサのリード線部の少なくとも表層の一部に、鉛を含まない金属層を設けた請求項11〜13のいずれか一つに記載の電解コンデンサ。
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