JP3641936B2 - 電子ビーム管 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、電子ビームを放射する電子ビーム管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子ビームを利用して印刷用インキの乾燥、食品や医療品の殺菌、電子部品の接着が行われるようになってきており、最近では、米国特許第5637953号に示されているように、電子ビームを出射する窓部材を有する真空室内に電子ビーム発生手段を設けてなる電子ビーム管が利用されるようになってきた。
【0003】
このような電子ビーム管は、従来のような大掛かりな真空装置を必要とせず、複雑な装置構造が不要となり、小型化を達成でき、幅広い用途での利用が検討されている。
【0004】
図6は、このような電子ビーム管の説明用一部断面図であり、図6は、電子ビーム発生手段の側面図である。
真空室1は、直径38mm、長さ76mmの円筒状のパイレックスガラスよりなり、シリコン製の蓋部材8が、この真空室1の開口を覆い内部が気密状態になるように配置されている。この蓋部材8には、後述する電子ビーム発生手段3より発生した電子が通過するためのモリブデン製の厚さ3.2mmの金属箔による窓部材2が形成されており、図8に示すように、この窓部材2は直線上に並んだ幅2mm、長さ5mmのスリット状の複数の開口Kを覆うように形成したものである。さらに、真空室1の後方には封止部11が形成されている。
【0005】
電子ビーム発生手段3は、熱電子放射部であるフィラメント31と電子ビーム加速電極32とからなり、以下に詳細に説明する。
【0006】
熱電子放射部であるタングステンよりなるフィラメント31は、真空室1内に延在する第1の電流供給部である一対の第1内部リード21の端部間に溶接やカシメ等によって電気的機械的に接続されて架設されている。そして、この一対の第1内部リード21の他端は封止部11に封止されたピン6に接続されている。
【0007】
図9は、熱電子放射部であるフィラメントの形状を説明する説明図であって、図9(a)は窓部材方向と直交する方向から見た正面図であり、図9(b)は図9(a)における矢印方向から見た側面図であり、左右どちらの方向から見ても同じであるので1つの図で示している。
このようにフィラメント31の形状は平板帯状であり、両側で湾曲して第1内部リード21に溶接によって接続されている。
【0008】
図6、図7に戻り説明すると、電子ビーム加速電極32は、真空室1内に延在する第2の電流供給部である一対の第2内部リード22の端部に接続され、フィラメント31から離間してフィラメント31を挟むように配置されている。そして、この一対の第2内部リード22の他端は封止部11に封止されたピン7に接続されている。
【0009】
ここで、電子ビームの発生方法を説明すると、フィラメント31を通電するとフィラメント31が高温になり、フィラメント31から熱電子が放射される。そして、放射された電子は、50KVという高電圧を電子ビーム加速電極32によってかけられることにより、電子ビーム加速電極32から強力に反発し加速されて開口Kの方向に流れ、窓部材2を通過して電子ビームとなる。
【0010】
4はフィラメント31から放出された電子が空間的に拡散することを防止するための電界印加電極であり、具体的には図7で示すX方向、Y方向の電子の広がりを抑制して、狭い角度範囲内に電子を飛ばし、すなわち、図8に示す開口Kの幅H内に向けて電子が流れ効率良く開口Kを通過し窓部材2から電子を放射させる働きを有するものである。
【0011】
このようにして発生した電子ビームは、図6に破線で示すようにフィラメント31を中心にして一定角度をもって扇状に広がった状態で形成される。
したがって、図10に示されているように電子ビームが照射される非処理物上に、長手方向に伸びる帯状の電子ビーム照射領域が形成さる。
【0012】
なお、金属製の筒5内に、フィラメント31と電子ビーム加速電極32と電界印加電極4が配置されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この電子ビーム管は、図10の非処理物上の電子ビーム照射領域の点々模様で示されている長手方向の端部側において、ビーム出力が低下して有効電子ビーム照射領域Lが電子ビーム照射領域全長に比べ狭くなり、よって、非処理物の処理範囲が狭くなる、という問題があった。
【0014】
本出願人は、このような現象が起こる原因を調査した結果、ファイラメント31と第1内部リード21が接続された部分の近傍におけるフィラメント31の熱が、第1内部リード21に奪われてこの部分のフィラメント温度が下がり、それ以外の部分と比較してこの部分のフィラメント31からの熱電子放射が小さくなり、さらに、前述したように電子ビームはフィラメント31を中心にして一定角度をもって扇状に広がるので、フィラメント31の第1内部リード21が接続された部分の近傍からの熱電子放射に影響される電子ビーム照射領域の長手方向端部側のビーム出力が低下することを発見した。
【0015】
以下に上記のような現象が起こる理由を説明する。
図11は、フィラメントの長手方向の温度状態を測定した結果を示すデータであり、縦軸にフィラメント温度、横軸にフィラメント位置を示す。なお、横軸の0mmのフィラメント位置は図9(a)のsで示した位置であり、横軸の5.7mmのフィラメント位置は図9(a)のeで示した位置である。
【0016】
図11中、従来の電子ビーム管のフィラメント温度は曲線Aで示されており、このデータから分かるように、フィラメントの端部の温度は、フィラメントの中心部の最高温度と比較して、約12%も低下していることが分かる。
【0017】
次に、図12を用いてフィラメントの温度と放射電流との関係を説明すると、熱電子の放射量は放射電流が大きくなるにつれて多くなることは既に知られており、図12から分かるように、フィラメントの温度が下がれば、それだけ放射電流が小さくなり、熱電子の放射量が少なくなることがわかる。
なお、図12では、フィラメントの温度が1750℃の時の放射電流を100%と規定して、各フィラメント温度に対する放射電流を比率で示したものである。
【0018】
これらのことにより、従来の電子ビーム管は、フィラメントと第1内部リードが接続された部分の近傍におけるフィラメントの温度が下がり、それ以外の部分と比較してこの部分のフィラメントからの熱電子放射が小さくなり、さらに、電子ビームがフィラメントを中心にして一定角度をもって扇状に広がるので、フィラメントの第1内部リードが接続された部分の近傍からの熱電子放射に影響される電子ビーム照射領域の長手方向端部側のビーム出力が低下するものであることを見出した。
【0019】
一方、図9(a)に示されているフィラメントのs,e間を長くし、つまり、フィラメントの温度が均一になる部分を長くして、電子ビーム照射領域の長手方向端部側のビーム出力低下を抑制することも考えられるが、前述したように電子ビームは、フィラメントを中心にして一定角度をもって扇状に広がるので、フィラメントが長くなった分だけ角度が大きくなり、蓋部材に形成された開口方向から外れた方向に流れる電子の割合が多くなり、この結果、フィラメントに入力される電流に対して効率良く窓部材を透過する電子の割合が低くなるという問題があった。
【0020】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、熱電子放射部と電流供給部が接続された部分の近傍における熱電子放射部の温度低下を抑制して、熱電子放射部の温度を均一にすることにより、電子ビーム照射領域のビーム出力が均一になる電子ビーム管を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に記載の電子ビーム管は、電子ビームを出射する窓部材が形成された真空室内に、一対の電流供給部間に架設された金属製の熱電子放射部とこの熱電子放射部から離間して当該熱電子放射部に沿って挟むように配置された一対の電子ビーム加速電極とを設けてなる電子ビーム管において、前記熱電子放射部の電流供給部近傍が、それ以外の部分より断面積を小さくして電気抵抗値が大きくなるようにしたことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項2に記載の電子ビーム管は、電子ビームを出射する窓部材が形成された真空室内に、一対の電流供給部間に架設された金属製の熱電子放射部とこの熱電子放射部から離間して当該熱電子放射部に沿って挟むように配置された一対の電子ビーム加速電極とを設けてなる電子ビーム管において、前記熱電子放射部は、コイル状のタングステンコイルからなり、当該タングステンコイルは、電流供給部近傍がそれ以外の部分よりコイルピッチが小さくなるようにしたことを特徴とする。
【0026】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の電子ビーム管に用いられる熱電子放射部である平板帯状のタングステン板のフィラメントの説明図であって、図1(a)は窓部材方向と直交する方向から見た正面図、図1(b)は図1(a)における矢印方向から見た側面図であり、左右どちらの矢印方向から見ても同じであるので1つの図で示している。
【0027】
フィラメント311は、幅0.5mm、長さ12mm、厚さ0.05mmの平板帯状のタングステン板であり、その両端に第1内部リード21が溶接によって接合されている。
【0028】
そして、図1(b)に示すように、フィラメント311は、第1内部リード21に接続された部分の近傍において、それ以外の部分より幅を約0.3mm短くして高発熱部311aが形成されている。
つまり、この高発熱部311aの断面積は、この部分以外のフィラメント311の断面積より小さくなっており、高発熱部311aの電気抵抗値がこの部分以外のフィラメントの電気抵抗値より大きくなっているので、高発熱部311aの発熱量を増大させ、高発熱部311aの温度を上昇させることができる。
【0029】
なお、電気抵抗値を上げる方法は、前述した高発熱部311a以外に図2のフィラメントの側面図に示すように複数の孔を設けた構造であっても良い。
【0030】
従って、第1内部リード21にフィラメント311の熱が奪われるが、少なくとも奪われる熱量の損失分だけ発熱量を増やす構造であるので、フィラメント311の第1内部リード21側の温度低下を抑制することができ、フィラメント311の温度を均一にすることができる。
【0031】
図3は、本発明の電子ビーム管に用いられる熱電子放射部であるフィラメントの他の構造説明図であって、窓部材方向と直交する方向から見た正面図である。
フィラメント312は、幅0.5mm、長さ12mm、厚さ0.05mmの平板帯状のタングステン板であり、その両端に第1内部リード21が溶接によって接合されている。
【0032】
そして、図3に示すように、フィラメント312は、第1内部リード21に接続された部分の近傍において、屈曲して高発熱部312aが形成されている。
つまり、この高発熱部312aは、屈曲することによりフィラメント312が隣接するので、隣接するフィラメントからの輻射熱により高発熱部312aの発熱量を増大させ、この部分以外のフィラメント312より高発熱部312aの温度を上昇させることができる。
【0033】
従って、第1内部リード21にフィラメント312の熱が奪われるが、少なくとも奪われる熱量の損失分だけ発熱量を増やす構造であるので、フィラメント312の第1内部リード21側の温度低下を抑制することができ、フィラメント312の温度を均一にすることができる。
【0034】
図4は、本発明の電子ビーム管に用いられる熱電子放射部であるフィラメントの他の構造説明図であって、窓部材方向と直交する方向から見た正面図である。
【0035】
フィラメント313は、直径0.15mmのコイル状のタングステンコイルであり、その両端に第1内部リード21が溶接によって接合されている。
【0036】
そして、図4に示すように、フィラメント313は、第1内部リード21に接続された部分の近傍において、フィラメントのコイルピッチが、それ以外の部分より小さくなっている密巻部313aが形成されている。
つまり、この密巻部313aは、この部分以外のフィラメント313よりコイルピッチが小さくなっているので、隣接するフィラメントからの輻射熱により密巻部313aの発熱量を増大させ、この部分以外のフィラメント313より密巻部313aの温度を上昇させることができる。
【0037】
なお、コイルピッチとは、図5に示すように、タングステン素線の直径をa、一巻きに進むコイルの距離をbとすると、b/aで示される値が、コイルピッチである。
【0038】
従って、第1内部リード21にフィラメント313の熱が奪われるが、少なくとも奪われる熱量の損失分だけ発熱量を増やす構造であるので、フィラメント313の第1内部リード21側の温度低下を抑制することができ、フィラメント313の温度を均一にすることができる。
【0039】
図11を用いて本発明の電子ビーム管に用いられるフィラメントの長手方向の温度状態を説明する。
なお、横軸の0mmのフィラメント位置は、図1(a)のs、及び、図3のs、及び、図4のsで示した位置であり、横軸の5.7mmのフィラメント位置は図1(a)のe、及び、図3のe、及び、図4のeで示した位置である。
図11中、曲線Bは図1に示すフィラメントの温度状態を示すものであり、曲線Cは図3に示すフィラメントの温度状態を示すものであり、曲線Dは図4に示すフィラメントの温度状態を示すものである。
つまり、それぞれのフィラメント温度は中心部の最高温度と端部の温度との差はほとんどなく、フィラメントの温度が均一になっていることがわかる。
【0040】
この結果、本発明の電子ビーム管は平板帯状のタングステン板よりなるフィラメント311を用いた場合は、フィラメント311と第1内部リード21が接続された部分の近傍に断面積を小さくして電気抵抗値が大きくなうようにした高発熱311aが形成されているので、この高発熱部311aで発熱量が増大し、この部分以外のフィラメント311より高発熱部311aの温度を上昇させることができ、フィラメント311の温度を均一にすることができる。
【0041】
また、平板帯状のタングステン板よりなるフィラメント312を用いた場合は、フィラメント312と第1内部リード21が接続された部分の近傍において屈曲した高発熱312aが形成されているので、この高発熱部312aで隣接するフィラメントからの輻射熱により高発熱部312aの発熱量が増大し、この部分以外のフィラメント312より高発熱部3121aの温度を上昇させることができ、フィラメント312の温度を均一にすることができる。
【0042】
さらに、コイル状のタングステンコイルよりなるフィラメント313を用いた場合は、フィラメント313と第1内部リード21が接続された部分の近傍に密巻部312aが形成されているので、この密巻部313aで隣接するフィラメントからの輻射熱により密巻部313aの発熱量が増大するので、この部分以外のフィラメント313より密巻部313aの温度を上昇させることがフィラメント313の温度を均一にすることができる。
【0043】
よって、平板帯状のタングステン板よりなるフィラメント311,312を用いた場合も、コイル状のタングステンコイル313を用いた場合も、フィラメント311,312,313の全ての部分からほぼ均一な量で熱電子が放射され、電子ビームがフィラメントを中心にして一定角度をもって扇状に広がるのでビーム出力が均一になり、電子ビーム照射領域の長手方向端部側のビーム出力が低下せず有効電子ビーム照射領域が電子ビーム照射領域全長と等しくなり、非処理物の処理範囲を広くすることができる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電子ビーム管は、電子ビーム発生手段において、熱電子放射部は、電気抵抗値を変えたり、或いは、コイルピッチを変えて電流供給部に接続された部分の近傍の発熱量が、それ以外の部分の発熱量と比較して大きくなるようにしたので、電流供給部に接続された近傍部分の発熱量を増大させ、この部分の温度を上昇させることができる。
【0045】
従って、電流供給部に熱電子放出部の熱が奪われるが、少なくとも奪われる熱量の損失だけ発熱量を増やしているので、熱電子放出部の電流供給部側の温度低下を抑制することができ、熱電子放出部の温度を均一にすることができ、熱電子放射部の全ての部分からほぼ均一な量で熱電子が放射され、電子ビームがフィラメントを中心にして一定角度をもって扇状に広がるので、ビーム出力が均一になり、電子ビーム照射領域の長手方向端部側のビーム出力が低下せず有効電子ビーム照射領域が電子ビーム照射領域全長と等しくなり、非処理物の処理範囲を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子ビーム管の熱電子放射部であり、断面積を小さくして電気抵抗値を上げた平板帯状のタングステン板よりなるフィラメントの説明図である。
【図2】本発明の電子ビーム管の熱電子放射部であり、断面積を小さくして電気抵抗値を上げた平板帯状のタングステン板よりなるフィラメントの他の実施例の説明図である。
【図3】本発明の電子ビーム管の熱電子放射部であり、一部を屈曲した平板帯状のタングステン板よりなるフィラメントの説明図である。
【図4】本発明の電子ビーム管の熱電子放射部であるコイル状のタングステンコイルの説明図である。
【図5】コイルピッチを定義する説明図である。
【図6】従来の電子ビーム管の一部断面説明図である。
【図7】従来の電子ビーム管の電子ビーム発生手段の側面図である。
【図8】従来の電子ビーム管の蓋部材に形成された開口と窓部材の関係を示す説明図である。
【図9】従来の電子ビーム管の熱電子放射部であるフィラメントの説明図である。
【図10】非処理物上の電子ビーム照射領域の説明図である。
【図11】フィラメントの長手方向の温度状態を示すデータ説明図である。
【図12】フィラメントの温度と放射電流との関係を示すデータ説明図である。
【符号の説明】
1 真空室
2 窓部材
3 ビーム発生手段
21 第1内部リード
22 第2内部リード
31 フィラメント
311 フィラメント
311a 高発熱部
312 フィラメント
312a 高発熱部
313 フィラメント
313a 密巻部
32 電子ビーム加速電極
4 電界印加電極
5 金属製の筒
6 ピン
7 ピン
8 蓋部材
Claims (2)
- 電子ビームを出射する窓部材が形成された真空室内に、一対の電流供給部間に架設された金属製の熱電子放射部とこの熱電子放射部から離間して当該熱電子放射部に沿って挟むように配置された一対の電子ビーム加速電極とを設けてなる電子ビーム管において、
前記熱電子放射部の電流供給部近傍が、それ以外の部分より断面積を小さくして電気抵抗値が大きくなるようにしたことを特徴とする電子ビーム管。 - 電子ビームを出射する窓部材が形成された真空室内に、一対の電流供給部間に架設された金属製の熱電子放射部とこの熱電子放射部から離間して当該熱電子放射部に沿って挟むように配置された一対の電子ビーム加速電極とを設けてなる電子ビーム管において、
前記熱電子放射部は、コイル状のタングステンコイルからなり、当該タングステンコイルは、電流供給部近傍がそれ以外の部分よりコイルピッチが小さくなるようにしたことを特徴とする電子ビーム管。
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