JP3641165B2 - 酸化鉄粒子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に塗料用、インキ用、磁性トナー用、磁性キャリア用、ゴム・プラスチック用の着色顔料等として好適であり、適度な着色力、隠蔽力、色相を有し、かつ樹脂との混練性に優れた酸化鉄粒子に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
酸化鉄粒子は、各種分野、具体的には塗料用、インキ用、磁性トナー用、磁性キャリア用、ゴム・プラスチック用の着色顔料等に広く利用されており、特に磁性酸化鉄粒子は乾式電子複写機、プリンタ等の磁性トナー用材料粉として多用されている。
【0003】
上記いずれの分野においても高性能化、高品質化の要求はとどまるところがなく、酸化鉄粒子は着色顔料として求められる着色力、隠蔽力、色相をバランス良く適度に兼備していることが要求される。このような要求を満たす大きな要因としては、酸化鉄粒子の粒度分布が挙げられる。
【0004】
一般的に、各種無機粉体は、目標の粒度を設定し、製造諸条件を調整することにより製造されるが、100%目標の粒度を得ることは困難で、なるべく上記製造諸条件の安定を図ることにより、粒度分布は調整される。
【0005】
この粒度分布の変動、すなわち酸化鉄粒子の粒径のバラツキは、酸化鉄粒子を樹脂と混練した際の着色力に大きな影響を与える。この事実は、例えば特開平6−310317号公報の「粒状マグネタイト粒子粉末は、出来るだけ少量で着色することができれば、取扱い等の作業性の面からはもちろん省資源、省エネルギー化の面からも有利であることから・・・着色力ができるだけ高いことが要求される。」なる記載からも明らかである。
【0006】
この着色力は、顔料評価の際の一種の指標となっており、理想的にビヒクル中に分散されている場合には、粒子が微細なほど高くなることが知られている。
【0007】
また、隠蔽力は、顔料を展色材で練って塗料化したものを塗布した場合に下地を見えなくする力であるが、「粉体 理論と応用」(丸善刊)によれば、顔料の粒子が小さくなるにつれ着色力や隠蔽力は増大するが、光の波長より粒子径が小さくなると隠蔽力は逆に小さくなるとの記載があり、両者のバランスを取るということは、この隠蔽力の最大点近傍を選択するということに他ならない。
【0008】
一方、酸化鉄粒子においては、特開昭55−65406号公報には、平均粒径0.2μmの粉末で青みを帯びたマグネタイト粒子が黒色顔料として最も好適であり、その黒色度合は平均粒径によって左右される旨が記載されており、色相も重要な特性である。
【0009】
この色相は粒子径が小さくなるほど青みを失い、赤もしくは茶系に近づく傾向にあるので、上記着色力や隠蔽力とのバランスを取ることが難しい。
【0010】
また、着色顔料としての酸化鉄粒子に求められる他の特性に、樹脂との混練性が挙げられる。樹脂中での顔料の混練性、分散性が重要であることは、特公昭62−14576号公報にプロピレン系着色樹脂の色ムラの大きな原因としては黒色顔料成分の偏在によるところが大きい旨が記載されていることからも明らかである。
【0011】
この樹脂との混練性についても酸化鉄粒子の粒度が重要で、粒子径が大きいほど優れていると言えるが、着色力や隠蔽力とのバランスを考えた場合には限界がある。
【0012】
しかしながら、微細な粒子では実用面において色相で劣ったり、凝集が著しく、樹脂との混練性の不良や各種環境での劣化等を招きやすい。
【0013】
以上のように、着色力、隠蔽力と色相、樹脂との混練性のバランスの取れた酸化鉄粒子は、単に粒度を揃えたシャープな分布を有する酸化鉄粒子では得られなかった。
【0014】
従って、本発明の目的は、着色力、隠蔽力、色相のバランスが取れ、かつ樹脂との混練性に優れた酸化鉄粒子を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上述の通り、単に酸化鉄粒子の粒子径を小さくすることによる隠蔽力や着色力の向上、あるいは粒子径を大きくすることによる色相や樹脂との混練性の向上には限界があることから、本発明者等はただ単に粒子径を規定したり、粒度分布を揃える手段に拘泥することなく、一次粒子の小粒径側からの累積個数による粒子径に特定の関係を有する酸化鉄粒子によって、上記目的が達成し得ることを知見した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、個数平均粒子径が0.1〜1μmで、一次粒子の小粒径側からの累積個数が全粒子個数の50%、90%及び95%における粒子径をそれぞれD50、D90、D95としたときに、下記式(1)及び(2)を満足する酸化鉄粒子であって、
上記酸化鉄粒子:酸化チタンの重量比を6:100で混合した際のL値が40以下、かつa値が0以下であり、吸油量が28ml/100g以下であることを特徴とする酸化鉄粒子を提供するものである。
1.5D50≦D90 … … (1)
2.5D50≦D95 … … (2)
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の酸化鉄粒子は、個数平均粒子径が0.1〜1μmであり、一次粒子の小粒径側からの累積個数が全粒子個数の50%、90%及び95%における粒子径をそれぞれD50、D90、D95としたときに、下記式(1)及び(2)を満足する。
1.5D50≦D90 … … (1)
2.5D50≦D95 … … (2)
【0018】
また、下記式(3)及び(4)を満足することが好ましく、下記式(5)及び(6)を満足することがさらに好ましい。
1.8D50≦D90 … … (3)
2.8D50≦D95 … … (4)
2D50≦D90 … … (5)
3D50≦D95 … … (6)
【0019】
本発明の酸化鉄粒子は、D50に対しD90及びD95との格差が大きい傾向にあることから、粒度分布は意図的に広くなっている。かかる粒子では単純に粒径の大小が混在することによる各種特性のバランス効果はもちろんのこと、大粒径粒子間の空隙を小粒径粒子で埋めることによる樹脂への充填性向上や、樹脂への分散時に小粒径粒子がコロになることによる分散性向上等の相乗効果も期待できる。
【0020】
上記式(1)及び(2)を満たさない領域における酸化鉄粒子、すなわち、D50に対しD90及び/又はD95との格差が小さい傾向にある酸化鉄粒子では、粒度分布が狭くて着色力と隠蔽力、又は色相と樹脂との混練性いずれかに優れたものであるが、これら特性のバランス面では不充分なものである。
【0021】
また、本発明の酸化鉄粒子は、酸化鉄粒子:酸化チタン粒子の重量比を6:100で混合した際のL値が40以下、かつa値が0以下である。L値が35以下、かつa値が−0.1以下であると好ましい。このL値が40を超える場合には、着色力不足であり、a値が0を超える場合には、赤みが強くなり色相不良となる。
【0022】
本発明の酸化鉄粒子は、吸油量が28ml/100g以下である。25ml/100g以下であると好ましい。この吸油量が28ml/100gを超える場合には、樹脂との混合性が不良であることに起因して、分散性が不良であり、樹脂との混練性も悪くなる。
【0023】
本発明の酸化鉄粒子は、FeO含有量が18重量%以上であることが好ましい。このFeO含有量が18重量%未満の場合には、黒色度に劣るので好ましくない。
【0024】
本発明の酸化鉄粒子は、粒度分布上の個数平均粒子径による変動係数
【0025】
【数1】
Figure 0003641165
【0026】
が50%以上であることが好ましい。この変動係数が50%未満の場合には、酸化鉄粒子の粒度分布が狭すぎて、着色力、隠蔽力と色相、樹脂との混練性のバランスが取れない。
【0027】
本発明の酸化鉄粒子の形状は粒状(球状、六面体状、八面体状等)であれば特に限定されるものではないが、特に八面体形状であることが好ましい。この理由としては、八面体粒子は色相が球状粒子等に比べて青みが強く、磁気特性的にも飽和磁化が高い傾向にあるため、磁性トナー用、磁性キャリア用等の利用分野において有利である点が挙げられる。
【0028】
本発明の酸化鉄粒子の形態は、マグネタイト(Fe3 4 )を始めとして、マグヘマイト(γ−Fe2 3 )やその中間組成のベルトライド化合物(FeOx・Fe2 3 、0<x<1)、及びこれらの単独又は複合化合物にFe以外のSi、Al、Mn、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Co、Zr、W、Mo、P等を少なくとも1種以上含むスピネルフェライト粒子等を必要な特性に応じて選択すればよいが、特に黒色度の高いFe2+含有量の高いマグネタイトがより好ましい。
【0029】
さらに、本発明の酸化鉄粒子は、分散性を向上させるために、SiやAl、あるいは有機処理剤等による表面処理を施したものであっても良い。
【0030】
次に、本発明の酸化鉄粒子の具体的な製造方法の一例について説明する。
本発明の酸化鉄粒子は、Fe2+を含有する第一鉄塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して得られた水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化することにより酸化鉄粒子を製造するにあたり、酸化反応の際の反応温度、酸素含有ガスの種類及びその量を反応途中で変更して、酸化反応スピードを調整する方法により製造できる。
【0031】
Fe2+を含有する第一鉄塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して得られた水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液に酸素含有ガスを通気して酸化することにより酸化鉄粒子を製造する方法は、酸化鉄粒子の製造方法としてごく一般的であるが、通常、酸化鉄粒子に目的の特性を安定的に与えたり、粒度分布を狭くしたりするためには、上記酸化反応時の条件は極力変更することなく行われることが多い。
【0032】
本発明者等は、そうしたシャープな粒度分布に拘泥することなく、一次粒子の小粒径側からの累積個数による粒子径に特定の関係を満足する酸化鉄粒子を製造するための製造条件を吟味した結果、上記酸化反応時の条件を制御することで、本発明の酸化鉄粒子の製造が可能なことを見出したのである。
【0033】
酸化鉄粒子の製造方法において、粒径に影響を与える制御因子としては、反応温度、酸化速度、シード量、使用酸化性ガス、過剰なアルカリ成分量等をコントロールすることが知られているが、本発明において重要な条件は、酸化反応時にこれら粒径の制御因子を適当に変更することで、本発明の酸化鉄粒子を製造することができる。
【0034】
まず、反応開始時の酸素含有ガスは空気を用いて、反応温度は75〜90℃で行うのが好ましく、85〜90℃がさらに好ましい。反応開始から酸素含有ガスに酸素を用いると、酸化反応が進みすぎて核となる粒子が増え、粒度分布が極端に広くなる恐れがある上、コスト的にも不経済であり、反応温度が75℃未満の場合には、反応のスピードが遅くなる上、ゲーサイトの発生が懸念される。90℃を超える場合には、エネルギーコスト的に不経済である。
【0035】
また、反応切り替え時の酸化反応率は15〜70%が好ましく、30〜60%がさらに好ましい。この酸化反応率が15%未満では核粒子が少なすぎて、目標とする粒径の度数が小さくなってしまい、酸化反応率が70%を超える場合には、上記式(1)及び(2)、すなわち1.5D50≦D90、かつ2.5D50≦D95を満足することが難しい。
【0036】
また、反応条件切り替え後の反応条件は、切り替え前より反応槽内の酸化雰囲気を強くして反応スピードを上げる方が好ましい。この操作によって、個々の粒子がゆっくり成長して粒度分布が狭くなる現象を抑えることができる。従って、酸素含有ガスに酸素を用いたり、空気通気量を1.5〜5倍にする等の操作をすれば良く、空気通気量を調整する場合は、2〜4倍に調整するのがより好ましい。
【0037】
なお、本発明の酸化鉄粒子を製造する際に、既に製造済みの酸化鉄粒子を出発原料として、これを水分散したスラリー中に、Fe2+を含有する第一鉄塩水溶液とアルカリ水溶液を投入して、出発原料の酸化鉄粒子の粒度分布に応じて、適宜追加の酸化反応を行っても良い。
【0038】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
〔実施例1〕
表1に示されるように、Fe2+を2.0mol/l含有する硫酸第一鉄水溶液50リットルと4.0mol/lの水酸化ナトリウム55リットルとを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この反応水溶液の温度を90℃に保ちながら、20リットル/minの空気を通気し、反応水溶液中のFe2+の酸化反応率が60%となった時点で通気を一旦停止した。反応水溶液の温度を75℃に下げ、この温度を維持しながら酸素を20リットル/minで通気し、酸化反応を終了させた。得られたマグネタイトスラリーを通常の濾過、洗浄、乾燥、粉砕工程により処理し、八面体形状のマグネタイト粒子を得た。
【0040】
このようにして得られたマグネタイト粒子の各特性(比表面積、粒径、酸化チタン混合時の着色力及び色相、樹脂との混練、成形後の着色力、色相、色ムラ、吸油量)について評価した。結果を表2に示す。
【0041】
なお、各特性の測定方法については下記の方法により行った。
(1)比表面積
島津−マイクロメリテックス製2200型BET計にて測定した。
(2)粒径
走査型電子顕微鏡に1万倍の写真を撮影し、200個の粒子のフェレ径を測定した。このデータをもとに、試料の個数平均径、小粒径側から積算した累積個数粒子径D50、D90、D95を求めた。
(3)酸化チタン混合時の着色力及び色相
試料を1.2g、酸化チタン粒子(石原産業(株)製A−100)20g、スチールボール(6mmφ)100gをガラス製ポットに入れ、シェーカーを用いて、500rpmで5分間混合した。得られた粉末をペレット状に成形し、色差計(東京電色社製、カラーアナライザTC−1800型)にてL、a、b値を測色した。
(4)樹脂との混練、成形後の着色力、色相、色ムラ
<試料と樹脂による成形プレートの作成>
試料0.4重量部とエチレン含有量8重量%、MFR1.8のエチレン・プロピレン−ブロック共重合体100重量部をV型ブレンダーを用い、20分間混合した後、一軸押出機で造粒し、着色ペレットを作成した。
このペレットを用いた射出成形機(多機製作所製)にて350mm×100mm×2mmの成形プレートを作成した。
<酸化チタンを混合した試料と樹脂による成形プレートの作成>
上記試料に代えて、上記(3)にて得られたマグネタイト粒子を含む酸化チタン混合粉末7.6重量部とした以外は、上記試料と樹脂による成形プレートの作成方法と同様にして成形プレートを作成した。
上記方法にて作成した成形プレートを、色差計(東京電色社製、カラーアナライザーTC−1800型)を用いてL、a、b値を測色した。
また、成形プレートの色ムラを観察し、色ムラが全く確認されなかったものを○、やや色ムラが見られるものを△、明らかに色ムラが確認されたものを×とした。
(5)吸油量
JIS K 5101(1978)に記載されている方法でアマニ油を使用して測定した。
【0042】
〔実施例2〜5、比較例1〜4〕
表1に示すように、製造条件を変えた以外は、実施例1と同様にマグネタイト粒子を製造した。
【0043】
このマグネタイト粒子について、実施例1と同様に各特性を評価した結果を表2に示す。また、実施例2のマグネタイト粒子の粒径及び粒子形状を示す走査型顕微鏡写真(×10,000)を図1に示す。
【0044】
【表1】
Figure 0003641165
【0045】
【表2】
Figure 0003641165
【0046】
表2の結果から明らかな通り、実施例1〜5のマグネタイト粒子は、1.5D50≦D90、かつ2.5D50≦D95を満たしており、酸化チタン混合時や樹脂との成形品の着色力及び色相が良好な数値を示すと共に、成形品にも色ムラは見られなかった。
【0047】
これに対し、比較例1〜4のマグネタイト粒子は、1.5D50≦D90、かつ2.5D50≦D95を満たしていなかった。比較例1のマグネタイト粒子は、吸油量が高いため、樹脂との混合性が不良で、樹脂との成形品の色味が悪かった。比較例2のマグネタイト粒子は、酸化チタン混合時の色味が悪いため、樹脂との成形品の色味はさらに悪かった。加えて樹脂との成形品の色ムラも不良だった。比較例3のマグネタイト粒子は、酸化チタン混合時の着色力に劣るため、樹脂との成形品の着色力はさらに劣るものであった。加えて樹脂との成形品の色ムラも不良だった。比較例4のマグネタイト粒子は、樹脂との成形品の着色力、色味が不良だった。
【0048】
【発明の効果】
本発明に係わる酸化鉄粒子は、粒度分布に関して小粒径側からの累積個数による粒子径に特徴を有し、着色力、隠蔽力、色相のバランスが取れており、かつ樹脂との混練性に優れていることから、塗料用、インキ用、磁性トナー用、磁性キャリア用、ゴム・プラスチック用の着色顔料等の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例2のマグネタイト粒子の粒径及び粒子形状を示す走査型顕微鏡写真である(×10,000)。

Claims (2)

  1. 個数平均粒子径が0.1〜1μmで、一次粒子の小粒径側からの累積個数が全粒子個数の50%、90%及び95%における粒子径をそれぞれD50、D90、D95としたときに、下記式(1)及び(2)を満足する酸化鉄粒子であって、
    上記酸化鉄粒子:酸化チタンの重量比を6:100で混合した際のL値が40以下、かつa値が0以下であり、吸油量が28ml/100g以下であることを特徴とする酸化鉄粒子。
    1.5D50≦D90 … … (1)
    2.5D50≦D95 … … (2)
  2. 形状が八面体である請求項1に記載の酸化鉄粒子。
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