JP3638810B2 - ねじ締め機のサイレントクラッチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ねじ締め機において、回転動力の伝達、遮断を行うためのサイレントクラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、電動のねじ締め機には、電動モータの動力をスピンドルに対して伝達したり遮断したりするためのクラッチが内蔵されており、一般にこのクラッチには主としてギヤの噛み合いにより動力を伝達するタイプの噛み合いクラッチが採用されている。
従来の噛み合いクラッチとしては、例えば特公平3−5952号公報に開示されたものが知られている。この従来の噛み合いクラッチを内蔵したねじ締め機の構成を、同公報の図2aを援用した図8に基づいて説明すると、このねじ締め機は、ハウジングと電動モータとクラッチとスピンドル88とストッパスリーブ89を備えている。ハウジングに電動モータとクラッチとスピンドル88が内蔵されている。ストッパスリーブ89がハウジングに付設されている。
スピンドル88には、ねじ類と結合してねじ類を回転させるドライバビット90が装着されている。スピンドル88に装着されたドライバビット90はストッパスリーブ89の内周側で回転する。スピンドル88はハウジングに回転自在でかつ軸方向にスライド可能に支持されている。このためスピンドル88のスライドとともにドライバビット90もストッパスリーブ89の内周側でスライドする。
【0003】
クラッチは、電動モータにより回転する第1ディスク81と、該第1ディスク81に対向する第2ディスク84と、スピンドル88の端面に固定された第3ディスク87を主体として構成されている。第1ディスク81はハウジングに回転自在で軸方向にスライド不能に支持されている。この第1ディスク81の端面にはクラッチ歯82が形成されている。
第2ディスク84は、ハウジングに回転自在且つ軸方向にスライド可能に支持されている。この第2ディスク84の上側端面にはクラッチ歯82に噛み合う第2クラッチ歯83が形成されている。又、この第2ディスク84は、図示省略した圧縮ばねにより第3ディスク87に接近する方向すなわち第1ディスク81から離間する方向に付勢されている。
第2ディスク84と第3ディスク87の相互に対向する端面には溝85,86が形成されており、この溝85,86の深さは周方向に変化している。すなわち最も深い底面85a,86aから徐々に深さの浅くなる傾斜面85b,86bにつながっている。又、溝85,86は周方向の所定範囲内で伸びており、その境界は垂直面85c,86cとなっている。
【0004】
以上の構成によりこのねじ締め機は次のように作動する。ドライバビット90をねじに押し付けると、ドライバビット90とスピンドル88と第3ディスク87が一体で後退し、この結果第2ディスク84が後退する。このときクラッチ歯82と第2クラッチ歯83が浅く噛み合うとともに、溝85,86がその最も深い底面85a,86a同志で当接している。この状態で電動モータからドライバビット90にトルク伝達が行なわれる。第1ディスク81が第2ディスク84を回転させ、第2ディスク84が第3ディスク87を回転させると、溝85,86間に接触圧が作用する。この力は溝85,86の深さが周方向に変化しているために、第2ディスク84を傾斜面85b,86bに沿って第1ディスク81側に送り出すように作用する。
【0005】
溝85,86の垂直面85c,86c同志が当接するとこの送り出し成分がなくなり、この時クラッチ歯82と第2クラッチ歯83は最も深く噛み合う。この状態でねじ締めが進行する。図8はこの状態を示している。スピンドル88が前進し、ストッパスリーブ89が材料に当接した後は、ねじが所定深さまで締め付けられると、クラッチ歯82と第2クラッチ歯83の噛み合いが外れる。すると、第2ディスク84が第3ディスク87を回転させようとする力も作用しなくなるため、第2ディスク84は図示省略したばねにより溝85,86の傾斜面85b,86bに沿って前進し、溝85,86がその最も深い底面85a,86a同志で当接しあう。この結果クラッチ歯82とクラッチ歯83間には傾斜面85b,86bの深さ分(軸方向の距離)だけのクリアランスが生じて、当該噛み合いクラッチは静かに空転し続ける。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の構成にあっては、トルクの伝達がクラッチ歯82,83による噛み合いによってなされるため、それぞれのクラッチ歯自体の耐久性が悪く、クラッチ歯の欠けや摩耗が激しいという問題があった。特にねじ締め初期において、ねじ締め機をねじ締め付け方向に押し付けると、その押し付け力によってドライバビット90とともにスピンドル88が後退して、回転する第1ディスク81のクラッチ歯82の歯面が第2ディスク84のクラッチ歯83の歯面に急激に当接することによって駆動回転が伝達されるために、この噛み合い面での耐久性、耐摩耗性に問題があった。
【0007】
又、上記従来の噛み合いクラッチによれば、ねじの締め込み量が所定量(長さ)に達すると、固定側のクラッチ歯82と可動側の第2クラッチ歯83とを積極的且つ完全に解離する構成であるため、ストッパスリーブ89の調整が悪かったり、狭い場所や足場の悪い場所でのねじ締め作業で締め付けすべきねじが当初の希望した締め込み量に対して締め足らない場合であっても、そのままの状態でさらに締め付けする、いわゆる締め直しができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、噛み合いクラッチの耐久性が向上し得るとともに、いわゆる締め直しが簡単にでき、しかもこれら従来の問題を解決すべく設けられた駆動ギヤあるいは中間クラッチ部材の溝部が損傷を受けることのないねじ締め機のサイレントクラッチを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このため、本願発明は、前記請求項に記載した構成のサイレントクラッチとした。
請求項1記載のサイレントクラッチによれば、電動モータが回転せず、かつ当該ねじ締め機をねじ締め付け方向に押し付け操作していない状態(ねじ締め機の非使用時)にあっては、スピンドルのクラッチ歯と中間クラッチ部材のクラッチ歯は噛み合っておらず、従って中間クラッチ部材を駆動ギヤに対して回転方向に変位させる外力は作用しない。中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して相対回転しないためコイルばねは捩じられず、従って中間クラッチ部材のクラッチ歯とスピンドルのクラッチ歯は最も離間した状態となっている。
【0010】
この状態において、ねじ締めを開始すべく電動モータを起動して当該ねじ締め機をねじ締め込み方向に押し付けると、先ず、スピンドルが後退してそのクラッチ歯が中間クラッチ部材のクラッチ歯に噛み合い始める。すると、中間クラッチ部材に締め付け抵抗(回転抵抗)が付加され、これにより該中間クラッチ部材が一定の範囲で駆動ギヤに対して相対的に回転する。
中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して相対回転すると、コイルばねが捩じられて伸長し、これにより中間クラッチ部材が駆動ギヤから離間する方向すなわちクラッチ歯がより深く噛み合う方向(前方)に押し出される。また、スピンドルも一体となって前方に押し出される。
このように、中間クラッチ部材のクラッチ歯がスピンドルのクラッチ歯に噛み合い始める段階では、中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して相対的に回転するためより衝撃の小さい状態で両クラッチ歯を噛み合わせることができ、これにより両クラッチ歯の損傷或いは摩耗を大幅に低減することができる。
【0011】
中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して許容される範囲の全範囲にわたって変位すると両者はそれ以上は変位できず、従って中間クラッチ部材は駆動ギヤと一体となって回転する。この一体回転状態において駆動ギヤに伝達された回転力は、中間クラッチ部材及びクラッチ歯の噛み合いを経てスピンドルに伝達され、これによりスピンドルの先端にセットしたねじのねじ締めが行われる。
ねじ締め中は、中間クラッチ部材に締め付けトルクが作用しているため、この中間クラッチ部材は駆動ギヤに対して回転方向及び軸方向について最大限に変位した状態に維持され、従って駆動ギヤに伝達された回転力は直接中間クラッチ部材に伝達される状態が維持される。ねじ締めの進行に伴ってストッパスリーブがねじ締め込み材に当接した後は、スピンドルが相対的に前進し、従ってクラッチ歯の噛み合いは徐々に浅くなる。
【0012】
ねじ締めが完了してクラッチ歯の噛み合いが外れると、中間クラッチ部材に締め付トルクが作用しなくなるためコイルばねの捩りは戻されて該コイルばねは縮小し、これにより中間クラッチ部材が後退して、スピンドルのクラッチ歯と中間クラッチ部材のクラッチ歯との間にはクリアランスが発生し、従って当該クラッチは静かに空転する。
又、作業者のミス等によりねじの締め込み量が不充分な状態にもかかわらず、ねじ締め作業を中断してしまった場合には、電動モータを停止させる。そしてねじ締め機をねじ締め込み材に押し付け操作した状態で再度電動モータを起動すると、クラッチ歯が噛み合っていない状態であっても、中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して僅かに遅れて回転し始めるため、該中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して回転方向に変位する。これによりコイルばねが伸長して該中間クラッチ部材は前方に押出され、その結果クラッチ歯が再度噛み合って適正な締め付け状態に復帰する。すなわち従来の工具のように、ストッパスリーブの位置を調整するといった面倒な操作をすることなく、いわゆる締め直しをすることができる。
【0013】
更に、この締め直しの場合において、クラッチ歯が噛み合い始めた瞬間に中間クラッチ部材は駆動ギヤに対して変位し始め、この中間クラッチ部材の回転は駆動ギヤの回転に比して低くなる(中間クラッチ部材の回転数が駆動ギヤの回転より遅れる)。このためクラッチ歯同志の噛み合い開始時には駆動ギヤの回転数よりも低い回転数で噛み合うことになり、従ってクラッチ歯に付加される衝撃が和らげられ、これによりクラッチ歯の耐久性を向上させることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。本例では、ねじ締め機の一例として電動のねじ締め機1を例示して説明する。図1は、このねじ締め機1の先端側ほぼ半分を示している。ハウジング2の内部には電動モータ3が取り付けられている。この電動モータ3は、ねじ締め機本体に設けたトリガ式のメインスイッチ(図示省略)をオンオフ操作することにより起動停止する。この電動モータ3の出力軸に形成したピニオンギヤ3aは、駆動ギヤ4に噛み合っている。
駆動ギヤ4は、駆動軸5に対して回転可能に支持されている。但し、スラスト軸受け7に支持されること等によりこの駆動ギヤ4は軸方向には移動しない。駆動軸5の後端側(図示右端側)は軸受け6によりハウジング2に対して回転可能且つ軸方向に移動可能に支持されている。
駆動ギヤ4の前側(図示左側)において、上記駆動軸5には中間クラッチ部材8が駆動ギヤ4とは独立して回転可能に支持されている。但し、駆動ギヤ4の前面と中間クラッチ部材8の後面には、それぞれ3個の係合歯4a〜4a、8a〜8aが形成されている。各係合歯4a〜4a、8a〜8aは、図2に示すように周方向3等分位置において径方向へ放射状に形成されている。このため、中間クラッチ部材8は、各係合歯8aが駆動ギヤ4の係合歯4a,4a間で移動可能なほぼ120゜の範囲で駆動ギヤ4に対して相対回転可能となっている。
【0015】
上記中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4との間には、コイル状に巻かれたコイルばね10が介装されている。このコイルばね10は、断面矩形の線材を素材として形成されており、捩じるとコイル径を縮小しつつ軸方向に伸長し、捩りを解除するとその弾性力により元の長さに戻される性質を有しており、両端部10a,10b相互間の回転方向の変位を軸方向の長さの変化に変換する機能を有している。このコイルばね10自体は、従来公知のものであり、本例において特に変更を加える必要はない。
このコイルばね10の前端部10bは中間クラッチ部材8の切り欠き部8bに引き掛けられて固定され、又その後端部10aは、駆動ギヤ4に形成した引き掛け孔4bに引き掛けられて固定されている。このため、中間クラッチ部材8が駆動ギヤ4に対して回転方向に変位すると、上記コイルばね10が捩じられて伸長するため、この中間クラッチ部材8は軸方向前方に変位する。
なお、上記係合歯8a,4aの係合状態は、中間クラッチ部材8が軸方向に移動しても常時維持される。
又、駆動ギヤ4のボス部及び中間クラッチ部材8のボス部にはゴム製のリング9,9が装着されており、この両リング9,9によりコイルばね10の前端部10b及び後端部10a以外の部分が駆動ギヤ4或いは中間クラッチ部材8に接触することが防止され、又コイルばね10の径方向への位置ズレが防止されるようになっている。
【0016】
中間クラッチ部材8の前面にはクラッチ歯8c〜8cが同一円周に沿って形成され、このクラッチ歯8c〜8cの前方にはスピンドル11のフランジ部11aに形成したクラッチ歯11c〜11cが対向して配置されている。このため、上記コイルばね10の伸長により中間クラッチ部材8が軸方向前方に変位すると、クラッチ歯8c〜8cがスピンドル11側のクラッチ歯11c〜11cに噛み合い、これにより中間クラッチ部材8とスピンドル11が回転について一体化される(クラッチ接続状態)。
一方、ねじ締めが完了して、クラッチ歯8cとクラッチ歯11cの噛み合い状態が解除されると、駆動ギヤ4に対して中間クラッチ部材8を相対回転させるための外力(コイルばね10を捩じるための外力)が除去されるため、コイルばね10の捩りは解消されて該コイルばね10は縮小する。このコイルばね10の縮小及び後述する圧縮ばね14の付勢力により中間クラッチ部材8が軸方向後方に後退して、クラッチ歯8c〜8cとクラッチ歯11c〜11cとの間に適切なクリアランスが発生する(クラッチ切り状態)。
以上のことから、上記クラッチ歯8c〜8cとクラッチ歯11c〜11c、両者を接近又は離間させるための中間クラッチ部材8及びコイルばね10等が本例におけるサイレントクラッチCLを構成している。
【0017】
次に、スピンドル11は、前後の軸受け筒体12,13を介して上記駆動軸5と同一軸回りに回転可能且つ軸方向に移動可能に支持されている。フランジ部11aはスピンドル11の後端部に形成されており、このフランジ部11aの後面に上記クラッチ歯11c〜11cが形成されている。
又、スピンドル11の後面中心には支持孔11bが一定の深さで形成されており、この支持孔11bに上記駆動軸5の前端部が相対的に回転可能且つ軸方向移動可能に挿入されている。
駆動軸5と上記支持孔11bの底面との間には圧縮ばね14が介装されており、この圧縮ばね14によりスピンドル11は軸方向前方に付勢されている。一方、ハウジング2にはゴム製のストッパリング21が取り付けられており、このストッパリング21にフランジ部11aが押し付けられることによりスピンドル11の軸方向前方への移動端が規制されている。又、上記圧縮ばね14によりフランジ部11aがこのストッパリング21に押し付けられることにより、スピンドル11の空転が阻止される。
又、駆動軸にはフランジ部5aが形成されている。このフランジ部5aは、上記圧縮ばね14により中間クラッチ部材8の前面に押圧されており、これにより該駆動軸5の軸方向の移動が規制されている。
更に、駆動軸5の前部には平坦面5bが形成されており、この平坦面5bにより支持孔11bのエア抜きがなされ、これによりスピンドル11の軸方向のスムーズな移動がなされるようになっている。
ここで、スピンドル11を僅かに後退させて、フランジ部11aをストッパリング21から離間させると、上記圧縮ばね14の作用により駆動軸5とスピンドル11は一体で回転する。すなわち、フランジ部11aをストッパリング21から離間させて、スピンドル11を回転可能な状態とし、この状態で電動モータ3を起動して駆動ギヤ4を回転させると、フランジ部5aが中間クラッチ部材8に押圧されていることにより駆動軸5も回転し、これが圧縮ばね14の作用によりスピンドル5に伝達される。このため、クラッチ歯8c〜8cとクラッチ歯11c〜11cが噛み合っていない状態であっても、電動モータ3を起動するとスピンドル11が空転する。但し、スピンドル11の後退操作をやめてフランジ部11aがストッパリング21に押し付けられた状態とすると、これによる回転抵抗の方が大きくなるためスピンドル11は空転しない。
【0018】
スピンドル11の前面中心には、ねじ締め用のドライバビット20を差し込むためのビット装着孔11dが一定の深さで形成されている。このビット装着孔11dには、板ばね15により径方向内方へ弾性付勢した複数の鋼球16〜16が周方向等間隔に配置されている。ドライバビット20の後端側をこのビット装着孔11dに挿入して上記鋼球16〜16を板ばね15の弾性力に抗して径方向外方へ変位させつつ押し込むことにより、当該ドライバビット20をビット装着孔11dに装着することができる。ドライバビット20を一定の位置まで押し込むと、各鋼球16〜16がドライバビット20の係合溝20aにはまり込み、これにより当該ドライバビット20の装着状態が保持される。
【0019】
ハウジング2の前端には、ねじ部17aを介してアジャストスリーブ17が装着され、このアジャストスリーブ17の前端にはストッパスリーブ18が着脱可能に装着されている。このストッパスリーブ18の前端から上記ドライバビット20の前端が突き出されている。アジャストスリーブ17を回転させて軸方向へ移動させることにより、ドライバビット20に対するストッパスリーブ18の前端(ストッパ面18a)の位置を任意に調整することができ、これによりねじの締め込み深さを調整することができる。この点については従来構成と同様である。
【0020】
以上のように構成した本例のサイレントクラッチCLによれば、ねじ締め機1が以下のように作動する。図1に示すように当該ねじ締め機1をねじ締め込み方向に押し付け操作しない非使用状態では、圧縮ばね14によりスピンドル11が前方に押し出されている。又、中間クラッチ部材8の各係合歯8aは、駆動ギヤ4の各係合歯4aに係合して該中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4は相対的に回転方向に変位していない状態であり、この状態で両者4,8は一体で回転している。中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4が回転方向について相対的に変位していないのでコイルばね10は捩じられておらず、従って最も短い状態となっている。コイルばね10が最も短い状態では、中間クラッチ部材8が最も後退している。
このように、ねじ締め機1の非使用状態では、スピンドル11が前進し、且つ中間クラッチ部材8が後退しているので、クラッチ歯11a〜11aとクラッチ歯8a〜8aとの間には適度な隙間が発生して両クラッチ歯11a〜11a、8a〜8aは噛み合っておらず、従って当該サイレントクラッチCLが静かに空転する状態(クラッチ切り状態)となっている。
【0021】
次に、上記非使用状態から、図3に示すようにドライバビット20の先端にねじSをセットし、該セット状態で当該ねじ締め機1をねじ締め込み方向(図示左方)に押し付け操作してねじSを材料Wに押し付けると、相対的にドライバビット20及びスピンドル11が圧縮ばね14に抗して図示右方に後退する。スピンドル11が後退すると、そのフランジ部11aがストッパリング21から離れるので、該スピンドル11は空転し始め、この空転状態のままさらに後退操作すると、クラッチ歯11a〜11aが中間クラッチ部材8のクラッチ歯8a〜8aに噛み合い始める。両クラッチ歯11a〜11a、8a〜8aが噛み合い始めると、ねじ締め力が中間クラッチ部材8に対して回転抵抗となって付加されるため、該中間クラッチ部材8の回転速度が瞬間的に低下し、これにより該中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4が回転方向について相対的に変位する。図4及び図5に示すように中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4が回転方向について相対的にほぼ120゜変位すると、各係合歯8aと各係合歯4aが係合して、再び中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4が回転について一体化される。
【0022】
中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4が回転方向について相対的に変位する間、コイルばね10は捩じられて伸張し、これにより中間クラッチ部材8が図示左方へ前進してクラッチ歯8a〜8aとクラッチ歯11a〜11aの噛み合いが一気に深くなり、従って当該サイレントクラッチCLの接続が短時間のうちに完了する。
ねじ締めが進行する間、中間クラッチ部材8には締め付けトルクが付加されているので、該中間クラッチ部材8と駆動ギヤ4は回転について相対的に変位した状態(図4及び図5に示す状態)に保持され、従ってコイルばね10は捩じられた状態に保持されて、中間クラッチ部材8は前進した状態すなわちクラッチ歯8a〜8aとクラッチ歯11a〜11aが深く噛み合った状態に保持され、これにより中間クラッチ部材8からスピンドル11への締め付けトルクの伝達が確実になされる。
【0023】
ねじ締めが最終段階に至ると、図6に示すようにストッパスリーブ18のストッパ面18aが材料Wに当接するため、以後スピンドル11及びドライバビット20のみがねじ締め込み方向に移動してねじ締めが進行する。このため、この段階では、中間クラッチ部材8のクラッチ歯8c〜8cに対するスピンドル11のクラッチ歯11c〜11cの噛み合いが徐々に浅くなって行く。
ねじが所定の深さまで締め込まれてねじ締めが完了すると、クラッチ歯8c〜8cに対するクラッチ歯11c〜11cの噛み合いが外れる。すると、中間クラッチ部材8に対してスピンドル11からの締め付けトルクが付加されなくなるため、コイルばね10を捩じるための外力が作用しなくなり、その結果コイルばね10の捩りは戻されて該コイルばね10は元の長さまで収縮し、従って中間クラッチ部材8が図示右側に後退する。
こうして中間クラッチ部材8が後退することにより、図7に示すようにクラッチ歯8c〜8cとクラッチ歯11c〜11cとの間に適正な隙間が瞬時に発生し、これにより当該サイレントクラッチCLが静かに空転する。
【0024】
次に、ねじの締め直しの場合について説明する。例えば、作業者の不注意等により途中で締め込みを中断してしまったために、ねじが完全に閉め込まれる以前にクラッチ歯8c〜8cに対するクラッチ歯11c〜11cの噛み合いが外れてしまい、その結果当該サイレントクラッチCLが切れてしまった場合には、一旦当該ねじ締め機1のメインスイッチを切って電動モータ3を停止させることにより、上記締め残し分を締め直すことができる。
すなわち、電動モータ3を停止させた状態で上記締め残したねじにドライバビット20の先端をセットして、当該ねじ締め機1をねじ締め込み方向に押し付け、この状態でメインスイッチをオンして電動モータ3を起動させる。すると、駆動ギヤ4は電動モータ3のピニオンギヤ3aに噛み合っているので、電動モータ3の起動と同時に回転し始める。一方、中間クラッチ部材8は、係合歯4a〜4aと係合歯8a〜8aの係合状態を介して駆動ギヤ4と一体で回転する構成であり、且つこの中間クラッチ部材8は駆動ギヤ4に対してほぼ120゜の範囲内で相対回転可能となっている。このため、電動モータ3の起動と同時に駆動ギヤ4は回転し始めるが、中間クラッチ部材8は、僅かに遅れて回転し始め、その結果、該中間クラッチ部材8は駆動ギヤ4に対して回転方向に変位する。
【0025】
このように、駆動ギヤ4が回転し始めた後、中間クラッチ部材8が回転し始めるまでの間に、両者4,8が相対的に回転するのでコイルばね10が捩じられて伸張し、これにより中間クラッチ部材8が前方へ変位する。中間クラッチ部材8が前方へ変位することにより、クラッチ歯8c〜8cとクラッチ歯11c〜11cが再度噛み合い、これにより締め残したねじの締め直しが開始される。このように、本例のサイレントクラッチCLによれば、ストッパスリーブ18の位置を再調整することなく、ねじの締め直しをすることができる。
【0026】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、係合歯4a〜4a,8a〜8aを3等分位置に設けて駆動ギヤ4と中間クラッチ部材8の変位を最大で約120゜とする構成を例示したが、この変位可能な範囲については、コイルばね10の必要な捩り角度ひいてはその伸長量に基づいて設定すればよい。従って、係合歯を周方向2等分位置に設けてコイルばね10の捩り角度を最大で180゜として、その伸長量を大きくすることができる。或いは、係合歯を周方向4等分以上の位置に設けて、コイルばねの伸長量を小さく設定することもできる。
【0027】
又、例示した実施形態では、ねじ締め機の一例としてねじ締め機を例示したが、工具本体のスピンドルを材料側に押し付けて回転させる形態のねじ締め機におけるクラッチとして広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示す図であり、ねじ締め機の前部の縦断面図である。本図は、スピンドルが僅かに後退しているが、未だ係合歯4a〜4aと係合歯8a〜8aが噛み合っていないクラッチ切り状態を示している。
【図2】図1の(2)-(2)線矢視図であり、係合歯4a〜4aに対する係合歯8a〜8aの位置関係を示す図である。
【図3】ねじ締め機の前部の縦断面図である。本図は、スピンドルが後退してクラッチ歯が噛み合っているが、未だ中間クラッチ部材が前進していない状態を示している。
【図4】ねじ締め機の前部の縦断面図である。本図は、コイルばねが捩じられて中間クラッチ部材が前進した状態を示している。
【図5】図4の(5)-(5)線矢視図であり、中間クラッチ部材が駆動ギヤに対して変位した結果、係合歯4a〜4aに対する係合歯8a〜8aの位置関係が変化した状態を示している。
【図6】ねじ締め機の前部の内部構造を示す側面図である。本図は、クラッチ歯の噛み合いが外れる直前の状態を示している。この段階では、未だコイルばねが捩じられて中間クラッチ部材が前進している。
【図7】ねじ締め機の前部の内部構造を示す側面図である。本図は、スピンドルが前進し、且つ中間クラッチ部材が後退したクラッチ切り状態を示している。
【図8】従来のサイレントクラッチを示す図であり、特公平3−5952号公報の図2aを援用した図である。
【符号の説明】
CL…サイレントクラッチ
1…ねじ締め機
3…電動モータ、3a…ピニオンギヤ
4…駆動ギヤ、4a…係合歯
5…駆動軸
8…中間クラッチ部材、8a…係合歯、8c…クラッチ歯
10…コイルばね
11…スピンドル、11c…クラッチ歯
14…圧縮ばね
17…アジャストスリーブ
18…ストッパスリーブ
20…ドライバビット
Claims (1)
- スピンドルの先端にセットしたねじを介してねじ締め機本体を材料に向けて押し付け操作すると前記スピンドルが後退してサイレントクラッチが繋がる一方、ねじ締め途中でストッパスリーブが前記材料に当接して前記スピンドルが前進すると前記サイレントクラッチが切れるねじ締め機の前記サイレントクラッチであって、
前記スピンドルに同軸に配置した駆動軸と、該駆動軸に回転可能に支持され、電動モータにより回転する駆動ギヤと、該駆動ギヤに対して一定の範囲で相対回転可能且つ軸方向移動可能に前記駆動軸に支持した中間クラッチ部材と、該中間クラッチ部材と前記スピンドルに設けられ、相互に噛み合って前記中間クラッチ部材の回転を前記スピンドルに伝達するクラッチ歯と、一端が前記中間クラッチ部材に係合され、他端が前記駆動ギヤに係合されて、前記中間クラッチ部材が前記駆動ギヤに対して相対回転するとコイル径を小さくする方向に捩じられて伸長するコイルばねを備え、
前記中間クラッチ部材の前記駆動ギヤに対する相対回転に伴う前記コイルばねの伸縮により、前記中間クラッチ部材を軸方向に移動させて前記クラッチ歯を噛み合わせ、又は離間させる構成としたねじ締め機のサイレントクラッチ。
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