JP3638659B2 - ソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、新規なソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法に関し、特にスイッチング電源用パワーフェライトやノイズフィルター用フェライトコアなどの磁心材料や磁気ヘッド用MnZnフェライトに用いるソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来に技術】
従来、フェライト用複合酸化物粉末の代表的な製造方法としては、乾式法や金属塩化物溶液の焙焼法などがある。乾式法は、フェライトを構成する元素の酸化物もしくは炭酸塩の粉末を別々に秤量しボールミルや攪拌媒体型ミルで混合後、これを800℃〜1000℃で仮焼成してフェライト用複合酸化物粉末(仮焼粉)を製造する方法で、最も一般的な方法である。又、金属塩化物溶液の焙焼法は、特公昭63−17776号や特公平4−931号及び特公平4−12504号公報に示されている。すなわち、特公昭63−17776号公報に開示されているように、塩化マンガンを塩化第1鉄溶液にフェライトの組成になるように加え、噴霧焙焼後生成粉末に酸化亜鉛を添加し複合酸化物を製造するか、特公平4−931号や特公平4−12504号公報に提示されているように、塩化亜鉛と塩化マンガンを塩化第1鉄溶液にフェライト組成になるように加え、並流方式の噴霧焙焼法もしくは流動焙焼法によってフェライト用複合酸化物を製造する方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述した最も一般的な製造方法である乾式法により得られるフェライト仮焼粉末は粒度分布が広く、仮焼反応が固相反応であるため、微視的に見た場合に不均一性が認められる。従って、乾式法で得られたフェライト仮焼粉末を用いてフェライトを製造した場合、フェライト粒子内のZnOやMnO含有量のバラツキが大きく、又フェライトのグレンサイズのバラツキも大きく、一般にフェライトの特性は悪い。又、塩化物溶液の焙焼法についても、塩化第1鉄溶液の一般的な処理方法である噴霧焙焼法では、塩化亜鉛の蒸気圧が他の金属塩化物と比べ大きいため、塩化亜鉛が反応して生成する酸化亜鉛は、塩化鉄の反応生成物であるヘマタイトへ固溶せずに、排ガスと共に焙焼炉から排出されるため、酸化亜鉛を所定量含むフェライト用複合酸化物を製造することができない。
【0004】
一方、並流式焙焼法や流動焙焼法により金属塩化物溶液を焙焼する場合においても、塩化亜鉛の蒸気圧が塩化第1鉄や塩化マンガンなどの金属塩化物よりも高いため、塩化亜鉛が反応して生成する酸化亜鉛は均一にスピンネル構造に固溶することができない。又、乾式法や塩化物溶液の焙焼法によって得られた複合酸化物中のMg,Ca及びNaは酸化物としてフェライト結晶粒子内もしくは結晶粒界に固溶しているため除去することができない。そこで本発明は、均一なスピンネル構造を有し、かつMg,Ca及びNaの含有量の少ないソフトフェライト用複合酸化物を製造する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するもので、その発明の要旨とするところは、
(1)硫酸第1鉄水溶液に、Zn,Mn,Ni,Cu及びCoの1種又は2種以上の硫酸塩の水溶液及び/又は結晶をフェライトの組成になるように配合した後に水分を蒸発させて金属硫酸塩の混合結晶をつくる工程と、この金属硫酸塩の混合結晶を850℃〜1000℃の温度範囲で熱処理する工程と、熱処理で得られた粉末を水洗して硫酸根、Na,Mg,Ca及びKなどの不純物を除去した後乾燥する工程からなることを特徴とするソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法。
【0006】
(2)硫酸第1鉄水溶液に、Zn,Mn,Ni,Cu及びCoの1種又は2種以上の硫酸塩の水溶液及び/又は結晶をフェライトの組成になるように配合した溶液を、アルカリ剤もしくは鉄粉により中和しpH3〜5に調整することでAl,Cr,P及びSiなどの不純物を不溶化せしめ、さらに不溶解物を濾過分離することで不純物を除去することを特徴とする請求項1記載のソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法にある。
【0007】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
図1は本発明に係る金属硫酸塩からの複合酸化物を製造するフローを示す図である。図1に示すように、例えばMnZnフェライトを製造するフローとしては、硫酸第1鉄溶液と各種の金属硫酸塩の混合溶液をつくり、この溶液を100℃〜150℃の温度範囲で乾燥して金属硫酸塩溶液もしくは金属硫酸塩結晶を、フェライト組成になるように混合して金属硫酸塩の混合溶液をつくり、この溶液を100℃〜150℃の温度範囲で乾燥して金属硫酸塩の混合結晶を得る。乾燥温度は硫酸鉄1水塩が生成する120℃〜150℃が好ましい。乾燥効果を上げるために金属硫酸塩混合溶液を予め熱濃縮もしくは減圧濃縮しても良い。金属硫酸塩混合溶液を攪拌しながら水分を蒸発させることにより、均一な混合硫酸塩を得ることができる。又、金属硫酸塩混合溶液中のCr,Al,P及びSiなどの不純物が高い場合は、アルカリ剤又は鉄粉によってpHを3〜5まで上げ、上記の不純物を不溶化せしめ、この溶液を濾過分離して不純物を除去する。
【0008】
本発明において、主原料の硫酸第1鉄溶液は、鋼板の硫酸酸洗から発生する硫酸廃液や、硫酸法による酸化チタン製造の際に発生する硫酸廃液などを精製した溶液を用いるか、もしくは硫酸鉄7水塩を水に溶解した溶液を用いる。硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸銅及び硫酸コバルトは結晶を用いるか、又は金属亜鉛、金属マンガン又はフェロマンガン、金属ニッケル又はフェロニッケル、金属銅、金属コバルトなどの硫酸に溶解した溶液を用いる。
【0009】
金属硫酸塩混合結晶を熱処理する場合、熱処理温度は各金属硫酸塩の分解温度以上の850℃〜1000℃の温度範囲とする。すなわち、金属硫酸塩の熱分解温度を表1に示す。この表1に示すように、例えばMnZnフェライト用複合酸化物の場合、硫酸第1鉄の分解温度が680℃であり、硫酸亜鉛の分解温度は740℃、硫酸マンガンの分解温度は850℃であるから、熱処理温度は850℃以上としなければならない。NiZnフェライト用複合酸化物の場合は、硫酸ニッケルの分解温度が840℃であるため熱処理温度は840℃以上でなければならない。熱処理温度が高い場合には生成した複合酸化物の粒子成長が進み粒子が粗くなるため、熱処理温度は950℃以下が好ましい。
硫酸マグネシウムの分解温度は1185℃と高いため、本発明にはMg系フェライト用複合酸化物の製造には適用されない。
【0010】
【表1】
【0011】
熱処理によって得られた複合酸化物の硫酸根やNa,Mg及びCaが高い場合は、水洗することによって除去する。この場合使用する洗浄水は浄水もしくはイオン交換水、蒸留水であり、好ましくはNa,Mg,Ca及びSiなどのイオンの含有率の低いイオン交換水もしくは蒸留水が好ましい。また、水洗効率を上げるため温水を用いても良い。フィルタープレスや遠心分離機等で脱水後、105℃以上の温度で乾燥する。熱処理によって得られた複合酸化物もしくは、更に水洗・乾燥して得られた複合酸化物は、必要に応じてボールミルや振動ミルで粉砕し粒度調整を行っても良い。
本発明においての製造される複合酸化物粉末は、Znフェライト、Mnフェライト、Niフェライト、MnZnフェライト、NiZnフェライト、NiCuZnフェライト、NiCoZnフェライト、NiCuZnフェライトである。
【0012】
【作用】
金属硫酸塩を熱処理すると金属酸化物及び3硫化硫黄及び/又は2硫化硫黄が生成する。硫酸鉄は680℃から分解し始め酸化鉄(ヘマタイト)が生成し、さらに温度が上がると硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、硫酸マンガンなどが分解して酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケルが生成する。これらの酸化物は生成後直ちにヘマタイトに固溶化しスピネル構造を形成するため、酸化物単体として存在しない。硫酸マグネシウムや硫酸カルシウム、硫酸ナトリウムは1000℃以下で分解せず複合酸化物中に硫酸塩として存在するため、複合酸化物を水洗することでMg,Ca及びNaを除去することができる。
フェライト組成に配合した金属硫酸塩混合溶液から各金属硫酸塩が均一に混合するように混合硫酸塩結晶をつくることで、熱分解により生成する酸化亜鉛、酸化マンガンもしくは酸化ニッケルなどの金属酸化物をヘマタイトへ均一に固溶させることができるため均一なスピネル構造を有するフェライト用複合酸化物を製造することができる。
【0013】
【実施例】
以下、実施例を示しさらに具体的に本発明について説明する。
実施例1
硫酸鉄溶液1.5lに鉄粉(竹内工業:鉄粉80M)を45g加え、80℃に保ちながら30分間攪拌機で攪拌後、濾過No5Cで鉄粉及び不溶解残渣を濾過して精製液を作った。この精製液のpHは3.2であった。この精製した硫酸第1鉄溶液1lに硫酸亜鉛7水塩を49g、硫酸マンガン1水塩を80g加え、攪拌しながら加熱濃縮後130℃で乾燥して混合金属硫酸塩結晶をつくり、この混合結晶に空気を通気しながら900℃1時間熱処理した。熱処理で得られた複合酸化物を水洗し硫酸根、Mg,Ca及びNaを除去後、105℃で乾燥した。
硫酸鉄原液と鉄粉による精製溶液の不純物を表2に、複合酸化物の水洗効果を表3に、又、得られた複合酸化物の化学分析値及びBET法で測定した比表面積を表4に示す。なお、表4に示す化学分析値については、以下の化学分析方法で行った。
【0014】
Fe2 O3 :塩化錫(II) 還元クロム酸カリウム滴定法(JIS M8212)
MnO:過よう素ナトリウム酸化吸光光度法(JIS G1213)
ZnO:EDTA滴定法(JIS M8228)
NiO:EDTA滴定法(JIS M8223)
SiO2 :吸光光度法(JIS K1462)
SO4 2+:硫酸バリウム重量法(JIS M8217)
P:モリブデン青吸光光度法(JIS M8216)
Mg:原子吸光度法(JIS M8222)
Ca:原子吸光度法(JIS M8221)
Na:原子吸光度法(JIS M8207)
Al:原子吸光度法(JIS M8220)
Cr:原子吸光度法(JIS M8216)
【0015】
【表2】
【0016】
【表3】
【0017】
【表4】
【0018】
実施例2
鉄濃度80g/lの精製した硫酸第1鉄溶液1lに,硫酸亜鉛7水塩を49g、硫酸ニッケル7水塩を128g加え、攪拌しながら加熱濃縮後130℃で乾燥して混合金属硫酸塩結晶をつくり、この混合結晶に空気を通気しながら900℃1時間熱処理した。熱処理で得られた複合酸化物を水洗し硫酸根、Mg,Ca及びNaを除去後、105℃で乾燥した。得られた複合酸化物の化学分析値及びBET法で測定した比表面積を表4に示す。
【0019】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によってMnZnフェライト用複合酸化物粉末やNiZnフェライト用複合酸化物粉末を製造することが可能となり、しかも、従来、主原料の硫酸第1鉄溶液中の不純物であるMg,Ca及びNaを除去することは非常に困難である複合酸化物粉末を水洗することで容易に除去することができ、又、硫酸第1鉄溶液や金属硫酸塩の混合溶液をアルカリ剤もしくは鉄粉により中和することで、Cr,Al,Si及びPなどの不純物を除去することができるため、極めて不純物の少ないフェライト用複合酸化物を製造することを可能としたことにより、今迄利用価値の低かった原料を用いてソフトフェライト用複合酸化物粉末を製造することが出来たことは工業上極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る金属硫酸塩からの複合酸化物を製造するフローを示す図である。
Claims (2)
- 硫酸第1鉄水溶液に、Zn,Mn,Ni,Cu及びCoの1種又は2種以上の硫酸塩の水溶液及び/又は結晶をフェライトの組成になるように配合した後に水分を蒸発させて金属硫酸塩の混合結晶をつくる工程と、この金属硫酸塩の混合結晶を850℃〜1000℃の温度範囲で熱処理する工程と、熱処理で得られた粉末を水洗して硫酸根、Na,Mg,Ca及びKなどの不純物を除去した後乾燥する工程からなることを特徴とするソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法。
- 硫酸第1鉄水溶液に、Zn,Mn,Ni,Cu及びCoの1種又は2種以上の硫酸塩の水溶液及び/又は結晶をフェライトの組成になるように配合した溶液を、アルカリ剤もしくは鉄粉により中和しpH3〜5に調整することでAl,Cr,P及びSiなどの不純物を不溶化せしめ、さらに不溶解物を濾過分離することで不純物を除去することを特徴とする請求項1記載のソフトフェライト用複合酸化物粉末の製造方法。
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