JP3638305B2 - 量子井戸結晶および半導体レーザならびにその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は量子井戸結晶および光ファイバー通信等に必要な高性能の半導体レーザならびにその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、半導体レーザの特性向上を実現するために、半導体レーザの活性層を量子井戸構造とした単一量子井戸(SQW)レーザや多重量子井戸(MQW)レーザに関する研究がおこなわれている。この量子井戸活性層を有する半導体レーザは量子サイズ効果により、通常のバルク型活性層にない良好な特性が期待できる。例えば微分ゲインの増大・TM発光の低減等により低しきい値で高効率・大出力動作が可能となり、緩和振動周波数の増大・線幅増大係数の減少により高速応答・低チャーピング化が得られる。
【0003】
しかしながら、さらに微分ゲインを増大するために歪量子井戸の適用が検討されている。とくに、大きな歪を導入できる結晶として、InAsP混晶を井戸層とした半導体レーザの開発が行われている。[粕川昭彦他、1992年秋期応用物理学学術講演会18p−V−2]
図8(a)に従来の半導体レーザを示す。31はInp基板、32はn−InPクラッド層、33はSCH−DQW(spectral confinment heterostructure-double quntum well)2重量子井戸層、34はp−InPクラッド層、35はp−GaInAsコンタクト層、36はGaInAsP導波路層(波長1.1μm)、37はInAsP井戸層、38はGaInAsPバリア層(波長1.1μm)である。
【0004】
図8(a)のInAsP歪量子井戸層のエネルギーバンド構造は図8(b)のように、エネルギーの低いInAsP井戸層37と、エネルギーの高いGaInAsPバリア層38からなっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような構成の従来の歪量子井戸半導体レーザの特性を図9に示す。これよりば、共振器長が300μmあたりで短波長シフトを起こして、発振波長が1.28μmから1.23μmへと低下していることがわかる。通常に用いられる半導体レーザの共振器長は300μm程度であり、このような発振波長の低下は半導体レーザの実用化の上では非常に障害となる。この原因は、別の励起準位の発光による発振波長の急激な短波長シフトを生じていると考えられる。つまり、歪量子井戸レーザの発振波長の急激な短波長シフトは、発光の準位が第1励起準位から第2励起準位へ遷移したと考えられるが、問題の本質はInAsP混晶は、2種類の波長で発光するために短波長での発光がレーザの第2励起準位の発光を誘起することにある。
【0006】
そこで本発明はInAsP系を井戸層に用いた発振波長の急激なシフトが少ない歪量子井戸結晶およびそれを用いた半導体レーザならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明は、化合物半導体基板と、前記化合物半導体基板上に形成した、井戸層とバリア層が交互に積層された量子井戸層とを備え、前記バリア層は前記井戸層より大きなエネルギーギャップであり、前記井戸層として、その組成xおよびyを、0.01≦x≦0.1、かつ0<y≦0.8としたGa x In 1-x As y P 1-y 混晶が用いられており、前記バリア層として、GaInAsP(λg=1.1μm)混晶が用いられており、オーダリングによる発光波長の半値幅の増大を抑制したことを特徴とする半導体レーザとする。
【0010】
さらに化合物半導体基板と、前記基板上に形成した第1の導波路層と、前記第1の導波路層上に形成した、井戸層とバリア層が交互に積層された量子井戸層と、前記量子井戸層上に形成した第2の導波路層とを備え、前記第1の導波路層は前記基板よりエネルギーギャップが同じか小さく、前記井戸層は前記第1の導波路層よりエネルギーギャップが小さく、前記バリア層は前記第1の導波路層と前記井戸層の中間のエネルギーギャップで、前記第2の導波路層は前記バリア層よりエネルギーギャップが同じか大きく、前記井戸層として、その組成xおよびyを、0.01≦x≦0.1、かつ0<y≦0.8としたGa x In 1-x As y P 1-y 混晶が用いられており、前記バリア層として、GaInAsP(λg=1.1μm)混晶が用いられており、オーダリングによる発光波長の半値幅の増大を抑制した半導体レーザとする。
【0012】
【作用】
半導体レーザの発振波長シフトを防止するためには、第2量子準位付近に発光の無い結晶を井戸層に用いる必要がある。
【0013】
井戸層にInAsyP(1−y)結晶を用いた場合には組成y≧0.2で歪量子井戸層のフォトルミネッセンスピークが2波長に分離してしまうという問題点があることを図1で示した。この場合の歪量子井戸構造としては、井戸層厚6nm、バリア層厚15nm、井戸層数5ペアとし、励起光の強度は0.2W/mm2とした。励起光強度を低下させてもフォトルミネッセンス発光の強度プロファイルには変化は認められなかった。
【0014】
フォトルミネッセンス発光プロファイルを単一ピーク化するために、歪量子井戸の井戸層結晶を構成するInAsP結晶にGaを添加した。Gaの添加量0.01≦x≦0.1,0<y<1の混晶GaxIn(1−x)AsyP(1−y)においてはフォトルミネッセンス発光波長は単一ピークをしめし、組成yとフォトルミネッセンス発光波長は連続した関係を示した。
【0015】
本発明では、歪量子井戸結晶の井戸層として組成0.01≦x≦0.1,0<y<1のGaxIn(1−x)AsyP(1−y)混晶を用いることで、均一な組成の井戸層を有した歪量子井戸結晶を実現している。
【0016】
また、この歪量子井戸結晶を活性層とした歪量子井戸レーザを作製することで第1励起準位で低閾値発振する歪量子井戸レーザを実現している。
【0017】
【実施例】
本発明の実施例を説明する前に、従来の半導体レーザの井戸層に用いられていたInAsyP1-yについての実験結果を説明する。
【0018】
まず図1の横軸にInAsyP1-yのy、縦軸にこの結晶のフォトルミネッセンスピーク波長をとった特性図を示す。この実験結果によれば、Asの組成yが0.2から0.8の範囲でフォトルミネッセンスピークが2重になった2重ピーク領域になっていることがわかった。またyが0.2以下の領域ではピークは単一になっている。yが0.8より大きな領域では実験をしていないので明確なことは言えないが、ピーク波長は長波長側に移った単一ピークであると考えられる。
【0019】
この実験結果から、発振波長の低波長シフトは、発光の準位が第1励起準位から第2励起準位へ遷移し、2重ピーク領域が発生することに起因していると考えらる。そこで本発明でとったアプローチは、このInAsyP1-y結晶の2重ピークを抑えるためにGaを添加することである。Gaを添加した実験結果を図2に示す。
【0020】
横軸はInAsPに添加したGaの組成x、つまり、GaxIn1-xAs0.5P0.5のxである。ここでAsとPの組成を0.5に規定しているのは、この結晶の発振波長を1.3μmにするためであり、あとに述べるように、このAs、Pの組成(それぞれy、1−y)を変化させても、この実験結果の本質である、2重ピークは発生しなかった。
【0021】
縦軸はGaの組成xに対するフォトルミネッセンスピーク波長である。この実験結果から、Gaの添加量が0.01〜0.1ではピーク波長が単一となるということが明らかとなった。なお、xが0.1より大きい領域では、現段階では実験をしていないので確かなことはいえない。このようにInAsPにGaを0.01〜0.1添加することで発光ピークが単一となることがわかった。
【0022】
この実験ではAsの組成yが0.5である場合について説明したが、xが0.01≦x≦0.1の範囲では、Asの組成y(Pの組成は1−y)が0.8以下であっても、図1で説明した2重ピークが発生しないことがわかった。
【0023】
その具体例として、xが0.1のとき、yを0<y≦0.8まで変化させたときのフォトルミネッセンスピーク波長をとったものを図3に示す。この図からAsの組成yが0<y≦0.8の範囲で発光波長が単一ピークとなっていることがわかった。まとめると、図7に示した領域A(0.01≦x≦0.1,0<y<1)あるいは領域B(0.01≦x≦0.1,0<y≦0.8)の組成であれば、InAsP系の発光波長が単一になることを実験により確認した。
【0024】
以下に示す実施例では、この2重ピークが発生しないように、InAsP系結晶にGaを添加した量子井戸結晶構造およびそれを用いた半導体レーザならびにその製造方法について具体的に説明していく。
【0025】
(実施例1)
以下、本発明の一実施例の歪量子井戸結晶構造について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図4は本発明の実施例における歪量子井戸結晶の構造図を示すものである。図4(a)において、1はSnドープInP基板、12は厚み300nmアンドープInPバッファ層、3は厚み6nmのGa0.1In0.9As0.5P0.5井戸層(λg=1.3μm)層、5は井戸層3とバリア層4からなる井戸数5の歪量子井戸層、16は厚み300nmのInP層である。
【0027】
また図4(b)に歪量子井戸層5のエネルギー状態図を示している。この図4(b)のように、歪量子井戸層5はGa0.1In0.9As0.5P0.5井戸層3と、アンドープGaInAsP層4(λg=1.1μm)からできている。Ga0.1In0.9As0.5P0.5井戸層4を用いた歪量子井戸のフォトルミネッセンス発光プロファイルは図3のように、1.3μmの単一発光であることを確認している。
【0028】
このようにInAsP結晶にGaを0.1加えたGaInAsPは、発光波長が単一となる。ここでGaの組成xは実験により、0.01≦x≦0.1、Asの組成yは0<y≦0.8の範囲で単一ピークとなっていることが明らかとなった。
【0029】
(実施例2)
以下本発明の第2の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0030】
図5は本発明の実施例における歪量子井戸レーザの構造図を示すものである。このレーザは実施例1で説明した構造の活性層を用いている。
【0031】
図5において、1はSnドープInP基板、2は厚み50nmGaInAsP(λg=1.1μm)第1の導波路層、3は厚み6nmのGa0.1In0.9As0.5P0.5井戸層(λg=1.3μm )、4は厚み15nmのGaInAsP(λg=1.1μm)バリア層、5は井戸数5の歪量子井戸層、6は厚み50nmのGaInAsP(λg=1.1μm)第2の導波路層、7はp−n−p電流ブロック層、8はp側電極とオーミックコンタクトをとるためのp−GaInAsPコンタクト層、10はAu/Snよりなるn側電極、9はAu/Znよりなるp側電極である。
【0032】
本実施例では、実施例1で示したGa0.1In0.9As0.5P0.5混晶を井戸層として使用することでオーダリングによる発光波長の半値幅の増大が抑制されるために発光効率の大きい半導体レーザを作製することができる。
【0033】
以上のように構成されたこの実施例の半導体レーザの構造について、以下図5を用いてその動作を説明する。
【0034】
p側電極8から導入された電流は、電流ブロック層7で狭搾された後、歪量子井戸5に注入される。井戸層3の膜厚は井戸層の組成において1.3μmの発光波長が得られるよう6nmに設定した。
【0035】
この実施例では、Ga0.1In0.9As0.5P0.5組成の井戸層を用いて歪量子井戸を構成しており、フォトルミネッセンスの発光プロファイルが図3に示すように単一であることを確認している。
【0036】
さらに、レーザの発光波長においても井戸層の組成より計算されるバルク結晶の発光波長である1.41μmに歪によるエネルギーシフトと量子サイズ効果によるエネルギーシフトの和である70meVから計算される発振波長1.306μmとほぼおなじ1.30μmでの発振を共振器長300μmのレーザにおいて確認した。
【0037】
実際、本実施例に示したレーザを作製して諸特性を評価した結果、300μmの共振器長を持つ歪量子井戸レーザにおいて発振閾値15mAが得られた。これは、第2励起準位の発光が抑制されたためと考えられる。
【0038】
(実施例3)
図6は本発明の第2の実施例にある半導体レーザの製造方法を示すものである。
【0039】
SnドープInP基板1上にMOVPE法を用いて膜厚50nmのn−GaInAsP(λg=1.1μm)導波路層2を成長する。次に、膜厚6nmのGa0.1In0.9As0.5P0.5井戸層3(λg=1.3μm)、厚み15nmのGaInAsP(λg=1.1μm)バリア層4を1ペアとして、井戸層3とバリア層4を5層繰り返し成長し、ペア数5の歪量子井戸層5とする。
【0040】
さらに第2の導波路層としてGaInAsP(λg=1.1μm)層6を連続的に成長して結晶成長工程(図6(a))とする。つぎに、導波路層6からn−GaInAsP導波路層2をメサ状にエッチングするメサエッチング工程(図6(b))。そしてp−InP,n−InP層7をMOVPE成長したのち,窒化珪素膜を除去してp−InP電流ブロック層7とp−GaInAsPコンタクト層8をMOVPE成長する埋め込み成長工程(図6(c))。最後に、n側電極10とp側電極9を蒸着により形成する電極蒸着工程(図6(d))を行いレーザ構造を得る。結晶成長工程におけるガスの全流量は5L/min、成長温度640℃である。以上に示した半導体レーザの製造方法により第2の実施例の半導体レーザが実現される。
【0041】
なお、以上の実施例において、InP系化合物半導体の結晶を用いたがその他の結晶例えばSi系、GaAs系、ZnSeS系、InA1As系、A1GaAs系、GaInA1AsP系等の半導体材料でもよい。レーザ構造をDHレーザとしたが、DFBレーザ、DBRレーザなど付加価値の高いレーザへの適応が可能である。また、活性層の構造をPBHタイプとしたが、その他の構造でもよい。さらに本実施例では歪量子井戸構造をレーザに適応したが、導波路、受光素子等への適応が可能である。また、導波路層としてGaInAsPとしたが、グレーティッドな組成を持つGaInAsPであってもよい。
【0042】
なお、本実施例ではデバイスはレーザとしたが、歪量子井戸構造を用いるデバイスであれば電子デバイス(例えば、HEMT,HFET,HBT等)であってもよい。
【0043】
結晶成長方法はMOVPE法としたが、ガスソースMBE、MOMBE法のみならず、ハイドライドVPE法など他の成長方法を用いてもよい。また、実施例では半導体レーザの製造方法を示したが、同様な方法で光導波路を作製することができる。さらに、結晶基板の伝導性としてn型基板を使用したが、p型でもよい。
【0044】
【発明の効果】
以上のように本発明は、歪量子井戸の井戸層に0.01〜0.1のGaを添加したInAsP結晶を用いることで、フォトルミネッセンス発光プロファイルを単一化すると共に歪量子井戸レーザの第2励起準位発光を抑圧することで発振波長の短波長化を防止し、発振閾値を低減し微分量子効率を上昇した量子井戸半導体レーザを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】InAsP混晶のフォトルミネッセンス発光特性図
【図2】GaInAsP混晶のフォトルミネッセンス発光特性図
【図3】GaInAsP混晶のフォトルミネッセンス発光特性図
【図4】本発明の第1の実施例における量子井戸結晶構造断面図およびエネルギー状態図
【図5】本発明の第2の実施例における歪量子井戸レーザの構造断面図
【図6】本発明の第3の実施例における歪量子井戸レーザの工程断面図
【図7】GaxIn1-xAsyP1-y混晶の組成の範囲を示す図
【図8】従来の歪量子井戸レーザの概略図およびエネルギー状態図
【図9】従来の歪量子井戸レーザの共振器長に対する、しきい値電流密度および発振波長を示す特性図
【符号の説明】
1 SnドープInP基板
2 GaInAsP導波路層
3 GaInAsP歪井戸層
4 GaInAsPバリア層
5 歪量子井戸層
6 第2の導波路層
7 p−n−p電流ブロック層
8 p−GaInAsPコンタクト層
9 Au/Znよりなるp側電極
10 Au/Snよりなるn側電極
Claims (4)
- 化合物半導体基板と、
前記化合物半導体基板上に形成した、井戸層とバリア層とが交互に積層された量子井戸層とを備え、
前記バリア層は前記井戸層より大きなエネルギーギャップであり、
前記井戸層として、その組成xおよびyを、0.01≦x≦0.1、かつ0<y≦0.8としたGaxIn1-xAsyP1-y混晶が用いられており、
前記バリア層として、GaInAsP(λg=1.1μm)混晶が用いられており、
オーダリングによる発光波長の半値幅の増大を抑制したことを特徴とする半導体レーザ。 - 化合物半導体基板と、
前記基板上に形成した第1の導波路層と、
前記第1の導波路層上に形成した、井戸層とバリア層が交互に積層された量子井戸層と、
前記量子井戸層上に形成した第2の導波路層とを備え、
前記第1の導波路層は前記基板よりエネルギーギャップが同じか小さく、
前記井戸層は前記第1の導波路層よりエネルギーギャップが小さく、
前記バリア層は前記第1の導波路層と前記井戸層の中間のエネルギーギャップで、前記第2の導波路層は前記バリア層よりエネルギーギャップが同じか大きく、
前記井戸層として、その組成xおよびyを、0.01≦x≦0.1、かつ0<y≦0.8としたGa x In 1-x As y P 1-y 混晶が用いられており、
前記バリア層として、GaInAsP(λg=1.1μm)混晶が用いられており、
オーダリングによる発光波長の半値幅の増大を抑制したことを特徴とする半導体レーザ。 - xが略0.01、かつ0<y≦0.8であることを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の半導体レーザ。
- 0.01≦x≦0.1、かつyが略0.5であることを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の半導体レーザ。
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