JP3637675B2 - アース付電動工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電気丸鋸や電気ドリル等の直巻整流子電動機を動力源とする電動工具であって、通常接地して使用することが安全面から義務付けられているアース付電動工具に関するもので、高周波電磁妨害波を抑制するようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
アース付電動工具の148kHz〜30MHzの周波数帯域の高周波妨害波は、動力源である直巻整流子電動機の整流作用で生じ、電源コードから電源配線路に伝播している。昭和55年の電子情報通信学会技術研究報告〔環境電磁工学〕(EMCJ80−1)「直巻整流子電動機の雑音抑制について」に記載されているように、電源配線路に伝播していく高周波妨害波は、2本の電源線間を伝播する平衡伝播妨害波及びアース線と電源線間を伝播する不平衡伝播妨害波に分けて考えることができる。このうち、2本の電源線間を伝播する平衡伝播妨害波は、電源線間に0.05〜0.5μFの比較的静電容量の大きいコンデンサ(以下第1コンデンサという)を装備して抑制している。アース線と電源線間を伝播する不平衡伝播妨害波も、2本の電源線とアース間に装備するコンデンサ(以下第2コンデンサという)の静電容量を大きくすることで抑制できる。しかし、アース付電動工具は筐体を手に持って使用する工具なので、アースが不完全な状態で筐体に触れると、2本の電源線とアース間に装備した前記第2コンデンサを介して人体に電流が流れて電撃を感じる。このため第2コンデンサの静電容量は高々5000pF(2個で10000pF)程度以下であり、アース付電動工具の不平衡伝播妨害波を抑制するには不十分である。
【0003】
従来、第2コンデンサの挿入減衰量の不足を補うために、コモンモードチョークコイルと呼ばれるインダクタンス素子を電源線内に装備していた。このため、インダクタンス素子に電源電流が流れインダクタンス素子は発熱していた。コモンモードチョークコイルは、トロイダルコアと呼ばれるリング状のフェライトコアに、電源電流によって生じる磁束を互いに打ち消すように2個の巻線を施している。このため、2個のコイルのインダクタンスにアンバランスがあると磁束が発生して磁気飽和を呈していた。
【0004】
一方、(株)朝倉書店出版の1990年8月1日発行の「磁性体ハンドブック」第9刷1094頁「21.2.1.ソフトフェライトの概要」や(株)オーム出版の柄澤忠義編「OHM文庫 フェライトとその応用」23頁に記載されているように、フェライトは材料によって定まったそれ以上の周波数では透磁率が急激に低下すると共に損失が増加して、インダクタンスとして使用できなくなる限界周波数がある。限界周波数と透磁率の関係は、(限界周波数)×(低周波数領域での透磁率)=(材料によらない定数)が成立し、材料によらない定数は限界周波数の単位をMHzとした時ほぼ1000である。フェライトコアを用いたインダクタンス素子はこの限界周波数付近の周波数領域で損失が最大となる。従来、コモンモードチョークコイルに用いられるフェライトコアは、148kHz〜30MHzの周波数帯域の全域にわたり挿入減衰量を確保するため、限界周波数を1MHz程度に設定した透磁率が1000程度のフェライトコアを用いていた。しかし、高々5000pF程度以下の静電容量をもつ第2コンデンサを装備したアース付電動工具からの高周波妨害波の周波数特性は200kHzから1MHz付近で緩やかに最大となり、それ以上の周波数で急速に低下する特性を示すため、付加するインダクタンス素子の最大損失の周波数領域は1MHz付近より低い周波数領域とした方がよい。このように従来のコモンモードチョークコイルでは、抑制すべき周波数領域と、チョークコイルの最大損失の周波数領域がずれていた。このため、上記したような透磁率を有するフェライトコアをアース付電動工具のインダクタンス素子のコアとして用いる場合は、巻線の巻回数を多くして低周波数領域の損失を増大していたので、形状が大きくなっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、アース付電動工具からの高周波妨害波の伝播形態及び周波数特性に鑑み、上記した従来技術の欠点であるチョークコイルの発熱及び磁気飽和をなくし、小型の高周波妨害抑止素子を用いて高周波妨害波の少ないアース付電動工具を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
付加するインダクタンス素子をアース線に装備し、併せてインダクタンス素子の最大損失を呈する周波数領域を、高周波妨害波の周波数特性でレベルが最大となる周波数領域にフェライトコアの限界周波数を合致させて、少ない巻回数で必要な挿入減衰量を得るようにした。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明アース付電動工具の配線の一例を図1、妨害波端子電圧の測定結果の一例を図2に示す。1は電機子、2は界磁、3は導電性金属筐体、4は2本の電源線間に装備した第1コンデンサ、5は2本の電源線とアース間に装備した第2コンデンサ、6は電源コード、7はインダクタンス素子、8は電源プラグ、9はアース線の先端に装着されたアースクリップである。電機子1及び界磁2は導電性金属筐体3に内蔵されて直巻整流子電動機を形成している。電源コード6は、2本の電源線とアース線から形成されている。第1コンデンサ4及び第2コンデンサ5は、一つのケースに格納したΔ型コンデンサまたはフィルムコンデンサの分極作用を用いた一体形のΔ型コンデンサでもよい。第1コンデンサ4は0.05〜0.5μF、第2コンデンサ5は3000pF程度の静電容量である。また、本発明で問題となる3MHz以下の周波数領域においては、波長に比べて寸法が極めて小さいため、導電性金属筐体3はほぼ完全な電磁遮蔽体、電源コード6は無損失伝送路と見做してよい。
【0008】
電磁妨害波は電機子1のコイルの電流変化である整流作用で発生し、界磁2及び電機子1の他のコイルに結合して伝播し、電源コード6を介して電源配線路へ伝播する。第1コンデンサ4及び第2コンデンサ5のみを装備したアース付電動工具の妨害波端子電圧の測定結果の一例を図2の11に示す。
【0009】
電源配線路に伝播していく高周波妨害波は、上記した如く、2本の電源線間を伝播する平衡伝播妨害波及びアース線と電源線間を伝播する不平衡伝播妨害波に分けて考えることができるが、0.05〜0.5μFの第1コンデンサ4により平衡伝播妨害波は抑制される。かかる状態では、アース線と電源線間を伝播する不平衡伝播妨害波は、2線一括の電源線とアース間を伝播する不平衡伝播妨害波と等価になるので四端子網として考えることができる。この時、3000pFの第2コンデンサ5と共にフィルタ回路を形成するために付加するインダクタンス素子は第1コンデンサ4と電源配電線の間に装備した方がよい。なぜなら、コンデンサ装備個所からみた直巻整流子電動機の2線一括の電源線とアース間のインピーダンスは、電源配線路の同様のインピーダンスに比べてより大きいからである。この時、本発明が適用されるアース付電動工具のように導電性金属筐体3がほぼ完全な電磁遮蔽体である場合は、インダクタンス素子7は電源線に装備してもアース線に装備してもほぼ同じ効果が得られる。そして、本発明のようにアース線に装備すると、電源電流がインダクタンス素子7を流れないため、発熱及び磁気飽和の心配がない。また、電源線が2本なのに対してアース線は1本なので、同一損失を得るのに全巻回数は半分となり、インダクタンス素子7は小形になる。図2の曲線10に、本発明によるアース線にインダクタンス素子7を装備した時の妨害波端子電圧の測定結果の一例を示す。この時の第1コンデンサ4は0.3μF、第2コンデンサ5は3000pF、インダクタンス素子7のフェライトコアは低周波数の透磁率が10000で限界周波数は100kHz程度のもので、内径及び外径が夫々7.1mm及び12.7mm、高さが19.2mmの円筒状で、巻線はアース線をそのままコアに3.5ターン巻回している。リアクタンス成分が最大となる周波数は300KHz付近である。このように低周波数の透磁率が大きいフェライトコアを用いてインダクタンス素子7の0.15〜1MHzの挿入損失を増大させ、抑制すべき周波数領域での挿入損失を確保したことにより、インダクタンス素子7の巻回数を少なくでき小形になる。なおフェライトコアの透磁率を10000としたが、5000を超えればよい。
【0010】
近年、フェライトコアのうち複合フェライトの製造技術の進歩や混合する材料に関する研究成果により、限界周波数を越えても透磁率が急激に低下しないものができており、図2の妨害波端子電圧の測定結果10もかかる複合フェライトのコアである。このフェライトを用いてより高周波数領域まで挿入減衰量を確保する時も、限界周波数より低い周波数領域での透磁率が大きいフェライトコアを用いることは、巻線の巻回数を少なくできてコイルの分布容量を少なくできるので、より効果が大きくなる。また、低周波数の透磁率が大きいフェライトコアを用いて抑制すべき0.15〜1MHzの周波数領域での必要な挿入損失を得るようにしたので、インダクタンス素子7の巻回数を少なくでき、小形になっている。
【0011】
アース線に装備するインダクタンス素子7の装備個所として、筐体3に内蔵することや、電源コード6の途中や、電源プラグ8に内蔵することが考えられる。しかし、筐体3に内蔵すると手に持って使用する工具としての外形デザイン上の制約を増やすことになる。また、電源コード6の途中に装備すると、電源コード6は電動工具と共に移動させられるため、衝撃が加わったりして壊れやすく、折畳や引き延ばし作業もやりづらくなる。更に電源プラグ8に内蔵すると、電源プラグ8の形状が大きくなり、重心位置もプラグの刃の位置から離れるため、使用中にコンセントから電源プラグ8が脱落する危険がある。このため、本発明では、電源プラグ8とアースクリップ9の間のアース線の途中にインダクタンス素子7を装備した。このことにより、上記した不具合は生じない。
【0012】
【発明の効果】
本発明のようにアース付電動工具で、装備した第2コンデンサの静電容量を介して人体に電流が流れて電撃を感じない程度に少なくした時に不足する抑制効果を補うためにインダクタンス素子をアース線に装備すると、電源電流がインダクタンス素子を流れないため、発熱及び磁気飽和の心配がない。また、電源線が2本なのに対してアース線は1本なので、同一損失を得るのに全巻回数は半分となり、インダクタンス素子は小形になる。
【0013】
更に、低周波数の透磁率が大きいフェライトコアを用いて抑制すべき周波数領域での必要な挿入損失を確保することにより、インダクタンス素子の巻回数を少なくでき小形化が可能となる。
【0014】
また電源プラグとアースクリップの間のアース線の途中にインダクタンス素子を装備したことにより、電源コードや電源プラグの使い勝手を損なうこと無く電磁妨害波を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明アース付電動工具の配線例を示す回路図。
【図2】アース付電動工具の妨害波端子電圧の測定結果の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
1は電機子、2は界磁、3は導電性金属筐体、4、5はコンデンサ、6は電源コード、7はインダクタンス素子、8は電源プラグ、9はアースクリップである。

Claims (1)

  1. 筐体が導電性金属で構成される直巻整流子電動機を動力源とし、アース線が2本の電源供給線と共に3芯コードで電源プラグに配線され、電源プラグを2個の刃とアースクリップから構成し、アースクリップに接続されているアース線の途中にアース線が巻回されたフェライトコアを挿入し、前記フェライトコアは初期透磁率が5000を超え、かつリアクタンス成分が最大となる周波数領域が50kHzを超え1MHz以下になるようにフェライトコア及びアース線の巻回数を設定したことを特徴とするアース付電動工具。
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