JP3632448B2 - 圧縮機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高圧冷媒ガスの油分離機構を内蔵した圧縮機、具体的には斜板などのカムプレ−トを備えた圧縮機の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
主として車両空調用に供されるこれらの圧縮機では、機内摺動部の潤滑に供される潤滑油が冷媒ガス中にミスト状に混在されている。したがって、圧縮機から吐出される冷媒ガスと共に混在油成分がそのまま冷凍回路に吐出循環されると、この油成分が蒸発器の内壁等に付着して熱交換効率を低下させる。
【0003】
このため、従来では、圧縮機から凝縮器に至る高圧管路中に油分離器を別設して、分離された潤滑油を還油配管を介して圧縮機内へ戻すように構成したものが実用されているが、機器、配管の増設に伴う総合的な冷凍回路構成の幅輳化に加えて、小径、かつ長尺状に形成された還油配管に目詰りなどの事故も生じ易いので、圧縮機に直接油分離機構を内蔵させた構成のものも提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
さて、既に知られる油分離機構内蔵型の圧縮機では、機内の高圧領域で分離された分離油を回収する油溜室と、該油溜室内の貯溜油を還給する低圧領域(例えばクランク室)とが還油通路により連通され、該還油通路には状況に応じて還油量を制御する弁手段が設けられている。
【0005】
例えば特開平9ー324758号公報に開示の弁手段は、圧縮機の運転中は還油通路を閉鎖し、運転停止に連動して同通路を開放するものであり、また、特開平6ー249146号公報に開示のような可変容量圧縮機に適用される弁手段では、油分離室内の圧力が高い(大容量運転)状態では還油通路の開度を縮小し、同圧力が低い(小容量運転)状態では同通路の開度を拡大するように制御している。
【0006】
すなわち、かかる制御は、いずれも潤滑油の冷凍回路への流出を完全に封ずるものではなく、機内潤滑の主体をあくまでも帰還冷媒ガス中の混在油成分に依存するものである。そのため、再起動時の潤滑油不足に備えて少なくとも運転が停止されたときには、低圧領域への還油量を増大させるといった構成を採用している。
【0007】
しかしながら、量の多寡にかかわらず潤滑油の回路流出を容認するといった思想は、オイルレートに基づく熱交換効率の向上を依然として阻むものであり、一方、大量の残存油は起動時に突沸してオイル圧縮を生起し、果ては起動ショックや異音を誘発する原因ともなりかねない。
本発明は、圧縮機内の潤滑の確保、冷凍回路における熱交換効率の向上に加えて、オイル圧縮などの完全防止を図ることを解決すべき技術課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する請求項1記載の発明に係る圧縮機は、シリンダブロックに形成された複数のボアに、それぞれピストンが往復動可能に嵌挿され、該シリンダブロックにはハウジングが結合されて、吸入室、吐出室及びクランク室が形成され、駆動軸に装着されたカムプレ−トが該クランク室内で上記ピストンと連係することにより、吸入室からボア内へ吸入した冷媒ガスを圧縮して吐出室へ吐出するように構成した圧縮機において、上記吐出室に連なって高圧領域に内装された油分離機構と、封入油のほぼ全量を機内循環させうるに足る容積をもつ油溜室と、該油溜室の貯溜油を上記クランク室へ還給する給油路と、該給油路中に介装された弁手段とを備え、該弁手段は、大径側に圧縮室圧力、小径側には対抗する吸入圧力が導入される段付孔状の弁室と、該段付孔に対応する段差状をなして該弁室に嵌挿され、かつ大小径部の各シールによって仕切られた中間部の嵌合遊隙が油路を形成するスプールとを有し、該弁室の大径側には常に上記油路に連なる上流側の給油路が、同小径側には選択的に該油路に連なる下流側の給油路がそれぞれ接続され、該下流側の給油路には絞りが配設されるとともに、該スプールが各受圧面に作用する変動圧力により上記大径側へ偏在したとき、該下流側の給油路と上記油路との連通が断たれるように構成されていることを特徴としている。
【0009】
すなわち、機内に形成された油溜室は、封入油のほぼ全量を機内循環させうるに足る容積を有して、可及的に分離油の回路への流出が抑制されており、かかるオイルレートの低減によって蒸発器等の熱交換効率は著しく改善される。したがって、運転中における要部の潤滑は、専ら低圧系及び油分離機構を経由する貯溜油の機内循環で賄われ、圧縮機の停止時にはこの循環給油も自動的に停止される。このため、低圧系(クランク室内)の残存油の増加がなく、起動時のオイル圧縮が確実に防止される一方、起動初期における要部の潤滑に関しては、貯溜油の機内循環が直ちに再開されることで、十分に確保される。
【0010】
しかも上記弁手段は、スプールの大径部端には圧縮室圧力、小径部端には対抗する吸入圧力を作用させ、さらに該スプールの段差面には貯溜油を介して吐出圧力を作用させることによって純粋に流体圧力のみで作動する差圧弁に構成されており、ばね等を使用した場合のような性能上のばらつきがなく、構成的にもきわめて簡潔化される。なお、請求項2記載の発明のように、弁室の大径側に導入される圧縮室圧力の導圧路に絞り機能を付与すれば、スプールに作用する圧力を変動の小さい圧縮室のほぼ平均的な圧力とすることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図に基づいて本発明の実施形態を具体的に説明する。
図1は、片側5気筒の両頭斜板式圧縮機を示すもので、前後に対設されたシリンダブロック1、2の両端部は前後の弁板3、4を介してフロント及びリヤのハウジング5、6により閉塞され、これらは図示しないボルト挿通孔に挿通された複数本の通しボルトによって結合されている。シリンダブロック1、2の結合部分には斜板室(クランク室)8が形成され、そこには両シリンダブロック1、2の中心軸孔1a、2aを貫通する駆動軸9に固定された斜板10が収容されている。上記シリンダブロック1、2には、5対のボア11が、駆動軸9と平行に、かつ駆動軸9を中心とする放射位置に形成され、該ボア11には両頭形のピストン12が嵌挿されて、各ピストン12は半球状のシュー13を介して斜板10に係留されている。
【0012】
上記両ハウジング5、6にはそれぞれ外方域に吸入室14、15が形成され、内方域に吐出室16、17が形成されている。また、前後の弁板3、4にはそれぞれ吸入室14、15から各ボア11内に低圧の冷媒ガスを吸入するための吸入孔18、19と、各ボア11から吐出室16、17内に圧縮された高圧の冷媒ガスを吐出するための吐出孔20、21とが形成されている。さらに、弁板3、4のシリンダブロック1、2側には吸入弁(図示せず)が設けられ、弁板3、4のハウジング5、6側にはリテーナ22、23とともに吐出弁(図示せず)が設けられている。
【0013】
図1に示すように、両ハウジング5、6に形成された吐出室16、17の外方に向う局部的な延出部は、両シリンダブロック1、2を貫通する吐出通路30a、30bによって接続され、更にリヤハウジング6内を延びる吐出通路30cは、以下に述べる油分離機構を経由して図示しない吐出ポートと連通されている。油分離室41はリヤハウジング6内に有底円孔状に形成され、該吐出通路30cと連通される一方、該油分離室41内には止め輪42により分離筒43が装着されている。そして油分離室41の下方には、あらかじめ機内に封入される潤滑油のほぼ全量を機内循環させうるに足る容積の油溜室44が形成され、油孔45を介して該油分離室41と連通されている。
【0014】
50は、図2及び図3に拡大図として示す差圧弁(弁手段)であって、該差圧弁50は、有底段付孔状の弁室51を有し、その大径側(図示下端側)51aの開口端は、止め輪52により装着された蓋板53によつて閉塞されている。そして該弁室51の大径側51aは絞りとして機能する狭隘な導圧路54によって一つの圧縮室(ボア)11に連通され、同小径側(図示上端側)は感圧路55を介して吸入室15に連通されている。弁室51内には、その段付孔に対応する段差状に形成されたスプール56が嵌挿され、該スプール56の大径部56a、小径部56bの各外周面にはシール(例えばOリング)57a、57bが嵌着されている。そして該シール57a、57bによって仕切られた中間部の嵌合遊隙が油路Cとして形成されている。
【0015】
リヤハウジング6にはシリンダブロック2の中心軸孔2aを経由して斜板室8に連なる座繰孔60が穿設されており、上記油溜室44と該座繰孔60とは、差圧弁50を挟んで給油路61a、61bにより連通されている。具体的には油溜室44から延びて弁室51に至る上流側の給油路61aの接続ポートは、常に弁室51の大径側51aにおいて油路Cと連通すべく開口されており、一方、弁室51から延びて座繰孔60に至る下流側の給油路61bの接続ポートは、弁室51の小径側51bにおいて選択的に油路Cと連通すべく開口されている。すなわち、圧縮機の運転中及び停止直後におけるスプール56の段差面(受圧面)56cには、油路C及び給油路61a、つまり貯溜油を介して背後の吐出圧力が作用するようになされており、この段差面56cに作用する吐出圧力は、給油路61bに配設された絞り62によつて保持されている。したがって、スプール56が各受圧面に対抗的に作用する変動圧力により、大径側51aへ偏在したときのみ、油路Cと給油路61bとの連通が断たれるように構成されている(図3)。
【0016】
本実施形態は上述のように構成されており、圧縮機が起動されて駆動軸9が回転されると、斜板10に係留されたピストン12がボア11内で往復動され、それによって冷媒ガスの吸入、圧縮及び吐出が行われる。圧縮された高圧の冷媒ガスは、吐出室16、17から吐出通路30a〜30cを介して油分離室41に導入される。すなわち、吐出通路30cから油分離室41内へ進入した冷媒ガスは、円孔状の内壁に沿った旋回流を生じながら分離筒43の開口から筒内へと案内され、図示しない吐出ポートを経て外部冷凍回路へと送給される。この間、旋回流に基づく遠心力により冷媒ガス中の混在油成分は有効に分離され、回路へ流出する油成分比率(オイルレート)は実質的に無害な程度にまで低減される。なお、このような油分離の過程を経ることによって冷媒ガスの脈動は物理的に鎮静化されるので、きわめて安定した状態で冷凍回路へと送給される。
【0017】
このように圧縮機の運転が継続されている状態では、導圧路54を介して弁室51の大径側51aに導入される圧縮室圧力Pcは至って高く、感圧路55から弁室51の小径側51bに導入される吸入圧力Psと段差面56cに作用する吐出圧力Pdとの合力に打勝って、スプール56は小径側51bへ偏在されている。したがって、両給油路61a、61bは油路Cを介して導通され、油溜室44内の貯溜油は該給油路61a、61bを経由して座繰孔60に導かれたのち、中心軸孔2aを潜通して斜板室8へと還給される。この場合、段差面56cに作用する吐出圧力Pdは、給油路61bに配設された絞り62によつて保持され、同時に還油流量も適量に制限されている。すなわち、圧縮機の運転中は、油溜室44内から斜板室8及び油分離室41を巡って所要の潤滑油が機内循環されるので、各摺動部の潤滑は良好に確保される。なお、図2におけるスプール56の大径部56a、小径部56b、段差面56cの各受圧面積をAc、As、Adとし、シール57の静止摩擦力をfとしたとき、Pc・Ac>Ps・As+Pd・Ad+fの関係式を満足するように各要素の値が設定されている。
【0018】
そして圧縮機の運転が停止されると、圧縮室圧力Pcはほどなく吸入圧力Psと同程度まで低下するため、段差面56cに作用する吐出圧力Pdが対抗圧力に打勝って、スプール56を弁室51の大径側51aへと偏在させ、遂には下流側給油路61bの接続ポートと油路Cとの連通が遮断される。このように圧縮機の停止時には、潤滑油の機内循環、つまり斜板室8への還油も自動的に停止されるので、斜板室8には過剰な残留油が存在せず、再起動時のオイル圧縮は確実に防止される。一方、起動初期における要部の潤滑に関しては、直ちに再開される貯溜油の機内循環によって十分対応することができる。なお、停止直後は、Pc・Ac<Ps・As+Pd・Ad−fの関係式を満足するように各要素の値が設定されている。その後、機内各部の圧力が平衡した状態となっても、シール57a、57bの静止摩擦力fによって、図3のように差圧弁50の閉止状態は保持される。
【0019】
以上、本発明を両頭斜板式圧縮機に具体化した実施形態について説明したが、本発明は、斜板等のカムプレ−トを用いた固定容量型、可変容量型のいかなる圧縮機にも適用可能である。また、上述の実施形態における油分離室41、油溜室44、差圧弁50などの主要素は、必ずしもリヤハウジング6に内蔵された構成に限るものでなく、圧縮機の設計構造に適合させて、これをシリンダブロックの上部に内装することも可能であり、この場合は、差圧弁に接続される下流側の給油路を直接クランク室と連通させる方が簡便である。
【0020】
【発明の効果】
以上、詳述したように本発明によれば、封入油のほぼ全量を機内循環させうるに足る容積の油溜室を有して、分離油の回路への流出が可及的に抑制されており、かかるオイルレートの極端な低減によって蒸発器等の熱交換効率は著しく改善される。しかも運転中、とりわけ起動初期における要部の潤滑が、貯溜油の機内循環で機敏に保証されるので、起動に備えたクランク室の蓄油の必要も解消され、オイル圧縮などの不具合を未然に防止することができる。しかも弁手段には、純粋に流体圧力のみで作動する差圧弁を採用しているので、ばね等を使用した場合のような性能上のばらつきがなく、構造的にもきわめて簡素化される。
【0021】
また、請求項2記載の発明のように、弁室の大径側に導入される圧縮室圧力の導圧路に絞り機能を付与すれば、スプールに作用する圧力を変動の小さい圧縮室のほぼ平均的な圧力とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る圧縮機の断面図。
【図2】差圧弁の開放状態を示す拡大断面図。
【図3】差圧弁の閉止状態を示す拡大断面図。
【符号の説明】
6はリヤハウジング、8は斜板室(クランク室)、10は斜板、11はボア(圧縮室)、12はピストン、14、15は吸入室、16、17は吐出室、30a〜30cは吐出通路、41は油分離室、44は油溜室、50は差圧弁(弁手段)、51は弁室、54は導圧路、55は感圧路、56はスプール、57a、57bはシール、61a、61bは給油路、62は絞り、Cは油路、

Claims (2)

  1. シリンダブロックに形成された複数のボアに、それぞれピストンが往復動可能に嵌挿され、該シリンダブロックにはハウジングが結合されて、吸入室、吐出室及びクランク室が形成され、駆動軸に装着されたカムプレ−トが該クランク室内で上記ピストンと連係することにより、吸入室からボア内へ吸入した冷媒ガスを圧縮して吐出室へ吐出するように構成した圧縮機において、上記吐出室に連なって高圧領域に内装された油分離機構と、封入油のほぼ全量を機内循環させうるに足る容積をもつ油溜室と、該油溜室の貯溜油を上記クランク室へ還給する給油路と、該給油路中に介装された弁手段とを備え、該弁手段は、大径側に圧縮室圧力、小径側には対抗する吸入圧力が導入される段付孔状の弁室と、該段付孔に対応する段差状をなして該弁室に嵌挿され、かつ大小径部の各シールによって仕切られた中間部の嵌合遊隙が油路を形成するスプールとを有し、該弁室の大径側には常に上記油路に連なる上流側の給油路が、同小径側には選択的に該油路に連なる下流側の給油路がそれぞれ接続され、該下流側の給油路には絞りが配設されるとともに、該スプールが各受圧面に作用する変動圧力により上記大径側へ偏在したとき、該下流側の給油路と上記油路との連通が断たれるように構成されていることを特徴とする圧縮機。
  2. 上記弁室の大径側に作用する圧縮室圧力の導圧路に絞り機能が付与されていることを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
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