JP3631062B2 - 内燃機関の排気浄化装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関し、特にNOx(窒素酸化物)を浄化するNOx浄化装置を備え、そのNOx浄化装置の劣化判定機能を有するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関に供給する混合気の空燃比を理論空燃比よりリーン側に設定する(いわゆるリーン運転を実行する)と、NOxの排出量が増加する傾向があるため、機関の排気系にNOxを吸収するNOx吸収剤を内蔵するNOx浄化装置を設け、排気の浄化を行う技術が従来より知られている。このNOx吸収剤は、空燃比が理論空燃比よりリーン側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的高い(NOxが多い)状態(以下「排気リーン状態」という)においては、NOxを吸収する一方、逆に空燃比が理論空燃比よりリッチ側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的低い状態(以下「排気リッチ状態」という)においては、吸収したNOxを放出する特性を有する。このNOx吸収剤を内蔵するNOx浄化装置は、排気リッチ状態においては、NOx吸収剤から放出されるNOxはHC、COにより還元されて、窒素ガスとして排出され、またHC、COは酸化されて水蒸気及び二酸化炭素として排出されるように構成されている。
【0003】
上記NOx吸収剤が、吸収できるNOx量には当然限界があり、この限界値は、NOx吸収剤が劣化すると小さくなる傾向を示す。そのため、NOx浄化装置の上流側及び下流側に酸素濃度センサを配置し、NOx吸収剤に吸収されたNOxを放出させるための空燃比リッチ化を実行し、前記上流側酸素濃度センサがリッチ空燃比を示す値に変化した時点から、前記下流側酸素濃度センサの出力値がリッチ空燃比を示す値に変化する時点までの遅れ時間により、NOx吸収剤の劣化度合を判定する手法が、従来より知られている(特開平10−299460号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記遅れ時間は機関運転状態(機関回転数、機関負荷)によって変化するため、上記従来の手法では、劣化判定を実行する機関運転状態を狭い範囲に限定しないと誤判定が起き易いという問題があった。この問題を解決する手法として、機関運転状態に応じて劣化判定閾値を変更することが考えられるが、機関運転状態が変化する過渡状態で誤判定が起きやすいという問題がある。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、機関運転状態に拘わらずNOx浄化装置の正確な劣化判定を行うことができる排気浄化装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の排気系に設けられ、排気リーン状態において排気中のNOxを吸収するNOx浄化手段を備えた内燃機関の排気浄化装置において、該NOx浄化手段の上流側及び下流側にそれぞれ設けられ、排気中の酸素濃度を検出する第1及び第2の酸素濃度センサと、前記機関に供給する混合気の空燃比を理論空燃比よりリーン側からリッチ側に切り換える劣化判定リッチ手段と、該劣化判定リッチ化手段による前記空燃比のリッチ化開始後に、前記第1の酸素濃度センサの出力値がリッチ空燃比を示す値に変化した時点から、前記NOx浄化手段に流入する還元成分の量を算出する還元成分量算出手段と、該算出された還元成分量及び前記第2の酸素濃度センサの出力値に基づいて前記NOx浄化手段の劣化を判定する劣化判定手段と、前記NOx浄化手段に吸収されたNOxを還元するために、前記空燃比をリッチ化する還元リッチ手段とを有し、前記劣化判定リッチ化手段は、前記還元リッチ化手段によるリッチ化の度合より小さいリッチ化度合で、かつ前記還元リッチ化手段によるリッチ化実行時間より長い時間に亘って空燃比リッチ化を実行することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、劣化判定リッチ化手段による空燃比のリッチ化開始後、第1の酸素濃度センサの出力値がリッチ空燃比を示す値に変化した時点から、NOx浄化手段に流入する還元成分の量が算出され、該算出された還元成分量及び第2の酸素濃度センサの出力値に基づいてNOx浄化手段の劣化が判定されるので、機関運転状態によって変化する還元成分量に応じた判定を行うことができ、機関運転状態の広い範囲で正確な劣化判定を行うことができる。さらに、劣化判定リッチ化手段は、NOx浄化手段に吸収されたNOxを還元するための還元リッチ化手段によるリッチ化の度合より小さいリッチ化度合で、かつ還元リッチ化手段によるリッチ化実行時間より長い時間に亘って空燃比リッチ化を実行するので、劣化判定の精度を向上させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記還元成分量算出手段は、前記NOx浄化手段に流入する排気量を積算することにより前記還元成分量を算出することを特徴とする。
この構成によれば、還元成分量は、NOx浄化手段に流入する排気量を積算することにより算出されるので、排気量を表すパラメータを用いて簡便に算出することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態にかかる排気浄化装置を含む、内燃機関(以下「エンジン」という)及びその制御装置の全体構成図であり、例えば4気筒のエンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度(θTH)センサ4が連結されており、当該スロットル弁3の開度に応じた電気信号を出力してエンジン制御用電子コントロールユニット(以下「ECU」という)5に供給する。
【0010】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0011】
一方、スロットル弁3の直ぐ下流には吸気管内絶対圧(PBA)センサ8が設けられており、この絶対圧センサ8により電気信号に変換された絶対圧信号は前記ECU5に供給される。また、その下流には吸気温(TA)センサ9が取付けられており、吸気温TAを検出して対応する電気信号を出力してECU5に供給する。
【0012】
エンジン1の本体に装着されたエンジン水温(TW)センサ10はサーミスタ等から成り、エンジン水温(冷却水温)TWを検出して対応する温度信号を出力してECU5に供給する。
エンジン1の図示しないカム軸周囲又はクランク軸周囲には、エンジン回転数(NE)センサ11及び気筒判別(CYL)センサ12が取り付けられている。エンジン回転数センサ11は、エンジン1の各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180゜毎に)TDC信号パルスを出力し、気筒判別センサ12は、特定の気筒の所定クランク角度位置で気筒判別信号パルスを出力するものであり、これらの各信号パルスはECU5に供給される。
【0013】
排気管13には三元触媒14と、NOx浄化手段としてのNOx浄化装置15とが上流側からこの順序で設けられている。
三元触媒は、酸素蓄積能力を有し、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリーン側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的高い排気リーン状態では、排気中の酸素を蓄積し、逆にエンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリッチ側に設定され、排気中の酸素濃度が低く、HC、CO成分が多い排気リッチ状態では、蓄積した酸素により排気中のHC,COを酸化する機能を有する。
【0014】
NOx浄化装置15は、NOxを吸収するNOx吸収剤及び酸化、還元を促進するための触媒を内蔵する。NOx吸収剤としては、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリーン側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的高い(NOxが多い)排気リーン状態においては、NOxを吸蔵する一方、逆にエンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比近傍または理論空燃比よりリッチ側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的低い排気リッチ状態においては、吸蔵したNOxを放出する特性を有する吸蔵式のもの、あるいは排気リーン状態においてはNOxを吸着し、排気リッチ状態において還元する吸着式のものを使用する。NOx浄化装置15は、排気リーン状態においては、NOx吸収剤にNOxを吸収させる一方、排気リッチ状態においては、NOx吸収剤から放出されるNOxがHC、COにより還元されて、窒素ガスとして排出され、またHC、COは酸化されて水蒸気及び二酸化炭素として排出されるように構成されている。吸蔵式のNOx吸収剤としては、例えば酸化バリウム(Ba0)が使用され、吸着式のNOx吸収剤としては、例えばナトリウム(Na)とチタン(Ti)またはストロンチウム(Sr)とチタン(Ti)が使用され、触媒としては吸蔵式及び吸着式のいずれにおいても、例えばロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などの貴金属が使用される。
【0015】
NOx吸収剤のNOx吸収能力の限界、すなわち最大NOx吸収量まで、NOxを吸収すると、それ以上NOxを吸収できなくなるので、適時NOxを放出させて還元するために空燃比のリッチ化、すなわち還元リッチ化を実行する。
三元触媒14の上流位置には、比例型空燃比センサ17(以下「LAFセンサ17」という)が装着されており、このLAFセンサ17は排気中の酸素濃度(空燃比)にほぼ比例した電気信号を出力し、ECU5に供給する。
【0016】
三元触媒14とNOx浄化装置15との間及びNOx浄化装置15の下流位置には、それぞれ二値型酸素濃度センサ(以下「O2センサ」という)18,19が装着されており、これらのセンサの検出信号はECU5に供給される。このO2センサ18,19は、その出力が理論空燃比の前後において急激に変化する特性を有し、その出力は理論空燃比よりリッチ側で高レベルとなり、リーン側で低レベルとなる。
【0017】
エンジン1は、吸気弁及び排気弁のバルブタイミングを、エンジンの高速回転領域に適した高速バルブタイミングと、低速回転領域に適した低速バルブタイミングとの2段階に切換可能なバルブタイミング切換機構30を有する。このバルブタイミングの切換は、弁リフト量の切換も含み、さらに低速バルブタイミング選択時は2つに吸気弁のうちの一方を休止させて、空燃比を理論空燃比よりリーン化する場合においても安定した燃焼を確保するようにしている。
【0018】
バルブタイミング切換機構30は、バルブタイミングの切換を油圧を介して行うものであり、この油圧切換を行う電磁弁及び油圧センサがECU5に接続されている。油圧センサの検出信号はECU5に供給され、ECU5は電磁弁を制御してエンジン1の運転状態に応じたバルブタイミングの切換制御を行う。
【0019】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ20が接続されており、その検出信号がECU5に供給される。
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路5a、中央演算処理回路(以下「CPU」という)5b、CPU5bで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶手段5c、前記燃料噴射弁6に駆動信号を供給する出力回路5d等から構成される。
【0020】
CPU5bは、上述の各種エンジンパラメータ信号に基づいて、種々のエンジン運転状態を判別するとともに、該判別されたエンジン運転状態に応じて、次式(1)に基づき、前記TDC信号パルスに同期して開弁作動する燃料噴射弁6の燃料噴射時間TOUTを演算する。
TOUT=TIM×KCMD×KLAF×K1+K2…(1)
ここに、TIMは基本燃料量、具体的には燃料噴射弁6の基本燃料噴射時間であり、エンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じて設定されたTIマップを検索して決定される。TIマップは、エンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに対応する運転状態において、エンジンに供給する混合気の空燃比がほぼ理論空燃比になるように設定されている。すなわち、基本燃料量TIMは、エンジンの単位時間当たりの吸入空気量(重量流量)にほぼ比例する値を有する。
【0021】
KCMDは目標空燃比係数であり、エンジン回転数NE、スロットル弁開度θTH、エンジン水温TW等のエンジン運転パラメータに応じて設定される。目標空燃比係数KCMDは、空燃比A/Fの逆数、すなわち燃空比F/Aに比例し、理論空燃比のとき値1.0をとるので、目標当量比ともいう。また目標空燃比係数KCMDは、後述するように還元リッチ化あるいはNOx浄化装置15の劣化判定を実行するときは、空燃比をリッチ化するリッチ化所定値KCMDRRまたはKCMDRMに設定される。
【0022】
KLAFは、フィードバック制御の実行条件が成立するときは、LAFセンサ17の検出値から算出される検出当量比KACTが目標当量比KCMDに一致するようにPID制御により算出される空燃比補正係数である。
K1及びK2は夫々各種エンジンパラメータ信号に応じて演算される他の補正係数および補正変数であり、エンジン運転状態に応じた燃費特性、エンジン加速特性等の諸特性の最適化が図れるような所定値に決定される。
CPU5bは上述のようにして求めた燃料噴射時間TOUTに基づいて燃料噴射弁6を開弁させる駆動信号を出力回路5dを介して燃料噴射弁6に供給する。
【0023】
図2は、前記式(1)に適用される目標空燃比係数KCMDを算出する処理のフローチャートである。本処理は一定時間毎にCPU5bで実行される。
ステップS21では、リーン運転中か否か、すなわち通常制御時に後述するステップS28で記憶された目標空燃比係数KCMDの記憶値KCMDBが「1.0」より小さいか否かを判別する。その結果、KCMDB≧1.0であってリーン運転中でないときは、直ちにステップS25に進み、還元リッチ化実行中であることを「1」で示す還元リッチ化フラグFRROK及びNOx浄化装置15の劣化判定のための空燃比リッチ化を実行中であることを「1」で示す劣化判定リッチ化フラグFRMOKをともに「0」に設定し、さらに後述するステップS33、S37で参照されるダウンカウントタイマtmRR及びtmRMに、それぞれ還元リッチ化時間TRR(例えば5〜10秒)及び還元リッチ化時間TRRより長い劣化判定リッチ化時間TRM(>TRR)をセットしてスタートさせる(ステップS26)。次いで、通常制御、すなわちエンジン運転状態に応じて目標空燃比係数KCMDの設定を行う(ステップS27)。目標空燃比係数KCMDは、基本的には、エンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じて算出し、エンジン水温TWの低温状態や所定の高負荷運転状態では、それらの運転状態に応じた値に変更される。次いでステップS27で算出した目標空燃比係数KCMDを記憶値KCMDBとして記憶して(ステップS28)、本処理を終了する。
【0024】
ステップS21でKCMDB<1.0であってリーン運転中であるときは、エンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBAに応じて、次のステップS23で使用する増分値ADDNOxを決定する(ステップS22)。増分値ADDNOxは、リーン運転中に単位時間当たりに排出されるNOx量に対応するパラメータであり、エンジン回転数NEが増加するほど、また吸気管内絶対圧PBAが増加するほど、増加するように設定されている。
【0025】
ステップS23では、下記式にステップS22で決定した増分値ADDNOxを適用し、NOx量カウンタCNOxをインクリメントする。これによりNOx排出量、すなわちNOx吸収剤に吸収されたNOx量に相当するカウント値が得られる。
CNOx=CNOx+ADDNOx
【0026】
続くステップS24では、NOx量カウンタCNOxの値が、許容値CNOxREFを越えたか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、前記ステップS25に進み、通常制御、すなわちエンジン運転状態に応じた目標空燃比係数KCMDの設定を行う。許容値CNOxREFは、NOx吸収剤の最大NOx吸収量より若干小さいNOx量に対応する値に設定される。
【0027】
ステップS24で、CNOx>CNOxREFとなると、NOx浄化装置15の劣化判定の実行指令がなされていることを「1」で示す劣化判定指令フラグFMCMDが「1」であるか否かを判別する(ステップS30)。
NOx浄化装置15の劣化判定は、1運転期間(エンジン始動から停止までの期間)に1回程度の割合で実行すればよいので、エンジン始動後、エンジン運転状態が安定した時点で劣化判定指令フラグFMCMDが「1」に設定される。通常はFMCMD=0であるので、ステップS30からステップS31に進み、還元リッチ化フラグFRROKを「1」に設定し、次いで目標空燃比係数KCMDを空燃比14.0相当程度の値に対応するリッチ化所定値KCMDRRに設定して還元リッチ化を実行する(ステップS32)。そして、タイマtmRRの値が「0」か否かを判別し(ステップS33)、tmRR>0である間は直ちに本処理を終了し、tmRR=0となると還元リッチ化フラグFRROKを「0」に設定するとともにNOx量カウンタCNOxの値を「0」にリセットする(ステップS34)。これにより、次回からはステップS24の答が否定(NO)となるので、通常制御に移行する。
【0028】
劣化判定指令がなされた状態(FMCMD=1)において、ステップS24でCNOx>CNOxREFとなったときは、ステップS30からステップS35に進み、劣化判定リッチ化フラグFRMOKを「1」に設定し、次いで目標空燃比係数KCMDを空燃比14.0相当程度の値より若干リーン側の値に対応する劣化判定リッチ化所定値KCMDRM(<KCMDRR)に設定して劣化判定リッチ化を実行する(ステップS36)。通常の還元リッチ化実行時よりリッチ化の度合を小さくするのは、リッチ化の度合が大きくリッチ化実行時間が短いと誤判定が発生し易いからであり、リッチ化の度合を小さくしてリッチ化実行時間(=TRM)を長くすることにより、劣化判定の精度を向上させることができる。
【0029】
そして、タイマtmRMの値が「0」か否かを判別し(ステップS37)、tmRM>0である間は直ちに本処理を終了し、tmRM=0となると劣化判定リッチ化フラグFRMOK及び劣化判定指令フラグFMCMDをともに「0」に設定し、NOx量カウンタCNOxの値を「0」にリセットする(ステップS38)。これにより、次回からはステップS24の答が否定(NO)となるので、通常制御に移行する。
【0030】
図2の処理によれば、リーン運転可能なエンジン運転状態においては、通常は図3に実線で示すように間欠的に(時刻t1〜t2,t3〜t4及びt5〜t6の期間)還元リッチ化が実行され、NOx浄化装置15のNOx吸収剤に吸収されたNOxが適宜放出される。また、例えば時刻t3より前に劣化判定指令がなされたときは、図3に破線で示すように、還元リッチ化よりリッチ化の度合を小さくして、かつ還元リッチ化より長い時間TRMに亘って(時刻t3からt4aまで)劣化判定リッチ化が実行される。
【0031】
図4は、NOx浄化装置15の劣化判定の実施条件を判定する処理のフローチャートであり、この処理はTDC信号パルスの発生に同期してCPU5bで実行される。
ステップS51では、下流側O2センサ19が活性化したか否かを判別し、活性化しているときは、空燃比を理論空燃比よりリーン側に設定するリーン運転が許可されていることを「1」で示すリーン運転フラグFLBが「1」であるか否かを判別し(ステップS52)、FLB=1であるときは、還元リッチ化フラグFRROKが「1」であるか否かを判別する(ステップS53)。
【0032】
ステップS51若しくはS52の答が否定(NO)またはステップS53の答が肯定(YES)であるときは、後述する図5の処理で算出、使用する排気量パラメータGAIRLNCを「0」に設定し(ステップS56)、劣化判定実施条件が成立していることを「1」で示す実施条件フラグFMCND67Bを「0」に設定して(ステップS57)、本処理を終了する。
【0033】
ステップS51及びS52の答が肯定(YES)であり且つステップS53の答が否定(NO)であるときは、エンジン運転状態が通常の状態にあるか否かを判別する(ステップS54)。具体的には、エンジン回転数NEが所定上下限値NEH,NEL(例えば3000rpm,1200rpm)の範囲内にあるか否か、吸気管内絶対圧PBAが所定上下限値PBAH,PBAL(例えば88kPa,21kPa)の範囲内にあるか否か、吸気温TAが所定上下限値TAH,TAL(例えば100℃,−7℃)の範囲内にあるか否か、エンジン水温TWが所定上下限値TWH,TWL(例えば100℃,75℃)の範囲内にあるか否か、車速VPが所定上下限値VPH,VPL(例えば120km/h,35km/h)の範囲内にあるか否かを判別し、いずれかの答が否定(NO)であるときは、前記ステップS56に進み、全て肯定(YES)であるときは、劣化判定リッチ化フラグFRMOKが「1」であるか否かを判別する(ステップS55)。
【0034】
NOx浄化装置15のNOx吸収剤のNOx吸収量がほぼ最大(飽和状態)となり、図2の処理で劣化判定リッチ化フラグFRMOKが「1」に設定されるまでは、前記ステップS56に進み、FRMOK=1となると、上流側O2センサ18の出力電圧SVO2が理論空燃比に対応する基準電圧SVREFを越えたか否かを判別する(ステップS58)。劣化判定リッチ化開始後しばらくは、三元触媒14によりHC、COが酸化されるため、出力電圧SVO2は、基準電圧SVREFより小さい状態が続く。したがって、ステップS58からステップS59に進んで前記排気量パラメータGAIRLNCを「0」に設定し、次いで実施条件成立フラグFMCND67Bを「1」に設定して(ステップS60)、本処理を終了する。
【0035】
そして三元触媒14に蓄積された酸素が無くなって、O2センサ18近傍が排気リッチ状態となり、出力電圧SVO2が基準電圧SVREFを越えると、ステップS59を実行することなくステップS60に進む処理に移行する。
【0036】
図5は、NOx浄化装置15の劣化判定を行う処理のフローチャートであり、この処理はTDC信号パルスの発生に同期してCPU5bで実行される。
ステップS71では、実施条件フラグFMCND67Bが「1」であるか否かを判別し、FMCND67B=0であって実施条件が成立していないときは、直ちに本処理を終了する。FMCND67B=1であるときは、下流側O2センサ19の出力電圧TVO2が理論空燃比に対応する基準電圧TVREF以下か否かを判別する(ステップS72)。実施条件フラグFMCND67Bが「1」となった直後は、TVO2≦TVREFであり、ステップS73に進んで、下記式(2)により排気量パラメータGAIRLNCを算出する。
GAIRLNC=GAIRLNC+TIM (2)
【0037】
ここでTIMは基本燃料量、すなわちエンジン運転状態(エンジン回転数NE及び吸気管内絶対圧PBA)に応じて空燃比が理論空燃比となるように設定される燃料量であるので、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量、したがって排気量に比例するパラメータである。排気量パラメータGAIRLNCは、図4の処理により、SVO2≦SVREFである間は「0」に保持されるので、ステップS73の演算により、上流側O2センサ出力SVO2が基準電圧SVREFを越えた時点から、NOx浄化装置15に流入する排気量の積算値を示す排気量パラメータGAIRLNCが得られる。また、劣化判定実行中は空燃比は理論空燃比よりリッチ側の一定リッチ空燃比(KCMDRMに対応する値)に維持されるので、この排気量パラメータGAIRLNCは、排気中に含まれる還元成分(HC、CO)の積算量に比例する値を有する。
【0038】
続くステップS74では、排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCG以上か否かを判別する。最初はGAIRLNC<GAIRLNCGであるので、直ちに本処理を終了する。その後、下流側O2センサ出力TVO2が基準電圧TVREF以下の状態でGAIRLNC≧GAIRLNCGとなると、ステップS74からステップS76に進み、NOx浄化装置15は正常であると判定してそのことを「1」で示す正常フラグFOK67Bを「1」に設定し、次いで劣化判定が終了したことを「1」で示す終了フラグFDONE67Bを「1」に設定して(ステップS77)、本処理を終了する。
【0039】
一方、排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCG以上となる前に、下流側O2センサ出力TVO2が基準電圧TVREFを越えると、NOx浄化装置15が劣化していると判定し、ステップS72からステップS75に進んで、劣化していることを「1」で示す劣化フラグFFSD67Bを「1」に設定し、前記ステップS77に進む。所定閾値GAIRLNCGは、例えば新品のNOx浄化装置に吸収されたNOxを全て還元するのに必要な排気量の1/2程度に相当する値に設定される。その場合に、排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCG以上となる前に、下流側O2センサ出力TVO2がリッチ空燃比を示す(基準電圧TVREFを越える)値となったときは、NOx浄化装置15のNOx蓄積能力が新品の約1/2以下となったことを示す。なお、この所定閾値GAIRLNCGは、例えばNOx蓄積能力が新品の1/10程度となった状態を検出するように設定してもよく、検出したい劣化レベルに応じて、どのように設定してもよい。
【0040】
図6は図4,5の処理を説明するためのタイムチャートであり、時刻t11において劣化判定リッチ化フラグFRMOKが「1」に設定された場合の上流側O2センサ出力SVO2及び下流側O2センサ出力TVO2の推移を示している。この図の時刻t13より前に(すなわちTDLYで示す期間中に)排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCGを越えれば、NOx浄化装置15が必要とするNOx蓄積能力を有することを示すので、正常と判定される一方、時刻t13より前に排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCGに達しないときは、NOx蓄積能力が不十分であるため劣化と判定される。
【0041】
以上のように本実施形態では、劣化判定リッチ化開始後に、上流側O2センサ出力SVO2がリッチ空燃比を示す値に変化した時点から、NOx浄化装置15に流入する排気量、すなわち還元成分の量を示す排気量パラメータGAIRLNCを算出し、該算出した排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCGに達する前に下流側O2センサ出力TVO2がリッチ空燃比を示す値となったときは、NOx浄化装置15が劣化していると判定するようにしたので、エンジン運転状態によって変化する排気量、換言すれば還元成分量に応じた判定を行うことができ、エンジン運転状態の広い範囲で正確な劣化判定を行うことができる。
【0042】
上述した実施形態では、図4のステップS58、S59及び図5のステップS73が還元成分量算出手段に相当し、図5のステップS72及びS74〜S76が劣化判定手段に相当する。またO2センサ18及び19が、それぞれ第1及び第2の酸素濃度センサに相当する。さらに、図2のステップS32が還元リッチ化手段に相当し、図2のステップS36が劣化判定リッチ化手段に相当する。
【0043】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、図5の処理は、図7または図8に示すように変形してもよい。
図7は、図5のステップS74をステップS74aに変更し、挿入位置を変更したものである。図7の処理によれば、下流側O2センサ出力TVO2が基準電圧TVREFを越えた時点で、排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCGa以上であれば正常と判定され、所定閾値GAIRLNCGaに達していないとき劣化と判定される。ここで、所定閾値GAIRLNCGaは、図5の所定閾値GAIRLNCGより若干大きな値に設定される。
【0044】
また図8は、図5のステップS72の挿入位置を変えるとともに、ステップS74をステップS74bに変更したものである。図8の処理によれば、排気量パラメータGAIRLNCが所定閾値GAIRLNCGb以上となった時点で、下流側O2センサ出力TVO2が基準電圧TVREF以下であれば正常と判定され、基準電圧TVREFを越えているとき劣化と判定される。ここで、所定閾値GAIRLNCGbは、図5の所定閾値GAIRLNCGより若干小さな値に設定される。
【0045】
また上述した実施形態では、三元触媒14の上流側に比例型空燃比センサ(酸素濃度センサ)17を設け、NOx浄化装置15の上流側及び下流側に二値型の酸素濃度センサ18及び19を設けるようにしたが、酸素濃度センサのタイプ及び配置はどのような組み合わせを採用してもよい。例えばすべての酸素濃度センサを比例型あるいは二値型としてもよい。
【0046】
【発明の効果】
以上詳述したように請求項1に記載の発明によれば、劣化判定リッチ化手段による空燃比のリッチ化開始後、第1の酸素濃度センサの出力値がリッチ空燃比を示す値に変化した時点から、NOx浄化手段に流入する還元成分の量が算出され、該算出された還元成分量及び第2の酸素濃度センサの出力値に基づいてNOx浄化手段の劣化が判定されるので、機関運転状態によって変化する還元成分量に応じた判定を行うことができ、機関運転状態の広い範囲で正確な劣化判定を行うことができる。さらに、劣化判定リッチ化手段は、NOx浄化手段に吸収されたNOxを還元するための還元リッチ化手段によるリッチ化の度合より小さいリッチ化度合で、かつ還元リッチ化手段によるリッチ化実行時間より長い時間に亘って空燃比リッチ化を実行するので、劣化判定の精度を向上させることができる。
【0047】
請求項2に記載の発明によれば、還元成分量は、NOx浄化手段に流入する排気量を積算することにより算出されるので、排気量を表すパラメータを用いて簡便に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその排気浄化装置の構成を示す図である。
【図2】目標空燃比係数(KCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図3】リーン運転中における目標空燃比係数の設定を説明するためのタイムチャートである。
【図4】NOx浄化装置の劣化判定を実施する条件を判定する処理のフローチャートである。
【図5】NOx浄化装置の劣化判定を実行する処理のフローチャートである。
【図6】酸素濃度センサの出力値の推移を示すタイムチャートである。
【図7】図5の変形例を示すフローチャートである。
【図8】図5の変形例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 内燃機関
5 電子コントロールユニット(還元成分量算出手段、劣化判定手段)
6 燃料噴射弁
13 排気管
15 NOx浄化装置(NOx浄化手段)
18 二値型O2センサ(第1の酸素濃度センサ)
19 二値型O2センサ(第2の酸素濃度センサ)
Claims (2)
- 内燃機関の排気系に設けられ、排気リーン状態において排気中のNOxを吸収するNOx浄化手段を備えた内燃機関の排気浄化装置において、
該NOx浄化手段の上流側及び下流側にそれぞれ設けられ、排気中の酸素濃度を検出する第1及び第2の酸素濃度センサと、
前記機関に供給する混合気の空燃比を理論空燃比よりリーン側からリッチ側に切り換える劣化判定リッチ手段と、
該劣化判定リッチ化手段による前記空燃比のリッチ化開始後に、前記第1の酸素濃度センサの出力値がリッチ空燃比を示す値に変化した時点から、前記NOx浄化手段に流入する還元成分の量を算出する還元成分量算出手段と、
該算出された還元成分量及び前記第2の酸素濃度センサの出力値に基づいて前記NOx浄化手段の劣化を判定する劣化判定手段と、
前記NOx浄化手段に吸収されたNOxを還元するために、前記空燃比をリッチ化する還元リッチ手段とを有し、
前記劣化判定リッチ化手段は、前記還元リッチ化手段によるリッチ化の度合より小さいリッチ化度合で、かつ前記還元リッチ化手段によるリッチ化実行時間より長い時間に亘って空燃比リッチ化を実行することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。 - 前記還元成分量算出手段は、前記NOx浄化手段に流入する排気量を積算することにより前記還元成分量を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
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