JP3625791B2 - ドラム式洗濯機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転中心が水平又は傾斜した状態で回転するドラムを具えたドラム式洗濯機に関するものであり、
【0002】
【従来の技術】
ドラム式洗濯機(90)は、図10に示すように、洗濯物を洗濯、脱水するドラム(91)を、水平又は傾斜した状態で回転させる洗濯機である。ドラム(91)は、外槽(92)の内部に回転自在に支持されており、外槽(92)に配備された駆動モータ(93)とベルト(94)及びプーリ(95)(95)を介して連繋され、駆動モータ(93)の駆動によって回転する。
このドラム式洗濯機(90)では、特に脱水の際に、遠心力作用によって濡れた洗濯物がドラム(91)の内周壁に偏在する結果、ドラム(91)に偏心荷重が生じて、回転中心周りの重量バランスが不均衡となり、振動や騒音の発生する問題があった。
【0003】
振動が外部へ伝達されないようにするために、ドラム(91)を支持する外槽(92)と洗濯機筐体(96)との間に、振動減衰ダンパ(97)やスプリング(97a)を配したものがある。
さらに、偏心荷重の発生自体を抑えて、振動と騒音の低減を図るため、ドラム端面に複数の貯液室(98)を同方向に等間隔に設けると共に、荷重の偏心位置を検出する手段(99)を配したものもある。貯液室(98)の液量は、偏心荷重検出手段(99)で検出された偏心荷重位置に応じて調節され、ドラム(91)の偏心荷重を相殺し、振動や騒音を低減している。
【0004】
偏心荷重検出手段(99)として、従来、外槽(92)に加速度センサを配備し、外槽(92)の上下方向の加速度を検知して、偏心荷重の位置を特定する洗濯機があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
貯液室(98)の液量を調節する方法として、予め貯液室(98)にほぼ均一量の水を供給しておき、偏心荷重位置がドラム(91)の回転中心の真上近傍に達したときに、駆動モータ(93)を瞬間的に逆回転させて逆転ブレーキを掛け、偏心荷重側の貯液室(98)内の水を自然落下させる方法がある。
【0006】
しかしながら、ブレーキの強さは、洗濯物の重量に関係なく同じ強さであったため、洗濯物の重量が大きいときには、ブレーキの効きが悪く、偏心荷重の位置からずれた貯液室(98)の水が減少してしまう。このため、貯液室(98)の液量調節を行なっても、偏心荷重の重量バランスは補正されず、ドラム(91)の振動がさらに増長する。
【0007】
本発明の目的は、ドラムの慣性モーメントを検知することにより、ドラム内の洗濯物の重量に応じてブレーキの強さを変えて、貯液室の液量を正しく調節できるドラム式洗濯機を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のドラム式洗濯機は、
洗濯物を収容し、回転中心が水平又は傾斜した状態で回転して、洗濯物を洗濯、脱水するドラムと、
ドラムを回転させる駆動モータと、
ドラムの周方向に等間隔に複数設けられ、ドラムの回転によって生ずる遠心力によって
、内部に液体を貯留する貯液室と、
ドラム内での洗濯物の偏在による偏心荷重を検出する偏心荷重検出手段と、
検出された偏心荷重の位置及び大きさを求め、その位置及び大きさに対応して貯液室の液量を調節する制御手段とを具え、
回転するドラムにブレーキを掛けて、貯液室の液量を調節するドラム式洗濯機において、
ドラムの回転を検知する慣性モーメント測定手段を具え、
制御手段は、脱水工程において、ドラムの回転数を徐々に上げてドラム内に偏在する洗濯物を分散させた後、慣性モーメント測定手段によってドラムの回転を検知し、検知したドラムの回転に基づいてドラムに作用する慣性モーメントを算出し、貯液室の液量の調節を行なう際に、ドラムの減速が一定となるように、算出された慣性モーメントに応じて、ドラムに掛けるブレーキの強さを調整する。
【0009】
【作用及び効果】
慣性モーメント測定手段によって、洗濯物の入れられたドラムの回転、例えば、回転速度や回転数を検知し、制御手段は、得られたデータからドラムの慣性モーメントを算出する。ドラムの慣性モーメントは、洗濯物の重量に応じて変化するから、貯液室の液量調節の際に、ドラムの慣性モーメントに基づいて、ドラムの減速が一定となるようにブレーキの強さを調整すると、洗濯物の重量に拘わらず、同じ位置でドラムを減速でき、偏心荷重の位置に対応して、貯液室の液量を調節できる。
【0010】
慣性モーメント測定手段として、駆動モータの磁極の極性変化を検出することにより、ドラムの回転を駆動モータの回転から検知できるから、慣性モーメントも正確に測定される。正確に特定された慣性モーメントの情報に基づいてブレーキ調整を行なうことにより、貯液室の液量が正しく調節され、ドラムの重量バランスの均衡化を図ることができ、振動及び騒音の低減を達成できる。
【0011】
磁極検出手段として、一般に駆動モータに配備されているホール素子を利用することによって、部品点数の増加やコストの上昇を抑えることができる。
【0012】
また、駆動モータとして、ダイレクトドライブモータを用い、減速機構を介せずにドラムを直接駆動モータの回転軸と接続することにより、ドラムと駆動モータとの間に滑りが生じない。従って、駆動モータの回転が、ドラムの回転と一致し、慣性モーメントをより正確に測定することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のドラム式洗濯機(10)について説明する。
図1は、本発明のドラム式洗濯機(10)の全体構成を示す断面図である。ドラム式洗濯機(10)は、洗濯機筐体(12)の内部に、ダンパ(14)及びスプリング(16)(16)を介して外槽(18)が支持されており、外槽(18)の内部に円筒状のドラム(20)が回転可能に支持されている。
図示のドラム式洗濯機(10)は、洗濯物を筐体(12)の上部から出し入れするタイプのものであり、筐体(12)及び外槽(18)の上面には、洗濯物を出し入れする洗濯物投入口(22)(24)が開設されており、ドラム(20)の周面にも外槽(18)の洗濯物投入口(24)と位置合わせ可能に洗濯物投入口(26)が開設されている。各洗濯物投入口(22)(24)(26)には、夫々、扉(図示せず)が取り付けられている。なお、洗濯物投入口は、洗濯機の側面に設けてもよい。
【0014】
ドラム(20)は、両端が閉塞した円筒体であり、周面に多数の通水孔(図示せず)が穿孔されており、内周面には、洗濯物を掻き上げるバッフル(図示せず)が複数突設されている。また、洗濯物投入口(26)と対向するドラム(20)の内周面には、洗濯物投入口(26)(扉を含む)の重量バランスを保持するために洗濯物投入口(26)の重さに対応した重量のバランサ(28)が配備されている。
ドラム(20)の両端中央には、回転軸(30)(32)が外向きに突設されており、外槽(18)にベアリング(34)(34)を介して回転自在に支持される。一方の回転軸(30)は、外槽(18)の外側に配置された駆動モータ(50)(後述する)の回転軸を兼ねている。
【0015】
ドラム(20)の両端には、周方向に等間隔にて複数の貯液室(36)が設けられている。各貯液室(36)は、ドラム(20)の回転中心から等距離にあり、回転中心に向けて開口している。
ドラム(20)の一方の端面には、回転中心の上側を通過する貯液室(36)から重力作用によってこぼれ落ちる液体(後述する)が、下側の貯液室(36)に進入しないように環状の遮蔽板(38)が突設されている。
ドラム(20)の他方の端面には、中空環状の流体バランサ(40)が取り付けられている。流体バランサ(40)の内部には、空間体積の約半分程度の液体が入れられている。流体バランサ(40)の内周面は、上述の遮蔽板を兼ねている。
【0016】
外槽(18)には、洗濯、すすぎ用の水を外槽(18)の内部に供給する給水管(図示せず)と、上記貯液室(36)に液体(本実施例では水)を供給する注水管(42)、及び、外槽(18)内の水を排出する排水管(44)が接続されている。
注水管(42)は、一端が給水設備(図示せず)に接続されており、注水バルブ(46)(46)を介して、外槽(18)を貫通した他端から、ドラム(20)の回転中心の真下位置にある貯液室(36)(36)に給水可能となっている。注水バルブ(46)(46)を開くと、下側の貯液室(36)に水が貯留する。
また、排水管(44)は、一端が外槽(18)の下部に接続され、排水バルブ(48)を介して、他端が外部の排水口(図示せず)に接続される。排水バルブ(48)を閉じると外槽(18)内に水が貯留し、排水バルブ(48)を開くと外槽(18)内の水が外部に排出される。
【0017】
外槽(18)の側面には、駆動モータ(50)が配備される。駆動モータ(50)として、ダイレクトドライブモータを例示することができ、この場合、駆動モータ(50)の回転軸は、前述のとおり、ドラム(20)の回転軸(30)を兼ねる。
駆動モータ(50)は、後述する制御手段(72)によって制御され、外槽(18)に固定されたステータ(52)と、ステータ(52)に回転自在に嵌まるロータ(54)から構成される。
図2に示すように、ステータ(52)は、複数のコイル(56)を並べて構成され、ロータ(54)は、コイル(56)に接近して、複数の磁極を交互に並べて構成される。コイル(56)に制御手段(72)から駆動電圧を印加することにより、ロータ(54)は、正回転又は逆回転する。
【0018】
ロータ(54)には、図2に示すように、ステータ(52)のコイル(56)とは反対側に、磁極(58)に接近して1又は複数の磁極検出手段(60)が配備される。磁極検出手段(60)として、ホール素子(62)を例示することができ、図2では、3つのホール素子(62)を等間隔に複数配置している。ホール素子(62)は後述する制御手段(72)に電気的に接続され、磁極(58)のうち、S極を検知すると「High」、N極を検知すると「Low」を出力して(図4参照)、制御手段(72)に送信する。
【0019】
また、外槽(18)の外側下面には乾燥機ユニット(64)が配備される。
その他、洗濯機筐体(12)の外面には、操作部(66)や表示部(68)(図3参照)を有する操作パネル(70)を具える。
【0020】
上記構成のドラム式洗濯機(10)のすべての制御は、洗濯機筐体(12)の適所に配備された制御手段(72)によって行なわれる。制御手段(72)は、図3に示すように、マイコン(74)を主体として構成される。マイコン(74)は、メモリ(図示せず)やカウンタ(76)(78)を含んでおり、メモリには、各洗濯工程の運転プログラムや、各種メモリテーブルが格納されている。
制御手段(72)には、操作部(66)、表示部(68)が接続されている。操作部(66)及び表示部(68)は、洗濯機筐体(12)に設けられた操作パネル(70)から、使用者による操作に応じた入力信号を制御手段(72)に与えると共に、操作に対応した情報や運転状況に関連する状況を表示する。
【0021】
マイコン(74)には、バルブ(46)(48)の開閉を行なうバルブ駆動部(80)、駆動モータ(50)のインバータ制御部(82)と、ホール素子(62)に接続されたパルス測定部(84)をさらに含んでいる。マイコン(74)は、回転速度信号をインバータ制御部(82)に送出し、インバータ制御部(82)は、この指示信号をPWM信号に変換して、PWM信号に応じた駆動電圧を駆動モータ(50)に印加する。これによって、駆動モータ(50)は所望の回転速度で正回転又は逆回転する。駆動モータ(50)が回転しているときに、その回転方向とは逆方向に駆動モータ(50)を回転させると、駆動モータ(50)に逆転ブレーキが作用する。
【0022】
パルス測定部(84)は、図4に示すように、ホール素子(62)が磁極(58)の極性を検出することによって出力するHigh信号とLow信号を受信し、受信された信号のパルス間隔を測定して、洗濯物の偏心位置及び大きさを特定すると共に、図8及び図9に示すように、ドラムの慣性モーメントを測定する。
【0023】
洗濯物の偏心位置と大きさは、以下の要領で測定される。
ドラム(20)内に洗濯物が偏在していない場合には、ロータの1回転中に、磁極検出手段(60)から出力される信号のパルス間隔は一定となる。
しかしながら、ドラム(20)内に洗濯物が偏在する場合には、ドラム(20)の回転速度が偏心荷重によって一様とはならず、図4に示すように、1回転中で変化する。ドラム(20)の偏心荷重(洗濯物)が回転中心の真上を通過するときには、ドラム(20)に直接接続された駆動モータ(50)の回転速度は最も遅くなり、磁極検出手段(60)から出力されるパルスの間隔は長くなる。逆に、偏心荷重が回転中心の真下を通過するときには、ドラム(20)及び駆動モータ(50)の回転速度は最も速くなり、磁極検出手段(60)から出力されるパルスの間隔は短くなる。従って、パルス間隔の広狭から洗濯物の偏在位置が特定される。
また、洗濯物の偏心重量が大きいほど、ドラム(20)の回転速度のばらつきが大きくなる。従って、回転速度のばらつきを測定することにより、偏在重量の大きさが特定される。上述の通り、図4に示すように、回転速度はパルス間隔で換算できるため、パルスの間隔の最大と最小との差から偏在重量の大きさが判る。
【0024】
パルス測定部(84)は、磁極検出手段(60)から出力されたパルスの間隔を測定し、マイコン(74)にて偏心荷重の位置及び大きさを特定する。得られた洗濯物の偏心荷重の位置及び大きさの情報、偏心荷重位置に近い貯液室(36)の水量を、偏心荷重位置から遠い貯液室(36)の水量に対して相対的に減じ、偏心荷重を相殺して、ドラム(20)の重量バランスの均衡化を図る。
貯液室(36)の水量を調節する方式には、排水式と給水式の2つの方法がある。
排水式は、ドラム(20)を回転しつつ偏心荷重位置及び大きさを特定した後、注水バルブ(46)を開いて、すべての貯液室(36)にほぼ均一量の水を供給して注水バルブ(46)を閉じ、偏心荷重位置がドラム(20)の回転中心の真上近傍に到達したときに、駆動モータ(50)を瞬間的に逆回転させて逆転ブレーキを掛けて、偏心荷重側の貯液室(36)内の水を自然落下させる方法である。なお、偏心荷重位置を特定する際に、貯液室(36)に水を予め貯留させておいてもよい。
また、給水式は、すべての貯液室(36)を予め空にしておき、ドラム(20)を回転させ、偏心荷重位置を測定した後、偏心荷重位置がドラム(20)の回転中心の真上近傍に到達したときに、駆動モータ(50)に逆転ブレーキを掛けると共に、注水バルブ(46)を開いて、偏心荷重とは反対側に位置する下側の貯液室(36)に水を供給する方法である。
上記何れかの方法を採ることにより、ドラム(20)の偏心荷重が相殺される。
【0025】
貯液室(36)の水量を調節するときに、逆転ブレーキの強さが一定であると、ドラム(20)内の洗濯物の重量によって、偏心位置からずれた貯液室の水が減少してしまい、偏心荷重の重量バランスが補正されない。従って、本発明では、ドラム(20)に作用する慣性モーメントから、洗濯物の重量を測定し、逆転ブレーキの強さに反映するようにしている。
【0026】
ドラム(20)の慣性モーメントは、駆動モータ(50)を駆動し、所定の速度でドラムを回転させた後、さらに高速まで加速した際の駆動モータ(50)の加速度合い、或いは所定の速度でドラムを回転させた後、一定条件で駆動モータ(50)に逆転ブレーキを掛けた際の駆動モータ(50)の減速の度合い、等を検知し、予め測定されたデータと比較することによって測定できる。慣性モーメントを表わすパラメータとして、減速又は加速開始後の所定時間後の駆動モータ(50)の回転速度や回転数、或は、所定の回転速度に達するまでの時間を用いることができる。
【0027】
図7は、所定の回転数で駆動モータ(50)を駆動し、逆転ブレーキを掛けたときの駆動モータ(50)の回転数の減少度合いを示すグラフである。図7に示すように、洗濯物の量が多いときには、ドラム(20)の慣性が大きいから、一定時間後の駆動モータ(50)の回転数は大きく、逆に、洗濯物の量が少ないときには、ドラム(20)の慣性も小さくなるから、一定時間後の駆動モータ(50)の回転数は小さくなっていることがわかる。つまり、ドラム(20)に作用する慣性モーメントを測定することにより、ドラム(20)内の洗濯物の総重量が測定できる。
【0028】
慣性モーメントを測定するために、ホール素子(62)の出力パルス間隔をパルス測定部(84)で計測している。
図8は、100rpmで駆動モータ(50)を回転し、0.1秒間、駆動モータ(50)に逆転ブレーキを掛けたときのホール素子(62)からの出力パルスの間隔をグラフ化したものである。図中、0.6秒の位置からブレーキが掛かり、パルス間隔が長くなり、回転数も低下していることがわかる。ブレーキを掛けてから0.07秒後のパルス間隔を測定し、得られたデータを慣性パラメータに換算する。なお、偏心荷重が回転降下中か上昇中かによって、駆動モータ(50)の回転に与える影響が異なるので、測定精度を高めるために、計測地点をずらして複数回実施することが望ましい。図示の例は、180°ずらして2回計測を行なったものであり、測定結果の平均は10900μsecであった。
【0029】
図9は、予め実験により得られたデータを、x軸にホール素子(62)のパルス間隔、y軸に慣性モーメントをプロットしたもので、このデータに基づいて、ホール素子(62)のパルス間隔と慣性モーメントの関係式が得られる。
図8のパルス間隔測定結果(10900μsec)を、図9の関係式に当てはめると、慣性モーメントのレベルを3.8と見積もることができる。なお、図9中、慣性モーメントのレベルとは、慣性モーメントの大小を示すための参考値であって、この値が大きいほど慣性モーメントが大きいことを意味するが、慣性モーメントそのものの大きさを表わすものではない。
【0030】
制御手段(72)には、予め慣性モーメントと、慣性モーメントの値に対応した逆転ブレーキの強さとの関係を記憶しておき、得られた慣性モーメントから、貯液室(36)の液量調節時に、駆動モータ(50)に作用させる逆転ブレーキの強さを決定する。逆転ブレーキの強さが決定されると、インバータ制御部(82)から、逆転ブレーキの強さに応じた駆動電圧を駆動モータ(50)に印加して、駆動モータ(50)を逆回転すればよい。
上記のように、慣性モーメントに応じて、ブレーキの強さを調整することにより、偏心荷重の位置に対応した貯液室(36)の液量調節が可能となる。
【0031】
以下、本発明のドラム式洗濯機(10)の制御について説明する。
ドラム(20)に偏心荷重が発生し、振動等を抑える必要が生ずるのは、特に、脱水工程であるため、洗濯運転やすすぎ運転については説明を省略し、脱水工程における制御手段(72)及び洗濯機(10)の動作について、図5及び図6のフローチャートに沿って説明を行なう。
【0032】
脱水工程は、図5のステップ4、5で示す偏心荷重測定工程と、図6のステップ15〜17で示す偏心荷重調整工程、及び、図5のステップ20に示す洗濯物の高速回転脱水工程に大別することができる。偏心荷重測定工程及び偏心荷重調整工程は、夫々、偏心荷重の測定又は調整が正しく実行できなかった場合を考慮して、夫々試行回数に上限を設定し、その回数をマイコン(74)のカウンタ(76)(78)にてカウントするようにしている(ステップ7及びステップ18)。
【0033】
すすぎ運転の後、又は、使用者による操作パネル(70)の操作により、脱水工程が開始される(ステップ1)。
【0034】
偏心荷重の測定に際して、まず、偏心荷重測定工程の試行回数C1がカウントされるカウンタ(76)をリセットする(ステップ2)。
【0035】
次に、駆動モータ(50)を駆動して、ドラム(20)の回転数を約30rpmから100rpmまで徐々に上げて(ステップ3)、ドラム(20)内に偏在する洗濯物をほぐし、できるだけドラム(20)内で均等に分散させる。その後、偏心荷重測定工程が実行される。
【0036】
偏心荷重測定工程は、ドラム(20)の慣性モーメントから、ドラム(20)内の洗濯物の総重量(水重量を含む)を測定する工程(ステップ4)と、偏心荷重の位置及び大きさを測定する工程(ステップ5)を有する。
ドラム(20)内の洗濯物の慣性モーメントは、後述するステップ14(図6)で、逆転ブレーキを掛ける際の強さを決定するために測定される。また、偏心荷重の位置及び大きさの測定は、貯液室(36)の水量調節(図6のステップ16)のために行なわれる。
【0037】
次に、ドラム(20)の回転に伴う慣性モーメントを測定する(ステップ4)。
ドラム(20)の慣性モーメントは、駆動モータ(50)を駆動し、所定の速度でドラム(20)を回転させた後、一定条件で駆動モータ(50)に逆転ブレーキを掛けたときの駆動モータ(50)の所定時間後の回転速度を検知することによって測定される。駆動モータ(50)の回転速度は、ホール素子(62)の出力パルス間隔をパルス測定部(84)で計測することによって測定できる。なお、測定の詳細については、図8を参照して既に説明したとおりであり、得られた回転速度の変化から、慣性モーメントが算出される。
【0038】
ドラム(20)の慣性モーメントを測定した後、偏心荷重の位置と大きさを測定する(ステップ5)。
偏心荷重の位置及び大きさは、ドラム(20)、つまり、駆動モータ(50)を所定の速度、例えば100rpmで回転させ、約1.3周におけるホール素子(62)の出力パルス間隔の変化を測定することによって検出できる。約1.3周とするのは、1周では、測定開始時に出力パルスのピークがくると、偏心位置が特定しにくいためである。約1.3周とすることによって、出力パルス中に極大点を少なくとも一つ検出できる。
図4は、ホール素子(62)からの出力パルスと、対応する駆動モータ(50)の回転数を示すグラフである。図4を参照すると、洗濯物がドラム(20)の回転中心より上側に位置するときには、ホール素子(62)から出力されたパルス信号の間隔t1、t2…が広くなって、駆動モータ(50)の回転数が減少し、逆に、洗濯物がドラム(20)の回転中心より下側に位置するときには、ホール素子(62)から出力されたパルス信号の間隔が狭くなって、駆動モータ(50)の回転数が増大していることがわかる。
これら相関関係から、ドラム(20)内の洗濯物の偏心位置が特定される。
また、駆動モータ(50)の1回転におけるパルス間隔の最大と最小との差から、偏心荷重の大きさも特定される。この場合、パルス間隔の差と、偏心荷重の大きさとの関係は、予め実験によって測定し、マイコン(74)のメモリに記憶しておく。
【0039】
上記偏心荷重測定工程(ステップ4及びステップ5)により、ドラム(20)の慣性モーメントと、洗濯物の偏心荷重の位置と大きさを求めることができる。
【0040】
偏心荷重は、上述のように、貯液室(36)の水量の調節によって行なわれるから、貯液室(36)の大きさによって、相殺できる偏心重量の大きさに限度がある。そこで、偏心荷重が、貯液室(36)によって相殺できる大きさであるかどうかを判断する(ステップ6)。偏心荷重の大きさが許容値Aを超えていると、偏心荷重を相殺できないため、偏心荷重測定工程の試行回数C1をカウントアップし(ステップ7)、試行回数C1が規定回数Nに満たない場合には、再度、ステップ3に戻って、洗濯物をほぐして、洗濯物をできるだけドラム(20)内で均等に分散させ、再度偏心荷重測定工程を試みる。試行回数C2がNを越えると、偏心荷重の調整はできないと判断し、表示部(68)にエラー表示を行ない(ステップ9)、脱水工程を終了する(ステップ21)。
【0041】
偏心荷重の大きさが許容値A以下であれば、貯液室(36)の水量調節によって、偏心荷重を相殺できるため、ステップ10に進む。
【0042】
ステップ10では、偏心荷重の相殺が必要か否かを判断する。偏心荷重の大きさが許容値B以下であれば、偏心荷重調整工程を行なわずに、高速回転脱水(ステップ20)しても、偏心荷重による振動や騒音は殆んど発生しないからである。従って、偏心荷重の大きさが許容値Bを越えたときのみ、図6に示す偏心荷重調整工程に移る(ステップ11)。
【0043】
偏心荷重調整工程のフローチャートは、図6に示される。
偏心荷重調整工程は、注水バルブ(46)を開いて、すべての貯液室(36)が一杯になるまで、注水を行なうことから始まる(ステップ12)。
貯液室(36)への注水が完了すると、注水バルブ(46)を閉じて、偏心荷重測定工程の試行回数C2がカウントされるカウンタ(78)をリセットする(ステップ13)。
【0044】
次に、ステップ4で測定された慣性モーメントに基づいて、逆転ブレーキの強さを決定し(ステップ14)、洗濯物(偏心荷重)がドラム(20)の回転中心の真上を通過するタイミングに合わせて、逆転ブレーキを掛けて、ドラム(20)の偏心荷重側の貯液室(36)の水の一部を自然落下させ、偏心荷重を調整する(ステップ15)。
【0045】
上記ステップ15により、ドラム(20)の偏心荷重が調整されたかどうかを、前述のステップ5と同様の方法で再度測定し(ステップ16)、得られた偏心荷重が許容値B(前述のステップ10参照)以下となっていれば(ステップ17)、偏心荷重調整工程を終了し、高速回転脱水(ステップ20)に移る。
偏心荷重が許容値Bを越えている場合には、偏心荷重調整工程の試行回数C2をカウントアップし(ステップ18)、試行回数C2が規定回数Mに満たない場合には、再度、ステップ15に戻って、偏心荷重の調整を行なう。
試行回数C2が規定回数M以上であれば、ステップ7に戻る。
【0046】
偏心荷重の調整が完了すると、ドラム(20)を約1000rpmで一定時間回転して、高速回転脱水(ステップ20)を行ない、洗濯物を脱水する。洗濯物はドラム(20)内で偏心していないから、高速回転させても、振動は小さく、また、振動に伴う騒音も小さくできる。
高速回転脱水が完了すると、脱水工程を終了する(ステップ21)。
【0047】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、本発明は、洗濯や脱水だけでなく、乾燥機能を具えた洗濯機にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のドラム式洗濯機の断面図である。
【図2】図2は、ステータ、ロータ及びホール素子の位置関係を示す説明図である。
【図3】図3は、制御手段を示すブロック図である。
【図4】図4は、ホール素子の出力パルスと、駆動モータの回転数の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、脱水工程を示すフローチャート図である。
【図6】図6は、図5中の偏心荷重調整工程を示すフローチャート図である。
【図7】図7は、駆動モータの回転数と、洗濯物の量及び慣性モーメントの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、慣性モーメントを測定するために検出されたホール素子のパルス間隔を示すグラフである。
【図9】図9は、ホール素子のパルス間隔と、慣性モーメントのレベルとの関係を示すグラフである。
【図10】従来のドラム式洗濯機の断面図である。
【符号の説明】
(10) ドラム式洗濯機
(20) ドラム
(50) 駆動モータ
(60) 磁極検出手段
(62) ホール素子
Claims (4)
- 洗濯物を収容し、回転中心が水平又は傾斜した状態で回転して、洗濯物を洗濯、脱水するドラムと、
ドラムを回転させる駆動モータと、
ドラムの周方向に等間隔に複数設けられ、ドラムの回転によって生ずる遠心力によって、内部に液体を貯留する貯液室と、
ドラム内での洗濯物の偏在による偏心荷重を検出する偏心荷重検出手段と、検出された偏心荷重の位置及び大きさを求め、その位置及び大きさに対応して貯液室の液量を調節する制御手段とを具え、
回転するドラムにブレーキを掛けて、貯液室の液量を調節するドラム式洗濯機において、
ドラムの回転を検知する慣性モーメント測定手段を具え、
制御手段は、脱水工程において、ドラムの回転数を徐々に上げてドラム内に偏在する洗濯物を分散させた後、慣性モーメント測定手段によってドラムの回転を検知し、検知したドラムの回転に基づいてドラムに作用する慣性モーメントを算出し、貯液室の液量の調節を行なう際に、ドラムの減速が一定となるように、算出された慣性モーメントに応じて、ドラムに掛けるブレーキの強さを調整することを特徴とするドラム式洗濯機。 - 駆動モータは、ロータ側に複数の磁極を交互に具え、ステータ側に複数のコイルを配しており、慣性モーメント測定手段は、ロータの磁極に接近して配置され、該磁極の極性を検出する磁極検出手段であって、ドラムを所定条件で減速又は加速したときのロータの極性が変化する間隔を検知し、制御手段は、検知された極性の変化の間隔に基づいて、ドラムの慣性モーメントを算出する請求項1に記載のドラム式洗濯機。
- 慣性モーメント測定手段は、ロータの磁極に接近して配置された1又は複数のホール素子である請求項1又は請求項2に記載のドラム式洗濯機。
- 駆動モータは、回転軸がドラムの端面に直接接続されている請求項1乃至請求項3の何れかに記載のドラム式洗濯機。
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