JP3625749B2 - 繊維強化樹脂の成形方法、およびその成形方法を用いて製造された膨張成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維強化樹脂の成形方法に係り、特に、溶融樹脂の状態でガスを注入して膨張させる膨張成形の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
(a) 一直線方向へ接近離間させられる一対の成形型によって、その一直線方向の寸法が目的とする成形品よりも小さいキャビティを形成し、補強用繊維を含んだ溶融樹脂をそのキャビティ内で圧縮した状態で成形することにより、その溶融樹脂の表層部にやや硬化したスキン層を形成する圧縮成形工程と、(b) 前記溶融樹脂が冷却・硬化する前に、前記キャビティが目的とする成形品と略同じ大きさになるように前記一対の成形型を前記一直線方向へ離間させるとともに、その溶融樹脂の内部にガスを注入することにより、前記補強用繊維のスプリングバック現象およびガス圧の作用でその溶融樹脂を膨張させて目的形状とする膨張成形工程と、を有する繊維強化樹脂の成形方法が、例えば特開平10−305462号公報などで提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような成形方法においては、膨張成形工程で溶融樹脂が一直線方向へ膨張させられる際に、その一直線方向と直角な方向の外周縁部に一直線方向の引張力が発生するため、図4に示すように圧縮成形工程で形成されたスキン層104が破れて内部の溶融樹脂106が露出し、補強用繊維が表面に浮き出すなどして見栄えが悪くなることがあった。図4の(a) は圧縮成形工程で、100、102は一対の成形型であり、(b) の膨張成形工程で成形型(上型)100が上方へ離間させられるとともにガスが注入されて溶融樹脂106が膨張させられる際に、スキン層104の外周縁部104aが破れて溶融樹脂106が露出し、補強用繊維が表面に浮き出したり、硬化時間や成形型成形面に対する押圧力の違いなどにより圧縮成形工程で硬化した表面部分と膨張成形工程で新たに露出した部分とで表面性状(性質や状態)が相違して見栄えが悪化するのである。図4(b) の108は、スキン層104aが破れた破断部である。
【0004】
スキン層104が破れないように、例えば圧縮成形工程の時間を長くするなどして図5に示すようにスキン層104を厚くすると、膨張成形工程における外周縁部のスキン層104aの伸び変形が阻害され、成形面に十分に押圧されずにRダレ(丸味)110を生じることがある。図5の(a) は圧縮成形工程で、(b) は膨張成形工程である。
【0005】
また、繊維強化樹脂の成形と同時に表皮材を一体成形することが可能であるが、その表皮材の外周端末が外部に露出するため、切断や巻き込みなどの面倒な後処理作業が必要である。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、繊維強化樹脂を膨張成形する際に外周部のスキン層が破断して見栄えが悪化することを防止するとともに、表皮材を一体成形する場合には、その表皮材の外周端末の後処理作業を簡略化することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 一直線方向へ接近離間させられる一対の成形型によって、その一直線方向の寸法が目的とする成形品よりも小さいキャビティを形成し、補強用繊維を含んだ溶融樹脂をそのキャビティ内で圧縮した状態で成形することにより、その溶融樹脂の表層部にやや硬化したスキン層を形成する圧縮成形工程と、(b) 前記溶融樹脂が冷却・硬化する前に、前記キャビティが目的とする成形品と略同じ大きさになるように前記一対の成形型を前記一直線方向へ離間させるとともに、その溶融樹脂の内部にガスを注入することにより、前記補強用繊維のスプリングバック現象およびガス圧の作用でその溶融樹脂を膨張させて目的形状とする膨張成形工程と、を有する繊維強化樹脂の成形方法において、(c) 前記圧縮成形工程における前記キャビティのうち前記一直線方向と直角な方向の外周縁より所定寸法だけ内側に溝を設け、その圧縮成形工程でその溝の底部が硬化させられることにより、前記膨張成形工程で前記ガスがその溝よりも外周側へ侵入することを阻止し、外周縁部の膨張を防止するようになっていることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の繊維強化樹脂の成形方法において、(a) 前記溝は前記キャビティの全周に設けられる環状溝で、(b) その環状溝が設けられる側が前記成形品の表面側であり、(c) その表面を成形する側の成形型の成形面と前記溶融樹脂との間に表皮材が配置されて、その溶融樹脂の成形と同時にその表皮材を一体成形するようになっているとともに、その表皮材の外周端末は前記環状溝内に位置させられていることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明または第2発明の繊維強化樹脂の成形方法を用いて製造された膨張成形品で、外周縁より所定寸法だけ内側にその所定寸法より幅が狭い溝が設けられていることを特徴とする。
【0010】
【発明の効果】
第1発明では、圧縮成形工程におけるキャビティの外周縁より所定寸法だけ内側に溝が設けられて底部が硬化させられることにより、膨張成形工程でその溝よりも外周側へガスが侵入することが阻止され、外周縁部の膨張が防止されるようになっているため、膨張成形時に外周縁部のスキン層が破れて溶融樹脂が外部に露出する恐れがない。溝よりも内側では、ガス圧や補強用繊維のスプリングバックで溶融樹脂が一直線方向へ目的形状まで膨張させられ、その膨張時に、溝の内側側壁を構成しているスキン層が破れる可能性があるが、溶融樹脂は溝内に流入するだけで外部に露出しないため、成形品の見栄えが損なわれることはない。
【0011】
また、このように膨張成形時にスキン層が破れても良いことから、スキン層を薄くすることが可能で、膨張成形時にも成形品の表面(スキン層)が成形型の成形面に押圧されることにより、成形面に対応する高い精度の表面形状が得られる。
【0012】
第2発明では、成形品の表面側に環状溝が設けられるとともに、その表面に一体成形される表皮材の外周端末がその環状溝内に位置させられているため、表皮材の外周端末が外部に露出することがないとともに、切断や巻き込みなどの面倒な後処理作業が不要である。
【0013】
第3発明は、第1発明または第2発明の成形方法に従って製造された膨張成形品で、第1発明、第2発明と同様の効果が得られる。
【0014】
【発明の実施の形態】
ここで、本発明方法に従って製造される膨張成形品は、ドアトリムやインストルメントパネルなどの車両用内装パネル、各種電化製品や家具などの表面パネル、建築用パネルなど、種々の樹脂成形品が対象で、例えば前記特開平10−305462号公報にも記載されているように、種々の熱可塑性樹脂や補強用繊維が用いられる。膨張成形工程で注入するガス圧や、成形品の表面に固着される表皮材の材質などについても適宜設定される。
【0015】
前記溝は、前記一直線方向と平行に成形型の成形面に突設された凸条によって形成されるが、その溝深さ(凸条の高さ)は、膨張成形工程で一対の成形型が離間させられた場合でも凸条の先端が溝内に位置して、スキン層が破れて溝内に流入した溶融樹脂が溝から流出することを阻止するように、成形型の離間寸法よりも大きいことが望ましい。成形型の凸条が溝から完全に離脱した場合でも、溝内に流入した溶融樹脂が粘性などで溝から流出しない場合は、必ずしも凸条が溝内に位置するように溝深さを設定する必要はない。また、上記溝深さの設定に際しては、圧縮成形工程で溝の底部が硬化し、膨張成形工程でガスが外周側へ侵入しないようにするため、溝の底部の肉厚が所定厚さ以下の薄肉になるようにする必要がある。上記凸条は、固定成形型および可動成形型のどちらに設けても良く、両方に設けることもできるが、可動成形型に設けることが望ましい。
【0016】
第2発明では、膨張成形品の表面側に環状溝が設けられて表皮材が一体成形されるようになっているが、第1発明の実施に際しては、表皮材を備えていなくても良いし、膨張成形品の表面に後から表皮材を固着するようにしても良い。また、膨張成形品の裏面側に環状溝を設けるようにしても良い。外周縁部の一部が人の目にふれない場合は、その部分のスキン層が破断したり表皮材の端末が露出したりして見栄えが悪くても差し支えないことから、必ずしも成形品の全周に環状溝を設ける必要はなく、成形品の一部に溝を設けて部分的に外周縁部の見栄えを向上させるだけでも良い。
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明方法に従って膨張成形品10を製造できる成形装置12の一例の要部を説明する断面図で、(a) は圧縮成形工程、(b) は膨張成形工程である。成形装置12は、一対の成形型として固定金型(下型)14および可動金型(上型)16を備えており、可動金型16は一直線方向である上下方向へ直線往復移動させられて、固定金型14に対して接近離間させられるようになっている。固定金型14には成形凸部18が設けられている一方、可動金型16には、その成形凸部18に摺動可能に嵌合する成形凹部20が設けられており、それ等の成形凸部18と成形凹部20との間に膨張成形品10に対応するキャビティが形成されるようになっている。
【0018】
上記キャビティを形成している成形凸部18の先端面、および成形凹部20の凹面は、それぞれ成形面に相当し、成形凸部18の先端面は、目的とする膨張成形品10の裏面に対応する面形状を成している一方、成形凹部20の凹面は、膨張成形品10の表面に対応する面形状を成している。また、可動金型16の成形凹部20には、その移動方向と直角な方向の外周縁より所定寸法だけ内側に、全周に亘って移動方向と平行な環状の凸条22が設けられており、圧縮成形工程で成形される圧縮成形品28および膨張成形品10の表面側にはそれぞれ凸条22に対応する環状溝24、25が形成される。
【0019】
そして、図1(a) の圧縮成形工程では、可動金型16が射出位置まで下降させられることにより、上下方向の寸法が目的とする膨張成形品10よりも小さいキャビティが形成され、ガラス繊維等の補強用繊維を含んだ熱可塑性樹脂の溶融樹脂材料が射出装置26からキャビティ内に射出されて充填されるとともに、その状態で可動金型16が一定時間加圧状態に保持されることにより、キャビティ内の溶融樹脂材料が圧縮成形される。図2の(a) は、この状態におけるキャビティ内の圧縮成形品28の外周部付近を示す拡大断面図で、加圧により高い寸法精度で前記成形凸部18および成形凹部20の成形面に対応する表面形状に成形されるとともに、それ等の成形面との接触による冷却でやや硬化させられたスキン層30が表層部に形成される。スキン層30の内側は、未だ硬化する前の溶融状態であるが、前記凸条22に対応して形成される環状溝24の下方部分、すなわち薄肉の溝底部分32は、硬化したスキン層30のみにて構成されている。凸条22の突出寸法は、このように溝底部分32が硬化したスキン層30のみにて構成されるように、圧縮成形品28の厚さ寸法を考慮して定められている。
【0020】
その後、図1(b) の膨張成形工程で、キャビティが目的とする膨張成形品10と略同じ大きさになるように可動金型16を上方へ離間させるとともに、ガス注入装置34によりスキン層30内の溶融樹脂に所定圧力のガスを注入することにより、そのガス圧および前記補強用繊維のスプリングバック現象の作用で溶融樹脂を膨張させて目的形状とする。図2の(b) は、この状態におけるキャビティ内の膨張成形品10の外周部付近を示す拡大断面図で、ガスは前記凸条22が設けられた部分よりも内側の本体部分36に注入され、可動金型16の上昇に伴って膨張させられる。凸条22よりも外周側の外周縁部38は、前記圧縮成形工程で硬化させられた溝底部分32の存在によりガスが注入されず、可動金型16の上昇に拘らず圧縮成形時の形状と略同じ形状に保持される。
【0021】
また、上記膨張成形工程では、本体部分36が上下方向へ膨張させられることにより、その本体部分36の外周縁、すなわち凸条22によって形成される環状溝24の内側側壁を構成している部分のスキン層30に引張力が作用して破れる可能性があるが、本体部分36の溶融樹脂は凸条22の下方部分、すなわち外周縁部38との間の環状溝24内へ流入するだけで、外部に流出する恐れはない。特に、本実施例では圧縮成形工程で成形される外周縁部38が、目的とする膨張成形品10の高さ寸法と略同じ寸法で形成されるようになっているため、膨張成形時に可動金型16が上方へ離間させられても、凸条22が外周縁部38と膨張成形される本体部分36との間に位置させられ、溶融樹脂が外部へ流出することが確実に防止される。このような環状溝24内への溶融樹脂の流入や本体部分36の膨張により、本体部分36と外周縁部38との間の表面側部分には、凸条22によって新たな環状溝25が形成される。
【0022】
そして、溶融樹脂が略完全に冷却・硬化した後に、可動金型16を上方へ離間させて成形品を取り出すことにより、凸条22に対応する環状溝25が本体部分36と外周縁部38との間に設けられた膨張成形品10が得られる。
【0023】
ここで、本実施例では圧縮成形工程で成形される圧縮成形品28に環状溝24が設けられ、その溝底部分32が硬化させられることにより、膨張成形工程でその環状溝24よりも外周側へガスが侵入することが阻止され、外周縁部38の膨張が防止されるようになっているため、膨張成形時に外周縁部38のスキン層30が破れて溶融樹脂が外部に露出する恐れがない。環状溝24よりも内側の本体部分36では、ガス圧や補強用繊維のスプリングバックで溶融樹脂が上下方向へ目的形状まで膨張させられ、その膨張時に、環状溝24の内側側壁を構成しているスキン層30が破れる可能性があるが、溶融樹脂は環状溝24内に流入するだけで外部に露出しないため、膨張成形品10の見栄えが損なわれることはない。
【0024】
また、このように膨張成形時にスキン層30が破れても良いことから、スキン層30を薄くすることが可能で、膨張成形時にも膨張成形品10の表面(スキン層30)が成形凹部20の成形面に全面に亘って良好に押圧されることにより、成形面に対応する高い精度の表面形状が得られる。
【0025】
なお、上記膨張成形品10は表皮材を備えていないが、図3に示すように、本体部分36の表面に表皮材40を固着した膨張成形品42を製造することもできる。すなわち、可動金型16の成形面(成形凹部20)に表皮材40を配置して、その外周端末を凸条22の内側に位置決めした状態で、前記圧縮成形工程および膨張成形工程を実施することにより、溶融樹脂の成形と同時に表皮材40を一体成形して表面に一体的に固着することができるのである。表皮材40には、必要に応じて予め接着剤を塗布しておけば良い。
【0026】
この場合には、前記実施例と同様の作用効果が得られるのに加えて、表面に一体成形される表皮材40の外周端末が環状溝25内に位置させられているため、表皮材40の外周端末が外部に露出することがないとともに、切断や巻き込みなどの面倒な後処理作業が不要である。
【0027】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を好適に実施できる成形装置の一例を説明する断面図で、(a) は圧縮成形工程、(b) は膨張成形工程である。
【図2】図1の圧縮成形工程、膨張成形工程における成形品の外周部付近を示す拡大断面図である。
【図3】本体部分の表面に表皮材が一体成形されて固着される実施例を説明する断面図で、図2に対応する図である。
【図4】従来の成形方法を説明する断面図で、図2に対応する図である。
【図5】従来の成形方法の別の例を説明する断面図で、図2に対応する図である。
【符号の説明】
10、42:膨張成形品 14:固定金型(成形型) 16:可動金型(成形型) 24、25:環状溝 30:スキン層 32:溝底部分 38:外周縁部 40:表皮材
Claims (3)
- 一直線方向へ接近離間させられる一対の成形型によって、該一直線方向の寸法が目的とする成形品よりも小さいキャビティを形成し、補強用繊維を含んだ溶融樹脂を該キャビティ内で圧縮した状態で成形することにより、該溶融樹脂の表層部にやや硬化したスキン層を形成する圧縮成形工程と、
前記溶融樹脂が冷却・硬化する前に、前記キャビティが目的とする成形品と略同じ大きさになるように前記一対の成形型を前記一直線方向へ離間させるとともに、該溶融樹脂の内部にガスを注入することにより、前記補強用繊維のスプリングバック現象およびガス圧の作用で該溶融樹脂を膨張させて目的形状とする膨張成形工程と、
を有する繊維強化樹脂の成形方法において、
前記圧縮成形工程における前記キャビティのうち前記一直線方向と直角な方向の外周縁より所定寸法だけ内側に溝を設け、該圧縮成形工程で該溝の底部が硬化させられることにより、前記膨張成形工程で前記ガスが該溝よりも外周側へ侵入することを阻止し、外周縁部の膨張を防止するようになっている
ことを特徴とする繊維強化樹脂の成形方法。 - 前記溝は前記キャビティの全周に設けられる環状溝で、
該環状溝が設けられる側が前記成形品の表面側であり、
該表面を成形する側の成形型の成形面と前記溶融樹脂との間に表皮材が配置されて、該溶融樹脂の成形と同時に該表皮材を一体成形するようになっているとともに、該表皮材の外周端末は前記環状溝内に位置させられている
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂の成形方法。 - 請求項1または2に記載の繊維強化樹脂の成形方法を用いて製造され、外周縁より所定寸法だけ内側に該所定寸法より幅が狭い溝が設けられていることを特徴とする膨張成形品。
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