JP3625047B2 - 免震棚 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は床面または地面に設置される棚、特に地震の水平加振力を逃して棚に伝えずに、地震の水平振動エネルギーを効果的に減衰させることのできる免震棚に関する。
【0002】
【従来の技術】
設置物の免震手段として、凹面と凹面を上下に対向させ、その間に移動体を介在させるものが、古くは特公大13−227号公報、近年では特開平9−25990号、同9−248223号、他の各公報で発表されている。
【0003】
例えば、図10に示される特開平9−25990号公報の免震装置01は、下面04が球状凹面に形成された上部支承体02と、上面05が球状凹面に形成されて上記上部支承体02の球状凹面04に対面して配された下部支承体03と、上部支承体02の下面04と下部支承体03の上面05との間に介装された弾性転動体06とを具備している。
建物の基礎または床07等が地震によって水平方向(H方向)に振動すると、弾性転動体06が上部支承体02と下部支承体03との対面する面04,05間で転動し、上部支承体02と下部支承体03との間に相対変位が生じ、上部支承体02への振動入力が減衰し、振動エネルギーが効果的に減衰するものである。
【0004】
また、図11に図示される特開平9−248223号公報の免震装置011は、すりばち形の凹部014,015がそれぞれ形成された台座013と上蓋012を、互いに対面させて床面017と設置物018の下面との間に設け、上記各凹部014,015の周囲に縦壁部012a,013aを形成するとともに、上記凹部014,015内に球体016を配設したものである。そして、上記縦壁部013aの上面および縦壁部012aの下面が水平面を構成しており、台座013の上に上蓋012を被せた時には、前記下面と上面が円周上に沿って当接するようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記特開平9−25990号公報の免震装置は、平常時には上部に設置された物体の重量がそのまま上部支承体02から転動体06,下部支承体03を経て床等07に働く。したがって、転動体06には、大きな圧縮荷重が加えられて非球面状の塑性変形を起しやすく、また、上部支承体02と下部支承体03の2つの球状凹面04,05のそれぞれ常に同一の一点に上記転動体06が押し付けられるので、球状凹面04,05に圧痕が生じる恐れがある。これを防ぐために上部支承体02,下部支承体03に硬度の高い材料を用いると、機械加工が困難になって、製造コストが高くなる。
【0006】
また、特開平9−248223号公報の免震装置では、上部の荷重は、球体016と縦壁部012a,013aとによって分散して支持されるので、平常時には球体016が非球面状に塑性変形することもなければ、凹部014,015に圧痕が生じる恐れもない。しかしながら、台座 013 に対して上蓋 012 を水平方向に動かそうとすると、縦壁部 012 a、 012 bの接触面に働らく上部設置物 018 の荷重により、該接触面には水平方向に大きな静止摩擦力が作用する。したがって、水平方向の力がその静止摩擦力よりも大きくならない限り、上蓋 012 は(したがって設置物 018 も)、水平に移動することはできず、その結果、免震装置 011 は有効に機能しない。
特開平9−248223号公報の免震装置ではまた、地震が発生した場合、縦壁部012aの下面が縦壁部013aの上面に対して常に平行に保持されるとは限らないため、往復振動時にそれら縦壁部012a,013aが互いにぶつかり合って破損してしまう恐れがある。
【0007】
【課題を解決するための手段および効果】
前記従来の課題を解決するために、請求項1の発明は、床面または地面に設置される棚において、上面の中心が窪んでおり、その中心窪みから離れるに伴なって上方へ弯曲したせり上げ部材が、床面または地面に一体に付設され、該せり上げ部材上面に転動体を介して載置される受け部材が、棚の下部に一体に取付けられ、前記転動体が前記せり上げ部材の上面中心窪みに位置した状態で、前記棚の重量の全部または大部分を負担し、該棚を水平方向に容易に移動できるよう支持する棚水平移動支持手段が、前記せり上げ部材または前記受け部材の外方に設けられたことを特徴とする。
【0008】
請求項1記載の発明は、上記の構成を有し、平常時には棚の重量の全部または大部分を棚水平移動支持手段が負担するので、転動体が塑性変形することもなければ、せり上げ部材の上面や受け部材の下面に圧痕が生じる恐れもない。
【0009】
また地震によって床面または地面が水平方向に振動すると、転動体が転動してせり上げ部材と受部材との間に往復相対変位が生じるが、その際水平方向だけでなく上下方向にも往復変位するから、これによって受け部材への水平振動入力が吸収されて、振動エネルギーが効果的に減衰する。
棚はまた、棚水平移動支持手段によって、水平方向に容易に移動できるように支持されているので、水平方向の力を受けると、直ちに移動して免振効果を発揮する。
【0010】
さらに、転動体とせり上げ部材または受け部材との間に滑りが生じた場合でも、その棚水平移動支持手段によって、棚の傾斜は許容角度以内に保持され、免震機能が確実に維持される。
【0011】
次に請求項2記載の発明は、前記請求項1記載の発明において、前記棚水平移動支持手段が前記棚に取付けられたことを特徴とするものである。したがって請求項2の発明では、棚の移動範囲に制約がなく、広く設定することができる。
【0012】
また請求項3記載の発明は、前記請求項1記載の発明において、棚水平移動支持手段が床面または地面に取付けられたことを特徴とするものである。したがって請求項3の発明では、棚の下部構造が簡単で、また免震棚設置工事が容易である。
【0013】
さらに請求項4記載の発明は、前記請求項1ないし請求項3いずれか記載の発明において、前記受け部材の下面は中心が高く該下面中心から離れるに伴なって下方へ弯曲したことを特徴とするものである。このように請求項4記載の発明は、せり上げ部材だけでなく受け部材にも、転動体に接する面を凹面としたので、免震効果がさらに向上する。
【0014】
次に請求項5記載の発明は、前記請求項1ないし請求項3いずれか記載の発明において、前記受け部材の下面が水平な平面に形成されたことを特徴とするものである。したがって請求項5記載の発明は、工作が容易であり、製作費を節減できる。
【0015】
請求項6記載の発明は、前記請求項1ないし請求項4いずれか記載の発明において、前記せり上げ部材の上面および受け部材の下面が3次元曲面に形成されたことを特徴とするものである。したがって請求項6記載の発明においては、水平面内のいずれの方向の振動に対しても、免震効果を得ることができる。
【0016】
請求項7記載の発明は、前記請求項1ないし請求項4いずれか記載の発明において、前記せり上げ部材の上面および受け部材の下面が母線がほぼ水平な柱面に形成されたことを特徴とするものである。したがって請求項7記載の発明は、加工が容易であり、製作費が安価である。
【0017】
請求項8の発明は、前記請求項1ないし請求項7いずれか記載の発明において、前記棚水平移動支持手段がキャスターであることを特徴とするものである。したがって請求項8の発明は、水平面内のいずれの方向の振動にも対応して、免震効果を得ることができる。
【0018】
請求項9の発明は、前記請求項1ないし請求項7いずれかに記載の発明において、前記棚水平移動支持手段が、前記棚の下部に枢着された車輪であることを特徴とするものである。したがって請求項9の発明は、大重量の棚を支持することができ、また水平方向の移動も円滑である。
【0019】
請求項10の発明は、前記請求項1ないし請求項9いずれか記載の発明において、前記転動体が前記せり上げ部材の中心窪みに移動する方向へ前記棚を付勢する復帰手段が設けられたことを特徴とするものである。したがって請求項10記載の発明は、地震の振幅が大きい場合でも、転動体がせり上げ部材の外にこぼれ落ちることなく、せり上げ部材の中心窪みに引き戻される。
【0020】
請求項11の発明は、前記請求項10記載の発明において、前記復帰手段はバネであることを特徴とするものである。したがって請求項11の発明は、構造が簡単であり、低コストで製造できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の免震棚の一実施形態を示す正面図、図2は同免震棚の下部を示す平面図、図3は同じく免震部を示す拡大側面図、図4は同じく棚水平移動支持手段であるキャスター部を示す拡大側面図、図5は同免震棚が床面に対し相対変位した状態の免震部を示す拡大側面図、図6は同じく相対変位した状態のキャスター部を示す拡大側面図、図7は同免震棚が傾斜した状態のキャスター部と免震部を重ねて示す拡大側面図である。
【0022】
まず図1および図2において、免震棚1はいわゆる単柱式の棚であって、複数の下部前後方向部材2と、それら下部前後方向部材2の中央に直立する支柱3と、該支柱3の上端および下端をそれぞれ横方向に連結する天井横継ぎ部材4および下部横継ぎ部材5とを備え、上記下部前後方向部材2の前後端下部に設けられた棚水平移動支持手段としてのキャスター6によって、床面7上に設置されている。また、各支柱3には図示しない袖板が取付けられ、それら袖板に棚板(図示せず)が載置される。
【0023】
上記下部横継ぎ部材5の下面複数個所(図示例では3個所)には前後方向を向いた免震部取付部材8が取付けられ、その前後端下方に免震部11が設けられる。
【0024】
次に図3により、免震部11を詳細に説明する。12は床面7上に一体に付設された盤状のせり上げ部材であって、その上面12aは中心が窪んでおり、その中心窪みから離れるに伴って上方へ弯曲した形状、例えば球状凹面に形成されている。そのせり上げ部材12の上面に転動体としての球体13を介して載置された受け部材14が、前記免震部取付部材8の前後端下面に一体に取付けられる。この受け部材14の下面14aは、中心が高く該中心から離れるに伴って下方へ弯曲した形状、例えば球状凹面に形成されている。
【0025】
図4に示されるように、キャスター6は受け部材 14 の外方に設けられている。また、図1、図3および図4に示されるように、球体13がせり上げ部材12の上面12a中心窪みと受け部材14の下面14aの中心最高点に位置した状態で、キャスター6は床面7に密に接触している。したがってキャスター6は、免震棚1の全重量またはその大部分を負担し、免震棚1を水平方向に移動自在に支持している。
【0026】
次に、4個の免震部11からほぼ等距離の位置で前記下部横継ぎ部材5の下面に取付けられたバネ取付金具9と、上記免震部11のせり上げ部材12との間に4本のバネ10が架装される(図2)。
【0027】
本実施形態では、球体13がせり上げ部材12の上面12a中心窪みと受け部材14の下面14a中心最高点に位置した状態すなわち平常時に、キャスター6が床面7に密に接触し、免震棚1の全重量またはその大部分を負担するので、球体13が圧縮荷重により非球面状に塑性変形することもなければ、せり上げ部材12の上面12aや受け部材14の下面14aに圧痕が生じる恐れもない。
【0028】
床面7が地震によって水平方向に振動すると、球体13が対面するせり上げ部材12の上面12aと受け部材14の下面14a間で転動し、図5に示されるように、せり上げ部材12と受け部材14との間に相対変位が生じる。この時、受け部材14は免震棚1とともに上方へせり上げられる。その後、重力とバネ10による復元力とによって、図3に示される状態に戻り、さらに受け部材14が惰性によって図3の左側へと移動してせり上げられた後は、再び図3に示される位置へ戻るという経過を繰返す。このように受け部材14が水平運動とともに上下運動を繰返すことにより、地震の水平振動エネルギーの一部が上下振動エネルギーに変換され、その結果、受け部材14への水平振動入力が減衰して、振動エネルギーが効果的に減衰する。
【0029】
バネ10による復元力は、せり上げ部材12と受け部材14との相対変位が大きいほど強い。したがって、相対変位が図5に示される状態よりもさらに大きくなって球体13がせり上げ部材12の外にこぼれ落ちそうな場合でも、バネ10の強力な復元力によって受け部材14は図3の状態に引き戻される。
【0030】
受け部材14が地震によって図5に示される状態に変位した時、キャスター6も右方へ変位して、図6に示されるように床面7上方へ浮き上がる。この時免震棚1の全重量は受け部材14から球体13を介しせり上げ部材12へ加わる。その後図4に示される状態に戻り、さらにキャスター6が図4で左方へと移動した後、再び図4に示される位置へ戻るという経過を繰返す。図4に示される状態になった瞬間は、免震棚1の重量の少なくとも大部分を、キャスター6が負担する。
ここでキャスター6は水平方向に容易に移動できるから、地震の水平方向振動が発生すると、キャスター6に支持された免震棚1は、直ちにキャスター6、受け部材 14 とともに水平移動を開始する。
【0031】
前記は免震部11が理想的に作動し、球体13がせり上げ部材12と受け部材14の間を滑らずに転動した場合について述べたが、現実には、摩擦力の微妙なアンバランスによって、せり上げ部材12,受け部材14と球体13との間に滑りが発生し、各免震部11の球体13の移動量に差が生じることが起り得る。そうすると、図7に示されるように、免震棚1全体が傾斜することになるが、その場合、キャスター6が受け部材 14 の外方に設けられているので、一方のキャスター6が床面7に接触し、傾斜角度は所定限度内に保持される。
【0032】
本実施形態では、平常時に免震棚1の重量の全部または大部分を負担し、その免震棚1を水平面に沿って移動自在に支持するとともに、その免震棚1を水平方向に容易に移動できるよう支持する棚水平移動支持手段として、キャスター6が使用されているが、この棚水平移動支持手段はキャスターに限定されるものではなく、免震棚1の下部に枢着された車輪のほか、種々の手段を用いることができる。またこの棚水平移動支持手段は、必ずしも免震棚1に取付ける必要はなく、床面または地面に取付けるようにしてもよい。
【0033】
上記棚水平移動支持手段の他の一例として、図8に示すものは、いわゆるボールキャスターと称されるものである。球状のボール16とそのボール16を回転自在に把持する支持具17とを備え、上部の重量を支持しつつ水平な床面7上をあらゆる方向に移動できるようになっている。
【0034】
また図9に示すものは、図8に示すボールキャスターのボール16と支持具17との間に、さらに複数の小ボール18を配して、ボール16の回転を円滑にしたものである。
【0037】
本実施形態ではまた、転動体としての球体13がせり上げ部材12の中心窪みに移動する方向へ、免震棚1を付勢する復帰手段として、バネ10が使用されているが、この復帰手段はバネ以外のものでもよい。
【0038】
さらに本実施形態では、受け部材14の下面14aとせり上げ部材12の上面12aがいずれも球状凹面であったが、これらは楕円面、回転放物面等、球面以外の3次元2次曲面とすることもできるし、また母線がほぼ水平な円柱面、楕円柱面等の柱面(平行な母線を有する2次曲面)の凹みにしてもよい。柱面の凹みとするのは、水平一方向のみ、例えば前後方向のみの免震効果が得られればよい場合で、この場合は、転動体も球体でなく円柱体を用いることができ、製作費を削減できる。そして受け部材14の下面14aの方は、水平な平面であっても、本実施形態と同様の効果を得ることができ、しかも製作費をさらに節減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の免震棚の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は同免震棚の下部を示す平面図である。
【図3】図3は同じく免震部を示す拡大側面図である。
【図4】図4は同じく棚水平移動支持手段であるキャスター部を示す拡大側面図である。
【図5】図5は同免震棚が床面に対し相対変位した状態の免震部を示す拡大側面図である。
【図6】図6は同じく相対変位した状態のキャスター部を示す拡大側面図である。
【図7】図7は同免震棚が傾斜した状態のキャスター部と免震部を重ねて示す拡大側面図である。
【図8】図8は本発明に使用される棚水平移動支持手段の他の例を示す縦断側面図である。
【図9】図9は図8の変形例である。
【図10】図10は従来の免震装置の一例を示す側面図である。
【図11】図11は従来の免震装置の他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
1…免震棚、2…下部前後方向部材、3…支柱、4…天井横継ぎ部材、5…下部横継ぎ部材、6…キャスター、7…床面、8…免震部取付部材、9…バネ取付金具、10…バネ、11…免震部、12…せり上げ部材、13…球体、14…受け部材、16…ボール、17…支持具、18…小ボール。
Claims (11)
- 床面または地面に設置される棚において、
上面の中心が窪んでおり、その中心窪みから離れるに伴なって上方へ弯曲したせり上げ部材が、床面または地面に一体に付設され、
該せり上げ部材上面に転動体を介して載置される受け部材が、棚の下部に一体に取付けられ、
前記転動体が前記せり上げ部材の上面中心窪みに位置した状態で、前記棚の重量の全部または大部分を負担し、該棚を水平方向に容易に移動できるよう支持する棚水平移動支持手段が、前記せり上げ部材または前記受け部材の外方に設けられたことを特徴とする免震棚。 - 前記棚水平移動支持手段が前記棚に取付けられたことを特徴とする請求項1記載の免震棚。
- 前記棚水平移動支持手段が前記床面または地面に取付けられたことを特徴とする請求項1記載の免震棚。
- 前記受け部材の下面は中心が高く該下面中心から離れるに伴なって下方へ弯曲したことを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか記載の免震棚。
- 前記受け部材の下面が水平な平面に形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか記載の免震棚。
- 前記せり上げ部材の上面および受け部材の下面が3次元曲面に形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか記載の免震棚。
- 前記せり上げ部材の上面および受け部材の下面が母線がほぼ水平な柱面に形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか記載の免震棚。
- 前記棚水平移動支持手段がキャスターであることを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれか記載の免震棚。
- 前記棚水平移動支持手段は、前記棚の下部に枢着された車輪であることを特徴とする請求項1ないし請求項7いずれかに記載の免震棚。
- 前記転動体が前記せり上げ部材の中心窪みに移動する方向へ、前記棚を付勢する復帰手段が設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項9いずれか記載の免震棚。
- 前記復帰手段がバネであることを特徴とする請求項10記載の免震棚。
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