JP3624210B2 - メタロセン錯体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規な錯体化合物に関するものである。より詳しく言うと、本発明は有機反応用の触媒、例えば重合用の触媒として有用な錯体化合物を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンは工業的に重要な材料である。ポリオレフィンの製造方法としてはオレフィン重合触媒を用いる重合方法が重要であり、とりわけチーグラー・ナッタ触媒は低圧で分岐の少ない良好なポリオレフィンを与える触媒として広く用いられている。しかしながら、この触媒では不均一系で重合を行うために活性部位が単一ではなく、分子量分布が大きくなる(5以上)という問題を有している。
【0003】
近年、均一系の重合触媒として4族メタロセン−メチルアルミノキサン系触媒が注目されている。この触媒は活性部位が単一であり、得られる重合体の分子量分布が2に近いという特徴を有しているので、従来の不均一系触媒では得られなかったポリマーを与える触媒系として重要である。また、ポリプロピレンは高い立体規則性を有することが必須であるが、アイソタクティックなポリプロピレンを合成する触媒としては、メタロセン錯体の異性体のうち、光学活性を示す異性体(後述するように、本明細書においてこのような異性体を「ラセミ型錯体」と呼ぶ場合がある)を好適に使用できることが報告されている。
【0004】
上記のようなラセミ型のメタロセン錯体(通常は光学対掌体である2種類の「 ラセミ型錯体」の1:1の混合物であるラセミ体として得られる)は、ほとんどの場合、ラセミ型錯体の立体異性体に相当するメソ型錯体との混合物として製造される。しかしながら、メソ型錯体はアタクチックなポリマーを与える触媒活性を有しているために、重合触媒としては好ましいものではない。この理由から、できる限りメソ型錯体を除いた純粋な形態のラセミ型錯体を重合触媒として用いることが望まれている。
【0005】
ラセミ型錯体とメソ型錯体との混合物から高純度のラセミ型錯体を製造する方法として、一般的には再結晶を繰り返す方法が採用されているが、再結晶法は非常に時間がかかるうえ、繰り返しの晶出操作によって最終的な単離収率が非常に低くなるという問題を有している。このため、ラセミ型錯体を反応系で優先的に生成させてラセミ型錯体とメソ型錯体との比率を改善する方法の開発が求められていた。ラセミ型錯体を効率よく製造する方法についてはいくつかの報告があるが(例えば、Diamond, G.M., et al., J. Am. Chem. Soc., 118, p.8024, 1996)、シクロペンタジエニル環上にメチル基などの小さい置換基しか持たない架橋型メタロセン錯体については有効な方法は知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、重合用触媒などの有機反応用触媒として有用な化合物を提供することにある。より具体的には、本発明の課題の一つは、均一系の重合触媒として有用な4族メタロセン錯体であって、アイソタクティックなポリプロピレンを合成する触媒として有用なラセミ型錯体の形態のメタロセン錯体を提供することにある。また、本発明の別の課題は、上記の特徴を有するラセミ型錯体の形態のメタロセン錯体であって、簡便な工程で収率よく製造でき、かつ容易に高純度に精製可能な錯体を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、下記の一般式で特定されるメタロセン錯体では、錯体の合成反応においてラセミ型錯体が優先的に生成してラセミ型錯体/メソ型錯体の比率が著しく高まること、並びに、得られたラセミ型錯体がメソ型錯体に比べて優先的に晶出する性質を有しており、1回の再結晶操作を行うことによって極めて高純度のラセミ型錯体を単離できることを見いだした。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記の一般式:
【化2】
Figure 0003624210
〔式中、立体構造は2種の光学異性体の1つを示し;R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し;Rはメチル基、エチル基、又は(R13)(R12)C=C(R11)−(CH− で表される基(式中、R11 、R12 、及びR13 はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、mは0又は1を示す)を示し;R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し;Mはケイ素原子又はゲルマニウム原子を示し;Mはジルコニウム原子、チタン原子、又はハフニウム原子を示し;nは0又は1を示す〕で表わされる化合物を提供するものである。。
【0009】
この発明の好ましい態様によれば、R、R、及びRがそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rがメチル基又はビニル基であり、R及びRが水素原子であり、Mがケイ素原子であり、Mがジルコニウム原子であり、n が0である上記化合物;並びに、R、R、及びRが水素原子であり、Rがメチル基であり、R及びRが水素原子であり、Mがケイ素原子であり、Mがジルコニウム原子であり、n が0である上記化合物が提供される。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、上記化合物を含む有機反応用触媒が提供され、その好ましい態様によれば、重合用触媒として用いる上記触媒;オレフィン重合用触媒として用いる上記触媒;実質的にアイソタクティックなポリオレフィンの製造のための重合用触媒として用いる上記触媒が提供される。さらに本発明の別の態様によれば、上記化合物を触媒として立体規則性の高いポリオレフィンを製造する方法が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記一般式中、R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示すが、いずれも水素原子であることが好ましい。Mに結合する基として、例えば、ビニル基、アリル基などが好適である。Rはメチル基、エチル基、又は(R13)(R12)C=C(R11)−(CH− で表される基を示す。Rが示す上記の基において、R11 、R12 、及びR13 はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、mは0又は1を示すが、R11 、R12 、及びR13 がいずれも水素原子であることが好ましく、mは0であることが好ましい。Rとしてはメチル基又はビニル基(CH=CH−)が好ましく、特に好ましいのはメチル基である。R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示すが、両者が水素原子であることが好ましい。例えば、R、R、及びRがいずれも水素原子であり、Rがメチル基又はビニル基であり、R及びRがともに水素原子である化合物は、本発明の好適な化合物である。nは0又は1を示すが、0であることが好ましい。
【0012】
また、上記一般式中、Mはケイ素原子又はゲルマニウム原子を示すが、ケイ素原子であることが好ましい。Mはジルコニウム原子、チタン原子、又はハフニウム原子を示すが、ジルコニウム原子であることが好ましい。Mがケイ素原子であり、Mがジルコニウム原子である化合物は、本発明の好適な化合物である。本発明の化合物のうち、特に好適な化合物は下記の式で表わされる化合物である(式中、立体構造は相対配置を示し、絶対配置を示すものではない)。
【0013】
【化3】
Figure 0003624210
【0014】
本発明の化合物は、2個のシクロペンタジエニル配位子とM及びMとの結合様式が上記の一般式で特定される結合様式であることを特徴としている(立体構造は2種の光学異性体のうちの1つを示すが、2種の光学異性体はいずれも本発明の範囲に包含される)。本発明の化合物は、2個のシクロペンタジエニル配位子とM(配位子を含まず)及びM(配位子である2個の塩素原子を含む)との結合により形成される構造により分子全体に不斉が生じており、光学活性な2種の異性体が存在する。一方、2個のシクロペンタジエニル配位子の結合様式によっては、分子の鏡像が分子自身と同一になる1種又は2種以上の異性体が存在する。本明細書において、光学活性な上記異性体の光学対掌体のそれぞれを「ラセミ型錯体」と呼び、分子の鏡像が分子自身と同一となる(光学不活性な)異性体を「メソ型錯体」と呼ぶ。なお、本明細書において用いられる「ラセミ体」という用語は、それぞれ光学対掌体の関係にある光学活性な2種の「ラセミ型錯体」の等量混合物を意味している。
【0015】
本発明の化合物の製造方法は下記の実施例に具体的に示されているので、下記実施例にしたがって、必要に応じて原料化合物、反応試薬、反応条件などを適宜修飾又は改変することにより、上記一般式に包含される化合物をいずれも容易に製造できることが当業者に理解できよう。本発明の化合物のラセミ体は、下記の実施例に具体的に示されているように、メソ型錯体に優先して生成するという特徴を有しており、それに加えてメソ型錯体に比べて優先的に晶出するという特徴を併せ持っている。従って、従来知られていた類似化学構造の化合物に比べて精製が著しく容易であり、高純度の目的物を容易に製造できるという優れた性質を有している。
【0016】
本発明の化合物の用途は特に限定されないが、本発明の化合物、例えば、光学活性なラセミ型錯体、若しくはそれらの任意の混合物、又はラセミ体は、例えば、各種の有機合成反応の触媒として利用することができ、特に好適にはオレフィンの重合用触媒として利用することが可能である。とりわけ、プロピレンや1−ヘキセン等の重合においては、上記のいずれかの形態の化合物を用いて立体規則性の高いポリオレフィンを製造できる。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1: ケイ素架橋配位子 [メチル−1,1− ビス(2,4− ジメチルシクロペンタジエニル) ビニルシラン] の合成
1,3−ジメチルシクロペンタジエン (4.7 g, 50 mmol) のテトラヒドロフラン (100 ml) 溶液にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液 (1.69 M, 50.7 mmol)を0℃で滴下した後、室温で8時間撹拌した。反応懸濁液にメチルビニルジクロロシラン (3.5 g, 25 mmol) のテトラヒドロフラン (20 ml)溶液を1時間かけて室温で滴下し、混合液を50℃で66時間加熱したのち冷却した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、有機層を水洗して硫酸マグネシウムで乾燥した後、ヘキサンを展開液としてカラムクロマトグラフィーにより精製して標題の化合物 4.88 g を得た。
【0018】
例2:本発明の化合物の製造 [ジクロロ[1− メチル−1,1− ビス(η−2,4−ジメチルシクロペンタジエニル)−1−ビニルシラン]ジルコニウム]
例1で得た配位子(4.88 g, 19 mmol)のジメトキシエタン(100 ml) 溶液にn−ブチルリチウム(1.69 M ヘキサン溶液、38.1 mmol)を −78℃で滴下して2時間撹拌した。反応混合物を室温に戻した後、オレンジ色の反応液をさらに24時間撹拌した。昇華精製した四塩化ジルコニウム (4.4 g, 19 mmol) をジメトキシエタンに溶解し、この溶液中に上記の反応溶液を滴下した。反応混合液を70℃で40時間撹拌した後、反応液をH−NMR で分析したところ、ラセミ型錯体の選択率は77%であった。
【0019】
溶媒を減圧留去した残渣を 100 ml のトルエンに70℃で溶解し、セライトで濾過した。濾液を 30 mlまで濃縮し、−30 ℃に24時間保ったところ第1晶が得られた。ラセミ型錯体の比率は94%であり、収量は 1.51 g(収率19.2%)であった。5回再結晶を繰り返したのち、ラセミ型錯体の比率が99%以上の標題化合物(ラセミ体)を収量 2.46 g (単離収率31.3%)で得た。
H−NMR (C) :δ 0.29 (s, 3H), 1.82, 1.87, 2.24, 2.26 (4s, 3H each), 5.05, 5.16 (2d, J=2.3 Hz, 1H each), 5.87 (dd, J=20.5, 3.3 Hz, 1H), 5.96 (dd, J=15.5, 3.3 Hz, 1H), 6.24 (dd, J=20.5, 15.5 Hz, 1H), 6.32, 6.36 (2d, J=2.0 Hz, 1H each)
13C−NMR (C): −3.38, 15.71, 15.82, 16.88, 16.99, 101.59, 102.77, 112.91, 113.07, 128.20, 128.95, 129.26, 130.32, 133.73, 135.98, 137.31, 138.30
【0020】
例3:プロピレンの重合
例2で得られた本発明の化合物 (0.21 mg, 0.5μmol)、メチルアルミノキサン (Al/Zr=5,000)のトルエン溶液 (20 ml)にプロピレンを導入し4気圧にした。混合物を0℃で1時間撹拌した後、メタノールを添加して反応を終了した。反応混合物を希塩酸で洗浄し、濾過した後、減圧乾燥してポリプロピレン 2.12 g を得た。ポリマーの重量平均分子量は 256,000であった。13C−NMR による分析の結果、ペンタド[mmmm]は91%であった。
【0021】
例4:1−ヘキセンの重合
例2で得られた本発明の化合物 (0.042 mg, 0.1 μmol)、メチルアルミノキサン (Al/Zr=10,000) のトルエン溶液 (2 ml) に1−ヘキセンを加え、室温で2時間撹拌した。メタノールを添加して反応を終了し、濾過した後、減圧乾燥してポリヘキセン 1.75 g を得た。ポリマーの重量平均分子量は 457,000であり、分子量分布 (Mw/Mn)は 2.17 であった。13C−NMR による分析の結果、ペンタド[mmmm]は98%であった。
【0022】
例5:比較例 [ジクロロ[1,1− ジメチル−1,1− ビス(η−2,4−ジメチルシクロペンタジエニル)シラン]ジルコニウム] の製造
配位子であるメチル−1,1− ビス(2,4− ジメチルシクロペンタジエニル)シラン(3.67 g, 15 mmol)のテトラヒドロフラン (50 ml)溶液にn−ブチルリチウム(1.69 M ヘキサン溶液、30 mmol)を −78℃で滴下し2時間撹拌した。溶液を室温に戻した後、オレンジ色の反応液をさらに24時間撹拌した。昇華精製した四塩化ジルコニウム (3.5 g, 15 mmol) をテトラヒドロフラン (200 ml) に溶解し、この溶液に上記の反応溶液を滴下した。反応混合液を24時間加熱環流した後、反応液をH−NMR で分析したところ、ラセミ型錯体の選択率は53%であった。再結晶を繰り返したのち、ラセミ型錯体の比率が94%以上の標記化合物(ラセミ体)を収量 0.23 g(単離収率 3.8%)で得た。
【0023】
【発明の効果】
本発明の化合物は、従来知られていた類似化学構造の化合物に比べて精製が著しく容易であり、高純度の目的物を容易に製造できるという優れた性質を有している。本発明の化合物は、例えば、オレフィンの重合用触媒として利用することができ、アイソタクティックなポリオレフィンを製造できるという特徴を有している。

Claims (4)

  1. 下記の一般式:
    Figure 0003624210
    〔式中、立体構造は2種の光学異性体のうちの1つを示し;R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し;R4はメチル基、エチル基、又は(R13)(R12)C=C(R11)-(CH2)m - で表される基(式中、R11 、R12 、及びR13 はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、mは0又は1を示す)を示し;R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し;M1はケイ素原子又はゲルマニウム原子を示し;M2はジルコニウム原子、チタン原子、又はハフニウム原子を示し;nは0又は1を示す〕で表わされる化合物。
  2. R1、R2、及びR3がそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R4がメチル基又はビニル基であり、R5及びR6が水素原子であり、M1がケイ素原子であり、M2がジルコニウム原子であり、かつn が0である請求項1に記載の化合物。
  3. R1、R2、及びR3が水素原子であり、R4がメチル基である請求項2に記載の化合物。
  4. 実質的にアイソタクティックなポリプロピレンの製造のための重合用触媒であって、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の化合物を含む触媒。
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