JP3622850B2 - 立坑構造物の切断方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、立坑構造物を鉛直方向および水平方向に切断することにより、立坑構造物から、該構造物の一部を切り離す立坑構造物の切断方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
特開平11−172675号公報には、ワイヤソーを用いて立坑を掘削する技術が記載されている。この特開平11−172675号公報に記載の技術は、先端に掘削用ビットを装着し、回転しながら地中に圧入されるケーシングチューブの内側に、先端に切削用ビットを装着した円形リングを同心状に取付け、この円形リングの先端部にワイヤソーを仮止めして取付けている地中構造物水平切断装置を用いて、鉄筋コンクリート杭である地中構造物に対し、ケーシングチューブによる掘削を進行させながら下方に圧入して、地中構造物の外側をケーシングチューブと円形リングとで二重円筒状に掘削する。そして、所定深度まで掘削が進行した段階で、ケーシングチューブの圧入を止めて、ワイヤソーで地中構造物を水平に切断したら、円形リングを上方へ引き上げ、その代わりに適宜の引き上げ具をケーシングチューブ内に入れ、地中構造物の切断部を上方に引き上げて撤去する態様を繰り返して行う技術が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の技術には次のような課題があった。
第1に、特開平11−172675号公報に記載の技術のように、コンクリート構造物をワイヤーソーで水平方向に切断する場合に、ワイヤーソーによる水平切断の進行に伴って、水平切断溝が形成されるが、水平切断溝が進行するにつれて、切断溝より上方に位置する構造物の荷重により、切断溝の間隔が狭くなって、ワイヤーソーの進行が困難になる。
第2に、柱状の部材等では、切断溝に楔等を挿入することにより、ワイヤーソーの進行を補助することが可能であるが、特開平11−172675号公報に記載された技術の地中構造物のように、鉛直方向に伸びる壁面部を鉛直方向に切断した後に、この切断された端部において、壁面部から水平方向にワイヤーソーによって水平切断する場合は、楔を挿入することが困難である。
本発明は上記課題を鑑みてなされるものであり、立坑構造物を鉛直方向に切断するとともに、ワイヤーソーにより水平切断して、立坑構造物の一部を切り離す際に、ワイヤーソーが円滑に進行可能な立坑構造物の切断方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題に対し、請求項1の発明は、例えば、図1〜図3、図5、図6に示すように、立坑構造物(例えば、立坑10等)の底部(例えば、下部82,下段部22等)を鉛直方向および水平方向に切断することにより、立坑構造物(例えば、立坑10等)から、該構造物(例えば、立坑10等)の一部を切り離す立坑構造物の切断方法であって、
まず、立坑構造物(例えば、立坑10等)の底部(例えば、下部82,下段部22等)より切り離される被切断部(例えば、底部81,上段部21等)の上面側から該被切断部(例えば、底部81,上段部21等)の水平切断位置81a,21aまで至る孔8を、コアボーリングにより被切断部(例えば、底部81,上段部21等)と立坑構造物(例えば、立坑10等)との鉛直方向切断境界部Pに沿って連続して複数穿設することによって、前記被切断部(例えば、上段部21等)と立坑構造物(例えば、立坑10等)とを鉛直方向に切断するとともに、
その切断された境界部Pの連続孔(例えば、孔8,…等)に沿った複数箇所に大径のジャッキ挿入孔(例えば、挿入孔3,…等)を前記被切断部(例えば、上段部21等)の上面側から被切断部(例えば、底部81,上段部21等)の水平切断位置81a,21aまで鉛直方向にコアボーリングによって穿設し、
次に、前記複数のジャッキ挿入孔(例えば、挿入孔3,…等)にそれぞれジャッキ4,…を装填し、
次に、前記被切断部(例えば、底部81,上段部21等)の上方においてジャッキ4,…の上端部41どうしに架け渡すようにして横材5を配置するとともに、この横材5と被切断部(例えば、底部81,上段部21等)上面とを連結し、
次に、前記ジャッキ4,…によって横材5を上方に押し上げながら、前記境界部Pの連続孔(例えば、孔8…等)の孔底の被切断部(例えば、底部81,上段部21等)の水平切断位置81a,21aにおいて水平方向にワイヤーソー6によって切断することを特徴としている。
【0005】
請求項1の発明によれば、まず、被切断部の上面側から水平切断位置まで至る孔を、コアボーリングにより被切断部と立坑構造物との鉛直方向切断境界部に沿って連続して複数穿設することによって、被切断部と立坑構造物とを鉛直方向に切断するので、境界部の平面形状が円弧状の曲線等のような変則的な形状であっても、境界部を確実に切断できる。よって、被切断部を立坑構造物の底部から鉛直方向に切り離すことができるとともに、ワイヤーソーを配置可能となる。また、その切断された境界部の連続孔に沿った複数箇所に、大径のジャッキ挿入孔を被切断部の上面から水平切断位置まで鉛直方向にコアボーリングによって穿設するため、境界部の切断作業と、ジャッキ挿入孔の穿設作業とを並行して行うことができ、作業効率を高めることができる。次に、それら複数のジャッキ挿入孔にそれぞれジャッキを装填し、続いて、被切断部の上方においてジャッキの上端部どうしに架け渡すようにして横材を配置するとともに、この横材と被切断部上面とを連結することにより、ジャッキによる押し上げ方向の力を横材に作用させることが可能な状態となる。横材には被切断部の上面が連結されているので、ジャッキによって横材を上方に押し上げると、被切断部も上方に押し上げられ、この状態で前記境界部の連続孔の孔底の被切断部を水平切断位置において水平方向にワイヤーソーによって切断するが、被切断部の荷重が横材によって支持されているので、ワイヤーソーによる被切断部の水平切断が進行した際に、被切断部の既に切断されている部分の荷重によりワイヤーソーの進路が塞がれることがなく、ワイヤーソーが被切断部に圧迫されることを防ぐことができる。これにより、ワイヤーソーによる被切断部の水平切断を円滑に進めることができる。
【0008】
請求項2の発明は、例えば、図3に示すように、請求項1に記載の立坑構造物の切断方法において、
前記被切断部(例えば、底部81,上段部21等)にケミカルアンカー7,…を固定し、このケミカルアンカー7,…の上端部71を横材5に固定することにより、横材5と被切断部(例えば、底部81,上段部21等)とを連結することを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明によれば、ケミカルアンカーは、優れた固着力を有し、引き抜き強度が大きく、かつ、均一的で安定した固着力が得られるものであるので、被切断部と横材とを安定的にかつ強固に連結できる。したがって、ジャッキにて横材を押し上げるに伴って、被切断部を安定的に押し上げることができる。
【0010】
ケミカルアンカーは、例えば、被切断部に穿設した孔に設けられるものであり、孔に挿入される樹脂及び硬化促進剤や骨材等を充填したガラス製の管状レンジカプセルと、この管状レンジカプセルの上から挿入されるアンカーボルトからなる。このケミカルアンカーは、アンカーボルトを挿入する際の回転衝撃によって、管状レンジカプセルが破砕され、樹脂・硬化促進剤・骨材および破砕された管状レンジカプセルのガラス管等が混合され、孔の周囲に付着する。そして、普通の温度低下において、時間の経過とともに硬化し、信頼度の高い安定した固着力によって、横材と被切断部とが連結できる接着型アンカーである。
【0011】
請求項3の発明は、例えば、図5および図6に示すように、請求項1または2に記載の立坑構造物の切断方法において、
前記被切断部は、底部(例えば、下段部22等)の一部かつ内壁面101に形成された内突出部(例えば、上段部21等)であることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明によれば、被切断部は底部の一部かつ内壁面に形成された内突出部であるので、この内突出部と、立坑構造物の内壁との境界部のように、限られたスペースでも境界部を切断可能であるとともに、狭所でも、切断される内突出部を押し上げることができる。したがって、例えば、ワイヤーソーによる切断面に楔等を打ち込む場合に比して、内突出部の水平切断を容易かつ円滑に行うことができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明に係る構造物の切断方法について、第1の実施の形態として、立坑10(構造物)を掘り下げるための底部81の切除に適用した例に基づき説明する。
【0014】
第1の実施の形態における構造物の切断方法では、図1〜図3に示すように、底部81(被切断部)と立坑10(構造物)との境界部Pを鉛直方向に切断するとともに、底部81の上面側から境界部Pの複数箇所に挿入孔3,…を鉛直方向に底部81の水平切断位置81aまで穿設するコアボーリング装置30と、底部81に連結させる横材5と、横材5と底部81とを連結するケミカルアンカー7と、横材5を上方に押し上げるジャッキ4と、底部81の水平切断位置81aにおいて水平方向に切断するワイヤーソー6とを使用する。
【0015】
コアボーリング装置は、例えば、図4に示すように、ロッド管31の先端に削孔ビット32を取付けた円筒状のボーリング部材であるボーリングチューブ33を備えた周知のコンクリートコアボーリング装置30が使用されている。コンクリートコアボーリング装置30に備えるモータ(図示せず)の駆動によりボーリングチューブ33を回転させ、ロッド管31の先端に取付けた削孔ビット32により底部81の境界部P近傍の上面を所定の深さまで削孔するものである。
【0016】
横材5は、上下のフランジ51,51とこれらフランジ51,51間に設けられたウエブ52とからなるH形鋼によって構成されている。
【0017】
ケミカルアンカー7は、底部81に穿設した孔(図示せず)内に設けられるものであり、樹脂及び硬化促進剤や骨材等を充填したガラス製の管状レンジカプセル(図示せず)と、この管状レンジカプセルの上から挿入するアンカーボルト(図示せず)とにより構成されている接着型アンカーである。孔に挿入された管状レンジカプセルの上からアンカーボルトを挿入する際の回転衝撃によって、管状レンジカプセルを破砕することにより、樹脂・硬化促進剤・骨材および破砕された管状レンジカプセルのガラス管等が混合されて、孔内に付着する。そして、普通の温度低下において、時間の経過とともに硬化し、信頼度の高い安定した固着力によって、底部81とH形鋼5とが連結できる。
【0018】
ジャッキ4は、油圧ジャッキであり、一の挿入孔3に一の油圧ジャッキ4が装填され、挿入孔3に装填された状態で、挿入孔3内部から、底部81の上方へ向けて伸長可能となっている。
【0019】
ワイヤーソー6は、切断対象物である底部81にダイヤモンドワイヤーからなるワイヤー部61を押し付けて、モータ(図示せず)で駆動させるプーリ(図示せず)を高速回転させて段差2を切断するものである。ワイヤー部61は、該ワイヤー部61を挿入するための孔(ボアホール)Sに配置される。
【0020】
次に、本実施の形態における構造物の切断方法を、立坑10(構造物)の底部81(被切断部)を立坑10から切り離して掘り下げる例を用いて説明する。
【0021】
まず、底部81と立坑10の内壁101との境界部Pを鉛直方向に切断する。図4(a)に示すように、コアボーリング装置30のモータ駆動により、小径のボーリングチューブ33を回転させ、立坑10の内壁部101と、底部81との境界部Pを削孔する。そして、所定の深さまで削孔した後、図4(b)に示すように、ボーリングチューブ33を引き抜く。さらに、底部81と内壁部101との境界部Pに沿って、小径のコアボーリングを連続して行うことにより、段差2の上面側から底部81の水平切断位置81aまで至る複数の孔8を穿設する。これにより、底部81と立坑10の内壁部101との境界部Pを鉛直方向に切断することができる。
【0022】
続いて、切断された境界部Pにおいて孔8を穿設した方法と同様にして、大径のボーリングチューブを用いて、底部81の上面側から複数箇所にそれぞれ挿入孔3,…を鉛直方向に底部81の水平切断位置81aまで穿設する。この挿入孔3は、油圧ジャッキ4の面積よりやや大きい断面積に穿設する。
【0023】
次に、図3に示すように、複数の挿入孔3,…にそれぞれ油圧ジャッキ4,…を装填する。この際、H形鋼5を押し上げるために必要な油圧ジャッキ4の高さが、底部81の高さより低い場合は、調整材44を、挿入孔3の底部の油圧ジャッキ4を配置する載置面に配置して、油圧ジャッキ4と底部81との高さを調整する。
【0024】
次に、底部81の上面側において挿入孔3,…に装填した油圧ジャッキ4,…の上端部41どうしに架け渡すようにしてH形鋼5を配置するとともに、底部81にケミカルアンカー7,…を取付け、このケミカルアンカー7,…の上端部71をH形鋼5に固定して、H形鋼5と底部81とを連結する。
【0025】
次に、図1、図2に示すように、底部81上面の境界部P近傍にワイヤーソー本体部63を設置し、ワイヤー部61の巻き上げ用の孔9,9を予め鉛直方向に穿設しておき、巻き上げ用の孔9,9の底部(下部82の上面)に、ワイヤー部61の巻き上げ方向を誘導するためのプーリ62a,62bをそれぞれ取付ける。そして、底部81の境界部Pの外周側にワイヤー部61を配置するとともに、プーリ62a,62bに巻き掛けて、ワイヤー部61を水平切断位置81aからワイヤーソー本体部63に誘導する。このとき、挿入孔3においては、挿入孔3と油圧ジャッキ4との間を通すようにしてワイヤー部61を配置する。ワイヤーソー6が、底部81の水平切断方向に沿うように配置できない場合、上記のようにしてワイヤーソー6にて水平切断が可能となる。なお、図2に示すように、立坑10の外周より外側にワイヤーソー本体部63を配置することも可能である。
【0026】
そして、油圧ジャッキ4,…を上昇させてH形鋼5を上方に押し上げることにより、底部81の自重による下部82方向への加重を抑止した状態で、ワイヤー部61を境界部Pの外周側の一方から巻き取り側に向けて進行させ、底部81の水平切断位置81aにおいて水平方向に切断する。
【0027】
本実施の形態における構造物の切断方法によれば、底部81の上面側に形成した挿通孔3に油圧ジャッキ4を装填し、この油圧ジャッキ4の上端部41どうしに架け渡すようにしてH形鋼5を配置するとともに、H形鋼5と底部81とを連結するので、油圧ジャッキ4を上昇させることにより、切断途中の底部81には押し上げ方向の力が作用する。これにより、底部81の自重による、ワイヤーソー6への加圧を防ぐことができる。したがって、ワイヤーソー6による水平切断の進行に伴って、既に切断されている底部81の自重により、ワイヤー部61の走路が塞がれることを防ぎ、水平切断を円滑に行うことができる。
【0028】
また、底部81と構造物との境界部Pをコアボーリングによって連続して鉛直方向に穿設することによって境界部Pを鉛直方向に切断するとともに、底部81の上面側から境界部Pの複数箇所にそれぞれ挿入孔3,…を鉛直方向に底部81の水平切断位置81aまで穿設することにより、底部81と境界部Pとを鉛直方向に切り離すことができる。また、ワイヤーソー6のワイヤー部61を配設可能となる。この際、コアボーリング装置30を用いて、小径の孔8を穿設するだけでなく、挿入孔3を穿設するので、境界部Pの鉛直方向への切断のための穿設作業と、挿入孔3の穿設作業とを並行することができ、作業効率を高めることができる。また、立坑10の底部81を切除する際、被切断部である底部81周辺に、ワイヤーソー6を設置する場所や、水平切断部分の間に楔等を取付ける場所が無い場合であっても、立坑10の底部81を切除することができる。
【0029】
さらに、複数の挿入孔3,…にそれぞれ油圧ジャッキ4,…を装填し、次に、底部81の上方においてジャッキ4,…の上端部41どうしに架け渡すようにしてH形鋼5を配置するとともに、このH形鋼5と底部81とを連結することにより、底部81に連結されたH形鋼5を油圧ジャッキ4によって押し上げる方向に力を作用させることが可能な状態にすることができる。
【0030】
また、横材5は、H形鋼を用いるので、曲げ耐力に優れ、油圧ジャッキ4によってH形鋼の一部を押し上げても、H形鋼が曲がりにくく、より確実に底部81を押し上げることができる。
【0031】
底部81と立坑10の側壁部との境界部Pに沿って、小径のコアボーリングにより複数の孔を穿設することにより境界部Pを切断するので、複数の孔8や挿入孔3を所望の深さに均一に穿設する作業が容易に行える。
【0032】
さらに、底部81とH形鋼5とは、ケミカルアンカー7によって連結されているので、強固な固定構造を容易な方法で施工することができ、底部81とH形鋼5とを安定的かつ、強固に連結することができる。
【0033】
なお、本実施の形態では、立坑10を掘り下げるべく底部81を切除したが、これに限定されるものではなく、例えば、構造物より、所望の平面形状の被切断部を切除することとしてもよい。
【0034】
次に、本発明に係る構造物の切断方法の第2の実施の形態について、立坑10(構造物)内に構築されている段差2(内突出部)の上段部21の切除に適用した例に基づき説明する。図5は、下水を一時的に貯水するために形成された立坑10を示しており、該立坑10内部には、立坑10の上部から流入する下水の流路を誘導する段差2(内突出部)が形成されている。
【0035】
本実施の形態における構造物の切断方法では、図3,図5,図6に示すように、段差2(内突出部)の上段部21と立坑10(構造物)との境界部Pを鉛直方向に切断するとともに、段差2の上面側から境界部Pの複数箇所にそれぞれ挿入孔3,…を鉛直方向に上段部21の水平切断位置21aまで穿設するコアボーリング装置30と、上段部21に連結させる横材5と、横材5と上段部21とを連結するケミカルアンカー7と、横材5を上方に押し上げるジャッキ4と、段差2を上段部21の水平切断位置21aにおいて水平方向に切断するワイヤーソー6とを使用する。
【0036】
コアボーリング装置30と、横材5と、ケミカルアンカー7と、ジャッキ4と、ワイヤーソー6とは、第1の実施の形態と同様の構成であるので、説明を割愛し、本実施の形態における構造物の切断方法について、立坑10(構造物)に、水平方向に突出するようにして形成された段差2の上部である上段部21(内突出部)を立坑10から切り離す例を用いて説明する。
【0037】
まず、段差2の上段部21と立坑10の側壁との境界部Pを鉛直方向に切断する。図4(a)に示すように、コアボーリング装置30のモータ駆動により、小径のボーリングチューブ33を回転させ、立坑10の内壁部101と、上段部21との境界部Pを削孔する。そして、所定の深さまで削孔した後、図4(b)に示すように、ボーリングチューブ33を引き抜く。さらに、上段部21と内壁部101との境界部Pに沿って、小径のコアボーリングを連続して行うことにより、段差2の上面側から上段部21の水平切断位置21aまで至る複数の孔8を穿設する。これにより、上段部21と立坑10の内壁部101との境界部Pを鉛直方向に切断することができる。
【0038】
続いて、切断された境界部Pにおいて孔8を穿設した方法と同様にして、大径のボーリングチューブを用いて、段差2の上段部21の上面側から複数箇所にそれぞれ挿入孔3,…を鉛直方向に上突出部21の水平切断位置21aまで穿設する。この挿入孔3は、油圧ジャッキ4の面積よりやや大きい断面積に穿設する。
【0039】
次に、図3に示すように、複数の挿入孔3,…にそれぞれ油圧ジャッキ4,…を装填するとともに、図2に示すように、上段部21の境界部P以外の外周側に所定間隔で油圧ジャッキ4,…を設置する。この際、H形鋼5を押し上げるために必要な油圧ジャッキ4の高さが、上段部21の高さより低い場合は、調整材44を、挿入孔3の底部あるいは、下段部22の上面等、油圧ジャッキ4を配置する載置面に配置して、油圧ジャッキ4と上段部21との高さを調整する。
【0040】
次に、上段部21の上方において挿入孔に装填した油圧ジャッキ4と、上段部21の境界部P以外の外周側に配置した油圧ジャッキ4,4との上端部41どうしに架け渡すようにしてH形鋼5を配置するとともに、上段部21にケミカルアンカー7,…を取付け、このケミカルアンカー7,…の上端部71をH形鋼5に固定して、H形鋼5と上段部21とを連結する。
【0041】
次に、図5に示すように、境界部P以外の上段部21外周側の、上段部21と対向する位置にワイヤーソー6を設置する。ワイヤーソー6は、ワイヤーソー本体部63内部に、ワイヤー部61を巻き取るプーリ(図示せず)を備えている。ワイヤー部61を巻き取るプーリの位置が、上段部21の水平切断位置21aと等しい位置であれば、上段部21の境界部Pの外周に配置したワイヤー部61をワイヤーソー本体部63内のプーリで直接巻き取るが、ワイヤー部61の巻き取り位置と水平切断位置21aとは必ずしも一致しない。例えば、図5に示すように、ワイヤー部61の巻き取り位置が、水平切断位置21aよりも上方に位置する場合、下段部22上の立坑10の内壁近傍に、水平切断位置21aと略同じ高さとなるように水平方向に回転するプーリ62a,62aを取付けるとともに、この水平方向のプーリ62a,62a近傍に、鉛直方向に回転するプーリ62b,62bを取付けて、水平方向に伸びるワイヤー部61を、鉛直方向に誘導する。さらに、上段部21の境界部P以外の外周側面にもプーリ62c,62cを配置して、ワイヤーソー本体部63側にワイヤー部61を誘導する。そして、ワイヤーソー本体部63にプーリ62d,62eを取付けて、ワイヤーソー本体部63内の図示しないプーリに、ワイヤー部61が巻き上げられるように誘導する。
【0042】
そして、上段部21の境界部Pの外周側にワイヤー部61を配置し、水平切断位置21aまで入れる。このとき、挿入孔3においては、挿入孔3と油圧ジャッキ4との間を通すようにしてワイヤー部61を配置する。そして、油圧ジャッキ4,…を上昇させてH形鋼5を上方に押し上げることにより、上段部21の自重による下段部22方向への加重を抑止した状態で、ワイヤー部61を上段部21の境界部P以外の外周側に向けて進行させることにより、段差2を上段部21の水平切断位置21aにおいて水平方向にワイヤーソー6によって切断する。
【0043】
そして、ワイヤーソー本体部63の下方までワイヤー部61による水平切断が進行したら、ワイヤーソー6の設置位置を変更して、上記水平切断の方法と同様にして、残された部分の水平切断を行う。
【0044】
本実施の形態における構造物の切断方法によれば、上段部21の上面側に形成した挿通孔3に油圧ジャッキ4を装填し、この油圧ジャッキ4の上端部41どうしに架け渡すようにしてH形鋼5を配置するとともに、H形鋼5と上段部21とを連結するので、油圧ジャッキ4を上昇させることにより、切断途中の上段部21には押し上げ方向の力が作用する。これにより、上段部21の自重によるワイヤーソー6への加圧を防ぐことができる。したがって、ワイヤーソー6による水平切断の進行に伴って、既に切断されている上段部21の自重により、ワイヤーソー6の走路が塞がれることを防ぎ、水平切断を円滑に行うことができる。
【0045】
また、上突出部21と構造物との境界部Pをコアボーリングによって連続して鉛直方向に穿設することによって境界部Pを鉛直方向に切断するとともに、突出部2の上面側から境界部Pの複数箇所にそれぞれ挿入孔3,…を鉛直方向に上突出部21の水平切断位置21aまで穿設することにより、上突出部21と境界部Pとを切り離すことができる。この際、コアボーリング装置30を用いて、小径の孔8を穿設するだけでなく、挿入孔3を穿設するので、境界部Pの切断のための穿設作業と、挿入孔3の穿設作業とを並行することができ、作業効率を高めることができる。
【0046】
さらに、複数の挿入孔3,…にそれぞれ油圧ジャッキ4,…を装填するとともに、上段部21の境界部P以外の外周側に所定間隔で油圧ジャッキ4,…を設置し、次に、上段部21の上方においてジャッキ4,…の上端部41どうしに架け渡すようにしてH形鋼5を配置するとともに、このH形鋼5と上段部21とを連結することにより、上段部21に連結されたH形鋼5を油圧ジャッキ4によって押し上げる方向に力を作用させることが可能な状態にすることができる。
【0047】
また、上段部21とH形鋼5とは、ケミカルアンカー7によって連結されているので、強固な固定構造を容易な方法で施工することができ、上段部21とH形鋼5とを安定的かつ、強固に連結することができる。
【0048】
なお、本実施の形態では、横材5にH形鋼を用いることとしたが、これに限定されるものではなく、十分な強度を備えるものであればよい。さらに、H形鋼5を挿入孔に装填した油圧ジャッキ4と、上突出部の境界部以外の外周側に配置した油圧ジャッキ4の上端部どうしに架け渡すこととしたが、これに限定されるものではなく、要は、横材と上突出部とを連結可能であるとともに、上突出部の上面側においてジャッキの上端部どうしに横材を架け渡す構成であればよい。
【0050】
さらに、境界部Pをコアボーリングによって、連続して複数の孔を穿設することにより切断することとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、削孔等であってもよく、要は、境界部Pにおいて、構造物と突出部とを鉛直方向に切断可能であればよい。
【0051】
【発明の効果】
請求項1の発明における立坑構造物の切断方法によれば、まず、被切断部の上面側から水平切断位置まで至る孔を、コアボーリングにより被切断部と立坑構造物との鉛直方向切断境界部に沿って連続して複数穿設することによって、被切断部と立坑構造物とを鉛直方向に切断するので、境界部の平面形状が円弧状の曲線等のような変則的な形状であっても、境界部を確実に切断できる。よって、被切断部を立坑構造物から鉛直方向に切り離すことができるとともに、ワイヤーソーを配置可能となる。また、その切断された境界部の連続孔に沿った複数箇所に、大径のジャッキ挿入孔を水平切断位置まで鉛直方向にコアボーリングによってそれぞれ穿設するため、境界部の切断作業と、ジャッキ挿入孔の穿設作業とを並行して行うことができ、作業効率を高めることができる。次に、それら複数のジャッキ挿入孔にそれぞれジャッキを装填し、続いて、被切断部の上方においてジャッキの上端部どうしに架け渡すように配置した横材と被切断部上面とを連結することにより、ジャッキによる押し上げ方向の力を横材に作用させることが可能な状態となる。したがって、ジャッキによって横材を上方に押し上げた状態で、ワイヤーソーによる被切断部の水平切断が進行した際に、被切断部の既に切断されている部分の荷重によりワイヤーソーの進路が塞がれて、ワイヤーソーが被切断部の間に挟まって圧迫されることを防ぐことができる。これにより、ワイヤーソーによる被切断部の水平切断を円滑に進めることができる。
【0053】
請求項2の発明によれば、請求項1と同様の効果を得ることができるのはもちろんのこと、ケミカルアンカーを介して、被切断部と横材とが固定されるので、優れた固着力を有し、引き抜き強度が大きく、かつ、均一的で安定した固着力が得られ、被切断部と横材とが安定的に固定されることとなり、ジャッキにて横材を押し上げるに伴って、被切断部を安定的に押し上げることができる。
【0054】
請求項3の発明によれば、請求項1または2と同様の効果を得ることができるのはもちろんのこと、被切断部は底部の一部かつ内壁面に形成された内突出部であるので、この内突出部と、立坑構造物の内壁との境界部のように、限られたスペースでも境界部を切断可能であるとともに、狭所でも、切断される内突出部を押し上げることができ、内突出部の水平切断を容易かつ円滑に行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る構造物の切断方法の第1の実施の形態における立坑の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る構造物の切断方法を適用した状態を示す平面図である。
【図3】本発明に係る構造物の切断方法を適用した例を示す断面図である。
【図4】本実施の形態において用いるコアボーリング装置の概略構成を示す図である。
【図5】第2の実施の形態における構造物の切断方法を適用する立坑の概略構成を示す斜視図である。
【図6】図5の立坑に、本発明に係る構造物の切断方法を適用した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
3 挿入孔
4 油圧ジャッキ(ジャッキ)
5 H形鋼(横材)
6 ワイヤーソー
7 ケミカルアンカー
8 孔
10 立坑(構造物)
21 上段部(被切断部)
21a,81a 水平切断位置
41 上端部
81 底部(被切断部)
101 内壁面
P 境界部

Claims (3)

  1. 立坑構造物の底部を鉛直方向および水平方向に切断することにより、立坑構造物から、該構造物の一部を切り離す立坑構造物の切断方法であって、
    まず、立坑構造物の底部より切り離される被切断部の上面側から該被切断部の水平切断位置まで至る孔を、コアボーリングにより被切断部と立坑構造物との鉛直方向切断境界部に沿って連続して複数穿設することによって、前記被切断部と立坑構造物とを鉛直方向に切断するとともに、
    その切断された境界部の連続孔に沿った複数箇所に大径のジャッキ挿入孔を前記被切断部の上面側から被切断部の水平切断位置まで鉛直方向にコアボーリングによって穿設し、
    次に、前記複数のジャッキ挿入孔にそれぞれジャッキを装填し、
    次に、前記被切断部の上方においてジャッキの上端部どうしに架け渡すようにして横材を配置するとともに、この横材と被切断部上面とを連結し、
    次に、前記ジャッキによって横材を上方に押し上げながら、前記境界部の連続孔の孔底の被切断部の水平切断位置において水平方向にワイヤーソーによって切断することを特徴とする立坑構造物の切断方法。
  2. 請求項1に記載の立坑構造物の切断方法において、
    前記被切断部にケミカルアンカーを固定し、このケミカルアンカーの上端部を横材に固定することにより、横材と被切断部とを連結することを特徴とする立坑構造物の切断方法。
  3. 請求項1または2に記載の立坑構造物の切断方法において、
    前記被切断部は、底部の一部かつ内壁面に形成された内突出部であることを特徴とする立坑構造物の切断方法。
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