JP3621596B2 - ペプチド及び医薬組成物 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、新規ペプチドに関する。本発明に係る新規ペプチドは、アクアポリン5水チャンネル開口作用を有しており、医薬組成物、特に眼球乾燥症候群(ドライアイ)治療用剤等の角結膜上皮障害治療用剤として有用である。
【0002】
【従来の技術】
細胞膜を介する水の透過は、通常は、細胞膜の主要構造である脂質2重層を拡散してゆっくりと行われる。しかしながら、近年、ある種の細胞において、細胞膜を通した早い水の移動が行われることが判明し、この現象には水を選択的に通す膜タンパク質の関与が想定された。その後、実際に各種のこのような膜タンパク質が単離され、このような膜タンパク質は、水チャンネルと称されている。なお、上記水チャンネルは、水のみを選択的に通過させるものであってもよく、水のみならず、例えば、グリセロールや尿素等の低分子量の分子をも通過させるものであってもよい。
【0003】
このような水チャンネルタンパク質としては、アクアポリン(AQP)として知られている一群の膜タンパク質が単離されている。また、現在までに、幾つかのアクアポリンの遺伝子がクローニングされ、AQP1〜5、FA−CHIP、AQP−γTIP等のアクアポリンが哺乳類、両生類、植物等から発見されている(例えば、「医学のあゆみ」、173巻、9号、745〜748頁(1995年))。
【0004】
このうち、AQP5は、哺乳類の唾液腺、眼(涙腺、角膜上皮組織)、気管支等に存在していることが知られている(「医学のあゆみ」、173巻、9号、745〜748頁(1995年);Am.J.Physiol.,270,C12−C30(1996))。
【0005】
AQP5は、リーら(J.Biol.Chem.,271,8599−8604(1996))によって、ヒト及びラットについて、遺伝子配列及びそのアミノ酸配列が報告されている。AQP5は、そのアミノ酸配列上に、A−キナーゼ、C−キナーゼによるリン酸化部位が存在し、交感神経系−cAMPによる調節を受けている可能性のあることが報告されている(J.Biol.Chem.,269,1908−1912(1995))。
【0006】
AQP5は、近年、眼の涙腺組織細胞の頂端細胞膜に存在していることが示され(Ishida et al.,Biochem.Biophys.Res.Comn.,224,1−4(1996))、涙液分泌に際しての細胞横断的な水の輸送に深く関与していることが示され、涙液放出の調節を行っていることが認められた(Ishida et al.,Biochem.Biophys.Res.Comn.,238,891−895(1997))。Ishidaらは、上記文献中で、涙腺組織細胞のAQP5のC末端領域が、涙液分泌を昂進させる副交感神経刺激に対して免疫反応性を変化させることを観察しており、AQP5のC末端領域に何らかの調節タンパク質が結合し、水チャンネルが開口される場合には解離する可能性を示唆している。
【0007】
上記文献には、しかしながら、AQP5水チャンネル開口作用を有する物質への言及はなく、AQP5のC末端部分ペプチドへの言及も存在しない。
【0008】
ところで、角結膜上皮障害、なかでも眼球乾燥症候群(ドライアイ)は、眼乾燥症状を呈する症状で、涙液の異常により発症するものと言われている。ドライアイは、眼乾燥症状、結膜充血、掻痒感、異物感等を感ずることから、日常生活に支障を来して種々の弊害がもたらされる。ドライアイは、重度になると視力障害を起こすこともあり、最近ではドライアイは眼精疲労も引き起こすともいわれている。
【0009】
角結膜上皮障害の治療を目的として種々の試みが行われ、例えば、ドライアイの治療には、涙液の補填を目的とした人工涙液の点眼が用いられていた。しかしながら、人工涙液の点眼は、極めて狭い対症療法であり、発症を一時的に抑えるだけのものであった。
【0010】
角結膜上皮障害の治療を目的として、ヒアルロン酸ナトリウムを含有する点眼剤が報告されている(Current Eye Res.,11,981(1992)等)。このものは、ヒアルロン酸ナトリウムの作用である、保水性及び上皮細胞の接着/伸展促進作用を利用するものであり、基礎試験において角膜上皮創傷治癒促進作用及び保水作用を有することが示されており、臨床においては、眼球乾燥症候群等に対する有用性が報告されている。
【0011】
しかしながら、涙液の放出を促し、角結膜上皮障害を原因から治療し、即効性かつ持続性のある新規な角結膜上皮障害治療剤は存在しなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記現状に鑑み、本発明は、AQP5の部分的アミノ酸配列を有する新規ペプチド、特に、AQP5水チャンネル開口作用を有する新規ペプチドを提供することを目的とするものである。また、これを有効成分として含む新規医薬組成物、特に眼球乾燥症候群(ドライアイ)治療用剤等の角結膜上皮障害治療用剤を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的のために種々研究を重ねた結果、AQP5のC末端に存在する特定の配列を有するペプチドが、AQP5水チャンネル開口作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド(A)、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド(B)、配列表の配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド(C)、及び、配列表の配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド(D)
よりなる群から選択される少なくとも1種のペプチドである。
【0015】
本発明はまた、AQP5水チャンネル開口作用を有するペプチドであって、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド(A)、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド(B)、配列表の配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド(C)、配列表の配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド(D)、並びに、前記ペプチド(A)、(B)又は(C)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、及び、前記ペプチド(D)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列を有するペプチド
よりなる群から選択される少なくとも1種のペプチドでもある。
【0016】
本発明は、更に、本発明のペプチドを有効成分とする医薬組成物、特に眼球乾燥症候群(ドライアイ)治療用剤等の角結膜上皮障害治療用剤でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明のペプチドは、ペプチド(A)、ペプチド(B)、ペプチド(C)及びペプチド(D)である。これらは、AQP5のC末端領域の特定のアミノ酸配列を有するペプチドである。上記ペプチドは、いずれも文献未記載の新規ペプチドであることが確認されている。
【0018】
本発明のペプチドは、AQP5水チャンネル開口作用を有するペプチドである。本明細書中、AQP5水チャンネル開口作用とは、AQP5水チャンネルを開口することによって、上記水チャンネルを通した細胞膜の水透過性を向上させる作用をいう。
【0019】
上記ペプチド(A)は、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドであり、ラットAQP5の241〜256番目に相当するアミノ酸配列のC末端に更にシステイン(Cys)が結合したものである。
上記ペプチド(B)は、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドであり、ラットAQP5の231〜240番目のアミノ酸配列に相当する。
上記ペプチド(C)は、配列表の配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチドであり、ラットAQP5の245〜253番目のアミノ酸配列に相当する。
上記ペプチド(D)は、配列表の配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチドであり、ラットAQP5の247〜250番目のアミノ酸配列に相当する。
【0020】
上記ペプチド(C)は、上記ペプチド(A)のN末端側の4つのアミノ酸とC末端側の3つのアミノ酸を除外した中間領域のアミノ酸配列を有する部分ペプチドである。しかも上記ペプチド(C)及び上記ペプチド(A)は、ともにAQP5水チャンネル開口作用を有している。上記ペプチド(D)は、上記ペプチド(C)のN末端側の2つのアミノ酸とC末端側の3つのアミノ酸を除外した中間領域のアミノ酸配列を有する部分ペプチドである。しかも上記ペプチド(D)及び上記ペプチド(C)は、ともにAQP5水チャンネル開口作用を有している。
【0021】
上記のことから、上記ペプチド(D)のN末端側及びC末端側に、又は、N末端側若しくはC末端側に、1個又は数個のアミノ酸が付加したものがAQP5水チャンネル開口作用を有するものであることは、充分証明されていると言える。更に、上記ペプチド(C)のN末端側及びC末端側に、又は、N末端側若しくはC末端側に、1個又は数個のアミノ酸が付加したものがAQP5水チャンネル開口作用を有するものであることも、充分証明されているといえる。
【0022】
これらのことはまた、上記ペプチド(D)のアミノ酸配列を含む、少なくとも4〜17の長さの配列のペプチドは、AQP5水チャンネル開口作用を有するものであることを証明する。
【0023】
従って、上記ペプチド(C)に1個若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失又はは置換されたアミノ酸配列からなるペプチド、上記ペプチド(A)から1個若しくは数個のアミノ酸が欠失し又は置換したアミノ酸配列からなるペプチド、上記ペプチド(D)に1個又は数個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるペプチドを含むところの、上記ペプチド(A)、(B)又は(C)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するペプチド、及び、上記ペプチド(D)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列を有するペプチドであって、AQP5水チャンネル開口作用を有するものは本発明のペプチドである。
【0024】
また、上記ペプチド(D)のアミノ酸配列を含む、少なくとも4〜17の長さの配列のペプチドも、本発明のペプチドである。
【0025】
上記ペプチド(B)は、上記ペプチド(A)及び(C)とは異なるラットAQP5の領域のペプチドであるにもかかわらず、AQP5水チャンネル開口作用を有していることは注目に値する。
【0026】
本発明のペプチドのAQP5水チャンネル開口作用を、以下に詳細に説明する。生体組織細胞において、AQP5による水透過作用は、各種の調節を受けていることが知られている。例えば、AQP5の発現が確認されている涙腺組織細胞であっても、通常は、交感神経−副交感神経支配により涙液分泌が制御されている。従って、生体組織細胞におけるAQP5の発現とその水透過作用の発現とは同一の現象ではない。そこで、AQP5による水透過作用の確認は、AQPファミリーの遺伝子が発現していないことが知られているアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞にAQP5遺伝子を注入して発現させたものを用いて、水透過性実験を行うことによって、以下のように確認することができる。
【0027】
アフリカツメガエル卵母細胞に、mRNAを注入することによって水透過性の上昇が引き起こされる。この水透過性の上昇は、容易に観察することができるので、水チャンネルの作用の確認に広く使用されている。例えば、石橋らは、AQP3のcDNAをpSP64T由来のBlueScriptベクターに挿入し、T7RNAポリメラーゼを使用してcRNAを合成し、このcRNAをアフリカツメガエル卵母細胞に注入した場合、注入後48〜62時間のインキュベーションにより水の透過性が増加し、また、体積増加が生じたことを確認して、水チャンネルを確認している(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,6269−6273(1994))。類似の報告がScience,256,385−387(1992)にもある。
【0028】
そこで、これらと同様にして、AQP5をコードする全長cRNAをアフリカツメガエル卵母細胞にマイクロインジェクションして培養し、AQP5を発現させる。その後、低張な培養液中に卵母細胞を移動して、その体積変化から水透過性を算出する。AQP5をコードする全長cRNAを注入しなかったコントロール群は、低い水透過性の実験値を示すが、AQP5をコードする全長cRNAを注入した群の水透過性が上昇することによって、水チャンネルの作用を確認することができる。
【0029】
一方、アフリカツメガエル卵母細胞に、AQP5をコードする全長cRNA、及び、涙腺由来のポリ(A)+ RNAをマイクロインジェクションして培養し、AQP5、及び、涙腺由来の全タンパク質を発現させた系においては、AQP5による水透過作用は、後に実施例において詳細に説明するように、上述のAQP5のみを発現させた系に比べて大幅に低下する。従って、涙腺由来の未知のタンパク質の存在によってAQP5による水透過作用が抑制されることが判る。この涙腺由来の未知のタンパク質の存在によってAQP5による水透過作用が抑制される現象は、水チャンネルのゲートの開閉の変化によるものであると考えられる。
【0030】
この系に、本発明のペプチドを共存させると、AQP5による水透過作用が、抑制のない場合と同程度に回復する。従って、本発明のペプチドは、AQP5の水チャンネルを開口する作用を有する。このように、AQP5のC末端近傍の部分ペプチドである本発明のペプチドがAQP5水チャンネル開口作用を有する物質として特定されたことは、上記部分ペプチドがAQP5タンパク質自体の一部に相当するペプチドであることを考えれば、全く予想外の事実である。本発明は、この意外な知見に基づいてなされたものである。
【0031】
本発明のペプチドの調製方法としては特に限定されず、例えば、ペプチド合成装置等により固相上でペプチドを合成する方法、担体を用いない液相法によって合成する方法等の従来公知のペプチド合成方法等を使用することができる。また、このペプチドをコードするcDNAをベクターに組み込み、その形質転換体を発現させてペプチドを得る方法等の遺伝子工学的手法を利用したり、AQP5タンパク質を適当なプロテアーゼによって加水分解して得ることも可能である。
【0032】
上記方法によって調製したペプチドは、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等の公知の精製方法によって精製することができ、更に、エドマン法を利用したアミノ酸配列分析装置等によってそのアミノ酸配列を確認することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物は、本発明のペプチドを有効成分とするものである。上述のように、本発明のペプチドは、涙腺組織細胞のAQP5の水チャンネル開口作用を有するので、涙液分泌促進作用を発揮し、涙液分泌促進剤として用いることができる。しかしながら、本発明の医薬組成物は、これらの用途のみに限定されず、AQP5の発現する組織や器官の疾病治療を用途とする医薬組成物として、ヒト又は動物に投与することができるものである。
【0034】
本発明の医薬組成物は、特に、眼科用剤として好適に用いることができる。本明細書中、「眼科用剤」とは、眼の疾病治療又は機能向上若しくは促進の目的のために、ヒト又は動物に適用される医薬品を意味する。このような眼科用剤としては、例えば、角結膜上皮障害治療剤、角結膜創傷治癒促進剤、角結膜上皮伸展促進剤、眼球乾燥症候群治療剤等を挙げることができる。なかでも、眼球乾燥症候群(ドライアイ)治療剤は、OA機器の発達に伴う眼の酷使等を原因とする疾病の治療剤として重要である。
【0035】
本発明の角結膜上皮障害治療剤は、涙腺からの涙液の分泌を直接促進することが可能である。従って、涙液の補填を目的とした従来の人工涙液の点眼剤とは、その作用機序を全く異にするものである。しかも、即効性があると同時に、涙液分泌を改善するので、特に、眼球乾燥症候群(ドライアイ)治療に対して持続性をも有するという極めて有利な性質を有している。
【0036】
本発明の角結膜上皮障害治療剤の対象疾病はドライアイに限定されず、例えば、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、術後疾患、薬剤性疾患、外傷性疾患、コンタクトレンズ装用外因性疾患等を挙げることができる。
【0037】
本発明の眼科用剤は、例えば、点眼剤として適用することができる。本発明の眼科用剤を点眼剤として用いる場合には、例えば、本発明のペプチドを0.01〜100mg/mL、より好ましくは、0.1〜10mg/mL含有する水性点眼液とする。このような水性点眼液は、例えば、蒸留水又は生理食塩水に本発明のペプチドの所定量と、必要に応じて、通常点眼剤に用いられる緩衝液、防腐剤、添加剤を適当量加えて調製することができる。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、ε−アミノカプロン酸、エデト酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム等を挙げることができる。
【0038】
涙腺は、角膜及び結膜に涙液を供給し、これにより角膜及び結膜の機能を正常に保つ作用を有している。上記AQP5は、当該涙腺及び角膜上皮細胞等の細胞膜に存在し、涙腺における涙液の分泌を調節している。本発明のペプチドは、AQP5の涙腺における作用を促進、維持することが可能であり、従って、本発明の医薬組成物は、特に眼科疾病対策に有利な治療方法を提供することができる。
【0039】
なお、本発明のペプチドは、マウスの涙腺に直接投与することにより、in vivoにおいて涙液分泌促進作用があることが確認されている。
【0040】
【実施例】
以下に実験例、実施例及び製剤例等を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0041】
実験例1 涙腺ポリ(A) + RNAの調製
雄性SDラット及び雄性BALB/cマウスから涙腺を摘出し、ファルマシアRNAピュリフィケーションキット(ファルマシア社製)によって、その全RNAを単離した。ポリ(A)+ RNAは、常法に従って、オリゴ(dT)セルロースカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。
【0042】
実験例2 AQP5をコードするcDNAの構築
実験例1で得たラット涙腺ポリ(A)+ RNAをオリゴ(dT)18プライマーを用いて逆転写し、その一本鎖cDNAをPCR法の鋳型として使用した。PCR法のプライマーとしては、制限酵素切断部位を含み、かつ、ラットAQP5のcDNA中の読み取り枠(オープンリーディングフレーム)をPCR法によって増幅できるものを使用した。センスプライマーとして、5′−CAAGAATTCATGAAAAAGGAGGTGTGC−3′(配列表の配列番号5)を用いた。これは、EcoR1部位とコード領域に対応する18塩基とを含むものである。アンチセンスプライマーとしては、5′−TAGGATCCAATGCCTCTTCCCCAGCT−3′(配列表の配列番号6)を用いた。このものは、BamH1部位を含む。上記鋳型として用いる一本鎖cDNAを、上記プライマー各50pmol及びTaqポリメラーゼを用いて、PCRにより増幅させた(94℃1分、60℃1分、72℃2分を30サイクル)。PCRにより増幅させたものは、プラスミドBluescriptII KS(+)のEcoR1及びBamH1切断部位にサブクローニングした。本実験では、正確なcDNAを得るために、サブクローニングを10回行った。モデル373AオートマチックDNAシーケンサー(アプライドバイオシステム社製)を使用して、チェーンターミネーター法によってDNAの塩基配列を確認した。以下、この組み換えプラスミドを、pBluescriptII KS(+)−AQP5という。
【0043】
次に、AQP5全コード領域を増幅し、かつ、J.Biol.Chem.,258,7924−7927(1983)にその存在が報告されているアフリカツメガエルβ−グロビン遺伝子の5′側の非翻訳領域を含むように、プライマーを設計した。このように設計したセンスプライマーは、5′−ATAAGCTTGATACAGCCACCATGAAAAAGG−3′(配列表の配列番号7)(上記β−グロビン部位は下線で示す)である。このものは、HindIII部位を含む。また、アンチセンスプライマーとしては、5′−ATGGGGATCCAATGCCTCTTCCC−3′(配列表の配列番号8)を用いた。これは、BamH1部位を含むものである。鋳型として上記のpBluescriptIIKS(+)−AQP5のDNAを用い、プライマー50pmolを使って、PCR法により増幅させた(94℃1分、50℃1分、72℃2分を30サイクル)。PCR法により増幅させたものは、制限酵素HindIII及びBamH1によって加水分解し、pSP64poly(A)ベクター(プロメガ社製)のHindIII及びBamH1切断部位にサブクローニングした。以下、この組み換えプラスミドを、pSP64poly(A)−AQP5という。
【0044】
実験例3 RNA合成
上記pSP64poly(A)−AQP5のDNAのEcoR1加水分解物5μg及びSP6RNAポリメラーゼを用いて、100μL中、キャップアナログのm7 G(5′)ppp(5′)Gの存在下、30℃にて1時間、in vitroで転写させ、相補的RNA(cRNA)を合成した。その後、プラスミドDNAをRNaseフリーのDNase1(ファルマシアバイオテック)で加水分解した後、フェノール/クロロホルムで抽出し、エタノールで2回抽出した。このようにして得たcRNAは、卵母細胞に注入するために、蒸留水に懸濁した。
【0045】
実験例4 卵母細胞の調製及びタンパク質の発現
卵母細胞は、以下のようにテイラー(Taylor)らに記載の方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,82,6585−6589(1985))に準じて調製した。成熟した雌性アフリカツメガエルを麻酔し、卵母細胞(ステージV〜VI)を取り出し、バース(Barth)緩衝液(5mMトリス−HCl、88mMNaCl、1mMKCl、2.4mMNaHCO3 、0.33mMCa(NO3 )2 、0.41mMCaCl2 、0.82mMMgSO4 、ペニシリン+ストレプトマイシン10μg/mL、pH7.2、以下この配合の緩衝液を「MBS」という)中に入れた。次いで、タイプIIコラゲナーゼ2mg/mLを含み、カルシウムイオンを含まないバース緩衝液中で、ゆっくりと1時間攪拌しながら、各細胞を分散させた。この卵母細胞をバース緩衝液で充分に洗浄した。卵母細胞は、バース緩衝液中、20℃で終夜培養し、翌日に、以下の方法によって、マイクロインジェクションを行った。
【0046】
実験例3で得たAQP5のcRNAを5ng、又は、これと実験例1で得た涙腺ポリ(A)+ RNA25ngとを、蒸留水50nLに溶解させ、滅菌したガラス製マイクロピペットで、ドラモンドマイクロインジェクションシステム(Drummond社製)を使って、卵母細胞にマイクロインジェクションした。コントロール群としては、蒸留水50nLをマイクロインジェクションした。卵母細胞は、毎日、培養液を交換しながら、MBS中、20℃にて3日間培養し、AQP5及び涙腺由来のタンパク質を発現させた。
【0047】
AQP5タンパク質の発現は、卵母細胞の膜成分をSDSポリアクリルアミドグラジエントゲル電気泳動し、AQP5のC末端を用いて得たウサギ抗血清を用いたウエスタンブロッティングによって確認した。また、卵母細胞を固定化したものを用いて、蛍光免疫細胞染色法により、細胞膜におけるAQP5タンパク質の発現を蛍光顕微鏡下に確認した。
【0048】
実施例1 ペプチド(A)及び水透過性実験
配列表の配列番号1のペプチドを固相合成法によって合成し、ペプチド(A)を得た。
【0049】
実験例4の卵母細胞を、5mMジブチリルcAMPを含む等張なMBS(塩濃度約200mOsm)中、30分間インキュベートした。その後、等張なMBSに卵母細胞を移し、50ngの上記ペプチド(A)を卵母細胞にマイクロインジェクションし、等張なMBS中で4時間培養した。コントロール群としては、蒸留水をマイクロインジェクションしたものと、何も処理しなかったものとの2群を用いた。下記実験方法に従って、水透過性実験を行った。
【0050】
水透過性実験は、以下のように、文献(Science,256,385−387(1992)、及び、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,91,6269−6273(1994))に記載されている方法に準じて行った。
【0051】
等張なMBS(200mOsm)中で4時間培養した上記卵母細胞を40mOsmの低張なMBSに移し、20℃で培養しながら、10秒間隔で、位相差顕微鏡(オリンパス社製)による写真撮影を行った。体積及び体積変化は、画像解析システム(富士フィルム社製)の画像から計算した。水透過性(Pf)は、経過時間に対するV/V0 の初期の傾き(d(V/V0 )/dt)、卵母細胞の初期体積(V0 =9×10−4cm3 )、卵母細胞の初期面積(S=0.045cm2 )及び水のモル体積(VW =18cm3 /mol)から下記式により算出した。
【0052】
Pf(cm/sec)=〔V0 ×(d(V/V0 )/dt)〕/〔S×VW ×(mOsmin−mOsmout )〕
式中、Vはt時間経過後の卵母細胞の体積(cm3 )を表す。mOsminは、初期のMBSの塩濃度であり、この場合は200mOsmであった。mOsmout は、低張なMBSの塩濃度であり、この場合は40mOsmであった。
【0053】
各群ともサンプル数6で行った結果を図1に示した。1〜9の実験は、表1の条件に従って行ったものを表す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例2 ペプチド(B)及び水透過性実験
実施例1と同様にして配列表の配列番号2のペプチドを作成し、ペプチド(B)を得た。
【0056】
ペプチド(B)を50ng用いて、実施例1の方法に準じて水透過性実験を行った。
結果を図2に示した。
【0057】
実施例3 ペプチド(C)及び水透過性実験
実施例1と同様にして配列表の配列番号3のペプチドを作成し、ペプチド(C)を得た。
【0058】
ペプチド(C)を50ng用いて、実施例2と同様にして水透過性実験を行った。
結果を図2に示した。実施例2及び3においては、同一のコントロール群を用いた。図2中、コントロール群10〜12の実験及びペプチド(B)を用いた13の実験、ペプチド(C)を用いた14の実験は、それぞれ表2の条件に従って行ったものを表す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例4 ペプチド(D)及び水透過性実験
実施例1と同様にして配列表の配列番号4のペプチドを作成し、ペプチド(D)を得た。
【0061】
ペプチド(D)を50ng用いて、実施例1に準じて水透過性実験を行った。結果を図3に示した。図3中、コントロール群15、16、18の実験及びペプチド(D)を用いた17の実験は、それぞれ表3の条件に従って行った。
【0062】
【表3】
【0063】
1〜3の実験は、涙腺由来のタンパク質が存在しない卵母細胞の極めて低い水透過性を示す。4〜6の実験は、涙腺由来のポリ(A)+ RNAを注入しない卵母細胞であって、AQP5タンパク質が発現した場合の水透過性を示し、水チャンネルの作用の存在を明瞭に示している。7〜9の実験は、AQP5タンパク質とともに、涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現したタンパク質が存在する場合の卵母細胞の水透過性を示す。7〜8の実験が示すように、涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現したタンパク質が存在する場合には、水透過性が大きく低下していることが判る。4〜6の実験の結果と比較して、涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現したタンパク質が、AQP5タンパク質の水透過性を抑制していると理解できる。この条件の卵母細胞に、本発明のペプチド(A)を注入することにより、水透過性が、4〜6の実験が示すレベルに回復することが、9の実験から確証された。
【0064】
また、13〜14の実験から、本発明のペプチド(B)及びペプチド(C)もまた、水透過性のレベルを、涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現したタンパク質が存在する場合(実験11、12)に比較して、このような涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現するタンパク質が存在せず、かつ、AQP5タンパク質が発現している場合(実験10)のレベルまで、回復、維持することが確証された。
【0065】
また、本発明のペプチド(D)もまた、水透過性のレベルを、涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現したタンパク質が存在する場合(実験16)に比較して、このような涙腺由来のポリ(A)+ RNAの注入により発現するタンパク質が存在せず、かつ、AQP5タンパク質が発現している場合(実験15)のレベルまで、回復、維持する(実験17)ことが確証された。実験18から、この水透過性は、AQP5タンパク質が発現したことによる水チャンネルの作用であることが判る。
【0066】
すなわち、本発明のペプチドは、このような、AQP5タンパク質が存在している細胞の水透過性を、活性な状態に維持、回復する作用を有するものである。本明細書中における「水チャンネル開口作用」は、このような作用を含むものである。
【0067】
実施例1〜4より、本発明のペプチド(A)、ペプチド(B)、ペプチド(C)及びペプチド(D)は、涙腺ポリ(A)+ RNA由来のタンパク質によるAQP5の水透過作用抑制に対して有効に働き、明瞭な水透過性の上昇をもたらすことが明らかであり、水チャンネル開口作用を有することが確認された。
また、これらの事実から、少なくとも配列表の配列番号4のアミノ酸配列を含み、配列の長さが4〜17のアミノ酸配列を有するペプチドは、水チャンネル開口作用を有するといえる。
【0068】
製剤例1 点眼剤の調製
ペプチド(A)100mgを100mlの生理食塩水に溶解し、0.1%点眼剤とした。
【0069】
製剤例2 点眼剤の調製
ペプチド(A)1gを100mlの生理食塩水に溶解し、1.0%点眼剤とした。
【0070】
【発明の効果】
本発明の新規ペプチドは、上述の構成よりなるので、AQP5の水チャンネル開口作用を有する。また、これを使用して、医薬組成物、特に即効性及び持続性を同時に併せ有する角結膜上皮障害治療剤を提供することができる。
【0071】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で行ったペプチド(A)を用いた水透過性実験の結果を表すグラフである。
【図2】実施例2及び実施例3で行ったペプチド(B)及びペプチド(C)を用いた水透過性実験の結果を表すグラフである。
【図3】実施例4で行ったペプチド(D)を用いた水透過性実験の結果を表すグラフである。
Claims (6)
- 配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド(A)、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド(B)、配列表の配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド(C)、及び、配列表の配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド(D)
よりなる群から選択される少なくとも1種のペプチド。 - 請求項1記載のペプチドを有効成分とすることを特徴とする医薬組成物。
- 医薬組成物が、眼科用剤である請求項2記載の医薬組成物。
- 眼科用剤が、角結膜上皮障害治療剤である請求項3記載の医薬組成物。
- 角結膜上皮障害治療剤が、眼球乾燥症候群治療剤である請求項4記載の医薬組成物。
- 少なくとも配列表の配列番号4のアミノ酸配列を含み、アミノ酸配列の長さが4〜17のアクアポリン5水チャンネル開口作用を有するペプチドを含有してなる医薬組成物。
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