JP3621189B2 - ポリプロピレン系樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形性、熱融着性、外観に優れたポリプロピレン系樹脂組成物を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレンはその耐熱性、剛性の故に家電、自動車内装材、容器等種々の分野で用いられている。しかし、成形性の点においては融点が高く、溶融成型時のエネルギーが大きいという問題点がある。このポリプロピレンの結晶部はα晶、β晶、γ晶、スメティック晶等の多くの結晶形態を有している。α晶は高融点で最も安定な結晶系であり、α晶分率が大きいほど、樹脂の剛性、耐熱性が優れる。一方、β晶分率が高いポリプロピレンは溶融成型時のエネルギーが小さく成形性に優れるほか、低融解成分を含むので、熱融着性に優れる。また、β晶とα晶の球晶では、屈折率が異なるので、両者を含む系では、光がより多く散乱される結果、ポリプロピレンがポリエチレンのように不透明になる事が知られている。さらにβ晶はα晶に対してエネルギー的に不安定なので、β晶を含むPPは加工性にも優れると思われる。
これらの結晶構造は、ポリプロピレンの分子構造、結晶核剤の存在、結晶化条件によって変化する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
β晶を多量に生成させる手法としてβ晶の核剤を用いる手法が提案されている(特開平6−1892号公報、特開平6−107875号公報)。
しかしながら、これらに用いられているβ晶核剤の存在は樹脂を着色するという問題点がある。
また、Z. Phys. B−Condensed Matter 65, 347(1987)には予め相当量のβ晶を含有するフィルムに直接電子線を照射することによるβ晶分率の増加を報告しているが、溶融混練からの結晶化の際の高次構造形成やポリプロピレンの分子構造との関連についてはなんら記載されていない。
また、ドイツの文献Kunststoffe,73,258 (1983)には、γ線照射したポリプロピレンが核剤として作用することを報告しているが、β晶が増加するとの記載は見あたらない。
一方、高い溶融張力を有するポリプロピレンを得る方法として、ポリプロピレンにγ線あるいは電子線等の放射線を真空中、窒素雰囲気下で照射し熱処理した、ポリプロピレンおよび該ポリプロピレンと非照射のポリプロピレンとの組成物について特開昭62−121704号公報及び特開平2−69533号公報で開示されているが、被照射ポリプロピレンの立体規則性に関して何の規定もなく、また得られたポリプロピレンの結晶構造に関して何の記載もない。また米国特許5,266,607号公報および、5,439,949号公報にはポリプロピレン系樹脂とγ線照射したゲル化したポリプロピレン系樹脂からなる組成物を開示しているが、結晶構造に関する記載はなく、照射線量が強いため、ゲルが発生し、外観に影響を及ぼす。
また、特開昭57−180609号公報には、プロピレンポリマーに対して電離放射線照射したプロピレンポリマーを一部添加することにより分子量を低下させる方法が開示されているが、被照射ポリプロピレンの立体規則性に関して何の規定もなく、また、得られたポリプロピレンの結晶構造に関して何の記載もない。
本発明は上記問題を解決し、成形性、熱融着性、外観に優れたポリプロピレン系樹脂組成物を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、30℃で等温結晶化したプレス成形品を用いて測定した時のβ晶分率が10%以上であり、
かつ、0.1/secの歪速度での伸長粘度測定から得られたlogηとlogtとの関係を表す曲線においてlogηの最大値logηmaxと、上記曲線のlogt=0での接線をf(logt)と表した場合のf(logtmax)が、(式1)を満たし、
(式1)logηmax ≧f(logtmax)
[ここで、ηは伸長粘度の絶対値(poise)、tは伸長開始からの時間(sec)、tmaxはlogη が最大値logηmaxを示す時間(sec)を示す。]
かつ、メルトフローレートが0.05から1000g/10分であることを特徴とするものである。
この際、30℃及び100℃でそれぞれ等温結晶化した際のβ晶分率をβ(30)及びβ(100)とした場合、(式2)を満たすことが望ましい。
(式2) β(30)>β(100)
さらに、(A1)メルトフローレートが0.05〜1000g/10分である70重量%以上94重量%未満のポリプロピレン系樹脂と、
(A2)下記(a)及び(b)の物性を有するポリプロピレン系樹脂に過酸化ラジカルを発生させる処理をした6重量%を超え30重量%以下の樹脂とが過酸化ラジカルを溶融前に失活させない状態で溶融混練されてなるものであることが望ましい。
(a)メルトフローレート(MFR)が5g/10分以下。
(b)アイソタクチックペンタッド分率(IP)とMFRが(式3)の関係を満たすこと。
(式3) IP>0.0428×log(MFR)+0.97
【0005】
また、過酸化ラジカルを発生させる処理が、電離放射線照射処理であることが望ましい。
特に、その電離放射線はγ線であることが望ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は10%以上のβ晶分率を有するものである。β晶を10%以上有することにより、溶融成形時のエネルギーが小さく成形性に優れるほか、熱融着性向上の効果が見られる。好ましくは20%以上である。ここでβ晶分率とはポリプロピレン系樹脂組成物の結晶部全体に占めるβ晶の比率をいう。β晶分率は30℃で等温結晶化したプレス成形品を用いて測定した。プレス成型品は厚み0.5mmtで10cm×10cmの専用金型を用いて230℃で5分間余熱後、脱気し、60kg/cmで5分間加圧した後、30℃の冷却プレスを用いて10分間60kg/cmで加圧して作製する。β晶分率を求めるにはまず、線源として理化電気社製X線発生装置(RU−200)のNiフィルターで単色したCuK線を用い、50kV、150mAの条件で、散乱角度(2θ)が10〜30°の範囲でX線散乱プロファイルを測定した。
β晶分率の算出は、得られた散乱プロファイルに空気散乱の補正を行った後、A. Turner Jones et al; Macromol. Chem. 75, 134(1964)に記載された方法に従って行った。
【0007】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物では30℃と100℃でそれぞれ等温結晶化(プレス成形)した際のβ晶分率をβ(30)およびβ(100)とすると、(式2)を満たすことが望ましい。
(式2) β(30)>β(100)
これは、通常のポリプロピレン及びβ晶核剤を含むポリプロピレン系樹脂組成物と異なり、より低温で成形を行う方がより多くのβ晶を生成することを示している。ポリマー素材をより工業的に生産するに際し、多くの場合、押出機で溶融混練後、急冷した後、ペレタイズするという手法が一般的であり、上記の特徴は工業的生産にとって非常に有利である。
発明のポリプロピレン系樹脂組成物は
伸長粘度測定(0.1/secの歪速度)から得られたlogηとlogtの曲線においてlogηの最大値logηmaxと上記曲線のlogt=0での接線をf(logt)(fはlogtの一次関数)と表した場合のf(logtmax) (但し、tmaxはlogηが最大値logηmaxを示す時間)が、下記(式1)を示す。
(式1)logηmax≧f(logtmax)
ここで、ηは伸長粘度の絶対値、tは伸長開始からの時間を示す。
また、上記曲線は、測定上のノイズ等を除いた後のスムーズで連続的な曲線をいう。
図1を参照して説明するならば、図中の▲1▼の曲線を意味する。すなわち、logtに対するlogηのグラフにおいて、logηの曲線▲1▼と、そのlogηのlogt=0での接線f(logt)とを共に線引きする。そして、logηの曲線▲1▼の最大値logη*maxと、そのとき(logtmax)の接線f(logt)の値(f(tmax))を比較し、logηmaxがf(logtmax)よりも大きくなっていれば良い。
(式1)を満たさないと、溶融張力に欠け、フィルム、ラミネート、ブロー等の成形性が十分でない。
【0008】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は以下のように製造されたものが好ましい。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は(A1)メルトフローレートが0.05〜1000g/10分である70重量%以上94重量%未満のポリプロピレン系樹脂及び(A2)下記(a)及び(b)の物性を有するポリプロピレン系樹脂に過酸化ラジカルを発生させる処理をした6重量%を越え30重量%以下の樹脂を過酸化ラジカルを溶融前に失活させない状態で溶融混練することにより得られる。
(a)メルトフローレート(MFR)5g/10分以下
(b)アイソタクチックペンタッド分率(IP)とMFRが(式3)の関係にあること
(式3) IP>0.0428×log(MFR)+0.97
過酸化ラジカルを発生させる手法は特に限定しないが、電離放射線、特にγ線照射によるものが好ましい。
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明に用いられる(A1)のポリプロピレン系樹脂としてホモポロプロピレン、またはプロピレンを主体とし、少量(全体の10重量%以下)のエチレン、ブテン−1、ペンテン−1等のα−オレフィンとのランダム共重合体、あるいはプロピレンとエチレン、ブテン−1等のα−オレフィンとのブロック共重合体が選ばれる。
ブロック共重合体においては、該共重合体中に占めるプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体ゴム成分の割合は5〜80重量%であり、該ゴム成分中のプロピレン含量は30〜70重量%のものが用いられる。これらは1種類で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。また、(A1)のポリプロピレン系樹脂はMFRが0.05〜1000g/10分であり、好ましくは、0.1〜500g/10分である。MFRが0.05g/10分以下では成形性が悪く、一方、1000g/10分を越えると10%以上のβ晶分率が得られない。
【0010】
(A1)のポリプロピレン系樹脂のプロピレン連鎖の立体規則性は特に限定しないが、高立体規則性であるほど好ましい。
本発明の(A2)の過酸化ラジカルを有するポリプロピレン系樹脂を得る手法のひとつとして下記(a)及び(b)の物性を有するポリプロピレンにγ線処理することが挙げられる。
(a)メルトフローレート(MFR) 5g/10分以下。
(b)アイソタクチックペンダット分率(IP)とMFRが次式の関係にあること。
(式3) IP>0.0428×log(MFR)+0.97
該ポリプロピレンはホモポリプロピレン、またはプロピレンを主体とし、少量(全体の10重量%以下)のエチレン、ブテン−1、ペンテン−1等のα−オレフィンとのランダム共重合体、あるいは前述のプロピレンとエチレン、ブテン−1等のα−オレフィンとのブロック共重合体が選ばれる。これらのポリプロピレンは1種類で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
(A2)に用いられるポリプロピレンはMFRが5g/10分以下である。MFRが5g/10分を越えると10%以上のβ晶分率が得られない。
また、IPとMFRとの関係が上記式を満足しない場合にはβ晶分率が10%以上ものが得られない。
なお、IPとは同位体元素による核磁気共鳴(13C−NMR)を利用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック分率をいい、その測定法は、A. Zambelli; Macromolecules, 6, 925(1973),同,8,687,(1975)、同,13,267(1980)に詳細な記載がある。
上記式を満足するポリプロピレンを得る方法としては、例えば触媒として、マグネシウム化合物、チタン化合物、ハロゲン含有化合物および電子供与性化合物を必須成分とする固体触媒を更に一般式TiXa・Yb(式中、XはCl、Br、Iのハロゲン原子を、Yはフタル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル等の電子供与性化合物を、aは3もしくは4の整数、bは3以下の整数をそれぞれ表す)で示されるチタン化合物で処理後、ハロゲン含有化合物で洗浄し、さらに炭化水素で洗浄して得られる重合触媒を用いて重合した高立体規則性ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0012】
本発明の(A2)であるポリプロピレン系樹脂は上記ポリプロピレンに過酸化ラジカルを発生させる処理を施したもの、好ましくは電離放射線処理をしたもの、さらに好ましくはγ線照射処理して得られるものである。ポリプロピレンの重合パウダーまたはペレットを空気中または活性酸素を1%以上を含む雰囲気下でγ線照射したもの、あるいは、γ線照射後、活性酸素を1%以上含む雰囲気下で1分以上保持したものである。好ましくは3%以上さらに好ましくは5%以上である。上記の条件が満たされない場合、(A2)のポリプロピレン系樹脂が過酸化ラジカルを保有せず、本発明の特徴である、β晶10%以上のポリプロピレンが得られない。照射線量は5〜100kGyであり、好ましくは8〜80kGy、とりわけ10〜70kGyが好適である。照射時間は10秒から15分であり、照射温度は80℃以下である。
(A2)であるポリプロピレン系樹脂はγ線照射後、溶融前に過酸化ラジカルを有していることが重要であり、このことはESR測定から観測される。図2に示すように、この過酸化ラジカルは熱処理等を行うと失活してしまう。これらの失活処理は行うことなく(A1)との混合が行われることが重要である。
【0013】
ESRは試料中に含まれるラジカルを検出する装置であり、その原理は例えば、電子スピン共鳴序説(M. Bersohn, J.C. Baird著、藤原鎮男、渡辺徳子訳、東京化学同人)に示されている。また、スペクトルの解釈については、例えば電子スピン共鳴(大矢博昭、山内淳、講談社サイエンティフィック)に示されている。
本発明の(A1)成分と(A2)成分から構成されるポリプロピレン系樹脂組成物の合計量における(A2)成分の組成割合は、6重量%を超え30重量%以下であり、7〜20重量%が好ましく、とりわけ8〜20重量%が好ましい。(A2)成分の割合が6重量%以下では十分な溶融張力が得られない。一方、30重量%を越えるとコスト高となり好ましくない。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の合計量における(A1)成分の組成割合は70重量%以上94重量%未満が好ましい。(A1)成分の割合が70重量%未満ではコスト高となり好ましくない。一方、94重量%未満でないと十分な溶融張力が得られない。
【0014】
本発明の、上記(A1)成分と上記(A2)成分からなるポリプロピレン系樹脂組成物を得る方法について述べる。
まず、(A1)成分と(A2)成分を溶融混練りする。具体的には例えばヘンシェルミキサー、タンブラー、リボンミキサーなどの混合機を用いてドライブレンドした後、バンバリー、ニーダー、押出機を用いて溶融混合を行う。押出機は単軸、2軸いずれの押出機を用いてもよい。溶融混合する温度は一般に170〜300℃であり、180〜280℃で行うのが好ましい。
溶融混練後、−15〜120℃の温度範囲において冷却を行う。冷却温度は低いほどよく、好ましくは−15〜60℃、より好ましくは−15〜40℃である。冷却温度が低い方がβ晶の生成率が高くなる。
また、このときできるだけ分子配向の少ない状態で冷却を行うことが望ましい。配向の少ない状態で結晶化を行う方法としてプレス成形、押出成形等が挙げられる。押出機で溶融混練した樹脂を冷却して、目的のポリプロピレン系樹脂組成物を得るには出来るだけ配向がかからないように押出速度が遅い方が好ましい。押出機の種類によって好適な押出速度は異なるが、出来るだけ配向がかからないような押出速度で行うことが好ましい。
【0015】
上記方法により得られたポリプロピレン系樹脂組成物は、MFRが0.05〜1000g/10分を示す。
なお、本発明でいうポリプロピレン系樹脂組成物は(A1)成分と(A2)成分からなる材料をいい、ペレット状であっても、シート状などその他どのような形態のものであってもよい。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は所望により慣用の各種添加剤、例えば酸化防止剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、滑剤、防曇剤、電気特性安定剤、加工改良剤、顔料、柔軟剤などを本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。また、低MFRの(A1)成分を用いた場合においても、低MFRのポリプロピレン樹脂をベースとする(A2)を少量添加した場合は組成物のMFRがほとんど変わらないか、むしろ低下する。この分子量低下の抑制は、酸化マグネシウムや酸化亜鉛等の添加によりさらに顕著になる。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、成形性、熱融着性、外観に優れることから、発泡体、ブロー成形体、シート、ラミネート等の用途に好適に用いられる。
【0016】
【実施例】
(1)アイソタクティックペンタッド分率(IP)の測定
13C−NMRにより求められたデータを用い、A.Zambelliらの方法(Macromolecules,6,925(1973))によって算出した。
(2)メルトフローレート(MFR)の測定
JIS K−7210、表1、条件14(試験温度230℃、試験荷重2.16kgf)により測定した。
(3)β晶分率測定(X線回析法)
X線源としてNiフィルターで単色化した理学電気社製のX線発生装置(RU−200)で得たCukの線を用い、50KV、150mAの測定条件で、散乱角度(2θ)=10〜30degの範囲で試料のX線散乱プロファイルを求めた。β晶分率の算出は、得られた散乱プロファイルに空気散乱の補正を行なった後、Macromol. Chem.75,134(1964)に従って行なった。
すなわち、上記文献に従って非晶部の散乱を差し引いた後の、α晶の(110)、(040)、(130)、β晶の(300)の結晶部の散乱に対応するピークの高さをそれぞれh〔α〕(110)、h〔α〕(040)、h〔α〕(130)、h〔β〕(300)とするとβ晶分率(k)を下記の式より算出した。
k=h〔β〕(300)/(h〔α〕(110)+h〔α〕(040)+h〔α〕(130)+h〔β〕(300))
【0017】
測定はプレス成型品を用いて行った。プレス成型品は厚み0.5mmtで、10cm×10cmの専用金型を用い230℃で5分間余熱後、脱気し、60kg/cmで5分加圧した後、30℃及び100℃の冷却プレスを用いてそれぞれ10分間60kg/cmで加圧して作製した。
(4)ESR測定
測定は、日本電子社製のJeol JES−FE1XGを用い、X−Bond用サンプル管(石英製)に顆粒状にした樹脂をいれて室温、空気中、3360G及び100Gの磁場と磁場掃引幅で測定した。他の測定条件は、変調磁場の周波数、大きさ、レスポンスが100kHz、6.3G、0.01秒である。過酸化ラジカルの有無は、それと帰属されるピークの有無で判断した。
【0018】
(5)伸長粘度測定
伸長粘度(η)測定は一定速度で引張歪を受けた時の溶融状態にある試料の応力と歪とを測定することにより得られる。
logηとlogtの曲線は、溶融樹脂を東洋精機社製キャピラリーレオメータ(キャピラリー直径:3mm、長さ:15.03mm、流入角度:90度)を用い、230℃、30mm/分の条件で押し出して得られたストランドをサンプルとして、東洋精機社製の回転クランプ式伸長レオメータを用い、180℃、歪速度0.1/secの条件で測定して得られた。
(6)溶融張力(MTと略す)の測定
東洋精機製作所製メルトテンションテスター2型を用いて、温度230℃の条件でノズル(口径:2.095mm、L/D=3.8)から速度15mm/分で23℃の空気中に押出したストランドを、引取り速度6.4mm/分で引取る際にかかる荷重(g)で表した。
【0019】
(7)T型剥離強度の測定
吉井鉄工社製40mmφTダイ成形機を用いて、ダイス温度230℃、エアーギャップ10cm、チルロール温度30℃、チルロール速度3.5m/分の条件で厚さ60μmのフィルムを作製した。得られたフィルムを15mm幅のタンザク状に切り、2枚重ね合わせ、テスター産業社製のヒートシーラーで温度150℃、圧力2kg/cmで1秒間ヒートシールを行った。得られたサンプルを相対湿度50%、温度23℃の恒温室に2日放置後、引張速度300mm/分でT型剥離強度を測定した。
(8)ヘーズ(曇価)の測定
サンプルとしてプレス成形品を用いて行なった。プレス成形品は0.5mmtで、10cm×10cmの専用金型を用い、230℃で5分間60kg/cmで5分間加圧した後、30℃の冷却を行い、5分間60kg/cmで加圧して作成した。JIS K−7105に準拠し、スガ試験器社製ヘーズメータにより求めた。
【0020】
(重合体の作製)
固体触媒成分の調製
(工程1)
窒素雰囲気下、無水塩化マグネシウム47.6g(500mmol)、デカン259ミリリットルおよび2−エチルヘキシルアルコール234ミリリットル(1.5mol)を130℃で2時間加熱反応を行い均一溶液とした後、この溶液中に無水フタル酸11.1g(75mmol)を添加し、130℃にて更に1時間攪拌混合を行い、無水フタル酸を該均一溶液に溶解させた。得られた均一溶液を室温に冷却した後、−20℃に保持された四塩化チタン2.0リットル(18mol)中に1時間にわたって全量滴化した。滴化終了後、混合溶液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に到達したところでフタル酸ジイソブチル26.8ミリリットル(125mmol)を添加し、2時間110℃で攪拌反応させた。反応終了後、熱時濾過にて固体成分を採取し、その後、この反応物に四塩化チタン2.0リットル(18mol)を懸濁させた後、110℃で2時間処理させた。処理終了後、再度、熱時濾過にて固体成分を採取し、110℃のデカン2.0リットルで7回、室温のヘキサン2.0リットルで3回で洗浄した。
【0021】
(工程2)
四塩化チタン19g(100mmol)を含むヘキサン1.0リットルの溶液にフタル酸ジイソブチル27.8g(100mmol)を0℃を維持しながら約30分間滴下した。滴下終了後、40℃に昇温し30分間反応させた。反応終了後、固体成分を採取しヘキサン500ミリリットルで5回洗浄し目的物を得た。
(工程3)
上記で得られた固体触媒40gをトルエン600ミリリットルに懸濁させ、25℃でTiCl[C(COO]10.3g(22mmol)と1時間反応させた。反応終了後、四塩化チタン200ミリリットル(1.8mol)を加えて、110℃で2時間反応させた。反応終了後、熱時濾過にて固体成分を採取し、その後、この反応物にトルエン600ミリリットル、四塩化チタン200ミリリットル(1.8mol)を懸濁させた後、110℃で2時間反応させた。反応終了後、再度熱時濾過にて固体成分を採取し、110℃のトルエン1.0リットルで7回、室温のヘキサン1.0リットルで3回で洗浄した。
【0022】
予備重合触媒成分の調製
窒素雰囲気下、内容積3リットルのオートクレーブ中に、n−ヘプタン500ミリリットル、トリエチルアルミニウム6.0g(0.053mol)、t−ブチルトリメトキシシラン3.1g(0.017mol)、および上記で得られた固体触媒成分100gを投入し、0〜5℃の温度範囲で5分間攪拌した。次に固体成分1g当たり10gのプロピレンが重合するようにプロピレンをオートクレーブ中に供給し、0〜5℃の温度範囲で1時間予重合した。得られた予重合触媒は、n−ヘプタン500ミリリットルで3回洗浄を行い、以下の重合に使用した。
【0023】
プロピレンの重合
(A−1:PP−1)
窒素雰囲気下、内容積60リットルの攪拌機付きオートクレーブ1機を用いて、以下の様に重合を行った。上記の方法で調製された予備重合触媒成分2.0g、トリエチルアルミニウム11.4g(100mmol)、t−ブチルトリメトキシシラン5.9g(33mmol)をいれ、ついでプロピレン18kg、ポリマーのMFRが0.5g/10分になるように水素を供給し、70℃で30分間重合を行った。未反応ガスをパージして目的のポリプロピレンを得た。PPのアイソタクティックペンタッド分率は0.994であった。得られたPPのMFRは0.5g/10分であった。
(A−1:PP−2)
東ソー・アクゾ社製AA形三塩化チタン6g、ジエチルアルミニウムクロライド23.5gを触媒成分として用い、プロピレン18kg、ポリマーのMFRが0.5g/10分になるように水素を供給し、85℃で30分間重合を行った。未反応ガスをパージして目的のポリプロピレンを得た。PPのアイソタクティックペンタッド分率は0.941であった。得られたPPのMFRは0.5g/10分であった。
【0024】
(A−1:PP−3)
窒素雰囲気下、内容積60リットルの攪拌機付きオートクレーブ1機を用いて、以下のように重合を行った。上記の方法で調製された予備重合触媒成分2.0g、トリエチルアルミニウム11.4g(100mmol)、t−ブチルトリメトキシシラン5.9g(33mmol)をいれ、ついでプロピレン18kg、ポリマーのMFRが30g/10分になるように水素を供給し、70℃で30分間重合を行った。未反応ガスをパージして目的のポリプロピレンを得た。得られたPPのアイソタクティックペンタッド分率は0.994であった。得られたPPのMFRは32.8g/10分であった。
(A−1:PP−4)
窒素雰囲気下、内容積60リットルの攪拌機付きオートクレーブ1機を用いて、以下のように重合を行った。上記の方法で調製された予備重合触媒成分2.0g、トリエチルアルミニウム11.4g(100mmol)、t−ブチルトリメチキシシラン5.9g(33mmol)をいれ、ついでプロピレン18kg、ポリマーのエチレン含量が1.5重量%、MFRが1g/10分になるように、エチレンおよび水素を供給し、70℃で30分間重合を行った。未反応ガスをパージして目的のプロピレン−エチレン共重合体を得た。得られたランダム共重合体のMFRは0.8g/10分、エチレン含量は1.2重量%であった。
【0025】
(A−1:PP−5)
また、プロピレン−エチレンブロック共重合体として、前述のPP−1同様の触媒調製及び予備重合を行った後、次の本重合を行って得たものを用いた。
第1段重合:ホモポリプロピレンの重合
窒素雰囲気下、内容積が60リットルの攪拌器付きオートクレーブに前記方法で調製された予備重合固体触媒2.0g、トリエチルアルミニウム11.4g、ジシクロペンチルジメトキシシラン6.84gを投入し、ついでプロピレン、水素を装入し、70℃に加温し1時間重合を行った。1時間経過後、未反応のプロピレンを除去し、反応を終結した。
第2段重合:プロピレン−エチレン共重合体の重合
次に、エチレン/プロピレンの混合比を調製すると同時に水素を供給し、温度70℃で40分間重合した。反応後未反応ガスを除去し、MFRが0.75g/10分、エチレン含量が13.9重量%、ゴム成分含有量が19.7重量%であり、かつゴム成分のプロピレン含量が34.7重量%であるブロック共重合体を得た。
【0026】
(γ線照射ポリプロピレン樹脂の作製)
(A2:γPP−1)
上記のPP−1(MFR=0.5g/10分、IP=0.994:本文中の(式3)を満足する)をコーガアイソトープ(株)のγ線照射装置(自動照射台)を使用し、活性酸素濃度が5.6%の雰囲気下で50kGy(最低線量47.5kGy、最高線量52.6kGy、パースペックス線計で測定)照射した。照射後のMFRは5.6g/10分であった。過酸化ラジカルが存在することをESR測定で確認した。
(A2:γPP−2)
上記のPP−1(MFR=0.5g/10分、IP=0.994:本文中の(式3)を満足する)をコーガアイソトープ(株)のγ線照射装置(自動照射台)を使用し、活性酸素濃度が5.6%の雰囲気下で50kGy(最低線量47.5kGy、最高線量52.6kGy、パースペックス線計で測定)照射した。その後、170℃、エアー中で熱処理を行った。MFRは100g/10分であった。過酸化ラジカルが存在しないことをESR測定で確認した。
【0027】
(ポリプロピレン系樹脂組成物の作製)
実施例1〜5、比較例1〜4
表1に示す(A1)成分のポリプロピレン樹脂(PP−1〜PP−5)と、表2に示す(A2)成分のγ線照射したポリプロピレン樹脂(γPP−1〜γPP−2)ならびにジーt−ブチル−p−クレゾールを0.05重量部、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ブチルヒドロキシフェニル)プロピオネートを0.1重量%およびカルシウムステアレートを0.1重量部配合し、川田製作所社製スーパーミキサー(SMV20型)を用いて混合し、中谷機械社製二軸押出機(AS30型)を用い、温度230℃でペレット化した。押出機のスクリュー回転数は100rpmであった。
【表1】
Figure 0003621189
【表2】
Figure 0003621189
得られた各ポリプロピレン樹脂組成物の諸物性を測定した。結果を表3に示す。
【表3】
Figure 0003621189
また、実施例1及び比較例3のポリプロピレン樹脂組成物について、伸長粘度ηの経時変化を図1に示す。図1に示すように、実施例1のポリプロピレン樹脂組成物の場合、logηの曲線▲1▼と、そのlogηのlogt=0での接線f(logt)とを比較すると、logηの曲線の最大値logηmaxは、そのとき(logtmax)の接線f(logt)の値(f(logtmax))よりも大きくなっている。対して、比較例3の場合、logηの曲線▲2▼と、そのlogηのlogt=0での接線f’(logt)とを比較すると、logηの曲線の最大値logη’maxは、そのとき(logt’max)の接線f’(logt)の値(f’(logt’max))よりも小さくなっている。
【0028】
【発明の効果】
本発明の樹脂組成物は、成形性、熱融着性、外観に優れることから、発泡体、ブロー成形体、シート、ラミネートの分野に好適に用いられる。特に、外観は不透明であるため、シャンプー用容器等の中の見えない容器の用途ととして好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】logtに対するlogηの関係を示すグラフである。
【図2】ポリプロピレンのESRスペクトルである。

Claims (4)

  1. (A1)メルトフローレートが0.05〜1000g/10分である70重量%以上94重量%未満のポリプロピレン系樹脂と、(A2)メルトフローレート(MFR)が5g/10分以下で、アイソタクチックペンタッド分率(IP)とMFRが次式
    IP>0.0428×log(MFR)+0.97
    を満たすポリプロピレン系樹脂に過酸化ラジカルを発生させる処理をした6重量%を超え30重量%以下の樹脂とが過酸化ラジカルを溶融前に失活させない状態で溶融混練されたポリプロピレン系樹脂組成物であって、
    30℃で等温結晶化したプレス成形品を用いて測定した時のβ晶分率が10%以上であり、
    かつ、0.1/secの歪速度での伸長粘度測定から得られたlogη*とlogtとの関係を表す曲線においてlogη*の最大値logη*maxと、上記曲線のlogt=0での接線をf(logt)と表した場合のf(logtmax)が、(式1)を満たし、
    (式1)logη*max ≧f(logtmax)
    [ここで、η*は伸長粘度の絶対値(poise)、tは伸長開始からの時間(sec)、tmaxはlogη* が最大値logη*maxを示す時間(sec)を示す。]
    かつ、メルトフローレートが0.05から1000g/10分であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
  2. 30℃及び100℃でそれぞれ等温結晶化した際のβ晶分率をβ(30)及びβ(100)とした場合、(式2)を満たすことを特徴とする請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
    (式2) β(30)>β(100)
  3. 過酸化ラジカルを発生させる処理が、電離放射線照射処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
  4. 電離放射線がγ線であることを特徴とする請求項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
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