JP3620560B2 - 電気自動車用駆動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気自動車用駆動装置に関し、特に、モータと、その動力を車輪へ伝達するギヤユニットとを組み合わせた電気自動車用駆動装置のモータ軸の軸ずれ防止手段に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気自動車用駆動装置の一形態として、モータの動力をリダクションギヤを兼ねるカウンタギヤ機構を経てディファレンシャル装置に伝達し、車輪を駆動すべく、モータを第1軸、カウンタギヤ機構を第2軸、そしてディファレンシャル装置を第3軸上に配した3軸方式の駆動装置がある。こうしたモータとカウンタギヤ機構、ディファレンシャル装置等のギヤユニットとを組み合わせた方式の駆動装置において、コンパクト化と軽量化の要請から、例えば、これらの要素のうちで外径の大きなモータとディファレンシャル装置とを可及的に接近させて配置し、その間にカウンタギヤ機構を配置する構成を採る場合、カウンタギヤ機構の大径歯車は、ディファレンシャル装置を挟んでモータと反対側の位置に配置されることになり、該大径歯車と噛み合わせるモータ軸すなわちロータ軸上の出力歯車もモータのロータから遠い位置に配置される。こうした配置では、ロータ軸上の出力歯車とロータの外側でロータ軸を駆動装置ケースに支持すると、支持部間の距離が長くなり、軸剛性を保つ上で好ましくない。そこで、出力歯車をロータ軸の支持部の外側に配置したものがある。この配置では、出力歯車は、ロータ軸とは別体のギヤ軸に配置され、両軸の連結部がケースに支持される構成となる。
【0003】
ところで、一般に回転軸をベアリングを介して支持する場合、軸の熱膨張、加工誤差、組み付け誤差等を考慮して、ある程度の軸方向の遊びを設けざるをえないが、回転軸がモータ軸である場合、上記遊びによる回転軸の軸方向への浮動が生じることで、ステータとロータの位置ずれから磁力線変化が生じ、それによるモータ出力トルクの変動や効率の低下が起きる。そこで、従来の一般的なモータでは、モータ軸の軸方向の遊びを抑えるのに、モータ軸をその両端で支持する一方のベアリングとケース間にウェーブワッシャを介挿したり、ベアリングとケースとの間にシムを介挿して遊びを押さえ込む等の対策や、ロータの軸方向長さをステータの軸方向長さより長くして、ロータの位置ずれが生じても磁力線変化が生じないようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記ウェーブワッシャによる付勢では、ワッシャのリング径に対するウェーブの高さ、すなわちバネストロークが自ずと制約されるため、バネ定数を小さく設定することが困難であり、付勢によりベアリング負荷が増してモータの回転抵抗となり、効率の低下の原因となる。また、シムを介挿してクリアランス調整する方法では、調整の工数を要するばかりでなく、摩耗による再調整の必要性等のメンテナンス上の問題がある。また、いずれの場合も、軸方向に余分のスペースを要する点は共通している。更に、ロータの軸方向長さをステータの軸方向長さより長くする方法では、ロータの軸方向長さを必要以上に長くすることになり、モータ自体の寸法増加や重量増加を招く点で不利である。したがって、上記のような方法は、特に軽量、コンパクト化の要請の酷しい電気自動車用駆動装置への適用には問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、モータ軸の軸ずれを、装置内のデッドスペースに配置した付勢手段で防止することで、安定したモータ出力と効率が得られるようにした電気自動車用駆動装置を提供することを第1の目的とする。
【0006】
次に、本発明は、上記付勢手段をバネ定数の小さなものとして負荷抵抗を低減し、付勢による回転抵抗の増加を極力抑えることを第2の目的とする。
【0007】
ところで、ディファレンシャル装置、カウンタギヤ機構等のギヤユニットを備える駆動装置では、モータを空冷するか油冷するかを問わず、少なくともギヤユニット機構部を潤滑しなければならない。そこで、こうした駆動装置では、そのケース内に潤滑回路を設けているが、潤滑油の供給に別途オイルポンプを用いる場合は別として、機構中の適宜の回転部材による掻き上げ式の潤滑方式を採る場合、供給油路途中の油漏れを極力抑えなければ効率のよい潤滑は不可能である。そこで本発明は、上記付勢手段を利用して潤滑油を送ることで、供給油路途中の油漏れを少なくすることを第3の目的とする。
【0008】
更に、本発明は、上記付勢手段による潤滑油の送油能力を向上させることを第4の目的とする。
【0009】
更に、本発明は、上記付勢手段の配設位置の自由度を増すとともに、付勢手段の配設スペースを利用した潤滑油の循環により、モータの冷却を可能とすることを第4の目的とする。
【0010】
そして、本発明は、上記駆動装置内の潤滑油の循環のための供給油路を簡素化するとともに、該供給油路途中の接続部での油漏れを少なくすることを第5の目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するために、本発明は、ケースに固定されたステータと、ロータ軸を前記ケースに支持されてステータ内で回転するロータとからなるモータと、 前記ケースに支持され、前記ロータ軸に連結されてロータ軸の回転を車輪へ伝達するギヤ軸を備えるギヤユニットとからなり、ロータ軸の延長上にギヤ軸が設けられた電気自動車用駆動装置において、前記ロータ軸とギヤ軸の少なくとも一方の軸内に軸孔が形成され、該軸孔内に、ロータ軸を軸方向一方側に付勢して該軸の軸方向浮動を規制する付勢手段が配設され、前記付勢手段は該付勢手段が配設された軸とともに回転すべく該軸に支持され、前記ギヤ軸と前記ロータ軸はスプライン嵌合されたことを特徴とする。
【0012】
また、上記第2の目的を達成するため、前記付勢手段は、コイルスプリングとされる。
【0013】
更に、上記第3の目的を達成するため、前記ケース内で潤滑油を循環させる潤滑回路が設けられ、前記軸孔は、潤滑回路の供給油路に連通されるとともに、供給油路から軸孔内に供給される潤滑油の排出孔に連通され、前記付勢手段は、円筒形コイルスプリングとされ、それが配設された軸と共に回転すべく該軸に支持された構成が採られる。
【0014】
また、上記第4の目的を達成するため、前記円筒形コイルスプリングは、径方向に偏平な捲線で構成される。
【0015】
更に、上記第5の目的を達成するため、前記軸孔は、ギヤ軸とロータ軸双方に形成され、ロータ軸の軸孔は、少なくともロータの径方向内側に延在する構成が採られる。
【0016】
更に、上記第6の目的を達成するため、前記供給油路は、ケースから延在して軸孔に嵌合する、ケースと一体形成された潤滑油供給管を有する構成が採られる。
【0017】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1に記載の構成では、ロータ軸又はギヤ軸の軸孔内に配設された付勢手段が、ギヤ軸の一方のケース支持部に反力をとってロータ軸をその一方の支持部に押しつける作用でロータ軸の軸方向浮動が規制される。したがって、この構成によれば、ロータ軸又はギヤ軸の軸内デッドスペースを利用した付勢手段配置により、安定したモータ出力と効率を確保することができる。
【0018】
更に、請求項2に記載の構成では、付勢手段によるバネ負荷を必要最小限に小さなものとする設定が可能となり、モータの回転負荷を増加させることなく、ロータの軸方向浮動を抑えることができる。
【0019】
また、請求項3に記載の構成では、ロータ軸又はギヤ軸の軸孔が潤滑油路と付勢手段の配設スペースを兼ねることになり、しかも付勢手段の螺旋形状と、その軸との共回り回転を利用した潤滑油の送油が可能となるので、供給油路途中の油漏れを少なくして、潤滑の促進が可能となる。
【0020】
更に、請求項4に記載の構成では、付勢手段による潤滑油の送油作用を向上させて、潤滑の促進を一層顕著なものとすることができる。
【0021】
更に、請求項5に記載の構成では、モータ軸の支持形態に応じて付勢手段を合理的な位置に配設することができ、しかも、付勢手段の配設スペースを利用した潤滑油の循環により、モータのロータ側の冷却をも可能とすることができる。
【0022】
更に、請求項6に記載の構成では、駆動装置内の潤滑油の循環のための供給油路を簡素化するとともに、該供給油路途中の連結部での油漏れを少なくすることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。まず図1〜図5は、本発明の第1実施形態を示す。この装置の概略構成から説明すると、図1に軸方向断面を展開して示すように、この駆動装置は、ケース(本形態では、後記するようにケース本体10Aとリヤケース10Bとフロントケース10Cを結合して構成される。以下これらを総称してケースという)10に固定されたステータ2と、ロータ軸30をケース10に支持されてステータ2内で回転するロータ3とからなるモータMと、同じくケース10に支持され、ロータ軸30に連結されてロータ軸30の回転を図示しない車輪へ伝達するギヤ軸40を備えるギヤユニットGとからなり、ロータ軸30の延長上にギヤ軸40が設けられた構成とされている。そして、ロータ軸30とギヤ軸40の軸内には軸孔30a,40aが形成され、軸孔40a内に、ロータ軸30を軸方向一方側に付勢してロータ軸30の軸方向浮動を規制する円筒形コイルスプリング5からなる付勢手段が配設されている。
【0024】
この駆動装置は、更にケース10内で潤滑油を循環させる潤滑回路を備えており、軸孔40aは、潤滑回路の供給油路9に連通されるとともに、排出孔30bに連通されている。コイルスプリング5は、それが配設されたギヤ軸40と連れ回りすべく該軸40に一端を支持されている。この形態では、軸孔は、ギヤ軸40とロータ軸30双方に形成され、ロータ軸30の軸孔30aは、ロータ3の径方向内側に延在している。
【0025】
以下、上記駆動装置の各部について更に詳しく説明する。図1に示すように、モータM及びギヤユニットGを収納するケース10は、ケース本体10Aとリヤケース10Bとフロントケース10Cとで構成される。そして、ケース本体10Aの一方の開放端はフロントケース10Cで閉じられて、モータMを収納するモータ室mを画定し、ケース本体10Aの他方の開放端はリヤケース10Bで閉じられて、ギヤユニットGを収納するギヤ室gを画定しており、ケース本体10Aには、モータ室mとギヤ室gとを隔てる隔壁11が形成されている。一体化されたケース10内に収容されたモータM及びギヤユニットGは、実際の側面を図2に示すように、装置をコンパクト化すべく、モータMの軸とディファレンシャル装置Gdの軸との軸間距離を可能な限り詰めた配置とされており、カウンタギヤ機構Gcの軸は、前方にオフセットされている。
【0026】
図1に示すように、モータMは、モータ室mにおいて、フロントケース10Cに一端をベアリング51を介して、他端をギヤ軸40及びベアリング52を介してケース本体10Aの隔壁11に回転自在に支持されたロータ軸30と、ロータ軸30上に回り止め嵌合された多数のコア鉄心32の外周に、極数に対応する複数の永久磁石31が配設されたロータ3と、ケース本体10Aに外周をキー止め等で回り止め嵌合され、ロータ3の外周を取り巻く多数のコア鉄心を積層したコア20と、コア20のスロットにコイル部を挿通され、コア20の軸方向両端から張り出すコイルエンド21を有するステータ2とを備える。なお、図において、符号6はロータ軸30の一端に取付けられて、図示しないインバータによるモータ制御のために、ロータ軸30の回転から磁極位置を検出するレゾルバを示す。
【0027】
ギヤユニットGは、上記モータMのロータ軸30の回転を減速し、トルク増幅して、同方向回転として車輪に伝達すべく、カウンタギヤ機構Gcとディファレンシャル装置Gdとから構成されている。カウンタギヤ機構Gcは、一端をベアリング53を介してリヤケース10Bに支持され、他端をベアリング52を介してケース本体10Aの隔壁11に支持され、スプライン嵌合でロータ軸30に連結されたギヤ軸40と、同様にベアリング54,55を介してそれぞれの端部をリヤケース10B及びケース本体10Aの隔壁11に支持され、ギヤ軸40に一体形成された出力歯車41に噛み合う大径のカウンタ歯車71と、カウンタ軸70の他端側に一体に形成された小径のカウンタ歯車72とから構成されている。
【0028】
また、ディファレンシャル装置Gdは、周知のベベルギヤからなる差動ギヤと、それを収容するデフケース80と、該ケース80に固定されて、上記カウンタ歯車72に噛み合うリングギヤ81とから構成されており、デフケース80の両端は、ベアリング58,56を介してリヤケース10B及びケース本体10Aの隔壁11に支持されている。そして、デフケース80内の差動ギヤはユニバーサルジョイントを介して、図示しない左右の車軸に連結すべく、デフケース80内に挿入支持されたヨーク軸(図に想像線で示す)にスプライン係合で連結され、一方の延長されたヨーク軸82の他端部は、ケース本体10Aにベアリング57を介して支持されている。
【0029】
本発明の特徴に従い、ロータ軸30は、その一端にベアリング51のインナレースに当接し、かつロータ3のコア鉄心32を押さえるプレート33を当接させるカラー30cを備え、ギヤ軸40側の端部に近い側は縮径され、コア鉄心32の反対側を押さえるプレート33を軸止めするロックナット34のねじ込み部とされている。この形態では、ロータ軸30はギヤ軸40を介してベアリング52に支持する構成が採られているため、ロータ軸30の外端の外周スプラインより内側にギヤ軸40の端面に当接させるカラーが形成されている。ロータ軸30に形成された軸孔30aは、軸径に合わせてギヤ軸40と嵌合する側が小径の段付通し孔とされ、排出孔30bは段付通し孔の大径側のコア鉄心端部位置に合わせて形成されている。
【0030】
ギヤ軸40は、その両端にベアリング52,53のインナレースに当接するカラーを備え、ロータ軸30側の端部から遠い側に出力歯車41が一体形成されている。ギヤ軸40はロータ軸30を嵌合支持すべく、ロータ軸30側に内周スプラインが形成されている。ギヤ軸40の軸孔40aは、内径の一定な通し孔とされている。
【0031】
図3に示すように、円筒形コイルスプリング5からなる付勢手段は、軸孔40a内に、その一端をロータ軸30の端面に当接させ、他端をスラストワッシャ5aを介してスナップリング5bでギヤ軸40に支持されて、圧縮方向の所定の初期荷重を負荷して配置されている。
【0032】
この駆動装置の潤滑回路は、ギヤ室gを油溜まりとし、ディファレンシャル機構Gdのリングギヤ81を潤滑油の掻き上げ手段とし、ケース本体10Aからリヤケース10Bにかけてケース壁に形成された供給油路9とを備えている。図2〜図4に示すように、供給油路9は、ケース本体10Aとリヤケース10Bとに渡ってケース壁を利用して形成され、ケース本体10Aの隔壁11の端面11a側とリヤケース10Bのケース本体10Aとの合わせ面との間に、実質上それらの面間距離に相当する幅で、リングギヤ81の周面上方に形成されたオイルレシーバ91と、ギヤ軸40の軸孔40aの一端に、リヤケース10B側から挿入された給油パイプ90と、両者を連通させるケース内油路90a〜90cとから構成されている。
【0033】
ケース本体内油路90aは、いわばリングギヤ81をギヤポンプのギヤとするポンプ吐出路を構成し、オイルレシーバ91と同幅で、それに連通する上方に向かうに従って油路面積が狭まる油路とされている。オイルレシーバ91は、その底壁をリングギヤ81の周面近傍上部に位置する平面とし、一方の側壁をケース内油路90aの一側面とし、他方の側壁をギヤ軸40の出力歯車41の軸支持ベアリング52の外周に沿う円弧状面とする小容積のくさび状オイルリザーバを構成している。なお、オイルレシーバ91の底壁には、小径の油孔91aが形成されており、この油孔91aは、デフケース80を支持する一方のベアリング58の潤滑油路に、図示しない経路で連通されている。ケース内油路90bは、オイルレシーバ91の上方のレベルからリヤケース10B内を軸方向に延びる矩形断面の油路として形成されており、円形断面の径方向油路90cでギヤ軸40の軸端まで延び、そこに嵌め込まれて、抑え板90’で抜け止め固定された給油パイプ90で軸孔40aに連結されている。
【0034】
なお、この形態では、ギヤ室gの下方は、油溜まりとしての油量を確保すべく、リングギヤ81の幅より軸方向に相当量広げられているため、リングギヤ81による掻き上げ効果を向上すべく、リングギヤ81の両側面外周側に沿うように、一対のサイドプレート94,95が添設されており、これらはケース本体10Aとリヤケース10Bとは別体の環状のプレス板で構成され、図2及び図4にそれぞれの平面形状を示すように、掻き上げ効果に大きく関与しない上方部分に当たる周方向の一部を切り欠かれており、それぞれボルト締めでケース本体10Aとリヤケース10Bに取り付けられている。
【0035】
モータM内の油路については、軸孔30aに連通する径方向排出孔30bは、コア32の一側のみに設けられ、そられがプレート33の連絡油路33aを介してコア32の各軸方向油路32aに連通され、ステータ2のコイルエンド21の径方向内方に開口する油孔33bに通じている。また、モータ室mの形状に関しては、ケース本体10Aにモータ室mとギヤ室gとを形成することによって生じる連結スペースを利用して、モータ室m端部下方に、主としてフロントケース10Cの下方部を張り出させて形成した、モータ室m側の油溜まり96が確保されている。
【0036】
図2に示すように、モータ室mとギヤ室gとは、ケース本体10Aの端面11a側の隔壁11に形成された窓92で相互に連通されており、この窓92の下側の縁は、モータ室mの下方に回収される油の、モータ室m側のオイルレベルを、図に点線で示すロータ3の外周最下方に保つ堰として作用し、モータ室mの下方部をオイルリザーバとして機能させることを可能としている。窓92の下面には傾斜が付されている。この傾斜は、本装置の車載状態における車両の登坂路走行を配慮したもので、ケース本体10Aが前上がり(図2に車両搭載状態での本装置の前方向を符号Fで示す)に傾斜した場合でも、モータ室mのオイルレベルを下げることなく、一定に保つためのものである。更に、モータ室mとギヤ室gとは、ケース本体10Aの周面11b側の隔壁11に、端面11a側の隔壁11に形成された窓92より下方のレベル位置(図5参照)に形成された小径のオリフィス93で連通されている。このオリフィス93の作用は、モータ室m下方への油の回収が停止した状態で、回収された油を徐々にギヤ室g側へ逃がし、両室のオイルレベルを均衡させるものである。
【0037】
この形態では、モータ室mからギヤ室gへの戻し油路として2系統の油路が形成されている。第1の戻し油路は、図1及び図5に示すように、ステータ周面の最下部に沿い、ケース本体を外方に膨出させてステータ周面に沿い軸方向に延びる戻し油路90dとして構成されている。第2の戻し油路は、ギヤ室g内におけるユニバーサルジョイントのヨーク軸82収容部を通る油路として構成されており、ヨーク軸82の両端を支持するそれぞれのベアリング56,57のアウタレース外周を跨ぐ軸方向の切り欠き90e,90fをオリフィス93の下流側に設けた構成とされている。なお、上記油溜まり96の油路90dへの入口部には、油温に応じたモータ制御を行うための油温センサ7が配設されている。
【0038】
このように構成された駆動装置において、潤滑と冷却を兼ねる油は、主としてギヤ室g内に、図2に中段の点線で示すレベルLmまで入れられている。したがって、この状態で、ギヤユニットGに通常走行時より大量の潤滑を必要とする発進に備えたオイルレベルが確保される。
【0039】
以上の構成からなる駆動装置において、インバータによる制御でモータMの運転が開始されると、ロータ3の回転でロータ軸30がその一端のカラー30cとベアリング51及びギヤ軸40端との間の遊び分だけ軸方向に浮動しようとするが、ロータ軸30の軸端にはコイルスプリング5の圧縮荷重負荷による付勢力がフロントケース10C方向に作用しているため、ロータ軸30の浮動はフロントケース10C側の隙間をつめる状態で防止される。これによりステータ2に対するロータ3の位置は常時一定に保たれる。
【0040】
そして、ロータ軸30の回転は、ギヤ軸40の出力歯車41から、カウンタギヤ機構Gcのカウンタ歯車71、カウンタ軸70及びカウンタ歯車72を経てディファレンシャル装置Gdのリングギヤ81に伝達され、デフケース80の回転による差動ギヤの回転がヨーク軸を介して車輪に伝達されて駆動力となるわけであるが、この駆動状態で、リングギヤ81が、図2において反時計回りに回転し、それにより掻き上げられた油が、ケース本体10Aの内周面に沿う油路90aを押し上げられてオイルレシーバ91に送り込まれる。こうしてオイルレシーバ91に集められた油は、リヤケース10B内の油路90b,90cを経て給油パイプ90に導かれ、ギヤ軸40の軸孔40a内に供給される。
【0041】
こうして軸孔40a内に供給された潤滑油は、その内部に配置されたコイルスプリング5のギヤ軸40との共回り回転によるスクリューポンプ作用で、ロータ軸30の軸孔30a内に送り込まれるため、ギヤ軸40の軸孔40aと給油パイプ90との間の隙間からの油漏れは防止される。
【0042】
ロータ軸30の軸孔30a内に送り込まれた油は、ロータ軸30の回転による遠心力で排出孔30b、プレート内油路33a、軸方向油路32a及び油孔33bを経てコイルエンド21に吹きかけられてロータコイルを油冷する。このようにモータMを冷却した後の油は、ケース本体10Aを伝わり、あるいは各部から滴下して、ケース本体10Aの下方に集まり、主として上記第1の戻し油路を通る流れとなり、窓92の下面レベルを越えた分がギヤ室g側に戻る。コア20を挟んで反ギヤ室側のケース本体10A内に集まった油は、油路90dを通り窓92側へ導かれ、ギヤ室g側に戻る。このようにしてモータの運転中は、上記の各油路等に油が流れているので、ギヤ室g内のオイルレベルは図2の最下方の点線のレベルLlまで低下し、ケース本体10A内のオイルレベルは、ロータ3の回転により攪拌されずにステータ2を最大限に冷却できる最上段の点線のレベルLhを保つ。なお、窓92と略同等のレベルに位置するカウンタ軸70の軸端に、隔壁11の端面11aを貫通する開口が設けられており、この開口を通ってギヤ室gに戻る油でカウンタ軸70のベアリングが潤滑される。
【0043】
モータMの運転を停止すると、オイルレシーバ91内の油は、その底壁の油孔91aからベアリング58を経てギヤ室gに戻され、モータ室mの油溜まり96内の油は、オリフィス93を通り、上記第2の戻し油路の流れとしてギヤ室gに戻る。この場合、オリフィス93を通った油は、ギヤ室gの端部、油路90e、ヨーク軸82の収容部、油路90fを通ってギヤ室gに戻り、両オイルレベルが徐々に均衡し、やがて図の中段に示す点線のレベルLmとなる。
【0044】
以上、詳述したように、この第1実施形態の駆動装置では、ギヤ軸40の軸孔40a内に配設された付勢手段5が、ギヤ軸40の一方のケース支持部に反力をとってロータ軸30をその一方の支持部に押しつける作用でロータ軸30の軸方向浮動が規制される。したがって、この構成によれば、ギヤ軸40の軸内デッドスペースを利用した付勢手段配置により、安定したモータ出力と効率を確保することができる。更に、付勢手段によるバネ負荷を必要最小限に小さなものとする設定が可能となり、モータMの回転負荷を増加させることなく、ロータ3の軸方向浮動を抑えることができる。また、ギヤ軸40の軸孔40aが潤滑油路と付勢手段の配設スペースを兼ねることになり、しかも付勢手段の螺旋形状と、その軸40との共回り回転を利用した潤滑油の送油が可能となるので、供給油路途中の油漏れを少なくして、潤滑の促進が可能となる。
【0045】
次に、図6は、上記第1実施形態におけるコイルスプリング5の形態を変更した第2実施形態を示す。この形態では、円筒形コイルスプリング5は、径方向に偏平な矩形断面の捲線で構成されている。こうした形状とすると、ギヤ軸40の回転に伴うコイルスプリング5の回転による送油作用は、前形態の円形断面の捲線に比べて向上するため、給油パイプ90と軸孔40aとの間の隙間からの漏れを一層少なくする逆流防止効果も向上する。
【0046】
次に、図7は、ロータ軸30とギヤ軸40の嵌め合い関係を第1実施形態のものとは逆にした第3実施形態を示す。すなわち、ロータ軸30の内周スプラインにギヤ軸40の外周スプラインを嵌合させ、ロータ軸30の軸端をベアリング52を介してケース本体10Aの隔壁11に支持している。こうした軸支持構成を採る場合、圧縮荷重を負荷する付勢手段としてのコイルスプリング5は、ロータ軸30の軸孔30a内に配設するのが合理的となる。この場合、コイルスプリング5の基端は、ロータ軸30の軸孔30a内周に嵌めたスナップリング5cで支持し、反対端をギヤ軸40の端面に当接させる構成が採られる。このような配置を採っても、ベアリング53を反力支点とし、ロータ軸30が図示右方向に付勢されることで、回転中のロータ軸30の軸方向浮動が規制されることに変わりはないし、コイルスプリング5による送油作用にも変わりはないため、ロータ軸30と共回りするコイルスプリング5の回転による吸引作用で供給油路9からギヤ軸40の軸孔40a及びロータ軸30の軸孔30aへの潤滑油の供給を助け、排出孔30bから油の排出を促し、循環効果を向上させる。しかも、この形態では、付勢手段5の配設スペースがロータ3の径方向内側に延びていることになるので、該スペースを利用した潤滑油の循環により、モータMのロータ3側の冷却をも可能とすることができる。
【0047】
また、この形態では、上記第1実施形態における給油パイプ90に相当する潤滑油供給管部分をリヤケース10Bと一体化し、リヤケース10Bの端部から延び、ギヤ軸40の軸孔40aに嵌挿された管状油路90Aとして構成している。この形態は、管状油路90Aの外周と、ギヤ軸40の軸孔40aとの間の隙間を狭くして供給油路9からの油洩れを減少させるのに有効であり、上記第1実施形態における給油パイプ90と、その抑え板90’をなくすことができるため、部品点数の減少と、それに伴う組み立て工数の削減の点で有利である。
【0048】
最後に、図8は、ロータ軸30とギヤ軸40とを両軸とは別体のスリーブ部材35で突き合わせ連結し、それぞれスリーブ部材35を介してケース本体10Aの隔壁11にベアリング52を介して支持した第4実施形態を示す。こうした軸支持構成を採る場合、付勢手段としてのコイルスプリング5は、ロータ軸30の軸孔30a内、ギヤ軸40の軸孔40a内の何れにも配置可能であるが、図示の形態では、第1実施形態の手法を踏襲して、ギヤ軸40内に配設している。したがって、この場合、コイルスプリング5の基端は、ギヤ軸40に嵌めたスナップリング5bで支持し、反対端をギヤ軸40とロータ軸30の突き合わせ部に介装したワッシャ36に当接させる構成が採られる。このような配置を採っても、コイルスプリング5による浮動規制作用及び送油作用に変わりはない。
【0049】
以上、本発明を各部を変更した4つの実施形態に基づき詳説したが、本発明はこれらの実施形態に限るものではなく、特許請求の範囲に記載の事項の範囲内で種々に具体的構成を変更して実施することができる。例えば、前記各形態では、付勢手段としてのコイルスプリングは、ロータ軸に圧縮荷重を負荷し、該軸を専らフロントケース側に押し付けるものとして説明したが、ロータ軸をケース本体側に押し付けるものとすることもできるし、ロータ軸に引張荷重を負荷し、上記いずれかの方向に引き付ける構成を採ることも当然に可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気自動車用駆動装置の軸方向展開断面図である。
【図2】図1のA−A方向矢視図である。
【図3】図2のB−B方向矢視断面図である。
【図4】図1のC−C方向矢視図である。
【図5】図1のD−D方向矢視図である。
【図6】本発明の付勢手段の形状を変更した第2実施形態の軸方向部分断面図である。
【図7】本発明の供給油路部分と付勢手段の配置を変更した第3実施形態の軸方向部分断面図である。
【図8】本発明の付勢手段の付勢方法を変更した第4実施形態の軸方向部分断面図である。
【符号の説明】
M モータ
G ギヤユニット
2 ステータ
3 ロータ
5 コイルスプリング(付勢手段)
10 ケース
30 ロータ軸
40 ギヤ軸
30a,40a 軸孔
30b 排出孔
90 給油パイプ(潤滑油供給管)

Claims (6)

  1. ケースに固定されたステータと、ロータ軸を前記ケースに支持されてステータ内で回転するロータとからなるモータと、
    前記ケースに支持され、前記ロータ軸に連結されてロータ軸の回転を車輪へ伝達するギヤ軸を備えるギヤユニットとからなり、
    ロータ軸の延長上にギヤ軸が設けられた電気自動車用駆動装置において、
    前記ロータ軸とギヤ軸の少なくとも一方の軸内に軸孔が形成され、該軸孔内に、ロータ軸を軸方向一方側に付勢して該軸の軸方向浮動を規制する付勢手段が配設され、前記付勢手段は該付勢手段が配設された軸とともに回転すべく該軸に支持され、前記ギヤ軸と前記ロータ軸はスプライン嵌合されたことを特徴とする電気自動車用駆動装置。
  2. 前記付勢手段は、コイルスプリングとされた請求項1記載の電気自動車用駆動装置。
  3. 前記ケース内で潤滑油を循環させる潤滑回路が設けられ、
    前記軸孔は、潤滑回路の供給油路に連通されるとともに、供給油路から軸孔内に供給される潤滑油の排出孔に連通され、
    前記付勢手段は、円筒形コイルスプリングとされ、それが配設された軸と共に回転すべく該軸に支持された請求項1又は2記載の電気自動車用駆動装置。
  4. 前記円筒形コイルスプリングは、径方向に偏平な捲線で構成された請求項3記載の電気自動車用駆動装置。
  5. 前記軸孔は、ギヤ軸とロータ軸双方に形成され、
    ロータ軸の軸孔は、少なくともロータの径方向内側に延在する請求項1〜4のいずれか1項記載の電気自動車用駆動装置。
  6. 前記供給油路は、ケースから延在して軸孔に嵌合する、ケースと一体形成された潤滑油供給管を有する請求項3、又は4記載の電気自動車用駆動装置。
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