JP3613652B2 - 車両用サスペンション装置の減衰力制御装置 - Google Patents

車両用サスペンション装置の減衰力制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ばね上部材とばね下部材との間にばね装置と減衰力発生機構とを設けた車両用サスペンション装置に係り、特に減衰力発生機構による減衰力を制御して、ばね上部材のばね下部材に対する振動を抑制する減衰力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えば特開平8−104120号公報に示されているように、オリフィスの開度を変更することにより作動油の移動による減衰力を変更可能な減衰力発生機構をばね上部材とばね下部材との間に設け、ばね上部材の絶対空間に対する上下方向の絶対速度を検出するとともに、ばね上部材のばね下部材に対する相対速度を検出して、次のようなスカイフック理論に従った方法でばね上部材のばね下部材に対する振動を抑制する方法はよく知られている。すなわち、前記両速度方向が不一致であるとき(減衰力発生機構が縮み状態にありかつばね上部材が上方へ変位状態にあるとき、又は減衰力発生機構が伸び状態にありかつばね上部材が下方へ変位状態にあるとき)、ばね上部材の振動状態が加振領域であるとみなして減衰力発生機構の減衰力を小さく保つ。また、前記両速度の速度方向が一致しているとき(減衰力発生機構が縮み状態にありかつばね上部材が下方へ変位状態にあるとき、又は減衰力発生機構が伸び状態にありかつばね上部材が上方へ変位状態にあるとき)、ばね上部材の振動状態が制振領域であるとみなして前記減衰力発生機構の減衰力を大きな側に切り換える(図11参照)。
【0003】
また、例えば特開平5−44758号公報に示されているように、ばね下部材に永久磁石を固定するとともに、ばね上部材に前記磁石に対向させてコイルを固定しておき、前記コイルを短絡又は前記コイルに通電することにより、ばね上部材のばね下部材に対する相対変位を電磁力により制御して、ばね上部材のばね下部材に対する振動を抑制することも知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前者の従来装置にあっては、前記絶対速度及び相対速度を検出するための検出手段はフィルタ等の位相ずれが生じる回路が含まれていたり、路面の凹凸の影響を連続して受け続けたり、タイヤによるばね下部材の振動が影響したり、ばね上部材とばね下部材を連結する連結部材の特性が影響したりして、前記制振領域及び加振領域を理論通りに厳格に分離することは難しい。特に、加振領域と制振領域との境界を確実に分離することは難しい。そのために、ばね上部材の振動状態が本来加振領域であるにもかかわらず、減衰力が大きな側に切り換わってしまう場合もあり、この場合には振動の抑制に悪影響を与えるばかりか、車両の乗り心地も悪化する。
【0005】
また、後者の従来技術においては、ばね上部材のばね下部材に対する振動を抑制する具体的方法までは示されていない。そして、前者のような振動抑制方法を後者の電磁力を用いた減衰力制御装置に適用した場合には、前記加振領域と制振領域の境界の問題はより顕著である。すなわち、前者のようにオリフィス開度を変更して減衰力を切り換える減衰力発生機構にあっては、ばね上部材のばね下部材に対する相対速度に比例した減衰力を発生するとともに、オリフィス開度を変更するためのアクチュエータの応答性の悪さから、減衰力の切り替わりに遅れが生じ、前記加振領域と制振領域との境界の誤判定が大きな問題になることはない。しかし、後者の電磁力を利用したものでは、減衰力の切換えが応答性よく行われるので、前記加振領域と制振領域との境界の誤判定が大きな問題となる。
【0006】
【発明の概要】
本発明は、ばね上部材の振動状態における加振領域と制振領域とを判別し、制振領域にて減衰力発生機構の減衰力を大きな側に切り換える車両用サスペンション装置の減衰力制御装置を改良したものである。
【0007】
路面からの外力により発生したばね上部材の加振後における上下振動は、基本的には単振動となる。そして、加振時にはばね上部材が路面の影響をなるべく受けないようにし、加振後にはばね上部材の振動をなるべく早く減衰させることが、前記加振領域と制振領域とを判別して減衰力を制御する方法の目的でもある。この基本的なばね上部材の振動を考えると、ばね上部材の絶対空間に対する絶対速度は、常にばね上部材のばね下部材に対する相対速度と同じになる。したがって、前記絶対速度と相対速度とは同一方向であり、かつその速度比は「1」になるはずである。
【0008】
本発明は、この「1」になるべき速度比に着目してなされたもので、その特徴は、前記絶対速度と前記相対速度の速度比を計算して、同計算した速度比が、ばね上部材の振動において加振領域に対する制振領域の上下の境界をそれぞれ表す値であって「1」を挟む予め決められた正の下限値と正の上限値との間にあるかを判定する判定手段と、前記計算した速度比が前記下限値と上限値との間にあると判定手段により判定されたとき減衰力発生機構によって発生される減衰力を大きな値に設定制御し、かつ前記計算した速度比が前記下限値と上限値との間にないと判定手段により判定されたとき減衰力発生機構によって発生される減衰力を小さな値に設定制御する減衰力制御手段とを設けたにある。この場合、前記正の下限値は「0.5」〜「0.8」の間の値であり、かつ前記正の上限値は「1.2」〜「1.5」の間の値であるとよい。また、前記正の下限値及び正の上限値が、それぞれ「0.7」及び「1.3」であるとさらによい。
【0009】
この発明によれば、下限値及び上限値を適宜定めることにより、ばね上部材がばね下部材に対して上下に単振動している前記制振領域の典型的な状態すなわち前記速度比が「1」の状態及びそれに近い状態が判定されるとともに(図12参照)、同判定時にばね上部材のばね下部材に対する振動が抑制される。したがって、前記加振領域と制振領域との境界において減衰力発生機構の減衰力を大きく設定するようなことがなくなり、制振領域にあるばね上部材の振動のみを正確に減衰させることができて、ばね上部材のばね下部材に対する振動の抑制が良好に行われるとともに、車両の乗り心地が悪化することもない。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記減衰力発生機構を、前記ばね上部材及び前記ばね下部材のうちの一方に固定した磁石と、同ばね上部材及び同ばね下部材のうちの他方に前記磁石に対向する位置にて固定したコイルとで構成するとともに、前記減衰力制御手段は前記コイルの通電量を変更することにより前記減衰力発生機構による減衰力の大きさを制御するものである。
【0011】
このように、減衰力が高い応答性で発生される磁石とコイルとの電磁力を利用した減衰力発生機構を採用した場合には、加振領域にて減衰力が大きな側に切り換えられない効果がより顕著になり、前記減衰力の発生の高い応答性により、ばね上部材のばね下部材に対する振動の抑制がより良好に行われるとともに、車両の乗り心地がより良好になる。
【0012】
【発明の実施の形態】
A.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明すると、図1は車両用サスペンション装置の全体を部分破断図により示しており、図2は同図の中央部分を拡大して示している。このサスペンション装置は、ばね上部材としての車体BDとばね下部材としてのロアアームLAとの間に配設された第1の減衰力発生機構A1、エアばね装置A2及び第2の減衰力発生機構A3を備えている。
【0013】
第1の減衰力発生機構A1は、油圧力により車体BDのロアアームLAに対する振動を減衰させるもので、同軸的に配置したアウタシリンダ11及びインナシリンダ12と、両シリンダ11,12に軸方向に進退可能に組み付けたピストンロッド13とを備えている。アウタシリンダ11は、その下端にてロアアームLAに図示しないブッシュを介して組み付けられている。インナシリンダ12は、その上端にて環状の支持プレート14を介してアウタシリンダ11の上部内周面上に液密的に支持されており、その下端にてアウタシリンダ11の下部内周面上に図示しない支持部材を介して支持されている。ピストンロッド13はアウタシリンダ11から上方に延出されており、その上端にて、ネジ15,15により車体BDに固定したアッパサポート16を介して車体BDに組み付けられている。アッパサポート16は、ゴム等の弾性材料を内蔵しており、ピストンロッド13の車体BDに対する傾きが若干変化することを許容する。
【0014】
インナシリンダ12内は、ピストンロッド13の外周面に固定されてインナシリンダ12の内周面上を液密的に軸方向に摺動するメインピストン17により上下室R1,R2に区画されている。上下室R1,R2は作動液(作動油)で満たされており、下室R2はアウタシリンダ11とインナシリンダ12との間に形成された環状室R3にインナシリンダ12の下端にて連通している。環状室R3には気体も封入されており、同室R3はピストンロッド13の進退に伴うインナシリンダ12の上下室R1,R2内における作動液の体積変化を吸収するようになっている。
【0015】
メインピストン17には上下室R1,R2を連通させてなる固定オリフィス(図示しない)が設けられており、同オリフィスはピストンロッド13の上下動に伴い減衰力を発生する。メインピストン17の下方であってピストンロッド13の外周面には、サブピストン18がインナシリンダ12の内周面との間に多少のクリアランスを設けて固定されている。サブピストン18内には、上下室R1,R2を連通させてなる可変オリフィス(図示しない)が設けられており、同可変オリフィスの開度がピストンロッド13の上端に設けた減衰力切換え用のアクチュエータ21により切り換えられるようになっている。なお、可変オリフィスの開度を調整するための弁部材(図示しない)は、ピストンロッド13内に設けた連結機構を介してアクチュエータ21により駆動される。メインピストン17の上方であってピストンロッド13の外周上には、リバウンドストッパ22が組み付けられており、同ストッパ22は車体BDのリバウンドに伴うピストンロッド13の上方への変位を支持プレート14との当接により弾性的に規制するようになっている。
【0016】
エアばね装置A2は、空気圧により車体BDをロアアームLAに対して弾性的に支持するもので、円筒状の上部ケース23及び下部ケース24と、両ケース23,24を気密的に連結する連結ケース25とを備え、これらのケース23〜25によりアウタシリンダ11及びピストンロッド13の外周上に空気室R4を形成している。この空気室R4には、電気的に制御される吸気及び排気装置(図示しない)が接続され、同室R4内の空気量が調整されるようになっている。
【0017】
上部ケース23は可撓性を有する樹脂で成形されており、その上面にてアッパサポート26及び支持プレート27を介して車体BDに支持されるとともに、支持プレート27を介してピストンロッド13の上端部外周面上に気密的に固定されている。アッパサポート26は、ゴム等の弾性材料を内蔵しており、上部ケース23の車体BDに対する傾きが若干変化することを許容する。支持プレート27の下面には、ゴム製のバウンドストッパ28が組み付けられており、同ストッパ28はアウタシリンダ11の上面に固着した環状のストッパプレート31との当接により車体BDのバウンドを弾性的に規制する。下部ケース24も樹脂により成形されており、その下部内周面上にて、アウタシリンダ11の外周面上に溶接固定した円筒部材32の外周面上に気密的に固定されている。連結ケース25は弾性に富むゴムを主体としたダイヤフラムにより構成されており、その上端部にてかしめリング33により上部ケース23の下端部外周面上に気密的に固着されているとともに、その下端部にてかしめリング34により下部ケース24の上部外周面上に気密的に固着されている。
【0018】
第2の減衰力発生機構A3は、車体BDのロアアームLAに対する振動を電磁力により減衰させるもので、磁石(永久磁石)35,36及びコイル37を有する。磁石35,36は環状に形成されており、円筒状に非磁性材料で成形された支持部材38の外周面上に上下方向を軸線方向として固定されている。支持部材38は、下部ケース24の上端面に立設固定されている。磁石35の下端面及び磁石36の上端面は一方の磁極(例えばS極)に、磁石35の上端面及び磁石36の下端面は他方の磁極(例えばN極)に磁化されている。支持部材38の上端部内周面上には環状のリブ41が固定されており、同リブ41はその内周面上にてストッパプレート31の外周面上に当接しており、支持部材38がアウタシリンダ11の上端部外周面上に隔離して支持されるようにしている。また、リブ41の周方向の適宜複数箇所には上下に連通する穴41aが設けられており、ストッパプレート31の上下の部屋を連通させている。
【0019】
コイル37は、ピストンロッド13の延設方向を軸方向とする複数のコイルC1〜C15からなり、円筒状に樹脂で成形したケーシング42内にそれぞれ樹脂製のスペーサ43を介して軸方向に沿って等間隔に組み込まれて、磁石35,36の外周面上に対向して配置されている。コイル37はリード線37aを介して上部ケース23外に導かれている。スペーサ43の内周面上にはテフロン等の滑り易い樹脂を塗布したコーティング層44が設けられ、同層44は下部ケース24及び支持部材35の各上端部外周面に同一樹脂を塗布したコーティング層45,46との協働により、コーティング層44とコーティング層45,46が接触しても大きな摩擦力が作用しないようにしてある。なお、上部ケース23の内周面上に周方向の適宜箇所にてリブ47が設けられ、ケーシング42を適宜箇所にて上部ケース23の内周面上に支持している。このように構成したコイル37、ケーシング42及びスペーサ43からなるコイルアセンブリは、上記連結ケース25の上部ケース23へのかしめリング33によるかしめ時に、円筒状に形成したゴムシート48を介して上部ケース23の内周面上に固定されている。
【0020】
次に、上記のように構成したサスペンション装置を制御するための電気制御装置について説明すると、図3はこの電気制御装置の全体をブロック図により示している。
【0021】
この電気制御装置は、加速度センサ51、車高センサ52、横加速度センサ53及び車速センサ54を備えている。加速度センサ51は、車体BDに組み付けられて車体BDの絶対空間に対する上下方向の加速度を検出して、同検出加速度を絶対加速度X2”を表す検出信号として出力する。車高センサ52は、車体BDとロアアームLAとの間に設けられてロアアームLAに対する車体BDの高さを検出して、同検出高さを相対変位量X21を表す検出信号として出力する。なお、絶対加速度X2”及び相対変位量X21は上方を正とし、下方を負とする。横加速度センサ53は車体BDに組み付けられて車体BDの横方向の加速度を横加速度Gyとして検出して、同横加速度Gyを表す検出信号を出力する。車速センサ54は車速Vを検出して、同車速Vを表す検出信号を出力する。
【0022】
これらの各センサ51〜54はそれぞれマイクロコンピュータ55に接続されている。マイクロコンピュータ55は後述するプログラムを実行することによりサスペンション装置を制御して、車高及び減衰力を制御する。このマイクロコンピュータ55には、車高制御用の駆動回路56、減衰力切り換え用の駆動回路57及びコイル37に対する通電用の駆動回路58がそれぞれ接続されている。駆動回路56は、空気室R4に対する空気の給排を制御するための吸気及び排気装置(図示しない)内に設けられた車高制御用のアクチュエータ60を駆動制御する。駆動回路57は、減衰力切り換え用のアクチュエータ21を駆動制御する。
【0023】
駆動回路58は、複数のコイル37の通電及び非通電を制御するもので、図4に示すように、各コイル37(上から下へC1〜C15の符号を付してある)に対して4個のトランジスタTr1〜Tr4でそれぞれ構成されている。トランジスタTr1,Tr2はPNP型で構成されるとともに、トランジスタTr3,Tr4はNPN型で構成され、電源+Vと接地間に直列接続されて各トランジスタTr1,Tr3とTr2,Tr4の各接続点に各コイル37の両端がそれぞれ接続されている。この場合、トランジスタTr1,Tr4に制御電圧を付与して両トランジスタTr1,Tr4を同時にオンさせることにより図示実線矢印方向に電流が流れて、磁束はコイル37を下から上に通過する(コイル37の上方がN極に、下方がS極に磁化された磁石と等価)。一方、トランジスタTr2,Tr3に制御電圧を付与して両トランジスタTr2,Tr3を同時にオンさせることにより図示破線矢印方向に電流が流れて、磁束はコイル37を上から下に通過する(コイル37の上方がS極に、下方がN極に磁化された磁石と等価)。以下、前者の通電状態を順方向通電といい、後者の通電状態を逆方向通電という。
【0024】
次に、上記のように構成したサスペンション装置の動作を、第1の減衰力発生機構A1による減衰力の制御、エアばね装置A2による車高調整、第2の減衰力発生機構A3による減衰力の制御の順に説明するが、前記2つの制御は本願発明に直接関係しないので簡単に説明しておく。
【0025】
第1の減衰力発生機構A1による減衰力の制御においては、マイクロコンピュータ55は、まず横加速度センサ53及び車速センサ54から横加速度Gy及び車速Vをそれぞれ入力する。そして、車速Vが増加するに従って横加速度Gyが減少する特性カーブを表すマイクロコンピュータ55に内蔵のV−Gyマップ(図示しない)を参照して、車速V及び横加速度Gyによって決まる座標点が前記特性カーブの下側に位置すればアクチュエータ21を駆動制御して、第1の減衰力発生機構A1による減衰力をソフト状態に設定する。また、車速V及び横加速度Gyによって決まる座標点が前記特性カーブの上側に位置すればアクチュエータ21を駆動制御して、第1の減衰力発生機構A1による減衰力をハード状態に設定する。これにより、車両の急旋回時などの車両の姿勢変化が抑制されて、車両の操安性が良好になる。
【0026】
また、エアばね装置A2による車高調整においては、マイクロコンピュータ55は、まず車高センサ52から車高を表す相対変位量X21を入力する。そして、前記入力した相対変位量X21が基準値より大きければ、車高制御用のアクチュエータ60を駆動制御してエアばね装置A2の空気室R4内の空気を外部へ排出する。また、相対変位量X21が基準値より小さければ、車高制御用のアクチュエータ60を駆動制御して、エアばね装置A2の空気室R4内に空気を供給する。これにより、上部ケース23及びピストンロッド13のロアアームLAに対する上下動に連動して、車体BDも上下動し、車体BDのロアアームLAに対する高さは常にほぼ一定に保たれる。
【0027】
次に、第2の減衰力発生機構A3による減衰力の制御について説明すると、この制御は図5のステップ110〜128からなるプログラムの実行により行われる。マイクロコンピュータ55は、このプログラムを所定の短時間毎に繰り返し実行し、ステップ100の開始後、ステップ102にて加速度センサ51及び車高センサ52から絶対加速度X2”及び相対変位量X21を表す各検出信号をそれぞれ入力する。次に、ステップ104にて、検出絶対加速度X2”を時間積分することにより車体BDの絶対空間に対する絶対速度X2’(上方を正とし、下方を負とする)を計算するとともに、相対変位量X21を時間微分することにより車体BDのロアアームLAに対する相対速度X21’(上方向(伸び方向)を正とし、下方向(縮み方向)を負とする)を計算する。
【0028】
次に、ステップ106にて絶対速度X2’を相対速度X21’で除して速度比X2’/X21’を計算し、同計算した速度比X2’/X21’が下限値a0以上かつ上限値a1以下であるかを判定する。この判定は、ばね上部材の振動状態が確実に制振領域にあることを判定するもので、下限値a0及び上限値a1は、次の理由により「1」を挟む正の値、例えば「0.5」〜「0.8」及び「1.2」〜「1.5」の各間の値にそれぞれ選定される。好ましくは、「0.7」及び「1.3」にそれぞれ設定される。
【0029】
すなわち、加振領域とは、第1の減衰力発生機構A1が縮み状態にありかつ車体BDが上方へ変位している状態、又は同機構A1が伸び状態にありかつ車体BDが下方へ変位している状態、すなわち絶対速度X2’と相対速度X21’の正負の符号が異なる状態を意味する。また、制振領域とは、第1の減衰力発生機構A1が縮み状態にありかつ車体BDが下方へ変位している状態、又は同機構A1が伸び状態にありかつ車体BDが上方へ変位している状態、すなわち絶対速度X2’と相対速度X21’が共に正又は負である状態を意味する。一方、ばね下部材が静止しかつばね上部材が上下に単振動している典型的な制振状態においては、前記速度比X2’/X21’が「1」になることに着目するとともに、絶対加速度X”及び相対変位量X21を検出するための加速度センサ51及び車高センサ52にフィルタ等の位相ずれが生じる回路が含まれていたり、路面の凹凸の影響を連続して受け続けたり、タイヤによるロアアームLAの振動が影響したり、車体BDとロアアームLAを連結する連結部材の特性が影響したりすることを考慮すれば、図12のハッチングを付した部分が車体(ばね上部材)BDの振動状態における加振領域を含まない確実な制振領域に対応する。
【0030】
ふたたび、フローチャートの説明に戻り、速度比X2’/X21’が下限値a0以上かつ上限値a1以下であれば、ステップ106における「YES」との判定のもとにステップ108〜116,124からなる処理を実行する。速度比X2’/X21’が下限値a0未満又は上限値a1より大きければ、ステップ106における「NO」との判定のもとにステップ114,118〜126からなる処理を実行する。
【0031】
いま、車体BDの振動が小さくて絶対速度X2’の絶対値|X2’|が小さければ、速度比X2’/X21’の値にかかわらず、ステップ108又はステップ118にて予め定めた基準値V1又は基準値V2未満であると判定して、ステップ116又は126にて全てのコイル37の通電を解除する。これにより、磁石35,36とコイル37との間には電磁力による車体BDの振動に対する抑制力が作用しないので、車両の乗り心地が良好に保たれる。
【0032】
また、路面からの外力により車体BDが振動して絶対速度X2’の絶対値|X2’|が基準値V1以上になり、このとき速度比X2’/X21’が下限値a0以上かつ上限値a1以下であれば、ステップ106,108における「YES」との判定のもとに、ステップ110にて通電電流値Iを予め決められている最大電流値IMAXに設定して、ステップ112,114,124の処理により通電マップに基づいて相対変位量X21に対応したコイルを通電制御する。通電マップは、図6に示すように、磁石35,36に対するコイル37の相対的な各上下位置に対応させて、全コイル37(C1〜C15)のうちで通電すべき6個のコイル37を示している。この場合、磁石35,36の各長さはコイル37の3個分の幅にほぼ等しく設定されており、具体的には、磁石35に関しては、対向する3つのコイル37よりも一つ分ずつ上にずれた3つのコイル37が通電される。また、磁石36に関しては、対向する3つのコイル37よりも一つ分ずつ下にずれた3つのコイル37が通電される。
【0033】
この場合、コイル37の磁石35,36に対する相対位置は車体BDのロアアームLAに対する高さに対応しており、この相対的な高さは相対変位量X21として検出されているので、この検出相対変位量X21により通電すべきコイル37を決定できる。図6の縦軸は、車体BDのロアアームLAに対する基準高さ位置を「0」として表し、同基準高さより高い側(第1の減衰力発生機構A1の伸び側)を順次+a1,+a2,+a3として表し、同基準高さより低い側(第1の減衰力発生機構A1の縮み側)を順次−a1,−a2,−a3,−a4として表している。したがって、車体BDがロアアームLAに対して順次高くなるにしたがって、通電されるコイル37は高い位置にあるコイル37から順次低い位置にあるコイル37、すなわちコイルC1からC15側に移動する。
【0034】
また、これらのステップ112,114,124の処理はコイル37に対する通電方向も制御しており、絶対速度 2'が正であれば、すなわち車体BDが上方へ変位しているときには、ステップ114にて6個のコイルが逆方向に通電される。これによれば、通電されたコイル37を通過する磁束の向きは図7(A)に示すようになり、コイルアセンブリ及び車体BDは磁力により下方向に付勢される。また、絶対速度 2'が負であれば、すなわち車体BDが下方へ変位しているときには、ステップ124にて6個のコイル37が順方向に通電される。これによれば、通電されたコイル37を通過する磁束の向きは図7(B)に示すようになり、コイルアセンブリ及び車体BDは磁力により上方向に付勢される。したがって、この車体BDの振動状態では、最大の通電電流値I(=IMAX)による大きな抑制力が車体BDの振動に対して作用する。
【0035】
さらに、路面からの外力により車体BDが振動して絶対速度X2’の絶対値|X2’|が基準値V2以上になり、このとき速度比X2’/X21’が下限値a0未満又は上限値a1より大きければ、ステップ106,118における「NO」、「YES」との判定のもとに、ステップ120にて通電電流値Iを予め決められている最大電流値IMAXに係数C(<1)を乗じた値C・IMAXに設定して、ステップ122,114,124の処理により前記と同様に通電マップに基づいて相対変位量X21に対応したコイルを通電制御する。したがって、この車体BDの振動状態でも、車体BDの振動に対して磁石35,36及びコイル37による抑制力は作用するが、通電電流値I(=C・IMAX)は最大電流値IMAXより小さいので、小さな抑制力が車体BDの振動に対して作用する。
【0036】
上記動作説明からも理解できるとおり、上記第1実施形態によれば、ステップ106〜114,124の処理により、車体BDの上下振動が制振領域の典型的な状態である速度比X2’/ 21'を「1」とする状態及びそれに近い状態にて、車体BDの変位が大きな抑制力で抑制される。また、それ以外のときには、ステップ106,118〜124,114の処理により、車体BDの変位が小さな抑制力で抑制される。したがって、前記加振領域と制振領域との境界において第2の減衰力発生機構A3の減衰力を大きく設定するようなことがなくなり、制振領域にある車体BDの振動のみを正確に減衰させることができて、車体BDのロアアームLAに対する振動の抑制が良好に行われるとともに、車両の乗り心地が良好に保たれる。さらに、前記減衰力は磁石35,36及びコイル37による電磁力によってもたらされるので、減衰力の制御応答性が早くなり前記車体BDの振動を速く減衰させることができる。
【0037】
B.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、図3のマイクロコンピュータ55が図5のプログラムに代えて図8のプログラムを実行する点、及び図6に示した通電マップに代えて図9に示した通電マップを用いる点でのみ上記第1実施形態と相違し、他の点では上記第1実施形態の場合と同じである。
【0038】
図8のプログラムは、図5のプログラムのステップ112,114,122,124の処理をステップ130の処理に変更した点で上記第1実施例と相違する。ステップ130においては、マイクロコンピュータ55に内蔵した通電マップに基づいて相対変位量X21に対応したコイル37を通電制御する。この通電マップも、図9に示すように、磁石35,36に対するコイル37の相対的な各上下位置に対応させて、全コイル37(C1〜C15)のうちで順方向に通電すべきコイル37と逆方向に通電すべきコイル37とを示している。すなわち、磁石35に関しては、対向する3つのコイル37よりも一つ分ずつ上にずれた3つのコイル37が逆方向に通電される。また、磁石36に関しては、対向する3つのコイル37よりも一つ分ずつ下にずれた3つのコイル37が順方向に通電される。
【0039】
前記のような通電により、通電されたコイル37を通過する磁束の向きは図10に示すようになり、コイルアセンブリ及び車体BDには、それらを現在の位置に保持しようとする電磁力が作用する。そして、この力の大きさは、ステップ110,120の処理により設定された通電電流値Iに比例したものであるので、速度比X2’/X21’が下限値a0以上かつ上限値a1以下であるときには、最大の通電電流値I(=IMAX)による大きな抑制力が車体BDの振動に対して作用する。また、それ以外の状態では、車体BDの振動に対して小さな抑制力が作用する。その結果、この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様な効果が期待される。
【0040】
C.その他の変形例
なお、上記第1及び第2実施形態においては、加速度センサ51及び車高センサ52により検出した絶対加速度X2”及び相対変位量X21をそれぞれプログラム処理によって積分及び微分して絶対速度X2’及び相対速度X21’を算出するようにしたが、前記積分及び微分演算をハード回路により行ったり、前記絶対速度X2’及び相対速度X21’を直接センサにより検出するようにしてもよい。また、前記絶対速度X2’及び相対速度X21’のうちの一方に関係した物理量を検出し、前記検出した物理量に基づいてカルマンフィルタなどの現代制御理論を用いて前記絶対速度X2’及び相対速度X21’のうちの他方を推定することにより、前記両速度X2’,X21’を検出するようにしてもよい。
【0041】
上記第1及び第2実施形態においては、速度比X2’/X21’が下限値a0以上かつ上限値a1以下にない状態にも、絶対速度X2’の絶対値|X2’|が基準値V1,V2以上であれば、コイル37を通電制御するようにしたが、この状態ではコイル37に対する通電を解除するようにしてもよい。
【0042】
また、上記第1及び第2実施形態においては、第2の減衰力発生機構A3による減衰力を速度比X2’/X21’により制御するようにしたが、同速度比X2’/X21’により第1の減衰力発生機構A1の減衰力を制御するようにしてもよい。この場合、速度比X2’/X21’が下限値a0以上かつ上限値a1以下のときアクチュエータ21を制御して第1の減衰力発生機構A1の減衰係数を大きく設定し、それ以外のとき同機構A1の減衰係数を小さく設定すればよい。
【0043】
また、上記第1及び第2実施形態においては、上部ケース23側にゴムシート48を介してコイルアセンブリを固定するとともに下部ケース24に固定した支持部材35に磁石35,36を固定するようにしたが、上部ケース23側に磁石35,36を固定するとともに下部ケース24に固定した支持部材35又は下部ケース24にコイルアセンブリを固定するようにしてもよい。
【0044】
また、上記第1及び第2実施形態においては、車体BDをロアアームLAに対して弾性的に支持するばね装置としてエアばね装置A2を採用したが、同ばね装置としてアウタシリンダ11と車体BDとの間にコイルばねからなるばね装置を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1及び第2実施形態に係るサスペンション装置の全体を示す部分破断図である。
【図2】図1のサスペンション装置の中央部分の拡大図である。
【図3】図1のサスペンション装置を制御するための電気制御装置の全体ブロック図である。
【図4】図1〜図3のコイル及び同コイルの駆動回路を示す概略図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係り、図3のマイクロコンピュータにて実行されるプログラムのフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態に係り、通電マップにおける相対変位量X21と通電コイルの関係を説明するための説明図である。
【図7】(A)(B)は、本発明の第1実施形態に係り、磁石とコイルによる電磁力の発生状態を説明するための説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係り、図3のマイクロコンピュータにて実行されるプログラムのフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係り、通電マップにおける相対変位量X21と通電コイルの関係を説明するための説明図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係り、磁石とコイルによる電磁力の発生状態を説明するための説明図である。
【図11】ばね上部材の振動状態における加振領域と制振領域とを説明するためのタイムチャートである。
【図12】本発明で利用されるばね上部材の制振領域を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
A1…第1の減衰力発生機構、A2…エアばね装置、A3…第2の減衰力発生機構、11…アウタシリンダ、12…インナシリンダ、13…ピストンロッド、17…メインピストン、18…サブピストン、21…アクチュエータ、23…上部ケース、24…下部ケース、25…連結ケース、35,36…磁石、37…コイル、51…加速度センサ、52…車高センサ、55…マイクロコンピュータ。

Claims (4)

  1. 車両のばね上部材とばね下部材との間に設けられて、同ばね上部材を同ばね下部材に対して弾性的に支持するばね装置と、
    前記ばね上部材と前記ばね下部材との間に設けられて、ばね上部材のばね下部材に対する振動を減衰させるための減衰力を発生する減衰力発生機構とを備えた車両用サスペンション装置において、
    前記ばね上部材の絶対空間に対する上下方向の絶対速度を検出する絶対速度検出手段と、
    前記ばね上部材の前記ばね下部材に対する相対速度を検出する相対速度検出手段と、
    前記絶対速度と前記相対速度の速度比を計算して、同計算した速度比が、ばね上部材の振動において加振領域に対する制振領域の上下の境界をそれぞれ表す値であって「1」を挟む予め決められた正の下限値と正の上限値との間にあるかを判定する判定手段と、
    前記計算した速度比が前記下限値と上限値との間にあると前記判定手段により判定されたとき前記減衰力発生機構によって発生される減衰力を大きな値に設定制御し、かつ前記計算した速度比が前記下限値と上限値との間にないと前記判定手段により判定されたとき前記減衰力発生機構によって発生される減衰力を小さな値に設定制御する減衰力制御手段と
    を設けたことを特徴とする車両用サスペンション装置の減衰力制御装置。
  2. 前記正の下限値は「0.5」〜「0.8」の間の値であり、かつ前記正の上限値は「1.2」〜「1.5」の間の値である上記請求項1に記載した車両用サスペンション装置の減衰力制御装置。
  3. 前記正の下限値及び正の上限値は、それぞれ「0.7」及び「1.3」である上記請求項1に記載した車両用サスペンション装置の減衰力制御装置。
  4. 前記減衰力発生機構を、前記ばね上部材及び前記ばね下部材のうちの一方に固定した磁石と、同ばね上部材及び同ばね下部材のうちの他方に前記磁石と対向する位置にて固定したコイルとで構成するとともに、
    前記減衰力制御手段は前記コイルの通電量を変更することにより前記減衰力発生機構による減衰力の大きさを制御するものである上記請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載した車両用サスペンション装置の減衰力制御装置。
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